「俺の名前は利終。
利終の言葉を聞いたミオは少し考えると。
「葛音 利終・・・。なら利終君って呼ぶね。」
「どうぞお好きに。っとまあ、自己紹介は互いこれくらいにしといて、まず行動方針を決めよう。」
「そうだね。利終君のおかげで、水は大丈夫そうだし、今後何を。」
小さく音が鳴る。発生源はミオの腹部である。
無言の時間が続く。利終は少し気まずそうにし、ミオは少し顔が赤くなる。
「まあ、水の次は食料が問題になるよな。ここから山を少しおりたとこに森があったから、そこで食料を探そうか。」
空気を読めない利終はミオに言葉をかける。ミオは顔を赤くしつつ利終をにらみ、やがてゆっくりとうなずいた。それを確認した利終はつないでいた手を放し、空にバケツを持つ。残っていた水は全て窯の中にいれたため、また汲んでこないといけない。食料を探すついでに洞窟によろうと考えていると、利終の行動を疑問におもったミオが声をかけてくる。
「バケツ持つってことは、森に行く途中に水が汲めるとこがあるってこと?」
その言葉を聞いてそういえば、どこで水汲んだのか教えてなかったなと思いつつ、ミオの言葉にうなずく。ミオは周囲を見渡し、自分も何か持てそうなものがないか探す。あたりにそれらしきものは見つからないが、利終が背中に背負ってる矢をまとめている蔓の紐が緩んでいることに気づき、利終に声をかける。
「利終君、背中に背負ってる矢みたいなものをまとめてる紐?が緩んでるよ」
その言葉を聞いた利終は自分の胸あたりにある結び目をほどき、背負っていた弓と矢を下ろす。利終は弓と矢の状態を確認し問題ないと判断する。しかし、蔓の紐には問題があった。かなりきつく縛っていたのが原因か、蔓の紐はかなり傷んでおり、いつ切れてもおかしくないように思える。獣に遭遇する可能性がある以上、弓と矢は持っていきたいが、紐がなければ20本の矢は持っていけない。まいったなと思いながらどうするかを考える。妥協案として5本だけ矢を持つ。弓を背中に背負い、矢は手で持つ。蔓の紐はこの先も使えそうなので取っておく。使えなくなったら薪と一緒に燃やせばいい。そうしていると、ミオが近寄ってきて、空のバケツを手に持つ。それを見た利終はミオからバケツを受け取ろうとするがミオはそれを拒否する。
「うちも何か持っていないと申し訳ないし、動物とかに襲われたとき、利終君の荷物が多いせいで逃げられなかったとかいやだから、うちが持つよ」
そう言われてしまえばどうしようもなく、仕方なくバケツを預ける。
ふたりで小屋を出て、扉を閉める。その時ミオはふと気づいた疑問を利終に問いかける。
「そういえばこの小屋って利終君の小屋なの?」
利終は首を横に振りながらその疑問に答える。
「違うよ?この小屋は山登りの途中で見つけたから使わせてもらっているだけ。まあ、髪の毛落ちてたから誰かいるのかもしんないけど」
「それって結構やばくない?」
「やばいけど、緊急事態だったのでしょうがない。もし、持ち主と会ったら交渉してみるさ。ダメだったら仕方ないけど。」
利終は苦笑しつつそう答える。実際、活動拠点とするのにこれほど適しているといえる場所はない。それにここに落ちていた髪の毛の色は黒色だったため、もしかしたらミオのものかもしれないと思いながら小屋を後にし、山を下り始める。
山を下り森の入り口までやってきた。道中お互いの話をしながらだったため、一人の時より時間がかかってしまったが、その分相手のことを知れ、少し距離が縮まる。
「へぇ~。利終君は弓道やってる時間って長いんだ。珍しいね」
「そうだな。まあ、俺の場合両親が弓道やってるからね。その影響もあると思うよ。」
雑談していたが、森につくと意識を切り替える。
「道中話したと思うけど、森の中だと弓はあまり使えないから、何かあってもとっさには助けられないかもしれない。だから、常に警戒は怠らないようにして。」
そういうとミオも少し表情を硬くし、利終の言葉にうなずく。
利終が先頭になり、矢を使い目印をつけながら森の中に入る。ミオも周囲の警戒を怠ることなく後に続く。
しばらく森の中を進むと、利終は少し先に何かが動いているのが見えた。立ち止まり、目を凝らしてその何かを見る。四足歩行をしており、頭部には二本の角がある。
「大神、ストップ。鹿を見つけた。」
利終の言葉を聞き、足を止めるミオ。ミオも目を凝らし、利終の見ているほうにいる鹿を発見し利終に小声で話しかける。
「どうするの?」
利終は、近くの木を見渡し、小声でミオに返答する。
「乗れそうな木を探して、そこから俺の弓で急所を狙う。鹿の解体方法はわからないけど、まあ焼けば食えるとは思うし。ミオも近くの乗っても大丈夫そうな木に登っといてくれ」
「木に登るの?ここから狙うのはダメなの?」
ミオは利終に質問する。それに対し利終は首を縦に振りながら答える。
「だめだ。俺が弓を外すか、一撃で仕留めきれなかった場合、こっちに反撃してくるかもしれない。その時のために、あの鹿の届かない位置にいるほうが安全だ。」
その言葉を聞いたミオは、なるほどとうなずきつつ、近くに乗れそうな木がないか探る。
木を見つけた二人は、それぞれ別の木に登る。木を登り切った二人は木の枝の上でバランスをとるのに苦労するが、しばらくすると落ち着き、鹿の方面を見る。鹿はこちらには気づいていないようで周囲の草を食べている。その様子を見た利終は木に背を預けながら弓を構える。対象を視界の中心にとらえつつ、息を吸い、ゆっくり吐き出す。不安定な足場の中、集中力を高め、一撃で仕留めることを意識する。対象の額をよく狙い矢を放つ。矢は鹿の頭上を通り過ぎ、奥の木に刺さる。
外した
慌てて二本目の矢を構えようとするが、攻撃されたことに気づいた鹿が、その姿を森の中にくらませるほうが早かった。対象を見失った利終は、やっちまったという表情をしている。
本来の利終なら外すことはない距離だ。しかし、不安定な足場であることと、動いている生き物を手にかけるという事実が利終の腕を鈍らせた。生きるためとはいえ、生きている動物を殺すという行為をしたことがある人は少ないだろう。利終を咎めるのは酷といえる。利終はミオに振り向きながら謝罪する
「悪い・・・。外した・・・」
その言葉を聞いたミオは、利終を咎めることはなく言葉をかける。
「足場も悪いし仕方ないよ。次がんばろ?」
利終はしばらく左手で首の裏側を掻くと、意識を切り替える。またちょうどよく動物がいるとは限らないが、少なくとも食べようと思えば食べられる動物がいることはわかった。よく考えてみれば、森の中で目覚めたときといい、山の中でミオが倒れていても無事だったことは結構運がいいことなんだと思える。野生動物がいるのなら、またチャンスがあるだろうと考え、木を降りる。それを見たミオも木を降り利終に近づく。
「まあ外しちまったものは仕方ねえか。とりあえず、もう少し食べれそうなもん探すとするか。」
ミオは利終の提案に対しうなずく。それを確認した利終は矢を回収し、森の中を進み始める。その様子を見ていたミオも利終の後についていく。
しばらく歩くとミオが急に止まる。急に止まったミオに振り返りながら利終は声をかける。
「どうした?歩くのに疲れたか?」
よく考えてみれば、ミオは目覚めてすぐ森に出発している。水を飲んだとはいえ、何も食べず、休憩もろくにしていない。さすがに連れまわしすぎたかっと思っていると、ミオは首を横に振りながら答える。
「疲れてはいないけど、なんかいいにおいするなって思って。」
小さな鼻を動かしながらミオはそう答える。それを聞いた利終は鼻でにおいを探してみるが自然の香りがするだけで、いい匂いと思うものはしない。もしかしたら自然の香りのことを言ってるのかなっと思っていたが、鼻を鳴らしながら、ミオは森を進んでいく。まるでそっちからにおいが漂ってくるというように。利終は慌ててミオの後を追う。
しばらくすると、ミオが立ち止まり、頭上を見上げる。利終も頭上を見上げる。そこにはたくさんのりんごと思われるものが生っていた。しかし本当にりんごなのか、それとも似た別の果物なのか、確証が得られない。利終はとりあえず一つ獲ってみるかと考え。りんご?を獲ろうと木を登ろうとした時だった。
利終の後ろにいたミオが跳び上がった。
5mほどの高さにあるりんご?をミオは一つもぎ取るとそのまま着地する。その光景を見ていた利終は自分の目を疑う。しかし、今ミオがりんご?を食べているということは今見た光景が嘘ではないということを指している。5mほどの跳躍ってどういうことだっと思っていると、ミオは手に持っていたりんご?を食べ終わり、もう一度跳躍してりんご?を獲ろうとする。
「いや待てストップ‼」
その言葉を聞いたミオは頭に?を浮かべながら、少しずれた回答をする。
「ああ!ごめんね!うちだけ食べるのはずるいよね?今とるからちょっと待っててね」
「いやちげえよ⁉毒入ってるかもしれないって話だよ⁉」
それを聞いたミオはあっと声を出し、顔を青くする。どうしようと焦っているミオを見て、利終は落ち着くように言う。
「落ち着け。まず吐き出したほうがいい。万が一毒が入っててもすぐ吐き出せば大事には至らないはずだ」
安全に吐かせる知識などなく、道具もない。それでも死んだりするよりかはましかもしれない。そう思いミオにそう言う。ミオはうなずき少し離れて食べたものを吐き出そうとする。他人の嘔吐現場を見る趣味などないので、視界に入れないようにしながらりんご?の木を登る。りんご?を一つもぎ取るとそのまま降り、矢を使いりんご?を小さく切る。そのままパッチテストを行う。腕に塗り待っていると、ミオが戻ってくる。
「吐けない。どうしよう?」
その言葉を聞いた利終は自分の腕を確認する。時間はあまりたってないが異常は見つからない。とりあえず、りんご?のかけらを口に含む。酸味はあまりない、果物の甘さが口の中に広がる。というかリンゴの味だ。舌にも異常がないことを確認した利終はそのまま飲み込む。これで、腕にも舌にも異常がなければこれはただのりんごだと決めようと考えているとミオが慌てた様子で利終を揺さぶってくる。
「何食べてるの⁉毒かもしれないんでしょ⁉」
結構激しく揺さぶるものだから気分が悪くなってくる。利終はミオに落ち着くように言うと、パッチテストの説明をする。その説明を聞いたミオはほっと胸をなでおろすと利終に問いかける。
「ならうちも大丈夫ってこと?」
「念のため、もう少し様子を見たほうがいいけど、まあ大丈夫だろうな。」
その言葉を聞いたミオはよかったと安心した表情を浮かべる。その様子を見ていた利終は疑問に思っていたことをミオに聞く。
「というかさっきのなんだよ?」
ミオは心当たりがなかったのか首をかしげる。
「さっきのって?」
利終はミオの表情からうそを言っていないことを確認すると答える。
「さっきこのりんごもどきをとるとき5mくらい垂直でジャンプしてたことについてだよ。競技の選手とかでさえ70㎝くらいが平均って聞いたことあるんだけど。」
ミオは首をかしげながらあたりを見渡す。やがてりんごの木を見上げると、利終の言っていることを理解し、驚いた表情を浮かべる。
「うちそんな高く跳んだの⁉ほとんど無意識だったかも・・・」
その言葉を聞いた利終は少し考える。ちょっと前から疑問に思っていたことも含めて自分の仮説をミオに話してみることにした。
「さっきこのりんごの木を見つけるときもいいにおいがするって言ってたよな?ということは、今の大神はまさしく獣人といってもいい身体能力を有しているのかもしれない。そう考えれば、今までのことに説明がつくと思うし。」
それを聞いたミオは納得しつつも少しおびえているように見える。利終は無理もないと考える。昨日までは普通に生活していたのに、気が付いたら山の中にいたうえ、姿まで変わり、身体能力まで自分のものとは思えなくなってしまっている。これでおびえるなというのは無理があるだろう。利終も姿が変わっているが身体能力がそのままな分、まだミオより精神的負担は少ない。そんなことを考えているとミオは両手だ自分の頬を叩き、利終と向き合った。
「体がすっごくなってるんだったらすっごい便利だよね!もう何回か跳んでりんご獲ってくるよ」
ミオはそういうとその場から跳び上がる。その様子を見ていた利終は、自分の体に異常がないことを確かめる。どうやら本当にただのりんごらしい。とりあえずここでいくつか食って腹を満たしつつ、何個か持って帰るかと考える。ミオは飛んで獲ってを繰り返していた。
腹ごしらえも終わり、りんごをいくつか回収した利終達は、つけていた目印を頼りに森を抜け、利終が見つけた洞窟に来ていた。バケツの水を汲み、今後のことを考える。持ち運ぶ道具もなかったため、りんごはバケツに入る分しか持ってきていない。そのバケツに水を汲んでいるため、そんなに多くの量は汲めないとは思うが、少しでも水を確保しておきたいため、りんごを入れたまま水を汲んでいる。正直一度帰ってから、水を汲みに来たほうがよかったかもと考えていると、ミオが急に立ち上がり、洞窟の入り口の方面に警戒しながら振り返る。その様子を察知した利終は同じように入り口の方面を向くと、何かあったのかとミオに問う。
「入口のほうから足音みたいのが聞こえた。人の足音っぽいけど聞こえてくる声はうめき声かな?数も多い。」
それを聞いた利終は、弓に矢をつがえ、いつでも撃てるようにする。正体はわからないが、人の足音っぽいということは二足歩行の生物であるということだろう。しかし、うめき声ってどういうことだと思いながら、それが近づいてくるのを待つ。
暗闇の中から『それら』は現れる。
体調は1mないくらいの大きさで、体の色は緑色、耳は先がとがっており、その口は人をたやすく嚙み切れそうな鋭い牙が生えている。その姿はまさにファンタジー小説などに出てくる『ゴブリン』そのものであった。
ゴブリンの群れはこちらを発見すると、まるで新しい獲物を見つけたかのような表情をする。いや、彼らからすると今の自分たちはまさに獲物なのだろう。利終はありえない光景に混乱し、ミオは現実では見たことのない生物を前にし、完全におびえている。
利終は一度頭を横に振ると混乱する頭を落ち着かせようとする。
数は恐らく20を少し超える程度。今にもこちらに襲い掛かってきそうな雰囲気であり、話し合いなどは意味をなさないと判断する。
つまり、ここで奴らを『殺す』必要がある。今度はさっきの鹿のように躊躇する余裕はない。今回はまさしく『命』をかけた戦いになるからだ。それでも一途の望みをかけ、ゴブリンたちに警告する。
「それ以上こちらに近づいてくるのなら、その額に矢が刺さることになるぞ!」
ゴブリンたちは言葉を理解していないか、かまうことなくこちらに近づいてくる。
利終はちらりとミオのほうを見る。完全におびえ切っており戦闘は期待できそうにない。
しかし、この場で見捨てるという判断はない。何とか彼女を守りつつ、この場を抜け出す方法を考える。ゴブリンたちをよく観察すると、頭一つ分ほど他の個体より大きな個体がいることに気づく。そのゴブリンを中心に陣形が広がっていることから、おそらくあの個体が群れの統率を担っているのだろうとあたりを付ける。
群れのリーダーを仕留めることが出来れば、ゴブリンたちも逃げるはずだと思い、そのゴブリンを狙う。距離は20mほどであり、利終であるのならこの距離は外すわけがない。利終は弓を構えたまま狙いをつけ、ゴブリンたちの動きを待つ。下手にこちらから攻撃するのはよくないと判断したからだ。
背後で水が落ちる音がした。
その音を合図にゴブリンたちは雄たけびを上げると、一斉にこちらに襲い掛かろうとする。その様子を確認した利終は、すぐさま矢を放つ。その矢は狙い通り、一際大きなゴブリンの額に突き刺さる。そのゴブリンは倒れ、周囲のゴブリンたちの動きが止まる。その間に足元の矢を拾い、再び弓に矢をつがえ、警告をする。
「もう一度だけ言う!命が惜しくばこの場から立ち去れ!」
ゴブリンたちはおびえたように1歩後ろに下がる。そのまま立ち去ってくれと願いながら、利終は狙いを定め続ける。ミオは利終の後ろに回り、利終の背中に縋りつく。利終はそんな様子のミオに言葉をかけようとするが、その言葉を飲み込む。今はミオの不安を和らげることより、ゴブリンたちを追い払うことのほうが優先される。
正直、ミオにも戦ってもらうほうが勝率は高い。
矢は5本しか持ってきおらず、そのうちの1本は今使った。残り4本しかない状態で20体近いゴブリンを倒すのは不可能だ。しかし、獣人の身体能力を有するミオなら、敵全員を倒すことが出来るかもしれない。奴らの動きはそこまで早くなく、1対1なら利終にも勝機は十分ある。しかし、今のミオに戦えというのは無理だ。となると利終一人でどうにかするしかない。
利終が腹をくくるのと同時にゴブリンたちの体制が整った。利終の願いとは裏腹に、ゴブリンたちはここで利終達を仕留める気でいるらしい。
だろうなと利終は心の内で思う。利終が逆の立場でもそうする。戦力差は明白なうえ、戦えそうなのは一人だけ。となると、多少の犠牲は覚悟して相手を仕留めるのが最も合理的だ。
利終は矢をいつでも放てるようにし、相手の出方をうかがう。ゴブリンたちは再び雄たけびを上げると、一斉にこちらにむって突撃してきた。
利終は矢を放ち、1匹のゴブリンを仕留める。しかし、先ほどとは違いゴブリンたちは止まらず、こちらに突撃する。
利終は足元の矢を1本拾うと、そのままゴブリンたちに向かって投げつける。矢が刺さるようなことはなかったが、先頭にいたゴブリンにあたり、そのゴブリンの足は止まった。
先頭にいたゴブリンが急に止まったことで、4,5体程度だがそのゴブリンに衝突し、もみ合いながら倒れる。それを見た利終は、もう1本矢を拾い、一番近くに来ていたゴブリンに突撃する。
ゴブリンは手にした棍棒を振り上げ、利終にたたきつけようとする。それを見た利終は振り上げた位置から、棍棒を振りぬくルートを予測し、頭を下げその攻撃をかわす。棍棒を振りぬいたゴブリンはそのままの体制で少し止まる。
利終はその無防備になっている首を狙い、右手に持っている矢を突き刺す。首を刺されたゴブリンは絶命し、あたりに鮮血が飛び散る。利終は矢を引き抜き、次の敵を探すが、利終の真後ろに回っていたゴブリンが利終を潰そうと棍棒を振り下ろす。その攻撃を左手に持っている弓を盾にすることでやり過ごし、その首に矢を突きさす。これで二人と考えていると、今度は2匹同時に攻めてくる。片方の攻撃はかわし、もう片方の攻撃は弓でいなす。
先制して、合計4匹倒したが、それでも敵の数はまだ多い。幸いゴブリンたちは、ミオのほうには目もくれず、利終を倒そうと集まってくる。3匹以上に襲い掛かられたら、利終は攻撃をさばけず死んでしまうだろう。それを理解していた利終は、攻撃し続けてくる2匹のうち、何とか1匹を倒そうとするが、攻撃をいなし、かわすだけで精一杯であった。
その様子を遠くから見ていたミオはどうにかしなくちゃという考えになるが、何をしたらいいかわからず、動くことが出来ない。そのうち、最初の矢の投擲で転んでいたゴブリンたちも起き上がり、一斉に利終に襲い掛かる。利終は攻撃をかわしながらゴブリンたちの数を数えていた。
残りの数は14匹。最初に投擲した矢は、ゴブリンたちに折られ、使い物にならない。手元には矢が1本と弓が一つ。
防戦一方で、反撃の暇すら与えられず、さらに数が増えれば死まで秒読みであると言える。どうにかしなければと利終は考えるが、何も思い浮かばず、ついにほかのゴブリンたちが合流してきた。2匹から3匹に、3匹から4匹に数が増える。
「ッオォォラァァ‼」
左手に持つ弓を大きく横に振るい、ゴブリンとの間にわずかな距離を作る。そのまま後ろに跳び、包囲されないように立ち回ろうとする。
「危ない‼」
ミオの声が響く。利終が飛んだ方向には、1匹のゴブリンが棍棒を振り上げ待ち構えていた。それに気づいた利終は弓で攻撃を防ごうとする。しかし、防御は間に合わず、頭に重い一撃を食らった。
「—ァ」
利終はそのまま地面に倒れる。立ち上がろうとするが、腕が動かない。頭に直撃したせいで、脳震盪を起こしているらしい。それでも腕を動かそうと利終はあがく。今自分がやられてしまったら、次はミオの番であるとわかっているからだ。どうにかしようとあがいてる利終の近くに2匹のゴブリンが近づく。利終にとどめを刺そうとしているのだ。棍棒を振り上げ、利終に向かい振り下ろそうとしたその時、何かが飛んできて、棍棒を振り上げていたゴブリンの頭に直撃した。何かの投擲を食らったゴブリンの頭は吹き飛び、そのゴブリンは絶命した。ゴブリンたちはいっせいに、何かが飛んできた方向を見る。そこには、腕を振りぬいた格好をしたミオが立っていた。
利終が殺されそうになる直前に、ミオは足元にあった矢を拾い、全力でぶん投げた。普通の人間であれば軽く頭に当たって痛いな程度で済む投擲は、獣人の身体能力を持ったミオが行うことで、頭を吹き飛ばすほどの威力になった。
ゴブリンたちは動けない利終より、ミオを優先すべきと判断したようで、一斉に襲い掛かる。ミオは一瞬おびえるが、ここで動けなければ、自分も倒れている利終も死ぬと思い、ゴブリンたちに突撃する。
「ッヤァァァ‼」
ミオは自分を奮い立たせるため声を上げる。ミオの突進は何匹かのゴブリンたちを吹き飛ばし、壁にたたきつける。そのまま、ミオは自身の爪をふるい、周囲のゴブリンたちを蹴散らす。
利終はその様子を見て、体を動かそうとする。少しづつだが体が動き、時間をかけてゆっくり立ち上がる。利終が立ち上がったころには13匹いたゴブリンは5匹にまで数を減らしていた。
(動けないだけで、まだ生きてるな。)
倒されたゴブリンは動かないが、死んだわけではなかった。しばらくすると、動き出しまた襲い掛かってくるかもしれない。しかし、利終は倒れているゴブリンにとどめを刺すことはなく、ミオを見る。素早い動きで敵を翻弄し、強力な一撃を見舞っては、すぐに離脱する。このままなら全員倒し切りそうだと思いつつ、間が一に備え、弓に血まみれの矢をつがえる。
無論、利終は打つ気はない。今打ったら、ミオにもあたる危険性がある。しかし、ミオが不覚を取ったときに備え、集中力を高める。
ミオは5匹のうち2匹を蹴り飛ばし、壁にたたきつける。数的優位を誇っていたゴブリンたちは慌てふためき、ミオはそんなゴブリンを見て言った。
「今すぐこの場からいなくなって!うちも追わないから!」
言葉が通じているのはわからないが、ミオはできる限りの圧を放つ。このまま立ち去ってっと思っていたが、ゴブリンたちが武器を握りしめるのを見て、その考えを捨てる。ミオがゴブリンに突撃を仕掛けようとすると同じに、3匹のうち2匹がミオに飛び掛かった。ミオは爪を振り、2匹のゴブリンを吹き飛ばす。その直後、2匹の背後に隠れていた最後のゴブリンが棍棒を振り下ろした。その攻撃がミオに届く直前、横から跳んできた矢がゴブリンの頭上に突き刺さる。構えてた利終が、ゴブリンに命中させたのだ。勢いがなくなった棍棒をよけ、ミオは血まみれになった利終に駆け寄る。
「大丈夫⁉すぐに治療しないと!」
慌てた様子のミオに利終は落ち着いて言う。
「大丈夫だよ。軽い脳震盪起こしただけで、血も出てない。この血は全部返り血だから気にすんな」
「だとしても頭打たれたんだから、ちゃんと見ないと!」
「まあそれは小屋に帰ってからな。とりあえず・・・。」
周囲には、倒れたゴブリンたち。このまま放っておけばいずれ死に絶えるだろう。しかし、何匹か殺してしまっている以上、助けたとしても味方になる可能性はないに等しい。結局、止めを刺して楽にしてやることも、助ける判断もできず利終はミオに言う。
「ここにとどまるのは危険だ。とりあえず小屋に戻ろう。」
りんごと水の入ったバケツを手に持ち、洞窟の入り口に向かって歩き出す。ミオは周りのゴブリンを見渡した後、利終についていく。その場には、12匹のゴブリンたちが取り残され、やがて一匹づつ息を引き取っていった。
小屋に戻ってきた利終達は、扉を開き中に入る。利終は持っていたバケツを机に置くと、ミオに向かって頭を下げる。
「助かった。礼を言う。それと、大神を戦わせてしまってすまなかった。」
それを聞いたミオは首を横に振りながら答える。
「いやいや、お礼を言わないといけないのはうちのほうだから。それに、あんなに頑張ってうちを守ろうとしてくれたんだから気にしないでって。」
それを聞いた利終はこれ以上はお互いにとって意味がないと、考え顔を上げる。
ミオの目を見ながらこれだけはと思い、ミオに声をかける。
「なら、お互いさまってことだな。けどほんとに助かったわ。俺にできることなら何でも言ってくれよ?」
その言葉を聞いたミオは少し考え。
「ならうちのことミオって呼んでよ。それくらいしてくれてもいいでしょ?」
利終はそんなことでいいのかと思いつつ、ミオに答える。
「わかった。これからもよろしくなミオ。」
その言葉にミオは笑顔で答える。
「うん!よろしくね利終君!」
その表情に利終は少し見惚れる。そんな利終にミオは少し首をかしげる。利終はハッとしてコホンとせき込むと、ミオに背を向け話しかける。
「ああーそれと、これからについてなんだが・・・」
その瞬間突如視界がゆがむ。立つこともできなくなり、前のめりに倒れこむ。倒れる直前にミオが呼び掛けているのがわかったが、それに返事をすることもできず、利終は意識を失った。