これは語られるはずのない物語   作:篠崎勇気

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3月―――それは別れの季節―――

まあ、この小説に関しては完結まで別れることないですけどね?
完結は後五年後とかじゃないですかね。

とまあ、そんな感じでのんびり続けていきます。


物事は計画通りにいくとは限らない!と言うか計画通りに行くことの方が少ねえよ!

いろはの頑張りにより、火を点けた一同は、ポーションを五本作ることに成功した。

しかし、気軽に薬草を取りに行ける環境ではないため、これ以上の量産は難しいとの判断になる。

ポーションは様々な状況で活躍すると考えられるため、出来る限り量産したい。その為にここを離れ、ある程度安全な場所に移動するという考えを姫華楓はいろはとこよりの二人に打ち明ける。

二人は頷きながら、ここを離れるという選択に賛同する。

 

「でも、離れると言ってもどこに行くの?雪原の場所に戻ろうとしても、どっちにあるかわからないよ?」

「校舎の裏をまっすぐ2kmほど進んだところに、大きな湖が見えた。獅子原に相談したところ、そこまで行けばゾンビはいなくなるだろうとのことだ」

「獅子原殿は何故そんなことが言えるのでござる?少々怪しくないでござるか?」

「こよはそんなことないと思うけどな~。でも、そこらへんがちょっと気になるのは同意かも」

「この世界はゲームに似た性質を持っているとのことだ。いわゆる『エリア』が変わるから、ここのゾンビ達はそこまで来ないのではないか、と言うのが獅子原の予想だな。俺もそこに関しては同意だ」

 

姫華楓が和希の意見に同意する理由は、そう考えれば納得のいく箇所が多いからだ。

例えば、ゾンビ達は廃墟地帯に入ってから雪崩のような凄まじい数で襲ってきたというのに、廃墟地帯に入る前は一匹も見ることがなかった。あれだけの数がいるのなら、廃墟地帯どころかあらゆる場所にいてもおかしくはないだろう。

更に巨人たちも雪原地帯以外では一切見ないのは不自然だ。

あれほどの巨体であればいやでも目立つというのに、雪原地帯を抜けてから影も形も見えない。

このような不自然だと感じる疑問は、生息地から出ることがないという習性があると考えれば納得がいく。

湖の見える場所がここより安全だという保証はないが、ここが安全な場所ではないのは確かである。ならば、一つの可能性に欠けてみるのは全然有りであると言える。

 

「ちょ、ちょっと待って。そんな無理やり」

「いいから飲む。ハイ次」

「いっぺんに飲ませようとするなや。貴重品なんだから慎重に使えって、口にツッコむな、ゴボゴボ」

「と言うのが俺の考えなんだが、二人はどう思う?」

「こよは姫華楓君の意見に賛成かな。すいせい先輩や獅子原君はここにいても危ないのは事実だしね」

「風真も特に反対意見はないでござる。ただ、移動はどうするのでござるか?」

「そこをどうするかなんだよな」

 

姫華楓は後頭部を右手で搔きながら、移動の手段について思案する。

姫華楓は人を相手にする駆け引きなどは得意なのだが、一発逆転といったアイデアを出すのは苦手なのだ。その為、いろはやこよりに相談したのだが、二人もあまりいい案が浮かばず、三人揃って頭を抱えることになった。

 

「ゴボゴボゴボゴボ・・・」

「すいちゃんは一つ案を思いついたよ!」

 

頭を抱えて悩んでいると、三人の会話が聞こえていたすいせいが一つの考えを思いつく。

姫華楓は目線をすいせいに移すと、目線で続きを促す。

すいせいは姫華楓の意図を察すると、そのまま自身の考えを打ち明ける。

 

「姫華楓君が抱えて運ぶっていうのはどうかな!空からの移動なら安全だし、姫華楓君もその程度なら平気でしょ?」

「人の口にポーションツッコみながら平然と喋ってんじゃねえよ!って、まだ二本目飲んでる最中、ゴボゴボ」

「ああ、俺もそれは考えたんだが、全員を抱えて飛ぶことは無理だから、一人づつしか運べず時間がかかる。それに俺がいないときに敵が来たら、無事でいられる保証がないという考えに至った」

「あ~、確かにそうだね。すいちゃん達じゃ、獣人のゾンビには勝てないしね」

「今絶賛無事じゃない奴がいるんだが⁉今味方の手によって溺死しそうゴボゴボ」

 

姫華楓の考えを聞いたすいせいは素直に納得し、別の案がないかと一人思考の海に沈む。

いろはやこよりも意見を出し合うが、なかなか案が決まらず、どうしたものかと四人はそろって頭を悩ませる。

 

「っていい加減にしろや!次々口にツッコまれても飲めねえよ!」

「あ、獅子原君いたでござる?」

「ずっといたよ⁉SOSを叫びながら窒息死させられそうになってたけど⁉」

「獅子原うるさい。早く次飲む」

「ならせめて自分のペースで飲ませろや!次々口にツッコまれるから飲めねえんだろ⁉」

 

ちなみに和希がこんな扱いを受けている理由は先ほどのこより膝枕が原因だったりする。

すいせいが嫉妬しているとかではなく、単純にずっと顔がニヤついていたのが気にくわなかったのだ。そして、膝枕をするのがすいせいに変わった瞬間、一瞬がっかりしたような表情をしたのも腹が立つ。

自業自得であるため、一同はすいせいの行いを知らんぷりしていたというのがさっきである。まあ、本音は関わりたくなかったというものであるだろうが。

しかし、ポーションの数も残り二つになり、このまま全部飲み干してしまうわけにもいかないので、仕方なく姫華楓はすいせいを止める。

 

「そこまでにしてやれ。獅子原に原因があるとはいえ、貴重な回復手段をすべて失うのはまずい」

「それにすいせい先輩も一本飲んどいたほうがいいでござる。獅子原殿も十分回復したでござろう?」

「おかげさまでな。んで、話を戻すが移動方法については一個案があるぜ」

 

三つ目のポーションを飲み干し、一本をすいせいに手渡しながら、和希はそう答える。

姫華楓は自信満々な表情をした和希に嫌な予感を覚えながらも、和希に続きを促す。

 

「ほう?それはどんな案だ?」

「すいせいの能力を使って、全員で飛んでいくって作戦よ。まあ、着地は姫華楓任せになるから、ちょいと姫華楓の負担がでかいけどな」

「すいせい先輩の能力でござるか?」

「こよ達はすいせい先輩の能力知らないんだけど」

「さっき言っただろ?すいせいの能力は『流星』だよ」

「『流星』と言うことは、星を降らせる能力ってところか?だが、身体強化をしているような節もあったようだが」

「すいちゃんの『流星』は、簡単に説明すると、『流れを操る』能力って感じだね」

「流れを操る?」

 

すいせいの言葉に今一ピンとこないのか、言葉の意味を考えようとするこより。

いろはや姫華楓も同じようで、今一どういった能力なのかが伝わらなかったようだ。

 

「例を出すと、『下』の方向に向かって重力ってのは『流れ』ているでしょ?すいちゃんの能力は『下』に向かって『流れ』ている重力を、『右』に向かって『流す』ことが出来るんだ。けど、範囲指定が必要なものに関してはすいちゃんを中心に10m程度が限界かな」

 

すいせいの能力である『流星』の能力は、手に触れた物の力の向きを変える能力である。

この世界のすべてには必ず何らかの力が加わっており、その力の向きを変えることが出来るというものだ。

例えば、水を入れたバケツを回しても水がこぼれないのは、内側に引っ張る力よりも外側に引っ張る力のほうが強いからであると言うのは有名な話だろう。

だが、もしその外側に引っ張る力が働く向きが『外』でなく『内』であったのなら、水はどうなるだろう。本来あった内側に引っ張る力と外側に引っ張る力が合わさり、凄まじい速度で内側に向かっていくだろう。

すいせいの能力はそう言ったことが出来るものであり、今まで行っていた身体強化と思われるものは、斧にかかった重力の向きや自身で生み出す反発力の向きを一か所に向けることで起きていたものである。

無論、この能力は一瞬一瞬の判断がとても大事なものであり、扱いが非常に難しいものである。しかし、すいせいはこの能力を完璧とは言えないものの、かなりの練度で使いこなしており、今や他種族とも渡り合える———訳がないのが、この世界の厳しさである。

 

「でも、すいちゃんが手で触れてから十秒間しか効果がないよ?さすがに十秒じゃあ、2kmも落下するのは無理じゃない?」

「空気抵抗を考えるのなら、自由落下で2㎞進むには四十秒くらいかかるかな?」

「こよちゃんよくわかるね。でも四十秒もかかるのでは、無理ではござらんか?」

「それは空気抵抗を考えた場合の話だろ?少なくともすいせいの近くにいれば、すいせいが空気の流れを操作して空気抵抗をほぼゼロに減らせる。んでもって俺の『重力操作』で全員に三倍の重力を上乗せすれば、重力加速度は約二九・四m/s2だから、十秒で約1500m進む計算だな」

「500mの差は結構デカいよ?どうにかして二秒くらい伸ばさないとじゃない?」

「ちょっと何言ってのかわかんない」

 

和希とこよりの会話に、早々に音を上げるすいせい。

ちなみに会話に混じっていない姫華楓も頭に?マークを浮かべている。

和希は姫華楓とすいせいにもわかるよう、説明を付け加えようとするが、和希が口を開くよりも早く、どこから取り出したのかもわからない眼鏡をつけたこよりが、目をキラン☆とひらめかせながら解説を行う。

 

「フッフッフ!holoXの頭脳であるこのこよりちゃんが説明しましょう!まず、和希君が言う重力加速度とは、重力によって落下する物が一秒間あたりにどれくらい早くなるのか、その速度の増加量のことです!地球の重力加速度は約九・八m/s2と言われてますが、今回和希君の能力でその速度を三倍にし、約二九・四m/s2まで加速させることが出来ます!」

「はい!こより先生!先ほどから使っているm/s2とは何なんですか?」

「すいせい君の質問にお応えしましょう!m/s2(メートル毎秒毎秒)とは一秒間で何m速度が変わったのかを表す単位です!例えば地球の重力加速度である九・八m/s2では、一秒目は秒速九・八m、二秒目は秒速一九・六m、三秒目は秒速二九・四mと加速していきます!」

「・・・一応高校の物理基礎の範囲だよな」

「すいちゃんにわかるわけないでしょ」

「自慢げに言うことじゃねえだろ」

 

少しは知っているだろうと思っていたのだが、まさかの全く知らないと返され、頭を抱える和希。ちなみに姫華楓も全く分かっていない様子だったので、すいせいと姫華楓の頭は同レベルかそれ以下である。

余談だが、姫華楓の学力は小学生より少しマシ程度である。嘘だろお前。義務教育やり直せ。

 

「これは空気抵抗がない状態の計算なので、実際の地球ではもっと計算式は複雑になりますが、すいせい先輩の能力を使用することでほぼゼロになります!よって、2kmの距離を自由落下で落ちる時間は、t=√(2h/g) / 3の計算式から、十一・六六秒になるのです!ですので、すいせい先輩の能力の時間が後二秒ほど足りないと言う訳です」

「・・・なるほど」

「今の姫華楓君のなるほどは、ほとんど何もわかっていないなるほどでござるな」

 

tは時間、hは距離、gは重力加速度であり、後に三で割っているのは、和希の重力操作による重力三倍の値を導き出すためである。

すいせいと姫華楓はなるほどと頷いてはいるものの、全く理解できていないのは誰の目に見ても明らかである。

これ以上の説明は意味がないと判断した和希は、こよりの解説に割って入ると、作戦の続きを説明する。

 

「とにかく計算上約二秒足りないということだけ理解すればいいよ。んで、その二秒を補うために、すいせいには空中の俺たちにもう一度触れて能力を延長してもらいます」

「まさかの脳筋戦法⁉すいせい先輩の負担が半端じゃないでござるが⁉」

「仕方ないね。分担できないし」

 

すいせいと姫華楓の二人に負担が集中する作戦だが、これ以上に良い作戦(安全とは言っていない)は思いつかなかった一同は、しぶしぶ和希の作戦に乗ることにする。

すいせいを中心に、姫華楓、いろは、こより、和希の順番で円を組み、空中でばらけないよう隣り合わせで手を繋ぐ。

一同に緊張が走るが、やってることはパラシュートを一人に任せたスカイダイビングと同じなので、当然と言えるだろう。

不安になったすいせいが、震える声で和希に問いかける。

 

「ねえ、やっぱり別の方法はないの?姫華楓君がいるんだし、籠城しながら一匹ずつ敵を倒すとか」

「敵に限りがあるならそれもよかったけどね。されに言うと、姫華楓の体力も無限じゃない。寝ているところを獣人のゾンビとかに襲われたら一巻の終わりだ。かといって、見渡す限り存在するゾンビ達の群れを真っ向から突っ切るのは自殺行為だ。いつ敵に襲われるかわからなくなった現状だと、これが最善策だと思うしかない。俺の重力操作で向きを変換できるのは軽い物体だけだからな」

「けど、すいちゃん達が失敗したら皆が」

「それこそ今更だろう。一人の失敗で全員死ぬのは今に始まったことじゃない」

「そうでござる!すいせい先輩に全てお任せしてしまうのは心苦しいでござるが、風真達はすいせい先輩を信じるでござる!」

「そうですよ!こよ達はすいせい先輩ならやれると信じてます!」

「最悪失敗したらごめんって言えばいいさ」

「いや、ごめんで済むことじゃないでしょ・・・」

 

和希の軽口に思わず脱力しながら突っ込んでしまうすいせい。

緊張でガチガチになっていたさっきまでと違い、その表情はどこかあきれを含んだ自然なものになっていた。

そのことに気づいたすいせいは、内心で少し皆に感謝しつつ、両手で自身の頬を張り、気合を入れ直す。

 

「よし!いつでもOKだよ!」

「了解した」

 

すいせいの言葉に気を引き締め直す一同。

これから行うのは失敗=死の命がけの勝負(かけ)。そのことを全員が理解しながら、その一瞬に意識を集中する。

一度大きく息を吸ったすいせいは、その息を一気に吐くと、姫華楓から時計回りで全員に触れて、能力を発動する。

上下の間隔があいまいになり、手を繋ぎながら全員で横に向かってする。

和希は自身の足が空中に浮いたことを確認した瞬間、全員の体にかかる重力を三倍に引き上げ、落下の速度を一気に増させる。

体中が空中に浮く感覚と、すいせいの能力で空気抵抗がないせいか一切何も聞こえない無音の時間が続く。

無限に思えるその瞬間の中で、心の中できっちり五秒数えたすいせいは行動に移る。

再び姫華楓を最初に時計回りで全員の体に触れ、能力の使用時間を延長する。

空中で身動きがとりずらい中、ずっと掴んでいた和希の服を頼りに、全員の体に触れ直す。

能力が切れる前に、何とか全員に触れることができ、能力の使用を延長できたことに安堵するすいせいだったが、一つ肝心なことを忘れてしまっていた。

重力の向きを変換することに意識を裂きすぎて、空気抵抗を操作することを忘れていたのだ。

気づいたときにはもう遅く、全員の体が空気の壁にぶつかり、全身をすさまじい衝撃が襲う。

姫華楓とこよりの二人は、種族そのものが違うおかげかたいした負担を感じないが、人間である三人の場合、話が変わってくる。

質量のない空気と言え、およそ時速500kmの速度でぶつかっているのだ。その衝撃に耐えられなかったすいせいの意識は一瞬でブラックアウトする。

いろはと和希の二人はなんとか衝撃に耐え、意識を失うには至らなかったが、このままでは二人が意識を失うのも時間の問題だろう。

和希はとっさに能力を解除し、全員にかかる負担を軽減させるとともに、意識がないすいせいを引っ張り、離れないようしっかりと抱きしめ、負担がつらそうないろはを姫華楓が引き寄せる。こよりは和希と姫華楓の手を取り、全員が離れないようしっかりと引き合わせる。

幸い、すいせいの意識がなくなっても一度かけた能力は継続するようで、元の重力に戻ることはなかったが、空気抵抗と和希の能力解除により、速度が一気に落ちる。

すいせいの意識が切れてから一〇秒が経過し、目的地からはるか遠い900m地点上空で重力の向きが正しく戻り、全員の体は放物線を描くようにして徐々に地面に近づいていく。

その着地地点には、やはりと言うか大量のゾンビが存在した。

 

「ッ‼姫華楓‼全員を抱えるてどれくらい飛べる⁉」

「空に留まるだけならもって、五秒が限界だ‼それに先ほども言っていたが、全員を抱えて移動することは出来ん‼」

「五秒も留まれるのなら上々‼ゾンビ達に触れられないギリギリの範囲で留まってくれ‼その瞬間、俺が地面のゾンビ達を纏めて———」

「その必要はないよ」

 

意識を取り戻したすいせいが、全員の体にもう一度触れ、重力の向きを横に変換する。しかし、意識を取り戻したばかりでの能力使用は負担が大きかったのか、全員に能力を付与した瞬間糸が切れたかのように再び意識を失う。

 

「「すいせい先輩⁉」

「よくやってくれた‼空気抵抗ありと言え、これならッ‼」

 

再び始まる横方向の自由落下。さらに今度は姫華楓が全員を抱え、進行方向に向かって飛ぶことでさらに距離を稼ぐ。

すいせいの能力を再付与してから約五秒後、姫華楓達は廃墟地帯を超え、水海地帯と呼ばれる場所に突入した。

姫華楓は即座に急停止をかけようとするが、いろはが首を横に振ることでそれを阻止する。

ただでさえ先ほどの衝撃でいろは、和希、すいせいの三人は身体のものすごい負荷をかけている。これ以上の負荷は命に係わる。

そう判断したいろはの考えを姫華楓は読み、なるべく負荷をかけないよう徐々にスピードを落とす方針に切り替える。

しかし、徐々に落とせるほど姫華楓達に余裕は残っていなかった。

すいせいの能力が切れ、地面への落下に切り替わる。

先ほどの能力切れによる落下により、地面との距離は約10m程度。放物線を描くように徐々に地面へ向かうと言っても、地面に衝突するまでは十秒もない。

姫華楓はイチかバチか、全員の落下距離を伸ばし、湖に着地することを試みる。

そのたくらみが上手くいったのか、すいせいの能力が切れてから五秒後、大きな水柱が立ちあがり、あたりにいた魚たちは一斉に逃げ出した。

 

 

 

 

 

「もう二度と自由落下での移動はしない」

「フラグ乙」

 

全身ずぶぬれになりながら、意識を取り戻したすいせいがそう言う。

それに対し、またやることになりそうだと目が死んでいる和希が答える。

全員の無事を確認した一同は、浜辺に横になりながら空を眺めていた。

精神的に疲れているのもあるが、太陽光で少しでも濡れた服を乾かすためである。

濡れた服が肌に張り付き、今にも脱ぎたい気分になるが、男女の入り混じった空間でそれを行う勇気はここにいる面子にはない。・・・約一名を除いて。

 

「いろは達はともかく、獅子原は上くらい脱がないのか?」

「てめえみたいなマッチョメンじゃねえんだよ。つか筋肉量凄いな」

 

上半身の服を脱ぎ去り、大の字になって寝転ぶ姫華楓がそこにいた。

その堂々たるたたずまいに若干、ジトっとした目を向けつつ、目を見張るほどの筋肉に羨望のまなざしを向ける和希。ちなみに女性陣は姫華楓との間に和希をはさみ、なるべく目に入らないようにしている。若干赤い表情は、異性にあまり慣れていないのだろうか。

全身濡れた状態で赤い表情をする女性陣とともに横に並ぶ男二人(片方半裸)。文字に並べると事案が発生しそうな状況だが、実際は違う。

彼女たちの表情が赤いのは、水面に叩き付けられたからであり、男性陣も疲れ果ててるせいで今すぐ泥のように眠りたい気分である。ラッキースケベ?そんなものに反応する余裕はねえ。

しばらくそうして空を眺め続けていたが、日がだんだん傾き始めてきたので一同は移動することにする。

とりあえず湖を右手にひたすら歩き続ける。できることがほとんどないということもそうだが、どこが安全だかわからないからだ。

そうして当てもなく歩いていると、突然何か思いだしたこよりが声を上げる。

 

「あ!魔法窯!」

「やっべ、普通においてきた」

「ここらで鍋を見つけるのは至難だぞ?かといって取りに戻るのもなあ」

「姫華楓君だけなら大丈夫じゃない?ここら辺は安全っぽいし」

「行けというか?俺一人で行って来いと?」

「姫華楓君が行くなら風真もついて行くでござる。一人くらいなら抱えて飛べるでござろう?」

「やめとけ。合流できずにさまよう未来しか見えないから」

「そうだよ!沙花叉はみんな一緒にいたほうがいいと思うよ?」

「そうだよね!みんな一緒にいたほうがいいとこよも思うな!」

「やかましいぞ黒桃コンビ。といっても、さすがに取りにってもらうのは無理だよな・・・」

 

そんな会話をしながら浜辺を当てもなく歩く六人。日が完全に沈むと、これ以上の移動はやめた方がいいと話し合い、交代交代で見張りをすることにする。

人数は六人だったので、二人ずつ三グループに分かれ、三時間ごとに交代して睡眠をとることにする。

グループは最初がいろはとすいせい、真ん中が姫華楓と和希、最後がこよりとクロヱだ。

 

ん?

 

「なんか一人増えてるぅぅぅぅぅぅううう⁉」

「「「「「え?えぇぇぇぇえええええ⁉」」」」」

 

和希の言葉に五人はお互いを見る。順番に顔を見合わせた後、今気づいたかのように一斉に声を上げる(クロヱ含む)。いや、お前は入ってきた側だろ。

クロヱに視線が集中し、姫華楓が一瞬警戒モードに入る。しかし、その後のいろは達の行動に警戒を解くのだった。

 

「沙花叉!無事であったでござるか!」

「クロヱ!無事でよかったよ~」

「いろはちゃんもこんこよも特に怪我無くてなによりだよ~。すいせい先輩も元気そうで何よりです!それと、そっちの二人は?」

「俺は獅子原和希!こよりちゃんと付き合いたいだけの一般人で、そっちは柊姫華楓。こいつはいろはちゃんの彼氏だよ!」

「「嘘言うな(でござる)‼」」

「え?獅子原君、こよのことそんな目で見てたの⁉」

 

嘘である。

しかし、クロヱにはいろはと姫華楓の反応を見て良い玩具を見つけたという表情をする。

その表情を見た和希はこれ以上収拾がつかなくなる前に本当のことを言うことで、話題をすり替えようとする。

 

「そういや、姫華楓君はクロヱちゃんのこと知らないんじゃないか?」

「え~⁉沙花叉のこと、知らないの~?」

「初対面の人に言うのもなんだが、あざとい」

 

クロヱは姫華楓に近寄ると、上目遣いで姫華楓を見つめる。

それを見た姫華楓は一言でクロヱを一蹴すると、クロヱから少し距離を取りいろはの近くに行く。

その姫華楓の表情に違和感を覚えた和希は、姫華楓のそばに近寄ると周りに聞こえないよう小声で姫華楓に問う。

 

「もしやクロヱちゃんのこと苦手か?」

「ああ、なんとなく姉貴の友人に似てるんだ。あの人俺にいろいろ教えてくれるのはありがたいんだが、時々近寄りずらい雰囲気が出て苦手でな」

「・・・姫華楓君のお姉さんの友達って闇抱えてる系?」

「闇を抱えてる?それはどういう意味なんだ?」

「まあ、メンヘラチックと言うか、極度のかまってちゃんと言うか」

「よくわからないが、定期的に俺のものを欲しがる子ではあったぞ?」

「OK、理解した」

 

日が沈む前の会話で、いろはが話していたことが事実なら、姫華楓の周りには女の子が多かった。男として心底うらやましいが、それゆえのトラブルも多かったのではないかと予想することは簡単だ。

つまり、メンヘラやヤンデレと呼ばれる種類の子が身近にいたせいか、姫華楓はそう言う女性が苦手なのだろう。そう考えればいろはに引かれている現状も頷ける。

などと和希が頭で考えていると、小さな空腹音があたりに響く。

全員が一斉に発生源であるこより―――ではなく、突然声を上げた姫華楓に注目する。

 

「あー、そういやこっちに来てからまともに食事とったのこよりの小屋くらいか」

「そうでござるな。すいせい先輩たちと合流してからはゾンビに襲われたせいで食べる暇もなかったでござるしな」

 

こよりがいた小屋を出たのが今日の朝であり、そこから何も口にすることなく夜を迎えてしまっている。人は一日くらいなら何も食べなくとも平気ではあるが、押し寄せる空腹感を誤魔化すことは出来ない。そう考えた姫華楓は近くにある湖で食料を調達しようと思い、いろは達に声をかける。

 

「ちょっと魚釣ってくる」

「いや、姫華楓君の場合、潜ったほうが早くね?こよりちゃん、簡単な釣り竿の設計書って出せる?」

「ちょっと待ってね。今作るから」

「魚なら沙花叉がとってこようか?」

「いや、クロヱの種族は人間だろう?夜に潜るのは危険すぎる」

「沙花叉は人間じゃないよ?」

 

突然のカミングアウトに姫華楓は驚きを隠せないが、他の四人は納得の表情を浮かべる。

 

「あー、クロヱちゃんって見た目は人間だけど、一応シャチなんだっけ」

「そうでござるよ。沙花叉はシャチの少女でござるからね」

「この場合、分類的にはどうなるんだろう?こよや姫華楓君とは違うような」

「海に生きる人だから『海底人』とか?もしくは魚の人だから『魚人族』とか?」

「その二択なら『魚人族』が一番近いんじゃね?『海底人』はちょっと違う気がするし」

「そう言えば沙花叉の能力は何なのでござる?」

「・・・能力?」

 

そう言いながら首を傾げるクロヱ。どうやら本人に自覚はないらしく、何の能力を持っているのかはわかりそうもない。

そう考えた一同に向かって、クロヱはさらっととんでもない爆弾発言をする。

 

「何のことか沙花叉はわからないけど、早いとこ超音波使って魚獲ってくるね~」

「「「「いや、普通に能力使ってんじゃん‼」」」」

 

四人のツッコミがあたりに響き、少しうるさそうに耳をふさぐクロヱと、何もわかっていない姫華楓は空を見上げるしかないのであった。

 

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