大空スバルが合流してから1週間が経過した。
あれからスバルの案内とフブキの嗅覚によってりんごのなる木を発見し、定期的に取りに行くことで食料問題は一時的に解決した。ちなみに、釣り竿を使って魚を獲る作戦は残念ながら失敗に終わり、今のところ一匹も捕まえるが出来ていない。
食料問題は解決したが、拠点作りは難航した。家を作ろうにも四人にはその知識はないし、そもそも木材を持てるのがミオとフブキの二人しかいない。
スバルも持ち上げようとしたが、能力でバフをかけても持ち上げることはできなかった。どうやらスバルの身体能力は利終と同じか、それ以下らしい。
その様子を見た利終は少しほっとした。ミオもフブキも利終より身体能力がはるかに高く、男としてちょっと自信を無くしかけていたが、スバルの身体能力が利終より低かったおかげで、利終のプライドは首の皮一枚つながった。
どうやら利終達が最初に言っていた獣人という種族自体が、身体能力が高い説はあったていたらしい。いや、どちらかと言えば狼の皮で攻撃を防がれてしまう人間が弱すぎるだけなのかもしれないが。
そんなわけで、力仕事はミオとフブキが請け負い、細かな作業をスバルと利終で行うことになった。最も、利終は片腕がないため、拠点づくりにはあまり参加させてもらえない(主にミオが怒るため)。その結果、今後のことや、周辺状況の確認など、頭を使う仕事を任された。
利終の能力についてだが、あれ以降、一度も使えていない。
どうやら回数制限付きだったのかと、利終は落ち込みつつも、自信の仕事を全うしようとする。
今、利終がやっていることは簡易的な地図の作成だ。ミオかフブキのどちらかに付き添ってもらいながら、周辺を歩き地形を記憶する。拠点に戻ってから記憶をもとに地図を作る。大きめに切った木を板状にし、矢の先端で木を削って地図を描く。周辺の記録はいざという時に役に立つだろうと考えての判断であった。
利終が地図を作っている一方、三人は拠点づくりを行っていた。
スバルが切り、ミオとフブキの二人が木材を組み立てる。建築技術などない三人は苦戦しながらも少しづつ、拠点となる家を建てていた。
一週間で骨組みは完成し、現在は骨組みをもとに壁を作っている。かなり速いスピードで完成に近づいているが、その理由は主にフブキとミオにあった。
獣人の身体能力であれば、500㎏以上ある丸太も持ち上げることができ、丸太を持ったまま5m近く跳び上がることができる。獣人ってすげーっと利終とスバルの二人は思った。
ちなみに利終の提案から全員で身体能力テストを行った結果、身体能力が一番高いのはフブキであった。ミオも人間のスバルと利終に比べるとはるかに高かったのだが、フブキはさらにその上を行く。
フブキの身体能力は、ミオの二倍程度であり、かなり差が開いていた。
例えばフブキは片手で丸太を持ち、同時に二本持つことができるが、ミオは一本しか持てない。利終とスバル?二人で力を合わせても丸太一つ持ち上がりませんが?スバルのバフを使っても無理でしたが?
普通に考えてみればこれは当たり前である。500㎏以上ある丸太を二人で持ち上げられますかと聞かれたら、ほとんどの人は首を横に振るだろう。いくら運動部に入っている利終と、女性の平均よりちょっと高いスバルが協力しても、丸太一つ持ち上がらないのは当たり前である。ましてや、利終は片手である。まあ、万全な状態でも持ち上げることはできないだろうが。
ちなみにスバルの能力を調べてみた結果、上昇率は約1.3倍であった。これは主に利終とスバルの二人が試してみた結果である。フブキとミオは基準が高すぎて参考にならなかったからである。
フブキとミオが50m(正確に測ることはできないので大体で決めた)を走ってみたところ、フブキは約0.5秒で、ミオは約1秒(これも感覚)で走り切り、利終は考えることをやめた。ちなみにスバルは7.5秒、利終は7秒だった。
そんな感じで身体能力を把握しつつ、それを拠点づくりに生かしていた。
地図を作っていた利終は一通り書き終わると、三人のほうを見る。三人はあーでもないこーでもないと言いながら、着実に拠点を作り上げている。時々、フブキとミオが飛んでいるのを見ながら、利終はこれからのことについて思考を回す。
利終個人の意見を言うのなら、水海地帯の横にある廃墟地帯か、南のほうにある遺跡地帯に行きたい。現状では圧倒的なまでに情報が不足している。その情報を集めるのに、廃墟地帯と遺跡地帯はいいのではないかと考えたのだ。廃墟というのであれば紙などの情報媒体があるかもしれないし、遺跡ならこの世界のヒントになりそうなものがありそうである。
利終はどちらかというと遺跡地帯に行きたい。理由は単純。男のロマンである。
古代遺跡ってワクワクしない?男ならわかるよね?
そんなことを考えつつ、三人にも相談する気ではいる。さすがに今後の方針を利終個人のロマンの為とかいう理由で決めるわけにもいかないからだ。最も、拠点が完成して、生活が安定してからの話にはなるが。
そんなことを考えつつ三人の作業を見る。手伝おうとするとミオが怒るので、利終には見るしかできない。
骨組みに合うようにスバルが木を切り、フブキとミオの二人が木の壁を作っていく。フブキが木を骨組みに当てて固定し、ミオが金槌で釘を打ち固定する。この釘は木で作ったものであり、不安要素はかなりあったりする。
だがネット環境もない中、四人が知恵を振り絞った結果、これ以上案が浮かばなかったためこのやり方で家を建てることになった。
不安は多々あるが、少しづつ出来ていく新しい拠点。利終はできることもないので釣り竿を持って湖の方向へ歩く。
利終は湖にある防波堤のような崖の端まで来ると、釣りを始める。釣り竿を右手で器用に扱い、魚が釣れるのを待つ。釣りをする際は餌をつけるのが基本だが、この世界にはミミズや虫がいないのでエサがつけられない。
なので、餌をつけないまま釣りをしている。まあ、利終は虫が嫌いなため、いたところで餌として付けられないが。
遠目に見ても、水底が見えそうなほどきれいな湖を見ながら、利終は魚が釣れるのを待つ。
「どう?釣れそう?」
「んぁ?なんだ、フブキか」
何も考えず、ぼーっとしていた利終にフブキが声をかける。ここ一週間で二人の関係も少し変わり、今では名前で呼ぶようになった。
「なんだとは何ですか。ミオじゃなくて残念でしたね」
少し怒りながらそう言ってくるフブキに利終は答える。
「いや別にそういう意味で言ったわけじゃないんだが。というか、拠点のほうはどうしたんだ?」
利終がそう尋ねると、フブキは拠点のほうを指さしながら答える。
「だいぶ形にはなってきました。多分ですけど明日か明後日には完成すると思いますよ?最も内装は無いそうですが」
利終はフブキの指さした家を見る。外装だけで言うのなら屋根以外は完成している。後は、骨組みに合わせて木の板を作って貼ればいい。素人が作った家がどれだけの耐久性を持っているのかは不安が残るが、そう悪いことにはならないだろう、と利終は思っていた。
ふと周りを見ると、ミオとスバルの姿が見当たらないことに気づく。
「なあフブキ。ミオ達はどうした?姿が見当たらないんだが。」
利終の疑問にフブキは答える。
「二人なら食料を取りに行きましたよ。白上は利終君の護衛です」
フブキの答えにそうかと短く答える利終。利終のそんな反応にフブキは少しムッとする。
「利終君って本当にミオのことしか興味ないんですね」
フブキの言葉に利終は否定の言葉を並べる。
「そんなことないだろ。俺は基本的に誰に対してもこうだぞ?」
利終の言葉にフブキはイヤイヤと首を横に振りながら答える。
「ミオの時と白上達の時で全然対応が違いますよ?その証拠に白上のボケは完全にスルーされましたから」
「ボケって何かしてたか?」
フブキの言葉に心当たりがない利終。その利終の反応を見て、フブキはやっぱりという表情で言う。
「ミオがボケたときはすぐ気づくのに、私がボケたときは全然気づかないんですね。すねちゃいますよ」
そう言って顔を背けるフブキ。利終はフブキのとの会話をさかのぼり、なんかボケてたか?と探ってみる。やがてそれらしいものを発見するとフブキに聞いてみる。
「もしかして内装は無いそうですがって言ってたところか?普通に気付かなかったわ」
「人のボケを解説するのはやめてください。羞恥心で死んでしまいます」
いや気づけって言ったのそっちだろと、利終は思ったが、それを口に出すと面倒なことになりそうだと思い、口を紡いだ。
しばらく沈黙の時間が続くと、フブキが唐突に利終に疑問を投げかける。
「ねえ、利終君はミオについて気づいてます?」
フブキの質問の意図が読み取れなかった利終は、フブキに聞き返す。
「気づいてるって何をだ?」
利終の言葉を聞いたフブキは首を横に振りながら答える。
「いや、分からないんならいいんです。忘れてください」
フブキがそう言うならと、利終はフブキの言葉を深く考えないようにする。
利終がふと釣り竿のほうを向くと、釣り竿がピクピクと反応しており、慌てて体制を整える。フブキも利終が急に動き出したのを見て、釣り針の方に目を向ける。
釣り針をかなり大きい魚がつついており、利終とフブキはじっと息をひそめながら、魚が針にかかるのを待つ。
しばらく針をつついていた魚だったが、やがて針に興味を失ったらしく、そのまま泳ぎ去ろうとする。
その様子を見ていた二人はそれぞれ別の行動をとる。
利終は釣り竿を捨て、足を器用に使うことで足元にある矢を、手元に引き寄せ魚に向け投擲し、フブキは利終の矢から作った簡易的な銛を手に取ると、魚に向かってジャンプする。
利終の投擲した矢の驚いた魚は方向転換し、その場から離れようとする。その逃げた方向にフブキが待ち構えており、フブキは銛を構えると魚に向かって突き刺そうとする。
その瞬間、魚が水面から顔を出し、口に含んだ水をフブキの顔面に向けて放つ。
急に顔に水をかけられたフブキは固まり、その隙に魚は湖の中心に向かって逃げてしまった。
利終は固まったままのフブキを見て腹の底からこみあげてくるものがあった。利終は必死にそのこみあげてくるものを抑えようとしたが、フブキが水を滴らせたまま動かないのを見て、耐えきれなくなり、腹を抱えて笑い出す。
固まったままだったフブキは、ジトっとした目を利終に向ける。利終はその目に気づかず、笑い続けている。
「な~んで笑うんですか!」
ぷんすかと、そんな擬音がでそうな怒り方をするフブキ。そんなフブキを見て利終は笑いながら答える。
「悪い悪い。つい。我慢しきれなかった」
「もお~!」
フブキの抗議の声と、利終の笑い声が響く。
「どー?順調?」
フブキと戯れた後、再び釣りを開始した利終。そうしていると戻ってきたスバルが利終に声をかける。
「見ての通り、ボウズだよ」
急に声をかけてきたスバルに少し驚きつつも、今の成果を口にする利終。ちなみにボウズとは釣り用語で何も釣れていないということである。
スバルは利終の返答を聞くと、利終の隣に座ろうとする。それを見た利終は、スバルが座りやすいよう、少し横にずれる。利終が明けた空間にお礼を言いながらスバルは座る。
しばらくの間、波の音だけが二人の間に流れる。
その沈黙を破るようにスバルが利終に声をかける。
「そーいえば、利終君はどうやってミオちゃんと出会ったの?」
スバルの言葉を聞き、利終はミオと出会った時を思い出す。と言ってもまだ一週間くらいしかたっていないが。
「そうだな~。俺とミオが出会ったのは――」
利終はスバルにミオとの出会いと、これまでを話した。スバルは時々相槌を打ちながら最後まで話を聞いていた。
「というのがスバルと合流するまでの流れだな」
最後まで話し終えた利終に、スバルは思い浮かんだ疑問を口にする。
「ふーん。大変だったんだねー。それにしても利終君とミオちゃんってまだ出会ってそんなにたってなかったんだ」
「そうだな。濃い時間が多かったせいか、長い時間一緒にいたかのように思えるけど、まだ10日間くらいしかたってないんだよな~」
そう言いながらミオのほうを見る利終。ミオはフブキと一緒に作りかけの家を見ながら、意見を交換している。その様子を見た利終は、スバルに疑問をぶつける。
「ってそういえばスバルはなんでここにいるんだ?サボりか?」
「ちがうわ!疲れたから休憩してるんだよ!」
そうなのか、と利終は納得する。確かにスバルの身体能力で、ミオやフブキについてくのは無理であるため、スバルが休憩を取っているのは納得がいく。というか、とらなきゃスバルが過労で倒れるのも時間の問題になっていただろう。
休憩なら木陰で休めばいいのに、と利終は思ったが口には出さず、釣り針の方を見る。
釣り針の周りを3匹の魚が泳いでいた。3匹とも釣り針に興味を示しており、時々つつこうとしてやめている。
利終は先ほどの件もあり、慎重に見定める。スバルも気づいたらしく、息をひそめながら場を見守る。やがて一匹が釣り針をつつき始めると、他の2匹も釣り針をつつき始める。
見守り続けること2分、一匹が釣り針に食いつき、利終が持つ竿が大きく引っ張られる。
利終は右手一本で魚との戦いを開始する。釣り竿を起用に右手で引っ張りつつ、全体重をかけ魚を引き上げる。スバルは魚と格闘する利終を見て、能力を使用する。
「頑張れー‼」
スバルのバフがかかった利終と一匹の魚との闘いは1分ほど続いた。魚は力が尽きたのか、徐々に吊り上げられはじめ利終が勝利を確信したその瞬間であった。
同じように釣り針を見守っていた2匹の魚が、仲間を助けようと利終に向かって水鉄砲を放った。利終はありえない光景に驚愕し、水鉄砲を避けようとその場から離れる。その瞬間に火事場の馬鹿力を発揮した魚に竿を持ってかれてしまう。
無事に水を避けることができたが、その代わりに食料を見逃してしまった利終はその場にぽつんと佇む。
スバルも目の前で起きた光景が信じられないのか、利終のほうを見たまま固まる。
しばらく無言の時間が続いた後、利終が呟く。
「なあスバル。ここにいる魚ってホントに魚なのか?」
利終の呟きを拾ったスバルは、その疑問に答える。
「スバルもそう思う。こんな魚いるんだ~」
「無駄に知能が高いのが腹立つけどな。それにしても竿ごと持ってかれたから新しいの作ってもらわねえと」
そう言って頭を掻く利終。そんな利終をスバルはじっと見つめる。その視線に気づいた利終はスバルに言葉をかける。
「ん?どうした?」
利終の声にスバルは答える。
「釣り竿、スバルが作ってあげようか?」
スバルの提案に利終は礼を言いながら答える。
「作ってくれるならありがたい。頼めるか?」
利終の言葉にスバルは笑いながら答える。
「もちろん!スバルの自信作を作ってあげましょう!」
スバルの言葉に頼む、と返す利終。二人は拠点のほうに戻ると、新しい竿作りに取り掛かった。まあ、自信満々に言ってたスバルは作り方がわからず、利終に教えてもらいながらになっていたが・・・。
「どう?釣れそう?」
スバルに新しい釣り竿を作ってもらった後、再び釣りを始めた利終だったが、その利終にミオが声をかける。スバルは休憩が終わったのか、家づくりに戻り、代わりにミオが利終のところまできた。
「釣れねえ。かかりはするんだが、魚が水鉄砲攻撃をしてくるせいで逃げられる」
ミオは利終の隣に座りながら聞く。
「何?その水鉄砲攻撃って」
利終は先ほど見た光景をそのままミオに話す。ついでに、犠牲者第一号のことも教えた。
その話を聞いたミオは、笑いながら答える。
「そうなんだ。ならフブキの二の舞にはならないようにしないとね」
「そうしたほうがいい。風邪ひくとシャレにならないからな」
そう言って笑いあう二人。ひとしきり笑いあった後、利終は拠点の進捗について尋ねる。
「そういえば拠点は?フブキからは、明日か明後日には完成するって聞いたが」
利終の質問にミオは少し考え、答える。
「そおだね。外見だけなら多分明日には完成するよ。内装に関しては、まだ時間がかかるかな」
ミオの言葉に利終は思ったことを口に出す。
「そうか。そういえば内装って何作るかは決めてるのか?」
利終の疑問に対し、ミオは少し考えてから答える。
「とりあえず個室は絶対。その他で言うと台所やお風呂とかかな」
「そうだな。まあ、家具とかは別で作らなきゃいけないけどな。俺の能力が使えれば簡単だったんだが」
利終がそう言うと、ミオは利終を慰めるように言う。
「仕方ないよ。制限付きっていうのをうちだって気づかなかったんだから。でも、利終君の腕はどうにかしないとね」
そう言って利終のなくなった左腕を見るミオ。利終もミオの意見に同意しながら言う。
「そうだな。いつまでもこのままは不便だし。頑張って義手くらいは作らないとな。まあ、俺は作り方なんて一切わからないけどな。ってあれ?」
利終が義手のつくり方について考えようとした時、ふと疑問がわく。そのまま、釣り竿を起用に持ちながら、思考を回す。
唐突に黙り込んだ利終に対し、ミオは心配になって声をかける。
「どおしたの?傷が痛いの?」
ミオの言葉に利終は首を横に振りながら答える。
「いや、別に痛みはない。『何故俺は普通に立って、歩けているのか』という疑問が出ただけだ」
「???」
利終の言いたいことが理解できていないのか、ミオは首を傾げる。利終はそんなミオに説明を加える。
「普通は腕が一本なくなったらバランスが取れなくなるはずだ。腕って確か人体の6%ほどの重みがあるって聞いたことあるから、その分バランスはとれないはずなんだ。片腕をなくした人が、バランスをとれずによくこけるって話くらい聞いたことあるだろ?」
利終の言いたいことを理解したミオは肯定を返す。
「言われてみれば、そおだね。利終君がバランス崩して倒れそうになることもなかったね」
ミオの言葉に頷く利終。利終は再び思考を巡らし、疑問を解こうとする。しばらく考え込んでいた利終だったが、右手に違和感を生じ、現実に戻ってくる。
本日3度目となる魚の捕獲チャンスがやってきた。今回は一匹だけであり、魚は釣り針をつついている。
利終は慎重に構え、ミオは利終の表情をぼーっとしながら見ている。
利終は魚をじっと見つめ、行動を観察する。しばらく、針をつついては離れるという行動を繰り返していた魚だったが、やがてゆっくりと針に近づくと勢いよく針を口に含み、思いっきり引っ張った。
利終は魚の引っ張りに対し全力で対抗する。先ほどとは違い、仲間がいない今なら妨害されずに吊り上げることが出来ると利終は思い、ミオに協力を仰ぐ。
「ミオ!俺の足元にある銛を使ってあの魚を攻撃してくれ!」
ミオは利終の言葉に頷くと、利終の足元にある銛を拾って、魚に攻撃を仕掛ける。魚はミオの接近に気づき、逃走しようとするが利終の釣り針に刺さったままだったため、思うように動きが取れず逃げることができない。
魚が思うように動けないうちにミオは接近すると、思いっきり手に持った銛を魚に向かって突き刺す。ミオの攻撃は見事に命中し、利終達は初のりんご以外の食料を手に入れることに成功した。
「獲ったど~!」
銛の先端に魚を刺したまま、ミオは銛を掲げそう口にする。その光景を見ていた利終はミオにお疲れさん、と声をかける。
ミオは利終に向き直りありがとう、と口にする。二人は戦利品を見せつけるため、フブキたちの元へ向かう。
その晩、利終達は焚火を囲みながら今日の成果を話し合っていた。
「まずスバルから言うね。ミオしゃと一緒にりんごを取りに行った結果なんだけど、かなりの貯蓄ができたと思う。少なくとも3日くらいは取りに行かなくていいかな。獲ったりんごは池に浸けてるよ」
「次は白上の番ですね。家の進捗は順調で明日の昼頃には完成すると思います。ただ、利終君の能力で作った斧ですが、先端が欠けてしまっているので、いつ壊れてもおかしくないです。できることなら新しい斧を作りたいと思ってます」
「次はうちだね。索敵範囲を少し広げてみたんだけど、脅威になりそうな敵は全く見つからなかったよ。森の中にも狼やゴブリンは見当たらなかった。ただ、鹿の群れは見つけたよ。かなり数が多いから狩りの対象にするのはお勧めしないかな」
「最後は俺だな。拠点が完成して生活が安定し始めてからの話にはなるが、ある程度方針を固めた。2か所候補を上げたから多数決で行く場所を決めようと思ってる。まあ、まだ先の話だが心のどっかにとどめてくれると助かる。後、今晩のメニューが増えました」
そう言って利終はミオと獲った魚をみんなに見せる。白上とスバルの二人はりんご以外のものが食べれると聞いて、ガッツポーズをとる。一緒に魚を獲ったミオは、どう調理したほうがいいかな、と思考を巡らせていた。
三人の反応を見た利終は、後ろに隠していた魚を三人に見せつける。
大きさは50㎝程度。見た目はぶりに近く、大きさ的にイナダと思われる。一匹しか獲れなかったが4人で分けるには十分な量だ。最も・・・。
「さて、この中で魚をさばいたことのある人はいるか?」
利終の質問にフブキとスバルの二人は黙る。そんな中、ミオだけは誇らしげに胸を張り、宣言する。
「何を隠そう、うちはお魚くらい捌けるんだよ~」
誇らしげなミオの宣言にお~、と拍手するフブキとスバル。その光景を利終はほっこりしながら見ていた。ちなみにだが、利終も魚を捌けたりする。片方腕がないから今は無理だけが。
ミオは利終からイナダを受け取ると、さっそく作業に取り掛かる。なるべく平らな石をまな板代わりにし、包丁の代わりに利終の矢を使う。表面の鱗を取り、腹を裂き、内臓を取り出したら、頭を落とし、3枚におろしていく。
一通り処理が終わった後、一口サイズの大きさに切り、きれいに洗った窯の中に入れる。
中心にある焚火の上に窯を載せ、焼いていく。ある程度火が通ったら、水海を蒸発させて作った塩を振り、味をつける。
「よし!ブリモドキの塩焼き完成!」
ミオがそう言うと三人は待っていましたと言わんばかりに、食事をする体制をとる。取り分けようにも小皿などはないので、一人一つ利終の矢を持ち、窯の中にあるブリモドキの塩焼きに刺し、口に運んでいく。
一口噛んだ瞬間、甘みのある油が口の中に広がり、いい感じの塩加減が食欲をそそる。久しぶりのりんご以外の料理ということもあって、4人は無言で食べ進める。
5分ほどでブリモドキの塩焼きはなくなり、4人は物足りなさを感じたが、他に食べられるものは、飽きるほど食べたりんごだけだったので、次釣れた時の楽しみにしようと、4人は食事を終わりにする。
食事と報告会が終わり、就寝の時間になった。
焚き火を消さないように、利終は薪を入れ続けていた。あたりは暗く、焚火の明かりだけが視界を確保する。火の番をしている利終の隣でミオは鼻を聞かせながら周囲を警戒する。残ったフブキとスバルの二人は、丸太を切って作った枕を頭に敷きながら、固まって寝ている。
モンスターに寝込みを襲われないよう、対策を話し合った結果、二人一組になって見張りをすることに決まった。今は利終とミオのペアというわけだ。ある程度時間が経ったら、二人を起こして、見張りを交代する。
ペアの組み合わせは基本的にフブキとミオが別になるようにしている。とっさの戦闘になったとき、スバルと利終ではどうしようもないためである。
虫の声も聞こえない静寂に二人の声が響く。
「利終君、腕ってもう痛くないの?」
「痛みは特にない。正直気持ち悪いくらいだ。」
腕を失った人は幻肢痛というのが訪れると聞いたことがある。利終は実際に腕を失うことはなかったため、本当かどうかはわからないが、現時点では特に痛みはない。それどころか、本当に腕を失ったのか疑問に思うレベルで何もない。
「ねえ、利終君。聞きたいことがあるんだけどさ」
ミオがややためらいながら、利終に問いかける。
「この世界について、ある程度予想できてるんだよね?」
ミオの言葉に利終はうなずく。
「うちに教えてくれないかな。あってるかどうかわからなくても、うちは利終君の考えが知りたいから」
利終は一瞬悩んだが、黙っているのも悪い気がしていたので、正直に打ち明けることにした。
「正直合っている自信はない。けど、多分これで合ってると思う」
自分でも矛盾していることを言っていると思いながら、利終は一拍おいてその考えを打ち明ける。
「この世界は仮想世界・・・いわゆる、VRの世界なんじゃないのかって言うのが俺の考えだ」
そう考えればすべてに納得がいくと思いながら、利終は自身の考えをミオに打ち明けた。