「さて・・・とりあえず、動物系の知識は結構たまったな。」
図鑑を閉じながら利終はそう言葉をはく。
一通り、みんなで集めた資料を見た結果、あまりめぼしいものはなかったといえる。
利終が持ってきた歴史書も、歴史書というより評論本のようなものだった。
結局役に立ったといえるのは、フブキが持ってきた生物図鑑・・・面倒だからモンスター図鑑でいいや、そのモンスター図鑑と、利終が持ってきた日記帳くらいなものだ。
日記帳は『黄道』と呼ばれる存在が、この廃墟にやってきて、クリティア王なる人物が何かをしたというところで終わっていた。
目下、最大の目的であった『羊』や『牛』の生息地域が判明したのはよかったが、それよりも大事なものが判明してしまったからだ。
「『ヒーリングクリスタル』や『ポーション』の情報はなかったね。早く利終君のHPを回復させないとなのに・・・。」
利終の残りHPは残り1。これがどのような条件で減るのかは謎だが、早々に解決しないといけない問題なのは明白だろう。
「とりあえず、回復手段を早々に見つけることに異論はないよね?あ、ちなみに利終君に拒否権はないから。ほっといたら危険なことに巻き込まれて、死んじゃいそうだし。」
「なんでや。」
利終は、自分から危険なことに巻き込まれに行ってないぞ、と思っているが、ウルフの群れに関しては、自分から首を突っ込んでいたりする。
利終のツッコミはきれいに流され、3人の話は続く。
「とりあえず、利終君の面倒はミオが見る?白上がやってもいいけど?」
「面倒って、俺は要介護者か?」
「面倒ならミオしゃが見たほうがいいんじゃない?利終君ってば、フブちゃんだと止められなさそうじゃん?」
「俺は狂犬かなんかか?」
「そうだね、うちが利終君を見るから、二人はサポートをお願いしてもいい?」
「いや無視かよ」
もういっそ一人で行動しようかな、と考える利終。ちなみに一人になろうとすると、ミオがどこまでもついてくるため、一人になるのは不可能だったりする。
利終が端っこの方でへのへのもへじを書きながら遊んでいると、いまだに出しっぱなしだったミオのステータスウインドウが目に入る。
状態異常の欄だけしか見ていなかったが、それ以外はどうなっているんだろうと思った利終は、上から順に流し読みしていく。
そして、Unique Abilityの欄で目が止まる。
『Unique Ability』、すなわち『固有能力』と言っていいその欄には、『狼火』という文字が書かれていた。
以前、ミオにも能力があるのではないかという可能性が浮上したが、結局そのままうやむやになってしまい、分からずじまいだったが、ここにきてミオの能力が判明する。
利終は『狼火』の文字をじっと見つめ、詳細を見る。
『「狼火」は、狼族が発現しやすいUnique Abilityであり、赤い炎を出し、自在に操る能力である。また、狐族にも「狐火」と呼ばれる似たような能力が多いが、こちらは青い焔である』
「なるほど、つまりかぶりというわけか」
ふと思ったことをそのまま口に出す利終。
その小さなつぶやきを拾ったミオが、何のこと?と利終に聞き、利終は狼火の説明をみんなにする。
利終の説明を聞いたミオは、少し耳をピクピクと動かした後、試してみる、と言って距離を離す。
「いや~。ミオも白上とおんなじ能力を持っていましたか~。お揃いでうれしいな~♪」
ミオと能力がほとんど一緒だということを知ったフブキは、尻尾を左右に揺らしながらそう言う。
利終はその様子を見て、犬かな、と思うも口には出さず、スバルのほうを見る。
スバルはうれしそうな表情を浮かべているが、その表情に一瞬、影が入ったのを利終は見逃さなかった。
「スバル?」
利終に声をかけられ、ハッとするスバル。何でもない、と言おうとしたが、利終の表情を見て、自分が思ったことを正直に告げる。
「いや~、その、何と言いますか。スバルも一緒がよかったなって思っただけだよ?」
スバルの表情に影を差したその感情は『寂しさ』だろう。友達同士が一緒なのに、自分だけの全く違うことに対して寂しい、と思ったのだろう。
利終はかける言葉が見つからず、スバルの横顔を見ることしかできない。
スバルは自身の頬を両手でたたくと、そのまま何もなかったかのようにふるまい始める。
利終は自身が何か決定的な間違いを犯しているような気になったが、その正体がわかるより前に、突如として、それは訪れる。
「・・・んぁ?」
背後、誰もいないと思われていた隣の部屋から、かすかに物音が聞こえる。
気のせいかと思い、耳をすませば、小さな物音が断続的に聞こえてくる。
物音というより、足音だろうか。何の音だろう、と利終が思っていると、ミオの手から火の手が上がったのが見えた。
「・・・うん!ちょっとなれるまでに時間はかかるかもだけど出来たよ!」
ミオが能力を初めて使った瞬間である。手から火を消し、無邪気に喜ぶミオと、それを祝福する二人。利終は、微笑ましい光景に思わず頬が緩むが、その後に聞こえた、ガタッという確かな音に、一気に警戒心を高める。
先ほどの音は三人にも聞こえていたらしく、三人も音が聞こえた隣の部屋を見る。
「・・・よし、この中でホラーに耐性のあるやつは?」
利終の言葉に全力で首を横に振るミオ。他二人は、そこそこあるらしく平気な顔をしていた。
「OK、ならフブキを先頭に隣の部屋の様子を見に行こう。スバルはミオの面倒を見てくれ。俺はフブキの後ろにつく」
利終の判断に疑問を持ったフブキが問いかける。
「え?白上が先頭なのはかまいませんが、利終君が白上の後ろにつく必要ってあります?」
フブキの言葉に言葉を詰まらせる利終。お分かりかと思うが、利終にホラー体制はない。お化け屋敷などは作りものであると理性が働くので、そこまで怖がることはないのだが、本物やホラーゲームなどはOUTである。
ゲームも作りものじゃないかって?いやまあ確かにそうなんだけど、苦手なものらしいんだから仕方ないやん?
というわけで、利終は一人になる、いや皆から距離を離すことを嫌がった。それと同時に、ミオにだけは情けない姿を見せたくないという気持ちがあるのも事実であり、それゆえの苦渋の判断であった。
ゆえに、フブキの正論に返す言葉がない利終。そんな様子の利終を見て、何かに気づいたらしいスバルが、ポンっと手をたたく。
「あ~なるほど。利終君はそういうの苦手な」
「おいアヒル、それ以上言うんじゃねえぞ⁉」
もはや暴言である。だが、そうしてでもミオにばれたくない利終は必死でスバルの言葉を遮るが、そんな努力はもちろんむなしく終わり・・・。
「利終君・・・。大丈夫、仲間だもんね」
ミオのその言葉で、膝から崩れ落ちる利終。ミオはどちらかというと仲間ができたことや、利終の情けないと思う姿を見て、少しときめいていたのだが、利終にとっては知る由もないことである。
そんな状態の利終を見て、フブキは話題を変えるように咳払いした後、三人に声をかける。
「んん!とにかく、白上が先に行けばいいんですね?言っておきますが、もしもの為に、ある程度距離は開けといてくださいね?」
フブキの言葉に、首を縦に振ることで答える三人。
四人は、フブキを先頭に廊下に出て、隣の部屋に向かう。
「いくよ?」
フブキはそう言うと扉に手をかけ、扉を開こうとする。
ちなみに利終達は、先ほどまで自分たちがいた部屋から、廊下に出たところで固まっている。
その距離約3m。これだとないのと変わんないじゃん、とフブキは思いつつ、扉を開く。
扉を開くと、埃が舞い、少しせき込む。フブキはそのまま、部屋を見渡し、部屋の隅でうずくまっている男性を発見する。自分たち以外にも人がいたことに喜びつつ、家主かもしれないと思い当たり、フブキは謝罪の言葉を並べる。
「ええっと~。ごめんなさい!勝手に家に上がり込んでしまって!その~情報とかが欲しくて、チャイムみたいなのならしても返事がなかったので、てっきり誰もいないのだと・・・。」
フブキの言葉に無反応な男。さすがに違和感を感じたフブキは、その男に近づこうとする。
その瞬間、首の後ろをつかまれ驚いて声を上げてしまう。
「うにゃーーー!!」
「いやどんな驚き方だよ。それより、無警戒に近づくのはよくないだろ」
フブキをつかんだのは利終であった。
利終は入るなりいきなり謝罪を始めたフブキを見て、人がいたことを察した。そのまま、フブキが無警戒に近づこうとしたため、止めに入ったのだ。
フブキは利終が自分の首の後ろをつかんだ犯人だと認識すると、ぷんすか、という擬音が聞こえてきそうな怒り方をする。
「も~!何をするんですか!びっくりしすぎて変な驚き方しちゃったじゃないですか!」
「いやすまん。けど、危ないと思ったからで」
利終がフブキに必死に言い訳をしていると、部屋の隅でうずくまっていた男が急に立ち上がる。
利終は男が立ち上がったことに気づいたが、フブキは言い訳をしようとしている利終に詰め寄っているため、男に気づかない。
利終は、フブキに男が立ち上がっていることを伝えようとし、
男の表情を見た瞬間、フブキを横に突き飛ばす。
フブキは急に利終に突き飛ばされ、そのまま転んでしまう。文句を言おうとしたその瞬間。
「うぁぉぁぉぉ!」
男が利終に飛び掛かり、よけきれなかった利終を押し倒す。
あきらかな異常にフブキは混乱するが、利終はその男の頭を押さえつけながら言う。
「フブキ!こいつを蹴り飛ばせ!」
利終の声に、一瞬我に返ったフブキは、利終の上に覆いかぶさりながら、首に噛みつこうとしている男を蹴り飛ばす。
獣人の力で蹴り飛ばされた男は、そのまま壁に叩き付けられる。普通の人間なら、しばらくの間、動くことはできないだろう。
しかし、その男はゆっくりとした動作で起き上がる。
フブキが、その男の表情を見た瞬間小さな悲鳴を上げそうになる。
男の顔面はえぐれ、眼球は飛び出し、鼻はつぶれ、口はゆがんでいた。
あまりにもグロテスクなその見た目に、一瞬フブキは逃げようとするが、その前に利終の声が響く。
「フブキ!焼け!」
利終の言葉に従い、フブキは手のひらから小さな焔を出すと、そのまま男めがけて放つ。
フブキの焔をくらった男は、あっという間に燃え上がり、灰になる。
今の光景が信じられないフブキは、そのまま硬直するが、利終の声で再び我に返る。
「フブキ!ミオ!スバル!ここは危険だ!外に出るぞ!」
フブキのはなった焔は、男を焼き尽くした後、周りの棚などに引火し、燃え広がっていた。
利終の声をきっかけに、三人は一斉に動き出す。フブキは利終をかばいつつ外に出て、ミオはスバルをかばいながら外に出る。
利終達が家から飛び出した直後、建物が倒壊し始める。
あと少し脱出がおくれていたら巻き込まれていたかもしれない。
しかし、四人にはそんなことを考えている暇はなかった。
外に出た瞬間、利終達の前に広がっていたのは、おびただしい数の敵であった。
先ほどの男と同様、グロテスクな見た目をした彼らは、利終たちの姿を視認した瞬間、一斉に襲い掛かってくる。
「今度はパニックホラーかよ!ゾンビとか出てくるんじゃねえよ⁉」
利終はあんまりな景色に思わずツッコミを入れるが、そのおかげで三人は正気を取り戻し、それぞれ対処を始める。
スバルは利終の前に出て、Unique Abilityである『鼓舞』を使い、ミオとフブキのサポートに徹する。フブキとミオは襲い掛かってくるゾンビの群れに対して、それぞれ能力を使って対処する。
フブキの焔とミオの炎、二つの色の火があまたのゾンビを焼き尽くしていく。
しかし、焼いても焼いても数が減らないゾンビたちを見て、利終は撤退を呼びかける。
「ミオ!フブキ!このままじゃ埒が明かない!いったんここは撤退するぞ!」
利終の言葉にミオとフブキは頷くと、それぞれ大きな火をゾンビの群れにぶつけ、フブキはスバルを、ミオは利終を抱え、ゾンビの群れとは反対方向である廃墟の中心に向かって飛ぶ。
屋根から屋根を飛び移りながら四人は安全な場所を探そうとする。
しかし、そこら中にゾンビがおり、安全そうな場所が見つからない。
そんな時、四人を助ける声が聞こえる。
「お~い。こっちだよこっち~。」
まるで緊張感を感じない間延びした声。
利終は知らない人間の声に警戒するも、フブキやミオはその声の主を信じ、その声の主であろう人物のもとに急ぐ。
かなり高いビルから窓を開け、こちらに向かって手を振る謎の人物。
フブキとミオは空いた窓からビルの中に侵入すると、利終とスバルを下ろす。
ほっと一息をつく三人だったが、利終は一人、声の主に警戒しながら声をかける。
「さっきは危ないところを助けてくれて感謝する。けどあんたは」
そこまで言って、利終は相手の正体に気づく。それと同時に、何故ミオ達が一切警戒心を抱かず安心しているのかも理解した。
「いや~。それはよかった~。みんな無事でよかったよ~。」
紫色の髪に紫色の瞳をした美少女が利終達を出迎える。間延びした声は包容力が高そうなイメージを抱かせ、目に入る情報として最も特徴的なのは、頭に生えてる猫耳だろう。
猫又おかゆ、今利終達を助けてくれた人の名前である。
そして彼女は———。
「おがゆ~!あいたがったよ~!」
スバルが目に涙を浮かべながらおかゆに抱き着く。
おかゆは飛びついてきたスバルをやさしく抱き留めると、よしよしっと頭をなでる。
そう、彼女はミオやフブキ、スバルたちと一緒の事務所に所属している有名人だ。
つまり、他の三人を害する可能性が低い人物であり、利終は肩の力を抜く。
そんな様子の利終と違い、三人は再び会えたことによる感動を共有している。
そんな状態の四人を邪魔する気のなかった利終は、部屋の隅にあった本の山をあさり始める。謎に変な本が多いが、利終はなるべくそれらを視界に入れないようにしながら、いい本がないか探す。
そうしていると、一通り話し終わったのか、おかゆが利終に話しかけてくる。
「それで~、君は誰~?」
あきらかに小さい子を相手にするような態度だったが、利終は特に気にせず自己紹介をする。
「俺は葛音利終っていうもんだ。あと、この姿は俺が作ったアバターの姿だから小さい子とかじゃないぞ」
訂正、気にしてたらしい。
「そうなんだ~。僕の名前は猫又おかゆって言うんだ~。よろしくね~」
利終の挨拶にのんびり返すおかゆ。ここで、フブキが気づいたことを言う。
「そういえば白上達が共通してるのって、スバちゃん以外、ゲーマーズであることですよね~」
ゲーマーズとは、フブキたちが所属している事務所で作られたグループ名のことである。ちなみに大空スバルはゲーマーズではない。
そしてゲーマーズは4人グループであり、フブキが言いたいのは。
「後ころさんだけだね~。ころさんもどこかにいるのかな~?」
「可能性は全然あると思うぞ。まあ、そしたら何故俺がいるって話にはなるが。」
ゲーマーズという話で言うとスバルもそうだが、ホロライブという区切りで分ければ利終こそが異端である。更に言うと、利終は完全にホロライブとは関係ない一般人であり、ホロライブ自体も周りがはしているから知っている程度でしかない。
そこまで考えて利終は一つ聞き忘れていたことを全員に聞く。
「そういえば皆は、ここに来る前の最後の記憶ってなんだ?」
4人は顔を見合わせると、利終の質問に答える。
「うちは配信を終わらせて寝たところが最後かも。」
「白上もそうですね。」
「僕はころさんとお泊りしてたね~。僕も寝て起きたらって感じかな?」
「スバルはサインを永遠と書かされた後、泥のように眠ったよ・・・」
約一名いやなことを思い出したかのようにどんよりし始めたが、利終は完全に無視し話を続ける。
「いや、俺もバイトから帰ってきて寝たのが最後なんだ。全員最後の記憶が寝てるってことは・・・」
そこまで言った利終は一つ、恐ろしい可能性を考えてしまう。
突然青い顔になり、黙り込んだ利終を見て全員が心配した顔で利終に声をかける。
その言葉に利終は大丈夫だと返す。それでも、心配だったミオは利終に問を投げる。
「どおしたの?もしかして何かいやなことでもわかっちゃった?」
ミオの不安そうな声に、利終は少し悩んでから言葉を返す。
「ああ、考えられる限り最悪と言っていい可能性がな。まあでもさすがに杞憂だろう。」
利終はそう言って言葉を切る。
その様子から利終が話したがらないほどのものだと察したミオは、切り替えるようにみんなに声をかける。
「さて!ここでこんなくらい話してても仕方ないし、出来ることをしよっか」
ミオの言葉に全員が同意する。
「そうだね。ここで話してても意味がないし、何か行動を起こさないと」
フブキがそう言うと、利終はおかゆに質問をする。
「なあ、猫又さん。ここって図書室みたいな場所あるのか?」
利終の質問に、おかゆは少し言いにくそうな表情を浮かべる。
その様子を見て、ないのかな、っと利終が思った瞬間、おかゆが口を開く。
「あることにはあるんだけど~。そのある場所に、さっきのゾンビがたくさんいてね~。あんまりお勧めしないよ~?」
「おかゆん。そのたくさんって、具体的にはどのくらいかわかる?」
おかゆの言葉にフブキが思ったことを聞く。おかゆは少し考えた後、フブキの質問に答える。
「そおだね~。10~20匹くらいかな?正確な数はわからないけど、そのくらいかな~」
おかゆの言葉に、少し考えた後、フブキは四人に考えを明かす。
「ねえ、そのくらいの数だったら、フブキたちでどうにかできそうですよね?掃討した後に本を探すっていうのはどうでしょう?」
「ちょっ!!フブキちゃん!?」
おかゆが驚きフブキに問い返す。
フブキの考えを聞いたおかゆ以外の三人は同意を返す。
「そおだね。確かに今のうちとフブキだったら問題なく倒せるかもね」
「そしたらスバルが後方支援だね。ついでに利終君の安全も確保しとくよ」
まあ、あいつら力は強かったけど二人ほどじゃなかったしな。動きも遅いし、問題なく行けると思う。だが能力の使用は禁止だぞ?」
三人の考えを聞いたおかゆは、信じられないという表情をする。
そこで利終はおかゆが気づいていないことを教える。
「もしかして獣人の二人がすごい身体能力持っているって知らないのか?ほら、さっきも屋根の上とか飛んでただろ?」
利終の言葉に思い出したおかゆが、納得の声を上げる。
「ああ~、確かに~。でも獣人ってことは僕もそうなのかな~?」
どうやらおかゆは自身の能力を把握していないらしい。まあ、周りの状態を見るに、最初からここにいたとしたら、知らないのも無理がないかもしれないが。
おかゆの疑問に、利終が答える。
「確認してみよか?多分猫又さんも能力持ってるだろうし、ちょうどいいだろ」
利終はそう言うと、おかゆのほうを向いたまま、小さくつぶやく。
「『ステータス看破』」
利終の前にちいさなウインドウが現れる。
おかゆはびっくりしているが、利終はそんな様子のおかゆを無視し、ステータスを見る。
やや低いところもあるが、基本的にはフブキやミオと似たようなステータスであることから、おかゆも獣人の身体能力を持っていることを確信する。
更に、その下にあるUnique Abilityの欄を見ると、『鎌鼬』と書いてあり、利終には読めなかった。
「鎌・・・なんだこの文字?鼠?じゃねえよな」
利終が全員にこんな文字、っと空中に書いてみるとわかったらしいミオが答える。
「多分だけどイタチじゃない?つまり『かまいたち』ってこと」
ミオの言葉に利終は納得の表情を浮かべる。
鎌鼬とは日本の妖怪の一種であり、つむじ風などに乗って人を切りつけるイタチの妖怪だ。
ゲームでは風による斬撃系の攻撃として有名である。
おそらくおかゆの能力は後者であろう。
利終がおかゆに能力の説明をすると、おかゆはさっそく壁に向かって試してみる。
「『鎌鼬』」
おかゆがそう言うと、壁に無数の切り傷が生まれる。
その様子を見た利終は、あ、っと声を上げる。
いきなり声を出した利終を不思議そうな目で見ながらフブキが聞く。
「あ、ってどうしたんです?何か思いつきました?」
フブキの疑問に対し、利終は答える。
「いや、たいしたことじゃないんだが、あの変異種のウルフが使ってた攻撃って鎌鼬だったんだなって思っただけだ」
利終からしたら、自分の左腕を切り飛ばしたトラウマ級の技だ。故に、一瞬で分かったのだが、ミオとフブキの二人は言われてから気づいたらしい。
「つまり、猫又さんの能力である鎌鼬の威力は人の腕を細切れにできるくらいってことになるな」
利終の言葉に、事情を知らないおかゆとスバルが首を傾げる。
そんな様子の二人に、ミオはこれまでを話す。
スバルは納得の声を上げ、おかゆは少し複雑そうな表情になる。
「ん~?つまり僕の能力は利終君の左腕を切り飛ばしたやつと一緒ってこと~?それはちょっと複雑だな~」
会ったばかりとはいえ、知人の腕を切り飛ばしたやつと一緒と聞いていい気分になる人はいない。
これは失言だったかな、っと利終が思っているとフブキがいいこと思いついたという表情でみんなに考えを言う。
「あ!でもおかゆんの能力だったら本とか燃やさないし、敵も遠くから狙えるから安全に倒せるよね!」
フブキの発言に確かに、っと考える四人。この先、能力を使った戦いというのは増えてくるだろう。その為にも、今のうちにたくさん練習をしたほうがいいのが事実である。
的が少々人間らしすぎるとは思うが・・・致し方あるまい。
と、そんな説明をフブキがおかゆにする。おかゆはフブキの言葉に納得し、おかゆの初陣はここに決定した。
利終とミオの二人は、バリケードを超え図書室へと向かう三人を見送る。
話し合った結果、現状最高戦力であるフブキとサポート役のスバル、そして初陣のおかゆの三人で図書室に向かうことになった。
利終はHP1のため、安全地帯であるバリケード内から出ることを禁じられた。さらに一人では何をしでかすかわからないという全員共通の認識(おかゆは完全にノリだったが)により、ミオが監視役として付くことになった。
俺はできの悪い子供か、と利終は思ったが、帰ってくる回答は簡単に予想できたため、口には出さないで置いた。
利終とミオの二人はバリケード内に何かないかと探索する。
おかゆがある程度探索していたらしいが、見落としがあるかもしれない。
二人は会話もそこそこに、探索に集中する。
埃をかぶっているところも多く、苦戦しながら二人は探索を続ける。
「お、この鍋は使えるな。多少汚いが洗えば全然いける。」
「こっちには包丁だよ!刃が荒いから、研がないと使えないけど。」
おかゆはいいものはないと言っていたが、これだけあればサバイバル生活には十分だ。特に包丁は調理道具にも武器にもなる万能道具と言っても過言ではない。
二人はアレもいい、コレもいい、と言いあいながら、使えそうなものを集めていく。
しばらく時間が経ち、だいぶ物が集まってきたとき、ミオが唐突に口を開く。
「ねえ、さっき言ってた最悪の可能性って何なのか聞いてもいい?」
利終はミオの急な言葉に少し驚く。
利終は、少し考えてからミオの疑問に答える。
「先に言っとくがあくまで可能性だ。合っているかもしれないが、合っていないかもしれない。」
ミオは利終の言葉に頷きを返しながら先を促す。
「俺が考えた可能性っていうのは記憶を消されたんじゃないかってことだ。」
利終が考えた可能性、それは全員の記憶が消されているのではないかということだ。
ミオは利終のその言葉を聞いてなるほど、と納得する。
「確かにね。皆、寝て起きたらって言ってたから、起きてからここに来るまでの間の記憶が消されたと考えれば辻褄が合うのか~。でも、それってそんなに最悪っていうほどのものなの?」
ミオの疑問は最もである。
確かに、記憶が消されましたというのは怖いものだ。もし、消されすぎたら自分というものがなくなるかもしれない。だが、ここにいる利終達はちゃんと過去を覚えているし、顔面が蒼白になるものではないだろう。
「あ!もしかして、元の世界に戻ったら、ここでのことは忘れちゃうかもしれないってこと!?」
ミオが思いついたかのように言う。
確かに自由に記憶を消せるとなると、ここでの記憶を消されてしまうかもしれない。
それは嫌だな、っと考えるミオに、利終は静かに首を横に振る。
ミオが首を傾げていると、利終は静かに口を開く。
「確かにそれも嫌だがそうじゃない。俺が最も考えている最悪の可能性は———」
利終はそこで一呼吸置いた後、最悪の可能性を口に出す。
「記憶を消す以外のこと・・・つまり、記憶の操作そのものができるっていう可能性だ」
利終の言うことを理解したミオも顔を青くする。
信用するということは簡単に見えて難しい。
しかし、人は時間をかけてその信用を積み重ねていく。
自分の視点で、主観的な考えで、相手を、知識を、組織を信用する。
だが、もし、そこにいる自分すらも偽物であるとしたのなら———
果たして、一体人は何を信じれるというのだろう