シンデレラダービー 〜にゅーじぇねれーしょん〜 作:電動ガン
私が、この世界に生まれてから早、10数年。どうやら私はウマ娘というらしい。ここでみんなにこっそり教えておこうと思う。私は前世の記憶がある。前世は輝かしいアイドルで。自分は天寿を全うして眠りに着いた筈なのだ。それが気がつけばおぎゃあと声をあげていて。それが今世では・・・
「ブルー!早く起きなさい!」
「はぁい・・・」
ブルーと呼ばれた私は・・・ナリタブルーライト。ウマ娘の名門・・・なのだがその分家も分家。前世と同じ花屋の娘として生まれた。私は渋谷凛。今世ではナリタブルーライトとして生まれた、普通の女の子である。
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
晩御飯中。ウマ娘の体はたくさんのご飯を求めるようで、もりもりとご飯を食べていたらお母さんに受験の話を切り出された。
「え?受験?」
「そうよ。どこにするか決めた?」
「うーん・・・」
例えウマ娘だろうと逃れられない運命。それは学業だ。今世で私の家は割と裕福らしく、選択肢はたくさん与えられた。まぁ勉強も頑張ってるしね。走りはそんなに興味無いけど。
「普通に公立受けるよ。」
「あらそうなの?」
「ブルー。」
「何?お父さん。」
「トレセン学園を受けてみないか?」
「ええ・・・」
トレセン学園。府中トレーニングセンター学園だ。中央とも言う。レース専科がある学校でトゥインクルシリーズというレースを走る為の学校。名前くらいは聞いた事はあるがそれくらいしか知らない。お父さん?
「ブルー、お前はウマ娘だ。今までブルーは走る事に興味を抱かなかった。ここで一回、走るのに向き合ってみたらどうだ。うちは分家だが名門ナリタ家だ。」
「でも・・・トレセン学園って学費が大変だって・・・」
「子供のブルーがそんなことを気にする必要は無い。どうだ?」
「うぅーん・・・」
ぶっちゃけ私は走るのには本当に興味は無いのだ。だけどこのウマ娘の体は強い。私は公立中学に通いながらアイドルの養成所に通おうと思ってた。アイドルは楽しかった。ならばそれを今世でもと思った。
「私、養成所に通おうと思ってたんだけど・・・」
「アイドルだろ?ならばウイニングライブで良いじゃないか。」
「うーん・・・」
ウイニングライブ。レースで1着がセンターを務める、観客とレースの感謝を分ち合うライブ。正直、結構な負けず嫌いだと自負している私は、自分よりライブの実力の劣る子にセンターを任せるのを許容出来るか?という思いもある。これでも小学校に上がった頃からダンス、ビジュアル、ボイスとトレーニングを重ねてきた。・・・そうか。このトレーニングはウイニングライブに活かせるかもしれない。
「・・・わかった。でも落ちても何も言わないでよね。」
「ああ。それは大丈夫。ブルーなら合格間違い無しだと思うからな。」
「そうね。ブルーなら問題無いわ。」
「ええ・・・」
こうして私のトレセン受験が始まった。
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
受験すると決めて・・・受験まであと半年。何が不安かと言ったらやっぱり走りだ。今までダンスレッスンは受けても走りのトレーニングはしてこなかった。ウマ娘にはバ場の得意不得意と距離の適性と、作戦の良し悪しがあるらしい。私はさっぱりわからない。小学校の図書館で上手に走る本というタイトルの本を読んでみたが・・・わからない。どうやら本に寄ると自分の得意不得意は自然にわかるというものだった。そんなのわからない。そして重要なのがウマ娘の本格化と呼ばれるものだった。本格化は10代前半に始まり、遅くても10代後半までに起こるものらしい。本格化が始まると、身長がグンっと伸びたり、体型が走るのに最適化されたりいろいろあるらしい。私の身長は152センチ。前世では160超えだったのだ。普通に成長してそこまでなるのか。本格化でそこまでなるのか不明だが・・・私はまだ本格化は来てないらしい。いや、何もわからないんだけど。
「ふぅ・・・」
本をパタンと閉じて、棚に戻す。何もわからなかったな。
「今日は放課後市民コースに行ってみようかな。」
うんそうしよう。まずは走ってみないと。自分の得意不得意なんかも判明させないといけない。そうだランニング倶楽部とかに通うのも考えよう。確か近場のは・・・ビクトリー倶楽部だったかな。まぁいいや。
⏰
学校が終わってまっすぐ家に帰り、お父さんに買ってもらった青い・・・いや蒼いジャージとシューズに身を包んだ。早速カバンを持って走りに行こう!
「あ、ブルー、ちょっと待って。」
「何?お母さん。」
「これお小遣いね。」
「え?」
「飲み物買ったり、必要でしょ?」
「あ、うん。」
「じゃあいってらっしゃい。車に気をつけるのよ。ウマ娘レーンは走っちゃダメよ。」
「わかった。」
こうして走りに繰り出した。市民コースは人に溢れて・・・なんてことはない。ぼちぼちウマ娘が走っているくらいで。十分走れそう。
「よし。準備運動して・・・」
いっちにと準備運動してると視線を感じた。誰か・・・いやなんかおじさんに見られてる。黄色いシャツと黒いベストを着たおじさん。・・・通報した方が良いかな。
「まぁいっか。」
準備運動して軽く走る。一周800メートルだったかな。長いのか短いのかはわからない。でもちょっと長いかな。
「ふぅ・・・はぁ・・・」
「・・・。」
やっぱりあのおじさん見てる。通報?
「まぁ・・・いっか。」
私は走り始めた。
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
コースを本気で何周かした。タイムは・・・わかんない。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
つ、疲れた。たった数周しかしてないのに。近くの自販機でジュースを買って飲む。美味しい。
「ふぅ。」
「よう。」
「えっ。」
見るとさっきのおじさんが近くで見てた。ニヤニヤしてて・・・怪しい。
「おじさん誰。」
「俺か?俺は沖野。中央のトレーナーだよ。」
「トレーナー・・・?」
怪しい・・・テレビのニュースでもトレーナーだって嘘を言って騙されるウマ娘がいるって言ってた。この怪しいおじさん・・・通報した方が良いかな。
「あ、ちょ、ちょっと待て。本物、本物だから。」
「嘘。悪い人はすぐそういう。」
「嘘じゃない。ほらトレーナーライセンスとトレーナーバッチ。」
「・・・。」
そう言って見せてくれた免許証みたいなのは・・・中央トレーナーライセンス、沖野・・・名前は何て読むんだろう。まぁいいか。
「信じてくれた?」
「とりあえず信じてあげる。」
「ほっ・・・まぁ話かけた理由なんだが。」
「なに?中央のトレーナーって暇なの?」
「暇じゃない・・・今も勝手に走って行った担当を探してる・・・」
「じゃあ探せば良いじゃん。」
「いや、それもそうなんだが・・・」
なんだか沖野っていうおじさんはもじもじしてる。なんなんだろう。
「なぁ君、名前は?」
「ナリタブルーライト。」
「そうか、話かけた理由はな?君が随分と走りづらそうな走りをしていたからなんだ。」
「走りづらそうな走り?」
「ああ。なんて言うんだろうな・・・何というか、ギクシャクしてるというか。もじもじしてるというか・・・」
「よくわかんない。やっぱり通報する?」
「勘弁してくれ・・・そうだ。あれだ。ウマ娘の走りを知らない感じだ。」
「ウマ娘の走りを知らない感じ?」
「ああ。ウマ娘なのにまるでヒト・・・そうヒトみたいな走り方をしてる。」
「・・・?」
「ああ・・・だからな?ちょっとアドバイスしようと思ってな?」
「・・・。」
「そう。だから今だけ俺が君のトレーナーだ。」
ふーん。トレーナーか・・・トレセン学園に入学する為にも走りは洗練した方がいいし。本物の中央トレーナーっぽいし。悪くないんじゃない?
「ふーん・・・あんたが私のトレーナー?・・・まぁ悪くないかな。」
「はは・・・まぁいっちょやってみるか。」
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「見ろ!大分良くなったぞ!フォームを改善する前と比べたら6秒もタイムが縮んだ!」
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
キッツ!!!タイムが良くなったとかいってるけどやってる事はスパルタもスパルタ。小学生相手にやる事じゃないよ!!!
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「だ、大丈夫か?」
「大丈夫・・・」
残ってたジュースを一気飲みして息を整える。ああ・・・トレーニングってこんなキツいんだ・・・トレセン行けるか不安になってきた。
「ふむ・・・ふむ・・・ちょっと脚触るぞ。」
「変態!」
「ちょ、声が大きい!」
「脚触りたいだけでしょ!」
「いや、もう結構走ったから脚の状態を見たくて・・・ほんとだぞ?やましい気持ちはない!担当にもやってるし。」
「・・・ほんと?」
「ほんとほんと。」
「むぅ・・・じゃあいいよ。」
「おう。」
むにむにと脚を触られる。お父さんにも触られた事無いのに・・・知らないおじさんに触られるのはなんか不思議な感じ。
「んっ・・・」
「どうした?どっか痛かったか?」
「ん・・・大丈夫。くすぐったかっただけ。」
「そうか。うーんトモは痩せすぎ・・・いや、これからか・・・?」
「・・・。」
むにむにむにむに。おじさんはどんどん脚を触っていく。触りすぎでは・・・?
「うーん・・・脚質は差し・・・かな・・・?いやこの筋肉の付き方は・・・」
むにむにむにむにむにむにむにむに。いや・・・ちょ・・・触りすぎなのでは!?
「コラーーーーーーーーー!!!!!!!」
「ゴボハァ!!!」
やめてと言おうとしたらおじさんが急に吹き飛んで行った。何事?
「アンタ!!!着いて来ないと思ったらこんなところで油売ってた挙句小さい子に手出してんじゃないわよ!!!」
「うご・・・うご・・・」
「貴方大丈夫!?嫌な事されてない!?」
「あ、いや・・・大丈夫です。」
「良かった・・・今度こんな事あったらすぐ大きな声あげて助けを求めるのよ。いいわね?」
おじさんを蹴り飛ばしたデカいツインテにティアラを被ったやたらと分厚いお姉さんは優しく私にそう言った。次は通報しよう。
「アタシはダイワスカーレット。貴方名前は?」
「ナリタブルーライトです。」
「かっこいい名前ね。覚えておくわ。何してたの?」
「えっと走りをおそわってました。」
「そうなの。コイツは変態だけど腕は確かよ。良かったわね。」
「は、はぁ・・・」
「ほらいつまで寝てんのよ!!!行くわよ!!!」
「いててて・・・スカーレット・・・いろいろ剥がれてるぞ・・・」
「自分のトレーナーが小学生に手を出してたらいろいろ剥がれるわよ!!!!」
「ぐぬぬ・・・あ、ブルー、今日はたっぷり走ったからもう走るのはやめとけ。休むのもトレーニングだぞ。」
「あ、はい。」
「じゃあね!」
そうして2人は去っていった。今日は激動の一日だった。でも今日教わった事はトレーニングに活かせるだろう。思わぬ収穫だ。
「・・・よし。」
休むのもトレーニングだって言われたし。帰ろう。今日の晩御飯なんだろう。あ、そういえばあのおじさんブルーって呼び捨てにしてた。許可してないのに。