逆転世界はもうどうしようもない 作:あああああ
スクリータを襲いそうになってから二日。
自室から出るのを必要最低限にすることで極力異性と接触しないようにして何とか耐えていた。
それでも頭の中はどんどんおかしくなっていく。
昨日はセルウィタにご飯を運んでもらったが、あの胸は目に毒だ。
今日はドア越しの声に否定を返したため空きっ腹を抱えることになった。
更には、頭の中がいっぱいいっぱいで眠れていない。
三大欲求すべてが欲求不満だ。
どうしようもない。
クソッ、どうして俺がこんな目に遭わなければならない。ただ運が悪かったというだけで、どうしてこんな目に。
深く溜息を吐く。
もう、悪態をついて誤魔化すのも限界だ。
誰かを選ぶしかない。
どれだけ逃げたって結局解決するには発散させるしかないんだ。
「……それにしたって、選びたくないな」
最悪、もういいとしよう。
中途半端な仲のままそういう関係を持つことをいいとしよう。
俺に選ばせないでくれよ。
妥協する相手を選ぶのは、そいつをファトゥスの次にどうでもいい相手だと認めるみたいで嫌なんだ。
これを機会として恋人関係になる相手を一人選ぶというのも考えた。
今回選ぶ相手とはこの先何度も頼ることになるだろう。
それならいっそのこと恋人にしたい相手を選べば、選ぶことに罪悪感は生まれない。
誰も不幸にならず、俺は責任を取る。
それだけでいい。
だが、処理してくれるからと言って恋人になって、それは果たして都合よく相手を使うのと何が違う?
関係が進むのは許容できるとしよう。
だが、道具として見ることだけは絶対に嫌だ。
付け加えると、どうでもいいことだが、俺は一応恋人いない歴イコール年齢なわけで。
恋人にはもう少し夢を見たいというのが本音だ。
すべて何度も考えたことだ。
ぐるぐると回り続けて答えに辿り着かない。
どうすればいいのか分からない。
――俺一人では。
「それで、僕を呼んだの?」
リアは複雑そうな顔をしていた。
嬉しさと呆れが同居しているような。
俺はベッドに腰掛け、椅子に座るよう促す。
「相談しようと思ってくれたのは嬉しいよ。すごく嬉しい。でも僕が誘惑するとか考えなかったの?」
「リアがそんなことするわけないだろ」
「いや、だからさ」
「これは信頼だ。リアはそういう衝動に負けて信用を損なうようなことはしない。違うか?」
「……あってる」
リアに性欲があったとしても、これまで全くの無害だった事実は覆らない。
自制心があるなら劣情があろうと構わない。
これは別に舐めてるわけじゃない。
「じゃあ、本題の結論から言うけど、いい?」
「言ってくれ」
「適当に選べばいいと思うよ」
「……続けろよ」
「だって関係が進まされたっていいんでしょ? 問題になってるのは、どんな理由で誰を選んでも納得できないこと。それなら理由なんて失くせばいいんだよ」
随分強引な考え方だ。
「選び方すら選べないギルにはこれしかないでしょ」
「ぐぬぬっ……なら、俺の納得を考えない最適解は誰だと思う?」
「強いて言うなら、この先長い付き合いになって、そういう関係になっても以前までと変わらずいてくれる――僕とか?」
「間違ってないのが腹立つ」
「これからもよろしくね」
限りなく正しい自己評価だろう。
ティアやルナは接し方が変わる未来しか見えない。
特にあのなんちゃってお嬢様を調子に乗らせるとロクなことがない。
「スクリータとかキサラのことは考えた?」
「まあ、それなりに」
「聞かせてよ」
「……スクリータとは進めないんだ。俺があいつを放り出した結果、変な部分が捩れて戻らなくなってる。それを何とかするまではあいつに向き合えない、と勝手に思ってる」
「ギルを襲った人を殺しちゃった、ってやつだっけ。僕は別に捩れてないしそんなものだと思うけど」
それはリアが元々イカれてるからな。
「キサラはスクリータ以上に危うい。世間知らずとは違うのかもしれないが、俺以外を考えられていないと言うか……」
「選んでくれた結果じゃないと嫌ってこと?」
「いや、それは……そうなのかもしれない。俺を選んでくれたわけじゃなくて、逃げ場が俺にしかなかったように、そう見えるんだ」
「ギルってば理想高いよね。悪い意味じゃなくてさ。まあ良い意味でもないけど」
もっと他を見る余裕があれば違ってくるのかもしれないと思えてしまった。
あいつは一番近い
司教様くらいに進退窮まってるわけでもないなら、何年にも渡って俺に懸想せずともいいだろうに、と思ってしまう。
「ギルはもっと自分の言動の重さを考えた方がいいと思うよ」
「取るに足らない雑談が人の人生を左右するなんて誰が予想できるんだよ」
「うーん。たとえばだけど、最近のルナは身長伸びないように祈ってるんだよ? ギルと触れ合っていたいからって」
「それを聞かされて俺はどうすればいいの?」
「身長関係なく抱きしめるよって示せばいいんだよ。ほら」
やめろ、ハグを待つな。
今の俺は飛び込むかも分からん。
「ティアがダサい服買ってたのってギルのせいでしょ?」
「かわいかったよ」
「……うん、まあ、かわいかったけど。そう言われて分かりやすく喜んでたのも含めて」
あのダサTをまさか本気で買うとは。
ちょっと愛おしいくらいにかわいかった。
「ギルベリタは暇があるとすぐ指輪に頬擦りしてるし」
「俺の妹は最高に愛らしいだろう?」
「薬指にブツブツ語りかけてるのは怖くない?」
「……確かにそうだな」
気に入っているなら何よりではある。
それ以上のコメントは差し控えさせていただく。
妹を悪く言いたくないので。
「司教様は、司教様自身が大概だからいっか。結構な確率でギルは被害者でしかないし」
「分かってくれているようでよかった」
あの人に関して責められる謂れはない。
割と色んな意味で司教様は災害だ。
「分かった? ギルの些細な言葉がみんなに大きな影響を与えるんだよ。一人を除いて」
「言われてみれば、そうなのかもしれないな。一人を除いて」
あの人は俺の話聞いてないから。
卑猥な言葉や話題にしか反応できない耳を持ってるから。
「司教様はアレだけど、みんなギルに少なからず振り回されてるんだよ。キサラたち三人がギルを攫ったのだってそれのせいだし。もっと責任を持って欲しい」
「そうは言ったって……」
俺のためだからって軟禁に突っ走る三人をどうしろと。
「ほら、リーダーとして振り回されて奔走してる僕にかける言葉はないの?」
「はいはい、よくやってるよ」
「……体で労ってくれてもいいよ?」
思わずリアを見つめる。
「なんてね。ギルが選ぶことの責任を嫌がるなら、仕方ない。僕が背負ってあげるよ。僕がギルを誘って、そのせいにすればいい」
立ち上がる。
そして、俺の方に、ベッドに向かって、一歩。
「悪いようにはならないよ。僕が責任を持って、そうするから。全部委ねてくれていい。それが助けるってことだからさ」
「ダメだ。それは、リアに悪い」
「好きな人と仮初にでも結ばれるんだから、僕は、ごめんね、すごく嬉しいし、幸せだよ」
俺がスクリータを押し倒したのと反対に、今度は俺がそうされる番だった。
「あと――好きな人が目の前で発情してるのって、それなのにずっとただ話すだけって、つらくて。これだけ耐えてくれた僕の自制心を褒めて欲しいくらい」
「……これしかないのか?」
「もう、大丈夫。ギルはもう、充分苦しんだから。あとは僕に任せて」
誰かを選ぶしかない。
誰を選んだって正解じゃない。
それなら――って、そんな決め方でリアを選びたくはなかったのにな。
「ねえ、ギル。キスしていい?」
「好きにしろよ」
赤い顔が近付いて、リアの腕が俺の顔の横でベッドに沈む。
後悔と興奮が掻き混ぜられる。
残ったのは快楽だけだ。
「ファトゥスとは?」
「してない」
「そっか。じゃあ、これが初めてだったんだ?」
リアがより一層顔を赤くして、俺の顔に手を添える。
「全部僕のせいにしてくれていいからね」
「ああ、分かってる」
「好きだよ、ギル」
リアの言葉を聞いて、また唇が溶けるように重なって。
これで良かったじゃないかと言うピンク色の欲望が心に巣食っていて。
俺は何も言い返せないまま、リアを受け入れた。
名前:ヴァレリア(Valeria)
所属:『涙残月輝』のリーダー
適性:『期待』『恐怖』
出身:東方領
詳細:
ポジティブな感情を生み出す外向的性格だが、本質的には『不安』を抱える。扱えない魔法適性は『信頼』『安心』『憤怒』『悲哀』『嫌悪』『驚愕』の順に高い。
とある辺境の村で生まれ、まともな教育を受けていないため常識やマナーなどから最も遠い。師匠と呼ぶ何者かによって吹き込まれた冒険者についての話が世界を形作り、それ以外を見ようとしない。
剣技は中の上だが一定のダメージを受けると捨て身になり、技が冴える上痛みに怯まなくなる。
四則演算が覚束ないバカなので風邪を引いたことがない。
特記:
冒険譚のイメージに従い、「仲間は大切にする」「敵は殺す」「命は他人のために使う」というような信条を幾つも抱えているが、それ以外のルールには全く縛られていない。
善悪に関する倫理規範も持たず、許されるならば強盗や殺人を平気で行う。
ファトゥスを除くパーティーメンバー以外がギルに近付くたびそこそこイライラしているものの、表には出さない。
リアの性質を完全に把握しているのはティアだけであり、今日もなんちゃってお嬢様の胃は荒れる。