逆転世界はもうどうしようもない 作:あああああ
ティアの過去を知り、冒険から帰った。
無傷で大型魔獣を討伐したことで昇級することになったらしく、俺が贔屓している旅籠屋の一室を借りて乾杯する。
アルコールの味を楽しみつつ、買ってきたものや旅籠屋の主人に作ってもらった料理に舌鼓を打つ。
俺は往路で身の上話をした。
そしてティアにも話してもらった。
それからというもの、俺はもっとこのパーティーについて知ってもいいんじゃないかと思い始めた。
入った当初は当然のことながら三人を信頼していなかったし、パーティーというものをビジネスな付き合いだと考えていた。
だがそんな考えを持っていた、四人の中で一番遅く加入した俺も、今やメンバーの一人として馴染んでいる。
ギルドの職員から「あの負傷ばかりの問題パーティーにサークルクラッシャーが!?」とか噂されていたのも昔の話だ。
パーティーの諸々についてもっと知りたいと思うのも当然だろう。
ということで、目下一番興味がそそられるのは。
「なあ、『恋愛クソ喰らえパーティー』って名前はどうして生まれたんだ?」
俺の言葉に、リアとティアが顔を見合わせた。
「ギル。死にたくなければ手を引くことよ」
「そうそう、このパーティーの闇は怖いよ?」
「俺ってもしかしてまだあんまり受け入れられてなかったりする?」
思ってたより拒絶が強くて泣きそうだ。
俺だって頑張ってるんだぞ。
「僕はそんなことはないと思うんだけど、ルナはどう思う?」
「ひゃい!? い、いえ、私も、そう思いますよ」
「じゃあ言っていいんだ」
「ダメです!」
どうやらルナに何か事情があるらしい。
リアの口ぶりを見る限りでは大したものではないようだが、本人がこうまで拒んでいるなら詮索しない方がいいだろう。
「別にもうよくない?」
「よくありません! もう、ギルさん、どうしてそんなことが知りたいと思ったんですか!」
「いやなに、俺もそろそろ馴染んできたし、このパーティーのことが知りたくてさ」
「ほら、ギルもこう言ってることだし」
「む、むむむむぅ……!」
目に涙を湛えながらぷるぷる震えるルナ。
リアはからかうような笑みを浮かべ、ティアは無関係を決め込んでいる。
「ティアさん! 援護してください!」
「嫌よ。あたしからギルに伝えない代わり、あなたの援護もしないことにしてるの。首を突っ込む気はないわ」
「……貧乳石頭」
「分かったわ、喧嘩しましょうか」
ティアの胸元に膨らみはない。
控えめながらも主張があるルナや、少し大きめなリアと違って、ティアの胸元に膨らみはない。
ちなみに成長性もない。
「何よ、ギル。どこ見てんのよ」
「見つけられない起伏をどうやって見るんですか?」
「表出なさい」
ティアとルナがぼこすかと戦い始めた。
武器を持ちだしていないあたり、しっかりと理性は残っている、はずだ。
顔面を殴り合っているように見えるし、俺が間に入れば一秒と生き残れないだろうが、まだ手加減している、はずだ。
「僕から話そうか?」
隙を見計らったリアにそう提案されたが、断った。
ルナから聞くことにする。
そう答えると、リアはそっかと言って笑った。
「べーつに胸の大きさなんてどうでもいいじゃないのよぅ……」
「見事に酔いつぶれてるね。じゃあティアは僕が持って帰るから」
「頼んだ」
「ルナはギルが送ってあげてね」
「私はそんな、大丈夫です」
「結構飲んでただろう。足元フラフラになってるし、送るよ」
俺はそこそこアルコールに強く、その上飲みすぎないよう注意して飲んでいる。
絶対に持ち帰られないためだ。
朝起きたら見知らぬ誰かとベッドの中なんてトラウマとかいうレベルじゃない。
「そんなこと、ありません!」
「ほら、危ないだろう」
「むぅ〜……」
千鳥足でなんとかバランスを取ろうとしているルナの手を取り、引いてやる。
自覚していたのだろう。頬を膨らませながらも身を任せてくれた。
夜の街を歩く。
歓楽街の方がやけに明るい。
「嘘は、お嫌いですか?」
ふいにそんなことを言った。
俺は真意を測りかねて、しかしルナは懇切丁寧に説明する気がないようだった。
少し考え、返答する。
「人間の基本感情には、『憤怒』や『嫌悪』、『恐怖』がある」
六つ基本感情があるという説なら『幸福』と『悲哀』と『驚愕』が加えられるが、それはさておき。
「怒りで我を忘れることがある。嫌悪で人を傷つけることがある。恐怖で押し潰されそうになることがある」
それなら、その感情は嫌いか?
そう聞かれたなら俺は迷いなく答えるだろう。
「全部大切な感情だ。メア様よりいただいた俺としての構成要素を嫌悪するわけがない」
敬虔な信徒ではなくとも、神学をかじり、魔法を以って神の力を代行する者として、恩寵たる感情には人並みならない思いがある。
「人を騙すのだって、同じことだ。悪いように見えてもそれだけとは限らない。怒りで人を守れるように、嫌悪で危険を察知できるように、恐怖で逃げ出すことができるように」
ルナはぼうっと俺を見ていた。
何か嘘をついていたのだろうし、それに罪悪感を覚えていたのだろう。
「ルナが吐いた嘘なら、きっと俺は嫌いにならない。大抵のことは笑って許すよ」
「ギルさん……結婚してください」
「お断りします」
「なんでですかぁ!」
「こっちのセリフだ」
もしかしてルナはリアより空気が読めないのだろうか。
「……少し、自分語りをしますね」
それとも、緊張を誤魔化すためだったのか。
今まで嘘を吐いていた相手にどんな顔をすればいいか、わからなかったのかもしれない。
「私の――俺の家族は少なかった。普通母親は何人もいて、兄弟がいるものだ。俺にいたのは母親一人と姉二人。生まれ育った村も若い男はその頃いなかったし、ガサツに育ったよ」
「待て待て待て、ついていけない。話が入ってこない。どうしたその口調」
「無理矢理入れろ、頭いいんだろうが」
吐き捨てるように言う。
あどけなさの残る顔でそんな言葉遣いをされたら困惑するのも当然だろう。
「俺は周りのやつらより力が強かったから、街に出て冒険者になった。そこで、初めて同年代の男を見た」
袖を引かれる。
指し示されたのは広場の隅にあるベンチだった。
二人で座り、話を聞く。
「しばらく何も手につかなかった。それまでおっさんしか見てこなかったんだ。近付きたくて、自分のものにしたくて、そう思う自分が新鮮だった」
ルナが俺と腕を組もうとする。
払いのけ、頭を小突いた。
からからと楽しそうに笑い、そして疲れたように息を吐いた。
「かわいく思われたいって、思ったんだ。だから試行錯誤して、不自然じゃない自分を作った。結果は成功だった。他の女より評価は高かったよ」
後悔混じりの顔だった。
「試す相手が悪かった。パーティーメンバーが狙ってる相手でさ。無理言って会わせてもらった挙句ウケが良かったもんだから、嫉妬でパーティーを追い出されたんだ」
当時は何が悪かったかも分からなかったなあ、とぼやく。
静かな広場に声が伝わる。
「男の前だと緊張するんだ。そんで、思わず作った自分を出しちまう。どうして嫌われるのか分かっても、媚を売ることがやめられなかった」
「……だから、恋愛禁止か」
「ああ。俺が改めればいいと分かっていても、そう簡単には行かないんだ」
言い訳だと自覚しているんだろう。
ルナは苦しそうに言葉を吐く。
「リアとティアに拾ってもらうまで、俺は悪評と一緒くたにされてたらい回しだった。二人には感謝してる。……ギルが入ってきたときは、もう終わりだって思ったけどな」
口に出して拒むことができなかったのか。
ルナは俺が思っていたよりずっと、俺に隔意を抱いていたらしい。
「お前が入った後もリアは相変わらず仕事の話しかしねえし、ティアは処女丸出しだ。禁止せずともこいつらには恋愛なんてできないんだって思って、腹抱えて笑ったよ」
「ティアは?」
「勿論怒り狂った。殺されるかと思った」
容易に想像がつく。
「お前が入ってきてくれて、今では良かったと思ってる。このパーティーは俺の居場所になってくれるって思えたからさ」
「そうか……」
「それでも、まあ、問題は残ってた。お前がちゃんと仲間になったってのに、俺は自分のことを何一つ話せなかった」
俯いたルナの顔は影に隠れた。
「ごめん。ずっと、黙ってた。隠そうとした。お前が自分のことを話してくれたときも、俺は、何も言えなかった」
「言っただろう。俺はルナの嘘なら許すって。人を傷つける嘘じゃないなら、いい」
ルナの為人は知っている。
嘘の仮面を被っていても、行動原理まではそう変わらない。
だったら許すしかないだろう。
「ただ、一つだけ聞いていいか?」
「……何だよ」
「本当に緊張してただけなんだな?」
ルナは視線を逸らした。
「俺に好かれようと全力で演じてたわけではないんだよな?」
「…………仕方ないだろ! こっちは男慣れしてない上にな、男と会うのだって誰かの紹介以外では初めてだったんだよ!」
大声で暴露される情けない内容。
立ち上がったルナを何とか宥める。
「責めてないから落ち着け」
「俺もティアと同じ処女だよ悪いか!」
「自分のはともかくティアの恥ずかしい情報を夜の街に響き渡らせるな! 可哀想だろうが!」
貧乳をからかわれたせいで酔い潰れた上この仕打ちを受けるほどの罪が、ティアにあるって言うのか。
「はぁ……まあ、こんな感じだ。嘘吐きの俺でも、ギルは受け入れてくれるか?」
「当たり前だ」
「そうか」
ルナは照れくさそうに笑った。
「ちなみに、どっちの方が好みですか?」
「……嘘吐いてないルナに決まってんだろ」
「顔逸らしながら言うんじゃねえ。いや、別にいいんだって、俺もいつもの俺のことはかわいいから気に入ってんだ」
ふむ。どっちのルナ、か……考えたんだが、今のタイミングで好きなタイプを言えばそれになってくれるのだろうか。
可能性はある。
それなら遠慮なく。
「絶対俺に手を出さない草食系女子の極みみたいな女の子が好きです」
「無理だ諦めろ」
「そこをなんとか」
「万一俺の理性が持たなかったら、安心しきってるところをパァンだぞ」
「やめます」
女の子はやっぱり自然体が一番だよな。