逆転世界はもうどうしようもない   作:あああああ

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46 えげつないなぁ

 

 戦争を前にして、俺たちのパーティーとしては珍しくシリアスな顔を並べて黙っていた。

 焚火を囲んでしんみりとした雰囲気。

 

「辛気臭い顔してるねぇ」

「あ、ファトゥス。いつから?」

「そんなこと聞かなくたって分かってほしいなぁ。ファトゥスちゃんはいつでもみんなのそばにいるよ!」

 

 ――を、ぶち壊すファトゥス。

 

「冗談が言いたいなら明日にしなさい。今はそういう気分じゃないのよ」

「は〜い、ティアお母さんは疲れてるみたいだね」

「……なんで私に言うんですか?」

「だってルナちゃんは娘だし」

「それ俺が父親じゃないだろうな」

「ギルくんはファトゥスちゃんの嫁かな」

 

 夫ですらないのかよ。

 そしてこの話題で二世帯目が出てくるのは珍しいな。

 

「そこじゃないと思うよ、ギル」

「ファトゥスさんと結ばれるなんて許せません! それはもうNTRではなく純愛ですから!」

「つまりティアは喜ぶってこと?」

「血反吐撒き散らせば分かってくれるかしら?」

 

 頭が腐るよりはいいな。

 

 少しズレた調子でリアがボケると、ティアが思わずといった様子で訂正を入れる。

 やかましくなった俺たちを道化は鼻歌混じりに眺めていた。

 

「空気読みやがって、お前らしくもない」

「えへへ、まあね~。みんなには笑顔でいてもらいたいんだよ」

「どの口が言ってるんだか。何を企んでいるんだ?」

「それ言ったらネタバレになっちゃう!」

「つまり何か企んではいるのか」

「あっ」

 

 ルナ、拘束。

 

「いったぁ!? ちょっと、いだだだだだ!」

「大人しくしてください、もう一本骨折りますよ」

「フツーはこういうときゼロからスタートだよね!? なんで一つ折られた状態から始まるのぉ!?」

「日頃の行いかな」

「それで、何を企んでいたのかしら」

「くっ、殺せ……!」

「殺しても死なないでしょうが」

 

 ということで。

 

 うんとこしょ、どっこいしょ。

 それでもファトゥスはめげません。

 

 ぎったん、ばったん。

 それでもファトゥスはめげません。

 

 昔親が語ってくれた童話を思い出す無意味さだった。

 嘘がバレない限りはどれほど締め上げられても吐かないらしい。

 

「……はぁ。問い詰めてるあたしの精神だけが削られていくわね」

「そう? なら休んでいいよ、僕がやっておくから」

 

 最近は何も問題を起こしていなかったし、いくら外道とは言え腐っても人体を傷付けているわけで。

 常識的な精神を持つティアが音を上げたことで、あとはナチュラルボーンサイコパスのリアに任せることとなった。

 

「ぜひゅー、ぜひゅー……うぅ、さすがのファトゥスちゃんも、体力消費しすぎてまともに喋れないよぉ」

「ファトゥス。右手の小指と右足の小指、どっちの方が大事?」

「……リアちゃん? 人の心とかないの?」

「あるよ」

「――ギルくんたすけて! まだファトゥスちゃん何もしてない! 何もしてないのに拷問が始まりそう!」

 

 えげつないなぁ。

 そう思いつつ、俺はそっと視線を逸らした。

 

「嘘だよね、リアちゃん? えっ、ルナちゃん? こんなことされる謂れはないよぉ!?」

「ギルさんをあんなに苦しめておいて、まだそんなことが言えるんですか?」

「君には前科があって、僕らには責任があるんだよ」

 

 リアが行うらしきそれよりも随分と優しい加害行為で精神をやられたティアの背を摩ってやる。

 理屈の上ではあの脳筋二人も正しいのだろうが、その結果が血みどろの拷問では何とも言いがたい。

 

「ってことで、道理はこっちにあるよね」

「あはっ、何にも言えないや! お手柔らかに!」

 

 よくお道化る根性があるものだ。

 ティアと顔を見合わせ、俺たちは先にテントまで向かうことにした。

 

 誰かと手を繋いで眠らなければ、今夜は悪夢を見そうだし。

 

 

 ファトゥスの企み、エマのあれそれ、戦争のプレッシャー。

 どうにも限界だった。

 

「魔法の話をしよう」

「魔法? それってつまり、『愛情の魔法』――ボクとギーくんの愛の魔法について語りたいってことなの? えへへ、ちょっとだけ照れちゃうかも。でもいいよ、ギーくんがそうしたいって言うなら!」

「悪い、スクリータ。今気になってるのはギルベリタのギミックだ」

「がーん!」

 

 スクリータが使う『愛情の魔法』。

 祝福の魔法第一位と密接に関係するその魔法も中々に興味深いのだが、アホ、じゃなくて、バカ、でもなくて、素直なスクリータに聞いても期待している答えは返ってこないだろう。

 

「祝福の魔法についてってことだよね」

「うむ」

「えっと、どこから説明すればいいのかな」

 

 ギルベリタは昔から感覚派だ。

 天才肌なのか、要領こそいいが人に教えるという作業があまり向いていない。

 士官学校に入ってからその傾向が顕著になったような。

 

「私が仮説をお話しいたしましょうか?」

「じゃあ、それで」

 

 司教様が立てていた仮説は以下の通り。

 

 まず第一にキサラが『自否の魔法』をギルベリタにかけることで正の感情、厳密には正のベクトルを含む感情を制限する。

 その状態を保ったままギルベリタが俺を聖都まで連れ帰り、『絶望の魔法』を自分自身にかけることで負の感情を身体の損傷に置き換える。

 こうしてすべての感情を希薄化することで祝福の魔法を使えるようになる、という流れだった。

 

「まあ、だいたい正解かな。私が祝福の魔法を使うためには『自否の魔法』と『絶望の魔法』が必要だったのは合ってる」

「ただし、この仮説では『自否の魔法』がかけられたままのギルベリタがずっと俺たちにそれを隠していたことになる。正直言って、そうは見えなかった」

「お兄ちゃんの言う通り、私に『自否の魔法』がかかったのはそんなに前じゃない。私とお兄ちゃんの家が見えてきた頃、だったかな」

 

 そうは言っても、あの時キサラが周辺に隠れていたとは考えにくい。

 

「わたし、ずっと、聖堂の中」

「それなら、兵士を使ったのか?」

「まあ、聖都の門を通る時に伝令は飛ばしたけど、ただの一伝令がそう易々と教会区の最奥まで通れるわけじゃないから、間に合わないよ」

「それならどうして――」

「ボク! ギーくん、ボクがやったの!」

 

 スクリータが?

 ああ、なるほど、そういうことか。

 

「ボクが『信頼の魔法』を使ったの! キサラちゃんに感覚を共有できるから、タイミングも、遠くからギルベリタに魔法をかけるのだって簡単だから!」

「やかましいですね、庶民風情が……」

 

 今日も元気いっぱいなスクリータに耳を押さえるセルウィタ。

 普段よりも数段強めの毒だったが、生憎とスクリータには効かない。

 ウチの元許嫁がごめん。

 

「『信頼の魔法』は神界越しにパスを繋げる魔法。この世界の距離とは無関係に効果を発揮する性質がある。有用性は高いが、難易度が高いって、そう聞いてたんだけどな」

「ボク、人を信じるのは得意だよ」

「知ってる」

 

 だから好きなんだ。

 

「魔法は、みんなで使うもの。ギル、みたいに、一人の方が、珍しい」

「そうなんですか?」

「ええ、キサラ様が仰る通りです。魔物を前にして感情を乱さず、対象を広く取り、即座に発動できる、というギルバートは非常に優秀でしょう。大抵の司教よりは魔法を行使することに長けていると言えます」

「ありがとうございます。司教様には全く及びませんがね」

 

 一人で都市を壊滅させるような人に褒められるとは恐縮だ。

 

「『涙残月輝』って、もしかして結構ヤバいの?」

「さあ、僕からは何とも」

「えぇ? やる気なかったとは言え、ファトゥスちゃん相手に攻めきって打ち倒せる四人組なんてそうそういないよ?」

 

 ルナやリアと顔を見合わせる。

 ティアが「やれやれね。本当に分かっていなかったの?」とでも言いたげに溜息を吐いた。

 

「基礎力と戦闘勘に優れていて手段を選ばないリアに、機動力と突破力が高いルナ。更には安定した補助を入れられるギルまで揃ってるのよ? あたしはさておき、一線級が集まっているのだから弱いはずないでしょう」

「うん? 『あたしはさておき』って?」

「一度見ただけで祝福の魔法に回答を出せるティアさんが一番とんでもないですよ」

「何でもできる司令塔が何言ってんだ」

「……照れるからやめなさい」

「そうでございますとも。ティアお嬢様は素晴らしき頭脳とダダ甘な度量を持っておられる素晴らしきお方です」

「照れるからやめなさい!」

 

 度量に関して舐め腐られてるのはいいのか。

 

「そういえば、セルウィタは戦闘で何ができるんだ?」

「私めはかよわいメイドでございます。戦うことなど恐ろしくてできません」

「諜報と暗殺ができるわよ」

「そんなことだろうと思った」

「ただ方向感覚がないから単独行動には向いてないわ」

「じゃあ何もできなくないか!?」

「街中なら迷いませんよ」

「外では?」

「その日の運勢によります」

 

 じゃあ何もできないな、それ。

 

 

 




 
息抜き抜き抜き。
 
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