逆転世界はもうどうしようもない   作:あああああ

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5 センスどうこうじゃなくて馬鹿

 

 冒険者はパーティーごとにランクが付けられている。一級が最高で、最低は五級。

 『恋愛クソ喰らえパーティー』の正式名称たる『水面の金月』は三級だ。

 

 人間関係の問題を起こさなかったことや、高い仕事の受注率と達成率。

 そしてティアによって徹底された迅速な連絡や詳細の報告など管理体制が評価されていて、昇級も三人の頃から打診はあったとか。

 

 俺の加入を機にその実力如何で、という話だったのが、思わぬ化学反応で負傷が激減し、これ幸いと昇級試験が組まれるらしい。

 ちなみに三人のパーティーが二級まで上がる打診など普通ありえないため、俺以外の面子はそれなりに規格外だ。

 

 まあ大型魔獣をよろめかせる膂力のルナを見ればそんなものは一目瞭然だ。

 あんな化け物がそう多くいてたまるか。

 

「二級かぁ、二級かぁ〜!」

「リア、喧しいわ。心の中で言いなさい」

「それだけ嬉しいんだろう、いいじゃないか」

「……帳簿が狂ったせいで来月からギルの消耗品費は二十コインまでしか出せないわ。他は自腹で出しておいて」

「俺そんなに悪いこと言ったか!?」

「仕事の邪魔をするリアに加担したでしょう」

 

 せっせと紙に何か書きながら苦言を呈するティア。

 その理論では俺よりリアの方が罰されて然るべきじゃないのか?

 

「リアはとっくに無給よ?」

「横暴が大胆すぎる」

 

 ギルドに監査されたら一発アウトだぞ。

 そして、ここギルドだぞ。分かってんのか。

 

「そもそも、昇級が嬉しくないのか?」

「今でも大変な仕事がより難しくなって何を喜べと言うのかしら」

 

 そうだ、こいつ苦労人だった。

 節制してるから金にも困ってないんだった。

 

「……ルナは? ルナはどう思う?」

「私はどうでもいいです。冒険者になったのも街に出たかったってだけで、地位とかは考えてませんでした」

「嘘だろう、リアがこの中では一番俗っぽいなんて」

「それ僕含めて全員を貶してない?」

「よくわかったな」

 

 むきー、とリアがばすばすクッションを叩く。

 

 ここはギルドの待機スペース。

 『水面の金月』以外に人はいないが、受付の職員から「絶対備品壊すなよ」という視線を感じる。

 

「手続きはまだかかるのかしら」

「三級までの昇級とはわけが違うからね。この昇級以降はパーティーの名前も変えられないし、依頼の責任も増えるし、昇級試験もあるし」

「……パーティーの名前、ですか」

 

 『水面の金月』は三人の名前や特徴から名付けられている。

 初めはリアとティアの髪色から『蒼穹金科』だったが、そこに(ルナ)が入って今の形になったとか。

 

 魔法の祝詞に使われるような古語から意味を取ってくるセンスに窺える通り、ティア発案だったらしい。

 ちなみに最初期のリアが考えていた草案は『チームミナシゴ』だったとか。

 センスどうこうじゃなくて馬鹿だろ。

 

「ルナも考えてくれてるのか?」

「はい、勿論です。慎重に決めなきゃいけませんから」

「僕も考えてるよ」

「はいはい。リアもちゃんと考えられて偉いな」

 

 恐らく採用は見送られるだろうが、このパーティーはリアのものだ。案くらいは聞いてやる。採用は見送るつもりだが。

 

「あたしだって考えてるわ」

「……褒められたいのか?」

「褒めたければ存分に褒めればいいじゃない」

「ならいいや。なんかムカつくし」

 

 ティアは弱っているくらいがちょうどいいかもしれない。

 

 手を握ってやるだけで真っ赤にすることはできるが、それを常習化すると危ないことは俺でもわかる。

 藪を突いて女郎蜘蛛が出てきたら大損どころではない。

 

「『水面の金月』の皆様、手続きが完了いたしました」

 

 受付のお姉さんがいつのまにか資料らしき紙束を持って立っていた。

 

「ご存じのことかと思いますが、三級までの昇級とは違い、二級延いては一級の昇級には試験が与えられます」

「……これが試験内容?」

「それは一級案件です」

 

 ティアが思わずといった様子で目を見開く。

 俺も同じ気持ちだ。

 

 一級案件と言えば二級未満の者には明かすことすら許されない、トップシークレットと言っていいギルドの秘密だ。

 昇級予定とは言え三級パーティ-に開示する情報ではない。

 

 分かっているのかいないのか、構わず目を通そうとしたリアから資料を奪い取り、ティアが突っ返す。

 

「火急の案件であたしたち以外に請け負えるパーティーがいないのでしょう。それを昇級試験として処理するって話よね。冗談じゃないわ」

「二級に昇級してからは危険度不明の仕事が増えます。これはその予行演習ということで」

「近場の二級を引っ張ってくる余裕すらない案件が危険じゃないはずないでしょう」

「……勿論、通常通りの昇級試験を受けることはできますが、こちらの方が一級への昇級審査は間違いなく早くなります」

 

 俺はティアの意見に賛成だ。

 不審な仕事で冒険するわけには――待てよ?

 冷汗が流れる。

 首を縦に振りそうなやつが一人いたような。

 

 お姉さんがリアを見る。

 

「それでも請けられませんか?」

「請けるよ」

「なっ、リア!?」

「ただ一つだけ聞かせてほしい。これは今の僕たちで解決できると考えたから回ってきたの? それとも、僕らはただの捨て石で時間稼ぎ?」

 

 お姉さんは少し黙って、躊躇いがちに言った。

 

「試金石兼本命です。解決できる可能性は間違いなくあります。が、できない可能性も十分に考えられます」

「わかった。じゃあ、やろっか」

 

 あっけらかんとリアは言う。

 本気で言ってるのか。

 

「三人とも、命預けてくれる?」

 

 まるでそこにあるものをちょっと取ってくれないかと頼むような気軽さで、リアは俺たちに命を預ける覚悟を要求した。

 

「元よりあたしはそのつもりだけれど」

「私は慣れてますから」

 

 三人の視線が俺に集まる。

 少し考えて、言った。

 

「前衛に命を預けられない後衛なんていない。しっかり守れよ、しっかり支えてやるから」

「……ギルは絶対そう言ってくれると思ってた」

 

 リアが満面の笑みを浮かべる。

 

「それでは資料をお開きください。今回の案件は――『新たに創造された種族の調査』です」

 

 

「なあ、リア。聞かせてくれないか」

 

 ギルドが用意した馬車の中で、俺はリアに話しかけた。

 

「何を?」

「どうしてそんなに早く昇級したいのか。もっと言えば、どうしてそんなにこの仕事が好きなのか」

「あー、そっか……」

 

 リアは何かを思い出すように空を見つめる。

 

「ギルにはまだ言ってなかったね」

「ああ」

「答えは簡単、ある人と約束をしたんだよ」

「約束?」

 

 リアは頷いた。

 懐かしむように思い出を諳んじる。

 

「僕は生まれ育った村で孤立してたんだ。親は村に移り住んですぐ僕を生んで、死んじゃった。だから誰もが遠巻きに見ていて、食べ物はくれたけど、それ以外の時間は一人で生きるしかなかった」

 

 ティアやルナは聞いたことがあるのだろう。

 耳を傾けている様子もなく、ただこれからの仕事に備えて調子を整えている。

 

「そんな時に現れたのが、師匠だった。村の近くの魔物を倒してくれた師匠は村全体のお客様になってて、僕は師匠に外のことを教わったんだ」

「師匠ってことは剣も教えてくれたのか?」

「ううん、別に。ただ師匠って呼んでるだけ。僕は専ら話を聞いて、師匠もそれ以上を僕に求めなかった。呼び方についてはちょっと言われたけど、最後には許してくれたよ」

 

 リアの変わっている部分は天性のものか、それとも特殊な環境がそうさせたのか。

 

「その師匠がさ、言ったんだ。『私はもう行く。会いたければ冒険者として大成してみせろ。顔を見に行ってやる』って」

「……早く会いたくて、急いでるのか」

「師匠も人間だから、ゆっくり階段登ってたら死んじゃうだろうし」

 

 少し驚いた。

 これは失礼かもしれないが、リアがここまで人間らしいとは思わなかった。

 

「冒険もお師匠さんに話してもらったことだから好きなのか?」

「始まりはそうだけど、今は心から好きだよ。だから今日の仕事は、ひりつくような危険と、それでもついてきてくれたみんながいて――」

 

 リアの澄んだ目が輝く。

 

「すっごい冒険らしくてワクワクしてる!」

 

 やはりリアはリアらしい。

 変わってると言うか、イカれてると言うか。

 

「軽率に命をかけるな、馬鹿」

 

 後衛が前衛を信じるのは当たり前だと言った手前、付き合わされるこっちの身にもなってくれ、とは言えず。

 溜息を吐いた俺の肩を、ティアがぽんぽんと叩いてくれた。

 

 

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