透明感があるってよく言われる。(完結)   作:イクラ系鮭

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私にしては更新早くないか?


翹望

 あの日は晴れだった。僕の誕生日でもあった。どういう流れでそうなったのかは定かでないが、誕生日パーティをする事になり、集会の日ではなかったが、あのアパートの303号室に昼間から集まる事になったのだ。気恥ずかしかったが、嫌ではなかった。

「『緊急集会』って、そんな大袈裟な。僕達にとって年齢なんて飾りだろうに」

 誰かに言うまでもなく一人ごちてみるが、そんなことでアパートまでの距離は変わらない。慣れない感覚に熱病患者の如くふらふらとした足取りで白線を辿るが、その所以は真に熱病に浮かされていたのではなく、ただ両手いっぱいに菓子袋を抱え、ガサガサ揺らして浮かれていただけであった。

 慣れ親しんだ道を歩いていると、大きな交差点の向こうに「彼女」が見えた。「彼女」は目を見開いて手を挙げた。

「おーい」

 僕も手を挙げて挨拶を返した。まもなく信号は青になり、僕達は踏み出した。風が吹いて雨上がりが薫る。

「いやー気合入ってるね――」

 

 気付けば、そこに「彼女」はいなくて。

 

「――え?

 

 

「どうして隠れてるの?」

「へえ。やっぱり、あなた面白い。私の物語に相応しい」

「さあ、こっちにおいで」

 

「恥ずかしがり屋にも程があるんじゃない? いつになったら素顔を晒す気になるの?」

「私はずっと見えてるって。私以外だと、トランスポーターくらいじゃない?」

「ふーん。まあ、その時を楽しみに待つとするわ」

 

「ほら、祝え! 祝え! 私の誕生日に声の一つも上げないのは許さないぞ」

「そういえば、あなたの誕生日はいつだっけ。あ、思い出した。█月の█だ」

「え? その日に顔見せるの? はは、成人するわけでもないのに、殊勝な心掛けね」

 

 ぐしゃっ。

 

 

「っ。は、ハっ、ハッ」

 ベッドから飛び起きる。じっとりとした寝汗でパジャマが濡れていて気持ちが悪い。僕は額に張り付いた前髪を横に流した。嫌な夢を見ていた、気がする。思い出せない。今はただ言いようのない不快な感覚だけが残っている。

 枕元のデジタル時計に目をやると、丁度午前三時だった。汗で湿ったところを避けて再び布団に包まるが、眠気は一向にやってこない。その理由は何となく察しがついている。明日は、いや、もう今日か。エリの個性で「彼女」を巻き戻す計画の実行日だ。

 計画に死角はない、筈だ。玻璃さんによる世界の切り離し、ナガレボシの防御障壁、僕の認識阻害、トランスポーターによる座標設定であらゆる妨害を文脈から排除。エリを七音で補助して、その瞬間から(77 × 7) - (7 × 7) + 7 - 7日前に寸分の狂いもなく巻き戻す。

 懸念事項はある。あの事故を引き起こした「何か」だ。プロテクトをいとも容易く貫通し、遠距離から彼女を狙い撃つ。しかも直接的ではなく、事故という形に偽装して彼女を撃ち抜いた規格外の個性。さんざん考えたが、そんなことが出来るのはやはり僕たち以外に考えられない。

 

 僕こと「ゴースト」こと賀來氏筒見。

 個性は「隠し事」。概念系、隠すということを司る。

 「彼女」との出会いは子供時代。個性の制御が出来なくなったところ発見される。他の人にも僕を見つけて貰えるように「個性の集い」に入った。

 

 トランスポーターことCassandra Auteviator。

 個性は「bon voyage」。概念系、目的地までの快適な旅を約束する。

 「彼女」との出会いは子供時代。両親の殺害によりその束縛から解放されたトランスポーターは「ここ以外のどこか」に逃げ出したいという旅の目的地に辿り着き、しかし新たな目的地を思いつかず途方に暮れていた。「彼女」は「個性の集い」にトランスポーターを案内し、常に新しい目的地を提供した。

 

 七音こと七瀬七斗。

 個性は「7」。概念系、あらゆる数字を7に塗り替える。もしかしたら個性ではないかもしれない。

 「彼女」との出会いは学生時代。7に呪われていたが、「彼女」がそれを祝福へ変えた、らしい。本人談で記録もないので信憑性は低い。

 

 ナガレボシ。

 個性は「エンチャント」。強化系、無機物に際限なく個性を与えられる。

 「彼女」との出会いは神様時代。ある集落で現人神として、何なら神そのものとして崇められていた所をフィールドワーキング中の「彼女」に発見される。知らない世界を知るために「彼女」について行った。

 

 玻璃こと片貫世界。

 個性は「異界」。操作系、世界の外殻を操作する。

 「彼女」との出会いは社畜時代。町で偶然すれ違い、珍しい個性に興味を持った「彼女」がその使い方を教えた。個性の全容を知らなければ世界の知覚も出来なかったので、自身の可能性を拓いてくれた事への借りを返すために「個性の集い」に所属した。

 

 延命措置だっていつまでも続けられる訳じゃないのだ。僕達は帰路に立たされている。そして、迷う必要はない。

 僕は今日、「彼女」を生き返らせる。そして、誰かを殺す。 

 

 

 神野区総合病院の受付ロビー。消毒液の匂いが薄ら漂う中、クッションの硬い長椅子に座って最後の一人、トランスポーターを待っていた。既に集まったメンバーは各々個性の調整をし、その時に備えている。エリは人を救うことに個性を使うと言ったらついて来てくれた。そうなるように誘導していたから当然なのだが。

 個性「巻き戻し」は結局、時間の巻き戻しにおいては補助具抜きに安定することはなかった。だが、CDケースという補助具さえあれば確実に成功するようになった。補助具によるサポートは概念系の個性を持つものには珍しいことではない。新しいことを理解するのに「例える」という行為が有効なのは、聖書でイエスキリストが示しているとおりである。誰だって、全ての物をそのまま理解するのではなく、嚙み砕くという工程が入る。イメージがそのまま反映される概念系の個性がチューナーを使用するのは、むしろ自然な行為とも言える。僕にはもう必要ないけど。

 もう一つ、巻き戻しにはエリの角というリソースを消費するということが明らかになったが、それについてはエリが自身を巻き戻すことで解決できた。リソースの無限化が実現したとき、彼女は確実にこちら(化け物)に足を踏み入れた。僕はそこに導いたことを後悔していないし、反省する気もない。僕たちがいなくたって、彼女はいつかそうなっていたのだから。

 腕時計を見る。集合時間になった。トランスポーターが緩やかにロビーの壁をすり抜け、時間ぴったりに到着した。

「行こうか」

 僕の呟きで全員が立ち上がった。午前十時のことである。

 

 神野区総合病院の五階は回復の見込みがない患者が収容される階層だ。エレベーターのドアが開くと、廊下は奇妙な冷たさに包まれていて、下の階とは違って全く人の気配がなかった。僕たちはどこまでも続くのかと錯覚するほど長い廊下を歩いて例の病室へと向かう。硬い白磁のような床に靴音が響いた。

 547号室。無表情のプレートの文字を前に僕は深呼吸をして、後ろを振り返る。七音、トランスポーター、ナガレボシ、玻璃、エリ。ここまで解決に近付けたのは今回が初めてだ。成功以外に道はない。僕はゆっくりと扉を開けた。

 角部屋らしく広々とした白い空間の中心に、無数の機械に繋がれて少女が横たわっていた。何度見たって悪夢みたいな光景だ。けど、それも今日までだ。一応手を握ってみるが、起きる気配はない。じゃあ、始めるか。

「障壁準備」

 ナガレボシがどこからともなくスノードームを取り出すと、半透明の壁が病室を覆った。

「世界の断絶」

「はい」

 玻璃さんが手をひねると、窓の外が虚無に染まった。断絶完了。

「目的地設定」

「はいはい」

 トランスポーターがつま先で床を叩くと因果律が砕け、あらゆる概念が裸足で逃げ出した。

「認識阻害」

 僕が手を叩くと、もう誰も僕たちを見つけられなくなった。

 このタイミングで機器の数値とかを見てみる。

「やっぱ分かんねえ」

「全部正常値だよバカ」

 七音がうるさいが、ここまでが準備だ。で、ここからが本番。

「個性の調子はどうなんだ?」

「俺は問題ない」

「っ私も今日は調子がいい、です」

 じゃあ開始だ。

 僕が合図を出すと、七音はエリの頭に手を乗せた。CDケースが軋み、エリの角から光が迸る。

「――巻き戻し、四秒と計(77 × 7) - (7 × 7) + 7 - 7(7つの7)日」

 その言葉が意味するのは現時点でのエリの最高到達地点、同時遡行である。自身と対象を同時に巻き戻すことで、エネルギーを切らすことなくどこまでも巻き戻すことが出来る。但し、自身を巻き戻すという行為は経験に反映されない。即ち、四秒毎に()()()()()()()使()()状態に戻る。毎回一発勝負で、しかもその状況は毎回異なる。下手をすれば過遡行で自分が時間軸から消滅してもおかしくない、綱渡りの絶技である。

 エリの額に汗が滲む。一年以上の巻き戻しである。エネルギーは尽きないが、時間が掛かる。僕たちに出来ることは何もない。精々、計測器の数値を見ていつでも止められるように準備しているのが関の山。予想されている個性使用時間はおよそ八分二十秒。それまで耐えられるのか。

 それにしても、静かすぎる。「彼女」を再起不能状態まで追い込んだ誰かなら、「彼女」がいまだ生きているという情報を掴んでいてもおかしくない。そうしたら、こんな小細工なんてあっという間に打ち砕かれる。襲撃の気配は今まで一度もなかった。勿論、僕の認識阻害で見つかっていないだけという線もあるが、「彼女」のプロテクトを貫通しておいてそれはないだろう。命までは取るつもりはなかった? いや、それはあり得ない。だって――だって何だ? 僕は何か、根本的なことを見落としているんじゃないか?

 巻き戻る。巻き戻る。巻き戻る。

 何でだ? 何であり得ない? あの時、頭を打って、脳死になって。いや、確かに死ぬ可能性が高かった。じゃあ、どうして確殺を入れなかった? どうして追撃を入れなかったんだ?

 あの頃に巻き戻る。

 追撃を入れられなかった? あの事故は多分、文字通りの離れ業。何が起きたか正確には分からないが、因果操作、次元超越、文脈調整、その他もろもろの高度な現実改変が行われたことは間違いない。その一撃で、リソースを使い果たした? あり得ない。リソースに制限があるような半端な奴が、あんな大それたこと出来るわけがない。無尽蔵のリソースがあることが、スタートラインのはずだ。じゃあ、どうして?

 あの瞬間に巻き戻る。

 確か、僕が咄嗟に一帯に認識阻害を敷いて――本当に? あの時、間に合わなかったから、僕は条件反射的な個性使用を習得したんじゃなかったのか? 

 記憶が鮮明になる。あの時、「彼女」が轢かれた時、僕はただ黙って……。何だ? 血の匂いが辺りに立ち込めて……誰の?

 巻き戻って巻き戻る。僕はトランスポーターに肩を掴まれて我に返った。慌てて腕時計を確認する。巻き戻し開始時から、既に八分が経過していた。そして、その時がやってくる。

10、

9、

8、

7、

6、

5、

4、

3、

2、

1。

 迸っていた光が、火が消えるようにふっと消える。何も、彼女に変化はない。失敗か? 一瞬緊張が走るが、しばらく見つめていると、目の前で、彼女が寝返りを打った。今まで死んだように横たわっていた肢体が無意識の下だがついに動き出した。そういえば、「彼女」は起きるのが酷く遅かった記憶がある。夜遅くまでVCつないで、皆で百円くらいのゲームを遊んでたっけ。また、出来るかな。

 誰も何も言わなかった。僕に視線が集まるのが、個性抜きでも分かった。僕は埃でも払うかのように認識阻害を脱ぎ去った。

 彼女の肩に手を置いて、壊さないように優しく揺する。彼女の長い睫が震えて、ゆっくりと瞼から瞳を覗かせた。彼女は何度か瞬きをして、何でもないように言った。

「……え? ここは?」

 声が出なかった。安堵と、正体不明の恐怖で喉が凍り付く。僕の中から言葉を奪い去る。

 何を言えばいいんだろう。事故についてか、犯人か、状況か。頭が真っ白になって、唇が震える。視界が潤んで何も見えなくなった。

「よかった」

 僕は結局、絞り出すようにそう言って彼女に抱き着いた。

「ええ? どういう……」

「それは――」

 使い物にならなくなった僕の代わりに玻璃さんが全てを説明してくれた。彼女は聞きながら、何かを考えているように頭に手を当てた。

「なるほど。因みに犯人は分かってないのよね?」

「そう、情けないことに全く見当もつかなくて……」

 今の僕が一番情けないということに気付いた僕は彼女から離れて壁に凭れ掛かった。僕は涙を拭いながら息を整え、あの時に思いを馳せる。

「因みに、見覚えのないメンバーもいるけど。これが全員かしら?」

「そうです。紹介しますね。この子は――」

 思い出せ、あの後車はどうなった。停車した? それとも走り抜けた? 停車したなら犯人の名前を憶えている筈だ。なら走り抜けたのか。というか、そもそもあの車ってどんな車だったっけ。何所で撥ねられたんだっけ。何時に撥ねられたんだっけ。どんなふうに撥ねられたんだっけ。そもそも車だったっけ。僕は泣いてたんだっけ。誰が通報したんだっけ。僕はあの時何を考えてたんだっけ。一体僕は――。

 ため息が漏れる。

「ダメだ。やっぱり「彼女」が轢かれる前後の状況が思い出せない」

「ああ、俺もあの時の「彼女」についてからはゴーストから何となく聞いているだけだから力になれそうにない」

「それは皆そうじゃん。その場にいたのはゴーストだけで今は「彼女」だけが覚えている……いや、事故の前に戻したからそもそも経験すらしてないのか」

「あ、そうだ。本当にごめん。エリ、ありがとう。君が居なかったら彼女はずっとこのままだった」

「ありがと。エリちゃん。後で最高級のリンゴ買ったげる」

「俺が言っても信じてくれないかもだけど、本当に感謝している」

 

「ねえ」

 僕たちは声の主を見た。彼女は氷のように透き通った眼で僕たちを突き刺した。

 

「彼女なんて水臭い呼び方じゃなくて、きちんと名前で、箕作叶と呼んで欲しいわ」

 

 あー。

 ああ、そういえば、そうか。

 そっか。

 そっかあ。

 記憶の空白に罅が入る。

 そうじゃん。叶だし、確かに「個性の集い」()()()()()()()()()じゃん。よく考えれば分かるのに、誰もそれに気付いてなかった。気付けなかった。

「じゃあ、僕が犯人か」

 無意識に僕の手が伸びて、僕の頭にナイフを挿し込んだ。僕は死んだ。

 

 僕は反射的に指を鳴らした。

「えあ!? 生きてる!?」 

 驚きで間抜けな声が漏れる。視界の端で、エリが僕に手を触れているのが見えた。僕が死ぬ直前、状態を巻き戻したのか。天才だよ、お前。

 周囲を見渡すが、まだ僕以外は死んでいない。なるほど、これは僕の個性だ。僕は自殺したわけじゃない。僕に殺されたんだ。先ほどのフィンガースナップで僕は自分を自分の個性の範囲から外した。今死んでないのはそのお蔭だし、僕以外はさっき認識阻害をかけたから事件の真相について理解することはない。

 「僕の個性は情報に宿る」。紛れもなく僕の言葉で、正しく今の状況を体現している。知ったら隠蔽の為に殺される。紛れもない僕の手で。

 まあ、僕の個性だから自分で解除できるんですけどね。ぱんと手を叩けば、隠蔽は飴細工のように崩れ落ちた。ついでに認識阻害の方も解除すれば元通りだ。僕は床に落ちた血を拭いて隠した。

「ありがとう、エリ。また助けられてしまったよ」

 僕は手の中から、先ほど僕を殺しかけたナイフを出したり消したりしてみせた。なるほどね。拡張解釈、暗器か。隠し持つという側面を攻撃に転用したわけだ。

「で、どういうこと?」

 トランスポーターが訝しげに眉をひそめた。

「今の僕たちは役割が足りてないだろう」

「は?」

 僕は自嘲気味に笑い、頭の弱いトランスポーターのために懇切丁寧に説明してやることにした。

「叶がこの団体を作ったのは皆でゲームをする為だ。RPGをね。足役、隠蔽、ジョーカー、オールラウンダー、扱いが難しいが多分一番出力が高いピーキーな奴。この五人でRPGなんて出来る訳ないだろう。アタッカーは? ヒーラーは? ブレーンもいないのにどうして完璧なチームなんて言えるんだ?」

「じゃあ」

「僕が皆を殺して消した。そうでしょ?」

 叶に視線を送ると、彼女は無言で頷いた。死刑宣告と同義だった。

「だから、僕に責任がある」

 記憶を辿れば、皆の死に様がありありと浮かんだ。

「剣戟咲、賀來氏発貴、蒜凱戻、呪祝日暮は僕が殺した。間違いなくね」

 彼らは全員、事故の真相に辿り着きそうだったから()()()になった。今更、後悔したってもう遅い。そんなのは分かっている。叶に頼めばなかったことになるとは言え一般人ならまだしも仲間を殺すなんて、殺されても文句は言えない。

「どう責任を取ればいいかなんて、分からないけどね。僕が死んで解決するならそれでもいいけど」

 僕の声が虚しく響いて消える。

「な、なんで」

 トランスポーターは狼狽えているようだった。なんでそんな顔するんだよ。殺したのは僕だし、君はもっと殺してるだろうに。

 果たして、次に口を開いたのは玻璃さんだった。

「信じられないけど、ゴーストさんが誰かを庇うほうが考えられないし、多分本当の事なんですよね」

 その声は硝子のように冷たく澄んでいた。責めるでもなく、嘆くでもなく、ただ事実を確認するかのように。その落ち着き払った態度が僕の胸をナイフのように抉る。七音が続いて無機質に問いを投げかけた。

「動機は?」

「さあ。霧がかかったようで思い出せない」

 これは僕の個性によるものじゃない。外部から操られていたのかもしれない。僕は特別そういうことに耐性を持っていないし、だから今まで隠れてきた。辛うじてちょっと抵抗は出来たかもしれないが、そんなの誤差だ。やったのは僕なのだから。僕は再び叶を見た。裁定を待つ罪人のように。

「叶の意見を聞いておきたいかな。僕はどうすればいいと思う」

 叶は考えたふりをして、僕の頭を掴んだ。

「君を毒した誰かを殺して、それから考えるわ」

 まあ、アタリはついているけどといって、叶は七音の中学の卒業アルバムを要求した。

 時代は個性社会。履歴書で個性より「個性」が見られる時代。卒業アルバムに住所を書く化石時代から、「個性」を書くホモサピエンス時代へ。

 七音の中学の卒業アルバム。その言葉に、七音は一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに得心がいったように頷いた。それを見たトランスポーターはもう既にこの場にいなかった。あいつ、嬉々として……。

「取って来たよ」

 床から現れたトランスポーターの手には紺色の分厚いアルバムがあった。こいつの前にプライバシーなどない。叶はそれを受け取ると、躊躇なくページをめくっていく。僕らは高まる期待と共にそれを見守る。彼女の手はある集合写真で止まった。その指が、一人の生徒を指す。

「多分、こいつよ」

 そこにはクラスメイトに囲まれてぎこちなく笑う男子生徒の顔があった。ごく普通のどこにでもいそうな少年だが、写真の下に記された文言で僕たちはすべてを理解した。

 監観督人(かんみとくと)

 個性:監督 一人につき一度だけ下した命令を強制的に実行させることが出来る。

 クソ。コードギ〇スみたいな個性しやがって。

「これ、一度だけと書いているけど、一文であればいくら命令が内包されていようと全部実行の範囲内になるのよ」

 つまり、僕に彼女のプロテクトを剝がさせて、その瞬間に運転手に突っ込ませる。そして、証拠隠滅と隠蔽を僕にやらせた。そういうことか。なるほど。そうやって仲間を、剰え実兄すら手にかけさせた。

「殺しに行こうか」

 口から零れ落ちたというより、滑り出た。

 僕だって懺悔の気持ちはある。操られていたとはいえ、殺してしまったわけだし。出来ることなら何でもして償いたい。でもさ、それ以上にキレてんだよ。首謀者とあっさりそれに従った僕自身にさ。

 端的に言ってしまおうか。ぶっ殺してやるよ。

 誰も何も言わなかったが、僕たちの意思はきっと一つだった。

 今やるべきことは二つだ。僕は彼女の手を取った。

「その前に、二人だけで話をしようか。大事な話をさ」




 次で完結します! 謎は残さないつもりなのでちょっと時間かかるのは許してください!
 後、流石にごちゃごちゃしすぎたので解説編、というか資料的なのは書きます。

ヒント自体は結構あるか?

 モチベーション等の理由より、感想や評価を募集しています。
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