透明感があるってよく言われる。(完結)   作:イクラ系鮭

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 早過ぎて草ァ! これもう私じゃないだろ。
 一応、最終話のつもりです。


忌明

 彼女の手を強く握り込む。

「目を閉じて」

 彼女は疑いもせず瞳を閉じる。僕も、僕たち二人に認識阻害のベールをかけて目を閉じる。

 次に目を開いた時には、森の中にいた。硝子のように冷たく澄み切った空気が肺を満たす。天を覆い尽くすような大樹の表面にはなぜか一切苔がついていなくて、天然物にしてはあまりに球に近い大岩が傍で佇んでいる。見たこともない植物が燐光を帯びて澪標のように点在している。遠くに川のせせらぎが聞こえるが、それ以外の音は全くない。生命の気配に溢れながら、動物はおろか虫の羽音すら聞こえない。森の「境界」であった。

 僕は彼女の肩に手を置いた。

「もう開けていいよ」

 目を開いた彼女はその自然美に息を吞む。拡張解釈、神隠しだ。いくら認識阻害をかけても、あいつらの前じゃ話せないからね。

「話、しようか」

 自然体を心掛けていたけど、そう切り出した僕の瞳は何に染まっていただろうか。まあ、きっと、普段の僕じゃなかった。

「単刀直入に言うとさ」

 僕の手の中には昏い暗器があった。

 

「お前、誰?」

 

「馬鹿にしてるのかしら。私は箕作叶よ。とうとう脳が腐り落ちたのかしら」

 彼女は嘲るように言った。その声色、仕草、寸分違わず僕の知る「叶」だ。だが。

「じゃあ、何で直ぐにあいつらを生き返らせなかったんだ?」

 それがあまりに不自然だった。僕の詰問に彼女は視線を下げた。彼女は喉に何かがつっかえたような声で言った。

「実は、今は個性が使えなくなっているの。誰にも言わないでちょうだい」

 僕はそれを聞いて疑問は確信に変わった。

「トレースがヘタクソだなあ。本物の叶なら誤魔化さずに開口一番言ってるよ。僕たちなら解決できると信じてるから」

 彼女は声を荒げて反論した。

「気が動転していたのよ。もっと落ち着いたときに言うつもりだったわ」

 ふーん。なるほど。僕は周囲に目をやった。確かに、僕も落ち着く必要があるな。僕は兄に倣って推理を披露することにした。

「おかしいと思ったのは僕が剣戟咲と呪祝日暮を殺したと気付いた時だ。賀來氏発貴(カクシアバキ)蒜凱戻(ヒルガイモドリ)は名前とロールから何となく推測できるだろう。真実を暴き、傷を癒す。二人なら事件の真相に辿り着きそうだが、一介の剣使いとバフデバフ要員がどうして僕に消されるほど真相に迫れるのか。兄が今の僕みたいに皆に話したのかもしれないけど、そんな拡散を僕が未然に防げないわけない」

 僕はナイフを逆手に握った。

「こう考えれば辻褄が合う。あいつらは現場にいたんだよ」

 彼女は食い下がった。それが、墓穴だった。

「仮に現場にいたとして、それが何?」

 グリップに力が入る。

「その反応が答えだよ。なんでこの僕がいたのに、あいつらに犯行が見えたと思ってんだ?」

 沈黙。

「現場にいたとしても、犯行が見えなければ消す必要がない。なのに、お前はあいつらが現場にいたと暗に肯定しながら僕による殺害を否定しなかった」

 僕は左手でポケットを探る。

「だが、その矛盾は前提を一つ変えれば全てのピースが嵌まる。あの日、事件は二つあったんだ。被害者の片方は叶、もう片方は誰か」

 当然、それを知っているのは当事者のみだ。

「叶への犯行は認識阻害の下で行われたが、もう一つはそうじゃなかったという訳だ。では、どうしてもう一つの事件が発生したのか、何故隠蔽されているのか、犠牲者は誰なのか」

 僕は彼女を見た。その首筋に汗が伝うのが見える。

「叶の事故の方から考えた。僕は叶が轢かれた場面を見ていた筈なのに、車種さえ覚えていない。忘れたか認識阻害だろう。実行犯を特定されない為にやったのかと思った。けど、それなら記憶を全部消して架空の記憶を植え付けたほうがいい。そう、それをした後の記憶があの事故なんだ。じゃなきゃ残す意味がない」

 答えは必然的に定まる。

「本当は事故なんてなかった。それが真相だ」

 脳内で結論までの道筋を組み立てる。

「彼女のプロテクトは完璧だ。いくら出力があっても突破するなんて不可能で、闇雲に攻撃を仕掛けて穴を突こうにも、一発でも感知されれば返り討ちだ。だから、明確にプロテクトを解除している隙を突く必要があった。

 叶の誕生日で僕が零した通り、僕はあの日素顔を晒していた。彼女は仲間を信用しているから、そして、その必要がないと思ったから僕に対する認識阻害関係のプロテクトを解除した。彼女ならそうする。僕はそこに付け込んだ。僕は叶を殺した」

 偽物は何も言わなかった。

「僕に叶を殺す動機はない。メリットがない。操られていたという線が濃厚だ。この時問題となるのは単独犯か否かだ。僕はお前の態度で単独犯と確信した。事件を隠し、叶に関する記憶を消して、お前は叶を演じた。お前、()()()()()を狙ったな?」

 彼女は答えない。疑問は確信へと変わっていた。準備も終わっていた。ここはまだ前日譚だ。秘かに展開したカッターが彼女の背後でカチカチと刃を伸ばした。

「お前が俺に下した命令は少なくとも四つだ。叶の殺害、叶とお前についての記憶改変、メンバー構成に対する記憶改変、それらの隠蔽。二つ目の事件はお前も想定していなかったものだ。そして、目撃者を消す必要があった事件。つまりは、叶かお前に起こったことだ。まあ、十中八九お前に対してだろうけど。これに関しては犯人が分からない。剣戟、呪祝、蒜凱、僕の内の誰かだろうけど、動機も方法も分からない。何があったかは分かるが。もし僕以外の誰かが犯人なら、叶の違和感に気付いて殺そうとしただろう。僕は洗脳に耐性がないけど、二回以上やったなら知覚してカウンターを仕掛けられる。踏んだら廃人になるような罠を作れる。それが僕が犯人の時のルートだ。後はどれも同じだ。それを僕が隠して、カバーストーリーを張った。カバーストーリーは記憶改変だから自分でも解除できない。内容はお前が事故で死ぬって内容だけど、叶と認識が混ざってるから叶が死んだとこになったんだろう」

「私が黒幕の策に乗っかっただけという可能性は無いの?」

「そうだったらもう一つ、脳死の人間か屍体がないとおかしいからさ」

 沈黙。

「なんで否定しないんだ?」

 ちょっとはしたのにと彼女は笑った。

「僕が出した証拠は片手で数えるほどしかない」

「私が何を言っても、あなたの考えは変わらないでしょ?」

 それもそうかと僕は笑った。

「じゃあ、死ね。エンチャンター」

「君が死ね」

 刃渡り三メートルのカッターが閃く。絶対切断の属性を付与されたそれは、彼女の首を跳ね飛ばす寸前で何かに当たって砕け散った。お返しとばかりに彼女が手を振ると、揺れた袖から概念ごと切り捨てる無音にして不可視の斬撃と状態を反転させる銅色の視線、内部を空にする小魚の群れが放たれる。だが、僕は既に居なかった。薄紙の如く現実を破壊する波状攻撃をすり抜けて、真っすぐ彼女へ向かっていく。そして、彼女さえすり抜けて僕はその背後に立った。ナイフを振り下ろす。

「あ、う。かフっ」

 お隠れになる。逝去を意味する言葉だ。僕は彼女をお隠れにした。

「なん、で。私は、対象にならない、はずなのに」

 僕の個性だって、結局は認識阻害などには無力だ。だから。

「縮小解釈だよ。隠すという行為は消滅と違って存在が担保されているから潜在的に発見される期待を内包している。僕が君を見つけたんじゃなくて、君が僕を見つけたんだ」

 彼女は血を吐いて地面に崩れ落ちた。辺りに垂直に立つものは何一つない。数百年を生きたであろう巨木すら今や数グラムの木片が地に転がるのみである。散らばった魚が溶けるように土と同化して消えていく。十時半の透明な空には雲一つなかった。

「やっぱり敵わない(叶わない)かぁ……」

 そう言って彼女は死んだ。きっと、嘗て僕の友人だった彼女は僕の手によって死んだ。

 僕は認識阻害をくしゃくしゃに丸めて捨てた。ポケットから切符を取り出して、切った。

「君は僕を信用しすぎた。命令されたって、僕が叶を殺せる訳ないじゃないか」

 

 病室に戻った僕はただ一人を残して残りの全員に認識阻害のシャッターを下ろした。

「二人だけで話をしようか。大事な話を」

 僕は水晶のような頭部に目を合わせた。

「ナガレボシ。否、箕作叶」

 ラジオは雑音を垂れ流した。

「気付かなかった僕が馬鹿らしい。君の個性は自分の願望を叶えるというものだ。覚えていないけれど、名前からはそう推測できる。流れ星なんて願い事の象徴みたいなものなのに、自分が情けないよ」

 僕は自分の推測を堂々と語った。

「エンチャンターに成り済ますのは簡単だ。誰も彼女に関する記憶が残ってないんだから、彼女の残した道具を自分が作ったかのように振舞えばいい。その姿も遠隔操作用の人形だろう? 姿や声を全く見せなかったのは僕による殺戮を避ける為か」

 彼女は雑音の向こう側から呟いた。

「ようやく気付いたくれたのね」

 相も変わらず温度のない声だった。僕はもう感情の向こう側に立っていたから、何も思わなかった。

「今、個性は使える?」

「使えないわ。ここまでのダメージは初めてよ。誇っていいわ」

 誇る気にはなれない。僕は彼女を傷付けた。

 僕に与えられた命令が叶の殺害だったとしたら、その命令は一度きりの物でなければならない。なり替わった後に殺害される恐れがあるからだ。そして、僕は叶が死後に蘇生することを阻害出来ない。何より、トランスポーターが生きている。旅は道連れという奴だ。叶を真の意味で殺すことは誰であっても不可能だ。

「認識阻害なら解いてくれる?」

「解けない。認識阻害じゃなくて、記憶操作系の何かだから」

 しかし、彼女の個性は世にも珍しい概念系にして本質を自分の外に置いているタイプだ。彼女はただ、願うだけでいい。

「多分、神か仏か星にでも願えばいい。そうすれば使えるようになる」

「なるほど」

 次の瞬間、叶は病室にいた。あの頃と変わらない蒼い目が僕を貫いた。

「時間軸を遡って私と彼らを救出するわ。異論はないわね?」

「エンチャンターはどうするんだ?」

 彼女は一瞬口を閉じたが、直ぐに結論を出した。

「犯行前に確保するわ」

 言うや否や、僕の前にエンチャンターがうつ伏せで落ちた。

「彼女の名前は月双沙羅よ」

 月双は服をはためかせているが、何も起きない。個性を没収されたらしい。そんな様子を眺めていると、病室のドアが開いて死んでいた四人が入って来た。

「俺は死んだらしい。次は負けない」

「名推理だったらしいじゃん。後で聞かせて」

「治せなかった……治せなかった……」

「次は私の番ですね? じゃあ、殺すので動かないでください」

 一々キャラが濃いんだよ。後殺すな。

「ちょっとごちゃごちゃし過ぎたわね。読みにくいし一旦場所を変えるわよ」

 次の瞬間にはあの303号室にいた。何時も活気があっただけに、カーテン越しの薄い光が満たす室内は灰色に見えた。叶は僕に向き直って、頭を深く下げた。

「ありがとう。まさかここまでしてくれるとは思っていなかったわ。皆がいなければ彼らは救えなかったけれど、貴方が一番頑張ってくれていたから、ここで感謝を述べておくわ。本当にありがとう」

 初めて見る彼女の姿に、僕は動揺した。

「別に感謝して欲しくてやったわけじゃない。感謝するならエリにしてくれ」

「ありがとうねエリちゃん」

 叶はエリに頭を下げた。ナチュラルに召喚するな。

「エリちゃんで思い出したんだけど、あなたエリちゃんにとんでもない精神操作してるわよね。子供相手に大人げないわ。謝りなさい」

 流石にライン越えだったか。これに関しては完全に僕が悪い。僕は個性を解除した。エリは見る見るうちに顔を白くした。ああ、ほんとごめん。

「エリさんの感情と記憶を無断で弄ってしまい、誠に申し訳ございませんでした。再発防止に努めてまいる所存です」

 エリさんは口をパクパクさせた。その顔は青白い。やっぱり、ちょっとずつ戻した方がよかったかな。叶はこっちを睨んでいる。ごめんて。僕が反省していると、エリが唇を震わせて言葉を紡ぎだした。

「わ、私は大丈夫です。ゴーストさんに助けてもらって、個性も制御できるようになって、感謝しています」

「して欲しいことがあれば何でも言ってちょうだい。この馬鹿が叶えるから」

 勝手なこと言わないでくれよ。でも、それくらいはするべきか。

「じゃあ、死穢八斎會に私を帰してください」

 マジで言ってる? まさか思考を戻した所為で負荷がかかって狂ってしまったのか?

「決着は、自分でつけたいです」

 叶を盗み見る。六歳児とは思えない発言である。僕そんな教育した覚えないんだけど。

「あなたそもそも教育してなかったじゃない」

 思考を読まないでくれ。

「徒然なるままに書きつくっている方が悪いのよ」

 叶は咳払いをして続けた。

「エリちゃん。あなたは記憶を消して戻りたいと思っているようだけれど、それだと戻っても治崎廻を一人で如何こうすることは出来ないわ」

「どうしてですか」

「あなた一人だと力不足だからよ」

 僕の記憶操作というか誘導というか。あれがあったからこそ反抗出来たわけで、記憶処理するならその時点で躓く。それは彼女自身も分かっている筈だ。それでも記憶処理を求めるのは、僕たちの出会いが正しくなかったからだろう。僕たちと過ごした短い日々もまた正しくないものであり、存在するべきではない。そういう思考なのだと思った。

「……エリちゃん、その自罰的な思考は美徳でもあるけれど、今回ばかりはこの馬鹿の所為にしていいのよ?」

「いえ、私のせいです。けど、分かりました。記憶処理はここで過ごした思い出だけにして、個性の扱いについてはそのままにしてください」

 勝手に思考を読み取って会話されると状況整理に手間取る。断片的な情報だから断言できないが、僕に好き勝手されたのは自分の所為なんて考えているんじゃないだろうな。そんな訳がない。

「君の責任じゃない。僕の精神干渉を撥ね退けられるのなんて叶くらいしか出来ない。それを君に求めるのはあまりにも酷だ。全部僕の責任だ」

「そうよ、少しは甘えたって構わないのよ」

 叶も僕を睨みながら賛同するが、エリはそれでも首を横に振った。

「皆の事は忘れますが、大丈夫です」

 その目は深紅の覚悟に煌めいていた。

「今度は、私があなたたちを見つけます」

 僕たちは顔を見合わせた。嗚呼、やっぱりこの子はこっち側だ。僕たちは無言でエリの頭を撫でた。

 そうしてしばらくすると、叶はお別れをしていらっしゃいと言ってエリを病室に転送した。僕は姿が消えた後もその空間を眺めていて、叶のため息で我に返った。

「じゃあ、活動もやめないければならないわね。こんなことが起こった以上、続けられないわ」

「本音は?」

「とっくに飽きていたことに気付いたの。GMもいいけれど、私はPL側の方が性に合ってるわ」

 そんなことだろうと思っていた。僕はその先に思いを馳せる。

「『個性の集い』っていうグループは続けるつもり?」

 彼女は肯定して、そろそろ時間だと言った。僕はそれが何を意味するか分からなかったが、どうせ転送されるのだろうと身構えた。しかし、彼女はただ僕に微笑んだだけだった。何のつもりなんだ?

「思い出したの。あなたが月双に披露した推理だけど、一つだけミスがあったわ」

 その口が三日月を描く。

「あなた、成り替わりを狙うならそれを誰にも知られてはいけないと分かっていたのに――」

 何故、自分がとっくに処理されていると思わなかったのかしら?

 

 僕は蘇生した。息を乱して心臓の鼓動を確認する。生きてる? 生きてる。

「宛ら水槽の中の脳ね。主役である脳は私で、あなたは幻覚なのだけれど」

 自分の死の隠蔽。そうか、だからこんなことをする必要があったのか。

「考えたわね。ただの情報体のあなたは生半可な認識では生存を確立できない。さっきまでここに立っていられたのは、1500を超える目があなたを見つめていたから。ふふ、随分と赤裸々に語り尽くしているじゃない」

 僕は認識阻害を解除する。

 ゴーストは口を開いた。

「他に思いつかなかったから、仕方なくね。最初は不安定だったけど、今は大分安定している。けど、それも長く続かなかったと思う。ありがとう。気付いてくれて」

「どういたしまして。あなたの兄の所為で、推理は得意なの」

 叶は微笑んだ。

「けど、まだ終わっていないわよ。あなたはまだ謝る相手がいるわよね」

 叶はゴーストが頷くと同時に自身とゴーストを病室に転送した。二人に視線が集まる。叶がゴーストの背中を叩き、顎で促す。彼は目を閉じて、頭を下げた。

「剣戟咲、賀來氏発貴、蒜凱戻、呪祝日暮。殺してしまって、本当に申し訳ありませんでした」

 四人はそれぞれ困惑したようにゴーストの後頭部を見つめ、示し合わせたかのように叫んだ。

「「「「許す!」」」」

「よし、これは解決ね。次はエリちゃんについてよ。エリちゃん、もう挨拶は済ませたかしら」

「まだです」

 壊理は首を横に振った。

「ナガレボシさん、いえ、叶さんとゴーストさんにもお礼をしたいです」

 彼女は頭を下げた。ゴーストは慌てふためいた。

「今まで、お世話になりました。ゴーストさん、あそこから助け出してくれて、ありがとうございました。叶さん、面倒を見てくれてありがとうございました」

 彼女は「個性の集い」の面々に再び頭を下げた。

「皆、ありがとうございました。きっと、また会えます」

 寂しくなる、と七音が呟いた。本当にいいのかとトランスポーターは繰り返している。壊理はそれでもとゴーストに向き直った。

「お願いします」

「僕でいいのか。君に酷いことをしたのに」

「こういうのは、ゴーストさんが一番信用できるんです」

 そうか、とゴーストは壊理の頭に手を当てた。一瞬だ。彼はそう言った。

「はい。皆、またね」

 ゴーストは壊理の記憶を消した。個性関係の事は暈して、「個性の集い」に関する記憶は全て消去した。ついでに、死穢八斎會の構成員のあの日とそれ以降の記憶を操作した。叶は壊理を眠らせ、共に転移する。残された面々は壊理に関する思い出を叶が帰るまで共有し合っていた。

 叶は帰還すると、さっさと一同を303号室に転移させた。

「無期限の活動停止について協議するわ」

 この後、全会一致で可決されたことは語るに値しないだろう。こうして、ゴーストたちは各々の日常へ帰っていった。

 


 

 以上、回想である。今日もまた、認識阻害を見に纏った少年、否、青年は街を彷徨う。無意味な犯罪行為からは足を洗った。もはやする意味がないからだ。但し、脱税はする。七音の脛を齧れば万札程度いくらでも啜ることが出来るが、癪に障るのでそれをしていなかった。故に、バイトを掛け持ちするその日暮らしである。

 また、彼は月双沙羅を引き取ることになった。確実に対処できるのは自分くらいだと自らその役に立候補したのだ。実質同棲しているが、彼にも彼女にも全くその気は起きなかった。ただ、互いに話が出来るまで毎日食卓を囲んでいる。何か理由があったのだと彼は確信しているようだったが、誰にもそれを言うことはなかった。

 青年はまた、何時しかの事を想起する。そして、もごもごと呟いて踵を返した。数週間前に購入したスマホに、出席日数が足らずとっくに除籍された高校名を打ち込む。文化祭は今日が最終日だった。

 

 正門には手作りのアーチがあった。色とりどりのペンキで『原色祭』とレタリングされている。その向こうには、クラスTシャツだろうか。やたらとけばけばしい配色とデザインの服を纏った集団がいくつも行き交い、校庭のあちこちから威勢のいい呼び込みの声が飛んでくる。何かが焦げる香ばしい匂いと、化学的な甘ったるい香りが混じり合う。青年の自分は部外者だという意識が、その事実が楽しげに笑い合う生徒たちの輪郭を鮮明にした。彼の眼にはその熱量が酷く眩しく映った。

 青年は人混みを避けるように校舎の隅を歩いた。様々な屋台が彼の目に入る。原色祭は金券制である。青年はそこらで拾った足跡の付いた金券を見つめた。そして、いつの間にか手の中にあったパンフレットを開き、使えそうな出しものを探す。結構多いと彼は思った。それだけ食品系の出し物が多いのには理由があった。現在は二十二世紀。技術の発展により、衛生管理のハードルは著しく下がった。高校生が自分たちの懐に金が入ってくる可能性が欠片程だが存在する食品系の出し物を選ばない訳がなかった。青年は結局、二階のFでやっているカフェに行くことにした。

 青年はそこまで長くもない行列に並んだ。彼が一人分の距離をじりじり詰めてと教室へ入ると、おしゃれなカフェにありがちな装飾がそこかしこに散りばめられているのが目についた。準備に時間が掛かってそうだなと思いながら、金券を握りしめて自分の番を待つ。やがて、その時はやって来た。

「注文お伺いします!」

「じゃあ、コークとパンケーキ一つ」

「金券頂戴いたしますねー!」

 彼は金券三枚を丁度使い切った。と思われたが、二枚でいいと言われた。どうやら割引中らしかった。コークに氷は入っていなかった。その後、彼は予想通りのクオリティに舌鼓を打って、壁に貼られたQRコードからSNSで拡散に協力した。認識阻害を再展開し、教室を出る。誰に聞かせるでもなく、じゃ、と呟いて彼は海に落としたアクセサリーのようにすっと消えた。

 その手を誰かがつかんだ。

「は?」

 ベールに罅が入り、次の瞬間砕け散った。真実を乱反射し輝く虚構の破片の中心には、エメラルドの瞳があった。

 中経夢。個性、「探しもの」。

 

「見つけた」




 やあ、完結したよ。完結したよ! 完結したよ!!!
 こんなの推理もクソもないだろって? そうだよ。個性なんてものがある世界で成り立つ訳ないだろ。けど、推測は出来たかもしれない。反省点は、『翹望』に必要な情報を詰め込み過ぎたって事かな。
 主人公については結構伏線張れてたと思う。うん。探してみてね!

 最後に、今までご愛読ありがとうございました。拙作をここまで読み進めてくださった方々には感謝が尽きません。もし楽しんでいただけたのなら幸いです。
 友人にはこれヒロアカじゃなくても良くねとも言われたのですが、概念系のぶっ壊れ共を書きたかったのと壊理について深堀する作品が少なかったので、書かせていただきました。
 私の作風は二次創作ではなくオリジナル向きな気もするので、今後はそっちも書きたいと考えています。後、更新停止してるダンまちの二次のリブート版も。
 では、そういう訳で。またどこかの作品で会いましょう。

P.S.モチベーション等の理由より、感想や評価を募集しています。まだ解説編があるので。

この展開はどこまで予測できた?

  • 全部
  • 叶が偽物
  • 主人公が死んでる
  • 叶とナガレボシに関係がある
  • 何もわからねえ
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