アニメ第二シーズンよし!!
漫画原作よし!!
新聞配達のアルバイトは正直に言うと辛い。
毎朝早くに家を出て、借りた自転車で家々を巡り、現れた殺し屋を撃退する。
「うぉぉぉ!!目指せ借金返済!!」
「•••んじゃ普通に働けよ」
戦闘の序盤は殴り合いで始める。これによって、相手の意識を殴り合いにのみ集中させる。
決め手となるのは相手が拳を突き出した瞬間だ。
頭を後方へ傾けて拳を避け、右足を伸ばしたままつま先で相手の胸に当てる。
「ーーっ!?」
もちろん当てただけでは意味がない。だから、ここに一捻り加える。
当てた足を、捻りながら蹴る。
原理としてはコークスクリュー・ブローに近い。
その場から弾き飛ぶ殺し屋、壁にぶつかりそのまま気絶していた。
「•••これで5人目か」
今ガチ第一話撮影から、通算5人目。
数は減っているが殺し屋の質が上がりつつある。
ターゲットの知名度と殺連への危険性の高さによってやってくる殺し屋のランクは上がる。
このまま知名度を上げていけばORDERが来る可能性は高くなる。
もし来なかったとしても、1番所在不明だった赤尾リオンの情報が手に入るかもしれない。もちろんツクヨミの嘘の可能性も高いが、赤尾リオンの名を知っているからには、彼女の親族あるいは殺連やJCCとの関係があると見て間違いないだろう。毒をくらわば皿まで、今は恋愛リアリティーショーで知名度を上げ、最後まで演じきるしかない。
デデンデンデデン〜デデンデンデデン〜(ターミネーターのテーマ)
スマホが鳴った。嫌な顔をしながら相手を確認し、また嫌な顔をしながら通話ボタンを押す。
「••••もしもし『あ、雪代くん。社長が君に雑誌撮影の仕事くれたんだけど、来週の水曜日って暇だよね?』••••なんでお前俺のスケジュール把握してるんだ。まぁ拒否権はなさそうだし、やる」
『へっへ〜君を芸能界に引き入れたのは私だよ?特別にスケジュールを見させてもらってるんだ••••恋愛リアリティーショーに出るのは私も予想だにしてなかったけどね』
「オフで監督と会ってな•••恋愛なんてする気はないけど」
『ーーえ、マジ?』プツッ
話し終えたら間髪入れずに通話を切る。
なんか言っていたか?と思いながら烏有は新聞配達のバイトに戻った。
「•••とりあえず安心ってところかな?」
フリルは割れたスマホを握りしめながら、大型テレビで今ガチ第一話を何度も何度も見返していた。問題のシーンは烏有を見つめる玉内鞠菜が烏有に粉かけるシーンである。
ちなみに初見時にはスマホの画面にヒビが入った。
運転していたマネージャーの胃袋に黙祷。
フリルは思った。
あれは私にそっくりだ、と。
彼女には別の目的があって、彼を踏み台にしようとしている。
そんなことはさせない。
というよりもできるわけない。
烏有はこの私でさえ手を焼くほど底が知れない後輩だ。水面から底に落ちている宝石に手を伸ばしたら、底だと思っていたそれが実は巨大な怪物の背中だったみたいな、そんな風にしか言い表せないのが雪代烏有だ。
それに、彼は私の獲物だ。
横取りなんて絶対にさせない。
今思えば烏有に固執してたと、後にフリルは語る。
『•••』
スマホのカメラから誰かが見ていることに気づかなかった。
◀︎
時間は進み、今ガチの収録も何回か行われたころ。
今年は梅雨が短かったためか、すでに夏の気配がしていた。
地元の祭りに今ガチメンバーは参加し、金魚掬いに輪投げ、ビンゴゲームなどの出店を巡り渡り、射的の屋台に足を運んでいた。
銃は店主がコレクションから持ち出してきたモデルガンだった。一般的なコルク銃を使った射的ではなく、威力をできるだけ抑えたペイント弾、このペイント弾で的を撃ち、得点によって貰える商品が決められるそうだ。
銃種はハンドガンからショットガン、アサルトライフル、スナイパーライフルなど。
「うわ〜最近の射的ってすごいね〜!!」
「うわかっけ〜!!俺映画の悪者みたいじゃね!?」
「うん主人公にやられるモブみたい」
「酷くね!?」
それぞれが慣れない銃を手に取り、的に向かって撃つ中、烏有はハンドガンを手に取る。
MEMちょやノブが周りに集まり、スタントマンの実力に注目し出す。
カメラも向き、烏有の姿を映し出す。
「やっぱ烏有に銃似合うな•••」
「ウユたんの撮影でも銃使うの?」
「•••俺が使うのは弾抜いたモデルガンだな」
「へ〜それじゃ用意はいい?3、2、「カチャ!」 1!!」
ドドドドドンッッ!!
片手撃ち。
これは片腕が使えなくなった場合に使う撃ち方。だが片手だと銃の保持が甘くなり、取り落としてしまったりする危険も多くなる。 片手だけで反動を受け止めるので、疲れやすくなり長期戦には向かず、反動を受け止めることが出来ずに照準が狂ったり、動作不良を起こしてしまう可能性も高い。
それなのに••••
「ど真ん中全弾命中!?」
「すげぇ!!!」
烏有はどうって事はないが、カメラに取られていることに気づいているのでニヤリ顔を決めておく。
(なお、同居人たちや勢羽にはイジられることにはなった)
MEMちょは後ろにいた少年にも声をかける。
「アクたんは〜?」
「•••いや、遠慮しとく」
星野アクアは他の屋台も見てくるといいその場を立ち去る。
だが烏有には別のものが見えた。
(青い炎•••?何かトラウマがあるのか•••?)
▲
「う、うぅぅ••••おぇ•••」
トイレの個室。
そこに一人の人物がいた。
名前は星野アクア。
本来の世界線では母親の仇を探すために躍起になって出演していたこの男は、この世界線ではあるトラウマを抱えていた。もちろん元の世界線でもトラウマを抱えてはいたのだが、この世界のソレは比較にならない。
バンッ!!!
ドームライブの日、アイは何者かに腹部を撃たれて死んだ。
銃声で玄関に飛び出すと、信じられないものを見る表情を浮かべたアイと絶望したような表情を浮かべた黒ずくめの人物がいた。
銃創から流れ出すドス黒い血の、むせかえるような鉄錆の臭いが吐き気を催してくる。
『ごめん、ね、ーーも本当に愛したかったのに、私がーー置いてったから•••ごめんな、さい••••』
『ーーアイ?アイ!!』
『ーーーご、めんな、さい•••』
『あ、あ••••ああああああああああ!!!』
この世界のアイは子供たちに愛を伝える前に死んでしまった。
死因が素人ストーカーによる刺突ではなく、最狂の殺し屋の銃弾によるものだろう。ドームライブを目前に控えていたアイドルの射殺事件。この事件は世紀の大事件として1ヶ月もテレビに取り上げられた。本来なら殺連によって情報操作されるはずだったが、上層部が星野ユキにより一掃されたことから鎮火するまでに時間がかかったのだ。
なお、この事件のおかげでアルカマル襲撃があまり目立つことはなかったのは特定の2人にとっては有り難かっただろう。
苺プロダクションの社長は失踪。
B小町は解散。
妹は事件後落ち込んでいたが、今ではすっかり立ち直っているように見える。
だが俺はーー僕は違う。
「アイ、待ってて•••僕が仇を取るから•••」
法の裁きなど生温い。
アイの新居を密告した父親とアイを殺したヤツを見つけ出して、生まれたことを後悔させるくらい凄惨で惨たらしい死をくれてやる。
「••••」
その様子を見ていた者がいるのにアクアは気づかなかった。
▽
時期というのはあっという間に過ぎていく。
「••••私、もう『今ガチ』辞めたい」
「「「ええっ!?」」」
夕暮れに染まった教室を舞台にして、鷲見ゆきが目元に涙を溜めながらそんな言葉を吐露した。
「こんな途中で!?」
「なんでそんな事言うんだよ!」
「最近ね、学校の男子とかが揶揄ってくるんだ。お前こういう男が好きなんだーとか。自分の『好き』って気持ちを皆にみせるって、こんなに怖い事ないよ。始めるまで全然わかってなかった。大勢の人に注目されるって良い事ばかりじゃない•••」
「メムも自分のチャンネルでバカやってるから、分かるな〜•••皆私のことバカだと思ってて•••実際バカなんだけどぉ•••ウユたんはどう思う?」
いきなり話を振られたので、数秒考える烏有だが直ぐに口を開いた。
「•••率直に言うけど、ここで諦めるくらいの覚悟で来たのか?」
「え?」
「所詮人間は倫理という皮を被った獣。学校やSNSは公園のドッグラン。束の間の、仮初の自由を与えられて自分中心に世界が回っていると思い込んでいる連中の、無敵ムーブできると勘違いしただけの哀れな連中の陰口くらいでへこたれるなよ」
「ちょちょ!!?」
「うわ〜•••ウユたん容赦ない」
烏有はSNSを見ない。
数年前までロシア極東の港町に住んでいたのでWIFIも知らなかった。
だからこの手の問題は烏有にあまり関係がない。
「けどまぁ•••あくまでこれはお前の問題だ。俺ら第三者が決めることじゃない••••だからお前が決めろ」
烏有はゆきのおでこに右手を伸ばし、中指を内側に丸め親指で押さえ、中指に伸ばす力を精一杯込めた状態で額を狙い、親指を離し中指を解き放ち、相手の額を弾く。
「出演するのはお前•••やるからには覚悟決めな」
「ーーっ!!」
「烏有の言う通りだぜ!!ゆきが辞めるなら俺も辞めるから!頑張るのは辛いかもしれねーけど、一緒にやろうぜ!!」
「うん、私•••」
『今ガチ』は視聴率を順調にあげていった。
ゆきの番組やめる発言は今ガチの視聴者に新たなエンタメを提供した。それにゆきとノブユキのカップリングが注目を浴び、番組の中心になり始めた。そこへ更に森本ケンゴが嫉妬心を見せる事で三角関係が成立。ゆきというゲームメーカーが機能し、その小悪魔っぷりが番組を盛り上げ、人気を獲得していった。
一方で、毒舌イケメンの烏有とお淑やかな鞠菜のカップリングは顔の良いカップルとして人気となり、2人の業界内での知名度をあげていった。
そんな中•••
「落ち着けーーポキっ!!「いっっ!!?」ーーーん?」
烏有、黒川あかねの骨を折る。