【死神の子】    作:ランハナカマキリ

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1ヶ月ほど小説を書き溜めるために休載しようかなと考えています。


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烏有のマンション。

正座し、首から『私は女優の骨を折りました』と書かれたパネルをぶら下げた烏有とその前に大樹と朧、食事の支度をするリサがいた。

 

「とりあえず、理由を聞こうか」

「•••いや、悪気はなかったんだ」

 

烏有は弁明を始めた。

 

 

 

 

 

事の発端は数時間前、撮影中に騒動が起きた。

今ガチに出演していた黒川あかねがゆきに手を上げようとしていた。

 

その時、止めようとあかねに手を伸ばす烏有の頭の中に3通りのパターン(殺し方)が浮かんだ。

 

グッ!!ボキ!!!

 

一つ、首の骨を手刀で折る。

殺しはダメだ。

 

ブスッ!!!

 

二つ、彼女の頭を手刀で突き刺す。

殺しダメ絶対。手も汚れるし嫌。

 

バキィ!!!

 

三つ、殴る。

シンプルイズベストキル•••いや、殺しはNG。

 

 

とりあえずどうする?

 

 

 

••••愚直に止めるか。

 

そう考え、彼はあかねの手首を掴む。

 

「落ち着けーー」(あれ、思ったよりも細い•••)

 

ポキっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーで、今に至ります」

「なるほど••••ていうか烏有が黒川さんの骨折ったところは編集されてるけど、黒川さんがゆきさんを叩こうとしたシーンは放送されてるからめっちゃ炎上してるな」

 

ネットは火の海と化していた。

 

「•••理解に苦しみますね。なぜ人間は不利な立場にいる人間を傷つけるのでしょうか?」

「おい朧、プチミッションだ。この問いに答えてみろ」

「は!?えっと••••集団の力学、かな?」

 

集団の力学、正式名称グループダイナミックスとは、集団における人々の思考や行動等を研究する学問領域である。その中で、集団に属することによって個人の責任感や罪悪感が薄れる傾向がある。また人間は、集団に属する中で、自分と異なる意見や行動をすることで、孤立するのを恐れるのだ。ゆえに一緒になって責めることで自分が孤立しないようにするのだ。

 

『黒川あかね今ガチにいらねー』

『俺が殺してやるぜ』

『家を特定しろ』

『死体を晒せ』

 

大樹に見せてもらったスマホの画面を見ながら、呟いた。

 

「人殺せる度胸もないくせに寄って集ってーー慣れないな、こういうの」

 

ぴんぽ〜ん•••

 

「ん?」

『お届け物で〜す』

 

自分の部屋のポストに2つ荷物が来ていた。

1つは中にゴルフバッグかエレキギターでも入ってるんじゃないかと疑うほどに大きな段ボール。送ってきたのは勢羽だった。

そしてもう一つは•••

 

「•••玉内から?」

 

それは招待状だった。

 

【バレエ『死神の死』へのご招待】

三日後の深夜10時、△区▽町〇〇番地□□□ビルの屋上にて。

雨天の場合でも開催いたします。

 

お代は貴方の命。

キャンセル料金は貴方の同居人の命。

 

 

 

 

気付いている。

俺の正体も、同居してる仲間たちのことも。

あの女、只者ではないとは思っていいたが•••

 

(同業者か?•••いや、そう思えない。アイツが初日に見せた殺気は殺し屋のソレじゃなかった。とりあえずどうする?無視すれば正体がバラされかねない。ここに来て降板されたらツクヨミから赤尾リオンの情報が手に入らない。仮に玉内がツクヨミの言っていた面白い子ならこれくらいできてもおかしくない)

 

そして何よりもーーー

 

「舐めやがって••••乗ってやる」

 

 

 

 

 

 

 

三日後•••

 

雨が強い。

 

風が強い。

 

沖縄方面から九州、四国、近畿、そして関東へとやってきた台風の影響だ。今年は春から暑く、海面温度も高かった。海面の水を吸い上げて成長する台風は例年よりも強力なものとなっている。世界的に見て働き者の日本人もこの日は休日となり、夜になると建物や車を大粒の豪雨と強力な風が打ちつけていた。

 

そんな夜中に、烏有と鞠菜はいた。烏有は招待状に書かれていたビルの屋上にある塔屋に、鞠菜はビルの屋上ーー雨の降りしきるステージで踊っていた。

 

恐らく『Les Misérables』だろう。

 

Les Misérablesーーレ・ミゼラブルとは1862年に出版されたヴィクトル・ユーゴーの小説である。

 

1斤のパンを盗んで、窃盗と脱獄未遂の罪によって理不尽にも19年間の監獄生活を送ることになったジャン・ヴァルジャンが、ミリエル司教の無償の愛にふれたことをきっかけに改心して、"正しき人"になるために生涯をささげようとする物語である。不幸のどん底で亡くなったファンティーヌから遺児のコゼットを託されたことから、コゼットを実の娘のように大切に守り育てていくが、結果としてこれがジャン・ヴァルジャンに親としての愛と幸福をもたらすことになった。

 

これは、ひとりの徒刑囚が偉大なる"正しき人"として生涯を終えるまでの物語であり、その底を流れているのは、永遠に変わることのない真実の"愛"である。

 

その物語の悲壮感と幸福感を鞠菜は全身で表現していた。

 

雨の音に混じって、彼女が持ってきたミュージックプレイヤーの音楽が聞こえてくる。最後に上半身を空に仰ぐように広げ、音楽が止まった。

 

パチパチ、と烏有の拍手が小さく響いた。

 

鞠菜は頭からつま先まで雨に濡れて、滴を滴らせながらニッコリと笑って濡れて足に張り付いたスカートを広げてお辞儀した。

 

「私は父の財閥の跡取り娘として教育されていたの。文武ともに秀て完璧な、才色兼備な跡継ぎとして育てられた」

 

「当時、私はバレエが好きだったけど、学習塾に行かないといけなかったから辞めさせられた。初めて父に反抗したけれど、家の地下室に折檻された。その日から私は親の言う通りに動くお人形になることに徹したわ」

 

「でも8年前のあの日ーー運命が変わったの!!」

 

顔をあげ、目を見開き、アメジストのような紫色の瞳をギラギラと輝かせた。

 

「耳をつんざくような悲鳴で目を覚ましたわ。ベッドから降りてドアを開けると、廊下は血の海になっていた。自分を世話してたメイドも、教育していた執事も、無愛想な警備員も皆恐怖で顔を歪めて死んでいた。私は最初は恐ろしくって、血に濡れていない箇所を渡っていった」

 

触れてはいけない、踏んではいけない箇所を避けながらつま先で歩いて行く。

 

「つま先から足をつけ、またつま先から足をつけ••••そうしていくうちに、私の中にバレエを習っていた時の楽しさが蘇っていったの!!」

 

彼女の顔には狂気さえ感じる笑みが浮かんでいた。

 

「そして、誰かを下敷きにしたシャンデリアが落ちていた大広間に辿り着いて•••階段の上から父親の首が転がってきたの」

 

血を流す首なしの死体。

 

それを踏みつけるのは、血濡れた大鎌を持った、月光に照らされる恍惚とした表情を浮かべた血まみれの星野ユキ。

 

「あの時、心を奪われたの!!『あぁ•••なんて狂おしい(美しい)殺しなの』と•••!!!あの日から、殺してもいい人間ーー犯罪者や死刑囚を屋敷の地下に監禁し!目の前で公演(殺し)をして!!心が満ちていったの!!!」

 

 

烏有は顔を顰めながら、ユキに教わったことを思い出していた。

 

『生きるために殺すのではなく、殺すのが日常の人間ほど厄介な連中はいない』

 

目の前にいる女は後者側の人間だ。

 

「•••まともじゃないな」

「えぇ、まともじゃないわ•••このテレビに出たのは貴方の出ているドラマを見た事がきっかけよ。貴方の動きは、まるであの人と同じだった。そんな貴方に会いたいと思って、芸能界に入った」

 

まさか恋愛リアリティーショーで会えるだなんて思わなかったけどね、と彼女は言った。

 

「この恋愛リアリティーショーで出演した数ヶ月•••••••私は貴方を見たわ。そしてこの前のあかねさんの事故の現場を見て、落胆した」

 

心底軽蔑した目で烏有を見下ろす。

 

「貴方は人を殺さない。殺せるのに殺さない。なぜ?死神の子と呼ばれていた貴方が何故そんな枷を?そんな貴方には•••あの人の異名を継ぐのには相応しくない!!」

「別に死神の名に拘りはないが•••お前みたいなのに相応しくはないな」

 

 

烏有はブルー•ブラッドを取り出し、鞠菜は爪先立ちをして構え••••

 

 

 

ティロン!!

 

っと、2人のスマホが鳴った。

これは黒川あかねが『ご飯、買ってくる』とグループに書き込んだものだった。

そしてーーーーーー

 

 

ガギンッッ!!!!

 

烏有のリボルバーを構えた片腕が、鞭のようにしなった鞠菜の脚と激突した。

 

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