ガキンッッ!!!
雨の中、両者が一瞬で距離を詰める。
ナイフを突き立て蹴りを防ぐ左腕と、ナイフの刃を削りしなやかに蹴り上げた右脚が火花を散らせた。
一方その頃、アクアはMEMちょと通話していた。
『あかねこの嵐の中外に出たみたいで!!みんなでやめろって呼びかけたんだけど、なんの返事もないの!!アクたん探すの手伝って!!!』
「分かった•••というか、未読になってる2人ってーー」
『ウユたんとマリたんだよ!!早く気づいてくれたら良いんだけど•••もう夜遅いし寝てるのかな•••」
時は子の刻、寝静まった街の小さなビルの屋上で激闘は繰り広げられていた。
ガキンッ!!
ナイフを蹴り砕かれ、隣の建設途中のビルの屋上に落下する。烏有はこちらを見下ろす鞠菜に向かってナイフの持ち手を投げ、皮一枚で鞠菜は避ける。たらっと流れ落ちる血をペロリと舐めながら、烏有の方を向き直しーー
建設途中のビルに置いてあった鉄パイプが彼女を叩く。
だが、その鉄パイプをアラベスクから上体を前に倒しながらそり、高く上げた片脚で止めていた。
(コイツの動き、格闘技じゃないーーバレエか)
「ーーふっ!!!」
『グラン・フェッテ』
片脚を鞭に見立て、空中で鞭打つように振り動かす技。
猛スピードで繰り出される蹴りによる回転力が、鞠菜の体重を完全に殺していた。
そして何よりも軸、バレエにおいても武道においてもバランスを保つことが非常に重要であり、鞠菜のバランスを保つ足腰は人並みではない。
それらを利用する上に勢いよく絞り込むようなダイナミックな回転は凶器となっていた。
ガガガガッガガッガガガッッガッッッ!!!!
鉄パイプとチタン製のバレエタイツがぶつかり火花が散る。
「ーーーちっ」
「あら?貴方の演目はもう終わり?」
パイプを両手で持ち、相手の蹴りを受け続ける烏有はこの形勢をひっくり返す機会を伺っていた。
鞠菜の回転が緩んだ瞬間、パイプを彼女の足の後ろに引っ掛け、そのまま太ももの位置から正面側にパイプを絡め出す。
「ーーふっ!!」
相手の動きを抑えこみ、自身の体重と2本の足の脚力を地面にぶつける。そうすると与えた分の衝撃は自分に返ってくる。このことを作用・反作用の法則と言い•••
ドオォン!!!
中国武術ではこの法則を利用した技を『発勁』という。
鞠菜はこの発勁により内臓を揺らされーーはせず、体を捻り地面に全体重と脚力を加え、烏有の胸に手を当てて、烏有の発勁×自身の発勁を、逆に烏有に受け流した。
「っっっっ!?」
「予想通りってところね。貴方はどんな外傷にも全く怯まずに動いていたけれど、内側からの痛み、内臓への攻撃は十分に効く。貴方が私に食らわせようとした発勁は内臓への衝撃をメインとした技。逆に利用されるなんて思ってもいなかったでしょうね?」
「•••ペッ‼︎」
悔し紛れにコンクリートの地面に血を吐き捨てる烏有。
「今度はこっちの番よ!!」
ガァンッ!
鉄パイプを手放し、空いた手で鞠菜は烏有の顔面に拳を叩きつけた。
「ーーっ!!」
鼻っ面を殴られた烏有は反射的に目を瞑る。そして2発、3発と連続で殴られ続け、鼻血が烏有の半面を覆い尽くした。
「••••ちっ!」
「ほら、さっさと起きなさい。それとも寝ちゃう?」
ブオンッ!
鉄パイプを拾うと同時に、烏有の胴体に横一閃で薙ぎ払う鞠菜。
それを素早く体を反らし躱すも、逸らした勢いに鉄パイプの遠心力を利用し、今度は逆方向から横一線に薙ぎ払う鞠菜。
「がはっ!!」
(こいつ•••棒術にも精通してやがる)
烏有は鞠菜の連撃に防戦一方だった。
「•••っ」
「あら?もう限界かしら?貴方、まだ本気を出していないでしょ?」
ガァンッ!ガァンッ!ガァンッ!
「っ!」
烏有はもう一本のナイフを鞠菜の頭めがけて振りかざす。
シュッ!
「あら?」
寸前で躱す鞠菜、その隙を逃さない。
(ここ!!)
だが、烏有は見落としていた。
その一瞬の隙こそが鞠菜の狙いだったのだと。
かんっ!!
「っ!?」
鞠菜は烏有が振りかざした鉄パイプに、半回転の蹴りを当てる
この技自体はボクシングで言うところのジャブに近いが、衝撃はその比ではない。
さらにそこに自身の体重と遠心力を加えている。
鉄パイプに伝わった衝撃は、そのまま烏有の腕に跳ね返る。
「ーーっ!!」
ドサァッ!
烏有はその場に倒れこみ、手を抑えながら悶えた。
その隙を逃さない。
ガッガガッガガッッガツッッ!!!!
今度の『グラン・フェッテ』は鉄パイプを杖のようにして相手と自身の間にパイプを挟み、そのパイプに自身の体重と回転力を上乗せし、相手の体へ直接打ち込んだ。
「ぐっーーー」
烏有は鞠菜の蹴りにより吹き飛ばされ、地面に体を横たえた。
「貴方の敗因は二点」
鞠菜はパイプを烏有の首元に突き付けながら言う。
「一つ目は私を舐めたこと。二つ目は、貴方が弱いこと」
「貴方みたいなのが、二代目死神を名乗るのは許せないーーごめんなさいね」
『アティチュード・ドゥヴァン』
アティチュードとは片方の脚を軸にして立ち、もう一方の脚は膝を約90度に曲げて脚を持ち上げて保つこと。アティチュード・ドゥヴァンは前方へ持ち上げた足をそのまま保つポーズ。
高速回転による遠心力を加え、前方に素早く蹴り出された一撃が、烏有の肝臓を破壊した。
「っぐはっーーー」
烏有は血反吐を吐きながら空中に投げ出され、ビルの合間の隙間に転落した。
ドコッ!!ガンッ!!ガキンッ!!!
「さようなら•••雪代烏有」
彼女はその場を立ち去ろうと背を向け•••
コロス
一瞬のうちに彼女の手足が斬り刻まれ、背後から刺された刃が内臓をズタズタにし、漆黒の色に染まった無数の骨の腕が首を絞め、背後に現れた髑髏が一瞬にして彼女の首を大鎌で斬り落とした•••
「ーーーーーーーーぅぅ!!!?」
•••ような殺気が背後から溢れ出した。いや、やっと気付いたといった方がいいのかもしれない。降って沸いた物というよりも、まるで最初からそこにあったかのような••••子供の頃に怖がった、暗闇から覗いてくる"何か"が姿を現したかのような殺気が、凍てつく氷のように鋭く温かみのない刃を身体中に刺されたかのように、鞠菜に襲いかかった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ••••」
息が苦しくなる。
いや、身体の機能がどんどん低下していく。
「••••悪い、少し舐めてた。お前もよくいる自意識過剰なやつじゃないかと思ってたんだが、強い信念があったみたいだ。ならばこちらもーー」
震えながら、後ろを見ると•••腹や脚から血を流し、約1.5メートルほどの大鎌ーー柄部長150センチメートルの柄、黒い布で持ち手を覆い、命を刈り取るような形状をした刃部長さ80センチメートルの刃、鎌刃と柄の間には金属製の烏ーーを持った烏有が、赤い虹彩と黒い結膜の瞳で、暗闇になったこの場に立っていた。
「ーー本気で戦わせてもらう」
目の前に刃が光ってーー
「速ーー」
■
少し離れたところにある道路•••ちょうど、
その荷台の上に、2つの影が落ちてきた。
影ーー鞠菜は今になってかんじはじめた雨による寒さと目の前の男から放たれる濃厚な殺意によって震えていた。
「••••••」
鞠菜は恐怖で身体が動かなくなっていた。
「••••どうした?」
烏有は大鎌をクルクルと回転させ、刃を下に向けながら、鞠菜の目の前まで歩いてきた。
「っ!!」
鞠菜は『死』の権化である烏有に、最善最速の蹴りを放った。
しかし、その攻撃が当たることはない。
「遅い」
烏有が、鞠菜の右下腹部から左胸部までを大鎌で斬り上げた。
「ーーーっは!?」
傷は、浅かった。
「•••どういうつもり?情けをかけるつもりなの?」
「"貴方は、人を殺さずに生きて。それが貴方への私の願い"•••母さんの最期の言葉だ。俺はその言葉に準じて日本に来た。これから先も、準じるつもりだ」
「わ、分からないわ!死に追い込まれて!!相手を鏖殺できる才能を持っているのに!!所詮は他人の言葉を何故そこまで!!?」
彼女には分からなかった。
家族といえど、所詮は他人。
そう思って生きてきた。なのに、目の前に立つ死神は他人のはずである
いったい何故?何故貴方はそこまでして他人からの
「"この世で最も暗いのは無知の暗闇だ"」
「は?」
烏有は口を開いた。
だが求めた回答では無かった。
何を言ってるのか分からなかった。
「•••シェイクスピアの言葉だ。お前には、俺はどう見えてる?」
「どうって••••何も、見えない。ただ暗くて•••」
「そうか•••これで知れ。俺という人間を」
何も言わず烏有は構えを取る。
体を限界まで捻り溜め、大鎌の柄の先を持ち、大きく仰け反った。
片手を照準に、片腕に力を込め始める。
それは星野ユキが失敗作と呼び、人間相手への使用を禁止した技。
追っ手として送られてきた殺連の亡霊、
ズバンッッッ!!!!
『え〜速報です。深夜11時ごろに都道〇〇号線付近で大型トラックの荷台が、