『オオオオオオオオオオオッッ!!』
「うわあああああああっっ」
背に人の重みを感じながら、僕は疾走する。追跡者は牛頭人体の身体を持ち、その巨躯に見合わぬスピードで僕を追跡している。
なんで、こんなことになったんだろう。
村を出て、親切な行商人のおじさんにオラリオ行きの荷馬車に乗せてもらった所までは良かった。
ダンジョンや街で英雄譚のような冒険を繰り広げて、可愛い女の子に出会って、ハーレムをつくってみたり......そんなことを考えていたから、天罰が下ったとでも言うのだろうか。
近道の森を通っているとき、唐突にこの
「っ!」
「ぐぁっ!」
地面に露出していた根っこに引っかかってしまい、背に抱えていたおじさんを落としてしまう。土台、
「坊主! 俺のことはいい、逃げろ! どのみちあんな怪物に出くわしちまった時点で誰か生き延びるだけでも御の字ってもんだ!」
(確かに、この人を置いて行けば僕だけは助かるかもしれない......)
つい、そんなことを考える。
後ろには怪物。
ここからおじさんを再度抱えて逃げ出すのはどう考えても不可能だ。だけど......
(それじゃあ、
足元には、幸運にも護衛の冒険者が持っていたはずの大振りのナイフ。ここまで弾き飛ばされている時点で、ミノタウロスの怪力が分かる。
後ろを向きながら素早く手に取り、おじさんの前に立ち、不格好ながらもすぐ近くに迫っていた怪物に構える。
(魔石だ、魔石を狙うんだ! どんなモンスターでも、魔石を砕かれれば死ぬ。そうすれば、僕でも勝てる!)
あまりにも無謀な作戦。あの怪物の動きに合わせて胸にあるであろう魔石を突く。
(だけど、やるしかない......!)
『ヴゥオオオオオオォォォォ!!』
その恐ろしい雄たけびたった一つに捻じ伏せられた。
あまりにも存在の
そう分からされるほどの
すでにナイフは手から落とし、ただただ硬直することしかできない。まだ意識があるのが奇跡的だ。
『ヴォオオオオオオオオオオ!』
すでに怪物は突進の構えを終えていた。その角をこちらに向け、風圧で吹き飛ばされそうな速度で突進してくる。
ーーおじいちゃん、ごめんなさい
ーー僕は英雄どころか、冒険者にもなれずに死にます
ーーあなたが誇れる僕には、なれなかった
ミノタウロスが僕に
僕の目の前に、
「......大丈夫か?」
うなじを覆うほどの獅子色の髪、そして同じ色の瞳。
端正な顔立ちは、精悍さと秀麗を兼ね備えている。
全身は黒のコートで覆われており、想像できる体付きは頼りなさとは無縁だろう。
そして、ミノタウロスの突進を防いだ大長剣はビクともしていない。
(......騎士?)
そう思わせるほどにその人の姿は様になっていた。まるで御伽噺に描かれる騎士のように、
「怪我はないようで何よりだ。冒険者がこちらに吹き飛ばされてきたときは遅れてしまったと思ったが......君のおかげで1つの命が救われた、感謝する」
その言葉に僕は魚のようにパクパクと口を開けることしかできない。あの咆哮が予想以上に効いてしまっていた。
『ヴ、ヴオオォォ......』
あの
「さて、本来は生け捕りにして調査をするところだが......この場には守るべき者がいる。万が一を考え、ここで始末することにしよう」
そう言った次の瞬間、ミノタウロスは縦に分断され、騎士の剣は背にしまわれていた。ミノタウロスは何が起きたのかすら分からない顔をしながら、魔石を残して灰になった。
あれ、なんだか意識が......安心したからか、目の前が暗くなって......
「レオン先生! 速すぎますよぉ~」「ニイナ、......にも回復を頼む」「はい、......先生! ......の子気絶してますよ」「ミノ......咆哮をもろに......がない」「............
...
......
.........
............
「ん、うぅ......あれ、ここは?」
「あっ、レオン先生! この子、起きましたよ!」
目を覚ますと、場所は鬱蒼とした森から平原に変わっていた。体の下には上質な布のようなものが敷かれており、つい先ほどまでここで寝ていたのだろう。
目の前には、女の人。
髪は背中辺りでリボンでまとめられており、茶褐色の長髪。
耳は尖っていた。これは......エルフ!
全身は白色の貫頭衣のようなものに覆われている。その......ボディラインが割と見えていて、直視できない。
そして何より、
(か、可愛い......!!)
村で過ごしていた僕ではまずお目にかかれないほど可愛い女の子に、僕は顔を真っ赤にして慌てふためいた。
「そうか、良かった。それで、君の名前を聞きたいんだがいいかな?」
「はっ、はい!」
慌てていると、次に現れたのは僕を助けてくれた騎士のような人。英雄のような騎士に、めちゃくちゃ可愛いエルフの女の子。なんだか、夢を見ているようだ。
「僕はベル・クラネルと言います! その......護衛の冒険者の人とか、行商人のおじさんってどうなったんですか? なんだか姿が見えなくて......」
「彼らは先に目を覚ましたので、近くの街に送り届けた。繰り返しになるが、彼らが生きていたのは君のおかげだ。感謝する」
騎士みたいな男の人......レオンさんって名前なのかな?に答えてもらって安心した。良かった......生きてて
「それで、ベル・クラネル君。不躾な質問で悪いんだが......そのクラネルという性は御両親のどちらのものなのかな?」
「えっと......僕、両親のことはあまり知らなくて。おじいちゃんと一緒に暮らしてたんですけど、あんまり聞いたことがなかったんです」
そう答えると、そうか、すまなかったと言ってレオンさんは瞠目し、少し考える素振りをしていた。
「あの......僕、冒険者になりたくて、オラリオを目指してたんです。良ければ、でいいんですけど......オラリオまで送っていただけないでしょうか?」
近くの街だと、地形にはあまり詳しくないんだけどオラリオまでかなり遠いはずだ。村でずっと過ごしていた僕の貯蓄は微々たるもので、親切な行商人のおじさんがいなければオラリオにたどり着けるかすら怪しかった。手段がない僕からしたら、この人たちに頼るしかない。
「ああ、冒険者になりたいという君の目標は行商人の方に聞いているし、できれば運んでやって欲しいとも言われている。こうなったのも私たちが遅れたせいでもあるし、できる限り手伝うつもりだ」
「えっ、そうなんですか!」
ありがとう、行商人のおじさん!
「そこで、なんだが......ベル・クラネル君、いや、ベル」
「はい! なんですか?」
「冒険者になる前にーー
「えっ、えええええええええぇぇぇぇぇぇ!!!」
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