学区に出会いを求めるのは間違っているだろうか   作:広広

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1話 : 試験

「では、ベル。学区の入学試験を始めさせていただきます」

 

「は、はい! よろしくお願いします、バルドル様!」

 

 緊張が走る。奇麗な白いテーブルの反対側にいるのは学区の()()()()であるバルドル様で、レオンさんの主神ーーと、ニイナさんに聞いたことを思い出す。

 髪は濃い金髪で、きめ細かい白い肌、線の細い体、美しいと誰もが称賛するであろう美貌。

 女神と見まがうほどの風体は、しかして圧倒的な長身によって事前に聞いていなくとも男神であろうと分かる。

 

「事前にニイナやレオンにある程度聞いているとは思いますが......学区の入学試験は通常の学校のような筆記や実技試験ではありません。学区を構成する()()()の主神たちが面接を行い、いくつかの質問をすることが試験になります」

 

 「なので、あまり気負わないでくださいね」と、バルドル様は僕の緊張をほぐすように微笑みかける。

 僕は無知なので、普通の学校の方も知らなかったのだがーー学区、と名が付き、下界でも最高峰の学校であるこの場所(これもニイナさんから聞いた)では、知識や実力を問うような試験を行わないらしい。

 正直、村で育った僕としては育てている作物の手入れの方法とおじいちゃんが大量に持っていた英雄譚ぐらいしか詳しくないので、願ったり叶ったりである。

 

(子供たち(ぼくたち)の嘘を見抜ける神様たちにとっては、テストの方法に工夫を凝らすよりは、こっちの方が良いのかもしれない......)

 

「まず、一つ目の質問からいきましょうか」

 

「はい!」

 

「いきなりですが......ベルは冒険者を目指している、とレオンから聞いています。レオンと会ったのもオラリオに行く途中だとか。なぜ、冒険者を目指しているのですか?」

 

「冒険者を目指した理由、ですか......」

 

 悩んでしまう。神様には嘘が通じない、という前提を抜きにしても、嘘をついてバレてしまうことが評価を落とすことになるだろう、ということは僕でも分かる。

 だけど、この理由で冒険者を目指してたって試験の場で言うのはどうなんだろうか......。

 ......いや、嘘をつくのが一番ダメな手段だ。僕は思い切って決意を決めた。

 

「え、えーっと......。その、ダンジョンに出会いを求めに......」

 

「ダンジョンに出会いを......。なるほど、確かにレオンから聞いていた通り()()()()です」

 

 意外にもバルドル様は笑わず、かといって失望や呆れなんかの感情もーー僕が見た感じはーー無いように思えた。むしろ、昔の知己を懐かしむような表情だ。

 

「そ、それと! 立派な冒険者になって、天界にいるおじいちゃんに誇ってもらえるようになりたいっていう気持ちもあります!」

 

「焦らなくとも大丈夫ですよ、ベル。冒険者になる理由というのは大抵、金銭、名誉、魅力的な異性......そのようなものです。実際、今学区にいる冒険者志望の学生にもそういった理由の生徒はそれなりに居ます。むしろ、他人に報いたいという気持ちがあるのは私の中では高評価ですよ」

 

 よ、よかった......。光を司る神様(らしい)のバルドル様には「そのような不潔な理由で目指すとは、不合格です!」と言われることも覚悟していたので、高評価という言葉にホッとする。

 

「では、2つ目の質問です。ベルは冒険者になるためにオラリオに向かっていた途中にレオンたちと会い、学区に来ることを決めたとレオンから聞いています。なぜ、今すぐ冒険者になるのではなく学区で学ぶことを目指したのですか?」

 

「それは......」

 

 

 

 

「冒険者になる前にーー()()に来てみないか?」

 

「えっ、えええええええええぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 あまりの驚きに、口をあんぐりと開けて叫んでしまう。驚いたのはニイナさんも同じだったようで、

 

「レ、レオン先生! 急に何言ってるんですか!?」

 

 と、その長髪が振れるほどの勢いで詰め寄っていた。

 

「ニイナ。急にこんなことを言って色々と聞きたくなることは分かるが......少しだけ外してくれないか? 彼にとっても、私にとっても個人的な話があるんだ」

 

 レオンさんがそう宥めるように言うと、ニイナさんは渋々といった様子で少し離れた場所で何か作業をしに行った。

 

「レ、レオンさん。その......何かの間違い、とかでは......」

 

「間違いでは無い。君に学区に来てほしい、そう言ったんだ」

 

 そう言ったレオンさんの眼には迷いなどなく、その言葉が真実本当であると雄弁に伝えてくる。

 え、ええええええぇぇぇ!

 再度驚く。学区、というものが何かは分からないが、恐らくレオンさんやニイナさんが所属している何らかの組織なのだろう。何にせよ、急すぎる......!

 

「でも、僕は冒険者になりたくて......」

 

「そうだな、君はそのためにオラリオに向かっている。だが、一つ聞こう。ベル、君は何か戦闘の心得を持っているか? 剣術でも槍術でも、徒手空拳でもいい」

 

「な、ないです......」

 

「では、何かオラリオ内の()()()()()への伝手は?」

 

「それも、ないです......」

 

「そうだろうと思っていた。率直に言おう、ベル。君は、オラリオに対して()()()()()()()()()。君のその優しさや行動力は素晴らしい美徳だが......今の君がオラリオに行っても良い結果にはならない」

 

「!!」

 

 その言葉にハッと気づかされる。おじいちゃんが死んでから半年、村の人にオラリオについての話だけは聞いていた。

 だけど、出てくる話はヴァリスが山ほど稼げて億万長者になれる、とかとんでもない超人になれる、とか......あと、可愛い女の子にモテて、ハーレムを作れるとか。そういった()の部分しか聞いていなかった。

 

「冒険者には誰でもなれるが、それとファミリアに入れるかはまた別の話だ。オラリオには何百人、何千人も冒険者志望の者たちが来ている。その中の誰もが()()()()ファミリアに入れるわけじゃない。そうなった人たちがどうなるか、分かるか?」

 

「分かり、ません......」

 

 教導するようなレオンさんの言葉が心に刺さる。僕は......何もわかっちゃいなかった。

 

「冒険者になるのを諦め、オラリオから出る。あるいは、何かしらの仕事を見つけて住民としてオラリオで過ごす。こういった結末でさえ、マシな方だ」

 

「............」

 

「悪質な愉快神のファミリアに入ってしまい奴隷のように使われる。無名のファミリアに入り、先達も経験もない状況で無謀にもダンジョンに入り命を落とす。そういったことも頻繁に起こっているのがオラリオだ」

 

「............」

 

「私はーーいや、()は君にそんな風になってほしくなかった」

 

 夢と現実の差に絶望しかける。この騎士のような、()()()()()()()()()()にここまで言われてしまう現状に怒りすら湧いてくる。例えここでミノタウロスに襲われていなくともーー結果は変わらなかったのかもしれない。そう思ってしまう。

 

「だから、どうだろうか。何もない状態でオラリオに行く前に、学区で基礎を学び、応用を磨き、伝手を作る。そういった方法があるということもーー俺は、伝えたかった。学区は、君のような前途有望な若者のための施設だからな」

 

 「もちろん、断ってくれてもいい」と、最後に一言付け加えたレオンさんは、そのままこちらを見つめている。

 僕は、どうするべきだろうか......。

 

 

 

 

「レオンさんに言われました。今の僕では、オラリオに行ってもいい結果になる可能性は低いと。学区で学べば、少なくとも最悪の結果になることは避けれれるだろう、と」

 

「僕は、自分の無知に気づいていなかった。オラリオに行けば冒険者になれて、頑張ればどうにかなるんだって。だから、レオンさんに言われた通りにオラリオじゃなくて学区に来たんです」

 

 僕の独白を、バルドル様は静かに聞いている。開いていない眼からは感情を読み取ることができず、不安に駆られる。

 僕には、レオンさんの言葉を否定できるだけの根拠が自分の中になかった。跳ね返すだけの自信も、虚勢もなく、「そうなんだろう」と納得させられてしまった。

 

「オラリオに行くのを辞めた理由は、それだけです......」

 

「............」

 

「ダメ、ですかね......?」

 

 バルドル様は何も答えてはくれない。喪失した自信が、心を不安に満ちさせる。このまま試験に不合格になったらーーそんなことを考えると、いてもたってもいられなくなる。

 

「ダメかどうかは......次の質問で決めることにしましょう。ベル、次が最後の質問になります」

 

「はい......」

 

「ベル、君は学区で何を成したいのですか?」

 

「何を、成したいか......」

 

「この学区で学び、見聞を広げ、自らを磨きーーそして、その先に何が成したいのか。それが、私は聞きたいのです」

 

「僕は......」

 

 だけど、この質問の答えだけは悩まなかった。オラリオに行くのを辞めたのは後ろ向きな理由でしかないけどーー学区に行くと決めたのは、そうじゃなかったから。

 

「僕は、学区で学んで冒険者になりたい」

 

 夢は変わらない。冒険者になって、そしてーー

 

「僕は、レオンさんーーいや、レオン()()のような、英雄になりたい!!」

 

 英雄になる。おじいちゃんが誇れるような、御伽噺の勇者たちのような、そして僕を助けてくれたあのレオン先生のような英雄になりたい。

 それだけは、自信が無くなっても、何であろうとも変わらない。

 僕のその答えに、バルドル様は笑顔を浮かべていた。

 

「なるほど、分かりました。これで試験は終わりになります。試験結果は後日伝えますので、今日はゆっくり休んでください」

 

「はい!」

 

 

 

 

「バルドル様。どうでしたか、ベルは」

 

 学区の中央。オラリオのバベルを思わせる巨大な塔の最上階で、バルドルは事務作業をしていた。

 扉を開けた眷属の開口一番がそれであることに苦笑し、(ベル)をどれほど気に入っているのかを再確認したバルドルは、レオンに対し柔らかな口調で返す。

 

「いい子でしたよ。私はフレイヤやゼウスのように才能を見透かすような能力は持っていませんが、彼のような子供はそういないでしょう。あの一途さ、純白さは得難い才能です」

 

「バルドル様もそう感じましたか。それで、試験の結果は......」

 

()()ですよ。あの純粋な学ぶ意志、そしてーーあなたへの一途な憧憬を見せつけられては、学区のどの神であろうとも合格にせざるを得ないでしょう」

 

 『騎士の中の騎士(ナイト・オブ・ナイト)』、『騎士なのに小姓(ウルトラ・ペイジ)』などの様々な二つ名を持ち、学区の生徒たちにも大人気であるレオンだが、あそこまでの憧憬は向けられたことは無いのではないかと思わせるほどにあの想いは一途であった。

 

「バルドル様、彼はーー下界を救う最後の英雄に、なれるでしょうか」

 

「それは、彼とあなた次第でしょう。ですが、彼が英雄になる未来に至ることを私は願っています」

 

 バルドルとレオン、二人の会話はそこで途切れた。

 




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予定が詰まりすぎて次の更新がいつになるか分かりません、すみません
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