高カロリーの昼食でエネルギー全回復の4名と胸なのか腹なのかわからないが今一つ調子が悪い1名が装備を整えて基地を出立する前の最終チェックを行っている。
霞、足柄、大淀の3名は来た時同様の戦闘仕様、朝霜、清霜は兵器の大半は降ろして
「マンスリー遠征作戦、小笠原沖哨戒輸送。これより復路を開始する。右舷側警戒は足柄、左舷側警戒は大淀。先頭の旗艦霞の後に清霜、朝霜。編成!」
霞の号令に従い警戒陣を編成する。大淀が駆逐艦たちの装備を確認する。
「清霜さん、マスト灯付け忘れていますよ。」
「えっ?てっぺんの光っているでしょ。」
「えい船は追加で2個つけてください。」
「あー、忘れてた・・・」
ガチャガチャとスイッチを入れて「あっ、これじゃない」を3回繰り返してようやく準備が整った。
太陽は沈みかけている。つられて赤道付近の暑さも徐々に和らいできている。毎時ゼロゼロ分の時報が鳴る。
「「艦隊抜錨!!」」
煙突から黒煙を吐き出し、艦隊は進み始めた。
足柄と清霜が会話を始めた。
「今回も豊作ね。」
「ふっふーん。冴えわたる勘でノジュールが堆積しているところを当てて見せたからね。」
振り返ると基地のバケットホイールエクスカベータが轟音を立てながら深海から泥をすくっているのが見えた。基地ではこれを精錬し希少金属を取り出している。誇らしげな清霜に対し、
「私としては遠征するたびに戦闘が少なくなってきて、少々物足りないのよねぇ。」と足柄。
「これは輸送任務だし、海が安全になってきているのは悪いことじゃないと思うけどな。」
その通りだが、戦闘が主任務の足柄にとってはあまり面白い話ではない。頭では理解しているのだけれど。
「それなら、そろそろ私たちが輸送任務に就く必要もないかもねぇ。」
「えー、でもこの資源はNERVにとって重要かつ独占的に利用しているものだからNERV自身で輸送する必要があるから清霜たちが頑張らないと!」
「そうだけど、輸送艦に積載して私たちで護衛する方が気持ち的にはマシなんだけど。」
「ちょっと、あんたたち!」霞が割って入った。
「NERVは使徒殲滅が最重要任務なのよ!月一の遠征用の輸送艦や離水重量の大きい水上機なんてもの配備する余裕なんてないんだから。」
最近では灯火管制すら不要になり法に則って信号灯を点ける余裕まである。もっとも深海棲艦が明かりを目印に索敵しているかは怪しいのだが。
「国連軍が貸してくれる見込みもないし、この海域まで貨物船を出してくれる海運会社もないだろうし。なんにせよ、私たちは任務をこなすだけよ。」
夜の海は今も昔も黒々として吸い込まれそうな深みがある。霞の小言が終わると風と波の中をスクリュー音だけが響いていた。この空気、いや海に呑まれてしばらく誰も口を開かなかった。
静寂を破ったのは大淀だった。
「10時の方向、レーダに感あり!」
斜め前方から接近してくる物体。間違いなく深海棲艦だ。大淀が続けて報告する。
「数は1。大型。・・・硫黄島方面から流れてきたみたいね、速力はゆっくり。」
霞の号令で足柄も艦隊の左舷側に移動して大淀と並ぶ。
「退屈しのぎに、いっちょやっちゃいましょう!」
と普段なら足柄の方から声をかけるのだが、何となくさっきの会話で気が乗らなかったせいか大淀にセリフを取られた。
霞が打ち上げた照明弾で相手が輸送ワ級と分かった。
「全砲門。よーく狙って。てーっ!」
「10門の主砲は伊達じゃないのよ!」
普段はクールだが戦闘となるとノリノリの大淀と、敵艦を前にすると血が騒ぐ足柄から砲弾を浴びせられた深海補給艦はすぐに動力を失い漂流をはじめ、装甲の厚さからしばらくは浮かんでいたが、最後は真っ二つになって沈んでいった。
「あれも何か運んでいたのかしらねぇ。」
「過去に拿捕して臨検?した調査結果によると外装同様の鉄屑が中に詰まっていたらしいですよ。それより足柄さん、久しぶりの夜戦だったのに今日はテンション低めですね。」
「そ、そ、そんなことあるワケないじゃない!ちょっと役不足だったかなーって。」
さっきの清霜や霞との会話は、硫黄島方面からの風によって進行方向左手には届かなかったらしい。聞かれてなくてよかったかも、となぜかほっとした。大淀はこの気持ち分かってくれるだろうか。戦闘を愛しながらも海の平和を望む矛盾した気持ちを。
【用語解説】海上衝突予防法
NERVは厳密には軍隊ではないため所属する艦娘はどちらかといえば艦艇ではなく船舶として扱われる。よって一般法規が適用されるが、取り締まる機関はほぼ機能しておらず無視していることも多い。大淀の指摘は第24条(航行中のえい航船等)によるもの。