今回はついに過去回となります。最強のコマタナさんとソハヤ、モノズとバルチャイがどう出会ったのか。楽しんでいただけたら幸いです。
デスバーンを捕獲した後、知らせを聞いて文字通り飛んで帰ってきたシッポウシティジムリーダーのアロエから、ジム戦用のバトルコートでもある地下室を貸してもらい、ソハヤとコマタナさんはアロエの力を借りて作業をしていた。
「えっと……こうかな?」
「ナタッ」
「話は聞いたけど、派手にぶっ壊したものだねえ」
その作業とは、デスバーンの依り代である粘土板の修復だ。ポケモンセンターでもこればかりは回復できなかったため、手作業でするしかなかったのである。そこで考古学にも精通しているアロエの力を借りたのだ。
「とりあえず形にはなってきたかな…?」
「そうみたいだねえ。しかしデスバーンとは本当に珍しいね。資料もろくにないから修復は監視カメラ頼りになったけども、いい感じじゃないか。これならアンタにもすぐ心を開くだろうさ」
「そう、かな?ありがとうございます、アロエさん」
ぺたぺたと、応急処置のために固定するセロハンテープを継ぎ目に貼っていくソハヤを満足げに机に頬をついて見ながら、アロエはなんでもないことのように切り出した。
「それで?ソウリュウシティの名家の令嬢がなんでこんなところにいるんだい?」
「…っ!」
「ナタッ」
その一言にソハヤはびくっと肩を震わせ、コマタナさんが刃をアロエに突きつける。アロエは両手を上げて降参の意を見せる。
「おっと。触れちゃいけないことだったかな?」
「私を知ってるんですか…?まさか、両親に言われて私を連れ戻しに…?」
「あたしも詳しいことは知らないよ。だけど、あたしは同じジムリーダーの古参としてシャガさんとも敬意にさせてもらっている身だからね。勤勉で心優しいお嬢様がいるって聞いたことがあったんだよ。幼少期からソウリュウジムや“バトルのやかた”にあしげく通って見学してたってね。その名前が、ソハヤだったなあ、と思い出してね。自分を襲ったデスバーンを修復しようとする優しさといい、あたしの勘違いじゃなさそうだ。ああ、安心してくれ。ここは本来あたしと夫、そして“答え”を見つけたチャレンジャーしか入れない特別な部屋だ。夫に言ってジムも閉じてるし誰も盗み聞きする人間はいないさ」
そう告げるアロエに、少し考えてからため息を吐くソハヤ。
「……コマタナさん、刃は降ろしていいよ」
「ナタッ」
「ほっ。助かったよ。生きた心地がしなかった」
コマタナさんが刃を下ろし、一息つくアロエはそのまま続けた。
「それで?話してくれるかい?連れ戻しに…ってことは、家出かい?」
「……はい。私はつい最近まで、ソウリュウシティで籠の鳥のような生活をしていました。でもある理由で、私はとある場所を目指して旅だったんです。恐らく両親は今頃探し回っていると思います…」
「籠の鳥……にしては、とんでもなく強いポケモンを連れてるみたいだけど?」
「はい…大きくなってからはたまにソウリュウシティを抜け出して、近くのどうろを探検したりしたんです。そんな中出会ったのが、このコマタナさんと今の仲間達です。あれは、かのボルトロスが来ていたかのような、雷が轟く土砂降りの日でした」
「ああ、遅くなっちゃった……ピッピ人形まだあったかな……」
今から一年前、傘を差したソハヤは土砂降りの10番道路を歩いていた。彼女はポケモンバトルが好きだった。タイプ相性などはさっぱりだが、トレーナーとポケモンが切磋琢磨し合う戦いを見ているのが好きだった。自分もいつか、とは思うが親に許してもらえないからこうして直接見に行くしかないのが目下の悩みであった。
「とりあえず、すぐに戻らないとまた怒られ……うん?」
そそくさと道路を進んでいたソハヤだったが、茂みの先から不可解な鳴き声が聞こえた。それは、10番道路の先にあるチャンピオンロードにしか生息してないはずのモノズの声だったからだ。ソウリュウジムで聞き慣れた声に首を傾げるソハヤ。ちょっとだけ、と茂みをかき分けた先。そこには。
「モノッ、モノ…ッ!?」
「チャーイチャイチャイチャーイ!」
「チャイチャイチャイ!」
「チャーイチャイチャイ!」
「バルッジィイイイナッ!!!!」
ほねわしポケモンのバルジーナが率いているであろうバルチャイの少なくとも10匹はいる群れが、一匹のモノズを執拗に痛めつけている光景があった。つつきまわし、翼で打ち、髑髏のおむつで圧し潰し、バルチャイたちが獲物を執拗に追い詰める様をバルジーナが満足げに崖の上から見下ろしている。モノズは目が見えなくて何もわからないのかなすがままだ。恐らく、チャンピオンロードから抜け出してしまったモノズを相手にバルチャイたちが狩りの練習をしていて、それをバルジーナが見守っている光景なのだろう。だがそれはただの弱い者いじめでしかない。
「え、えーい!」
気付いたらソハヤは、自分のポケモンも持ってないのに行動していた。数少ないピッピ人形を投げつけ、それにバルチャイたちが気を取られているところに飛び出し、モノズを抱えて逃げ出す。傘は邪魔になるだけなのでその場に捨てて、両手でモノズを抱えたお嬢様は全速力で駆け出した。
「チャイチャイチャイ!」
「チャイチャーイ!」
「チャイカー!」
それに怒ったのは獲物を横取りされたバルチャイたちだ。バサバサと翼を羽ばたかせ、空を駆ってソハヤを追いかける。一匹ピッピ人形を執拗に突っつきまわして遅れていたが、バルジーナに蹴り飛ばされていた。どうやら群れの落ちこぼれの様である。
「チャイチャイチャイチャイチャイ!」
「こ、来ないで!」
ピッピ人形をひたすら投げて応戦するソハヤ。何匹か気に取られるものの、しかし見ている状態で通じるはずもなく、すぐに追いかけるのを再開して意味がない。
「も、モノォ……」
「大丈夫!絶対逃がしてあげるから!」
不安げに声を上げるモノズに、虚勢を張って笑顔を向けるソハヤ。もう恐怖で泣きそうだが、モノズに見えないのはわかってないので、そんな姿を見せるわけにはいかないと奮起する。
「あ…っ!?」
しかし、慣れない17.3kgはあるモノズを抱えているせいか足がもつれ、転倒。そこにバルチャイたちが殺到し、咄嗟にモノズを守るため丸まったソハヤをつんつんつんつんとつついて追い詰めるバルチャイたち。着ている上品な服が見る見るうちにズタボロとなり、髪も啄ばまれて荒れに荒れ、襤褸雑巾の様になるソハヤ。
「ちゃ、チャイ…?」
そんな光景を、追いついてきた落ちこぼれのバルチャイは困惑し加勢するのを躊躇する。
「チャイ!チャイ!」
必死に呼びかけて仲間を止めようとするそんな心優しいバルチャイを、容赦なくソハヤたち目掛けて蹴り飛ばすものが一匹。バルジーナだ。
「チャ、チャイ!?」
「バルッジィイイイナッ!!!!」
バルジーナの一声で、標的に落ちこぼれのバルチャイも加わった。仲間だったバルチャイたちも、鬱憤が溜まっていたのか落ちこぼれのバルチャイも痛めつけはじめ、それを見たソハヤはモノズを抱えたままバルチャイも守ろうと覆いかぶさる。それが気に入らなかったのかヒートアップするバルチャイたち。ふんすっとふんぞり返り薄ら笑いすら浮かべるバルジーナが見守る、その上で。雷光が反射してその刃が煌めいた。
「ナタッ!」
崖上に立っていた小柄なコマタナが、宙返りして刃を振るいながらソハヤの目の前に着地。瞬間、切り刻まれた崖だった石礫が降り注ぎ、綺麗にソハヤたちを避けてバルチャイたちの頭部に直撃。目を回させ、転倒させてしまった。
「え、え?」
「バルッジィイイイナッ!!!!」
困惑するソハヤ。それにブチギレたのはバルジーナだ。“きりばらい”で回避率を下げながら“エアスラッシュ”を織り交ぜるという地味に高等テクを披露するバルジーナ。しかしコマタナは避ける必要もないと言わんばかりにエアスラッシュを斬り弾いていく。ならばと“ブレイブバード”で突撃し、翼を叩きつけんとするバルジーナ。それに対して、右手の刃を反対の腰に添えて身構えるコマタナ。勝負は一瞬だった。
▼コマタナの“いあいぎり”
▼こうかはばつぐんだ!!
すれ違いざまに、一撃。胴体を大きく斬りつけられたバルジーナは白目をむき、ブレイブバードの勢いのまま地面に激突し、倒れ伏す。その轟音にバルチャイたちが目を覚まし、慌ててバルジーナを掴んで飛び立っていく。ソハヤの腕から何とか這い出てきた落ちこぼれのバルチャイはそれを悲しそうに見ているしかなかった。
「大丈夫?二人とも」
「モノッ」
「チャーイ…」
「……」
ボロボロの姿で、モノズとバルチャイの安否を確認して安堵しているソハヤをじっと見て、頷くとその場で傅くコマタナ。出自不明の強者たるポケモンが、少女の優しさに忠誠を誓った瞬間であった。
※狸寝入りでこれを聞いていたデスバーンさんの心情を答えよ。
ソハヤがソウリュウシティのご令嬢だとはわかったけど、コマタナさんがどこから来たのかはまだ明かさないスタイル。
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