魔術王ソロモンと羊飼いの僕が魂を融合したら、チートすぎるマスターになってしまった件〜最強の力を共有した僕の聖杯戦争〜 作:bpro
――視界が、歪んだ。
ダビデの意識が一瞬、引き裂かれる。
次の瞬間、彼女の眼前に広がっていたのは、見知らぬ――けれど胸を締めつけるほど美しい光景だった。
そこは、まだ調和に満ちたハワイの聖地。
高地に静かに降る雪、清らかな氷の水。
そして、その中心に立つ白銀の存在――雪の女神ポリアフ。
周囲には、巫女たちや神官、人々の姿。
ポリアフは人間たちと交わり、微笑み、心を通わせていた。
「あなたは、恵みの女神……水の命を与えてくださる、祝福そのものです」
若き巫女がそう語り、ポリアフは優しく微笑んだ。
「私にできることがあれば、いくらでも分け与えよう。……この雪も、水も、私の愛なのだから」
そこには確かに、信頼と絆があった。
だが――風景が、変わる。
――夜。
ポリアフのいない神殿で、密かに集まる巫女たちと、異国の術者のような男たち。彼らの手には封印の文様を刻んだ石板と、魔力転送装置のようなもの。
「このままではもったいない……」
「彼女の力は、使える。女神などという枠に縛る必要はない」
「神の力を使って、“人間が神を超える”のよ」
それは、ポリアフをただの資源として見る言葉だった。
――裏切り。
ダビデは、その瞬間のポリアフの気配を、まるで自分のことのように感じた。
「まさか……」
幻視は、ポリアフがその現場を見てしまった瞬間へと切り替わる。
氷の祭壇の影に立ち尽くし、ポリアフはただ、言葉を失っていた。
「……あなたたち……」
かつて信じ、力を与え、護ってきた者たち。その誰もが、自分を『器』として見ていた。
「私の力を……欲しいの……?」
その声は、震えていた。冷たいのではなく、泣いているように。
若き巫女が言葉を発しようとしたが、何も言えなかった。
「ならば……私が終わらせよう」
ポリアフは背を向けた。
悲しみに背を向けるのではない。
人間の愚行から世界を護るために、自らを封じる道を選んだのだ。
氷が吹き荒れる。女神は自らを氷の棺に沈めながら、最後に小さく、独り言のように呟いた。
「裏切られても、私は……人を嫌いにはなれない。……だからこそ……これ以上は、望まないの……」
そして、世界は静かに凍りついた。
「……っ!」
ダビデは跳ね起きるようにして現実に戻った。
目の前にいるのは――いままさに、再び人間に利用されようとしているポリアフの姿。
「人間はまた同じことを、繰り返そうとしてるのか……?」
その呟きに、ソロモンが静かに目を伏せた。彼もまた、何かを悟りかけていた。
「だから、あの神は……戦いだけでは救えないと……!」
クーの言葉の意味が、ここでようやく腑に落ちる――ポリアフを止める方法は、暴力ではない。
“許し”を与えること。
そして、“許し”を乞うこと。
それが、彼女の氷を――心を、溶かす唯一の鍵だ。
そして、現実に目を戻したとき――ポリアフの様子が変わっていた。
目の焦点が合っていない。完全に自我を失った暴走ではない、けれどそこにあるのは極限まで尖った神気。
「まずい、危険だ……!」
ソロモンが声を上げた。
ポリアフが、腕を振り上げる。その先にいたのは――彼女を操ろうとした魔術師の女だった。
「え……?」
女は完全に予想外だったらしい。信じていた女神の支配が、突然崩れたのだから当然だろう。
氷の刃が、まっすぐ彼女に向かってくる。
「くっ……!」
完全に意表を突かれてしまい、避けることは不可能だった。こんなところで私は死ぬのか…神の封印を解いた因果応報なのか・・・?そんなことを思いながら、死を覚悟して思わず目を閉じた彼女に、容赦なく鋭い冷気が迫る。
だが次の瞬間、間に割って入る影があった。
「危ないっ!!」
氷の砕ける音。光の閃光。
女が目を開けたとき、そこには――ソロモンが立っていた。
彼の周囲に展開された結界が、氷の攻撃をすんでのところで防いでいた。
そのすぐ背後には、ダビデの手も添えられていた。二人は無言で彼女を守ったのだ。
「なっ……どうして……!?」
女魔術師の声が裏返る。理解できないという顔だった。
「君を殺す気はない」
ダビデはきっぱりと言った。
「僕たちは他陣営でも命を奪わないって決めてるから。それが、僕たちの戦い方なんだ」
魔術師の女は呆然としたまま、震える声で問いかける。
「……そんな甘さで、勝てるとでも……?」
その問いに、ソロモンが静かに言葉を重ねる。
「我々は勝つためだけに戦ってるわけじゃないですよ。生きて未来に残すために戦っています。人も、神も、そして……貴女も」
「……っ」
その言葉が、女の心に一瞬だけ突き刺さったように見えた。
凍える空気の中で、彼女の肩がわずかに震える。けれどそれは、寒さではない。初めて、誰かに“『本気で大切にされた』戸惑いだった。
「私は……間違ってたの……?」
その呟きが風に溶けたその時――
ポリアフの頭上に、氷の結晶が再びきらめき始める。
次なる破壊が、迫っていた。
だが今――ポリアフを暴力で抑える選択肢は、ダビデの中にはなかった。彼女はゆっくりと手を胸に当て、膝をついて祈るように言葉を口にする。
ごめんなさい
許してください
わたしはあなたを愛しています
次の瞬間――
何かが、変わり始めた。