たぶん悪役貴族の俺が、天寿をまっとうするためにできること   作:嶋野夕陽

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内緒話

 かわいい。

 だんだん猿みたいな顔じゃなくなってきたし、最近は俺の顔を見ると嬉しそうにする。俺のこと認識してるじゃん。

 訓練にも身が入るというものだ。

 毎日父上にころころ地面を転がされたり、細かい魔法の調整の訓練をしたり、新しい魔法を使えるように瞑想したり、強くなるためにやることは山積みだ。

 ついでに王国の貴族事情についてもちらほらと、悪いうわさを抜きに母上から聞くようになっている。母上が難しい話をしているうちにエヴァはうとうととして眠ってしまう。

 難しい話は苦手なのね。俺も本当は得意じゃないよ。

 

 貴族の話はともかくとして、大事な情報を最近二つ手に入れた。

 まず一つ目として、王子様が俺と同い年らしい。だからそのうち会って交流を持つ機会がありそうだということ。どんな奴なんだろうなぁ、偉そうな顔されたらめんどくさいなぁ。

 

 二つ目に、イレイン嬢がうちにそのうちやってくることになりそうだということ。

 

 ウォーレン伯爵家と隣接する騎馬民族との関係が悪化してきていて、今にも戦争が始まろうとしているらしい。そのため後継者たる二人を王都へ避難させるのだそうだ。すぐ隣のお屋敷がウォーレン伯爵家のものらしく、そこへ使用人と共にやってくる、と父上から聞いた。 

 

「イレイン嬢が来るらしいぞ、よかったな」

 

 と俺に教えてくれた父上に、何でですか? としつこく聞いて手に入れた情報だ。多分余り外に漏らすべき情報ではないのだろうけれど、俺の熱意に負けたようだ。

 

 正しくは、イレイン嬢のことを心配している俺にほだされたようだ。

 父上、言えないけどね、俺別にイレイン嬢にラブじゃないからね。あいつ中身男だから勘違いしないでよね。

 これはツンデレじゃなくて、マジなんだからね。

 

 そんなことはどうでもいい余談であって、実際イレイン嬢が来るっていうのは大事な話だ。今後の話もしやすいし、ルドックス先生と一緒に魔法の訓練をすることもできる。

 単純に俺が気を抜いて話してもいい相手がいるってのも結構な違いだ。

 

 ミーシャなんかにはだいぶ気を許しているけれど、前世のこと覚えてんだよねーみたいな突拍子もないことは言いたくない。普通に心配されそうだし、また病気になったと思われても困る。

 突然監禁されるようなことはないだろうけど、語ってしまったところでいい思いをさせる要素はない。

 

 だからってずっと隠し続けるのって結構ストレスだ。

 イレイン嬢との会話はきっといいガス抜きになるんじゃないかと思う。

 

 戦争なんてろくでもないし歓迎はしないけれど、そのお陰でイレインが親元から離れられるのもいいことなんじゃないかって思う。

 それにイレインの兄貴の方も、かなりやばい扱いされたみたいだし、羽を伸ばせていいんじゃないかなぁって。兄妹比較して馬鹿にする親って、よく考えなくても結構ひどい。

 

 そんなわけでそれからエヴァが生まれて二月ほどたったころ、イレイン嬢と、その兄サフサール君が屋敷にやってきたのである。

 

 

「私はサフサールだよ。よろしくね、ルーサー君」

 

 イレインと横並びでやってきたお坊ちゃま、サフサール君は俺が名乗るより先に挨拶をしてくれた。イレインのご両親に似てきりっとした顔立ちをしているというのに、目元がなんとなく優しそうに見える子供だった。

 

「ルーサーです。よろしくお願いします」

「私は勉強で忙しいからなかなか来られないけれど、イレインはよく来ると思うんだ。あまりしゃべらない子だけれど、賢いいい子だから仲良くしてあげてほしい」

「ええ、もちろんです」

 

 すました顔をして黙り込んでいるイレインは、多分あまり優しい妹ではないはずだ。冷遇されていることは理解していても、サフサールの味方をするほどの余裕はないに決まってる。

 それでもちゃんと妹としてかわいがろうとしてるんだろうなぁ。

 俺も最近エヴァが生まれたからわかるよ。

 あんな小さいの見たら、俺が守ってやるんだって気持ちになるもんな。

 

 イレイン、お前はもうちょっとサフサール君にやさしくしてやれな?

 あとイレインは結構喋るぞ。男口調だったらだけど。

 

 俺たちに対しては9歳とは思えないくらいしっかりとした対応をしたサフサール君だったけれど、父上と母上を相手にしてる時は、めちゃくちゃ緊張していたようでどもりまくっていた。

 これもう大人に対して苦手意識持っちゃってるだろ。ウォーレン家やばい。

 

 その日は二人ともすんなりと自分たちの屋敷へ帰っていき、翌日、イレインだけがまた顔を出した。サフサール君は言っていた通り勉強が忙しくてやってこれないらしい。

 9歳って、そんなに勉強ばっかりしなきゃいけないもんだっけ……?

 昨日到着して挨拶して、翌日から休みなしで通常スケジュールかぁ。きっついなぁ……。

 いや、まぁ、俺も結構過密なスケジュールで勉強しているけどさ。

 

 池のそばにある木陰で、布を敷いてイレイン嬢と横並びで座る。

 ミーシャ、ほほえましいものを見るような顔をやめなさい。そういうんじゃありません。そういう風にしか見えないかもしれないけど。

 

「良かった……、ですね。また会うことができてうれしいです」

「は? お前いきなり……」

「ちょっと後ろむいて話しましょうか。ミーシャにお話聞かれるの恥ずかしいですし」

 

 普通にしゃべり出そうとして、ミーシャと目が合って思い出した。

 ミーシャは読唇術使えるんだった……。

 

 慌ててイレインの言葉を遮って先に勝手にミーシャに背中を向ける。

 

「……なんだよ、お前変だぞ」

「あぶねー、ミーシャ読唇術使えるんだよね」

「どくしんじゅつって何だ? 結婚しなくていい方法? 教えてくんねぇかなそれ」

 

 あー、読唇術わからないか。

 独身術なんてあったら、確かにイレインは欲しいだろうなぁ。

 

 ……っていうか、うちのミーシャは可愛いししっかりしてるからいい相手ちゃんと見つかるけどね! 失礼しちゃうよなぁ、こいつ!

 

「イレインってテレビドラマとかアニメとか漫画とか見なかったの? 読唇術って唇の動きで何言ってるかわかるやつな。独身のまま生きる方法なんて誰が知りたいんだよ」

「見たことねぇよ。変なこと知ってんなぁ……。ってかめんどくせぇな、あのメイド何とかできねぇの?」

「ミーシャのことめんどくさいとか言うな」

 

 うちのミーシャの何がわかる!

 馬鹿にすると許さないよ、俺。

 

「……なんかすまん」

 

 わかればよろしい。

 

「んで、良かったじゃん、怖い父親の元から離れられて」

「まぁな、兄貴も羽伸ばせていいんじゃねぇかな」

「羽伸ばせてるのか? 勉強で予定びっちりなんだろ?」

「うちの親二人に嫌み言われながらじゃないだけましだろ。昨日とかかなり表情明るかったしな」

「厳しい家だよなぁ……」

 

 なんか暗い気持ちになってきた。

 子供の時代は自由に過ごさせてほしいよなぁ。貴族となったらそうもいかないんだろうけど。

 

「イレインは神童っていわれてんでしょ? なんか得意なことあんの?」

「やることもねぇから兄貴と一緒に勉強聞いてたんだよな。んで、国の勢力関係とか、国内のバランスがーとか、戦略だ戦術だ、みたいなのとか覚えた」

 

 ……俺にはわかんないやつだ。喋るのが早いとかちょっと勉強ができるとか、そういう感じじゃない才能ありそうだな。

 

「戦術の勉強ってさ、敵の駒を先生が動かして、それに対してこっちの駒をどんな風に動かすか、みたいなのやるんだよな。ゲームっぽくて面白いから見てたら、試しに動かしてみろっていわれてさー」

 

 うわぁ、嫌な流れだなぁ。

 

「動かしたら褒められたのよ。雰囲気の悪い家の中で初めて褒められたら、調子乗るじゃん? 兄貴の顔とか気にする暇ねぇしさぁ……」

「……サフサール君が虐げられてるのってさぁ」

「言うなよ、俺だって責任感じてんだよ。でもどうしたらいいかわかんねぇじゃん」

「もうちょっと仲良くしてやれよ」

「嫌だろ、俺のせいで嫌な目に遭ってんのに。合わせる顏ねぇよ」

「あー、だからあんまりサフサール君のこと見ないんだ」

 

 自分のことは棚上げだ。

 俺なんか家庭崩壊させかけたけどね! 今はイレインとサフサール君の関係の話だもんね。

 こっちにいる間に仲良くなれるように手伝ってやりてーなー。

 

「んなことより魔法の話しようぜ。俺あのあと結構練習したんだよ。向こうで先生つけてもらったんだけどさー、なーんか嫌な感じでさ。ありゃあ真面目に教える気もないな。ルドックス先生元気?」

「先生こっちに来てからもちゃんと教わってる。明日な、明日」

「よっしゃ、俺も魔法2発くらい撃てるようになったからな。褒めてくれっかなぁ」

「は? 俺の方がいっぱい撃てるし」

「……お前、独占欲強いタイプだろ、もてないぞ」

「……イレインはもてそうだよな」

 

 横目で睨みつけて言うと、イレインもじろりと俺のことを睨む。

 可愛い顔してるから怖くありませーん。お前は男にもてるんだよ!

 

「…………あほくせぇ。お前と喧嘩してもいいことねぇしやめた。なんかさー、学園でいい成績のこすと、王宮に勤める道とかもあるらしいんだよな。女は少ないらしいけど、0じゃないって。だから俺、勉強とか嫌いだけど真面目にやるつもりだぜ」

 

 やる気があるのはいいけど、仕草がだんだん男っぽくなってきてんだよなぁ。ガッツポーズで拳握るのやめてよ。そろそろ怪しまれるからさぁ。イレイン嬢モードを抜けるとやたらと体の動きがでかいんだよな。

 

「はいはい、んじゃそろそろ普通に話すからな。あんまり内緒話ばっかりしてると怪しいし。……ところでお前さ、俺と別れたくないからウチ残るとか言っただろ?」

 

 おい、無視して振り返るのやめろ。

 そのせいでなんか、俺たちの関係めっちゃいい感じだと思われてんだからな! 

 

 

 

 イレインが加わったことで、勉強に軍略や政治の時間が加わった。午前中の空いた時間にウォーレン家が雇っている先生がきて教えてくれている。

 体がムキムキなのに眼鏡をかけているその先生は、何かあるたびにくいっとそれを持ち上げて厭味ったらしくしゃべる。

 よっぽどイレインが自慢の生徒なのか、わざわざ俺の回答の後にイレインに同じ質問をして、模範解答を聞かせてどや顔をしてくるのだ。端的にむかつく。

 

「ルーサー様の回答は悪くはありませんが、イレイン様のものはよりよいものであると言えましょう。ただしこれも最善であるかはわかりません。現実の戦闘において最善の一手というのは、結果が出てみるまで分からないのです」

 

 くいっくいっ。眼鏡のつる折れろ。

 妙に甲高い声をしたインテリマッチョは鼻の穴を膨らませて続ける。

 

 でもたまに本当に役に立つことも教えてくれるから、真面目に聞く気はあるんだよ、俺も。

 

「状況は刻一刻と変わっていきます。盤上のように、用意された情報、知らされた情報がすべてとは限りません。途中で思考を放棄したりせず、かといって実行に躊躇することなく、考え続けることこそ肝要と心に留め置きください」

 

 ちなみにこの先生、誰に対してもこんな感じの挑発的な態度らしい。

 前線にいたらどさくさに紛れて後ろから刺されそうだ。だから能力があるのにこんなところで子供の先生をしてるのかもしれないなぁ。

 

「ルーサー様、わかりましたかな? ん?」

「……はい」

 

 名前指定してくいくいしながら顔覗き込んでくるなよ、なんか腹立つなホントに。

 

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