たぶん悪役貴族の俺が、天寿をまっとうするためにできること   作:嶋野夕陽

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二話目です


降参

 クルーブが説明しながら魔法をうち、それを真似て俺が魔法を打つ。

 詠唱を省略することは難しく、魔法が発生した瞬間にその場にポトリと落ちてしまったり、のろのろとしか飛ばずに途中で落下したりする。

 しかし、クルーブはそれを馬鹿にするようなことはなかった。

 うまくいかないのを確認すると、クルーブはどこが悪かったのかを説明して、再び魔法を見せてくれる。

 先ほどまでややふざけた態度をとっていたクルーブだったけど、こと魔法の訓練となると真面目で、俺が魔法を打つ姿を真剣な目で観察をしてくれていた。

 

 5発、10発と繰り返し、18発めでようやく詠唱を破棄した俺の礫弾は、よろよろと的にぶつかってポトリとその場に落ちた。魔力の方は問題ないけれど、新しいことに挑戦したせいで随分と集中力を使った。

 大きく息を吐いて先ほどの感覚を脳内で繰り返す。次はもう少し早く、勢いのいい礫弾を放ちたい。それに詠唱を破棄したところで、無言で準備をする時間が詠唱をする時間と同じくらい必要だから、これでは全然破棄した意味がない。

 

 俺が杖を的に向けて再び練習を始めようとすると、クルーブに肩をポンとたたかれた。

 ああそっか、まだクルーブの正しいやり方を見ていなかった。

 

「すみません、もう一度見本を見せてください」

「いや、それより大丈夫? 頭はいたくないの?」

 

 今はそんなことよりも体が覚えているうちに次の練習をしたかった。

 

「大丈夫ですから」

「……魔力自慢って聞いてたけどさぁ」

 

 呆れた顔でクルーブがルドックス先生の方を振り返る。

 

「だから言ったじゃろうが。試すように次々魔法を撃たせよって」

「どんなに優秀でも、5歳でこれだけ魔法を撃てる子はみたことないかも、僕以外は」

 

 俺のことを褒めたふりして、自分のことも持ち上げてる……?

 そんなことどうでもいいから、早く練習再開してほしい。

 

「コツを掴めそうなので、早く練習を続けたいのですが……」

「ま、いっか。いいよ、どこまでやれるか見てあげようじゃん」

「程々にな」

 

 なぜかやる気に満ちた顔になったクルーブは再び的に杖の先を向けて魔法を放つ。

 悔しいけれどそれは何度見ても無駄のない見事な魔法で、ルドックス先生の巧みさとは異なった方向で洗練された魅力を感じてしまう。

 クルーブの真似をして魔力を杖の先へ送ると、そこからは何も生み出されずに、ぽすんと魔力だけが放出された。

 失敗だ。クルーブの魔法につられて、自分の中の手順をちゃんとしないで魔法を放とうとしてしまった。

 ま、ばれてないっしょ。何食わぬ顔でもう一度魔法を放って、礫弾を的に向かって飛ばす。さっきよりは勢いがあったけど、それは明後日の方向へすっ飛んでいった。

 駄目だな、これ結構練習必要だ。

 ほとんど意識しないで撃てる様にならないと、剣を振りながら使おうなんて夢物語だ。

 クルーブを見ていると難なく使っているようだけど、きっと相当修練を積んできたんじゃないかって思う。涼しい顔というか、どや顔をしながら魔法を使って、へらへらとしている奴だけど、きっとルドックス先生の言う通りすごい奴なんだろうな。

 

 淡々と魔法の訓練を続け、どれだけ時間がたっただろうか。集中していたからわからないけど、多分せいぜい1,2時間程度かな。クルーブの杖の先ばかり見ていたけど、たまには体全体を見て見るか。

 どうも中々うまくいかないし、どこにヒントあるかわかんないしな。

 

 ……なんかクルーブ、ちょっと顔色悪くねぇ? 頬につっと汗が伝う。

 しかしそんなことはお構いなしに、今までと同じように無詠唱で礫弾が三つ、ほぼ同時に放たれる。それは寸分たがわず的に飛んでいった。

 

「はい、どぉぞ?」

 

 ここ数十分見てもいなかったのに、相変わらずのどや顔を俺に向けてクルーブは俺に魔法を使うよう促してくる。

 

「……クルーブさん、大丈夫ですか?」

「んっ、ふふん、大丈夫に決まってるじゃん。僕の心配なんて、せめてまともに無詠唱が使えるようになってからにするんだね。せめてもうちょっと魔法がちゃんと撃てるようになるまでやろうよ。次いつ来られるかわかんないし」

 

 嘘つくなよ、目じり痙攣してるぞ。

 クルーブは俺が1発魔法を撃つ間に3発、それも俺よりもはるかに素早く正確に魔法を撃ち続けてきた。

 実は結構きついんじゃないのか。

 ……きっついのに、なんも言わないで俺のために訓練続けてくれてたのか? いや、こいつの場合プライドとか負けず嫌いとか、その辺も関わってきてそうだけど。でもだとしたら、やばいと思った時点で見本を見せるのをやめればよかっただけの話だ。

 

「早くしなよ。それとももう一回僕の完璧な魔法が見たいの?」

 

 話しながらクルーブが杖を掲げる。

 よく見てみれば、クルーブの背中は汗でびっしょりと湿り始めていた。こいつ、いきなり倒れるんじゃないだろうな。

 ああもう、しょうがねぇなぁ! このまま気づかないふりをして気絶させてやろうって気持ちすら起きない。俺の負け、こいつの意地に降参だ。

 

「クルーブさん、ちょっと疲れてしまったので休憩させてください」

「……そう。じゃ、最後に見本ね!」

 

 構えた杖からもう一度クルーブの魔法が放たれる。それはやっぱり最初に放った時から寸分たがわぬ威力と正確性を持って、穴だらけになっている的を撃ち抜いたのだった。

 

 

「……実際さ、ルーサー君は大したもんだよ」

 

 俺とルドックス先生が、優雅に椅子に座りお茶を啜り軽食を摂っていると、一人だけ行儀悪く芝生の上で足を延ばしてたクルーブが、唇を尖らせながら呟いた。

 男のくせにちょっとかわいいのやめろ。

 

「何がです?」

「ばれてそうだから白状するけど、僕、結構しんどかったんだよね」

「そうですか? 気づきませんでした」

 

 わざわざ言わなくたっていいよ、武士の情けじゃ。

 

「白々しいよねぇ」

「本当ですってば」

「で、君は全然余裕だったんでしょ?」

「……いえ? それに僕はクルーブさんに比べて撃った魔法の数が少なかったですから」

「それを差し置いても、初めての挑戦で魔力量の調整に成功してる時点で普通じゃないもんね。いつ倒れるかと思って見てたのに、ぜーんぜんそんな気配ないんだもん」

「クルーブさんの方が先に倒れるところでしたね」

「生意気だなぁ!」

「5歳児相手に張り合わないでください」

 

 ばたばたと足を動かすクルーブはすごく子供っぽい。

 というか、中学3年生くらいだって考えると普通に子供だ。

 ……待てよ。もしかしてこれ、俺の方がめちゃくちゃ大人げなかったことになるのか?

 

 いや、でもなぁ、俺は今5歳だし。

 

 実年齢換算だとクルーブは俺の半分くらいだけど、今で計算すると俺はクルーブの3分の1、つまりクルーブの方が大人げない態度だ、Q.E.D。

 

「君さ、ホントに5歳児? ホントは僕と同じくらいの年じゃないのぉ?」

「何を言ってるんですか。どう見ても5歳児でしょう」

「見た目はね」

 

 軽口をたたき合っていると、なんだか友達みたいな気分になってかぶっている猫さんがどこかに散歩に行ってしまいそうになる。

 危ない奴だな、クルーブ。

 後俺はお前の倍の人生経験があるぞ、舐めるなクルーブ。

 

 さっきの証明とは矛盾したことを考えだけれど、言葉に出さなければ誰にも伝わらないので問題はない。クルーブは大人げないし、大人である俺を舐めている。

 自分でも訳が分からなくなってきた。

 

 でも今回のことで分かったのは、クルーブとは仲良くなれてしまいそうということだ。

 俺はこいつの実力をしっかり認めてしまったし、意地の張り方に感心してしまった。俺の成長に役立つ相手だし、ちょっとどや顔がうざくて子供っぽいだけで性格だって悪くない。

 

「クルーブさん、午後からも魔法を見てもらえますか?」

 

 クルーブは俺のことを見上げて何度か瞬きした後、にやぁっと笑って地面をずって近づいてくる。

 

「ん? 俺の実力認めたの? ん?」

 

 こいつすぐ調子乗るな。

 なんかちょうどいいところに顔があるな。蹴とばしてやったらどんな表情するのかちょっとだけ気になったけど我慢だ。

 椅子から立ってしゃがみこんで頭を下げる。

 

「認めました。お願いします」

 

 すると突然めちゃくちゃに頭をかき回された。

 おまえ、このサラサラヘアーをよくぐちゃぐちゃにする勇気あるな! ミーシャが毎日櫛通してくれてるんだぞ!?

 

「いいよ、教えてやる。みんな僕の魔法見ても、なんでか全然やる気出してくれないんだ。やっぱわかるやつにはわかっちゃうかぁ、ルーサー君、見る目あるじゃん」

 

 ああもう、いつまでやってんだ。

 何とか抜け出してルドックス先生の横に逃げて振り返ると、クルーブが満面の笑みを浮かべていた。

 何がそんなに嬉しいんだ。俺みたいなのに魔法教えるのなんて、一流の探索者《シーカー》にしてみればめんどくさいだけだと思うんだけど。

 

「よし、やる気出てきた」

「……休まなくて大丈夫ですか?」

「8割くらいまで回復したしぃ、ルーサー君の使う魔法に合わせてれば夕方くらいまで余裕」

 

 そういえばさっきまで俺の3倍魔法使ってたもんな。

 あれはやっぱり見せつけるためにわざとやってたんだな。

 

「クルーブさんが大丈夫ならいいですけど」

「やっぱ生意気だなぁ。まぁいいや、ほら行くよ」

 

 張り切って歩いていくクルーブの足取りはしっかりとしている。2時間も休憩していないはずなのに、大した回復力だ。

 イレインなんかは一度魔力をたくさん使ってしまうと、復活まで半日以上かかる。

 もしかしたら魔力の回復って、その総量が多いほど早いのかもしれないな。

 

「それじゃあ儂はオルカ様に一つ話をしてくるかの」

「話ですか?」

「そうじゃ。クルーブを正式にここで雇ってもらうように話をしておくんじゃよ」

 

 魔法を教えてもらうのだから対価を払うのは当然か。

 当たり前のように享受している教育環境だけれど、これも全部父上の稼ぎがあってこそだってことを忘れちゃいけないな。

 他の人が受けられないような先生に恵まれているんだから、父上や母上にはそれだけの結果は見せたい。

 

「……ルーサー様、クルーブと仲良くしておくれ。あれで悪い子じゃないんじゃよ」

 

 これはあれか、5歳児のルーサーにではなくて、俺に向かって話しているんだな。

 

「わかってますよ。俺、結構気に入ってますよ、クルーブさんのこと」

「ほっほう、そりゃあ良いことじゃ。クルーブならば何かあったときに力になってくれるはずじゃ。ルーサー様も気にかけてやってくれると嬉しい」

「……何か事情が?」

「うむ、ある。じゃがそれはいつかクルーブの口から聞いてほしい。なに、悪さをしたわけじゃあないんじゃよ。……最近は少々妙な奴らとつるんでおったようじゃがな」

「どういうことです?」

「こちらの話じゃ。ただのうルーサー様、探索者(シーカー)の誰もがあの子のように素直だとは思わんことじゃよ」

「詳しく教えてはいただけませんか?」

 

 ルドックス先生はいつものように長いひげをしごいて笑う。

 

「ふむ。なんでも知識としてだけ蓄え、知ったような気になるのも良くない。あまり焦らずじっくりと周囲を観察してみることも大切じゃよ」

「わかりました、肝に銘じておきます」

 

 ルドックス先生は笑いながらのんびりと屋敷の方へ歩いて行った。

 知ったような気になる、か。

 言われればなんとなく納得できるんだけど、どうしても何をするのにも余分な知識がちらついちゃうんだよなぁ。

 母上のことや父上のことで、実際に動いてみないとわからないことはあるって痛感したはずなのに、俺は怖がりだからどうしても知識に頼りたくなってしまう。それもいつの間にか無意識にそうしているから困りものだ。

 

「何してんの? 早くこっち来なよ!」

 

 訓練場からクルーブの張り切った声が聞こえた。

 生徒より先生の方がやる気満々っていうのも珍しい。いや、俺だってやる気は十分だけどさ!

 

 よし、とりあえず今日は無詠唱で礫弾を安定させるところまで何とか頑張るぞ。

 

 

 




そういえば気がむいたら評価とか頂けると嬉しいですよろしくお願いしましゅ
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