たぶん悪役貴族の俺が、天寿をまっとうするためにできること   作:嶋野夕陽

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ウォーレン家

 熱い少年漫画みたいながちの訓練を続けること二日。

 ちょっと熱くなりすぎてて、母上と父上にちゃんと休みなさいと言われ、エヴァと戯れること1日。

 

 そんで父上との剣術稽古中にこっそり魔法を使おうとして使えず、集中するよう諭されたのが昨日。コラッて言って頭叩かれるより効くんだよね、父上のお話。

 まず手が止まって、じっと顔を見られて、こちらの話を聞いてくる。それから同意を示したうえで、今はその時ではないことを説明されて、最終的にいつになったらやるべきかまで真面目に一緒に考えてくれる。

 堪え性のない子供が相手だったら途中で暴れたり拗ねたりするかもしれないけど、なまじ精神が大人なせいで、俺は話をすればするほどどんどん小さくなってしまうばかりだ。

 まぁね! 付け焼刃でやろうとした俺が悪いよね!

 多分クルーブに話したら、あいつにも馬鹿にされて笑われるもん。

 

 んでもって今日は午前中にサフサール君とイレインと一緒に、戦略のお勉強の日だ。眼鏡マッチョ先生は、今日も高めの声で俺たちに色々なことを教えてくれる。

 戦略のという割に、王国周囲に位置する各勢力の内情なんかを語ってくれるから、これが意外と面白い。たまに突然質問してきて、俺が答えられないとわかってから、ウォーレン家のどちらかに話を振って正答を引き出すのだけは気に食わないけど。

 俺が勉強不足なのが悪いけどさぁ!

 腹の立つことに、これをされるとばっちり頭の中に知識がぶち込まれていくのが自分でもわかる。悔しい。

 

 途中からサフサール君専用の講義に移行していくと、俺とイレインはちょっと暇になる。そうなると少し離れた場所で横並びに座って、人から顔を見られないように気を付けながら内緒話だ。

 これをあまりたくさんやっていると、各所の使用人から暖かい視線を頂いたり、後ほど応援のメッセージを寄こされたりするのは遺憾の意だ。示せないのがつらいところ。

 でもたまにこうして息抜きもしたくなってしまうので、どっちを取るかって言われると難しい話になってくる。

 特にイレインの方は、俺より自由が利かないから、たまに付き合ってやらないとしんどそうだ。

 

「サフサール君最近元気そうだよね」

「こっち来てからうるさく言われることないしな」

「お前さ、前にサフサール君のこと出来が悪いっぽいこと言ってたけどさ、結構優秀じゃね? 少なくとも俺の9歳の頃よりよっぽどしっかりしてる」

「……家にいる時はもうちょっとおどおどしてて、返事もおぼつかなかったんだよな」

「どー考えてもおたくの両親が怖くて委縮してただけじゃん」

「今思えばそうだよな。俺もこっち来てからよく喋るようになったけど、兄貴すげぇ俺のこと気にするんだよな。たまに本性隠してるの嫌になるぜ、本当に」

 

 まー、あれだけ善人で、しかも妹思いのお兄ちゃんに嘘ついてんのってしんどいよな。俺なんかは他人だし自分の好きなようにやってるからまだいいけど、イレインなんて多分元の性格とかけ離れた性格を演技している。

 

「お前さー、将来設計とか決まったの?」

「決まんねー……、でも真面目に勉強して王城で働いて爵位とかもらえねぇかなって思ってる」

「あー、大臣とかの下にそういう立場の人いるっぽいもんな」

「問題は、現状そこに女がいないってことだ。誰か俺の前に一人くらい前例出てくれねぇかなぁ。騎士の中には女性部隊みたいなのがあるらしいのにな」

 

 戦う場に女性がいるのに、政治の場にいないってのも変な話だ。貴族の当主に男性ばかりがいるから、自然と男性優位な社会になってしまっているのかもしれない。

 ちなみに王国にも一人女性の貴族当主がいるって聞いた。

 噂によると、兄弟と跡目争いで紛争した末に大勝利を収めた女傑だとか。めちゃくちゃな範囲魔法をぶっ放すやばい奴らしいけど、領土が遠いから接点はあまりなさそうだ。

 そういう怖い人とはあまりお近づきになりたくないね。

 

 考えてみると、イレインってやろうと思えば跡目争いとか起こせそうなものなんだよな。両親の評価的にはサフサール君よりいいわけだしさ。

 ちょっと前までならともかく、今イレインがそれをやるって言ったら俺は止めるけどね。サフサール君、めっちゃいい奴なんだもんなぁ……。イレインだってそれは感じてるだろうから、口が裂けても言えないんだろうけど。

 将来的にどうだかは知らないけど、今だったらなんとでもなっちゃいそうだし。

 ……一応聞いてみるか。

 

「お前さ、ウォーレン家乗っ取っちゃえとか、思ったことないの?」

 

 イレインは眉間に皺を寄せて俺を横目で見てくる。

 

「んなことしたって、どうせあの親とずっと一緒にいることになるんだろ。それに器じゃねぇよ。俺より兄貴の方がよっぽど色々考えてる。最近話しててよく分かったよ、兄貴が当主になったら、ウォーレン家はきっといい家になる。親さえ邪魔しなけりゃだけど」

「イレインって結構両親のこと嫌いだよな」

「あいつら無駄に戦好きだし、なんか冷たい感じなんだよな。俺のことだって褒めてくるけど、つかえる駒くらいにしか見てなさそうだぞ。こんなこと言いたかねぇけどな、俺、お前と会った後、母親とかにどうやって男を篭絡するかの勉強させられたんだからな」

「うえぇ」

 

 ゲロゲロだ。女の人って怖い。

 あー、この年からそういう教育されるんだ。もしかしなくてもローズとかもそうなのかなぁ。

 だとするとますます殿下じゃなくて俺の許婚にした意味がよくわかんねぇけどな。

 

「こっちだって同じ気分だっての。教えられてる間ずっとそんなこと考えなきゃいけない方の身にもなってみろよ……」

 

 ……割と地獄だなそれ。

 

「ま、頑張れよ、その話もう俺にしないでね」

 

 気分悪いから。

 

「お前ってそういうとこ結構薄情だよな」

 

 イレインは不満そうな顔をしていたけど、とりあえず今のところは俺の気分を害さないことの方が大事なのである。

 

 

 最近は母上がエヴァに付きっきりなので、夜の執務室には父上と俺の二人だけになることが多い。赤ん坊が眠っているところでしゃべると目が覚めてしまうし、泣き出してしまっても仕事の妨げになる。

 父上は邪魔だとかは言わないだろうけど、泣いてたら気もそぞろになりそうだ。

 二人とも仲良しのオーラがめっちゃ見えるから心配はしてないんだけどね。

 俺としてはもっとたくさん下の兄弟ができてもいいよ、かわいいし。

 

 父上も深夜まで仕事をすることは少なくなってきた。

 やっぱり王都に移って、やり取りが楽になったのが良かったんだろうなぁ。

 書類を片付け始めた父上を目で追いかける。

 そろそろ話しかけても邪魔にならないかな?

 

「父上は学校で陛下とウォーレン伯爵と仲が良かったと聞きました」

「そうだな。仲は……まぁ、良かったな」

 

 懐かしむような表情をしているから嘘はないんだと思う。実際話してて気安い感じだったし。だからウォーレン伯爵と父上が仲が良いってのはわかるんだけど、なんで仲良くなったのかがわかんないんだよな。

 俺の見えてない良いとことかがあるのか? 単純に子供に厳しいだけで、他には優しいとか?

 みたいな疑問が溢れてきての質問である。

 父上割と何でも答えてくれるからね。考えてるより聞いた方が早い。

 

「なんで仲良くなったんです?」

「……確か、プラックから声をかけてきたんだったと思う。今よりも明るい性格をしていてな、成績が伯仲してけん制し合っていた俺と陛下の仲を取り持ってくれたんだったか」

「陛下とけん制って……」

「いや、私は気にしないでいたのだけれど、それがかえって気に障ったらしくてな。でもそれは2位争いでな。座学でも剣術でも1位はプラックだったよ。もしかしたら、あいつも仲を取り持つ気はなかったのかもしれない。……いや、今思えば間違いなくそうだな。剣術で俺より成績の悪かった陛下が私に突っかかってきてた時、あいつなんて言ったと思う?」

「わかりません、なんです?」

 

 語る父上はずいぶんと楽しそうだ。

 本当にいい思い出なんだろうな。

 

「『ふーん、お前たち2位で満足なんだな』だ。気にもしてなかったのに、それで私もやる気が出てしまった。陛下も目の前の私よりもいけ好かない奴を見つけたと、プラックのやつに突っかかるようになった」

「友人、というよりライバルですね」

「そうだな、でもいつの間にか仲良くなっていた」

 

 すっごい青春っぽい話だ。

 子供の俺たちがあれだけ関係に気を使ってるのに、父上の世代って案外自由だったんだなぁ。

 

「結果座学では陛下とプラックが、剣術では私とプラックがトップ争いをするようになった。……きっかけはそんなところだ」

「……そういえば学園って、魔法の講義はないんですか?」

 

 剣術と座学だけってことはないと思うんだけど……。貴族って魔法が使える人が圧倒的に多いらしいし。

 

「いや、ある。ただな、魔法ではかなわないものたちが多かったんだ。例えば推薦を受けた探索者(シーカー)。それからもう一人、ヴィクトリア=オートンという女傑がいて、魔法に関しては張り合おうという気が起きなかった」

「……そんなにですか?」

「ルーサーは魔力量が多いだろう? 私はそれほどでもなくてな。ただ、そのヴィクトリア、いや、オートン伯爵はな、魔力量がとにかく多かった。それに飽かせて、第三階梯までしか使えないというのに、独自の第六階梯の魔法を持っていたぐらいだ」

 

 あ、俺その人知ってる。

 【皆殺し平原】とか呼ばれてるやばい地名作った人だ。西に住んでいる、この国唯一の女性貴族ね。あー、父上と同じ世代だったんだ……。

 

 北はウォーレン家、東はシノー家、南にセラーズ家、西にオートン家。各方面へにらみを利かせる王国の伯爵家だ。王都であるプロネウスは国土全体を見たとき南寄りにあるから、セラーズ家が一番近いんだけどね。

 ……そんなことより今はウォーレン伯爵についてだった。

 

「ウォーレン伯爵は戦争をよくされると聞きました。北には敵が多いのでしょうか?」

「なんだ、イレイン嬢の心配か?」

「ええ、まぁ……」

 

 心配っちゃ心配だけど、多分パパンが考えているような心配ではないよ。

 父上は少し難しい顔をして、とんとんと書類をまとめ終えてそのまま引き出しの中へしまった。

 

「……北は、多いな。馬を駆るのが得意なものが多く、冬になると食料を求めて南下してくる。統一性なくばらばらと攻めてくるから、交渉をするのが難しいと聞く」

 

 あー、なんかどっかで聞いたような話だ。ここまで話を聞くと、ウォーレン伯爵もそこまで無茶苦茶なことをしているわけではないようにも思えてくる。

 

「ルーサーから見てプラックはどうだ? 怖い奴か?」

「……厳しい方のように見えました」

「……そうか。やはりあれ以来あいつはちょっと変わったな」

「あれとは?」

「……あと一年で卒業という頃に、戦争があってプラックは自領に戻ることになった。その時に当時のウォーレン伯爵が亡くなって、プラックが家督を継ぐことになったのだ。……思えば、私たちの世代が早くに家督を引き継いだのも、あれがきっかけだったな」

「詳しく聞かせてもらえませんか?」

「そうだな……、いや、止めておこう。もう夜も遅いし、いくら賢いとはいえ、お前にはまだ難しい話だ。ほら、ミーシャが待っているから一緒に部屋へ戻りなさい。お前が休まないとミーシャも休めないのだから」

 

 めーっちゃ気になるところでやめるじゃん。

 これしかも、父上に聞いてもちゃんと教えてもらえなさそうな気配がする。母上も、無理だろうなー。そもそもエヴァの前で小難しい話したくないし。

 だとすると、ルドックス先生とか? あー……、眼鏡マッチョ先生とか案外いいかもしれない。そうだ、あの人に聞いてみよう。

 

 父上に抱き上げられて運ばれながら結論を出した俺は、そのままミーシャに連れられて自室へ戻ると、すぐにベッドにもぐりこんで夢の中へと旅立ったのであった。

 

 

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