たぶん悪役貴族の俺が、天寿をまっとうするためにできること   作:嶋野夕陽

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お出かけ準備

 王誕祭一日目はつつがなく終わり、二日目に差し掛かる。

 父上はお仕事、サフサール君はそのおまけ。

 こういった嫡男の教育を他家の貴族にまかせたりすることは、本来絶対にありえないことだ。

 そもそも相手側が受け入れてくれない。自分の働き方の手の内をわざわざ明かすような事もしない。

 預ける方にだってリスクはある。長いこと教えにしたがうことで、後継ぎが他の家の傀儡になってしまう可能性があるのだ。

 よほど仲がいいんだろうな、父上とウォーレン伯爵って。

 

 ま、そんなことはどうでも良くて、今日は初めて街に出て王誕祭を楽しめる日だ。

 

 一緒に行くのはイレインだけ。

 護衛はクルーブとその相方スバリ。猫背のくせにぬらっと背の高いおじさんだ。つまり背筋を伸ばしたらめちゃくちゃでかい。

 あんまりたくさん話したことはないけれど、とりあえず信用していいらしい。

 これは別にクルーブがそう言ったからとかではなくて、父上が改めて結構マジで調査してくれたからだ。

 クルーブは王都の出身だったらしく、色々と問題はあるのだけれどその人間性や背景は【賢者】であるルドックス先生が保証してくれている。俺も随分長いこと世話になってるしね。

 一方でスバリの方はよくわからなかった。ただ、むかしクルーブが言っていた通り、出身がウォーレン伯爵領らしく、わざわざ手紙のやり取りをしてその人間性を調査してもらったらしい。

 結果白。

 【探索者(シーカー)】の前衛として割と華々しい成績を残している割に、派手な暮らしもせずに堅実に生きている男なのだそうだ。

 なんならダンジョン以外の場においては、かなり怪しい少年であるクルーブを相方として定めたのが、傍から見たとき彼にとっては最も大きな決断だったんじゃないかという調査結果が出ている。

 

 クルーブについて知りたいかと父上に聞かれたとき、俺は思わずうなずきそうになったが、辛うじて我慢をすることができた。

 俺はクルーブのことが嫌いじゃないし、これだけ世話になっているのに勝手に相手の事情を知ろうなんて失礼にもほどがある。世話になってる人の気持ちを裏切るような嫌な奴にはなりたくない。

 

「父上が調べて、身元を保証してくださるんでしょう?」

「そうだ」

「では聞きません。直接本人から聞きます」

「……ふむ。貴族としては聞いておいた方がいいが、人としてはその方がいいだろうな。……私はお前の決断を尊重する」

 

 父上、そんなに優しく撫でたら、俺の回答に満足していることがバレバレですよ。

 威厳を保とうと気を張っていることも多いけれど、俺はこんな身内には優しくてちょっと甘い父上のことも好きだ。

 

 そんなわけで当日。

 できるだけ派手でない、市民に紛れるような服を着て俺たちは迎えを待つ。

 イレインもその辺にいる女の子風、らしい格好をしているけれど、残念ながら素体がいいので絶対に目を引くことになるだろうな。

 

「お前、絶対目立つよね」

 

 俺が今まさに言おうとしていたことを、イレインが呆れたような顔をして言ってきた。正直鏡を見たとき、俺も同じことを思ったのでその言葉は甘んじて受け入れる。

 俺、将来有望そうなキラキラ系美少年だもんな。

 中身は俺だけど。

 

 チーム殿下の男連中をタイプ分けするならば、殿下は素直で明るく優しそうなタイプ。典型的爽やかスポーツ系陽キャっていったらいいのかな。

 俺は母上に似たサラサラ金髪キラキラおめめの美少年。自画自賛できもいけど、客観的に見てのことだから仕方ない。発言がすべて丁寧語だから、ちょっととっつきにくいかもしれない。

 ヒューズ君が、目つきの悪い不良系。態度はツンデレ中身は子犬。

 

 「お前も目立つからな」

 

 ちなみに女連中も中々に特徴的。

 イレインは父親譲りの銀色に近いグレーのウェーブがかかった髪色で、鋭い目つき。母親譲りの紫色の瞳とばっしばしのまつ毛。唇は薄くてちょっと幸が薄そう。まぁ美少女で、中身はやんちゃな子供っぽい性格のホスト。んでもって実は意外と素直。

 ローズは情熱的な真っ赤な御髪を、多分力技でストレートにしている感じ。切れ長の目じりはやや吊り上がり、多分将来美女になるんだろうなーって感じのパーツをしてる。イレインが静の悪役令嬢なら、ローズは動の悪役令嬢って感じ。中身は見た目の通りで、正ヒロイン感は全くない。

 あとはベルだけど、ベルは前髪で目が見えないから印象よくわかんない。栗色の髪の毛を、女の子なのにミディアムボブくらいにしてる。この世界の女の子でロングじゃないのめっちゃ珍しい。

 イレインがまねをしたいと言って、普通にサフサール君に止められていた。世間的には貴族の女性は髪を伸ばすものらしいよ?

 相変わらずドレスを着ていないと少年か少女かわかりにくい感じなので、容姿説明は割愛。しいて特徴を上げるとするならば、背が小さい。

 

「なぁ、屋台で買い食いしていいと思う?」

「……駄目だろ」

 

 貴族的に買い食いはアウトじゃない?

 

「よくない?」

 

 でもなぁ、たまの外出だしなぁ。

 

「いいと思う?」

 

 イレインがどうしてもって言うならなぁ?

 

「たまにはいいでしょ。屋台の飯にピンポイントで毒入れるのとか無理じゃない?」

 

 そうだよね、無理だよね。

 いいよね、たまには買い食いくらいしても。

 

「だよな。じゃ、ちょっとだけ食べるか」

 

 あとなイレイン、俺言わないでやってるけど、お前だんだん言葉遣いが女の子っぽく柔らかくなってきてるからな。

 

「今日はよろしくお願いします」

「やめてくだせぇよ、頭下げるとか。こいつは坊ちゃまに魔法を教えてるかもしれませんが、俺は一介の探索者(シーカー)ですぜ」

「優秀な探索者(シーカー)だと、クルーブさんから常々聞かされています」

「はぁ? 僕そんなこと言ってないし! は?」

 

 一緒にダンジョンに行って前線で戦う様を、そりゃあもう、楽しそうに語ってくれてたけどな。俺はクルーブの実力を信用してるから、クルーブが評価するならこのスバリって冒険者も強いんだと思っている。

 実際短期間でバリバリ稼いで、街でのんびりしてる時間が長いっていう一流の探索者(シーカー)らしいしな。

 

「言ってないからな、勘違いするなよな」

「わかってるよ、うるせぇな」

 

 クルーブの猫パンチがスバリの肩に連続ヒットする。

 体をわずかに揺らしがらめんどくさそうに答えるさまは、まるでちょっとやさぐれた父親だ。

 そしてクルーブは子供。

 これはいつもの印象と変わらないけど。

 

「えー……、王誕祭の街をうろつきてぇんすよね? んで、そりゃあ変装のつもりですかい?」

「一応、街の人に合わせた服を……」

 

 俺の返答にスバリはぼりぼりと頭をかいた。

 やれやれこれだからお坊ちゃまはという声なき声が聞こえてくる。

 

「街に住む奴らはね、そんなパリッとした服は着てねぇですよ。髪だってそんなキラキラしてちゃねぇ……」

「すみません……」

「あ、いや、責めてるわけじゃねぇんですよ。バレバレだろうが、そのために俺らが護衛についてるわけで。おい、クルーブ、この坊ちゃまもっと元気な跳ねっかえりだって言ったじゃねぇか。めちゃくちゃ礼儀正しいじゃねぇかよ」

 

 ふーん、俺若くて耳がいいから、大体全部聞こえてるけどね。

 クルーブが俺のことどう思ってるかよくわかったよ。

 

「猫かぶってるだけだし、生意気なガキだよ」

「生意気なガキはお前だ! すみませんね、うちの馬鹿が」

「いえ、クルーブさんはいつもこんな調子なので」

 

 もはやこれぐらいのことじゃ腹も立たない。

 どちらかというと、こういうのよりも、ニコニコしながらからかってくるときの方が腹が立つ。俺からしたらいつもまた始まったよって感じなのだが、クルーブは上手くからかってやった、みたいな達成感じみたものを得ているのが余計に腹が立つ。

 定期的にほっぺたひっぱたいてやりたい衝動に駆られる。

 

 まあでも、クルーブ自体は、俺のことを手のかかる弟ぐらいに思ってくれてそうなので、好きか嫌いかって聞かれると前者なんだよな。喋ってるとたまに素が出てしまう。

 二人きりで訓練をすることも多いからかもしれない。

 

「それで、こっちのお嬢様がイレイン様か。何か失礼があったらすぐに教えてくだせぇよ? 俺らは礼儀作法なんて身に着けてないもんでね、悪気はないんでさ。俺が怖かったらこいつのそばにでもいてくだせぇよ。中身はガキですが、顔は小綺麗だから怖かないでしょうよ」

「いえ、本日はよろしくお願いします、スバリさん、クルーブさん」

 

 イレイン、猫かぶりモード。

 めちゃくちゃ今日を楽しみにしてたくせに、俺を矢面に立たせる気だな。

 どっから変なうわさが広がるかわからないから仕方ねぇけどさ。

 

「……こちらもしっかりしてやがらぁ。そんじゃ行きますかね。結構歩くことになりやすが、体力に自信は?」

「あります」

「ま、足が痛くなったら言ってくだせぇ。そしたら適当なとこで休みやすからね」

「くれぐれもよろしくお願いいたします、クルーブさん、スバリ様。私もついていきたいところなのですが、何かあったときに却って足を引っ張りかねませんので」

「あ、こりゃご丁寧にどうも。暗くなるころには元気にこちらへお見送りしますので」

 

 スバリが後頭部に手を当てながらぺこぺこと頭を下げた相手はミーシャだ。

 お出かけが決まってからはずっと、俺に街の怖さを教えてくれた。

 でもね、路地裏に入ると骸骨の化け物が出るという噂があるとか、暗くなると光石で作られた影が勝手に動き出して襲ってくるらしいと聞いたとか、そういう子供じみた脅しは止めようね。

 心配してくれてるのはよくわかったから。

 俺が「そっかー」と気のない感じで答えると「ルーサー様に何かあったら、私は……」と結構マジなトーンで言われた時は結構慌てた。

 絶対に気を付ける、怪我もしないとガッツリ約束をして、こうしてお出かけの日となったのである。

 

「クルーブさん、お願いしますね」

「大丈夫だってぇ」

「……クルーブさん、お願いしますね」

「わかったわかったぁ」

「お願いしますよ?」

「しつこいなぁ……、あ、う、うん」

 

 眼力がね、強い。瞬きをしようね。

 よそ見してへらへらしてたクルーブが、三度目のお願いでようやくミーシャの顔を見て、直後目を泳がせる。

 しゅんとしてしまってちょっとかわいそうだ。

 この二人どんな力関係なんだろう。

 

「……別にそんなに心配しなくても、ルーサー君結構強いのに」

 

 ぼそっと嬉しいことを呟くクルーブ。

 目をがん開いてクルーブを見つめるミーシャ。

 

「張り切って護衛しよ! ね、スバリ、マジでやってよねぇ!」

「俺は最初っからそのつもりだっての……」

 

 びしびしとスバリの肩をつつきながら、クルーブはそっと場所を移動してミーシャの視線から隠れるのだった。

 

 




作者の処女作が『次にくるライトノベル大賞単行本部門1位』を貰ったみたいです。
バッソマンファンに殺される夢を見ました。
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