たぶん悪役貴族の俺が、天寿をまっとうするためにできること   作:嶋野夕陽

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潜入

 馬車から覗く久しぶりの王都は、あまり代わり映えしないように見える。

 あんなに頑張っていた父上が王都を離れたとて、街の人々にはあまり変化なんてないんだな。

 そう思うと少しだけやるせない気分になった。

 

「なんだか、街を走り回る子供の数が減ったな」

「そういわれればそんな気もするな。あと、馬車の数が増えたか?」

「ああ、だから危なくて子供をあまり歩かせないのかもな」

 

 馬車が多いということは、以前より街が発展してるってことになるのか?

 あ、またちょっと嫌な気分になってきたから考えるのやめよう。

 色々考えるのは、もうちょっと情報収集を済ませてからでいい。

 

 貴族街に入る時、身分を示すと門番の表情が硬くなった。

 こりゃかなり変な噂が回っている可能性があるな。

 

 セラーズ家の屋敷の前で馬車が止まり、俺達は馬車を降りた。

 門が開くと、敷地内では穏やかな表情をした使用人たちが迎え入れてくれた。

 数日間この屋敷に滞在して、それから俺たちは学園の寮に住まうことになる。

 別に家から通ってもいいのだけれど、学園ではそれを親離れできていないと馬鹿にする傾向があるそうだ。

 

 母上は無理せず家からと言ってくれたけれど、俺達は結局寮に入ることに決めた。

 つけ込まれるスキは少ない方がいい。

 

「ルーサー様、イレイン様、長旅お疲れ様でございます」

「二人きりの旅は楽しかったぁ?」

 

 声を出して迎えてくれたのはミーシャとクルーブだ。

 じろりと睨まれたクルーブは下手な口笛を吹いて目を逸らす。

 一応お付き合いしている、らしい。

 

 ミーシャは当初予想していた通り、めちゃくちゃ美人になった。

 クルーブは出会ったときとあまり変わらない。んでもってベビーフェイスだしあまり背が高くないから、年相応には見られない。美少年と美青年のはざまって感じだ。黙っていれば壁画とかにされる天使っぽくも見える。

 言動はただのいたずら小僧だけど。

 

 ミーシャがどんな時も俺を最優先するので、流石に申し訳なくなって謝ったことがあるのだけれど、クルーブはへらへらと笑って「そこがミーシャのいいところなんだよねぇ」と言っていた。

 わけわかんねぇけど、本人が納得してるならいいやと思った次第だ。

 

 クルーブはセラーズ家の領地にいる間、一人でダンジョンに潜りまくっていた。

 ずっと相棒であるスバリと一緒に潜っていたから、前衛がいなくて大丈夫なんだろうかって思っていたけどいらぬ心配だった。

 後半は俺がダンジョンに連れて行ってもらって、感心したのはその圧倒的な手数の多さと判断の速さだ。かなり学ばせてもらったので、戦闘における判断力にはちょっと自信がついてしまった。

 

 多分クルーブみたいな奴のことを天才って言うんだ。

 ルドックス先生が、いかにも怪しくて言動もよろしくないクルーブを、わざわざ俺と引き合わせてくれた理由を改めて思い知った。

 

「数日間はゆるりと旅の疲れをお取りくださいませ。本音を申し上げれば、こちらから通っていただき、毎日お世話させていただきたいのですが……」

「……ミーシャ、それ母上に頼まれた?」

 

 ミーシャがにっこりと笑い答えない。

 否定しないということは肯定ということだ。この辺はもう阿吽の呼吸だな。

 ミーシャは母上のことを裏切らないけれど、それ以上に俺のことを優先してくれる。

 

「私自身、強くそう思っております。ルーサー様に健やかに過ごしていただくことこそ、私の一番の願いです」

「……いつもありがとう、ミーシャ」

「もったいないお言葉」

 

 セラーズ家には素晴らしい家人がたくさんいるんだ。

 今ここにいる家人たちは、セラーズ家の評判が悪くなっても心変わりせずに仕えていてくれた精鋭だ。

 逆に言えば、やはり幾人かはいとまごいを申し出た者もいる。

 彼らも元々下級貴族だったりするし、家の事情もあったりするから仕方ないんだけどね。

 

 でもまあそれだけに、俺はセラーズ家を悪者のままにはしておきたくないと思っている。

 何ができるかまだわかんないけどね。

 とりあえず学園ではいい成績とって、仲良くしてくれる人をちゃんと探すつもりだ。なんたって友達100人できれば、未来の国を裏から操ることだってできるかもしれない。

 

 流石に冗談だし、そんな野心もないけどね。

 

 

 夕食を終えて夜遅くになって父上が帰ってきたらしい。

 ミーシャから声をかけられて執務室へ向かう。

 

「元気そうだな、ルーサー」

「そういう父上は、少しお疲れのようですね」

 

 肌に張りがないような気がするし、目の下にはクマができている。

 比較的若く見られる父上だが、今は年相応に見えた。

 

「うむ。冷却期間を経て陛下の相談役として傍に侍ることになったのだがな、これがまぁ、なかなかに忙しい。王宮は目を離すとすぐ古狸どもが好き勝手する伏魔殿となる……。……長旅で疲れているお前に話すことではなかったな」

「……いえ。どうかお体を安んじてください」

「お前がしっかりしているから、ついポロリと本音を漏らしてしまう。まあ、王宮のことは気にするな。お前はお前の為すべきことをするのだ。私が不甲斐ないばかりに嫌な思いをさせるかもしれんがな」

 

 ……学園では色々ありそうだけど、これ以上父上に負担をかけるのは良くないな。俺も十分に強くなったし、少なくとも味方が何人かいるのは確定で分かっている。

 

「いえ」

 

 否定の言葉を述べようとしたところで、少し疲れた顔をしていたはずの父上が明るくにっと笑った

 

「だが、お前ならなんとでもすると信じている。どうしてもうまくいかぬことがあれば何でも頼るといい。疲れたら屋敷へ戻れ。アイリスも元気になってこちらに来るというし、エヴァもルークもお前と会うのを楽しみにしているはずだ。あまり顔を出さぬと臍を曲げられるぞ」

 

 父上は何でも自分でやろうとする俺のことをよくわかっているらしい。

 下の妹と弟の話をされては俺も折れざるを得ない。

 

「エヴァは確かに怒りそうですね。できるだけ顔をだしに来るようにします」

「しかしまぁ、忙しければ無理をすることはない。そうだな……、どうせ帰ってくるのならばできれば私がいる夜にしてほしいところだが」

「憶えておきます、父上。……ありがとうございます」

 

 前世もだったけどさ、今世も家族ガチャに恵まれすぎだろ、俺。

 

 

 学園の歴史は国の歴史と同じだ。

 城に隣接するように作られたその学園に入学する為には、かなり厳しい審査がされることになる。

 貴族以外にも将来を有望視される生徒が多数入ってくるので、入学前の調査は年単位で行われるのだとか。

 そういった生徒は、市井にある国から認められた予備校のようなものから上がってくる。だから、最低限必要な教養などは、きちんと身に着けてきているのだ。

 貴族が家庭教師に頼むことを小学校教育のように行っているということになるか。

 

 しかしまぁ、子供なんて言うのは将来のことを中々考えないもので、実は優秀なのにさぼったりやる気がなかったりで予備校では埋もれてしまっている、なんてこともある。

 そんな子たちが急にやる気を出したり、あるいは才能があるかわからないけどお金を積んで入ってきたりするのが貴族推薦だ。

 審査もパス、何かあった時は推薦した貴族の責任。

 

 今年は殿下が入学されることもあって、多分その辺を利用した入学者がめちゃくちゃ多い。というか、入学者自体が多いんだけどね。

 貴族の子息もここ数年は多いし、それの取り巻きのために貴族推薦で入る者がさらに倍増するからなぁ。

 

 そしてそれが何を意味するかというと、セラーズ家を敵視する勢力も比例して増えてるってことだ。

 おらワクワクしてきたぞ、なんて言える強靭な精神の持ち主ならまだしも、俺はそんな戦闘民族ではない。しっかり覚悟を持って臨まないと、すぐにぽっきり折れてしまいそうな気がする。

 

 頑張れ俺、負けるな俺。

 俺が全員をわからせておけば、後から入学するエヴァもルークも快適な生活を送れるはずだしな。

 

 数日のセラーズ家別宅に滞在ののち、俺は学園の寮へ向かうことになった。

 俺が門から出ると、時を同じくしてイレインが隣の屋敷から姿を現した。

 2日前にウォーレン王家から使いが来て、お隣りへ強制帰還となったかわいそうなお姫様(笑)である。

 いや、笑ってる場合じゃないんだけどさ。

 なんだかちゃんとお姫様っぽい服を身にまとったイレインが、俺に気づいて歩み寄ってくる。

 

 うわぁ、動き難そうだなぁ。

 一応俺やクルーブと一緒に戦闘訓練とかダンジョン探索とか一緒にこなしてたイレインだけど、あの格好ではろくに戦えそうにない。

 学園は制服だから大丈夫だと思うけど……、飾り付けられたものだ。

 あそこまできらびやかにするのは、学園のちょっとお馬鹿な層をけん制する意味もあるのかもな。お前らの前にいるのはプロネウス王国の裏切り者ではなく、ウォーレン王国の姫殿下だぞ、って。

 学園に他国の生徒が通うのかって話だけれど、まぁ、近隣の小さな国々からも幾人か殿下たちがいらしているようだし、そこまで違和感はない。

 プロネウス王国って結構でかい国だからね。

 

「久々に監視されてるの最悪だわ……。私の顔見て、歯の浮くような世辞ばっかり言ってくるんだ、あいつら。でも何か言われるたびに、うまくやれよってあの親たちのメッセージがちらつくんだよな……」

「しょうがねぇじゃん、お姫様なんだから」

「やめろそれ、柄じゃない……」

 

 反論する元気もないじゃん。

 

「とにかく、迷惑かけて悪いけど、学園でもよろしく頼むわ」

「そっちの父親が悪いだけで、お前のせいじゃないだろ」

「いや、そりゃそうだけど……、まぁいいか。そんじゃまたあとでな」

 

 なんか言いたげな顔して去っていったイレイン。

 色々面倒ごとに巻き込まれた感はあるけど、お前と知り合いじゃなくても、きっと父上は騒動の渦中にいることになっていたはずだ。

 色々秘密を共有できる仲間がいるだけ心強いってもんだよな。

 

 寮っていっても一学年数百人からいる学校で5年間学ぶわけで、全校生徒は1000人を軽く超える。

 それを全員収容する寮はそれはもうでかい。

 建物は全部で4つ。

 その仕分けは貴族か貴族でないかと、性別によるものだ。

 貴族は1人1部屋、一般は3人1部屋。

 一般の方が割合が多いのに貴族の建物の方が広く豪華に作られている。ちなみに校舎への距離も貴族の寮の方が近い。

 まぁ一般と貴族が一緒に時間を過ごしすぎて、あまり気安くなりすぎるのも良くない。

 常識的な範囲内であれば平等であるとされる学園だけれど、当然のことながらめちゃくちゃなれなれしくする一般人はいない。だって学園から出たときにひどい目にあわされるかもしれないからね。

 

 貴族の子女向けの広い寮は、警備の兵士なんてのもいるらしく、そのうちの一人に表向きは穏やかに寮の案内をしてもらった。

 学園に入った以上誰が敵対してて誰がそうでないかなんてわからない。

 油断せず行こう。

 

 

 よし、荷物置いた。

 鍵もった。

 戸締りした。

 

 ……寮の中探検するぞ!

 

 いや、油断しているわけじゃないよ。

 何かあったときに構造把握しておかないと困るのは自分だからね。

 幸い身分的に入ってはいけないエリアってないっぽい。

 でっかい建物に来たらまずは探索でしょ。

 

 まっすぐ部屋まで案内してもらったから、まだまだ見ていない場所は多い。

 出入り口の数、窓の場所、隠れられる場所。長年使っている建物だし、貴族のための建物なんだから、秘密の部屋とかもありそうだよな。

 

 ちょっとワクワクしてきたぞ。

 

 

 

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