たぶん悪役貴族の俺が、天寿をまっとうするためにできること   作:嶋野夕陽

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入学前の準備

 あれから隔日くらいで女子寮を訪ねて話をしたり、訓練場へ行ったりしている。

 段々と敷地内に人が増えてくるにつれて、感じる視線の数も増えてきた。

 おそらく平民だと思われる人たちからは特に何もないのだが、特に貴族用の寮付近にいる時が酷い。

 必ずしも敵対的な視線ではないんだけどね。

 人が増えてきて、むしろ遠巻きに怖がられるような避けられるような雰囲気ができ始めている。

 力のある伯爵家であり、最近は陛下の側近に復活もしている。

 下手な付き合い方をして、家に影響が及ぶことを恐れているのだろうと思う。というか、家からそうするように言われてる、が正しいのかな。

 

 来たばかりの頃やけに敵対的な奴らが多かったのは、彼らが実家に戻っておらず、情報を更新していなかったせいで、父上が王都に戻ってきた話とかを知らなかったのかもしれない。

 もしかしたらマッツォも今頃部屋で頭を抱えているかもしれないな。

 

 ところで、学園の入学式1週間前となっても殿下とローズが姿を現さない。

 殿下はともかく、ローズは情報収集とかのために、もうちょっと早く来ると思ってたんだけどなぁ。

 

 ちなみに今日は女子寮に顔を出さない日なので、俺は四階のテラスに出てヒューズとのんびりだべっている。相当数の先輩方も寮へ帰ってきていて、このテラスももっとたくさん人が来ていてもおかしくないはずなのに、なぜかそれほど人がいない。

 

 めちゃくちゃ筋トレしてる先輩とか、地べたに寝転がって寝ている先輩とか、日曜大工らしきなにかをしている先輩とか、ずっと勉強している先輩とか、屋上で退屈そうにしている皇子様とかの中に、俺とヒューズが混ざっているような形だ。

 正直に言おう。

 多分このテラス、変人系の人しかいない。

 さっき新入生らしき奴が一人ここへ足を踏み入れて、しばし固まって様子を見たあと、そのまま回れ右して帰っていった。

 

 お陰様でテラスには先輩が筋トレをする「フンッ、フンッ」という掛け声だけが、規則的に響いている。

 全員コミュ障か?

 いい点と言えば、全員が互いにあまり興味がなさそうなところだ。

 視線をあまり感じないのがいい。だから俺は暇なときはここで時間をつぶすことにしていた。

 

 剣術と魔法の組み合わせについての話をヒューズに語っていると、いつの間にか屋上から降りてきたエキゾチック末皇子こと、メフト先輩が勝手に椅子を引いて座って長い足を組んだ。

 

 メフト先輩に関しては俺もよく知らないし、ヒューズなんかもっと何も知らない。

 

 ぴったりと会話が止まってしまうのも仕方ないのないことだろう。

 

「あの、何かご用事ですか?」

「いや、退屈だから話を聞きに来ただけだな」

「剣と魔法の話をしていただけですが、興味あります?」

「特にないが……、他の連中のところへ行くよりは面白そうかな、と」

 

 もう一度周りを見回してみるが、我関せずの先輩方は、メフト先輩が屋上から降りてこようが俺達と会話しようが、その姿勢を崩すことはなかった。

 

「私が来たことで話を続けることが難しくなったというのなら……、この学園に関する疑問に、私が答えるという形をとってもいい」

 

 尊大な態度を崩さないメフト先輩だけれど、話だけ聞いていると、俺たちと交流を持とうとしてくれているだけな気がしてきた。まぁ、それもまた退屈しのぎなのかもしれないけど。

 

「……こんなことを聞くと、失礼と思われるかもしれないのですが、このテラスを利用する方はあまりいらっしゃらないんですか?」

 

 教えてくれるってんならそれに甘えたほうがいい。

 この人がアウダス先輩の知り合いだというのははっきりとわかっているし、なんなら国内の知らない貴族よりも、俺にとってはよっぽど信が置ける。

 

「昔からその様だな。まずもって高位貴族のみが暮らす四階だ。下級生がテラスを利用しようとすることが滅多にない。では上級生がなぜ利用しないかと言えば、この国の貴族が秘密主義なところがあるからだろう。新陳代謝の少ない国というのはそういった傾向にある、と、私ではないどこかの誰かが言っていた」

 

 ずいぶんとしっかりした分析を披露した先輩は、その提唱者をどこぞの誰かに押し付けた。どう考えてもメフト先輩の意見だけれど、自分が言ったわけではないということにして、責任逃れをしているらしい。

 

「しかしテラス自体は日当たりもよく、のんびり過ごすには適している。周りのことを気にしない者たちが好き勝手なことをし始め、やがて変な奴ばかりが集まるようになった、というのがこのテラスが形成された経緯だ。いついたということは、君たちにもその資質があるのかもしれないね」

「俺はルーサーに連れてこられただけなのに……」

 

 変な奴扱いをされたことに不満があるのか、ヒューズが言い訳をこぼす。

 なんか勘違いしてそうだけど、俺が一緒にいるから注目集めてないだけで、お前も結構変な奴だからな。

 

「これからもありがたく利用させてもらいます。ところで、メフト先輩は、俺と関わってもいいんですが? なかなか評判の悪い問題児となるかもしれませんが」

「ここで話す分には問題ないだろうね。外では知らない顔をするかもしれないけれど」

「……わかりました、気を付けます」

 

 大っぴらに味方してやらないけど、暇つぶしになるから情報位くれてやるよってとこだろうか。

 数少ない敵にまわらなさそうな人のうちの一人だから、上手く関わりを持って行った方がいいんだろうなぁ。

 

「まあ、私としても……、むやみやたらと人と仲良くして、怖い兄上達に権力に興味ありと判断されても困るんだよ。君ぐらいがちょうどいい。……ばれる心配も少なければ、ばれても言い訳がきく。よろしくやろうじゃないか、ルーサー=セラーズに、ヒューズ=オートン」

 

 何かをたくらんでいるようにも見えるメフト先輩は、わざわざ俺たちの家名までのフルネームを呼んでうっすらと微笑んで見せた。

 

 

 

 今日は4人で集まっているが、珍しく女子寮前ではなく、学園内をうろつきながら話していた。

 入学式まであと3日、いよいよ時期が迫ってきているのに、殿下の姿は未だ見られなかった。ただローズはようやく女子寮へ入ったらしい。

 随分な重役出勤だ。もうほとんどの生徒は寮入りしているだろう。

 

「敵対するつもりは全くないけど、表向き仲良くすることも難しいと」

「……そうですか」

 

 想定していなかったわけではないけれど、実際に話したイレインから聞かされるとちょっとがっくり来るな。

 

 俺たちは学園に入るくらいには成長した。

 学園は、大人に向けてのステップの一つだ。

 

 ローズは旧貴族派の主流の家のお嬢様だ。

 いくら気が強かろうが、殿下と仲良くしていようが、家の都合には表立って逆らえない。

 

 出会った頃は全然かかわりたいとも思わなかったのに、いざこうなってみると寂しくなるのもなんだか皮肉な話だ。

 

「二人とは普通に話せたんです?」

「私でぎりぎりだと言ってました。セラーズ伯爵は、旧貴族派とかなり、その、相性が悪いですから。もはや他国となってしまった、ウォーレン家よりも扱いが難しいそうです」

「でしょうね」

 

 父上が長くついていたのは国の財務大臣。

 その評判が一部からあまりよくなかった理由の一つは、国を維持・発展するためのお金を、旧貴族派の者たちに吐き出させたことだ。

 

 調べて分かったことだが、父上は何も無茶苦茶なことばかりを要求したわけではない。自分たちの都合だけを考えて運営していた貴族に、国を担う一員としての義務を果たさせたに過ぎなかった。

 

 王国は多くの領主貴族が集まり、王へ忠誠を誓うことで国として成り立っている。

 逆に王は、忠誠を誓った貴族たちを侵略者などの外部から守るべく働く義務がある。

 

 道の整備をし、軍備を整え、各領地に食糧庫を設け有事に備える。

 国に忠誠を誓う貴族として当然やるべきことだ。

 旧貴族派の者たちは、領内での収支の関係などから、それが難しいとして国に金銭的な助力を求めることが多くあったのだとか。

 

 いくら王領に肥沃な土地や鉱山が多く、商いも栄えているとはいえ、多くの貴族が結託し、寄生虫のようにその血肉である財産を食い尽くせば、力はあっという間に衰えていく。

 

 そうして王領があえいでいるあいだ、旧貴族派の者たちは、国からの借用書の所在すら忘れて、自らの利益だけを考えた動きをし続けたのだ。

 王家への忠誠を信じていた前王は、ウォーレン家やオートン家が凌いだ戦を見て、旧貴族派のそんな姿勢にようやく気付いたのだとか。

 どちらの戦いも、両伯爵家の奮闘がなければ国は大きな痛手を受けていた。

 

 その時旧貴族派がやったことがあまりに酷かった。のらりくらりと時間が過ぎるのを待って、戦が終わるころに形ばかりの兵隊を送りつけたのだ。そうして復興に苦しむ伯爵家に、やれ歓待がないだの、野蛮な伯爵家はこれだからだのとのたまったらしい。

 

 何とかしたいと考えた前王だったが、しがらみでがんじがらめになって、自ら動くことが難しい。

 その結果、国を生き残らせるため、次世代に望みを託して譲位をした。

 

 それが現王である陛下であり、同世代の友人である父上や、ウォーレン王、のはずだった。

 今はもうめちゃくちゃだけどな。

 色々調べたけど、情報が錯綜しすぎてて、何がどう拗れてこんなことになってしまったんだか、俺には結局わからなかった。

 

 旧貴族派の中には、あまりに酷い行いをしていたので、罰として身分を取り上げられた者や、領地を召し上げられたものもいる。言い訳の余地のないほどの内容だったから、流石の旧貴族派も表立って抗議はしなかったが、力がそがれるのが面白いはずがない。

 

 まぁ、その結果、ウォーレン王の独立は、旧貴族派が父上を攻撃するいい口実になってしまった。多分だけど、ウォーレン王と陛下の間にもなんかわだかまりとか誤解があったんだろうな。

 いや、本当に誤解かはしらねぇけどさ。

 

 だから、ウォーレン王は案外、マジで結構な確率で、父上が自分の方に来てくれると信じてたんじゃないかなって思う。 

 俺、調べただけでも旧貴族派のことかなり嫌いになったもんね。

 イレインの父親が嫌な奴だなーって思いは相変わらずあるし、許せない部分もあるんだけど、同時にちょっとだけ気持ちがわかってしまって心中複雑だ。

 

 ああ、まぁ、だから、その旧貴族派と、セラーズ家の間にある溝はそれだけ深いってこと。

 陛下は流石に頃合いを見て父上を近くに呼び戻したみたいだけど、今宮中のパワーバランスをとるのめちゃくちゃ難しいだろうな。下手したら旧貴族派が内乱とか起こしそう。

 

 そんなことになったら王国はもう、他の国に攻め入られてなくなるだろうな。

 その攻め入る候補の第一が、ウォーレン王国ってのがまた難しいところで……。

 イレインに対して下手なことをすると、とんでもないことになるってのが、流石に旧貴族派も分かるんだろうな。

 

 逆に言えば、セラーズ家はあれだけのことがあって、ウォーレン家についたほうが得だったにもかかわらず、未だに王家に忠誠を誓っている。今更裏切るわけがない。だったらそこを叩いて、王家の勢いをさらにそいでやろう、という糞しょうもない最悪な理由でセラーズ家はこんなことになっているような気がする。

 

 この場合、父上の何が悪いかと言えば、その誠実さ、忠実さを敵対勢力にすら信頼されているところなのだろう。

 つまり父上は悪くないってことなんだけどさ。

 

 この話を正しく理解しているのって、多分旧貴族派の中の上層部だけで、他の多くはただ利用されているだけだ。セラーズ家の悪い噂とかを、よく考えもせずに本気で信じている家だってあるんだろうな。

 ネガキャンされまくってるってわけだ。

 

「殿下は入学式当日にいらっしゃるそうです。ここからはローズからの伝言。『殿下に迷惑をかけないように距離を考えなさい。あなたなら分かるでしょ、ルーサー』だそうです」

「……まぁ、考えておきます」

 

 この殿下のことしか考えてないけど、ちょっとだけ俺のことも認めてくれてる感じがまさにローズって感じだった。

 あー、あいつもあんまり変わってなさそうで、ちょっと安心したわ。

 

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