たぶん悪役貴族の俺が、天寿をまっとうするためにできること   作:嶋野夕陽

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ダンジョンの歩き方

 倉庫の中から取り回しのよさそうなショートソードを選んで装備する。

 本当は宝玉が埋め込まれた自前のロングソードが欲しいけれど、贅沢は言ってられない。

 随時杖を収納しながら魔法と剣術をうまく組み合わせていけばいい。

 ダンジョンは場所によって難易度が違うけれど、一応俺はクルーブと一緒に深いダンジョンの6階まで潜ったことがある。

 学園のダンジョンは基本的に難度がそれほど高くないはずだから、命にかかわるような事態にはならないはずだ。多分だけど。

 

 通常、魔法使いだけがダンジョンにこもることってまずないのだけれど、クルーブは平気でやる。索敵から殲滅まで、距離を取りながら一人ですべてこなす自信があるからだ。

 魔法発動が誰よりも早く、そしてその魔法が正確であり、かつ魔力量に秀でているからこその無茶である。

 

 そうだとしても、本当ならば前衛が欲しい。

 僅かに時間を稼ぐだけでも、いざという時の生存率は格段に上がる。

 

 そして俺は、最低限前衛をこなす能力がある。

 クルーブとコンビを組むとき、足を引っ張るよりかマシなことはできているんじゃないかなと俺は自負していた。

 まぁ……、スバリと比べられるとちょっと困るけどさ。

 

 石造りの丈夫な建物のカギを開けて中へ入ると、そこには扉が一つぽつねんと立ち尽くしていた。

 ダンジョンの入り口の形は様々だ。

 城門のような大きな扉になっているところもあれば、地下へ降りる階段の時もある。時には廃村のうちの一軒がダンジョンの入り口になってた、なんてこともあるのだ。

 

 中は薄暗く、空の見えない迷路のようになっているのが一般的だ。

 時折常識の外れた空間に出るダンジョンもあるのだが、その仕組みについて大したことはわかっていない。

 とりあえず異空間っぽいところに飛ばされているっぽいなって気はするけど。

 

 クルーブが扉に触れると、ゆっくりと手前に開いていく。

 そうして現れたのは真っ黒な空間だった。

 

「んじゃ、とりあえず今日はマッピングね」

「わかりました」

 

 俺たちはためらいなくその暗闇へ、一歩踏み入れる。

 

 中へ入ると、そこにはよく見かけるダンジョン空間が広がっていた。

 天井は高く数メートルあり、壁面にはなんだかわからない植物の蔦が這っている。

 

「迷宮系ですか」

 

 その装飾から、なんとなくダンジョンの傾向は想像できる。

 

「うん、そうなんだよねー。3階までは鼠とか蜘蛛とか蛇とかの魔物がまばらに出るって。 2階には武器を持つ系の弱い奴ら。3階にはそれに加えてミノタウロスがうろついてるってさ」

「普通ですね」

「そ、普通なんだよー」

 

 入ってすぐの部屋には魔物がでない。

 これは全てのダンジョンにおいて共通していることだ。

 例外は知らない。っていうか例外があったら、出待ちされていっぱい死んだりして話題になるだろうから、やっぱないんだと思う。

 

 十メートル四方くらいの安全な部屋を出ると、そこはもう迷宮だ。

 出た瞬間上から蛇が降ってこようが、通路の向こうから矢を撃たれようがお構いなしだ。

 ただし、この部屋には入ってこない。

 

 もしこの部屋が魔物で溢れる時があるならば、それはきっと氾濫(スタンピード)の時だ。俺はまだ遭遇したことがない。

 

「僕が先に行きます」

 

 剣を構えて扉を押し開けると、その先には最初の部屋と同じくらいの空間が広がっており、さっそく左右に道が分かれていた。壁面と天井にまばらに光石が敷き詰められており、薄暗いなりに光源は十分に確保されている。

 

 ショートソードを軽く振るって、左壁面に張り付いていた蛇の頭を叩き潰す。

 こっからは出待ちもありだ。というか、時間を置いて入ると、大体出待ちしている魔物がいる。

 

 この魔物たちははぎ取って確保してしまえば持ち帰れるのだが、ダンジョンに放置しておくとやがて吸収されて消えてしまう。なので素材を集める必要があるのなら、放っておいて帰りに回収という横着はできない。

 

 今回はマッピング予定だから放置だけどね。

 腐って酷い臭いとかにならない分面倒くさくなくていい。

 

「どっちから行くんです?」

「右回りで。あ、僕が言った方に進めばいいから。マップおぼえたりするなよー、授業のカンニングだからなー」

 

 ほぼ外にいるのと変わらないくらいの毒蛇の魔物を倒したところで、クルーブは何の声もかけてこない。俺としても当然のことだから、褒めてもらおうとかは全然思ってないけど。

 

「クルーブさんにマッピングは大事だって教わったので無理です」

「みんなと来るときは知らないふりね!」

「はいはい」

 

 皆ときてもどうせヒューズとしか行動しないから、あんまり関係ないけどね。

 作るグループは2人組までにしてくれると助かる。

 

 丈夫な蜘蛛の巣は魔法で燃やし、大群で向かってくる猫くらいの鼠はクルーブが魔法で撃退。不意打ちが得意な蛇は大体俺が切り捨てる。

 ぐるりと1階層を探索し終えるのには、せいぜい2時間もかからなかった。

 広い空間の数は20ないくらい。

 

 迷宮系のダンジョンの次の階層へ行く手段は大体が階段だ。

 扉を開け、階段を下りる途中で広い部屋が一つ。

 ここもセーフティエリアね。

 

 さらに階段を下りて扉を開けると、そこからが第2階層になる。

 今のところはマップにも不備はないようなので楽ができている。

 

 さて、ここからはほんのちょっと知能がある様なのもでてくるから一層気を引き締めて臨まないとな。

 

 階段を下りて扉に手をかけてから、クルーブに許可を取る。

 

「開けますよ」

「よろしくー」

 

 扉を開けてすぐに閉じると、すとん、と音がして扉に何かが刺さった。

 どうせゴブリンの弓使いが矢を放ってきたのだろう。

 ぐぎゃぐぎゃと意味の分からない音を発している。

 

 さきに杖の先を出してから、顔をさっと覗かせて、弓を構えているゴブリンの頭に向けて礫弾を放つ。

 3匹いたので3匹分の悲鳴が上がった。

 ったく、この最初の不意打ちって本当にろくでもないよな。

 まぁ、ここが乗り切れない限り探索なんてできないから、いい感じの腕試しになってるんだろうけどさ。

 

 俺は近くにいるものから順に倒す。

 クルーブは遠くにいるものから順に倒す。

 

 それが二人でダンジョンに潜る時のルールだ。

 軽い言動の多いクルーブだけど、ダンジョンの傾向や、気を付けるべきことなどは必ずちゃんと探ってきてくれる。それは元々スバリの仕事だったらしいけれど、俺と一緒に入るにあたってクルーブがこなすようになった。

 スバリを失ってしばらくの間、クルーブは一人でダンジョンへ入ることを繰り返しながら、その技術を身に着けてきたらしい。

 

 そういうところが、クルーブの尊敬できるところだ。

 いつだって適当で気を抜いているように見えるのに、ちゃんと真剣にダンジョンと魔法、それから俺と向き合ってくれてる。ミーシャにももうちょっと真面目に向き合ったら、もっと尊敬してやるんだけどなぁ。

 あの二人友達なんだか恋人なんだかよくわかんないんだよね。

 

 ちなみに尊敬しているとか考えても、態度を変えるつもりはない。

 多分その方が互いに居心地がいいから。

 

 2階層には木の棒や弓矢を装備したゴブリンが主な敵だ。

 あいつら襲ってくる前にぐぎゃぐぎゃ言うから索敵の必要がなくて気楽。

 どっちかっていうと、戦っている間に天井から降ってきたりする蛇の魔物とかに気を付けるべきなんだよな。

 ほら、また降ってきた。

 空中にいる間に剣の平で叩いて、床に落ちた蛇の頭を踏み潰す。

 斬っても動いて噛みつこうとしたりするから、めんどくさいんだよなぁ。

 

 蛇やゴブリンは、互いに争うこともあるんだけど、人が入ってくると途端に俺たちを殺す方を優先してくる。どういう思考回路してるんだか知らないけど、とにかく人を殺したくて仕方ないらしい。

 

 2階層は油断していい場所ではないけれど、だからといって緊張するほどの強敵はいなかった。

 

 1階層より広いフロアを、こちらも2時間程度で攻略。

 休みを挟むことなく3階層へ降りて探索していると、通路の向こう側から巨体が声を上げながら走ってくるのが見えた。

 

 ミノタウロスだ。

 迷宮型のダンジョンにはよく出てくる。

 

 2m以上ある巨体に、腰蓑だけ身に着けた、牛の頭を持った魔物だ。

 手には斧を持っており、その口からはよだれをまき散らしている。汚いから正直近寄りたくない。

 とにかく耐久力が高く怪力なその魔物はそれなりに強い。

 

 これを一人で倒せるかどうかで、探索者(シーカー)として一流か二流か判断できると言っても過言ではないだろう。

 

 後ろからごにょごにょっと素早い詠唱が聞こえたので俺は待機。

 俺を避けるように飛んでいった氷柱がミノタウロスの腕の付け根と足の付け根に突き刺さり、巨体がどうと倒れ込む。

 そこから広がる冷気はミノタウロスの全身を包み、その生命活動を瞬く間に停止させた。

 

 魔法訓練場で俺たちが使った魔法を実戦で使うとこうなるんだよな。

 マジで人相手に使うようなもんじゃない。

 ただ練度が低い場合はまず氷柱がミノタウロスの肌に弾かれるから、誰だって効果を発揮させられるわけじゃないけどね。

 クルーブの魔法はもし氷漬けにする能力が発揮しなかったとしても、十分にミノタウロスを絶命させるだけの威力がある。喉元辺りに刺してしばらく放置して逃げ回ってれば、勝手に死ぬからね。

 

 クルーブは一流の探索者(シーカー)だ。

 身内自慢じゃなくて、これは歴然とした事実ということで。

 

「うぅん、これだけ早く遭遇するってなると、まだ3体くらいはうろついてそうだなぁ。間引いてからじゃないと生徒を入れるのは危ないよねぇ?」

「どうでしょうね。生徒の実力見てからじゃないと何とも言えないんじゃないですか?」

「ミノタウロス倒せる人いるのぉ? どうかなぁ、上級生なら何とかなる人も一握りくらいはいそうだけど……。まず剣と魔法の腕見せてもらってから決めるかぁ」

 

 呑気に会話しながらも足を止めずに進んでいく。

 攻撃をはたき落とし、魔法を撃ち、どうしても近づいてきてしまった敵は切り伏せる。

 

 あ、ちなみに俺も一人でミノタウロスを倒すことが出来る。

 剣でも魔法でもだ。

 

 しかしまぁ、今ミノタウロスを倒すなら魔法を使うなぁ。

 接近戦でも技術的には圧倒している自信があるけど、体が小さいから一手ミスった時がちょっと怖い。何度か挑戦したことがあるけれど、それはあくまで訓練のつもりだった。

 きちんと攻略するのであれば、遠距離から倒してしまうのが賢いやり方ってわけだ。

 

 ダンジョンとか最初に聞いたときはまるでゲームみたいだと思ったけど、いざ入ってみるとめちゃくちゃシビアだ。

 死にたくないのなら慎重に立ち回る必要がある。

 

 ダンジョンに吸い込まれて消えるとはいえ、めちゃくちゃ生き物殺してる感覚があるし、おかげでしばらく籠って殺し続けていると、外に出た時変な感覚になる。

 なんていうか、角曲がるときにちょっと警戒しちゃうみたいな感覚。

 後ろから敵が来てないかなーとかね。

 

 こんな感覚すら持たなくなって、自然と切り替えられるようになってこそ本当の一流なのかもなぁ。

 

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