たぶん悪役貴族の俺が、天寿をまっとうするためにできること   作:嶋野夕陽

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しんぱいごと

 迷宮型のダンジョンというのは、全体を見ると狭いものになっている。

 その代わり敵との遭遇率が高いうえ、逃げ道も限られてくるから、難易度で言うと他のものとどっこいだ。

 問題は深くなってくると、ダンジョン内にトラップが仕掛けられているということだ。これがまたいやらしくて、行くときは発動しないのに逃げ帰ろうとすると発動したりする。 

 耳を澄ましたり、足先に神経を集中していればわかるものが多いのだけれど、戦闘中に気づかずに踏んだりすると一気に危機的状況に陥ることがある。だから俺も一応罠の勉強とかはしたんだけど、先頭を歩くことに特化した探索者(シーカー)に比べると、まだまだ未熟ものだ。

 

 ちなみにダンジョンは他に、洞窟型、墳墓型、城型、森型、神殿型などがあるらしいのだが、どれも暗く、周囲は薄ぼんやりとしか照らされていないとか。全部に入ったことがあるわけじゃないので、詳しいことは知識としてしか知らない。

 間違いなくいえることは、ダンジョン内で出会うことのある人以外の存在は、皆一様に殺意が高いってことぐらいだ。

 なんでそんなに人を殺したいんだか。

 

 3階の階段を下りて中部屋で一休み。

 その間にクルーブは4階のマップを広げて道順の確認をする。

 

「今まで4階で確認されたトラップは、感圧板の矢が飛び出るタイプね。毒が塗ってあるのとそうじゃないのがあるらしいけど、どっちにしろ避けるよーに」

「わかりました」

「出てくる魔物は、ミノタウロスの武装してるのと、コボルトの武装してるのと、ゴブリンの魔法使うやつ」

「倒すのは遠距離攻撃持ってるやつからですね」

「うん。同時に行けない場合は、魔法使いが優先で、次コボルト、最後にミノね」

 

 おさらいのような話し合いをした後、マップを頭に叩き込み、広げていた荷物を全て片付ける。

 

「ルーサー、準備いい?」

「もちろん」

「じゃ、よろしくぅ」

 

 今までと変わらず先頭は俺、後ろからクルーブだ。

 扉を開けるとそこに待ち構えていたのは、急所を金属鎧で隠したミノタウロスだった。

 手に持っている斧は一緒。

 単純に攻撃が通りにくくなっているだけでも、戦う手段によっては随分苦労することになるだろう。

 何せミノタウロスって図体がでかい分耐久力も高いから、近くで戦って一発で殺さないと相打ちでぶっ殺されかねない。魔物一体に人ひとりやられるのでは、とてもじゃないが割に合わない。

 

 万が一に備えて俺は剣を構えつつ、突進してくるミノタウロスを待つ。

 自分一人で戦うのならば、まずは目つぶし、場所を移動して不意を突く形で魔法か剣の一撃で片をつけたいところだ。下手に傷つけるとめったやたらに斧を振り回すから、却って危ないんだ。

 

「烈風刃」

 

 クルーブの杖から魔法が放たれる。

 それは涼やかな風としてミノタウロスの首元を撫でる。

 突進の勢いは止まらず、一歩二歩。歩むたびに、首がずれていき、三歩目にはごとりと地面に頭が落ちた。地響きと共に胴体が倒れれば戦闘はそれで終わりだ。

 

 俺たちは部屋の様子を確認して、すぐに次の部屋へと歩みを進めた。

 

 モンスターのコボルトっていうと、なんかもこもこの可愛い奴を想像するんだけど、迷宮のコボルトって普通に怖い。

 歯は威嚇でむき出しだし、武器を器用に扱う癖に、いざ近くまで行くと普通に噛みついてくる。言葉をしゃべるでもなく、そのくせ遠吠えで連携は取れるらしいから、退治に時間をかけると別の部屋から増援がやってくるのだ。

 四方を囲まれるとマジでめんどくさい。

 

 だからさっさと仕留めようというのが俺とクルーブの考えだ。

 俺は4階では、ミノタウロスに出会わない限りは剣を納めて杖で魔法を使うことと、相手の遠距離攻撃をよけることに専念する。

 意識しないと魔法を使えなかったり、詠唱が長く必要な魔法使いだと、前衛の盾役が必要になるのだが、動き回りながら詠唱を略して、あるいは省いて魔法を撃てる俺たちにとって、この階の敵はそれほど怖くない。

 

 そうそう、普通の探索者(シーカー)はだいたい4人以上でチームを組むことが多い。前衛の攻撃防御で二人、罠感知ができる遊撃一人、後衛一人ぐらいいるとどんな状況にも対応できていい。

 このチーム構成の難点は、トラブルで人が欠けると、坂道を転がり落ちるようにチームが崩壊する点だ。

 

 その点ソロやコンビは気楽だ。

 元から自分ですべて何とかするくらいの気持ちでダンジョンにこもるから、状況の変化に強い。意思の統一を図るのにも手間はないし、すっごい宝物を見つけた時に仲間割れが起こる心配もあまりない。

 儲けも良ければ、思い立ったらすぐに潜ることも出来る。

 

 問題があるとすれば、実力がないとすぐ死ぬことだ。

 致命的だね!

 

 憧れのソロ冒険者としてダンジョンに潜る新人はチームを組んでいる新人と比べると、なんと致死率10倍だ。

 チーム組んでる新人が1人死ぬ間に、ソロの新人は10人死ぬ。

 新人の3割が一年以内に命を落とすこの業界だが、その大半は自信過剰で身の程をわきまえずに一人でダンジョンに入っていく愚か者ってわけである。

 

 4階からは随分と迷宮自体が広くなったが、マップには間違いがなかったらしく、全てのエリアを踏破しても3時間程度しかかからなかった。

 下へ降りる階段を見つけたクルーブは、一言「よし」と言って振り返った。

 

「今日は終わり。これ以上行くと泊まりになりそうだし、想定通りって感じだね」

「そうですね、まっすぐ戻れば1時間程度で地上に行けるでしょうし」

 

 それに帰りはまだ魔物が湧いていない。

 端から潰して回ったから、夜中の0時を回らないかぎり、新たな魔物は補充されないのだ。

 

「んじゃ帰ろっか。そういえばルーサー、友達出来た?」

「……できましたよ」

「なんか返事渋くない? 本当かなぁ?」

 

 できたとも。

 まぁ、同級生じゃなくて、寮監してる先輩だけどね。

 

 

 ダンジョンから出て、借りていた剣を片付ける。

 魔法で片づけることが圧倒的に多かったから、消耗はしていないはずだ。

 

「クルーブさん、できたら僕の剣をダンジョンだけでも使えるようにしてほしいんですけど」

「そこだよねー。ダンジョンに入るのに、自分の装備を使えないのは問題だし、提案してみる。ここにある武器も悪い物じゃなさそうだけどさぁ」

「そうですね」

 

 実際使ってみて、重心が変だったりもしなかったし、すぐに壊れるような安物でもなかった。それでも使い続ければ知らないうちに消耗することもあるだろうし、できれば自分でメンテナンスできる武器を使いたい。

 そこまで考えてから気づく。

 

「ああ、場合によってはメンテナンスの仕方とか知らない場合もありますか。だからここで一括整備してもらったものを使った方が、安全だったのかもしれません」

「武器の整備もできないようなのがダンジョンに入るのぉ?」

 

 倉庫の壁に寄りかかったクルーブは肩をすくめて馬鹿にするように言った。

 どうでもいいけど生徒の前でその態度とるのやめような。クルーブって見た目が若く見えるから多分煽り力がめちゃくちゃ高い。

 

「就任してからまだ生徒をダンジョンにいれてないんですか?」

「入れてないよ。覚悟がちゃんと決まったやつしか入れるつもりないし」

「覚悟って具体的にはなんです?」

「簡単なテストで満点とったやつ」

「……まぁ、そうですね」

 

 命がかかっているのだ。

 希望して、最低限ダンジョンの危険を理解してから入るのは当然だ。

 この場合、ダンジョンの特性とか気を付けるべきことをテスト内容にするんだろうな。

 

「あ、週末暇だったら訪ねてくるといいよ。次はマップの確認しなくていいから、もっと深くまで潜れるっしょ」

「いいですよ。……そういえば、階層によって雰囲気違うって言ってましたけど、あまり変わりませんでしたね」

「ああ、うん。5階層から先は、全然違う感じになるってさ。先生と何人かがパーティ組んで潜ってたらしいけど、とりあえず資料があるのは7階層まで。5・6・7階は墳墓ね」

「その先は?」

「さぁ? 学園には資料が残ってないんだよね。先生の書庫全部漁ったらどこかに資料が隠れてるかも。目録とか題名には目を通したんだけど、開いてない本もあるからなぁ。今更セラーズ領に行って調べるのも大変だしさぁ」

 

 そうなのだ。

 いくつか魔法関係の資料は王都の屋敷に運んできたが、膨大な量の資料全ては持ってきていない。あれ全部持ってくるためには、馬車数台を何度も往復させないといけないんだ。

 お陰様で今はセラーズ伯爵邸の大きな広間が、一つ丸々書庫になっている。

 

「……なんで氾濫(スタンピード)が起こらないんですかね?」

「浅い層を攻略し続けてるからじゃない? 一応全体の何割かは掃除し続けてるわけだし」

 

 氾濫(スタンピード)の原理もよくわからないんだよなぁ。

 この理論で行くとダンジョンの生産能力が貯めこまれ過ぎない限り大丈夫って感じになるのか?

 だとしたら危ういダンジョンとかは、光石とか資源とか、ガッツリ持って帰った方がいい気がする。

 

 氾濫(スタンピード)が起こるダンジョンって、大体見つからないまま放置されたところだからなぁ。

 

「ダンジョン専門の研究者とかっていないんですか?」

「さぁ? なんか『変人窟』でやってるとか聞いたことがあるよ」

「あー……、あそこかぁ……」

 

 『王立研究所』の別名だ。

 王家が認めた研究とかをするために予算が割かれ続けている場所だ。実際は何をしているかよくわからないのだけど、才能のある人を囲っていることは確からしい。

 もともとは後継者ではない王族の人を囲うための場所だったため、あちらから目をつけられないと中々接触が難しい場所だ。ある意味プロネウス王国のアンタッチャブルな領域だ。

 

 ウォーレン家が謀反を起こすまでは、イレインがそこの人に気に入られてよくお招きされていた。お姫様にジョブチェンジしてなければ、そのうちあそこに就職してたかもしれないな。

 

「ま、今まで大丈夫だったんだから、急に駄目になるってことないでしょ」

「やめてくださいよ、変なフラグ立てるの」

「フラグ?」

「なんでもないです」

 

 ま、地道に中の探索勧めていくか。

 墳墓型のダンジョンって、ボスっぽい奴倒すといい杖の素材とか手に入ったりするから結構楽しみなんだよな。

 

 適当に喋りながら片付けや施錠を終え、クルーブと別れた頃には夕方になっていた。

 すげぇ充実感のある一日だったなぁ。

 俺、貴族の生活より探索者(シーカー)の方が性に合っているのかもしれない。

 

 命懸けの探索をするようになってから、濃いめの化粧をした女の人見てもあんまり怖くなくなったしいいことづくめだ。

 貴族界隈って当然ながらばっちりお化粧してる人が多いから、それが苦手ってなると結構問題があるんだよな。

 包丁で刺してくるよりもやばい化け物ばっかりでるダンジョンに乾杯。

 

 今の俺なら咄嗟に包丁もよけられただろうになぁ。

 ま、今更だな。

 

 そうだ、帰りに訓練場寄ってみるか。

 結構疲れてるけど、こういう時に力だせるようにしとくのも大事だからな。

 

 

 

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