たぶん悪役貴族の俺が、天寿をまっとうするためにできること   作:嶋野夕陽

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派閥

 勇者候補は他にも何組か学園の中に潜り込んでいるらしい。

 話してはいけないという規則もないけれど、べらべら吹聴するものでもないようだ。本当に勇者になれたならばともかく、なれるかどうかまだ分からないのだ。

 俺だったらあまり他言しようとは思わないかもしれない。

 

 まぁ、選定した教会関係者から、こんな感じで活動してねってアドバイスや支援を受けるらしいから、他の候補たちは素直にそれを守っているのかもしれない。

 あのあほ二人を選んだ選定者は、今頃困ってるかもしれないな。

 

 勇者の話はとりあえずその辺にして、俺は今日も元気に学園で授業を受けている。

 教室、というか、講堂みたいなその部屋には、決まった席などないのだけれど、数週間もすればおのずと大体の場所は決まってくる。

 つまりまあ、この教室の左後ろはほぼ俺の指定席である。

 

 今朝も早くからやってきたところ、本などを突っ込んでおけるスペースに、手紙のようなものが入っていることに気が付いた。

 教室には俺一人。

 ここ最近俺しか座っていないはずの机だから、あて名はなくとも俺宛である可能性は高い。色気のないどこでも買えそうな封筒だから、ラブレターってことはないだろうな。

 貰ったとしても美人局としか思えないけどさ。

 13歳にしてハニートラップはやめてほしい。

 

 えー、これ中身見たほうがいいのか?

 開けてからお前宛じゃないんだけどとか言われても困る。

 今ならだれもいないから、開いて中身確認して、パッと魔法で燃やしてしまえば最初からなかったことにできる。

 気になるしそうするか。

 もし中身にあて名が書いてあったら、そいつがいつも座ってる机の中に突っ込んどいてやろう。

 

 爪先に魔法を纏わせて、ひと息にぴっと開封をする。

 窓を開けて外へ上半身を乗り出しながら中身の確認。

 

 えーっと、何々?

 放課後にダンジョン準備室前で待ってる?

 あそこ人があまり寄り付かないんだよな。

 特に新しい年度が始まった今は、クルーブの準備が終わっていないのもあってまだどこの学年もダンジョン入れてないらしいし。

 つまり呼び出しを食らってるってことか。

 

 差出人がクルーブだったらこんな回りくどいことはしてこないだろうしなぁ。

 うん、よし、なかったことにしよう。

 

 窓の外に手を伸ばして、魔法で燃やしてポイッと捨てる。

 はい、証拠隠滅、俺は何も見ていません。

 

 ダンジョン準備室って、この間の武器が置いてある場所だ。

 鍵はクルーブが管理しているとはいえ、あの中にあるものを使えば容易く人を殺傷できる。

 合鍵でも持ってて、武器を取って待ち伏せでもされていたら面倒極まりない。

 弱い奴らなら軽くいなせるけど、強いのが混じってくると手加減もできないからな。

 

 

 それからさらに5日が経過した。

 手紙を燃やし捨てた日から俺は連日、お手紙を頂いているのだが、毎度同じ封筒が使われているので、俺は読まずに燃やしている。

 せめて差出人をかいてくれれば、俺の方からご挨拶に行ってやるんだが、毎度匿名で出されているから始末に負えない。

 

 ヤギのお手紙交換ではないのだから、いい加減学んでもらいたいものである。

 この封筒を使って匿名で出されている限り、俺は毎朝世の中の二酸化炭素を増やす作業をするだけである。

 

 実はここ数日教室内を観察したことで、なんとなくこの手紙を出してくれている犯人に当たりが付きつつある。

 たまにちらちらと俺を観察しているのは、廊下側の後列に陣取っているちょっと武闘派っぽい少年たちだ。目つきが悪かったり、やんちゃそうな見た目をしていたりする。

 その割には授業自体は割と真面目に受けているようである。

 たまに頭から煙を出してそうなのもいるけど。

 

 ちなみに観察しているうちに気づいたことだが、奴らは手にタコができるくらいには剣の訓練をしているっぽい。

 貴族の坊ちゃまにしては感心だ。

 ま、俺の言うことじゃないけど。

 

 この年齢から剣ダコができるくらいに訓練してるのは、多分だけど大体下級貴族の人たちだ。

 一応この教室には貴族しかいないはずだけれど、それもピンキリだからなぁ。

 小さい領土のみを抱えている貴族は、領民と共に森の警備をしたり、ダンジョンに潜るようなこともあるそうだ。お坊ちゃまといえど、人手には違いないという考え方である。

 ミーシャの実家なんかも中々お金のない家で、その兄弟は鍬を握ることもあると話していた。

 

 目つきが悪かったりやんちゃそうに見えるのは、同年代と比べて厳しい訓練を積んできた証拠だろう。

 

 まぁ、それはさておき、本日午後は何と初めての野外授業である。

 魔法、ではなく訓練場にて武器を使っての訓練を行う予定となっていた。

 

 今の状況でそんなことをすればどうなるか、自明の理である。

 

 真面目に授業を進めて、いざ自由訓練の時間となったところで、俺は廊下組によってぐるりと遠巻きに包囲されていた。

 剣術の先生は、俺みたいな優秀な生徒を構っている暇はないらしく、あちこち駆け回りながら手元の危うい生徒のアドバイスをして回っている。刃のない武器とはいえむやみやたらに振り回すと怪我するからね、仕方ないね。

 

 そんなわけで、剣術に慣れてる組の俺や周りを囲っている奴らへの注目度は下がっているというわけだった。

 

「一手指南してもらってもいいですか?」

 

 囲んでいる奴らの中でも、割と細身だけど、ちょっと賢く見える奴が歩いてきて、俺にそんなことを聞いてきた。

 なんか思ったより礼儀正しいな、こいつ。

 

「構いませんよ。互いに怪我がないように気をつけましょう」

「もちろんです。では、よろしくお願いいたします」

 

 今日の訓練は剣をぶつけ合うのが基本だ。

 体を狙ってはいけないと言われているけれど、相手がその気だったらいくらでも間違えて切りつける隙はあるだろう。

 ま、ちょっと警戒しながら軽く揉んでやりますか。

 

 流石に同年代には剣術で負けるわけにはいかないからな。

 

 武器を飛ばしたり、寸止めしたりしながら、危なげなく何人かを撃退する。

 年上ばかり相手にしてきたから、いざ同い年を相手にするとあまり張り合いがない。

 というか、よくわからないけど、なんとなくこいつらが遠慮をしているように思える。もしかして対人戦とか慣れていないのか?

 訓練してる様子はあるし、そんなことないと思うけど……。

 

 ただこいつらがグルなことは確かなようで、戦っている間そいつをこっそりみんなで応援しているのがわかった。周りの観察ができるくらいには俺の余裕があるってことなんだけどな。

 

 10人も相手をすると流石にちょっと疲れてきたけど、だからといって剣筋がぶれるような半端な訓練はしていない。俺が父上やクルーブから習った大事なことの一つは、コンディションが悪い時でも力を発揮できるようにすることだ。

 これぐらいのことで同い年の子供に負けるようだと、父上に顔向けできない。

 

 油断なく構えていたところで最後に出てきたのは、俺よりも背が高く、随分と恰幅の良い少年だった。

 多分相撲取りとかの才能がある。

 この世界に相撲はないけど。

 

「頼む……!」

 

 囲っている連中のうち誰ともなく漏らした言葉が聞こえてきた。

 何人も相手をし続けてる俺の方が苦労してるはずなのに、まるで悪者のように思えてくるからやめてほしい。

 

 恰幅の良い少年の構えは、正直いって微妙だった。

 体でかいのにもったいないなぁ。

 今までのやつらの方がきちっと型にはまった構えをしていた気がする。

 

 囲みの一人がはじめの合図をすると、少年は剣で、というより体全体で俺に向かって突っ込んでくる。

 

 いやいや、それじゃあ串刺しになるだけだろ。

 分からせてやるつもりで剣を顔のあたりにひょいっと伸ばしてやる。

 

 おい、おいおいおい、こいつ目を閉じてるじゃん!

 マジで大けがするぞ!?

 

 慌てて剣を引くと、そいつは構わず俺の方へ突っ込んできた。

 身をかわして足をかけると、そいつはゴロンゴロン地面を転がって、やがてさかさまになってぴったり止まった。

 

 受け身とかとってないけど、大丈夫か……?

 ていうか、なんで挑んできたんだよこいつ。

 

「大丈夫ですか?」

 

 流石に心配になったので駆け寄ってみる。

 まずい怪我でもしてたら治癒魔法でもかけてやった方がいいかもな。

 

「だ、大丈夫、です」

 

 意気は上がってるし擦り傷ぐらいはありそうだが、意外と元気そうだ。

 ついている脂肪と丸い体が怪我から身を守ってくれたのかもしれない。

 

「せ、セラーズ、君、て、手紙のところに、今日は来てください」

「え?」

「お、お願いします」

 

 ああ、手紙の主、やっぱりこいつらだったんだ。

 いやぁ……、こいつらだったら負けるような気はしないけど、放課後で人気のないところってのがなぁ。

 

「待ってます、ので」

 

 そういってぱたんと大の字になった少年は、土まみれの顔で苦笑いをして見せた。

 うーん……、なんとなくだけど、こいつから悪意とか感じないんだよなぁ。

 見た目が平和そうに見えるせいだろうか。

 

 それとも動きがコミカルだからだろうか。

 

 まぁ、いい加減手紙も面倒になってきてたし、ちゃんと警戒だけして顔を出してみるとするか。

 

 

 

 放課後になった。

 いつの間にかルーサーが周りにいる不良たちを締めたらしい、みたいな噂が流れているけれど、これは絶対に俺のせいではない。

 挑まれたの相手してやっただけなのに不名誉な話だ。

 まぁ、こんなことがずっと続くんだろうって最初から分かってたから、腹が立ったり落ち込んだりとかしないけどさ。

 

 うわさ話に耳を傾けながら、気配を殺して校舎内を歩く。

 殿下の話が多めか。

 あとは俺の話に……、ああ、貴族じゃない方の教室では勇者聖女候補の二人がなんかやらかしてるっぽいな。

 

 あっち側にも耳が欲しいけど、今のところ交流が持ててないんだよなぁ。

 もうちょっと俺に対する噂とかが落ち着いたら話をしてみたいけど。

 

 領民たちがどんな暮らしをしているかとか、よく見にいってたけれど、じゃあ仲いい友達がいるかというとそんなことはない。

 セラーズ領だとセラーズ家って相当に人気が高くて、よっぽどお忍びで行かない限りすぐにかしこまられてしまうのだ。友達を作る余裕なんてあったものじゃない。

 

 王都にいる間にもうちょっと街の人と交流しておくべきだったかもな。

 

 校舎を離れてダンジョンがある場所へ向かう。

 基本的に危ないから立ち入りを禁じられてるし、校舎や施設からはちょっと離れた場所にあるから用もなく人が寄り付かない場所なのだ。

 いや、正しくは校舎や施設をダンジョンから離して作ったんだろうな。

 どうだっていいけど。

 

 身を隠しながらその場に近付くと、昼間にいたやつらが全員そろっているわけではなかった。

 最初に相手をしたちょっと賢そうな奴と、最後に相手をしたでかい奴の二人だ。

 二人でいるのに喋ることもなく、不安そうな顔をして佇んでいる。

 

 えーっと、隠れてるやつとかもいなそうかな。

 二人とも長い武器の類は持ってなさそうだし……、顔出してもいいか。

 

 隠れたまま少しだけ道を戻って、普通に角から姿を現してやると、二人はほっとした様子で俺の方を向き頭を下げた。

 うーん、やっぱ果たし状、みたいな雰囲気じゃねぇなぁ。

 

「ルーサー様、お越しいただきありがとうございます」

「……学園ではそういう呼び方はしないはずでは?」

 

 貴族位が低いにしても、そこまでへりくだるようなことは基本的にない。

 なんだこいつらは。

 

「はい。しかし立場をはっきりさせておきたかったので。……昼間に相手をしていただいたものたちは皆、セラーズ家に恩のある家のものです。接触が遅れてしまい申し訳ございません」

 

 ……ん?

 ……あー、あー! なるほど、ミーシャの家みたいな感じか!

 セラーズ家が今まで世話してきた、大きくない貴族の家の子供。

 言うなればセラーズ伯爵派閥って奴だな。

 

 ふ、ふーん、あー、そりゃあいるよなぁ。

 これまで接触してこなかったから、てっきり全部いなくなったのかと思ってた。

 

「……気にしていません」

 

 さも知っていたような顔をして答えておこう。

 慌てたりしたらダサいし。

 

「なかなかお時間を頂けなかったので、お怒りかと思っていました」

「いえ、先輩方と剣の訓練を約束していて忙しかったので。今日のことで、よほど急ぎなのかと思い顔をだしに来ました」

「何でも騎士関係の先輩方と良いお付き合いをされていると伺っています。お邪魔して申し訳ありません」

「気にしないでください。それに、もっと普通に話していただいて構いませんから。交流を持っていることを公にすることは避けたいでしょう?」

 

 まー、あまり評判良くないからなー、うちも。

 だからって恩知らずって思われるのが嫌で接触してきた感じかな。

 

「は、え、んん。そうですね、ルーサー様……ルーサー君がそういうのならそうします」

「はい、そうしてください」

「何かあれば僕たちはいつでもルーサー君の味方になれますので、覚えておいてもらえると嬉しいです」

「分かりました。でもまぁ、あまり気を遣わなくてもいいですからね。他の人たちと仲良くするのも大事ですから」

「そう……ですか?」

 

 俺はボッチでもあまり気にならないし。

 というかヒューズもいるしな。

 

 あんまり俺に遠慮するあまり、友達がうまく作れなくなっても困る。

 敵対派閥と仲良くしてたからって咎めたりしないから安心してほしい。

 ちょっと俺に情報流したりしてくれてもいいけど。

 

「仲のいい人は多い方が充実しますから」

「……ああ、なるほど! わかりました!」

「え、はい、そうですね、うん」

 

 なんかすごい納得してる……。

 ちょっと変な奴だなぁ。

 

 

 

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