たぶん悪役貴族の俺が、天寿をまっとうするためにできること   作:嶋野夕陽

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楽しい辺鄙な訓練場

 ダンジョン学担当教師ことクルーブより、ピカピカの一年生たちへの通達が出た。

 なんか夏前くらいまでに、筆記と魔法と剣の試験して、それに合格した上位数名をダンジョンにいれてくれるって話らしい。

 令嬢たちはえー、そんなの別にー、ってテンションだったが、令息たちはめちゃくちゃ張り切っているのが後ろから見ていてもわかった。気持ちはわかるよ、腕試ししたいもんな、冒険したいもんな。

 一部めっちゃだるそうにしてる割に、そわそわしてるやつとかもいたりして、性格がわかって面白い。

 

 ちなみにルーサー君親衛隊(仮)たちは、俺にアイコンタクトを送って、任せてください、みたいな顔していた。

 うん、無理しないでいいからね。怪我とかされても嫌だから。

 最終的にはどっかでダンジョンを体験することになるんだろうけど、いち早く入れるとそれだけで話題になるしなー。

 まぁ、授業に身が入るのはいいことである。

 

 それからヒューズ。

 俺は余裕だけどね、みたいな顔して調子乗ってると落ちるからな。

 お前、俺たちと一緒に勉強してた頃はそれなりにできたはずなのに、最近の試験の成績悪いの知ってるからな。剣術もそこまで得意じゃないみたいだし。

 多分あの皆殺し伯爵、この5年間でヒューズに叩き込んだの魔法だけなんだろうなぁ。

 というか、魔法しかやらせてもらえなかったんだろうなぁ。

 おかげで魔法さえよければそれでいい、みたいな思考になってる気がする。

 怖いね、情操教育。

 

「ヒューズ、今日も僕は剣の訓練に行きますが、一緒に来ますか?」

「いやっ、俺は魔法の訓練に行くぜ?」

 

 断る時の声裏返ってるんだよな。

 確かに毎日魔法の訓練はしてるみたいだけど、最低限の自己防衛手段くらい持ってた方がいいと思うんだよなぁ。

 貴族なんて狙われることもあるだろうし。

 

 この世界の剣術って、体術含めて全般の訓練するから、しっかり身につけておくだけでいざってときの生存率が段違いになるはずだ。

 

「……行きますよ」

 

 がしっと腕を掴んで歩き出す。

 先輩たちがやってくるまでに、ちょっとこいつの剣の腕確認しておこう。

 あまり酷かったら、嫌がろうが何だろうが、これから放課後訓練の時間を設けることに決めた。

 ひょんなことでヒューズが死んだりしたら困るからな。

 

「いや、俺は……」

「ヒューズ。苦手なことをそのままにしておくのは良くありません」

「……はい」

 

 昔からヒューズの言動があまりに目に余る時は注意をしてきた。

 その効果が今も残っていたらしい。

 真面目な顔をして注意したら素直に言うことを聞いてくれた。

 

 この世界、日本よりはよっぽど死が近い。

 街では結構強盗とかあるし、戦争もあれば貴族間の裏側の争いもある。

 

 そういえば父上の秘書をしているデアンという人物がいるんだけど、何でも彼はセラーズ家の裏仕事を統括しているのだとか。

 昔話された時は、子供だと思って適当なこと言ってらーって思ってたけど、いざ自分が剣術を修めてみれば、デアンの隙のないことがよくわかる。

 どうやらあれは冗談ではなかったらしい。

 

 そんなわけで、暗殺者とかも普通にいる世界である。

 一度デアンの息子を紹介されたことがあるんだけど、きちんと挨拶するのは一人前になってからということになっている。

 きっと将来はデアンのように、俺の近くにいることになるんだろうなぁ。

 

 ヒューズを連れてやって来た訓練場にはまだ人がいない。

 実は訓練場って複数あるらしく、ここはガタイのいいお兄様方が占領しているせいで、他があまりやってこない。なんか鄙《ひな》びた場所だと思ってたんだよなぁ。

 

「いや、俺も別にさぼってたわけじゃないんだぜ? でもさぁ、訓練する時間があまりなかったっていうか」

「さぼってなかったのはわかってますよ」

 

 手のひらを見れば、なんとなくそれくらいのことはわかるのだ。

 武器を持ってある程度振っていると、自然と指の根元当たりの皮膚が硬質化していく。

 ただまぁ、これだけ嫌がるからには、きっと対人とかの実践訓練はしてこなかったんだろうなって。

 

 構えは昔戯れに俺と一緒に訓練した時のままだ。

 剣術自体は別に学園でもやることだから、予習してなくてもいいんだろうけどなぁ。割と名家の跡取りがそれは問題あるんじゃないのか?

 

「打ってきてください、どのくらいのものか確認します」

「わかった、いくぞ!」

 

 振りかぶって振り下ろす、それだけの動作でやっぱりヒューズが対人戦をしてこなかったのがわかった。

 動作が振り下ろすところで終わってしまうのだ。

 戦いにおいては、動作を切れ目なく次につなげることができないと隙になる。

 どうしても呼吸する部分があるから、一般的にはその瞬間で隙ができるんだけど、ヒューズの場合はただ一振りで隙だらけだ。

 

 次の攻撃はまた振り上げて振り下ろす。

 攻撃のパターンが一つしかないのだろう。その動作だけで見ればそれなりに洗練されてるんだけどなぁ。

 一撃ですべてを決める示現流じゃないんだから、もうちょっと繋がりを意識できるようにしないとダメだ。

 

 体力はあるらしく、数度攻撃を受け止めても息切れはしてない。

 形さえちゃんと教えれば、付け焼刃なりに使えるようになりそうだ。

 

「わかりました、ちょっと一緒に形《かた》の訓練をしましょう。先輩達が来るまでにはまだ時間がありそうですから」

 

 ついでに先輩たちがきたら適当に相手でもしてもらって、度胸もつけてもらうか。

 あの人たち見た目怖いし丁度いいでしょ。

 

 ヒューズって奴はあまり器用な性格をしていない。

 一生懸命俺と打ち合うことだけに集中していて、他に目はいかないようだ。

 剣撃の音が響いていたことからか、そーっと入ってきた諸先輩方が、俺達をぐるりと取り囲んでいる。

 したり顔でニヤニヤしてるのがなんかムカつくけど、真面目にヒューズの動きを見てこそこそ話し合いをしている。

 

 剣術って基礎から進んでくると流派みたいなのが出てくるんだよな。

 ここに入る先輩たちは騎士の剣術を学んでいる。

 俺は父上の剣術がベースではあるけれど、魔法と組み合わせているからかなり特殊だ。守りを固める動きを学ぶのであれば、俺よりも先輩方に教えてもらう方が効果的かもしれない。

 

 アウダス先輩が入ってきたのを確認して、俺はヒューズの剣を巻き取り武装解除する。

 

「体力は結構あるんですね」

「いや、ルーサーこそ、なんで息が上がらないんだよ……」

 

 そりゃあ毎日息が上がるまで走ってれば、段々と持久力はついてくる。

 俺が父上に最初に習ったのは、体に限界が来た時に戦い続けられるようにしろだぞ。

 

「鍛え方が違うからですね」

「きっつー……」

 

 準備運動の段階で地面に大の字に寝転がるヒューズ。

 そうしてようやく周りに筋骨隆々の男がいることに気づいたのか、ものすごい速さで立ち上がって俺の方へ身を寄せた。

 まだ素早く動けるじゃん。

 

「な、なな、な、……ああ、先輩か」

 

 相変わらずビビりだなぁ……。

 いざってとき出るけど、それで体が硬直してしまうんじゃなくて、ちゃんと命を守る行動ができるところがえらいよな。

 ヒューズ君二重丸。

 

「友達か?」

「ルーサーより背が高いな」

 

 わらわらと集まってくる先輩方に、ヒューズは背筋を伸ばして目を見開いた。

 昔だったら袖を掴んできてただろうけど、今は我慢しているようだ。

 まぁ、俺より背も高いし、見た目もちょっと大人っぽいし、これで昔のままだったらちょっと格好つかないもんなぁ。

 

「はいはい、集まらないでください。もう少し捌けて」

「なんだよ、友達連れてきたんだったらもっと見せろ」

「見世物じゃありません」

 

 俺はといえばすっかりこの先輩方と気の抜いた交流をしている。

 毎日のように全力でどつき合ってると自然と仲良くなるものだ。

 

「ここに来たんだから剣術の稽古だろ?」

「まぁそうですけど」

「じゃ、俺が教えてやるよ」

「僕に勝った人に教えてもらいます。ということで、ヒューズに剣を教えたい人から順に僕と勝負してください」

「今日も生意気だな、よし、俺から行くぞ」

 

 ま、特別感出してやった方が皆丁寧にまじめに剣を教えてくれるだろう。

 賞品がある方がこの人たちも真面目にやるだろうし、俺もいい訓練になるってものだ。

 ついでにヒューズには休む時間を与えられるし、俺たちの訓練を見れば参考にもなるでしょ。

 

 最初に前に出たのは180cm半ばある、でかい先輩だ。

 対戦成績はやや勝ち越し。

 父上と体格が近いので結構戦いやすいのだ。

 あとパワータイプで俺よりめっちゃ背が高いから、向こうは逆に戦いづらい。

 

「おい、大丈夫なのか……?」

「まぁ見ててください」

 

 負けたからって死ぬわけじゃない。

 でもさ、できれば友人の前では格好つけたいよな。

 

 よし、気合入れ過ぎずにいつも通りでいくか。

 

 俺と先輩が刃を潰した剣を構えた瞬間、喋ったりはやし立てたりした先輩方がピタッと静かになる。きっとヒューズ辺りはまたビビってるんだろうな。

 なんだかんだ勝ち負けをめっちゃ気にしてるから、いざ勝負がはじまるとみんな邪魔にならないようにする。

 俺は結構この空気が好きだ。

 

 先に仕掛けるのはリーチに有利があるあちら側。

 これはいつものことだから、焦りはしない。

 

 肩口めがけて最短距離の突きを放ってくる。

 いつももうちょっとじっくりと初手を悩む先輩なんだが、今日の仕掛けは早かった。

 ヒューズにいいところを見せようとちょっと逸ったな?

 

 剣先を触れ合わせて僅かにその行く先をずらしつつ、体を躱して横に回り込む。

 姿勢は低く、そのまま攻撃に移るなら一度剣を振り上げなければならない状況を作り上げる。

 攻撃態勢に移れば足元を薙ぐつもりでいたけれど、俺の動きは読まれていたらしい。

 冷静に足を捌き、ぐるりと体を回しながらついてくる。

 

 足元攻撃しても、下手したら剣を踏まれて反撃されて終わりだな。

 

 そんじゃあ距離をもうちょい詰めつつ、更に背後を取りに行く。

 当然先輩もついてくるが、ここはもう相手の剣の間合いではない。

 攻撃に移るには、剣を手元まで引くか、体術を使う必要がある。

 

 一方で剣をコンパクトに構えたまま機会を待っていた俺は、いつでも攻撃を繰り出せる。

 

 腕の内側までしゃがみこみ、先輩の深い懐から真上に向けて剣を突き上げる。

 ぴったり顎の下に先端を突き付けると、先輩は動きを止めて、それから腕の中に入り込んだ俺を腕でガッと抱き寄せようとしてくる。

 

 あぶねぇ、何しやがるんだこいつ。

 しゃがんで避けて睨みつけると、先輩はちっと舌打ちをしてから笑った。

 

「何すんですか」

「最後の力を振り絞っての一撃。良くよけたな!」

「負けたの悔しいからってずるしないでください」

「いやぁ、戦場では何があるかわからんからなぁ」

「……さっさとどいてください、次の人と勝負するんで。ヒューズにちょっかい出さないでくださいね」

「小言の多い奴だなぁ」

「多くもなりますよ」

 

 たまーにこういうことしてくるんだよなぁ。

 残心も大事だから、たまーにならいいけど、このタイミングでやるのはちょっとガキっぽいぞ。

 でかい図体してるくせに。

 

 先輩が下がっているのを睨んでいると、他の筋肉たちがゲラゲラと笑う。

 こいつらホント、貴族っぽくないよなぁ。

 




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