たぶん悪役貴族の俺が、天寿をまっとうするためにできること   作:嶋野夕陽

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勇者候補2

 間を置かず次々と先輩が挑んできたせいで、今日の俺の成績は4人抜きにとどまった。いつもは声かけて準備してからやってるのに、ヒューズがいるからってみんなして張り切りやがって、不意打ちまがいの仕掛け方をしてきたのだ。

 めっちゃ大人げない。

 観客がいたら普段より礼儀正しく戦うものじゃないの?

 

 王都の騎士団って、相当きちっとした集団だけど、この人たちは馴染めないんじゃないかって思えてくる。勝てばよかろうなのは、どっちかっていうと探索者《シーカー》の考え方だから、ぜひとも見直してほしいところだ。

 

 そんなわけで俺に勝利したのは比較的背の低い、豆タンクみたいな先輩だった。

 この人見た目の割に力がすごい上に、身長差をひっくり返すためなのかこの集団の中でも戦闘技術がかなり高い方だ。

 よく言えば器用で、悪く言えば何でもありの無茶苦茶な人である。

 何人かいる、普通に俺が負け越している相手だ。

 

 堅牢な防御からの逆転を得意としているので、ヒューズの先生にはちょうどいいかもしれない。ぱっと見小さくて威圧感があまりないし。

 

 今回は初手から予想外の猛撃をされて、そのまま押し切られた。

 実は結構悔しいから次は勝つ。

 事前知識を利用するのは大事だけど、先入観を持って対応するのって良くない。

 反省だ。

 

 しばらくヒューズの訓練する様を眺めていると、訓練場にいくつかの小さな影が入ってくる。

 背が低いけど一人を除けば、顔は見たことがない。

 その一人というのは、初日の交流会の日に俺の席に残ってくれていた爽やかな少年だ。

 同じ学年で見たことない連中ってことは、平民クラスなんだろうな。

 

 普段はあちこちで先輩たちが打ちあってるから、その迫力に負けて人が来てもすぐに逃げて行く。しかし今日はヒューズのことを見ている先輩がいるのと、さっきの流れのまま勝ち抜き戦が始まってしまったのもあって、スペースが結構空いている。

 

 ヒューズの方はともかく、勝ち抜き戦は結構白熱していて迫力がある。

 同学年のお坊ちゃまたちはこそこそと端の方を歩いていき、刃を潰した武器をそれぞれ手に取って、重さや使い勝手を確かめはじめた。

 訓練場っていくつかあるけど、貴族の坊ちゃまたちが使ってると使いづらいもんなぁ。それでこんな辺鄙なところまで逃れてきたのだろう。

 本来だったら推薦した貴族の坊ちゃんとかが引き連れてやってきたりするのだけど、訓練に興味のない坊ちゃんとかもいるから仕方がない。

 平民あぶれ組といったところか。

 

 俺はというと、勝ち抜き戦を見て色々と技術のお勉強をしているところだ。

 先輩方と比べると頭いっこ以上背が低かったりするから、あちらから見つけることは難しいだろう。

 下手に俺がいることに気づいても気を遣うだろうし、このまま知らん顔をしていてやろう。

 

「お、知り合いか? いや、違うか。友達あまりいなさそうだもんな」

 

 そう思ったのに、余計なことを言ってくるのは天パ巨人先輩である。

 初日に負けてから、これまた俺が負け越している相手だ。

 この先輩、何かと俺に絡んできて、しょっちゅうグリングリン頭を撫でまわしてくる。

 その背の高さからか他の後輩たちが近づいてくることは殆んどないのだとか。

 俺が生意気を言ってくるのが嬉しいらしい。

 

「顔見知りはいますけど? 先輩こそここ以外で友人とかいるんですか?」

「いるが?」

 

 普段へらへらしてるくせに、まっすぐ俺の目を見て答えるな。

 一発で嘘だって分かるぞ。

 

「噓ですね」

「噓じゃないが?」

「はいはい」

「……よーし、俺、ルーサーの知り合いに挨拶してきちゃおうかなぁ」

 

 こいつ、俺が挨拶をしにいかないのを見て、的確に俺の嫌がりそうなことを言い始めたぞ。

 脳筋みたいな顔してるんだから、察しがいいのやめろ。

 

「勝手にしたらいいじゃないですか?」

 

 過剰に反応すると面白がるから、冷静に受け流す。

 

「ルーサーが普段どんなことしてるか聞いてくるか」

「やめてください、平民クラスの人ですから知りませんよ」

 

 ベルトを掴んで引き留めようとするが、そのまま数歩引きずられる。

 くそ、小さい体が恨めしい。

 

 まあ正直、前世の成人している状態でも、こいつを相手にしたら引きずられている気がするけど。

 体格差がえげつない。

 戦いの心得がなかったら、俺だって近寄ろうとは思えない。

 

 そんな俺たちのやり取りに気づいたのか、アウダス先輩がじろりとその視線の先に目を向ける。

 

 かわいそうなのはくそでか天パと怖い顔筆頭のアウダス先輩に見つめられた平民クラスの少年たちである。その場に縫い付けられたように動きを止めて、目だけはしっかり逸らしている。

 目があったら襲われると思ってるぞ、あれは。

 猛獣と同じ扱いだ。

 

 備えとしては間違ってるけどな。

 怖いならば余計に相手の動きから目を逸らすべきじゃない。

 恐怖の対象を見ないようにするのは、自分から命を投げ捨てているようなものだ。

 ただの現実逃避である。

 

 そんな中ただ一人、こちらを見つめ返していた爽やか少年は、止まらない先輩の脇腹に拳を突き出している俺の存在に気づいてしまったらしい。

 はっという表情をして軽く頭を下げてきた。

 

 まっずい。

 俺も乱暴な攻撃をやめてぱっとベルトから手を放しすました顔をして、軽く会釈をする。

 俺は貴族。

 セラーズ家嫡男の、めっちゃ成績優秀な天才児です。

 自分で考えていて恥ずかしくなってきたけど、世間一般からの俺のイメージはこれだ。

 ちょっと訓練場で気を抜きすぎていた。

 

 これもそれも全部天パ先輩のせいである。

 許せねぇ。

 

「なあ、おい、お前ら1年だろ?」

 

 声のかけ方野蛮人か?

 そこから先につながる言葉って、ちょっとジャンプして見ろよか、焼きそばパン買って来いよくらいだろ。壁の近くで置物の真似していた子たちが完全に固まっちゃってるじゃん。

 対応できそうなのが爽やか少年しか残ってない。

 

「はい! 訓練に来ました、イスナルド=ホープズです」

 

 でか天パ先輩が、おっという表情をして興味を持ったようだ。

 怯えられないことの方が少なそうだもんな。良かったじゃん、受け入れてもらえて。

 

 それにしても大したもんだな。

 俺だったらこの先輩がこのテンションで話しかけてきたら絶対に警戒するぞ。

 ああ、こいつカツアゲしに来たんだなって思っちゃうもん。

 それをこれだけ疑うことなく返事ができるって、ある意味最強の防御手段かもしれない。もし本当にカツアゲする気だったとしてもやる気が失せるってものだ。

 

「ほー、俺はシグラトだ」

 

 へー、名前かっこいいじゃん。

 一応覚えておくね。

 

「……おい、今初めて知ったみたいな顔してないか?」

「いえ?」

 

 だって初めて知ったもん。てっきり皆に呼ばれてる通り、シグって名前かと思ってたよ。俺も今までシグ先輩って呼んでたし。

 今まで名乗らなかった方が悪くない? とは言わないけどさ。

 

「ルーサー様は先輩と仲がいいんですね」

「ええ、まぁ」

 

 殆んど黙って横に立ってただけなのに、なんか突然話が振られたな。

 やっぱりこの爽やか少年、俺のことをルーサーと認識しているようだ。

 忘れているだけで俺の知り合いとか言わないよな?

 

 いやぁ……水色の髪なんて目立つし、そうそう忘れないと思うんだけど……。

 

「ああ、そうだ。こいつって普段どんな感じなんだ?」

「クラスが違うので、普段のご様子はあまりわかりませんが……」

 

 だから聞くなって言ってんのにこいつは。

 イスナルドが困ってるだろうが。

 

「ふーん、じゃあ噂とかは聞かないか?」

 

 もっと聞くなよ。

 俺の立場分かってるだろうが。いい噂なんかめったに流れねぇんだよ。

 

 イスナルドは耳のあたりを指先でかきながら、ちらりちらりと俺の方を見る。

 え、何その恋する乙女みたいな反応。

 知らないうちに何かフラグ立ててた?

 

「聞くことはありますが……、俺は優しくてかっこいい人だと思ってます」

 

 なにこいつ、めっちゃいい奴じゃん。

 まぁ、俺実はそんなに悪いことしてないからね。平和に毎日を過ごしているだけである。

 そんな評価をしてくれる奴の一人や二人いたっていいはずだ。

 服にサインとかあげちゃおうかな。

 

 一方でシグ先輩はいぶかし気な視線を俺に向けてくる。

 俺が優しくもかっこよくもないって誰が決めつけたの?

 顔にパンチとかあげちゃおうかな。

 

「あれか? セラーズ家にめちゃくちゃ恩があるとか……?」

「いえ、違いますけど……?」

 

 あ、口にまで出したな、このくそでか天パ。

 疑うだけならまだしも、そこまで言うって喧嘩売ってるだろ絶対に。

 俺が睨みつけると「いや、だって」と言い訳にもならない言葉を口にする。

 

「実は前からルーサー様にはお礼を言いたいと思っていたんです」

「心当たりがないのですが……?」

 

 礼を言われるような事あったかな。

 マジで記憶にない。

 立食パーティの時に、イスナルド君だけがテーブルに残ってくれていたって印象はあるけれど、あの日はさっさと帰っちゃったし。

 というか、あの時点で俺との会話のきっかけを探しているような雰囲気があったから、おそらくその前だな。

 

 えーっと……? 水色の髪、水色の髪ねぇ……?

 

 巣から落ちてしまった水色をした鳥を、母上と一緒に飛べるようになるまで育てたことくらいしか思い浮かばない。

 あの時の鳥です、恩返しに来ましたって言われたらちょっと納得する。

 できればかわいい女の子になってきてほしかったけど。

 

「俺はマッツォ領の出身で、姉もこの学園に通っていまして……。姉がルーサー様に怪我を治してもらったと」

 

 あ、わかった。

 あの時頬を腫らしてた女の子の弟ってことか。

 すげぇ納得した。お姉さんはちょっと薄めの茶髪だったから全然気づかなかった。

 

「あの時の……。その後お変わりありませんか? 一応釘はさしておきましたけれど、何かあっても年下の僕には言いづらいかもしれないと心配していたんですが……」

「お陰様で、随分と待遇が変わったと聞いています。僕も来ましたし、姉にはマッツォ様のおそばから離れてもらうことにしました」

 

 離れる?

 マッツォの家から推薦を受けて入学したのならば、そんなことは難しいはずだ。

 弟が来たからには、家族そろって優秀なのだろうけれど、だからといって主家に逆らえるほどの何かがあるとは思えない。

 そんなものがあるのなら、最初からあんなやばそうな奴の家から推薦を貰って入学したりしないはずだ。

 

「それは、大丈夫なんですか? 僕のせいで離れざるを得なくなったとかではなく? もしそうなら遠慮せずに言って下さい」

「あ、いえ、ご心配なく。その……、実は俺が光臨教から後援を受けることになりまして、姉上もその庇護下に入ったんです」

「……なるほど、勇者候補ですね」

 

 わかっちゃった。

 言われてみればこのイスナルド君、見た目も言動も雰囲気も、めっちゃ勇者だわ。

 おいおい、光臨教も見る目あるじゃん。

 てっきりあの激やばコンビみたいなのばっかりいるものだと思ってたよ。

 正直イスナルド君なら推せる。

 

「勇者候補? なんだそれ?」

「光臨教の勇者選定ですよ。これから良くないことが起きるって予言があって、それに対応するために勇者と聖女の候補を選んでいるんです」

「へー」

 

 聞いといて今にも鼻をほじり出しそうな空気感で返事するのやめろ。

 

「さすがルーサー様、お詳しいですね」

「たまたま知る機会があったので。……イスナルド君なら、勇者候補と言われてもなんとなく納得できますね」

「いえ、そんな。俺なんてなんで選ばれたのかもよくわからなくて……。ルーサー様がそうだと言われたほうが、俺としては納得できます」

 

 俺ちょっとイスナルド君のこと好きになったかも。

 こんな悪意のないいい奴中々いないよ?

 もうこの子でいいじゃん、勇者。

 アルフ? 知らない子ですね。

 

「そんなことないですよ。ああ、僕に対しては別にそんなに丁寧な言葉を使わなくてもいいですからね」

「ええと、そうかい? じゃあできればその、俺のことはイスと呼んでもらえると嬉しいんだけど……」

「分かりました、イスと呼ぶことにします。折角ですし、一緒に訓練していきますか?」

「いいのかな……? 邪魔にならない?」

「いいですよ、ね、先輩」

 

 ご機嫌にシグ先輩を見上げる。

 

「なんかニコニコしてて気持ち悪いな、ルーサー」

 

 なんだこの野郎、喧嘩売ってんのか。

 

「ああ、それそれ。ま、いいぜ、折角来たんだから混ざってけよ。他のやつらはいつの間にか逃げちまったみたいだしな」

 

 睨んだとたん『それそれ』ってなんだ、失礼な奴だな。

 

「え、あれ? 本当だ、誰もいない」

 

 うん、一緒に来たピカピカの1年生たちなら、君をおとりにして逃げたよ。

 イス君が勇者として一緒に冒険する相手を選ぶ時が来たら、あいつらはメンバーから除外することを進言させてもらおうかな。

 

 

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