たぶん悪役貴族の俺が、天寿をまっとうするためにできること   作:嶋野夕陽

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ダンジョンへの意識調査とイレインちゃん

 貴族がダンジョンに潜るのは一般的なことではない。

 もし潜るとすればそれは、自領の視察などもかねてのことになる。

 俺の感覚からすると、貴族には魔法が得意なものも多いからダンジョンにチャレンジするのも悪いことじゃないと思うんだよな。

 だからウォーレン王が軍を連れてダンジョンに潜ってることには、俺は賛成なんだよな。ついでにそれ専用の兵士みたいなのも雇うようにして、完全に公共事業になれば、住民全体の生活の質も上がる。

 

 問題は教育が大変なことと、アウトローな奴らが生きていく幅が狭まることだな。

 探索者《シーカー》ってある意味そういう奴らが犯罪に走らず生きるための最後の砦って感じだから。

 まぁ、だからってのもあって探索者《シーカー》の質ってやつも当然ピンキリだ。

 ダンジョンの魔物だけ警戒していて、後ろから探索者《シーカー》に殺されたなんて話はざらにある。

 

 特に今のダンジョンを豊かなお貴族様がお遊びで荒らしたりしてたら、生活が懸かっている探索者《シーカー》の皆様はイライラするかもしれないよなぁ。

 まぁ、俺の場合はダンジョンでのあがりの多くを、探索者《シーカー》の施設拡充に充ててたから、わりと評判は良かったけど。

 良かったよな? 貴族だからご機嫌伺いされてただけじゃないよな?

 

 ま、そうじゃなくても【黒風《こくふう》】とかいう二つ名で呼ばれてるクルーブが一緒にいるんだから、理由もなく襲ってくるような奴らはいなかった。

 理由があって襲ってくるような奴らはいたけど。

 これに関しては話しても余計に心配させるだけだから黙っておこう。

 さて、話題を逸らすか。

 

「ところで皆さんは、ダンジョン入りを目指すんですか?」

 

 マリヴェルは無言で首を横に振り、イレインが目を逸らす。

 イレイン、お前はダンジョン入ったことあるだろうが。

 

「私は挑戦するつもりだ。王太子として手を抜くわけにはいかないだろう」

「では私も入りますわ」

 

 殿下が挑戦すると言ってるのに、ローズが当然のように入れる気でいるのが面白い。どんな手を使っても入ってきそうだけど、普通に危ないからやめたほうがいいような気もする。

 

「ローズってそんなに強かったですか?」

「強いとか弱いとかではないんですの」

「いえ、強いとか弱いとかの問題です」

「……さてはルーサー、そうやって殿下を私から奪うつもりですのね」

 

 さてはじゃねぇんだよ。

 どうしてローズは殿下のことになると途端に頭が悪くなるの?

 

「適材適所でしょう。普段はローズに全て任せているんですから、たまには僕のことを信じてくれてもいいのでは?」

「信じていないわけではありませんわ」

「では無理はしないようにしてください」

「……分かってますわよ」

 

 本当かなぁ?

 めちゃくちゃ拗ねた返事してるけどなぁ?

 

「実力で入ればいいのでしょう?」

「……まぁ、そうですけど」

 

 裏口みたいな手を使わなきゃ俺も文句言わないけどね。

 もしこのメンバーの誰かが一緒にダンジョンに潜ることになるのなら、俺は本気で護衛にまわるつもりだ。それまでに絶対自分の剣は用意しておかなければならないな。

 

「ヒューズはどうなんだ?」

「俺も入るつもりだぜ。そのために今ルーサーから剣の稽古受けてるし」

「そうか、じゃあお互いに頑張らねばな」

「カートよりは俺の方が魔法がうまいからな。うかうかしてるとカートだって落ちるぞ」

 

 クルーブに限って言えば殿下に気を遣うことがまずないだろうから、それに関してはマジで心配なんだよなぁ。

 

 そういえば殿下って今どれくらい強いんだろう。

 この間の訓練の時ちゃんと確認してなかったな。

 まぁ、昔から運動神経は良かったし何とかなってるか。

 

「イレインはどうだ?」

 

 殿下の質問に、イレインは僅かに嫌そうな表情を見せながら渋々答える。

 こいつはこいつで態度でかいんだよなぁ。

 でもよく考えるとイレインって隣の国の王女様だから、多少殿下に失礼でも許されるような気はする。

 

「選ばれたら仕方がないので行くつもりです」

 

 イレインはこれでいてダンジョンの厳しさというか、えぐさのような側面も知っている。

 ダンジョンというのはただ生活に役立つものが手に入るだけではない。あからさまに人への殺意を隠さない魔物たちと対峙することになるのだ。その上魔物の死体はそれなりにグロい。

 行かなくていいのなら行きたくないなぁという気持ちが駄々洩れの返事だった。

 

 そうなるとマリヴェル以外の全員がダンジョンへ入るのを目指すことになる。

 マリヴェルとはきょろきょろと俺たちのことを見てから、ぎゅっと拳を握って小さな声で言った。

 

「やっぱり……、私も入りたい……、かも」

 

 魔法はそれなりに使えるし、運動神経も悪いわけではない。

 ただ、マリヴェルがダンジョンへ入ってばっさばっさと魔物をなぎ倒している姿は想像ができない。

 あるとすれば完全に魔法使いとしての運用だろうか。

 でもなぁ、できれば護身術の一つや二つ学んでいるといいんだけど……。

 

 とはいえ、やると言っていることを邪魔する気にはならない。

 子供はやりたいことをのびのびとやらせてやるべきだ。

 挑戦大事。

 

「そうですか、では一緒に潜れるといいですね」

「……うん!」

 

 ま、いざとなったら守ってやればそれでいいだろう。

 流石のクルーブも、しょっぱなから一人で戦えとか言いださないと思うし。

 

 しばらく近況を話し合っていた俺たちだったけれど、マリヴェルが欠伸を我慢して涙目になっているのを見つけたところで解散することが決まった。

 殿下が窪みに宝石をはめ込むと、壁が空けて外の様子が見えるようになった。

 あちらからは普通の壁に見えるマジックミラーのようになっているらしく、見つからないように外に出るのには便利だった。

 便利だったの一言で済ませたけれど、これってめちゃくちゃ高度な魔法が使われている。

 魔法の中でも魔法陣を使うタイプの魔法で、正しく動作させるためには相応の知識が必要になる。

 俺としてはまだまだ理解の浅い部分だ。

 特徴として、攻撃的な使い方をされることが少ないので、生き残ることを重視していた俺は、勉強を後回しにしているところがある。

 

 ルドックス先生みたいになるためには、いつかちゃんと修めないといけないよなぁ。

 

 そんな俺の思いはともかく、夜中にこっそりと自室へ戻った俺たちは、翌日昼前まで惰眠をむさぼってから、午後にやることを済ませ、夜中はまた秘密の部屋へ集まった。

 話すことは尽きず、それぞれ離れ離れになっていた間のことを共有した。

 実に充実した週末だった。

 

 そして週明け。

 たまに欠伸をかみ殺してしまうのは、仕方のないことだろう。

 月に5日間程度しか使えないあの部屋だが、翌日が休みでない日は急ぎの用事がない限り使用しないと約束した。

 あまり頻繁に利用してばれても困るし、普通に楽しいので日常生活に支障が出ても困る。

 

 授業中に机に突っ伏して眠るヒューズを見ながら、俺は判断が正しかったなとあらためて頷くのだった。

 

 放課後、いつも通りのんびりと教室を出て訓練場へ向かう。

 少なくともダンジョンに潜るための選考結果が出るまでは、ヒューズも同行させるつもりだ。今日からは自分よりもまだ弱いイス君が来ることがわかっているので、ヒューズも少し気が楽そうである。

 

 訓練場へ着くと、イス君ともう一人の姿があった。

 仲良くお話しでもしていればいいのに、互いに距離を取って無言である。

 イス君はどこかぎこちなく、もう一人、イレインはすまし顔だ。

 

 昨日の会合で、別にイレインは俺と接触しても問題ないのではないかという結論に至ったのだ。何せ昔から許婚であり、一緒に暮らしていたことも周りにばれている。今更接触を断っているほうが不自然なのではないかというのが、殿下の提案だった。

 

 俺としても別にイレインがいる分には気楽なもんだし、特に反対意見もない。

 剣に関してはイレインもたまに一緒に訓練をしていたし、ダンジョンに潜るための体力作りも一緒にやっていたので、俺の見立てによればヒューズよりはよほど強い。

 

 俺の姿を見つけたイス君は、ほっとした顔をして近づいてきた。

 

「ルーサー様! あの、なんかすごくきれいな人が来てるんだけど、知ってる人?」

 

 イス君は小声でちらちらとイレインの方を窺いながら尋ねてくる。

 まぁ、きれいではあるか。俺は中身知ってるし見慣れてるからどうとも思わないけど。

 

「イレインですね。ここで訓練をしていると聞いて、様子を見に来たのだと思います」

「イレインさんかぁ……」

 

 もしかしてタイプだったのか?

 やめといたほうがいいと思うけどなぁ。中身的にも、身分的にも。

 

「ウォーレン王国のお姫様です」

「え、あ! もしかしてルーサー様の許婚っていう……」

「今は曖昧になってますけどね」

「そっか……」

 

 あからさまに落ち込まれてしまった。

 うーん、イレイン、罪深い。

 

「イレイン、こちらはイスナルドです。一緒に訓練をする友人」

「初めまして、イスナルドさん。イレイン=ウォーレンです」

「あっ、こちらこそ初めまして。ルーサー様とヒューズ様には、ついこの間から訓練を付けてもらっています」

「そうですか。この時期に鍛えるということは、あなたもダンジョンへ入るのが目的ですか?」

「はい! 少しでも実力を付けたくて……」

「良い心がけですね。私も……一応ダンジョンに入れるように頑張るつもりです」

 

 マリヴェルとローズが入るのなら心配だし仕方ない、ということで自分も入ることにしたイレイン。訓練をちょっとばかりさぼっていたらしいから、今日は腕がなまっていないかの確認も兼ねてきている。

 

「イレインさんもダンジョンに……? 危なくないでしょうか」

 

 イス君から見れば、イレインは可憐なお姫様だ。

 そんな言葉が出てきてもおかしくないだろう。俺は思わず吹き出しそうになったけれど、イレインはやや不快に思ったのか、得意の冷たい顔をして言い返す。

 

「気遣いは嬉しいですが、私もルーサーほどではありませんが戦えます」

「あ、その、すみません……」

 

 あーあ、イス君には悪気はなかったのに、イレインがいじめるからしゅんとしちゃったじゃんか、かわいそうに。

 イレインのやつ、女の子扱いされるの相変わらず嫌がるんだよな。

 

「とりあえず体をほぐしましょうか」

 

 二人の横をさっと通り抜け、カバンを置いて体の筋を伸ばす。

 いつでも動けるように体を作っているつもりだけれど、皆がそうってわけでもないからな。訓練で怪我したってしょうがない。

 

「おい、イレイン、俺と手合わせしようぜ」

「いいですけど、負けても拗ねないでくださいね」

「言ったなこの……!」

 

 二人の軽口の応酬にイス君が驚いた顔をして、俺に寄ってくる。

 

「お二人は仲がいいんですか?」

「一応、昔からの知り合いなので」

「……そうですか」

 

 安心してほしい。

 イレインはヒューズのこと手のかかる年の離れた弟くらいにしか思ってないから。

 まあそれを言うのなら多分イス君のことも、いい子ちゃんの美少年だな、くらいにしか思ってないだろうけど。

 

 




『たぶん悪役貴族の俺が、天寿をまっとうするためにできること2』
予約開始いたしました。
三分の一くらいは書下ろしで学園に入る前のダンジョンの様子が描かれています。
ふわチーズさんによる美麗なイラストもございます。
三巻のためにも是非ともご予約を……!
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