たぶん悪役貴族の俺が、天寿をまっとうするためにできること 作:嶋野夕陽
先輩たちは今日用事があるのか集まりが悪い。
というわけで、イレインに負けたヒューズとイス君の最弱決定戦を眺めながら、二人で内緒話だ。
秘密の部屋で殿下たちと集まれるのは良いとしても、イレインと本音でだべれる場所はないに等しい。たまにはこうして話を聞いてやる必要があるだろう。
でもずっと愚痴られるとちょっとうるせぇなって気持ちになるのは、俺がイレインに対して一切下心とか恋愛感情がないお陰だ。
「いっそ殿下たちには素の姿見せたらいいんじゃね?」
「じゃあお前はその態度で殿下たちと話せるのか?」
「無理に決まってんじゃん」
「じゃあ私も無理だろ」
「俺だって我慢してるんだから諦めろよ」
「胡散臭い笑い方がお似合いだぞ」
「クールな美少女イレインちゃんを笑わせたい一派の話聞く?」
「ぶっ殺すぞ」
この一派はフィクションではなく実在するらしい。
ちなみに俺はこいつらからすげぇ嫌われてる。
彼らのアイドルの元婚約者だからね、仕方ないね。
でも残念でした、こいつ普通にぶっ殺すぞとか言ってくるからな。
「さっき俺に負けた癖に」
「…………お前さぁ、相変わらずやたらと強さにこだわるよな」
表情だけはクールな美少女のままイレインが変なことを言ってくる。
「自衛しなきゃいけないんだから仕方なくない?」
「普通の貴族はそんな強くないんだって。学園来たら分かっただろ」
「いや、父上とか普通に強いし。ルドックス先生も貴族だったし。アウダス先輩の周りも強いけど?」
「特殊な例を出して反論してくるのやめろ。オルカ様もルドックス先生も大人だし、アウダスとか言う先輩周りは騎士候補だろ。お前は13歳」
なんかこいつ、昔からこの話たまにしてくるんだよな。
強くなって悪いこともないと思うんだけど、何が気に食わないんだろうか。
「いざってときに何もできないんじゃ困るじゃん」
「なんかお前、無理してる感じするんだよな」
「無理してるっていうか、必要だから頑張ってる。今となっちゃ剣術も魔法も好きだし、別にしんどいとは思ってないけどな」
「案外、オルカ様が頑張って、殿下も頑張って、私たちもそれなりに頑張って、全部上手くいくってこともあると思うけどな」
「それが一番いいけど、人生何があるかわからないからな」
人生半ばで終えるのはもうごめんなんだよ。
俺は今世の両親より先に死ぬつもりはないし。
「たまにしんどくならねぇ? 私は気を抜くこともさぼることも結構あるけど、お前人前だといつも気を張ってるじゃん」
「だからお前の愚痴聞いてる時間はそれなりに気を抜いてるじゃん。元の自分知ってる相手がいるって結構大事だよな。案外お前がいなかったら、先生が亡くなったあと、立ち直れてないかもしんないし」
話してみれば意外と自分でも気づかない本音がポロリと出ることもある。
今みたいに。
学園に入ってしばらく、いつの間にか結構気を張っていたようだ。
いつもと変わらないしょうもない愚痴を吐いてくるイレインと話したら、すごく気楽になった。
「……そうかよ」
イレインは不満そうだ。
俺の感謝の気持ちなんか伝わってないかもしれないけれど、恥ずかしいので別にそれで構わない。
最下位決定戦はヒューズが勝ったようだ。
浮かれて褒めてほしそうなヒューズと、イレインちゃんにかっこいいところを見せられなくてがっくり来ているイス君。表情は対照的だ。
「俺の勝ちー!」
「一日の長ですね。負けたらどうしようかと思ってました」
「褒めろよ、素直に」
ちょっと厳しめのコメントをすると、ヒューズは不満そうに口を尖らせた。
褒めたらイス君の立場がねぇだろうが。
あと、これ最下位決定戦なので誇らないで欲しい。
というか、まずイレインに負けているという事実を反省してほしい。
「いやー……、やっぱりすぐに強くなったりしませんよね。また頑張ります」
前向きな思考で偉い。
実際数日訓練したからってめちゃくちゃ強くなるなんてこと滅多にないと思う。
少なくとも俺は、今の時点で二桁年近く父上と訓練をしているのだ。
年季が違う。
「いい勝負でした」
適当なこと言うな、見てなかっただろお前。
「そ、そうですか? お恥ずかしいです……」
「ええ、見ごたえのある戦いでした。いつかヒューズには勝てるかもしれません」
「イレイン、酷くねぇ?」
「ヒューズは剣の訓練をしてこなかったんですか?」
お前貴族の癖に、平民で今まで剣の訓練を積める環境になかったイス君といい勝負するとかどういうことなの、という遠回しの指摘なのだが、なぜかヒューズは胸を張った。
「うちは魔法の家系だからな。イレインだってそれは知ってるだろ?」
「剣術は貴族のたしなみだそうですよ。頑張ってくださいね」
「分かってるよ、だからこうして訓練してんじゃん」
あーあ、拗ねちゃった。
イレインは男連中より、女の子たちに優しい。
殿下には丁寧に接しているけれど、俺にはあんな感じだし、ヒューズにもこんな感じだ。
だからこそたまにイレインに褒められるとヒューズはめっちゃ浮かれてうざくなるんだけど。
ちなみにそこに恋愛感情はない。
やってやったというただの達成感である。
だからイス君安心してイレインにアプローチしてもいいよ。
「……あの、ルーサー様はイレイン様と仲がいいのかな?」
「ずっと一緒に暮らしてたんだから当たり前だろ」
「え」
ヒューズさぁ。
「元、婚約者ですから。ヒューズ、ウォーレン王国との関係が複雑なので、あまり大きな声でこの話をするのは止めましょう」
「あ、ごめん」
別にいいんだけどさ、俺じゃなくてイス君に謝ってあげて欲しい。
ショックで固まっちゃってるから。
いやぁ、イレインは罪作りな美少女だな。
そう思いながら横目でちらっと見ると、俺の考えなんてお見通しなのか、イレインはすでに怖い顔で俺のことを睨んでいた。
さて、 小中学生レベルの初恋って、どこまで本気かって難しいところだ。
この世界には身分があるから、もしイレインの中身がちゃんと女の子で、イス君がどんなにいい奴だったとしても、イレインとイス君が結ばれる可能性は非常に低い。
まして中身がこれなので、残念ながら早目に諦めさせるのも一つの優しさなのかもしれない。
まあでもはっきりと結婚をする気がないとかは、イレインの口からは伝えられないだろうから、ちょっとくらい期待させたまま置いておくか。イス君、俺を恨まないでくれよな。
その日以来イス君は、真面目に訓練に参加するようになった。
アウダス先輩が、このさびれた訓練場でも魔法の訓練をする許可をもらってきてくれたおかげで、好き勝手訓練が積めるのは助かる。俺と同じように、剣で戦いながら魔法を使えるようにならないものかと教えてみたのだが、流石にちょっと難しいようだった。
平民クラスでは放課後の付き合いが悪いため、やや浮いた存在になってしまっているようだが、その分実力は格段に上がったはずだ。
正直ダンジョンに一人で入れるレベルまでは仕上がるはずもないのだが、本人の努力もあってその成長は著しい。
ヒューズもいい刺激になったようで、負けじと本気で訓練をしているが、二週間もたつ頃には俺が付きっ切りで教えなくても、二人で勝負しているだけで様になるようになっていた。
「そろそろいいか」
「何がですか?」
後方先輩面して二人の戦いを見守っていると、アウダス先輩がやってきて横に立ち、声をかけてくる。
「一度本気で手合わせをしたいのだろう?」
「そうですね、そろそろしましょうか」
互いにうずうずしていたのだろう。
俺からもいつ切り出していいのだろうと考え始めたところだった。
ただでさえ好き勝手させてもらってるのに、更にやろうぜと申し出るのに気が引けて言えてなかったが、先輩から誘ってくれるのならば好都合だ。
一度離れて手合わせのための刃の潰した武器を選びに行く。
本当は魔法を使うためにも愛用の剣を使うのが一番だが、そこはお互い様だ。
俺たちが真剣な目つきで武器を選んでいると、何かを察した先輩方が集まってきて囲いを作った。
「やるのか?」
でか天パことシグラト先輩が、代表して俺たちに声をかけてくる。
魔法を使って戦っていいなら、今日からは負け越しの清算してやるからな。
「やりますよ。見ててもいいですけど、魔法の流れ弾が外へ行かないように気にしておいてもらえます?」
「ま、それくらいはやってやるか」
「お願いします」
こっそりと伝えると、シグラト先輩は楽しそうないたずらっぽい顔つきで了承してくれた。あらかじめこれを伝えると、一つ俺の戦い方の予測がついてしまう。アウダス先輩には知られないほうがいい。
アウダス先輩も俺が本気で魔法ぶっ放してるところは見ていないから、初めは探りを入れてくるはずだ。こっちは本気で勝ちに行くつもりだからな、見てろよー……。
互いに剣を構えて正対するころには、ヒューズとイス君も訓練をやめて先輩たちの囲いの隙間から俺たちの戦いを見物しに来ていた。囲いの正面に立つと俺の魔法を食らう可能性があるから、先輩たちがあえて後ろに下がらせておいてくれたようだ。
それにしても……、今日のアウダス先輩は、俺同様本気っぽい。
構えただけでそれがわかるのは、威圧感が今までと段違いだからだ。
これまでは切り込む隙のようなものが見えていたけれど、今日はまず、その隙を作るところから始めなければいけないのがはっきりと分かった。
父上とガッツリ戦う時と同じくらいの緊張感である。
伊達に諸先輩方を差し置いて寮監をしていない。
学園内でアウダス先輩を避けて通る悪ぶった生徒のなんと多いことか。
「よーし、じゃあ俺が合図をするからな」
シグラト先輩が言っているが、俺もアウダス先輩も見向きもしない。
「んじゃ、はじめ!」
声と同時に俺は、アウダス先輩の側面を狙うため、円を描くように右へ走りだす。
案の定アウダス先輩は様子見をするようだったがそれは悪手だろう。
走りながら発動した礫弾を即座に発射していく。
この礫弾は発射のタイミングこそずらしているが、その速度をコントロールすることで同時に着弾することになる。
魔法への対処と意識と現実の差に、数発の着弾、あるいは体勢を崩しての迎撃を狙っての一手だった。
魔法を数発放ったところで、アウダス先輩の巨体が動く。
まっすぐ俺の方へ向かうことで数発をよけ、正面の魔法だけを打ち払うことにしたのだろう。
圧倒的模範解答だ。
だがこれくらいならばやってくると想定していた。
アウダス先輩の鉄壁の構えが崩れたことだけでも一つ前進である。
悔しいけれど、剣術だけでは俺はまだまだアウダス先輩に及ばない。
まずは崩しだ。
剣先を地面に向け、アウダス先輩の踏み込む場所を凍り付かせる。
切っ先を振り上げながらそこからさらに礫弾を続けざまに放つ。
これで足元へ剣先を向けたことをごまかせていれば、足を突いた瞬間に滑ってバランスを崩すことだってあるだろう。
こすいというなかれ、相手の意識を分散させるのも戦いの手段の一つだ。
アウダス先輩が強く踏み込み、足元の氷を割った。
そしてさらに強く踏み出すことで勢いが加速する。
全然誤魔化せてねぇじゃん。
でもその代わりに、足元への意識を割くことに成功した。
順調だ。
距離が近づく。
魔法を薙ぎ払いながら先輩が進む。
魔法をぶっ放しながら俺が進む。
互いに前進することで、ついに俺たちは相手の剣の間合いへ踏み込んだ。
ここからだ、ここからは圧倒的にアウダス先輩の有利だ。
でも戦えるように小細工はしてきた。
アウダス先輩も、何も気にせず全力で剣を振るうことはできないはずだ。
だったら俺にも勝機がある。
アウダス先輩が最後の魔法を払いのけ、返す刀で俺の肩のあたりを狙った横なぎを払ってくる。
最後の一歩の足元にも氷を張ってやったから、これもまたほんのわずかに呼吸が乱せたはずだ。
だというのにその一撃は、俺が今まで見たアウダス先輩のどの一撃よりも、鋭く、早く、重いものであるようであった。
俺の体格では、アウダス先輩の勢いの乗った剣を受け止めることが出来ない。
自然と回避せざるを得なくなって、体勢を崩されるのがいつもだ。
しかし、今日は魔法が使える。
構築から発射まで、かかるのはほんのわずかな時間。
旋礫《せんれき》。
回転をする尖った石が正確に、素早く先輩の剣を下から上へはじき、軌道をずらす。アウダス先輩の剣の先端が、妙に簡単に上へ跳ね上げられた。
きちんと握っていれば痺れるような一撃だったはずなのに、上手く力を逃されてしまったようだ。
その場にとどまった俺は、カウンター気味に横なぎ繰り出すが、すでに体勢を立て直した先輩の剣に防がれてしまった。
力比べはごめんだ。
俺は剣を引いてまた少し距離を取る。
いつもは懐に飛び込んで無理やり超接近戦を続けるのだけれど、魔法があれば話は別だ。崩してから飛び込むことを繰り返す方が戦いやすい。
それから数回、別のやり方で接近と離脱を繰り返すが、上手く跳ね返されてしまってなかなか決着がつかない。
俺にとってはアウダス先輩はいつもの戦い方だけれど、アウダス先輩にとって俺の戦い方は初見のはずだ。うまく対応されてしまって俺としては結構悔しい状況だ。
大樹のようにどっしりとした基礎がある上に、ここで実践を積み続けてきたアウダス先輩の実力は、この国でも有数のものになっているのだと思う。
父上が俺と戦っている時にどれだけ本気を出していたかわからないけれど、今の時点ではそれに匹敵するレベルの崩し難さを持っていた。
ただ、アウダス先輩の額に僅かに汗が滲み始めたのを俺は見逃さなかった。
もしかすると、堅守することで俺の体力切れも視野に入れていたのではないだろうか。
普通の魔法使いならとっくにへばっていてもおかしくないくらいには好き勝手魔法をばらまいてるからな。
ということでチャンスだ。
人との戦いは相手の意表を突くことも大事になってくる。
礫弾の中に、威力を上げるために回転を加えた旋礫を混ぜ込み、次々と発射していく。
ここまでのアウダス先輩の対応力を考えれば、防御に集中しなければどうにもならない数のはずだ。流石にコントロールがしんどいので、これ以上の展開は俺も避けたいところだけれど。
着弾直前に俺も前へ走る。
すべての魔法がはじき、叩き落とされていく光景に尊敬の念を抱きながら距離をあと数歩まで詰めた時だった。
アウダス先輩の体に礫弾が着弾した。
予想外の動きに思わず目を見張る。
そして、先輩は体に魔法が直撃することをいとわず、大股で二歩俺に向けて距離を詰め左手だけで持った剣を前へ素早く突き出してきた。
距離が一気につまる。
急ブレーキをかけた俺の心臓の直前で、刃を潰した剣が停止した。
「……やられましたね」
「何が、やられただ」
顔の周りを旋礫に囲まれたまま、苦い表情を浮かべるのはアウダス先輩だ。
「ギリギリ引き分けか」
俺が魔法を消し、アウダス先輩が剣を引いたのはほぼ同時だった。
これだけ魔法を好き勝手使わせてもらって相打ちというのは、俺にとっては負けみたいなものだ。苦い表情になるのは俺も一緒である。
訓練場の外から「わぁああ」という声と拍手の音が聞こえて振り返ると、なぜかマリヴェルが草むらから頭をだし、目を輝かせて手を叩いていた。
あらかわいい、無邪気な顔して。
ちなみにイス君も似たような顔をして手を叩いている。
こっちも美少年なので、かわいらしいっちゃかわいらしい。マリヴェルと二人並ぶと、マリヴェルの方がちょっとだけ凛々しいのだけれど、今はどっちも幼児みたいな表情になっている。
それにしても、こんな辺鄙なところにご令嬢一人で来るのはやめて欲しい。
ここに不良染みたやつがたまっていないのは、ひとえに筋肉もりもりの先輩方が住処にしているからだ。本来は学園内では比較的治安の悪い場所である。
「知り合いか?」
「……幼馴染です。ベル、こっちに来てください」
「うん!」
うん! じゃないのよ。
接触しないようにって言っておいたのになぜここにいる。
「ルーサー、魔法を本気で使っていなかったな?」
マリヴェルが出てくる間に、アウダス先輩から声をかけられる。
「……殺し合いじゃないでしょう? それを言ったら先輩だってもっと非情な手段の一つや二つあるはずです。訓練でできる全力を出したつもりです」
「……それはそうだな。俺もお前と殺し合いをしようとは思わん」
つまりまぁ、あまり本気を出し過ぎると互いに殺し合いになってしまうのでこの辺りでというやつだ。今俺の中にほんのわずかくすぶっているものがあるのと同じように、アウダス先輩の心にももっと心行くまで、という思いがあるのだろう。
「先輩今度一緒にダンジョン潜りません?」
「いいのか?」
「ちょっとクルーブ先生と交渉してみます」
「わかった」
よし、優秀な前衛ゲット。
俺たち二人とも魔法使いだからな、一人前衛がいるだけで戦い方が激変する。
たまにはそんなダンジョン攻略をしてみてもいいだろう。
何せ学園のダンジョン、未だに底が見えないのだ。
ちょっと本腰いれて攻略に臨んだ方がいい。
マリヴェルの接近と共にぞろぞろと集まってきていた先輩方が道を開ける。
「ルーサー、……かっこよかった!」
「はい、ありがとうございます」
うんうん、拳を握ってぶんぶんしてかわいいね、マリヴェル。
でもね、どうしてここにいるのかな?
いい感じに先輩方が壁になっているので外からは見えないかもしれないけれど、接触は避ける約束のはずだ。というか、汗臭い先輩方の中に平気で入り込んでくるの、マリヴェルって結構勇気があるよな。普通の女の子だったらめちゃくちゃ怖がると思うぞ。
「ベール、でもね、接触しちゃ駄目だって話してたよね?」
「あ、え、うん。……でも、隠れてた」
そうだね、顔を出すまではちゃんと遠くで隠れてたね。遠眼鏡を片手に持ってるけど、それはどこで入手したのかな?
「それにここはこんな怖い顔の先輩がたくさんいる、あまり治安のよくない場所ですよ。かわいい女の子が一人で来る場所ではありません」
「おい、俺たちがやばい奴みたいな言い方するんじゃない」
「あ、はい。ほら、こういう大きくてちょっと怖い人がたくさんいるんですから」
ぬっと現れたでか天パことシグラト先輩が、俺の頭を片手でホールドしてくる。
やめろ巨人族め。
「だっ……め」
マリヴェルが腕を掴んで俺の体を引き寄せる。
驚いて手を離したシグラト先輩と、思いのほか強い力にたたらを踏む俺。
まぁ、俺、マリヴェルより背が小さいからね。
それでも胸の中に掻き抱かれると少々情けない気持ちにはなる。
「ルーサーのこと、いじめないで」
「ぷっ、んぐっ、い、いじめない、おう、い、いじめないぞ」
おい、噴き出して笑ってるんじゃねぇぞ、シグラトこの野郎。
マリヴェルは真剣なんだからな!
でも恥ずかしいので、できるなら早めに解放してほしいところである。