たぶん悪役貴族の俺が、天寿をまっとうするためにできること 作:嶋野夕陽
王誕祭のある夏が近づいてくると、学園は長期休みに入る。
その前にテストとか、まぁ、なんかいろいろあるんだけど、その辺りは普段から真面目にお勉強していれば特に問題はない。
小さなころから地道に積み重ねてきたおかげで、学園での俺の成績はいい。
筆記に関しては持ち前の性格もあって、たまにケアレスミスをするせいで本気でやっても一番にはなれない気がするけど。
何でもかんでも一番になって目立てばいいってものでもない。
下剋上する気もなし、殿下がトップにいたほうが色々と都合がいいってこと。
予防線張ってるわけじゃないよ、ホントに。
でもまぁ?
まだ子供だし、これくらいの年齢ならば殿下より点数取ってても許されるんじゃないかなーって思うわけ。
今回はね。
今回くらいはね、まだぎりセーフじゃない?
そんなわけで張り出されたテスト結果を見に行ったところ、なんと同率満点一位が二人いた。
「殿下と……イレインか」
イレインのやつ、遊びでもそうだけれど、競争ごとになると妙にまじめにやる時があるんだよな。オンオフのスイッチ切り替えがはっきりとし過ぎている。勉強嫌いとか言ってた気がするけど、あいつも好き嫌いで勉強しないでいられる状況じゃなかったからなぁ。
まぁ、隣国の王女様だし、これはこれでいいか。
俺はいい感じに、これは当然狙ってのことだけど、上から三番目。
まぁ、本読んで引きこもってばかりいる俺の成績があまり悪いってのも変な話だ。
別に悔しくはない。
一番になんてならないほうがいいって分かってたし。
でもまだ最初のテストだし、間違って1番になっちゃうかもしれない機会は何度か残ってるけどね。
間違ってね。
平民のクラスも混ざっているというのに、張り出されている上位勢の名前の殆んどが貴族なのは、元々の教育水準の高さの問題なんだろう。
平民勢は市井の優秀な子供たちが集められているはずだから、油断してるとこれからどんどん抜かれていくんだろうな。
家のことを考えると俺も勉強の手を抜くわけにはいかないし、寝る前の予習復習はちゃんとやることにしよう。次は間違って一番取るかもしれないし。
前世じゃあまり勉強したことなかったのに、俺も勤勉になったものである。
「やるじゃん、ルーサー」
「そういうヒューズはどうでした?」
「俺はルーサーが1位だと思ってたんだけどな」
「まぁ、こんなものじゃないですか? それで、ヒューズはどうだったんです?」
「……今日の合同訓練楽しみだよな!」
こいつわざと俺の質問無視してやがるな。
探してやるか。
上から順に名前を確認していくと、6位にマリヴェルが、8位にローズがいた。
どうやら我々殿下親衛隊は成績優秀なようである。
っていうか、マリヴェルって勉強できるタイプの子だったんだな。
あまりおしゃべりしない子だから、成績に関してはよく知らなかった。
今度訓練を見に来た時褒めてやらなきゃ。
「おい」とか「そうだ、訓練場行こうぜ」とか言っているヒューズを無視して名前を確認していく。
50位までの張り出しを端まで見てしまったので、今度は逆側に見逃しがないかもう一度視線を動かしてみたが、どこにもヒューズの名前は見つからなかった。
「…………ヒューズって勉強苦手でしたっけ?」
「いや、まぁ……得意じゃねぇけど……」
「……どうしてもわからなくなる前に、聞いてくださいね?」
「わかった……」
50位以内でないからといって、めちゃくちゃ成績が悪いとは限らない。
しかし、これからは授業中ヒューズの表情を観察することにしようと思う。
あまりに理解していなさそうだったら勉強会を開催する必要がありそうだ。
さて、合同訓練は、ダンジョン倉庫に併設された古びた、もとい、味のある訓練場で行われる。
ダンジョンに入ることを希望し、クルーブの面接を合格した者のみが集まって、合同で互いの力量を知ろうという試みだ。ちなみに今日ダンジョンに入るわけではなく、あくまで訓練である。
教師もクルーブだけではなく、武器の扱いを教えているレーガン先生と、魔法を教えているストーンズ先生も参加している。
レーガン先生は元騎士団の隊長で、足を怪我してから第一線を退いて教師をしている穏やかなナイスミドル。
ストーンズ先生は、眼鏡をかけていかにも魔女然とした格好をした、クールなお姉さんである。ちょっと色っぽいので、目覚め始めた男子たちから人気があるらしい。
二人とも真面目そうな人なので、俺的にも好感度が高い。
クルーブが真ん中のベンチに行儀悪く片膝を立てて座り、レーガン先生とストーンズ先生がその左右を固める。
新人の癖に偉そうだな、おい。
クルーブの面接は意外とゆるゆるだったのか、好奇心旺盛な1年生のうちの3割くらいはこの場に集まっているようだ。
勇者候補のイス君と、ついでにアルフレッドと呼ばれた少年に、聖女候補らしいユナという少女もいるようだ。
他にも癖の強そうなのがたくさんいて、誰もが自分が強いと思い込んだ自信たっぷりの顔をしている。
大丈夫かなぁ、これ。
安心できる点といえば、集まっている教師がクルーブだけではないというところのみである。
つまりこの企画が教師たちの間でも話し合われた結果、大丈夫だろうと判断されたということに他ならないからだ。
いやぁ、でもなぁ、マジで大丈夫かなぁ。
アルフレッド君、めちゃくちゃ俺のこと睨んでるんだけど。
よく考えると俺とアルフレッド君は直接の面識がない。
こっそりと場所を移動すると、その鋭い視線は俺についてこなかった。
どうやら以前注意をしたヒューズのことを睨んでいたらしい。
まぁ、あまりいい印象はないよな。
俺としては妙な喧嘩にならないことを祈りつつ、危なければ止めに入ればいい感じだろう。噂によればアルフレッド君は魔法も剣もそれなりの腕を持っているらしいので、直接対決とかになるとヒューズは分が悪い。
「はーい、注目してぇ」
人が集まったのを確認したクルーブが、手を叩きながら立ち上がって注目を集める。
アルフレッド君の視線がヒューズから外れたのを確認して、俺もクルーブの話を聞くことにした。ちなみにアルフレッド君はクルーブのことを見る目も厳しい。なんか恨みを買うような事でもしたんだろうか。
「今日はこの訓練場を使って、周りがどれくらい戦えるのかを確認してもらいまぁす。手合わせはいいけど、互いに大きなけがはさせないように。大きなけがをした人もさせた人もダンジョンには連れて行きませぇん」
んなこと言っても素直に聞く奴ばかりじゃないと思うけどな。
「はーい」
「はい、何ですか?」
手を挙げたのは、聖女候補のユナだった。
ここにいるってことは、あいつもそれなりに勉強とかできるんだな。
「大きなけがの基準って何ですか?」
そんなもん聞くなよ。
ぎりぎりのラインを攻める必要のないことなんだから、互いに怪我をさせないようにしようってことでいいだろうが。
なんか危ないんだよなぁ、あの女。
「僕が独断と偏見で決めまぁす」
「え?」
クルーブの言葉に1年生たちがざわついた。
お前も煽るようなこと言うなよ……。
「それは、良くないと思います!」
「何が?」
「だ、だって、明確な基準があるべきで……」
「何で?」
「そうしないと、駄目だった時に納得できないし……」
「ふーん、そうなんだ」
言い募るユナにクルーブはほんの少しも譲る気はなかった。
それどころか、へらへらと笑って適当な返事を繰り返す。
「クルーブ先生! ダンジョンに入るのは命懸けだって、先生がおっしゃったんじゃないですか! そんな曖昧な……」
「あのさぁ?」
語調が強くなったユナの言葉を、クルーブは笑ったまま遮った。
「何かあった時、君たちの命を預かってるのは僕だよね? 僕の曖昧な言葉を的確に解釈して対応できないような子は連れて行かないから安心してね? 何のために基準がいるの? 誰かを怪我でもさせたいと思ってた?」
一度言葉を区切って、じっとユナを見つめたクルーブだったが、視線をさまよわせたユナからの反論はなかった。
「今回は、あくまで見学だよ。君たちを戦いの矢面に立たせる気は一切ない。聞いてきた子にはこれは答えたと思うんだよね。僕の記憶によれば、君にもそう答えている。この合同訓練は、顔合わせであり、横並びで歩く仲間が何をできるのかを軽く知る場所だよ。馬鹿みたいにはしゃいで仲間を怪我させるような子供《ばか》は連れて行かない。以上、他に質問はある?」
……できるわけねぇだろ、反論なんて。
これまで気さくな態度で緩い授業してきたクルーブが、突然こんな言い方をしたんだ。13歳の子供がすぐさま立ち直って、まともに口を利くはずがない。
「あ、今の話を聞いて、ダンジョンに行きたくなくなった人は、当日の待ち合わせに無理に来なくていいからねぇ。はーい、それじゃあ魔法はストーンズ先生に、剣術はレーガン先生に見てもらってくださぁい。僕は全体を見てるので、ダンジョンについて聞きたいことがあればきてね?」
かわいらしく小首をかしげたところで、いつものようにきゃーっと声は上がらない。良くもまぁ殿下も含まれた貴族の子供を何十人も捕まえて、バカバカ言ったものである。
ストーンズ先生はあきれ顔で、レーガン先生は苦笑しながらそれぞれの場所へ移動していき、それに伴ってぞろぞろと生徒たちが場所を移していく。
俺も目立たないようにしないとな。
いったん誰も寄り付かないようになってるクルーブの元ではなく、ストーンズ先生の方へ向かうことにしよう。
知り合いの分布としては、殿下とセットのローズ、そしてイス君とアルフレッド君は剣。
それ以外が魔法になる。
あ、パッと名前が出てこないけれど、俺の親衛隊らしい子たちも剣の方にいる。
ちらちらと俺の方を窺っているけれど、目立つから程々にした方がいいと思うよ、うん。
生徒たちが順番に的に向かって魔法を放つのを見ていて分かったことがある。
座学同様、現状は貴族の方が魔法を上手に扱うようだ。
学園に来て数カ月だからなぁ……。
ただ、それを思うと先ほどクルーブに食って掛かったユナは、中々の魔法の腕を持っているようだ。
特別階梯の高い魔法を扱っているわけではないけれど、安定感がある上に、それなりに魔法を使っても余裕がありそうだ。
少なくとも見栄を張って階梯の高い魔法を放ってだるそうにしている貴族の子よりは腕が立ちそうである。あれで治癒魔法も使えるっていうんだから、聖女の称号もあながち適当じゃないんだろうなぁ。
順番が回ってきた俺は、適当に魔法を放ってすぐに引っ込む。
僅かにも疲れていないが、わざわざこんなところで実力を披露しようとも思わなかった。
ヒューズは張り切っており、派手に魔法を使うつもりのようだったけれど、その辺はまぁ、勝手にやったらいいと思う。
殿下とかイス君とかが心配だし、一応剣の方も見ておこう。
俺は誰に断るでもなく場所を移動して、レーガン先生の元へと向かった。
去年コロナにかかってる頃に書いた文章