たぶん悪役貴族の俺が、天寿をまっとうするためにできること   作:嶋野夕陽

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あちらからのコンタクト

 ダンジョン見学は思っていたよりもずっと和やかに、そして滞りなく行われた。

 暴れだすのではないかと思われたアルフレッド君も、ぶすったれた顔をしながらも、三人の先生方がどうやって魔物《モンスター》を処理していくかを最前線で眺めていた。

 俺はと言うと、とっくに見慣れていたからあまり興味がなく、後ろの方を陣取ってダラダラとついて行っていた。

 こういう時って何かトラブルが起こるものじゃん?

 それを警戒して、殿下とゆかいな仲間たちの身を守るために参加したけど、はっきり言って拍子抜けだ。

 

 ついでに俺の周りにはヒューズとマリヴェルとイレインが集まっている。

 命の危機があると散々脅かされた生徒たちが、先生たちを見失わないよう、魔物に不意打ちをされないようびくびくしているおかげで、後ろにまで気が回らないらしい。

 時折俺の指先に触れながら歩くマリヴェルはにっこにこである。

 いつまでたっても子供だよなぁ、マリヴェルは。

 よほど一緒に遊べなかった期間が寂しかったらしい、ということにしておく。

 

「楽しいですか?」

「うん……!」

 

 あ、そー……。

 まぁ、いいんだけどね、かわいらしいし。

 

 ゆっくりと丸一日かけて2階までの探索。

 間抜けな子が一人転んでひざを擦りむいたくらいで、他には何の怪我もなくダンジョン見学会は終了することになった。

 ついてく必要なかったなぁ。

 

 そうして帰り道。

 今日もここの近くにある古い訓練場へ立ち寄ろうと、皆と別れて別方向へ進む。

 

「おい、待てよ」

 

 わかってたよ、着いてきてたのは。

 後ろから声をかけられて振り返ると、そこにはアルフレッド君がたっていた。

 この間の先生との立ち合いに文句でも言いに来たのかな?

 

「なんでしょうか?」

「お前、何で今日ずっと後ろにいたんだよ。ダンジョンに興味あるんじゃねぇの」

 

 お?

 なんか全然違う角度から攻めてきたな。

 ずっと前方に集中してたように見えたのに、意外と俺のいる位置とかきにしていたんだ。

 

「前の方は混みあっていたので。よく後ろにいるのに気づきましたね」

「お前、強いだろ。俺と同じだと思ったけど違うのか?」

 

 言葉足らずで何が言いたいかわからない。

 あまりコミュニケーションは得意でないらしい。

 

「同じというのは?」

「だから、もっと強くなるためにダンジョンに潜って訓練したいんじゃないのか?」

「どうしてそう思ったんです?」

「レーガン先生に実力を見せつけたのはそのためじゃないのか?」

「……実力を見せることと、ダンジョンに入ること、何の関係があるんです?」

 

 おやおやおや?

 思ったより子供っぽいぞ、アルフレッド君。

 聖女ユナちゃんとはだいぶタイプが違うようだ。

 

 俺が質問で返すことを繰り返すせいで頭をがりがりとかきむしっているから、短気なことには違いなさそうだけど。

 

「だから! 特別に許可がもらえるかもしれないだろ!」

「なるほど……。しかし僕はレーガン先生相手にかなり卑怯な手を使いましたよ? あれで認めてもらおうって言うのも虫のいい話だと思いますが」

 

 この際だからアルフレッド君の価値観とか人間性とかを確かめておくか。

 幸い近くに聖女ユナちゃんはいないようだし。

 

 あっちからコンタクトを取ってきてくれる機会なんて、これから先あるかどうかわからない。

 適当な古ぼけたベンチに腰を下ろすと、アルフレッド君も少し離れて座った。

 意外と付き合いがいいな。

 

「それでも俺よりはいい勝負をしてた。お前が俺より強いかどうかは別として、俺より相手を見る目はありそうだ」

「ものすごい形相で睨んでいたから、嫌われたかと思ってました」

 

 俺が笑って答えると、アルフレッド君はむっとした表情をした。

 

「なんだよ、お前も俺のこと見てたのかよ。それならなんか言えよな」

 

 うおっ、こいつ肩パンしてきた!

 四大伯爵家の跡取り息子の俺にむかって肩パンしてきたぞ!

 いや、そんなことで目くじら立てたりしないけどさ。

 

「なぁ、俺、どう見えた?」

 

 まだまだ子供だから仕方ないけど、相変わらず言葉が足りないなぁ。

 ま、大人な俺はそれをすべてくみ取って答えてあげようじゃないか。

 

「強かったですよ。作戦も悪くなかったですし、何より思い切りがいい。剣筋は荒いですけど、勢いと力強さがありました。この間の訓練場にいた中では、頭一つ抜けて強かったです」

 

 事実イス君とやりあったら、10回やって10回アルフレッド君が勝つだろう。

 俺は正直、最初の一件のせいで、アルフレッド君とユナ嬢のコンビにあまりいい印象を抱いていなかった。

 そんな俺から見ても、アルフレッド君の動きは良かった。

 粗削りながらも肉食獣が食い掛る様な、貴族の坊ちゃんでは出すことが難しそうな気迫があった。

 

 思い出して頷きながら横を向くと、アルフレッド君が目をかっぴらいて俺のことを見つめていた。

 なぁんか怖いんだよなぁ、顔が。

 でも変なことも言ってないし、怒っていないはずだ。

 黙って待っていると、アルフレッド君は目を逸らして口を開いた。

 

「……なぁ、お前名前なんて言うんだよ」

 

 知らないで話しかけてきたのかよ。

 

「ルーサーですよ、アルフレッド君」

「じゃあルーサー。お前ももっと強くなりたいだろ?」

「ええ、まぁ」

 

 確信を持って問いかけられると、嫌な予感がしてもノーと言いづらい。

 

「なぁ、今度ダンジョンいかないか?」

「……外のですよね?」

 

 アルフレッド君は俺の質問に答えずに続けた。

 

「命懸けで戦わないと、中々強くならないからな。……ここで素振りしてたってちっとも強くなった気がしない。なぁ、ダンジョン、行くだろ?」

 

 ああ、なんか入る方法が見当ついてるんだな。

 その連れ合いとして、俺はお眼鏡にかなったってわけだ。

 はっきり言って、悪くない気分だったけれど、ダンジョンに幾度も入ったことのある先輩として、言わなければいけないことがある。

 

「アルフレッド君。ダンジョンをよく知らないで入るのは良くありません。そんなに急がなくても、アルフレッド君くらいの実力があれば、来年くらいにはダンジョン探索も許可されると……」

 

 なだめるようにそこまで行ったところで、アルフレッド君は立ち上がった。

 ため息をついて首を振り、元来た方へと戻っていく。

 

「気が変わったら言えよ」

「アルフレッド君、妙なことはしないでください。死んだらそれで終わりですよ」

「うるさい、そんなこと知ってる! 俺は強くならなきゃいけないんだよ!」

 

 バッドコミュニケーションだ、怒らせてしまった。

 あー、相手の裏事情とかがわからないから、何が地雷か分かんないんだよなぁ。

 

 学園にあるダンジョンは、管理されていて勝手に入ることが出来ない。

 アルフレッド君がどんなに切望しようが、最終的にクルーブが許可しない限りは入ることが出来ないはずだ。

 

 えー……、俺、これをクルーブにチクらないといけないの?

 嫌だなぁ、そのポジション。

 俺、いいとこのボンボンの、すごく悪い奴みたいじゃんか……。

 立ち位置的にはそのものではあるんだけどさ。

 

「何か、怒っているようでしたけど」

 

 俺を怒鳴りつけて戻っていったアルフレッド君とすれ違いに、イレインがすました顔をしてやってきた。近くまでやってくるのを待って、横並びに歩く。

 

「どうやら彼、ダンジョンに潜り込む気らしいですよ。誘われました」

「実力が認められたということですか。仲良くなれてよかったですね」

「断りましたよ。怒っているの見たでしょう」

「断ったんですか?」

 

 なんでそんな呆れたような顔しているんだよ。

 そんな無茶するやつの誘いに乗るわけないだろうが。

 

「何ですかその不満そうな顔は。素直に受けて、どうやって侵入するか確認した方がよかったんじゃないですか、と言っているのですが」

 

 ああ、その手があったか。

 計画を聞いておけばいつ侵入するかもわかるし、現場でその手段を潰すことだってできた。面食らっていたせいで、全然そんなこと思いつかなかったな。でも、まぁ……、そんなことしたらアルフレッド君の怒りはこんなもんじゃすまなかっただろうな。

 学園生活中ずっと敵対されそう。

 

「……あまり敵を増やしても仕方ないかと思いまして」

 

 実は俺だってそれくらい考えてたもんね、の意。

 イレインは横目でじっとりと俺を見てから「そうですか?」と言ってきた。

 全然俺の言葉を信じていない模様です。

 

「どちらにせよ、今からでもクルーブ先生にお知らせした方がいいのでは?」

「ですよね……。今日は剣の訓練は諦めるしかないですか……」

 

 立ち止まってため息を吐くと、イレインが俺の肩にぽんと手を置いた。

 

「たまには休んだ方がいいのでは? 今日だってダンジョンに潜っているんですから、気付いてないだけで体は疲れているかもしれません」

「ダンジョンに入るのは慣れてますから」

 

 イレインは顔を寄せて小声でささやく。

 

「たまにはゆっくり休めって。ミーシャさんとアイリス様に、お前が無理しすぎないように見張っとくよう言われてんだよ。お前、結構疲れた顔してるぞ。何かあったら私たちのことちゃんと守ろうって、ダンジョンで結構気を張ってただろ」

「……まぁ、多少」

 

 何もないとわかっていても、近くに守りたい相手がいると結構疲れるものだ。

 アウダス先輩やクルーブになら背中を預けたっていいけれど、お子様連合に関しては、俺が守ってやらないといけないって思ってる。

 イレインとクルーブの三人で潜った時は、俺もまだクルーブにおんぶにだっこだったから気にしていなかったけれど、あの集団ではクルーブの次にダンジョンに詳しいのは俺だったのだから仕方ない。

 

「背負い過ぎだ。私は……殿下たちだって、ダンジョンの1階に出てくるような魔物《モンスター》にやられやしない。少しは信用しろ」

「分かってるって」

「とにかく今日は休めよ。私とお前の仲なんだ。頼りにならないかもしれないけど、困ったことがあったら言えよな」

 

 そんな真剣な顔するなよ。

 ちょっと嬉しくなっちゃうだろ。

 

「俺の第一目標は長生きすることだし、そんな心配しなくても大丈夫だって」

「どうだか。なんかお前、危なくなったらふらっと前に出て犠牲になりそうなんだよな。自分のせいで人が死ぬのって結構しんどいんだからやめろよ?」

 

 そういやこいつ、俺が死んだ瞬間目撃してるんだよな。

 結果こいつも死んでこの世界に来ちゃってるわけだから、完全に犬死でしかないけど。

 その時のことを思い出しているのか、イレインは沈痛な面持ちだ。

 ま、こいつ俺がその刺されて死んだ張本人だとは気づいていないけど。

 

「俺が死んだら気軽に喋れる相手がいなくなって寂しいもんなー?」

「そうだよ。だから無理すんな」

 

 ふざけて言ったことにさらっと真面目に答えられると、なんか俺の方が恥ずかしくなるんだけど……。

 なんだよ、まったく。

 これだから元ホストは油断ならないぜ。

 

 動揺している間に歩き出してしまったイレインを追いかけて横に並ぶ。

 

「クルーブ先生に報告をしたら、今日はゆっくり休むことにします」

「そうしてください」

 

 丁寧な言葉遣いに戻して、つかの間のリラックスタイム終了。

 長年続けてきたから息がつまるって程ではない。

 それでも俺たちがこうして二人だけの時に言葉を崩して話すのは、かつて生きていた自分のことを忘れたくないからなのかもしれない。

 性別すら変わってしまったイレインにしてみれば、なおさらだろうな。

 

「そういえばイレインは、この間のテスト、一番でしたね。おめでとうございます」

「やることもなく、真面目に勉強ばかりしているので」

「やっぱり今も王立研究所に興味が?」

「ええ、まぁ。ただ、私は隣国の人間なので、今となっては入れるかわかりませんが。努力は続けるつもりです」

 

 そうなんだよなぁ。

 結局イレインって曖昧になっている俺の許婚ってポジションから外れると、自動的にウォーレン家の役に立ちそうな誰かと結婚させられることになる。

 イレインはそう言った面でも、殿下の計画を何とか達成したいはずだ。

 

「大変ですね」

 

 いやぁ、イレインって、つくづく難易度の高い転生したよなぁ。

 

「他人事ですね」

 

 友人とはいえ我が身のことじゃないからな。

 

「……最後の手段としては、お約束通りルーサーに嫁ぐことも考えています。あなたも頑張ってください」

「……頑張りましょう」

「ええ、そうですね」

 

 うんうん、他人事とか良くないよな。

 俺も成長したら、できればちゃんと彼女とか作って結婚したいし。

 お互いのために頑張ろうな!

 

 

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