たぶん悪役貴族の俺が、天寿をまっとうするためにできること   作:嶋野夕陽

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歪なコンビ

 王国のみならず、世界全体に光臨教の教えは広がっている。

 なまじこれまでに、勇者やら聖女やらが役に立ったことがあるという実績があるせいで、完全に排除することは難しいのだ。

 だから国を運営するうえで大事なことは、光臨教を排除することではなくて、良からぬ教会勢力に政治への干渉をされないことになる。

 実際東にあるスルト帝国では教会の力はあまり大きくない。

 内紛が多い国なので、後継者争いの際にその中へ入り込もうとする教会勢力もいるようなのだが、味方に付く勢力を間違えて、現皇帝により残らず排除されたのだとか。

 

 それに習うのならば世代交代の際がチャンスなのだけれど、王国ではそこまでズバッと切り捨てることはできないだろう。何せ教育機関にまで食い込んでいるし、勇者を選定するためにこの学園が舞台になるくらいには、現状ずぶずぶなのだから。

 

 そんじゃあ逆に、アルフレッド君をダンジョンにいれるのはおかしな話じゃないだろう、とはならない。

 ここはあくまで王国の金で作った学園であり、主導権は王国にある。

 勝手に気を遣ってアルフレッド君を特別にダンジョンに連れて行ったとして、何かあった時、責任の所在がどうなるかって話になってくる。

 そこで勇者候補を失いでもした場合、王国は教会に大きな借りを作ることになってしまう。

 

 ごちゃごちゃと面倒な話だけれど、彼を合法的にあとくされなくダンジョンにいれるには、他の生徒と同じ扱いをしていれるか、教会が頭を下げてお願いしてくるしかないのだ。

 

 王国の面倒くさい貴族社会で生きていくと決めた俺でも面倒くさいと感じる煩雑さなのだから、騎士として剣を振るうことを考えてきたアウダス先輩がよくわからないのは仕方がない。

 

 そんなわけで夏休みに入って数日の間、俺たちは午前中は扉を見張る形で武器やら防具やらの仕分けと整備をし、午後には手合わせやら魔法の訓練をする時間を取るようにしていた。

 

 二日目には俺に付き合って学園に残っているイレインがやってきた。

 イレインの後ろに隠れるようにしてマリヴェルがついてきている。

 マリヴェルの方が背が高いのでちょっとはみ出してしまっているけれど。

 

「……生徒もあまり残ってないですし、のんびりしていってください」

 

 俺の言葉ににっこりと顔に花を咲かせたマリヴェルは、すぐ近くに腰を下ろし、作業を黙って見守り始めた。絶対面白くないと思うんだけどな。イレインのやつはこうなることを見越していたのか、本を開いて日陰で寛いでいる。

 

 三日目にはなぜかまだ学園にいた先輩方とイス君がやってきて、俺たちの手伝いを始めた。午後の訓練が充実するので、これは嬉しいことだ。

 

 四日目には隣国の皇子様であるメフト先輩がやってきて、広間の端で寝転がっている。いつも通りあの変人ばかりが集まるテラスで過ごせばいいものを、何をしにやってきたのだろうか。

 人前に出ると話しかけるなオーラが全開になるので俺は話しかけないけど、アウダス先輩は二言三言言葉を交わして戻ってくる。

 

「寮に誰もいなくなって耳が暇、だそうだ」

 

 わけのわからない理由だな。もしかして皆実家に帰ってしまって寂しかったんじゃないのか?

 そうだとしたら見た目に寄らず、可愛らしい性格をしている。

 

 それにしても連日ここに通っているけれど、武器の仕分けや調整は今日でほとんど終わってしまった。あとは鍛冶師に渡した武器が帰ってくるのを待つだけなので、ダンジョンの前にいる意味は、アルフレッド君を警戒するためだけになってしまった。

 

 耳寂しいうさぎちゃんのメフト先輩には悪いけれど、あと数日もしたら俺も家族の下へ顔を出すつもりである。

 

 夕暮れ時には学園が雇った警備の兵士と交代をして、俺たちは三々五々に散っていく。もう一人の勇者候補であるイス君には、同じ寮にいるアルフレッド君を気にしてもらっているけれど、今のところいつも通り、規則正しく訓練をしながら過ごしているそうだ。

 あれでかなり勤勉らしく、見習わないとと言ってイス君も張り切っていた。

 余計な役割を与えちゃって申し訳ないなーと思っていたけれど、いい影響を受けているのならまあいいか。

 

 そんなこんなで平和に数日を過ごしてきた俺は、翌朝早くに目を覚まし、体力づくりのランニングがてらぐるっと学園を一周。 朝早くのまだ少しだけ涼しい時間に、人がいない広く整備された道を走るのは結構気持ちがいい。

 最後には仕上げに、全力疾走でダンジョンの入口へ向かう。

 戦いには体力が必要だって言うのは、父上だけではなくクルーブも言っていることだ。

 

 あんなへらへらしている割に、クルーブも意外と体を鍛えている。

 結局は根性論が大事なんだなぁって。

 

 ダンジョン前へ着いた頃にはすっかり息も上がって、肩での呼吸をするようになっていた。それでもまだまだ地面にへばりつくほどではない。

 ゆっくりと呼吸を整えているうちに、俺は妙なことに気が付いた。

 いつもなら俺がついた段階で、兵士の人たちがやってきて声をかけてくれるのだが、今日は嫌に静かだ。

 

 辺りを見回してみても、夜間警備をしていてくれたはずの兵士が見当たらない。

 すぐさまダンジョンを守るための扉に駆け寄り力を籠める。

 

 あいた。

 あいてしまった。

 中をのぞくと、ロープで縛られ、猿ぐつわと目隠しをされた兵士が二人、床に転がされている。

 

 うわぁ……、誰が協力者か知らないけど、これ、完全に入ってるわ。

 しかも、朝まで帰ってきてないってことは、絶対中で何かトラブってるじゃん……。

 

 アルフレッド君、無事なんだろうか。

 そう思いながらも俺は、すぐにダンジョンに飛び込んだりせずに、兵士の拘束を解きながらクルーブがやってくるのを待つのであった。

 

 

 夏休みに入ったけれど、学園に残って生活する者もいくらかはいる。

 アルフレッドはその特例者の一人だった。

 表向きは教会に育てられたことになっているアルフレッドは、休みになったとしても帰る場所がない。彼が育てられた孤児院という名の勇者育成機関は、アルフレッドが独り立ちした時点で解体されてしまっているからだ。

 お金を持っているわけでもないので、教会の支援がなければ外で暮らすのは難しい。

 では長期休みの間だけでも探索者をすればいいじゃないか、という話だが、これも教会からは禁止されていた。無茶をするタイプの性格であることは見抜かれているし、育ちがあまり良くないので、トラブルをたくさん起こして一般民衆に良くない認知をされても困る。

 教会にとって学園は、アルフレッドをしかるべき時まで閉じ込める監獄のようなものである。

 

 とはいえ、アルフレッドの要望をすべて無視して、いざという時に言うことを聞かないというのも困る。そのため、聖女ユナを通してガス抜きのように願いをかなえるシステムを構築していた。

 

 学園内にあるダンジョンに潜り込むことも、その施策のうちの一つである。

 アルフレッドの迂闊な言動なせいで、思ったよりも警戒されてしまい実行が難しくなったが、一度できると言ったことを撤回すればアルフレッドの教会に対する不満は大きくなるだろう。

 何とかして一度だけでもという話で決行されたのが、今回のダンジョン潜入であった。

 

 警備の兵を昏倒させ、アルフレッドを先導するようにダンジョンに入り込んだのは、学園の剣術教師であるレーガンであった。

 元来生真面目な性格をしているレーガンは、この話を受けることに随分と悩んだのだが、交換条件があまりに魅力的すぎた。

 

 タイムリミットは朝日が昇るころまで。

 多少無理をしてでも強行突破すれば、5階にある墳墓型の階層くらいまでは行って帰ることくらいできる計算だった。

 実際は資料を見ただけなので細かいことがわからないので、5階の探索は適当なところで切り上げればいい。わがままな少年の自尊心を少しでも満たしてやれれば、その頃には言うことを聞いて帰るだろうと、レーガンは高をくくっていた。

 

 アルフレッドの腕は悪くなく、実際5階にたどり着く辺りまでは順調だった。

 

 アルフレッドはダンジョンに入る前からずっとレーガンの言うことに黙って従っていた。

 アルフレッドが協力者がレーガンであることを知ったのはつい昨日のことだ。

 自分でお願いした癖に、教師であるレーガンがそんなことをしていいのかという不信感から、やや警戒しながらのダンジョン探索だった。なにせアルフレッドは自分を育ててきた組織が、必要のないものを平気で殺すことを知っているからだ。

 自分はいずれ勇者になるのだから大丈夫なはずだが、少なくとも現状では自分よりレーガンの方が強いことも理解している。

 

 いざダンジョンに入ってからも警戒は続けていたが、やはりレーガンの剣の腕はいいし、少しでもアルフレッドの動きに良くない部分があれば、フォローし、落ち着いたところでそれを指摘する。

 アルフレッドは素直に返事こそしないけれど、次に同じようなことになった時、きちんと注意されたことを守って戦っている。

 そんな風に数時間一緒に過ごした結果、二人は互いの評価を少しずつ上方修正していった。

 

 結果、5階へ降りる前の休憩中、ようやく心を少し開いたアルフレッドがレーガンに話しかける。

 

「先生は、なんでこんなこと引き受けてくれたんだよ」

 

 レーガンはもともと余計なことを話すつもりもなかったし、ずっと警戒されていたのでアルフレッドからは嫌われているとばかり思っていた。だから話しかけられて一瞬パンをかじろうと動かした手を止めた。

 そうして、少しばかりシンパシーを覚え始めたアルフレッドに対して、レーガンは自分の事情を語る。

 

「……私は、強くなって国のために戦うことを生きがいとしてきた」

 

 呟いてからぱしりと、自分の怪我をした足を叩く。

 

「そう、思っていた。怪我をして騎士を続けることが難しくなった時、何をしたらいいのかを考えた。国のためになることは何だろうかと悩み、後進の育成をすることこそそれにあたるのではないかと教師になった。……だがどうやら違ったようだ」

「どういうことだよ」

「……私は、もっと強くなりたかっただけだった。強くなることが楽しかっただけだった。国のために強くなるのではなく、強くなるために国で働いていたのだ。だから、この足を治したい。君に協力すれば、教会は優先的に治癒魔法使いを私に回してくれるとのことだ」

「……そうかよ」

 

 何かもっと、使命だとか、約束だとか、そんなものが飛び出してくることを期待していたアルフレッドは、少しだけがっかりした。がっかりした自分の気持ちもよく理解できなかったが、自分とは少し違うと思ったからだ。

 死んでいった友人に託されたから。守らなければいけないものがいるから。

 傍から見ればどちらもただの我がままでしかないけれど、アルフレッドにとっては、レーガンの理由は自分とは似て非なるものに聞こえたのだ

 

 軽食を飲み込み立ち上がったレーガンは、剣を杖に立ち上がると、足を引きずって階段を下り始める。

 

「君も強くなりたいんだろう? 私たちは似た者同士なのかもしれないね」

 

 レーガンの言葉に、アルフレッドは返事をすることが出来なかった。

 

 

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