また、穢土転生の術か。
「……先生、起きてください」
千手扉間は死んだはずの自分に意識があるという違和感に気づき、飛び起きる。
体に穢土転生特有の縛りは感じられない。
今ならば術者の、声からして女を始末できる。
すかさず、距離を詰め必殺の一撃を叩きこもうとして。
「ト、トビラマ先生…?」
(チャクラが練れぬ…!?)
自らの体内にあるはずのチャクラが練れないことに気づき、攻撃の予定を変更し即座に術者と思わしき女から距離を取る。
(チャクラを封じて爆弾として使うつもりか? いや、それならば体の主導権は渡さん。そうなると、ワシの持つ情報が目当てか? だが、ワシならばそれこそ質問に答える機能だけにする)
情報が足りない。現状を把握するには、情報が必要だ。
扉間は、鋭いまなざしで術者と思わしき女を見る。
「あの……如何なされましたか?」
黒く長い髪に青い瞳。白い服装に、凛とした佇まい。
それに若い見た目に反して、貫禄と落ち着きを感じる女。
だが、それだけだ。
「……状況を説明してもらおう」
「何か悪夢でも見られていたのでしょうか? では、改めて今の状況をお伝えします」
命のやり取りを生業としているような、鋭さは感じられない。
何より、扉間からすれば隙だらけだ。
術の使えない現状を考えても、今の間に数回は殺せている。脅威たり得ない。
故に扉間は会話で情報を得ることを選択する。
「私は
「学園都市『キヴォトス』? 名前より察するに学校が集まった都市という事か」
「はい。トビラマ先生には、キヴォトスで先生として働いてもらうことになります」
「何故、ワシを教師に? 曲がりなりにも学校には縁がある身ではあるが」
扉間は生前、兄の柱間と共に木ノ葉隠れの里の
子ども達が酒の味も覚えられぬうちに死なぬように、亡き弟達のように死なないように。
大人になるまで成長できる場所を、無理な任務を受けないようにランク分けを。
そんな柱間の夢を叶えるために、粉骨砕身した身である故にほんの少しだけ警戒を緩めて話を聞く。
「それは……すみません。私もトビラマ先生がここに来た経緯を詳しくは知らないのです。全ては連邦生徒会長がお決めになられたことですので」
(連邦生徒会長……こやつの上司か。そして、幹部を無視して独断が許される決定権の強さから考えてキヴォトスにおいても、それ相応の地位のものだろう。何より)
扉間の脳裏に過るのは、うっすらと残る先程まで見ていた夢の記憶。
目の前にいるリンとも違う、女。
穢土転生の術者かとも思ったが、どうも状況から見て違うらしい。
それに、こっそりと穢土転生の解を行ったが何の変化もないので、術の影響はないと言える。
「ですが、トビラマ先生にやって頂くことは決まっております。連邦捜査部『シャーレ』の担当顧問、『先生』となって、学園における問題を解決して欲しいのです」
「ふむ……具体的には、どのようなことをするのだ?」
「生徒達からの個人的な依頼。または、学園や連邦生徒会としての依頼。さらには不良達等の制圧のための戦闘。そして、それらを解決するために、キヴォトスに存在する全ての生徒達の勧誘を可能とし、また、各学園の自治区で制約無しに戦闘活動を行うことが出来る超法的機関がシャーレになります」
破格の権限だな、と扉間は内心でそう呟く。
ここが火の国だとすれば、それこそ火影並みの権限である。
依頼を受けるというのもどことなく、忍を思い出す。
因みに、現代人であれば不良の制圧という言葉に引っかかるだろうが、扉間は気にも止めない。
彼の生きていた時代ならば、殺し合いなど日常茶飯事である。
「なるほど……良く分かった。ところでだが」
「はい?」
なぜ自分がここに呼び出されたのかは分かった。
どういう風にして、黄泉から呼び戻されたのか、それとも前世などの記憶として蘇ったのかは分からないが、情報としては十分だろう。
しかしながら、リンは一点だけクリアしていない項目があることに気づいていない。
「―――ワシがそれを断ると言った場合どうする?」
扉間が断る可能性があることに。
「………え? あ、あの……勿論、無給という訳ではありません」
「だが、任命というのならばワシにも拒否権はある」
「で、ですが、連邦生徒会長はおっしゃられていたのです」
「ほぉ、なんとだ?」
威圧感を醸し出しながら、リンを問い詰める。
少々大人げないと思うが、相手の出方を窺う上ではこちらが上に立つのは有効だ。
さて、どういった返答をするのか。
二枚舌の返事か? 大人びた玉虫色の言葉か? それとも。
「先生は―――信じられる大人であると」
里の者は皆、家族だ。
扉間がふと、思い出したのはそんな火影としての矜持。
火影とは里の父であり、母である。
そして、里の子はみな火影の子も同然。
「フッ……」
そうだ。子供が大人を頼るのは当然のことだ。
当然のことでなければならない。大人より早く強くなり、大人より先に死ぬ。
そんな、無意味で悲しみだけが残る行為に嫌気がさしたのが、柱間であり、扉間であり、マダラだ。
(兄者なら……二つ返事で受けただろうな)
ふざけるなと、俺の弟は死なせないと。
そうした、世界への怒りこそが原点だった。
そして、いつも自分は兄に守られてきた。
ならば、自分がその原点を忘れるわけにはいかないだろう。
「すまんな、年を取ると若者をからかうのが楽しくなるのだ」
「そ、そうですか」
「別にお前を嫌っているわけではない」
分からないことは多い。それを放置する気もない。
だが、大人として子供に頼られたのなら、応えてやらねばならないだろう。
仮にここに居るのが柱間ならそうする。
原因が穢土転生だとしても、さっさと解いてあの世に帰るだけなのだ。
原因を究明する間に、少しぐらい手伝ってやってもいい。
「いいだろう。このワシ、千手扉間が――」
キヴォトス全域の先生。
それは木ノ葉隠れの里全ての父だった火影と変わらない。
子ども達を愛し、誰よりも前に立って導く。
「―――シャーレの先生を務めてやろう」
それが―――
「ユウカよ。不良共は殺した方がよいか? もしくは、捕らえて拷問して情報を吐かせるか?」
「え!? い、いや、そこまでしなくても……ほら、気絶させて矯正局に送れば良いですし」
「ふむ、そうか。ならば、それに応じた指示を出す。皆、ワシの指示に従ってくれ」
不良達に占拠されたシャーレやサンクトゥムタワーを取り戻すために、扉間は連邦生徒会に文句を言いに来ていた生徒達と共に市街地で戦闘を行っていた。そして、物騒な提案を当たり前のようにしてドン引きされていた。
(これほどの武力騒動を起こしても処刑にはせぬのか……良き世の中になったものだな)
だというのに、当の本人の頭の中は平和だなぁという感想を抱いているだけだ。
不良共が銃を乱射して、建物を占拠する。
言葉にすれば、どこの世紀末だと言いたくなるようなことでも、命の取り合いがないのならば扉間にとっては、ほのぼの空間である。
(だが、これだけワシが生きていたころと技術的にも常識的にも違いがあると、誤魔化すのも厳しいな。今はキヴォトスに今日来たばかりという理由で何とか誤魔化せているが、早く、違和感なくこの時代に溶け込めるようにしなければ)
因みに彼が生きていたころに、仮に里で武力騒動が起きていたらこうなる。
まずは、2人程捕らえる。そして、捕らえた相手の片方を殺して、もう片方を生贄に穢土転生。
裏にいる存在などの情報を洗いざらい吐かせる。
その後は、敵陣に送り返して互乗起爆札or飛雷神の術で柱間の殴り込みだ。
1人たりとも生かして返す気などない。
(しかし、チャクラが練れない……いや、ここまでくれば世界にチャクラが存在しないとみるべきか? ともかく、ワシが直接戦えんのは痛いな。銃は一度使ってみたいが、訓練も無しに使っても足を引っ張るだけだ。せめて手裏剣でもあれば、援護は出来たのだが)
だが、安心して欲しい。現在の扉間は忍術が使えない。
そのため、超人的な動きは出来ないので、戦力外だ。
もっとも。
「す、凄い…! 指示が異常なまでに的確で早い」
「はい、こんなにもスムーズに戦えたのは初めてです。まるで相手の心を読んでいるようです」
「あの、先生はもしかして、どこかの軍隊にでも勤めていらっしゃったのでしょうか?」
その頭脳と培われた歴戦の戦術勘は、十分過ぎる程に役に立った。
忍術は使えないし、人間が軽率に空を跳んだり出来ない。
チャクラが無いと人間は余りにも弱い。
だが、その分地形は基本的に変わらないし、突然森が発生したり、それが火の海に変わったりもしない。
そして、どういう訳か生徒達は一般の忍よりも硬い。恐らく、クナイ程度なら軽傷だろう。
どこぞの忍の神の横で戦い続けた扉間からすれば、地図が変わらないので戦況把握はむしろやりやすかったし、子供達が頑丈なので安心して指示が出せる。
「軍隊か……似たようなものの長はしておったな」
「やっぱり、そうなんですね、すごいです」
彼女達は忍者を知らない。
もしくは、随分と違う形になっているのだろう。
そのことに思うことがないわけではないが、さほど気にすることではない。
(いつの世も争いか……ここでは、まだ生き死にが少ないだけマシだが、どこも変わらんな)
人が力を持ち、それを振るう。
時代が、世界が違えどそこは変わらない。
そして、それが生み出す悲しみも。
「リン、近くに他の敵は残っているか?」
「いえ、今の戦闘でほぼ壊滅。残りも逃げ出しています」
「今回の首謀者であるワカモという者は?」
「恐らくですが、不良共を囮にして逃げ出したものかと」
「なるほど……あくまでも扇動者であって、長ではないか」
リンからの報告を受け、扉間は小さく溜息を吐く。
これが、集団としてまとまった敵ならば、壊滅のダメージでしばらくは動けないだろう。
しかし、不良共を纏めて扇動するだけの存在が敵ならば、話は違う。
頭を叩かねば、不良を煽って何度でも復活するのだ。
まるで幻術。2代目水影と戦っているような、うんざりとした気持ちになる。
まあ相手からすれば、お前の穢土転生の方がよっぽどうんざりだよ、と抗議が届くだろうが。
「こちらで捜索しましょうか?」
「いや、構わん。今は塔の確保が先だ」
「分かりました、それでは先に中にお入りください」
だが、考えていても逃げられたものは仕方ない。
深追いすれば、伏兵に思わぬ傷を負わされる可能性もある。
そう、結論付けて扉間は部室へと足を進めて行くのだった。
「ウフフフ、本当に素早い進軍……中に入ってたら本当に捕まってたかもしれませんわね」
自分達を陰から見つめる存在に気づくことなく。
『シッテムの箱』にようこそ、トビラマ先生。
生体認証及び認証作成のため、メインオペレートシステムA.R.O.N.Aに変換します。
「これは……時空間忍術の空間のようなものか?」
取り戻した建物にて、連邦生徒会長が残したタブレット端末、『シッテムの箱』。
パスワードを入力して、仮想空間らしきものに飛ばされた扉間は、教室のような場所に来ていた。
「むにゃ……カステラ…バナナミルク…もう食べられない……」
(敵…? いや、ワシがいつでも首をへし折れる距離に居るのに、何の反応も見せないのはただの子供か?)
そして、机の上で居眠りする透き通るように青い髪の幼女を前に困惑していた。
何かが起こると思って身構えていたのに、相手は居眠りなのだ。
それは困惑するだろう。
(……綱手を思い出すな)
叩き起こすべきかと思案しつつ、兄の孫である綱手を思い出す。
穢土転生された後にも顔岩も見たが、やはり生前に見た子供らしい姿の方が印象に残っている。
(兄者のバカが賭け事を教えたせいで、一時はどうなることかと思ったが立派に育っておったな)
扉間はもう一度辺りを見渡す。
敵は居ない。危険もない。シャーレの塔も占拠後なので、しばらくは何事もないだろう。
そう結論付けて、扉間は教室の壁にもたれかかる。
(……どうせワシは死んだ身。時間は幾らでもある。起きるまで待ってやるとするか)
そして、扉間も静かに目を閉じるのだった。
「……んん……ふぁ…よく寝たぁ」
ゴシゴシと目をこすり、大きな伸びと大きな欠伸。
幼女が目を覚ましたのは、扉間が来てから1時間程が経ってからだった。
「起きたか? 随分と寝ていたようだが、夜に寝られなくなってもワシは知らんぞ」
「え? えぇーッ!? トビラマ先生!?」
「ワシの名前が分かるのか? となると、最初からワシが使うものとして作られているのか、これは」
そして、起きると同時に強面のおっさんが目の前にいることにビクッとする。
ついで、強面のおっさんが先生であることを理解して、自分の不手際を悟る。
この間、扉間はいつものポーカーフェイスで立っているが、内心では微笑ましく幼女を見ている。
まあ、全く伝わっていないが。
「と、とにかく、自己紹介しないとですね! 私はアロナ。この『シッテムの箱』に常駐しているシステムの管理者であり、メインOS。そして、これからトビラマ先生をアシストする秘書です!」
「秘書か……子供は子供らしく遊んでおいていいのだが。仕事など、大人になってからすればよい」
「え!? だ、ダメです! これが私のお仕事なんですから! えっと、そうだ!」
子どもは子どもらしく、仕事なんてするな。
そんな趣旨の発言に、慌てて自分の役割をアピールするアロナ。
もちろん、人間ではないのでアロナの言い分の方が正しいのだが、居眠りをする姿を見た扉間からすれば、単なる子ども扱いも当然である。
「今から生体認証を行いますので、私の指に先生の指を当ててください!」
(生体認証……口寄せ契約のようなものか?)
指、つまりは指紋を確認するのだと認識した扉間は、口寄せの感覚で指を嚙み血を流そうとする。
血判の用意である。
「えっと……トビラマ先生何をしているんですか?」
「む? 血が必要ではないのか?」
「ええっ!? だ、大丈夫です! 必要なのは指紋だけです! DNA情報までは要りません!」
「そうか、すまんな」
そして、おっかなびっくり行われる生体認証。
アロナはちょっぴり怯えているのと、本当は指紋がよく見えないのダブルパンチで、最先端の機械よりも大分時間がかかったが、扉間にはそれが速いか遅いか判断できないので、何とか気づかれずにすむ。
(……指紋による個人の識別か。確かにこれならば、ワシ以外にはシッテムの箱を使用できん。防犯対策としては十分……いや、待て)
しかし、その時間は扉間に思考する時間を与えてしまった。
故に、扉間は考えた。自分ならば、どうやってこのシステムを突破するかを。
「アロナよ」
「はい、なんでしょうか? トビラマ先生」
「このシステム。ワシを拷問してパスワードを吐き出させた後に、指を切り取って使えばワシ以外の人間にも使用できるのではないか?」
「急に怖いことを言わないでくださいよぉ!?」
スプラッタな状況を想像して、半ベソをかき始めるアロナ。
内心少し慌てながら、アロナをあやしつつ扉間は思う。
(指を切り取る程度の想像で泣くとは……やはり、この時代は平穏なのだな)
これがジェネレーションギャップかと。
Q:どうして忍術が使えないんですか?
A:頭脳だけでも大概なのに、忍術も出来たら物語が始まらないから。
例:敵に囲まれてピンチ→ワシは飛雷神で帰る。
Q:なんで扉間は普通に現代社会に適応してるの?
A:忍者なので違和感なく相手に溶け込む潜入捜査はお手の物。
タブレット操作? 兄者なら使えずにオロオロする姿が思い浮かぶけど、扉間は余裕で使いこなしているイメージしか出来ない。
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