千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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10話:一件落着

 

「ま、待ってください。あなたには決して拒めないであろう提案を1つ…!」

「黙れ! 生徒の安否以上に大切なことなどない」

 

 お気に入りの映画のセリフを吐く黒服の男をガン無視して、速足で歩く扉間。

 仕方がないので、黒服の方も小走りしながら付いて行く。

 先程の得体の知れなさはどこに行ったのだろうか?

 今ではすっかり情けない営業マンの雰囲気を醸し出している。

 

「その生徒達に関係することなのです。すでにお気づきでしょうが、あなたの生徒達は現在マーケットガードとPMCに囲まれています。純粋な戦力で考えれば間違いなく殺されるでしょう」

 

 出来る限り、深刻な感じにしようとしている黒服だが早歩きをしているため、若干息が切れている。もしかすると、日頃の運動が足りていないのかもしれない。

 

「これは取引です。あなたの持つカイザーローンの不正のデータ。そして……いえ、今はこれだけでいいでしょう。それを消去してもらえれば生徒達の身の安全は保障します」

 

 本当は、小鳥遊ホシノの身柄をこちらに渡せも付け加えたかったが、生徒の安全を第一に考える先生にそれを言えば、交渉が成立しないことはバカでも分かる。助けると嘘を言った後に生徒を拘束して、うまい具合にホシノに自分の身柄1つで他の生徒は解放すると取引を持ち掛けるのが一番。そう判断して、黒服は取り敢えずカイザー理事に頼まれた分の取引を持ち掛ける。

 

 だが。

 

 

「ワシは昔の活劇映画の悪役ではない。貴様らに妨害される危険が少しでもあるのなら、これほど重要な情報を無防備に持ち続けると思うか? 35分前にリークした」

 

 

 交渉は大前提から崩れ去る。

 

「既に連邦生徒会は動き出しておる。その交渉とやらは、はなから成立せんのだ」

「………なるほど。では、こちらとしても生徒を助ける理由はなくなりましたね」

 

 衝撃で、思わず足を止めそうになる黒服だったが、気合を入れなおす。

 そもそも、黒服にとってカイザーの不祥事は本来どうでもいいことだ。

 手を組んではいるが、別に味方ではない。

 情報がリークされることに問題はないのだ。

 

「故に急いでおるのだ。貴様の話を聞く理由はない」

「ククク……確かに、私がカイザーグループの者ならあなたとのこれ以上の会話に益はない。ですが、私は彼らとは別の存在。そして、別の目的があります」

 

 ならば、ここで本命の交渉に移ってもいいだろう。

 黒服は小走りしながら、語り掛ける。そろそろ、息切れを堪えるのも辛くなってきた。

 

「小鳥遊ホシノの身柄をこちらに譲っていただければ、他の生徒は無傷でお返ししましょう。ええ、御心配なさらずとも小鳥遊ホシノの命も保証します。ただ、我々が行う神秘の研究に力を貸して頂きたいだけです」

 

 嘘は言っていない。

 神秘の研究に力を貸してもらう以外の理由は無し。

 貴重なサンプルなので殺すような、馬鹿な真似もしない。

 ただ、モルモットのように飼い殺しにするだけだ。

 

「さあ、どうでしょうか――」

 

『先生! あちらで戦闘が開始しました、急いでください!』

「了解した、アヤネ」

 

 アヤネからの通信に頷き、黒服の言葉を無視して駆け出す扉間。

 慌てて自分も走り出す、黒服。もはやコントである。

 

「よ、よろしいんですか? こ、このままでは、本当にあなたの生徒達が…!」

『先生、そちらの方はどなたですか?』

「知らん。お前は、あちらの方の援護に向かえ」

 

 必死に脅そうとするが、もう無理である。

 アヤネからも不自然な目は向けられるが、敵に向ける目はされていない。

 

「た、小鳥遊ホシノさえ、て、手に入れば他の生徒は……死なずに」

「馬鹿か貴様は? そんなにホシノが必要なら、ホシノ以外を皆殺しにして攫えばいいだけだろう。交渉に割く時間が無駄だ。ワシならそうする」

 

 あれ? どっちが悪役だったっけ?

 そんな会話をしながら、扉間と黒服は仲良く追いかけっこをする。

 主人公とヒロインの追いかけっこならともかく、おっさん同士の追いかけっことか誰得だろうか?

 

「あ、あなたは…ぜぇ……先生ではないのですか…?」

 

 走りながらの会話には慣れていないのか、息を切らす黒服。

 

「故に走っておるのだ。考えられる最悪の結末を避けるためにな」

 

 忍者なので平然と走りながら話す扉間。

 

「そもそも研究という以上は、非人道的な行いをするのが前提だろう? 解剖しての脳波の分析。痛みや苦痛を与えることでの変化の観察。変化した力がどれほどのものかの理解。そして、それが他の者にも同様に現れる症状なのか確認するために、別の生徒も使っての人体実験。ワシでもこの程度のことは試すぞ?」

 

 思わず、自分のことを棚に上げてドン引きしてしまう黒服。

 マダラの死体を研究のために、処分せずに隠した男は格が違う。

 というか、どうやって写輪眼の発現条件を調べたのだろうか。

 まさか、生きたままのうちはを解剖したんじゃないですよね?

 

「貴様の提案とやらには無駄が多すぎる。こちらにメリットが多いように感じる提案など基本詐欺だ。ホシノを以前から勧誘していたのは貴様だな? どうせ、何か裏があるのだろう」

 

 相手側から提案されたもので、自分の方だけ儲かるなど、余程のことがなければ詐欺だ。

 真っ当な交渉でも6:4で提案した側が有利。良くても5分5分だ。

 相手の方がちょっとしか儲からない。自分にリスクがない。

 そういったものに飛びつくと詐欺にあうのだ。セリカのように。

 

「ククク…ハァ…ハァ……お見事です、先生。これでは……ほ、本当に、つけ入る隙がありません…ね……ッ」

 

 これはもう無理だろう。

 どう考えても、扉間はこちらの交渉に乗る人間ではない。

 ホシノを強引に手に入れれば、また話は変わるだろうが、それは自分のスタンスにそぐわない。

 ここいらが潮時だ。体力的にも。

 

 

「それでは、先生。いずれまた会いましょう。美味しいお茶とお菓子を用意して待っています」

 

 

 荒れる呼吸を気合で抑えつけて、精一杯のカッコつけを行う、黒服。

 これで少しはゲマトリアとしての格を保てただろう。と考える。

 

「アヤネ、後少しで現場に着く。状況はどうなっている?」

『乱戦状態です! すぐに指示の方をお願いします、先生!』

「分かった」

 

 まあ、扉間の方は全く耳を傾けていなかったのだが。

 

「フ……フフ…ゲホ! ゴホッ…ハァ…ハァ……」

 

 そんな悲しい現実を覆い隠す様に、黒服は怪し気に笑おうとするが、荒い息を抑えていた反動で思わずせき込んでしまうのだった。

 

 

 

 

 

 生徒達の動きが変わった。

 戦況を見つめていたカイザー理事はハッキリとそれを感じ取る。

 

 今までは1人1人が強力ではあるが、どこかバラバラな印象を受けていた。

 だが、突如として集団は1つの個として―――軍となって動き始めた。

 まるで、手足しかなかった人間に頭が装着されたように。

 

「一体何が…?」

 

 そう、口に出してはみるが心の中では分かっていた。

 ()()()()()()()

 

「何をしている! たった10人以下のガキ共を何故捕えられん!?」

「し、しかし、ただでさえ強力な生徒を捕まえて人質にするとなると殺す以上に難しく……」

「ならば、数人ほど()()! 良い見せしめになるだろう!」

「は、はい!」

 

 心の焦りは冷静な思考を奪い去る。

 子供を殺すという最後のラインを踏み越えてしまう。

 その先にあるのは地雷原だというのに。

 

「私の可愛い後輩を殺すかー……おじさん、ちょっと本気だすね」

「誰が死んでやるもんですか! バカ! アホ! マヌケ! ええと…バーカッ!!」

 

 普段の柔らかさが消えて、切れたナイフのような鋭い眼光になる、ホシノ。

 ちょっと涙目になりながらも、反骨心は失うことなくカイザー理事を煽る、アル。

 罵倒のバリエーションが少ないのはご愛敬である。

 

「……殺してやるぞ、陸八魔アル」

 

 だが、それが逆に余計に馬鹿にされているように感じたのか、カイザー理事の頭は怒りで沸騰する。見たか、これが便利屋最強の挑発術だ。

 

「だから、なんで私だけなのよ!? て、危なッ!? お金の入ったバッグに()()()()()()じゃない! 反則だわ!!」

「社長、叫んでる暇があったら少しでも敵を撃って」

「うん、見敵必殺」

 

 アルが1億円の入ったカバンを持ちながらギャーギャーと騒いでいる横では、カヨコとシロコが兵士達を丁寧に潰していっている。

 先程まで人数で押されて、弾薬の補充が間に合わなかったような状況とは違う。

 彼女達のバックに協力者が現れた証拠だ。

 

「許さない許さない許さない! アル様を殺すなんて許さない!!」

「殺すなんてメッ、ですよー」

 

 戦車や盾持ちのオートマタが、ハルカとノノミのショットガンやガトリングで破壊されて行く。

 

「誰があんたみたいな奴に殺されてやるもんか! 死んでも呪ってやる!!」

「いいねー、人を呪わば穴二つってやつ?」

 

 セリカが憤怒の形相で突撃をかます。

 その横ではムツキが笑いながら、援護を行う。

 

「ここまで来たら、もうやるしかないです! ペロロ様グッズを無事に持ち帰るために!」

『みなさん、回復は任せてください』

 

 そして、ヒフミとアヤネがツッコんでいく仲間のフォローを行う。

 

「…くッ! このままでは……」

 

 一歩、また一歩と死神達(せいと)が近づいてくる。

 このままでは、こちらの方が殺されかねない。

 そう、感じ取ったカイザー理事はゆっくりと後退りをしていく。

 

「貴様はここで囮になれ! 私は逃げる!!」

「え!? お、お待ちを!」

「あ! 逃げた!」

 

 そして、距離を取ると同時に一気に駆け出していく。

 この状態では、敗北は免れない。

 そして、情報のリークを防ぐことも出来ない。

 だとすれば、自分の立場は容易く奪われるだろう。

 所謂、しっぽ切りだ。

 

「待ちなさい!!」

(だが…! 生きていれば…生きてさえいれば! 私は挽回できる!!)

 

 しかし、カイザー理事は諦めない。

 元々、上昇志向の高いカイザーグループの人間。

 下から這い上がることには慣れている。

 

 生きてさえいれば、生きてさえいれば、何度でもやり直せる。

 

 その考えの下に、カイザー理事はブラックマーケットの中を疾走していく。

 出来るだけ見つかり辛い細い道を通り、ゴミに塗れながらも逃げる。

 全ては、いつの日にか再起するために――

 

 

「部下を囮に自分だけ逃げだすとは……生き恥を晒したな」

 

 

 ドンと、何者かにぶつかりカイザー理事は尻もちをつく。

 そんなカイザー理事を冷たく見下ろす赤い瞳。

 

「トビ…ラマ…!?」

 

 突如として現れた恐怖の象徴に、腰を抜かしながらもカイザー理事は銃を手に取る。

 だが。

 

 

「やめておけ、若造。そんな銃はワシには効かん」

『やめてください、理事さん。その銃は私に効きます。やめてください』

 

 扉間に銃は効かない。

 妙な忍術で防がれてしまうことを思い出し、引き金を引くのを止める。

 

「な、何の用だ…?」

「貴様は交渉相手として見ていたのだが……生徒に危害を加える貴様の考えは目に余る」

 

 抑揚も、温もりも無い、酷く冷淡な声。

 一歩、扉間が近づく。

 カイザー理事は、怯えて尻もちをついたまま後ろに下がる。

 

「く、来るな!? 私がその気になればアビドスの利子を跳ね上げることも出来るのだぞ!?」

「貴様が、この場を生きて切り抜けられれば……の話だがな」

「や、やめろ!? 許してくれ! 私が悪かった!! そうだ! 私を逃がしてくれるのならアビドスの借金をチャラにしてやろう!」

 

 必死に命乞いをするカイザー理事にも、扉間の目は何の色も映さない。

 無様だなと、嘲笑することすらしない。

 既に物言わぬ死体としか見ていないのだ。

 

「散々子供達をオモチャにしてきた貴様に何を言われても響かん。と、言いたいところだが」

 

 しかし、そこで扉間はフッと人当たりのいい笑顔を浮かべる。

 

「お前の持つ情報を言うのならば、()()()逃がしてやらんこともない」

「情報…?」

「ああ、そうだ。貴様に聞きたいことが2つある」

 

 光明が見えたと、目を輝かせるカイザー理事。

 そんなカイザー理事に対して、扉間は質問を投げかける。

 

「1つ目は黒服姿の男についてだ。奴らは何者だ? 貴様の協力者だったのだろう」

 

 それは先程出会った黒服の事。

 扉間にとっての謎の存在。そして、カイザーとの対等以上の協力者。

 そんな人間の情報を欲したのだ。

 ちゃんと、落ち着いて会話していれば黒服の方から教えてくれただろうが、そこは気にしない。

 

「……奴は『ゲマトリア』というキヴォトスの外から来た組織の人間だ」

「ゲマトリア? 目的は?」

「私も組織そのものについては詳しくは知らない。だが、黒服は小鳥遊ホシノの身柄を神秘の研究のために欲しいと言っていた」

 

 ホシノの件は事前に黒服本人から聞いた通り。

 ゲマトリアの目的自体は、不明だが協力者でしかなかったカイザー理事が知らなくともおかしくはない。

 

「では、2つ目の質問だ。アビドス自治区を買い取っていった()()()()()は何だ?」

 

 そして、2つ目の質問。

 アビドス自治区を買い取った理由についてだ。

 

「……カイザーグループの学校を作ると前に言ったはずだが?」

「ああ、それも嘘ではないのだろう。だが、ワシも以前に言ったはずだ。貴様は何者かに急かされていると。上が学校を作るのを急かしてるのかとも思ったが、そうなると1つ疑問が湧く」

 

 カイザーグループによる軍事学校の設立。

 きっと、それも嘘ではないのだろう。キヴォトスにおいて学校の持つ影響力は計り知れない。

 作ることには疑いがない。

 ただ、そこで1つ不審な点が出てくる。

 

「何故、貴様はアビドス自治区の()()を欲したのだ?」

「何を……」

「言い方を変えてやろう。何故、すでに所持している土地に軍事学校を建てていないのだ?」

 

 そう。どうして、カイザーは未だに学校を建てていないのかだ。

 

「残されたアビドス自治区は学校のみ。別に今学校のある場所にしか新しく学校を作れないという法はない。だというのに、貴様はアビドスの全てを手に入れようとしている。上から急かされている状況だというのに」

 

 カイザー理事の顔が青くなる。

 そうだ。今ある土地に学校を作ればいいだけの話なのだ。

 もちろん、アビドス高等学校は邪魔にはなるが、それこそ周りを軍事学校化してから潰して問題ない。

 なんなら、吸収合併という手すらある。

 だというのに、カイザー理事はアビドスの全てを手に入れることに拘った。

 まるで。

 

 

「カイザーグループ。貴様らはアビドスの地に―――()()()()()()?」

 

 

 本当の目的は、アビドスという土地そのものだとでも言うように。

 

「………この地に眠る宝物を探すためだ」

「宝だと? なんだそれは?」

「私にも詳しくは伝えられていない」

「どの指が必要ない? 言ってみろ」

「ほ、本当だ! 本当に私は知らない!! 私の上しか知らないのだ!?」

 

 嘘をつくんじゃないと、扉間がポキポキと指を鳴らすとカイザー理事は必死に首を振る。

 ボキボキと自分の指を逆方向に鳴らされるわけにはいかないのだ。

 

(嘘か、本当か……穢土転生があればこの程度すぐに分かるというのに、もどかしいものだ)

 

 真贋を見極めたいが、単なる拷問では嘘をつかれる可能性もある。

 また、仮に本当のことだとしても、複数の証言がなければ確定とは言い切れない。

 その点、穢土転生は完璧だ。

 

 死人に嘘を言わせずに喋らせることが出来るので、情報が正確。

 コストもそこら辺に居る敵兵1人で済むのでお手軽。

 情報収集においてこれより優れた術はない。

 しかも、爆弾にして相手に返せばお釣りも返ってくる優れもの。

 

 倫理感さえ無視をすれば、完璧な情報収集手段である。

 

「まあ、いいだろう。少なくとも、貴様が否定しない以上、学校を作ること以外に目的があるのは分かったのだ。これから調べればいい」

「な、ならば、見逃してくれるのか?」

「ああ、嘘は言わん。()()()見逃してやる……()()()()?」

 

 ザッザッと、集団が地面を踏みしめる音がする。

 カイザー理事の顔から血の気が引く。

 

「だが、こ奴らが見逃すかな?」

 

 現れたのは9人の生徒。

 便利屋68に対策委員会、そしてトリニティの代表っぽくなっているヒフミ。

 

「年貢の納め時ってやつかしら、元クライアント?」

「トビラマァ!? この卑怯者が!!」

「よせ。アビドスの金で、アビドスを襲わせていた貴様には負ける」

 

 卑劣な真似を! と叫ぶカイザー理事にも扉間は薄ら笑いを浮かべるだけだ。

 

「だが、いいのか!? 私は何も法は犯していない。そんな人間を傷つければ、生徒達の方に罪が行くぞ?」

 

 しかし、カイザー理事はそれでもなお足掻くのを止めない。

 今のカイザー理事は、銀行強盗を追って来ただけだとギリギリ言い訳が出来る。

 現在では、カイザーローンの不正とは関係がないのでお縄につかせるのは難しい。

 

「あー……ヒフミと言ったか?」

「え? あ、はい。そうですけど……何か?」

 

 そう告げるカイザー理事に対して、扉間は若干面倒くさそうにヒフミに声をかける。

 

「アヤネから聞いたが、お前は不良に誘拐されかけていたそうだな?」

「はい、何でもトリニティ学園から身代金を貰うためとか……」

「そして、その後すぐにカイザーPMCが現れたとな……なるほど」

 

 一体、この場面でそんなことを聞いて何になるのかと、首を捻るヒフミ。

 だが、扉間はそれに対して、満足そうに頷く。

 あ、これは何か卑劣な策を打ち出すなと察するアビドスの面々。

 

 

「つまり―――カイザーPMCがお前を誘拐してトリニティを脅そうとしたのだな?」

 

 

 そして、カイザー理事に押し付けられるトリニティ生徒誘拐未遂の罪。

 思わず、呆然として言葉を失うカイザー理事。

 ついでにポカンとするヒフミ。

 

「へ……え?」

「案ずるな、ヒフミ。怖かっただろうが、ワシが来たからにはもう安泰だ」

 

 だが、そんな困惑など気にした様子もなく、扉間は話を続けていく。

 

「デ、デタラメだ! 私はそんなことなど――」

「そもそも、貴様は生徒をワシの人質に取ろうとしていたのだろう? あまつさえ、殺すなどと言って……誘拐・殺人未遂の罪は免れんだろうな」

 

 そして、罪状の倍プッシュである。おかわりもあるぞ?

 

「さて、そうなればどうなるか……替えの利く首を大切にする者でもないのだろう? 貴様の上司は」

 

 貴様には明確な罪状と証拠がある。反対に貴様を庇う者はどこにも居ない。

 だから、お前は残りの人生を塀の向こうで過ごせ。

 そう言って、扉間はニッコリと笑みを浮かべる。

 

「ば、馬鹿な……私がこんな所で……」

「お前達もこやつの処遇については刑務所送りでよいか?」

 

 ガックリと膝をつくカイザー理事を無視して、扉間は生徒達に確認を取る。

 一応、確認を取っておかなければ、殺した際の死体処理などに影響が出るのだ。

 

「んー……おじさん達は異議なしかな。こんな奴のために可愛い後輩の手を汚したくないし」

 

 まるで、汚物でも見るかのような目でカイザー理事を見下ろす、ホシノ。

 

「私達も別にどうでもいいわ。ただの元クライアントでしかないもの」

 

 内心では、後で恨まれると怖いし。

 と思いながらも、表面上はクールな態度を取る、アル。

 

「わ、私もですか? えーと……異議なしです」

 

 なんか、トリニティの代表みたいになっているけど、大丈夫なのかと思いながら頷くヒフミ。

 彼女は今後このことで苦労することになるのを、まだ知らない。

 

「では、こやつはヴァルキューレ警察学校の者に引き渡すとしよう。後は連邦生徒会の仕事だ。ワシらの出る幕はない」

 

 こうして、カイザーとアビドス自治区を巡る戦いは、一先ず終わりを迎えるのだった。

 

 

 

 

「あれ? 何で、こんな所に札束が……」

 

 一件落着。そんな空気の中で、ヒフミが地面に札束が落ちているのを見つける。

 当然、そんなものを持ち歩いている者など1人しかいない。

 

「……社長。1億円の入ったバッグは…?」

 

 嫌な予感がして、アルに問いかけるカヨコ。

 

「大丈夫よ。大切な物なんだから、戦闘中も肌身離さず持ち運んでいたわよ、ほら!」

 

 それに対して、戦闘中も持っていたとアルは誇らしげにバッグを持ちあげてみせる。

 

 

 ―――敵の銃弾でバッグに空いた穴から、札束をこぼしながら。

 

 

「…………」

「…………」

 

 表情の抜け落ちた顔でアルを見つめる、カヨコ。

 口をパクパクとさせながら、何かを言おうとするが声が出ない、アル。

 

「…………」

「…………」

 

 大慌てで後ろを振り向いて、自分達が歩いて来た道を確認する、ムツキ。

 不良共が札束に群がっているのを見て、思わずショットガンを構える、ハルカ。

 

「見ろよ、この金! 便利屋って奴らがバラまいたみたいだぞ!」

「あれか? 義賊ってやつか? 何にしろ、ラッキー」

「私もいつか陸八魔アルみたいな、カッコいいアウトローになりたい……」

 

 便利屋を義賊扱いして、臨時収入に沸き立っている不良達。

 

 

「わ、私達のお金ーッ!?」

 

 

 そうして裏社会の伝説、陸八魔アルの武勇伝が1つ増えるのだった。

 

 

 

 

 

「えーと、それでは。カイザーPMCへの勝利を祝して乾杯!」

「「「「カンパーイ!」」」」

 

 小気味の良い音が響き、オレンジジュースやコーラなどの飲料が入ったグラスがぶつかり合う。

 

「今日は先生の奢りで焼肉だからねー。破産させるまで食べちゃおー」

「食べ放題コースだ。金の事は気にせず好きなだけ食え」

 

 ここは、アビドスにある焼き肉店。

 高級店という訳ではないが、質が悪いという訳でもない。

 そんな普通のお店。

 そこで、対策委員会の面々は作戦の成功を祝して、打ち上げを行っていた。

 

「でも、私達も参加してよかったの?」

「囮に利用した私達が言うのも何だけど……流石に可愛そうだったし」

 

 ムツキの言葉に、セリカが気まずそうに返す。

 そう、集まったのは対策委員会だけではない。

 便利屋の面々も打ち上げに参加していた。

 理由は、依頼料の1億円を無くしたのを、対策委員会が流石に憐れんだからだ。

 因みに、ヒフミは流石にこれ以上学園を抜け出している訳にもいかないので、帰っていった。

 

「あの、本当に良いんですか? 失った分は私が補填しても……」

「いいよ、別に。依頼料は受け取った。その後のことは私達の責任。それに1千万は残ったから……依頼料としては元々それぐらいが適正だしね」

 

 ノノミからの提案に首を振る、カヨコ。

 あの後、落とした分を拾ったり不良から回収した分と残ったものを合わせて、1千万は死守した便利屋。安くはないが、9割を失ったことを考えればカヨコはかなり冷静な方だろう。

 

「でも……」

 

 しかし、ノノミは心配そうに横を見る。

 そこには、真っ白に燃えつきた状態で、ハルカに肉を口に運ばれるアルの姿があった。

 目は未だに白目を剥いているというのに、口は動いているのだから器用なものだ。

 

「ああ、大丈夫。そのうち復活するから。そもそも、この程度でダメになるなら、ウチはとっくに潰れてるよ」

「た、大変だったんですね」

 

 この程度慣れたものだと口にするカヨコに、若干引くノノミ。

 

「それにしても……」

 

 そんな同情の視線に、何となく居心地の悪さを感じながらカヨコは目を横に向ける。

 

「お前達、焼けたぞ。食え」

「ん、頂きます」

 

 隙間なく敷き詰めた肉を最大効率で焼いていき、次々と生徒達の皿に送っていく、扉間。

 

「先生食べさせてー」

「焼いてないピーマンでよければ、食わせてやろう」

「うへー、苦いのきらーい」

 

 ホシノの口にピーマンを突っ込む扉間。

 

「あの、先生も焼いてばかりいないで、食べてください」

「……アヤネよ。この歳になるとな……脂っこいものは胃にくるのだ。お前もいずれ分かる時が来よう」

 

 アヤネに気を使われるが、明日の胃の調子を心配して少ししか食べない扉間。

 

「……()()()()()()?」

 

 そんな扉間の姿にカヨコは困惑する。

 自分達を囮に使い、あまつさえ銀行強盗の罪を被せた人間とは思えない。

 今の扉間は世話好きのおっさんにしか見えないのだ。

 

「どっちも本当だと思いますよ。敵には容赦ない姿も、私達には厳しくて優しい姿も。両方合わせて、トビラマ先生なんです」

 

 カヨコの言葉にノノミはクスリと笑いながら、そう返す。

 どちらも扉間の本質。

 敵対者には合理性を突き詰めた策で翻弄し、家族には豪気で世話焼きな一面を見せる。

 それが千手扉間だ。

 

「そう……じゃあ、今度からはなるべく敵対しないように気をつけるよ」

 

 それを理解し、カヨコも扉間が焼いた肉を食べるのだった。

 別に毒が盛られていないか、疑っていたわけではない。

 

「店員! すまんが、肉の追加だ! もう2皿頼む!」

「ちょっと、頼み過ぎじゃない、先生?」

「何を言うか、ムツキ。食べ放題と言えど、元を取らねば損というもの。お前達はまだ若いのだ。少々食い過ぎたところで、胃もたれに苦しむことはない。……ワシと違ってな」

 

 追加の肉を頼みながら、同時進行で肉を焼いていく扉間。

 自分の小隊に秋道一族がいた手前、大量の料理を捌くのには慣れている。

 後、若者が飯を食うのを見るのが好きという、老人らしい理由も含まれている。

 

「して、ハルカよ」

「は、はいィッ!?」

「アルに食べさせてばかりで、お前が食っていないではないか。ワシが代わるから、お前も好きなように食べろ」

 

 そして、アルの世話をしているハルカと無理やり交代して、アルの口の中に肉を放り込んでいく。アーンなどという生易しいものではない。

 咀嚼を終える前に、さらにもう1発! とゴミ箱にゴミを投げ入れるかの如き動きだ。

 

「熱っつ!? なに! なに!? なにッ!?」

「いつまで、部下の世話になっておるのだ。長なら長らしく、振舞え」

「わ、分かってるわよぉ……」

 

 アルの意識が覚醒したのを見ると、目の前の皿に次々と肉を積み上げていく、扉間。

 柱間の落ち込み癖で慣れているので、こういう時の対処法には慣れている。

 優しくするよりも、雑に扱った方が復活しやすいのだ。

 というか、構うと余計にウザくなるのだ。柱間は。

 

「カヨコ」

「……なに?」

「警戒するのも分かるが、()()()()()毒を盛るようなことはせん。敵対する理由のない状態で相手を害するような真似は、余計な恨みを買うだけだからな」

 

 そう言って、扉間はカヨコの皿に肉を盛っていく。

 生焼けでも、焦げているわけでもない、絶妙な焼き加減だ。

 

「それと……足を洗いたければ、ワシに言え。まとめて面倒を見てやろう」

「そういうのは社長に言って。まあ、馬鹿だから聞かないと思うけど」

「フ、そうか」

 

 馬鹿という言葉に込められた親愛の念を感じ取り、扉間は笑う。

 まるで、兄者のようだと。

 

「先生」

「どうした、シロコ? おかわりか?」

「アイス食べたい」

「何言ってるのよ! シロコ先輩! 食べ放題にデザートはついてないわ! もっと、原価の高い肉を食べて元を取らなきゃ!」

「ご、ごめん」

 

 シロコのアイス食べたい発言に、セリカが噛みつく。肉に噛みつきながら。

 

「ハァ……食べ放題が終わったらな」

 

 だが、そんなシロコに扉間はOKを出す。

 まあ、このぐらいなら甘やかしてもいいだろうと。

 しかし、それは早計だった。

 

「え? じゃあ、私パフェ食べたい、パフェ!」

「おじさんはケーキ」

「先生に許可して頂けるなら、私もケーキで」

「へぇ、抹茶ムースもあるんだ、ここ」

「私はシャーベットでお願いしますね、先生」

「あら、このパフェ、オレオが入ってるのね。先生ェ! オレオパフェの注文取って、オレオ!」

「わ、私は杏仁豆腐でお願いします」

「え!? じゃ、じゃあ、私もアイスで……」

 

「貴様ら……人の金だと思って、遠慮なしに」

 

 シロコに認めたのだから、私も私もと全員がデザートを要求する。

 流石の女子力と言った所か。

 まあ、便利屋的には囮にされた腹いせも入っているかもしれないが。

 

「まったく……後で奢ってやるゆえ、今は肉を食うのに集中しろ」

「みんな、デザートのために腹八分目に抑えるのよ!」

「ん、問題ない。甘いものは別腹」

「…ッ! それもそうね! じゃあ、たらふく食べるわよー!」

 

 和気あいあいと敵と味方の垣根を越えて、笑い合う生徒達。

 そんな姿に苦笑しながらも、扉間は思う。

 

 もしかすると、この笑顔を守るために自分はキヴォトスに来たのかもしれないと。

 

 

 

 

 

『トビラマ先生、そろそろ始まりますよ!』

「む? すまんな、アロナ。今行く」

 

 シャーレの執務室。

 アビドスでの一件を終えて戻って来た扉間が、席に戻る。

 

 アビドスの地を巡って、カイザーグループが何をしようとしているかまでは突き止められなかった。土地自体は正当な取引の上で買われたものなので、そこで何を行っていようと()()()()()()()()()は、扉間の持つ権力だけでは調べることが出来ないのだ。暴力が足りないと言い換えてもいい。

 

 しかし、カイザーローンの不正をリークしたおかげで、カイザー理事は失脚して利子も正常なものになった。カタカタヘルメット団などの襲撃も無くなったので、表面上ではアビドス高校から手を引いている形なのは間違いない。

 

 残る問題は、正常な取引で借りた9億円相当の借金だが。

 

『ほらほら、始まっちゃいますよ!』

「そう、慌てるでない」

 

 対策委員会は自分達の力で返すことを選択した。

 一応、扉間も非合法な方法でならチャラに出来ると言ったが、断られてしまった。

 セリカ曰く、『トビラマ先生にタダで借りを作ることが、一番恐ろしい』らしい。

 これには、扉間も詐欺に騙されぬように成長したなと、ご満悦だ。

 

「時間丁度だな」

 

 そして、そんな対策委員会が借金返済のために何を選択したかというと。

 

 

 

『みなさん、こんにちは。奥空アヤネです。今から、アビドス高校廃校対策委員会チャンネル。略してアビドスチャンネルの第3回の放送を開始します』

 

 

 

 以前に、扉間が提案した対策委員会の活動宣伝である。

 扉間を通して、動画の有効性を知った今は全員で賛成したのだった。

 

『現在の借金額は8億9261万5230円です。皆さまの温かい支援で、少しずつ減って行ってきていますので、今日も頑張ってきたいと思います』

(フ、上手くなった、アヤネ。投げ銭を入れることで、リアルタイムで借金の数値が減るような仕組みを作るとは……考えおるわ)

 

 アヤネの狙いに気づき、ほくそ笑む扉間。

 巨大な数字が自分の投げ銭で減って行く達成感。

 そして、それを動画の視聴者全員で共有する一体感。

 簡単に言うと、ゲームのレイド戦である。

 これは対策委員会の頑張りをみんなで共有して、1つの借金(てき)を倒すというゲーム。

 アヤネはそういった構図を作り出したのだ。

 

『それでは、今日は私達対策委員会で、アビドス地区の清掃活動に行きたいと思います』

『じゃあ、みんな頑張って来てー』

『ホシノ先輩も来るの!』

『頑張る……』

『さあ、みんなで頑張りましょうね』

 

 5人で仲良く、指名手配犯退治に行く姿を見ながら扉間は小さく微笑む。

 

(今日も全員無事……何事も無さそうだな)

 

 全員の安否を確認し、扉間は満足そうにおやつ代として5000円の投げ銭を行うのだった。

 




エゴサしたらこの作品のスレが立ってたんで、見たらタフカテだった。
本当に何でもあるな、あのカテ。

まだ問題はあるけど、扉間が現時点で出来ることは限られているのでアビドス編終了。
次回からはミレニアム行きます。時系列的にはエデン条約が途中で挟まるけど、アリスが目覚めないことには色々と詰むんで。いっその事、リオも実装するのでエデン前に問題解決もあるかも。

後、今回一ヵ所だけアロナ語が潜んでいます。カイザー理事に銃を向けられるシーンです。

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