千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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99話:禁術

「先生。連邦生徒会長から回収した、Bluetooth銃を調べた結果、改造を受けて特殊な弾丸を撃てるようになっていることが分かりました」

「特殊な弾丸だと? それはなんだ、ヒマリ」

 

 所変わり、扉間の本体が居るミレニアムの医務室。

 扉間はユウカに強制的に休まされているのだ。

 製作者のウタハがダウンしているので、ヒマリが代わりに連邦生徒会長のBluetooth銃を解析してあることを突き止めた。

 

「この弾丸は──()()()()()()()()()()

「ヘイローの破壊…? ヘイロー破壊爆弾と同じものか!」

 

 それは、使用されていた弾丸が、ヘイロー破壊爆弾と同じ性質を持つということだった。

 

「ご存じなのですか?」

「ああ、ゲマトリアの技術であり、先程分身が目撃した。しかし、これでは外の世界と変わらんな。銃弾が必殺となれば、キヴォトスは地獄絵図になるぞ」

「ええ、先生のおっしゃる通りです。この技術は存在するべきでない技術です。研究対象としても、残しておくべきではないと思います」

 

 銃撃戦がコミュニケーションに近いキヴォトスで、外の世界と同じように銃弾で人が死ぬならどうなるだろうか? 

 答えは簡単。戦争という統率すら取れない大惨事だ。

 殺す覚悟もなく、殺される覚悟もなく、人が死んでいく。

 そんな地獄絵図が生まれかねない。

 

「待って頂戴。研究用に厳重に管理しつつ、残しておくべきよ。ゲマトリアがこれを作ることが出来たということは、理論上は別の人間でも可能なはず……もしもの時の()()として保管しておくのが、合理的よ」

 

 しかし、ヒマリの言葉にリオが反論を行う。

 これは細菌やウィルスのようなものだ。

 天然痘のように、自然界では絶滅させても研究機関では、もしものとき用に保管してある。

 悪しき者に利用されることを考えれば、対策も残しておくべきなのだ。

 

「……一理ありますが、リオ。あなたはこの弾丸1つの恐ろしさが分かっていません。()()()()()()()()()()。ただ、それだけで日常は様変わりします」

「分かっているわ。このヘイロー破壊弾が1つ混じっていると、広めるだけでそれを信じた人は気軽に銃を使えなくなる。人を殺すことはいけないことだもの」

「ええ、ですが逆に……簡単に、そして大量に人を殺したい人間はこれを求めるでしょう。人を殺す弾丸の優位性は外の世界で実証されていますから。そして、よく調べなければ、それと分からないこの弾丸は、いつでもどこでも人を殺めることが可能な暗殺兵器にもなります」

「そして、それを止めるには、銃そのものの携帯を厳密に取り締まる必要がある。もしくは、人を殺す弾丸が普通になるか……どちらにせよ、社会に与える影響はとんでもないものになるでしょうね」

「だからこそ! 今この場で消し去るべきだと言っているのですよ!」

 

 銃は人を殺す道具ではない(キヴォトスライフル協会発表)。

 建前でも、これがあるからこそ、銃社会が気軽に成り立っているのだ。

 だが、それが外の世界と同じようになったら、世界は様変わりする。

 まるで、テクスチャがリテクスチャされるように。

 

「先生! 先生はどう思われますか!?」

「先生。銃弾の一発で致命傷を負う先生だからこそ、それに対抗する手段が必要だと分かってくれるわよね?」

 

 そのような代物だからこそ、ヒマリとリオの意見は真っ二つに割れる。

 そして、当然のように意見を求められる。

 妹の喧嘩の仲裁は兄の役目なのだから。

 

「難しいな……人を殺す道具など、この世から消えてなくなった方が良い。それは確かだ」

「聞きましたか、リオ? 先生は、この病弱美少女天才ハッカーの意見に賛成のようですよ!」

「……そう」

 

 勝ち誇ったように笑う、ヒマリ。

 シュンと肩を落とす、デカイ妹。

 

「だが、今この段階で消すのはいかん。敵がこれを持っていることはほぼ確定。ならば、最低でもことが終わるまでは、対抗策のために保持しなくてはならん」

「お兄ちゃん…!」

「ク…! 正論ですね!」

 

 しかし、扉間もフォローは忘れない。

 ビッグシスターの顔が明るくなる。

 

「それに考えようによっては……これを使えば、キヴォトスの犯罪率を落とせるかもしれんしな」

「犯罪率を?」

「先程、お前達が言ったように、銃が人を殺す武器ならば厳しい規制がかかるだろう。そして、()()()()()でも起きれば、世論も味方につけられる。そうすれば、銃が市民の手から離れ、それを使った犯罪は減るだろう」

 

 例えば、銃撃戦に()()()()()()()()が1人居れば、銃など没収しろと声が上がるだろう。

 そうすれば、より多くの子供が銃の無い世界で生きていけるかもしれない。

 扉間は、そう皮肉気に告げる。

 

「ですが、殺人などの凶悪犯罪は増えるのでは?」

「そうだな。それに、やり方や手順を間違えれば、ヒマリの危惧しているような地獄絵図にもなるだろう」

 

 だが、そんなダンゾウ染みた政策も失敗する可能性が高い。

 人が死のうが関係ねぇな、TSCの序盤のような世紀末世界に変わる可能性もあるのだ。

 2XXX年、キヴォトスは核の炎で包まれた(ガチ)。

 

「故に禁術に指定する」

「き、禁術?」

「早い話が、世に出せない情報を一纏めにして、信用できる人間にだけ閲覧権限を与えるのだ」

 

 禁術。

 多重影分身などの多種多様な術だ。

 影だけに管理を許される、封印された術。

 

「それは……要するに私の意見である、『研究用に厳重に管理しつつ、残しておく』と同じではないかしら?」

「ああ。だが、一つ違う点がある。これは、必要ないと判断すればいつでも消せるように一切のデータには残さない点だ」

「データに残さない…? 口伝(くでん)だけということかしら?」

 

 資料には残さないことで、簡単に墓まで持っていけるようにする。

 一子相伝の禁術だ。

 

「禁術にも2種類ある。現在ワシが使っている多重影分身のように、術者への負担が大きい故に封印した禁術。相手が使っている穢土転生のような、存在すら認められるべきでない禁術。特に後者は口伝のみで、認めた者以外には名前すら残さない」

 

 禁術の代名詞である穢土転生だが、実はナルトが盗んだ封印の書には載っていない。

 初代火影の柱間が編纂したものであるが、意外とリアリストな一面のある柱間。

 普段のバカさとは打って変わり、封印の書が盗まれる可能性も考えて載せる術は吟味している。

 

「カモフラージュとして、目立つ禁術を用意して敵の注意をそちらに向ける。だが、本当に隠したいものは、隠しているという情報すら残さない。最悪、情報を握る人間が不慮の事故で死んでも、情報が抹消されたので良しとするぐらいでちょうどいい。受け継がせる気がないのならば、そのまま墓に持っていけばいい」

 

 そもそもの話、ナルトが盗み出せる程度のセキュリティーなら、普通の金庫の方が頑丈なぐらいだ。

 本命は火影自身への口伝である。

 本当にヤバい術は、火影だけが知っている。

 

 特に、木ノ葉の全ての術を扱えると言われた三代目火影の知識ならば。

 ヒルゼン>>>>>>>封印の書の、術量の差である。

 死んでも口を割らない。

 かつ、そこまで追い込める人間がまずいない火影こそが、禁術の全てを知る本当の封印の書なのだ。

 そして、三代目も四代目も緊急事態での戦死故に、存在するべきでない術の記録は抹消された。

 

 まあ、だからこそ、おいろけの術でガチ目にナルトに負けた、ヒルゼンの失態が目立つのだが。

 恥を知れ、恥を。

 

「ですが、それを墓から掘り起こすのが、先生の穢土転生ではなかったのですか?」

「………だから、ワシも後継者1人にしか教えておらんかったのだがな。サルの奴、研究者としては超一流の大蛇丸(しのび)を育ておって……」

 

 ヒマリのツッコミに扉間は溜息を吐く。

 死んでも情報は守る! →じゃあ、殺してから吐かせるわ→\(^o^)/。

 

 どこかの誰かが、こんなことが出来る術を作ったせいで、セキュリティーに穴が空いたのだ。

 まあ、二重の意味で墓穴を掘ったとも言える。

 自滅という意味と、そして物理的に人の墓を掘り返すという意味で。

 

「完璧なセキュリティーなどというものは、この世には存在しません。少なくとも、この天才ハッカーである私が生きている限りは」

「それは情報を抹消したところで同じことよ。先生が抹消しようとした情報も、こうして世界を越えても残ってしまっているのだから。なら、対抗策を先に作っておくべきよ」

「ハァ……作るべきではない術だったな」

 

 結局の所、どっちを選ぼうとも悪用される可能性は消えない。

 そもそも、生み出したことが間違いと言われては、今の扉間では返す言葉がない。

 確かに、あまり良くない術だったのう……。

 

「ひとまず、そちらのBluetooth銃もワシが預かるぞ。並行世界とは言え、ワシのものだからな」

「……まあ、先生ならば悪用することはない……いえ、悪い事かはともかく、悪用はしそうですね」

「でも、私達が持っている訳にはいかないわ。これは、私達が扱うには()()()()()()

 

 リオの言葉は物理的な重さを指すものではない。

 キヴォトスの銃ではまずありえない。()()()()()()

 否が応でも、それに触れるリオの手が震えてしまうというものだ。

 

「ああ。()()()()()はワシが誰よりも扱いに()けておる。後でどうするにせよ、ワシが持って置くべきだ」

 

 そんな、もう1つのBluetooth銃を、扉間は一切の震えもなく当たり前のように懐に入れる。

 彼にとって人を殺す道具は、箸などよりも余程日常的に握って来たものなのだから。

 

「アロナ。こちらの銃とのBluetooth通信は切っておけ」

『……分かりました』

 

 人を殺す道具を子供に使わせる気はない。

 その扉間の想いに応えるように、アロナはBluetooth通信の設定から外す。

 これで、良くも悪くも連邦生徒会長のBluetooth銃は、ただの銃へと成り下がった。

 

「先生! リオ先輩! ヒマリ先輩!! 朗報ですッ!」

「アリス…? 朗報?」

 

 そして、話が終わったタイミングでアリスが、パタパタと部屋に駆け込んでくる。

 

「空を見てください!!」

「空…? これは…!」

 

 アリスの言葉に、リオが議論から思考を戻し窓の方を見る。

 そして、なぜ今まで気づかなかったのかとばかりに、目を見開く。

 

「赤く染まっていた空が……青色に戻っていますね」

「はい! きっと、各地の虚妄のサンクトゥムが全部破壊されたんです!」

「そうか、なるほど……どうやら、アル達だけでなく他の学園の生徒も無事に成し遂げてくれたようだな」

 

 赤い色の空が、その青さを取り戻す。

 扉間のイメージカラーでもある。青い色の空だ。

 

「そして、アビドスに向かわせたカイザーもやったか。なるほど、たまには武力的にも役に立つものだな」

「これで一安心……という訳にもいきませんが」

「ええ。むしろ、ここからが本番よ」

 

 空は晴れ渡った。

 しかし、敵の魔の手を払いきったわけではない。

 そして、そのことはアリスも良く分かっていた。

 

「はい…! ウトナピシュティムの本船……そして、アトラ・ハシースの箱舟。この2つの情報が倒されたという話は、まだ聞いていません」

「そして……連邦生徒会長の存在」

 

 この事件の引き金となったウトナピシュティムの本船。

 シロコ*テラーが並行世界から乗って来たアトラ・ハシース。

 並行世界の連邦生徒会長の存在。

 

 問題はまだ山積みだ。

 

「でも、悪い事ばかりではありませんよ。アトラ・ハシースの居場所が分かったかもしれません!」

 

 だが、それでも一歩ずつではあっても、前へと確かに進んでいる。

 

「!? それは、一体どこに…?」

「ゲヘナ学園からの情報提供では、空の遥か彼方……キヴォトスの上空75,000メートルにあるそうです!」

「75,000メートル!? 成層圏……いえ、下手をすると宇宙に?」

「そんな所に()()()()()のね……道理で、ウトナピシュティムと違って、見つからない訳ね」

 

 上空75,000メートルという常識では考えられない位置に、素っ頓狂な声を上げる、ヒマリ。

 リオの方も、まさかそんな所にあるとはと、若干呆れたように呟く。

 

「……妙だな」

「先生?」

「ウトナピシュティムとほぼ同じ性能ならば、地上に降りられないわけではないはず。制空権を考えれば、高い位置につけるのは当然だが……いくら何でも高すぎる。これでは、攻撃をするには不便だ。多次元解釈システムならば、こちらに近づくだけで脅威だというのに……そう考えると、リオの言うように隠れていたのだろうな。おそらくは防御のために」

 

 そんな中、扉間は違和感に気づく。

 何故、ウトナピシュティムと同じようにワープや、多次元解釈システムが使えるのに、わざわざそんな場所に居るのかと。

 ウトナピシュティムという天敵すら、今は味方に居るというのに。

 

「……何かあるのだな。明確に自らを脅かす存在が──この世界に」

 

 故に確信する。

 アトラ・ハシースは、無敵でも何でもない存在なのだと。

 

「先生がとても悪い顔をしています…! まるで、格闘ゲームで新しいハメ技の存在に気づいた時のように…! いつも、これでモモイやアリス達に仕掛けてきます」

「生徒相手に何をやっているんですか……」

 

 ヒマリが、扉間へと呆れた目を向ける。

 今明かされる衝撃でもない真実ぅ! 

 扉間、意外でもなんでもなく、ゲームでは大人げない! 

 

「安心してください、ヒマリ先輩。どんなハメ技もユズに完璧に攻略されて、逆に先生もハメ技を返されるのが日常ですから」

「本当に何をやっているんですか、先生?」

 

 だが、UZQueenモードのユズの前では、全てが無意味。

 ハメ技を利用したハメ技を返されて、あえなく撃沈するのが常だ。

 まあ、最終的にユズに負けるからこそ、扉間も安心して全力でハメ技を模索できるのではあるが。

 

「話を戻しましょう。何かから隠れていた……この予想は間違いではないと思うわ。相手がアトラ・ハシースの箱舟だとすれば、それを倒せる存在はウトナピシュティムと……アリスとケイなのだから」

「…!」

 

 リオが現状の正確な認識を照らし出す。

 圧倒的優位に立ちながらも、敵が油断しない最大の理由。

 それは、()()()()この世界のアトラ・ハシースの存在だと。

 

「単純な話よ。どんなに強力な存在であっても、それと全く同じ強さを持つものがあれば対消滅させることが出来る」

「リオ! あなたは、まさかアリスとケイを使うつもりですか!?」

「安全だという証拠が揃えば行うわ。でも、安全でないなら、姉として妹は絶対に傷つけないわ……並行世界の私のようにはなりたくないもの」

 

 妹を失い、暴走するしかなくなった、哀れな存在を思い出して目を瞑る、リオ。

 世界のためだからといって、妹を犠牲にする選択を取ることはリオには出来ない。

 

「……本当に、良い影響と悪い影響の両方が出ていて、余計に腹立たしいですね」

 

 それを理解したからこそ、ヒマリは複雑な表情を浮かべる。

 人の心を捨てた合理の化身から、リオは変わった。

 その変化自体は喜ばしいのだが、その結果が『お姉ちゃんよ』なのは、何と言えばいいのか。

 

「ヒマリ?」

「いえ、こちらの話です。それよりも今は、アリスとケイを使わないで勝つにはどうすればいいかを考えましょう」

 

 疑問符を浮かべる、デケェ妹に優しい溜息を吐きながら、ヒマリは考える。

 誰も犠牲にしないで勝つための方法を。

 

「話は聞かせてもらいました。あれは私達のアトラ・ハシースとは別のものです」

「ケイ! もう、起きて大丈夫なんですか?」

「問題ありません。私の体は人間のものとは違うので、多少の無茶は効きます」

 

 そんな所へ、他の者達よりも一足早く復活したケイが近づいてくる。

 しかし、その姿までは無事とは言えなかった。

 

「だって…! ケイ…! 髪が!!」

「安いものです。髪が白く染まったぐらい……みんなが無事でよかったです」

 

 敗北のテクスチャを押し付けられた影響か。

 純粋に、ボディを傷つけられたせいか。

 ケイの髪は白く染まっていた。

 

 え? 原作に無理やり寄せて来た? チガウヨ、グウゼンダヨ。

 

「アリスとお揃いの髪色だったのに……これでは双子ネタの鉄板。幽体離脱が出来ません! モモイとミドリは出来るのに!」

「あの……恥ずかしいので、やめませんか? それ」

「別に兄弟で髪色が違うことぐらい、良くあることであろう。ワシも兄弟で髪色が黒と白で正反対だったからな」

「また、話が脱線しているわよ。それで、ケイ。さっきの『私達のアトラ・ハシースとは別のもの』とはどういうことかしら?」

 

 話が再びズレて来たので、冷静に再び元に戻す、リオ。

 そんな彼女に感謝しつつ、ケイは1つ咳払いをする。

 

「コホン……はい。別のものと言った理由は、単純明快です。もしも、敵のアトラ・ハシースに名もなき神々の王女が乗っているのなら、私達の存在は抹消されているからです」

「存在の抹消…? それはどういった意味かしら?」

「文字通り……いえ、もっと酷いですね。王女に覚醒したアリスならば、敵を()()()()()()()()()()()()()に出来ますから」

()()()()()()()()()()()()()? それは、ワシらが連邦生徒会長にやられたものと同じか?」

 

 リテクスチャ。

 連邦生徒会長が使ったイザナギとほぼ同じ能力ではないかと、扉間が問う。

 

「かなり近しいものを感じましたが、王女の力は更に上だと思います。現に連邦生徒会長にとって脅威になるであろう、邪魔な私達も生きています」

「つまり……あれは本物のアトラ・ハシースの箱舟としては、弱すぎるということでしょうか?」

「はい。あれは出来の悪い粗悪品……いえ、違いますね。船そのものに性能の差はそこまでありません。ただ、船とは優れた船長が居て初めて真価を発揮するものです。あの船には本来の船長は乗っていません。ド素人が乗っていると思ってください。それぐらいの差です」

 

 ヒマリの質問にケイが、あっけらかんと答える。

 どんな高性能な船も、素人が運転すれば川の流れに乗る木の葉のようなものだ。

 好き勝手に流され、揉まれ、最後には川底へと沈んでいく。

 

「ということは、そこが敵のアトラ・ハシースのウィークポイントという訳ですね!」

「その通りです、アリス。王女のいないアトラ・ハシースは、スターを取っていない配管工のようなもの。正直言って、相手にしたくはありませんが、決して無敵ではありません」

 

 または、ペロペロキャンディを食べていないピンクの悪魔。

 無敵ではない。無敵ではないのだが。

 

「相手が無敵ではないのは朗報ですが、こちらが厳しい状況なのは変わりませんね」

「それに、ケイの言った能力だけど……アトラ・ハシースが連邦生徒会長の能力を強化することで、疑似的に再現することも可能なのではないかしら?」

 

 正直勝てる気はしない。

 そもそも、ピンクの悪魔とか素で無敵みたいなものじゃないか? 

 

「まあ、そうなんですよね……敵は1人ではないし、船も1つではない。HPが無限という訳ではないですが、HPバーが1万本はある感じですね。理論上は可能ですが、現実的に可能かと言うと……」

「ユ、ユズなら、きっと削り切ってくれます!」

「廃人仕様を前提に言われましても……」

 

 1Fとかコンマとかを平然とみんな出来るものとして、操作に使われても困るのだ。

 ゲーム開発部で一番の常識人に見えて、一番の常識外れの人間は間違いなくユズだと、ケイが溜息を吐く。

 

「ユズは、そこまでゲームが得意なのかしら?」

「はい! ユズはUZQueenですから!」

「元AIの私をも上回ります。言っておきますが、これは私が体を手に入れる前からの話ですよ?」

「そうなのね、それなら……もう1人の私が残した()()()

 

 アリスとケイからの、熱烈なUZQueen伝説を聞き、何かを考えこむ、リオ。

 ユズ、アヴァに乗りなさいが来るかもしれない。

 

「というか、今思ったのですが………いえ、流石にこれは不味いですかね…?」

「何が不味い、言ってみろ、ケイ」

「では……」

 

 そんな所で、ケイが言うべきか迷うように赤い目を揺らす。

 しかし、マジレス大好きな扉間は、真顔で聞き返す。

 

「言ってはいけないことを、言っている自覚はありますが……連邦生徒会長の話を受ける気はないのですか? 既に大人のカードで、忍術を使っている状況なら、そこまで気にする必要もないのでは? 不老不死や死者蘇生は人類の普遍の願いでしょう?」

 

 元AIらしい合理的な考え。

 人を生き返らせることの何がいけないのか。

 何より、そこまでのリスクもなく、相手がそれで満足するなら別にいいのではという思考。

 それに対して、扉間は。

 

 

「誰も彼も生き返らせておっては、土地が足らんだろう、馬鹿者」

 

 

 なんか、凄い現実的な要素で否定して来た。

 

「それは…そうですが……もっとこう……例えば、機動戦士のように宇宙に進出などをすれば……」

「人が宇宙にでも旅立つようになれば、人口密度の問題は解決するかもしれんが、飛び出した先にも同じく人類が居る可能性は高い。結局は侵略者のように、限られた土地を奪い合うだけだ。ワシとて、キヴォトスに来たのが1人だから良かったようなもの。大量に来ていれば、この世界での戦争の火種になっていたやもしれん」

 

 宇宙からの侵略者が、原住民を滅ぼす。

 扉間の先祖のカグヤはバグを起こし、侵略者側に反旗を翻したが、侵略者であったことに違いはない。

 

「死人は黄泉の国で、静かにこの世を見守っておればいいのだ。()()()()()()()

 

 自分も本来はこの世にいるべきでない存在。

 そう暗に告げる扉間に、生徒達は困ったような表情を浮かべる。

 

「……アリス。連邦生徒会長さんの気持ちが少し分かりました」

「先生の言葉は合理的よ。でも……私達にとっては、死はそう簡単に割り切れるものではないわ。もう1人の私がそうであったように」

「そうですね。それに、人口や土地、食料の問題は現実的ですが、逆に言えば技術的な問題として対処することは可能なはずです。ほんの数百年前から人類の数は何倍にも爆増しましたが、今も繁栄しています。全員でなくとも、少しずつならば可能なのでは?」

 

 アリス、リオ、ヒマリから、『そういう、言い方はよさんか!』とお叱りを受ける、扉間。

 

「その順序をどのように決めるのだ? 命に優劣でもつけるか? 子供が一番、次に女、男、最後に老人といったふうに」

 

 だが、その程度では扉間は止まらない。

 まあ、本家本元の兄者でも、『兄者は甘いのだ』で突破されているので、さもあらん。

 

「それは……」

「何より、生き返らせたい人間は誰もが、大切だった者を優先するだろう。ワシとて、お前達と見知らぬ人間なら、お前達を優先する。それを回避するにはどうすればいいと思う?」

「……全員を同時に生き返らせるのが、最も平等ね」

 

 全てを平等に救う。

 夢の世界に絶対必要な条件だ。

 

「ああ、そうだ。単純な計算だ。年老いて死んだ両親にまた会いたいといって、生き返らせたら数はどうなると思う?」

「1人につき2人の親……合計すると、3人。単純に言えば、人口は一気に3倍に増えますね」

「さて、ここでさらに質問だ。生き返った両親には──親は何人いる?」

「ね、鼠算式に増えていきます…!」

 

 父と母の親。すなわち祖父母は合計4人。

 三世帯が揃うだけで、1人から7人に増える7倍だ。アンラッキー7だ。

 

「そうだ。死者蘇生などという行為をすれば、星の許容量など一瞬で埋め尽くされる。そもそもの話、死という概念を持たぬ生物が居る中で、何故死ぬ生物が繁栄して来たかを考えれば分かるはずだ。死とは、生物の繁栄に欠かせない事なのだ」

 

 アダム、享年930歳。神武天皇、享年137歳。

 神話の登場人物、だいたい長生きしすぎ問題である。

 そこは死んどけよ、人として。

 

「人類がこの先、不老不死に進化する可能性までは否定せん。だが、一々死人を蘇らせる必要はない。今ある問題は、今を生きる人間で解決せねばならん。ワシら死人の出しゃばる枠はない」

「分かっています…分かっていますが!」

 

 分かってはいるが、納得は出来ない。

 そう憤るケイに扉間は、優しく目を細める。

 随分と人間らしくなったものだと。

 

「人が死ぬことは当たり前のことだ。いずれは、それを受け入れなければならん……お前達も連邦生徒会長も。そして──」

 

 時を巻き戻してはならない。

 犯した過ちをなかったことには出来ない。

 都合の良い夢の世界に逃げてはならない。

 

 

「──アロナ、お前もだ」

『ッ!?』

 

 

 過去は消せない。

 たとえ、世界が忘れたとしても己自身が覚え続けている。

 

「決して振り返ってはならん。失ったものばかりを見て、前を見ることを忘れてはならん」

『先…生…私は……』

「死から目を逸らすな。どれだけ綺麗な過去であろうとも、現実に残るのは腐り落ちた死体だけだ。それは容易く、生きる者を蝕むぞ。死者の想いを踏みにじってな」

 

 妻のイザナミを失った()()()()は、黄泉の国まで妻を追いかけた。

 だが、その中で決して見るなと言われたのに、愛しい妻の姿を一目見たくて、振り返ってしまった。

 そうして初めて、腐り落ちた愛する者の死体という現実を直視したのだ。

 

「過去に縋りつくな。前を見ろ。子供から大人に卒業し、今度はお前達が育てるのだ。次の時代を託す事ができる、新たな子供達を」

 

 イザナギはその現実を見て、ようやっと過去ではなく前を見るようになった。

 妻の死を受け入れ、新たな命を生み出し続けることで過去と決別した。

 そうして、前を見たイザナギの瞳は、最も貴い神を産み落とした。

 それが、天照と月読である。

 

「アロナ……話してもらうぞ。お前の真実をな」

()()()()()()()()……」

「声が…!? 私達にも聞こえます!」

「これは……確かに、聞き覚えのある声ですね」

 

 アロナの声が大人びたものに変わる。

 そして、A.R.O.N.Aでは先生以外に聞かせられない声を、ケイやヒマリ達にも聞こえるようにする。

 シッテムの箱がひとりでに起動し、青く透き通った教室が映し出される。

 

「まず、私は失踪した連邦生徒会長と同じ存在であり、異なる存在です」

「言っている意味が分からないわ。2つの言葉が相反しているわよ?」

「そのままの意味ですよ、リオさん。記憶の連続性としての私は同じ。存在としての在り方は異なる。今の私はA.R.O.N.Aというシッテムの箱のメインOSに、1人の人間の魂が融合した状態です」

「なるほど……アリス、分かりました! 連邦生徒会長さんとA.R.O.N.Aがフュージョンしているんですね! 私は会長でもA.R.O.N.Aでもない、先生を守るものだと!!」

「……まあ、概ねあっています。不可逆という点を除けば」

 

 シッテムの箱のメインOSと連邦生徒会長が融合した姿。

 それこそが、アロナである。

 

「まあ……そこは予想通りだな」

「先生が知りたいのは、私がどうしてこんなことをしているか……ですよね?」

「ああ」

「では……お話しますね、捻じれて歪む前の……本当の()()()について」

 

 アロナの重い口が開かれる。

 現在を捻じ曲げるという禁忌に触れた日を。

 過去に戻るという、禁じられた(すべ)に縋ってしまった日の記憶を。

 

「そう……あれは──」

 

 扉間が手に持つシッテムの箱に、()()()()()

 

 

 

“……我々は望む、ジェリコの嘆きを……我々は覚えている、七つの古則を”

 

 

 

 ──扉間のものではない、包帯にくるまれた死人のように冷たい指が、シッテムの箱に触れる。

 

「何者だ!?」

「え!? だ、誰…いえ! その言葉を知っているのは、まさか──!?」

 

 鉄の仮面。

 生命の気配を失った、大柄な鎧。

 それを身に纏う存在。

 彼の名前は──世界を欺く者(プレナパテス)

 

“…………”

 

 スッと、プレナパテスが印を組む。

 相手が勝ったと確信した瞬間を狙う、まるで()()()()()()タイミングで。

 

(ワープか!? 迂闊ッ! 相手にはこれがあった…ッ)

 

 扉間は、油断していたと舌打ちをし、即座にBluetooth銃を取り出して敵の顔面に向ける。

 

(何より、この印はワシの禁術の……させん!!)

 

 相手が何者かは分からないが、印の形で何の術かを使おうとしているかは分かる。

 そうだ。これは自分の作り出した禁術。

 

 

“――■■■■”

 

 

 かつてサスケに対して『せめて……ワシの禁術で魂だけでも…』と魂に何かしようとした謎の禁術だ。

 

「え…!? それは私の――」

「アロナッ!?」

 

 プレナパテスの手が光る。

 扉間のシッテムの箱に触れた手が。

 アロナの声をかき消す。

 その後、今更のように一瞬遅くBluetooth銃がプレナパテスの鉄の仮面を吹き飛ばす。

 

「な…ッ!」

「そんな……い、いえ…並行世界というものがあるなら……確率的には何もおかしくは……」

 

 ガランと音を立てて、仮面が落ちていく。

 それにより、プレナパテスの素顔が露になる。

 リオ達からすれば、可能性はあれど、絶対に敵に回ることはないと思っていた顔。

 扉間からすれば。

 

「もう1人の……せ、先生ですか?」

 

 毎日、鏡の前で合わせる自分の顔だ。

 随分と傷ついて歪んでいるが、確かに千手扉間その人だ。

 

「アロナに何をした! 貴様ッ!!」

「い、一切の戸惑い無く、自分と同じ顔に銃を撃ちました……」

 

 まあ、その程度で攻撃を止めるようでは、忍はやれないので即座に無防備な顔に乱射する。

 Bluetooth銃は生徒を殺す道具ではないが、扉間は生徒ではないので何の問題もない。

 

“…………”

「またワープで消えました! 逃げるのですか…?」

 

 だが、相手もまた扉間。

 特に、驚くこともなく目的を果たしたとばかりにガン逃げする。

 ワシはワープ(飛雷神)で帰ると言わんばかりに。

 

「逃げられたか……いや、それよりも! アロナッ! 無事か!?」

 

 扉間は明らかにプレナパテスが何かをした、シッテムの箱を慌てて確認する。

 彼には珍しく、相手が罠をしかけている可能性も忘れて。

 どんなに優秀な忍も、自分の子供が死ねば動揺するという話を補強するかのように。

 

 だが、そこまでして急いだ行動も虚しく、アロナは──

 

 

「アロ…ナ? ……どこへ行った?」

 

 

 ──青く透き通った教室から攫われていた。

 




黒幕の黒幕の黒幕はナルトリスペクトです。
次回は21日土曜日投稿です。
次回で何気に100話に到達しますので、これからもお付き合いお願いします。

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