千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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まさかまさかの100話目です。
いつも読んでくださる、読者の皆様の暖かい応援でここまで来ることが出来ました。
もうちょっとだけ続きそうですが、最後までお付き合いくださると幸せです。

それでは、本文をどうぞ。


100話:制約解除

「ん、お帰り、()()

 

 アトラ・ハシースの内部、ナラム・シンの玉座。

 次元・時間・実在の有無が確定されずに混ざり合う、混沌の領域。

 その場所で、シロコ*テラーが世界を欺く者(プレナパテス)を出迎えていた。

 

「あっちの先生と顔を合わせても大丈夫だった? 仮面が剥がれてるけど……」

“…………”

「うん……パラドックスは起きなかったんだね。でも、どうしてだろう? 偶々? この世界は特別? 先生は元々別の世界の人間だから? それとも……」

 

 同一人物が出会ってしまったら、世界はその矛盾を解決するためにどちらかを弾く。

 シロコ*テラーは、パラドックスが発生しなかった原因を考えながら、プレナパテスに新しい仮面を取り付ける。

 

 

「先生がもう……死んでいるから…?」

 

 

 まるで、棺桶の蓋を新しいものに取り換えるように。

 シロコ*テラーは動く死体を前に、()()()を続ける。

 

「動く死体なんて辛いだけ。ただ操られるしか出来ないなら、死んだ方がマシ。本当に生き返れないなら意味がない」

 

 プレナパテスは生きていない。

 己の意志を持てず、色彩の嚮導者であるだけの存在。

 言わば、代弁者。先生であって、先生ではない者。

 偽りの先生(プレナパテス)

 そう名付けられた。

 

“…………”

「ごめん……今の先生に言っても、何も答えられないよね」

 

 ──はずだった。

 

 彼は偽りの先生(プレナパテス)ではなく、世界を欺く者(プレナパテス)

 世界そのものを騙す、ペテン師だ。

 

「それで、先生。目的は達成できた? 相手のシッテムの箱を無力化させて、こっちのシッテムの箱を()()()()()()を」

“…………”

「これがアロナの……連邦生徒会長の魂」

 

 水晶玉のようなものを、シロコ*テラーに見せる、プレナパテス。

 ワシの禁術で魂だけでも……で回収して来たのだ。

 つまり、今のアロナは囚われのお姫様という訳だ。

 誰がメインヒロインか決まってしまったな! 

 

「これ生きてるの?」

“…………”

「ううん……そうだよね。当然生きてるよね。利用するために攫ったんだから。それに先生なら…千手トビラマなら、どっちにでも転ばせられる状態にするはず。敵を殺すのにも使えるし、人質にも使える。魂だけを安全な場所に移して、肉体の治療を先に行える。先生なら、きっとそんな卑劣な術にする」

 

 何も返さない。返せない。

 返事の出来ない扉間と()()()()()をするように、独り言(会話)を呟く、シロコ*テラー。

 

 扉間の禁術が、魂を抜き取るだけの甘い術なわけがない。

 実際に、死にかけのサスケに使おうとした所から考えても、魂だけを別の場所に隔離することで、一時的にでも完全な死から逃れる効果もあるのだろう。

 

 まあ、もちろん敵相手なら、容赦なく魂を抜き出して殺すだけだろうが。

 

「このカードを風紀委員長に渡さなくてよかった」

 

 そして本来、この術は穢土転生ヒナに与えられるはずだった、大人のカードだ。

 ヒナには付け焼刃と言われて、断られたのでこうしてプレナパテスに渡している。

 大人のカードを守護者の数だけ渡して、さっさとアリウスを襲いに行った会長(わたし)のミスでした。

 こういう所が、アロナの抜けたところに反映されているのだろう。

 

「この世界の先生に奪われてたら、穢土転生が役に立たなくなるところだった。まだ、仕事はいっぱいあるのに……虚妄のサンクトゥムも準備が出来たらまた出すけど、それだけじゃ足りないしね」

 

 そして、この禁術。

 肉体から魂だけを切り取れる性質上、穢土転生へのカウンターになりかねない。

 使い方によっては、封印術に近い効果が出せる。

 

「アロナ…A.R.O.N.Aを2つ揃えることで、シッテムの箱の新しい力を引き出せば、ユスティナやアリウスの穢土転生全部に、先生が指示を出せるようになる」

“…………”

「うん、そうだね。それだけじゃない。今までは連邦生徒会長が邪魔だったけど……この魂があれば、こっちが優位に立てる。このアロナの魂と連邦生徒会長の魂をぶつけ合わせれば、パラドックスが起きて対消滅する。連邦生徒会長がどれだけ強くても関係ない。これは必殺の武器」

 

 シロコ*テラー個人としても、連邦生徒会長は嫌い。

 だが、それ以上に色彩の嚮導者として、その裏に居る無名の司祭達にとって邪魔だ。

 

「忘れられた神々の頂点……本当の名前を誰も覚えていない、()()人の()

 

 いや、邪魔という言葉では表せない。

 憎悪の根源と言い換えてもいい。

 ()()()()()()()()()()()()()()に、覆われた名を忘れられた神。

 それこそが、自分達を滅ぼしたも同然の存在なのだから。

 

「無名の司祭が執着するのも当然だね」

“…………”

「うん。欠片も同情できないけど」

 

 しかし、シロコ*テラーにとっては、そんなことはどうでもいい。

 

「私にとっての連邦生徒会長は、世界を滅ぼすのに邪魔なだけの存在。世界を滅ぼすのに私を呼んだって言っていたけど……あっちの目的が達成されたら、この世界は存続してしまう」

 

 もしも、扉間が大人のカードで輪廻天生の術を使ったのなら、そこで連邦生徒会長の目的は達成される。

 世界の滅びとかどうでもいいのだ。

 というか、心情的にも立場的にも、目的達成後は滅ぼす理由が無いので、普通にシロコ*テラーに敵対しかねない。

 最初から、都合よく利用するためだけに、色彩の嚮導者を呼んだのだ。

 

「でも……詰めが甘い」

 

 色彩の嚮導者が砂狼シロコではなく、先生になるというバグを見抜けずに。

 もっとも、こればかりは無名の司祭であっても、理解出来ぬことなのだが。

 

「先生は別の世界の人間だよね? “神秘”も“崇高”も“恐怖”も持っていない。だから、色彩にとっては無価値。そもそも、どんなに強い神秘でも干渉できるのは同じ神秘を持つ者だけ。神秘の無い人間は、全能の神でも生き返らせられない。だから、忍術なんてものに縋ったんだろうね」

“…………”

「でも、理解できないことが起きた。“神秘”でも“崇高”でも“恐怖”でもない“奇跡”が起きた。それは確率的にあり得ないことだから、実際にそれが起きたのを見るまで想定すら出来ない。それに、連邦生徒会長はきっと別世界の……色彩の嚮導者になった私を見ているんだと思う」

 

 だから、勘違いをした。どうにでも出来る、無名の司祭(はいぼくしゃ)しかいないと。

 だから、()()()()。最も警戒する必要のある敵に。

 扉間とA.R.O.N.Aという最大の変数が()()1()()あることを、見逃した。

 

「私は世界を滅ぼす。この世に存在する、全ての忘れられた神を1人残らず駆逐する。唯一神も含めて」

 

 最大の敵は、最初から自分の隣に居た。

 己で招いた自業自得。

 

「それが私の役割だから……私の殺した人達を無価値にしないための」

“……”

「アロナはいなくなった。これで、あっちの先生は手足をもがれたようなもの。逆にこっちは強化された……でも、まだ安心はできない。先生なら、口だけでも人を殺せるよね?」

 

 シロコ*テラーは、何も言わないプレナパテスとの、お人形ごっこを行いながら笑う。

 扉間はもっと追い詰めなければ、安心できないと。

 

「だから、もっとリソースを奪わないと……そうすれば、きっと──」

 

 慎重に、念には念を入れて。

 本丸を隠しつつ、相手のリソースをゆっくりと確実に削いでいく。

 そうすることで、己の師である格上の存在であっても。

 子供を守る存在から、子供を殺す存在に貶められてしまわないように。

 

 

「──今度こそ、()()()()()()()()()()()()()

 

 

 確実に殺してやれるのだと。

 

 

 

『シッテムの箱、()()()()。プロセス「ペレツ・ウザ」稼働開始』

 

 

 

 

 

「く……やはりダメか。アロナが居ない状態では、シッテムの箱の能力が上手く引き出せん。これでは、少し性能が良いだけのタブレットだ」

 

 プレナパテス、もといもう1人の自分の襲撃。

 そして、ピーチ姫の如く攫われた、アロナ。

 激動の時間が終わった後、扉間はシッテムの箱を叩くが何の返事もない。

 そこにあるのは、ただのタブレットだ。

 

「一体、何が起きたんですか? 私のようにデータ体を別の機器に移し替えたようには見えませんでしたが……」

「あれは、ワシが作った魂だけを抜き取る禁術だ」

「ま、また、とんでもない術を作ったわね……先生」

「死者を蘇らせたり、魂を抜き取ったり……アリス、理解しました。先生は死神だったのですね!」

「先生がおかしいのですよね? まさか、これもありふれた術だとは言いませんよね?」

 

 ワシの作った術だ、ワシの術だ。

 そう、告げる扉間に、ケイ達はこいつ一体何個の禁術を作ったんだと白い目を向ける。

 

「ありふれた術ではない。ただ、似た術は何個か存在した。霊化の術という、自分の魂だけを飛ばして相手を憑り殺す術もあったからな。もっとも……ワシも、まさかAIの魂まで抜き取れるとは思ってもみなかったがな」

 

 アロナを拉致した方法に、流石に予想外だったと舌打ちをする、扉間。

 元居た世界では、まだAIなどなかったので試しようがなかったのだ。

 

「………いえ、AIを直接抜き取ったのではないかもしれません」

「なに?」

「アロナは自身を連邦生徒会長と肯定していました。つまり、人間です。何らかの方法で融合したのでしょうが、そこで魂も混ざっていたのなら……魂を抜き取るという行為でアロナをシッテムの箱から引きはがせるかもしれません」

「なるほど……そうかもしれんな」

 

 ケイの考察に納得を見せる扉間。

 もっとも、最初からAIのケイも生きている判定なので、AIも魂を持っていると仮定しても十分に筋は通るのだが。

 

「そ、それよりも、アロナは大丈夫なんですか? 魂を抜き取られたら、死んでしまうのでは…?」

「いや。あの術は別の場所に魂を保管できる術でもある。肉体が死にかけた時に、魂だけ別の場所に保管して、延命も出来るようにしてある」

「つまり……寿命すら伸ばせる術だと?」

「故に禁術なのだ。もっとも、この術単体では応急処置が関の山だがな。応用であって、本来の使い方ではない」

 

 魂だけになって、殺してくる敵を殺してぇなぁ……よし、魂を抜き取る術でカウンターするか。

 そんな開発理念で作られた術だ。

 柱間ですら、魂がなければ死ぬのだから、効果は抜群だ。

 

 あれ? この死んだ後も、朽ちることなく増殖する細胞は一体…? 

 

「しかし……一体何のためにアロナを攫ったのだ?」

「? さっき先生が言っていた通り、シッテムの箱の弱体化を狙ったのではないかしら?」

 

 扉間の呟きに対して、リオが首を捻る。

 シッテムの箱の機能を停止させ、扉間の弱体化を狙ったものだと、先程言っていたではないかと。

 

「いや、それならばワシを殺す方が早い。油断していたとはいえ、ワシはシッテムの箱に触れられたのだぞ? アロナガードで何とかなった可能性はあるが、頭を撃ち抜いておればそれで終わりだったはず……」

「先生の考えが物騒なのは、一度置いておきますが……確かにそうですね。あれだけの絶好の機会を、不意にしたのは理解できません。もしくは──」

 

 ヒマリが白い目を向けながらも、扉間の考えに賛同する。

 暗殺の絶好の機会。

 殺してしまえば、もう扉間の対策を考えずに済む。

 だというのに、それらを投げ捨ててまで、アロナの確保を優先したのは。

 

 

「──アロナを攫うことの方が、メインの目的だった……でしょうか」

 

 

 アロナの身柄を奪う方が、本来の目的だったということだ。

 

「ちょっと待って頂戴、ノアから緊急の連絡が入ったわ……これはッ」

 

 そして、その目的はすぐに明らかになる。

 リオが各校と連絡を取り合っていた、ノアからの緊急の連絡を受け取る。

 

「先生! 虚妄のサンクトゥムが消えた各地で、今度は無数の穢土転生が暴れているそうよ!」

「穢土転生だと? まさか、ミカやミチルなどか?」

「いえ、故人(こじん)の特定には至っていないわ。ただ、この制服はアリウスと……ユスティナ聖徒会?」

「あちらのシロコの仕業か!」

 

 アル達と居た分身からの情報で、何者かの仕業を瞬時に理解する扉間。

 

「虚妄のサンクトゥムを消された腹いせか、それとも次の手を打つまでの時間稼ぎか……どちらにせよ、止めなくてはならんな」

 

 寄せ集めに近い、無秩序な部隊。

 ヒナなどの一騎当千の生徒が居る可能性は低いが、それでも不死の軍勢は厄介である。

 

「リオ。ノアに伝えて各校に情報を拡散させろ。敵のシロコの穢土転生は、数ばかりで質は大したものではない。意識も縛られておる……まともな戦術は練れんはずだ」

 

 敵の強さはそこまでのものではない。

 

「だが、奴らの体にヘイロー破壊爆弾を仕込んだ個体が居ると、あちらのシロコが言っておった。そして、自爆するのは確認済みだ」

「ヘイロー破壊爆弾が!? 嘘でも本当でも、まともに踏み込めなくなる最悪の手ですね……まるで先生のような」

 

 しかしながら、油断して近づくと即死技が放たれるかもしれない。

 ヒマリの言うように、どっかの誰かの弟子らしい最悪の手だ。

 

「故に集団を相手にせず、1人ずつ引き離して一度ハチの巣にしてから、複数人で抑え込め。そうすれば、体内に爆弾を仕込んであっても先に爆発するはずだ。可能なら、火山の中に放り込んでも構わん。どうせ死人だ。死にはせん」

 

 だが、策がないわけではない。

 ヒナ考案の『終わりが無いなら、火口でリスキルすればいいじゃない』作戦を伝授する扉間。

 火山が近くにない学校は、手足を縛って酸素ボンベ無しのスキューバダイビングでも可だ。

 レッドウィンターなら雪崩で埋めるのも1つの手である。

 

 とにかく、封印術もないのでそういった外道作戦で行くしかない。

 だが。

 

「先生、その……ノアからの情報だと、穢土転生達はまるで軍隊のように、完璧に統率されていて、隙が無いそうよ」

「何? だが、術者が一度に操れる数には限りがあるはず……」

 

 弱点であるはずのものが、いつの間にか克服されている。

 扉間はその報告に、眉を顰める。

 術者1人で大量の穢土転生を細かく操ることは出来ない。

 あのカブトでさえ、基本はオートで動かしていたのだから。

 そして、扉間自身もサソリのような傀儡使いではないので、大群の精密操作は出来ない。

 

「それが、目撃した生徒達が言うには……まるで──」

 

 しかしながら、トビラマ先生には()()()()()

 一度に、大勢の人間に指示を出すことが出来、相手の数や情報、所持武装まで丸裸に出来る──

 

 

「──先生に指揮されているみたいな動き……だそうよ」

 

 

 ──オーパーツ、シッテムの箱が。

 

 

 

 

 

「穢土転生はヒナ委員長だけかと思ったら、まだこんなに…!」

「アリウスの生徒!? しかも、あれはユスティナ聖徒会…? 一体、何が起きて……」

 

 ゲヘナ自治区。

 穢土転生のヒナを捕らえ、虚妄のサンクトゥムも消失して一息をついていた所へ、再度の穢土転生軍隊。

 しかも、スバル達アリウス生からすれば、かつての同志達の死体。

 否応なしに、士気が下がるというものだ。

 

「強い人を蘇らせるのが良い使い方かと思ってたけど…! 死なない雑魚の方が何倍もうっとうしいな!!」

「先生、これはどうすれば…? ヒナ委員長の時と同じように、捕らえればいいのでしょうか?」

「数が数だ。術者であるシロコを叩くのが最も合理的だ……恐らくは、アトラ・ハシースに閉じこもっている、という点に目を瞑ればだが」

 

 しかも、過去の英雄を蘇らせて俺ツェエエッ! な、カブト式穢土転生ではなく。

 強い奴生き返らせたら反抗されるじゃん? 情報抜いたら後は爆弾代わりに返すわ。

 な、扉間式穢土転生。

 イオリとチナツが嫌悪感で顔をしかめるのも、良く分かるというものだ。

 

「それに、体の中にヘイロー破壊爆弾を仕込んでいる個体が居る可能性がある。あまり不用意には近づくな」

「ヘイロー破壊爆弾!? そんなものまで、あちらは持っているのですか…!」

「ヘイロー破壊爆弾…? スバル先輩、それって一体?」

「簡単に言うと、ベアトリーチェの仲間が作った兵器です。効果は、その名の通りのものですよ……」

 

 分身の扉間から、ヘイロー破壊爆弾の存在を聞いて、とても嫌そうな顔をするスバルとマイア。

 ベアトリーチェ時代を思い出したのだ。

 

「しかし……自動で動いているにしては、やけに統率の取れた動きをしていないか?」

「もしかして、意識があるのでしょうか?」

「でも、それにしては無口過ぎじゃない?」

「一応は、アリウスの制服着ているから、少しぐらいはこっちに反応しそうなんだけどね」

 

 FOX小隊が感じた違和感。

 意識を縛られて無理やり戦わされていたヒナとは違い、しっかりと戦術を練って戦っている。

 だが、こちらに対しては無反応。

 まるで、プレイヤーに操られる将棋の駒のように。

 

「強さはヒナ委員長には遠く及びませんが、手強いですね」

「まるで、こっちの情報が全部分かっているみたいな動き方……」

「この感覚……まるで、先生が指示を出してる相手と戦っているような……」

「確かに、この感じは風紀委員会全体で、先生に指揮を執って貰った時に似ていますね」

 

 その違和感の正体に、風紀委員会の面々が何かに気づく。

 相手はまるで、シッテムの箱を通して、扉間からの指示を受けているようだと。

 

「まさか……だが、あちらにもA.R.O.N.Aとシッテムの箱があるのなら、おかしくはない。それに……ワシに執着する連邦生徒会長ではなく、シロコの仕業ならば……」

「先生? 何か分かったかしら?」

 

 その言葉に、扉間はある可能性に思い当たる。

 

「サツキ、マコトと連絡は取れるか?」

「マコトちゃんと? もちろん出来るわよ。えーと、マコトちゃんの番号は……と」

 

 すぐに、この情報を他の学園にも伝えなければならない。

 そう直感した扉間は、サツキを通してマコトに連絡を取ろうとする。

 

「キキ、その必要はない。私ならここに居る」

「マコトちゃん! こっちに来てたのね?」

「私も先生に直接話したいことがあったからな。それに……」

 

 穢土転生達を吹き飛ばしながら、颯爽と戦車に乗ったマコトが現れる。

 

「キキキ、並行世界とはいえ、ヒナの情けない姿を見る、またとない機会だからな」

『……マコト』

 

 そして、雁字搦めに縛られた穢土転生ヒナを見る。

 因みに、ヒナ発案の火山の火口に投げ込もう作戦は、他の風紀委員達の猛反対に合い頓挫している。

 

「………醜いな、空崎ヒナ」

 

 だが、言葉とは裏腹にマコトの瞳には一切の笑みはなかった。

 そこには、戦友を思いやるような悲しみと優しさがあった。

 

「マコト、感傷に浸るのは後だ。敵に()()()()()可能性が出て来た。他の学園にも伝えて、緊急で策を練らねばならん」

「先生が!? また、穢土転生の術ですかッ! 卑劣な術ですね…本当にもう!」

 

 敵にも扉間が居る。

 その言葉に、また穢土転生の術かとアコがキレ気味に叫ぶ。

 何度も、自分が蘇らされて恥ずかしくないんですか? 

 

「ああ。その話だが、今しがたミレニアムから連絡が来てな……先程の先生の考察は()()()のようだぞ」

「ミレニアム? 本体の下に敵のワシが来たのか…?」

「おまけに、先生の持つシッテムの箱から『アロナ』が奪われたそうだ」

「アロナが…! 無事なのか!? いや、その前にどうやって……」

 

 マコトから聞かされた衝撃の事実に、思わず取り乱してしまう、扉間。

 

「……落ち着け、先生。先生の切り札が失われたのは確かだが、まだ負けたわけではないだろう?」

「ッ! ……すまんな。少し動揺しておったようだ」

 

 娘のように思っていたアロナの消失。

 その事実に、流石の扉間も動揺するがマコトの言葉で、すぐに落ち着きを取り戻す。

 

「敵のワシが、こちらに成りすます可能性があるな……」

「見分け方はあるのか?」

「穢土転生ならば見分け方は簡単だ。ワシに会う度に『解の印』を結ばせろ。それで穢土転生の縛りは解ける。理由をつけて断ろうとするなら撃って構わん」

「なるほどな……だが、もしも穢土転生ではなく、並行世界の生きた先生だった場合は?」

 

 穢土転生なら、解の印を結ばせれば良い。

 無理に操られているのなら解が出来ないし、仮に解をやればそのまま縛りが解ける。

 むしろ、こちらの戦力アップにつながる。

 

「本体はミレニアムに居る。本体以外ならば今ここに居るワシを含めて、怪しいと思うなら撃っても構わん。分身は死んでも消えるだけだ。そして……仮に、自分の意志でキヴォトスに害をなそうとしておるのなら──」

 

 だが、自分の意志で、守るべき子供達を傷つけている扉間ならば。

 

「それは先生でもなければ、千手扉間でもない、ただのクズだ──本体であっても撃って構わん」

 

 柱間の子供を守りたいという遺志を無視し、里を守るという忍道すら破る。

 そんなものは、生きていることすら罪だ。

 故に本体を含めて殺しても構わん。

 

「………分かった。そう伝えるとしよう」

 

 そう続ける扉間に、生徒達は何も言えない。

 あまりにも重い言葉だったが故に。

 

「それで、ワシと直接話したいこととは何だ、マコト?」

「ああ。虚妄のサンクトゥムに、エネルギーを送り込んでいた存在の場所を発見した件なのだが……試しに撃ち込んだミサイルが、そこに何もなかったかのように通過してしまってな」

「ふむ…恐らくは、多次元解釈システムだな。ウトナピシュティムと同じ機能を積んであるのだろう。ワープも可能なのだ。それぐらいは朝飯前というわけか」

 

 アトラ・ハシースには物理攻撃は通用しない。

 ウトナピシュティムと同じように多次元解釈で、そこにあってそこにないバリアを張れる。

 故に『このアトラ・ハシースに一切の攻撃は通用しない』神威状態になれるのだ。

 

「それについて、詳しく聞きたくてな。こちらから相手には本当に干渉が出来ないのか?」

「多次元解釈は無数の可能性を確定させずに纏うシステム。確定していない世界には、こちらから干渉は出来ん。簡単に言えば、当選番号の決まっていない宝くじを当てるようなものだ。あちら側で当たらないという結果にいくらでも変えられる」

 

 確定していない。

 つまり、攻撃を受けていない世界線をいくらでも選べるのだ。

 言わば、究極の後出しじゃんけんである。

 

「なるほどな……だが、やはり()()()()()

「おかしいだと?」

 

 しかし、マコトはそんなことはあり得ないと告げる。

 

「本当に確定していない空間をバリアに使っているのなら、一体──虚妄のサンクトゥムを作るエネルギーは()()()()()()()()()()?」

 

 多次元解釈バリアがアトラ・ハシースを全ての干渉から遮断するのなら、一体どうやって虚妄のサンクトゥムを作り上げたのかと。

 

「そうか…! 同じエネルギーなら多次元解釈バリアを通過できる。もしくは、エネルギーを放出している間は、存在が確定している故、()()()()()を当てられるというわけか!」

「キキキ! その通りだ。そして、私だけでなく他の学園もエネルギーの流れは観測できた。熱量か、質量かは知らんが……とにかく、敵の使うエネルギーは摩訶不思議エネルギーではなく、確かにこの世界に存在するものというわけだ。相手に利用できるのなら、こちらにも使えない道理はない」

 

 観測出来るものは必ず存在する。

 例え、多次元解釈で無数に存在すると言われても、観測者が現れた時点で確定するのだから。

 

 虚妄のサンクトゥムは、アトラ・ハシースがエネルギーを送って作ったものだ。

 つまり、アトラ→多次元バリア→虚妄のサンクトゥムという流れになっている。

 そして、本当に多次元バリアが何ものも通さないのなら、上記の流れはあり得ない。

 多次元バリアに阻まれて送れないのだから。

 

「真に確定していない状態なら、お互いに不干渉のはずだ。こちら側だけに一方的に干渉など出来る訳がない。引き籠っているだけならともかく、こちらに攻撃をしてきている状況なら猶更だ」

 

 そして、多次元バリアを通った後に、エネルギーとして確定させていたとしても、それもまた穴となる。

 何故なら、電波か物理かは知らないが、それもまたバリアを貫通していることに変わりはないのだから。

 結局の所、それと同じものならばバリアを無効化できる。

 

(虚妄のサンクトゥムは時限爆弾。それもエネルギーを貯めていって爆発するタイプ……その理屈を考えれば、アトラ・ハシースから常にエネルギーが流れているはず。エネルギーの流れを逆流させれば、あるいは……)

 

 つまり、エネルギーだけなら例外的に通れるか。

 もしくは、エネルギーを通している瞬間だけは実体化している。

 やはり…神威か…! 

 

「どんな術にも弱点は必ずある……ワシとしたことが、こんな単純なことを見落としておるとはな。感謝するぞ、マコト。やはり、お前は実に優秀な生徒だな」

「キキキ! 当然だ。このマコト様は、いずれはキヴォトスの全てを支配する存在……並行世界の人間ごときに、私のキヴォトスを与えてやるものか」

「あなたのものでもないと思うけど……」

 

 扉間に褒められて、上機嫌に笑うマコトにヒナがツッコむが効果はない。

 いわゆる、最高にハイッてやつなのだろう。

 

「さて、ならば早速、敵の本丸へ攻撃……と、行きたいところだが、まずは、現実的な問題からだな」

「敵の穢土転生ね。マコトちゃん、何か名案でもあるの?」

 

 サツキからの問いかけに、マコトは再び扉間の方を見る。

 

「先生。穢土転生が解を出来るというのは、本当なのだな?」

「ああ。一応はユメで確認済みだ」

「梔子ユメか……いや、今はそれよりもだ。解術は()()()()印を組ませても可能か?」

 

 マコトは穢土転生のヒナの方を、見ながら尋ねる。

 シングルヒナからダブルヒナに増やす魂胆なのだ。

 

「………穢土転生はワシの作った術だが、その方法は通常の使用においては、リスクにしかならんからな。試したことはない」

 

 色々と穢土転生の実験はしているが、自分以外が使う場合の穢土転生は研究不足だ。

 ヒルゼンが使えた可能性は高いが、彼の性格上実験で死者を弄ぶのは好まない。

 そして、扉間もそれを正面から言われたら、『フ、甘いな』とか言いながら柱間ポイントを増やすだけなので、やったことはないのだ。

 

 そもそも、解を安全に試すには元仲間の死体を使う必要があるので、その点もネックだったのだ。

 流石の扉間も、仲間の死体を許可なく穢土転生したくはない。

 

「ならば、試す価値はあるということだな? ヒナ、それから腕に自信のある者は、私に続け。そこに転がっている方のヒナの拘束を解いて、無理やり印を組ませるぞ。先生、印の指導を頼む」

「なッ!? 正気ですか! 私達がどれだけ苦労して、穢土転生のヒナ委員長を拘束したか分かっているのですか!?」

 

 眠れる獅子を解き放つ。

 その行動に、散々苦労したアコは当然噛みつく。

 だが、マコトはそれを鼻で笑う。

 

「フン、死人が蘇るという狂気に満ちた状況で、正気など何の役に立つ? もしも失敗して再び暴れる場合は、我が万魔殿の総力を以て再度拘束する……難しい場合は、正式に風紀委員会に依頼を出す」

「途中まではカッコよかったんですが……」

 

 まあ、カッコよく言い放ってはいるが、割と他人任せ。

 流石に指揮は取るが、ヒナを自分1人で抑えられる程強くないことは、重々承知だ。

 

「……いいわ、試してみましょう」

「ヒナ委員長!」

「死なない穢土転生が味方に付くなら、ヘイロー破壊爆弾の危険は一気に下がるわ。それに()()こういった多対一が一番得意だし」

「キキ! ああ、その通りだ。たまにはいいことを言うな、ヒナ」

 

 その場の最大戦力が肯定したことで、マコトの意見が通る。

 

「先生も構わないな?」

「仕方あるまい……」

 

 扉間も、リスクはあるがやるしかないと腹をくくる。

 アロナも居ない今、取れる手段は限られているのだから。

 

「悪いが、貴様には拒否権はないぞ……もう1人のヒナ」

『構わないわよ。ただ、失敗した時は一番にあなたを狙うわ』

「キキキ、死んでも口の減らん奴だ。どうやら、馬鹿は死んでも治らんかったように見える」

 

 そして、最後の最後に、当事者の穢土転生ヒナに声をかけるマコト。

 

 

 

「ここは地獄(ゲヘナ)だ。1人ぐらい死人の住人が居ても構うまい。せいぜい、死んでも()()()ために働くがいい……戦友(とも)よ」

 

 

 

 ──解ッ! 

 




次回は連邦生徒会長の下に突撃をかます回になりそうです。
本当はキリ良く、100話でアロナの真実を書く予定だったのですが……。

プ劣様「敵が一番油断してるところを襲うのが、一番成功率が高いに決まっておる」

などと、最もなことを言われたので次回以降に持ち越しになりました。
というわけで、同じこと喋れそうな人間に吐かせます。

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