「連邦生徒会長を潰す」
扉間の言葉に、ミレニアムの教室は静まり返る。
「えーと……出来るの? おじさん達、何も出来ずに負けたんだけど」
「戦って負けたのなら、対策を練ることも出来ますけど……それ以前の問題でしたから」
「ノノミ先輩の言う通りです。それに、虚妄のサンクトゥムは無くなったそうですけど、穢土転生の大群がアビドスに来ている可能性も……」
まず、扉間の意見に反対の意見を出したのは、ホシノ達アビドス勢。
33対4で負けた連邦生徒会長との戦闘…もとい、インチキを思い出して眉を顰める。
「いや、むしろ潰しに行くならば今しかあるまい。奴の妙な能力はBluetooth銃を使っていた。要するにこれが無ければ、奴は自由に能力を行使できんはず……そして、ウトナピシュティムも破ったことで、精神的にも動揺しているはずだ。ここで畳みかけるしかない」
だが、扉間はその意見を否定する。
せっかく、もぎ取った勝利。
シロコ*テラーの介入が無ければ、あのまま連邦生徒会長を捕らえられていたはずだ。
「そして、奴が奪ったサンクトゥムタワーもアル達が破壊した。現状奴らは丸裸も同然。変に息をつかせる時間を与えるよりはマシだ。何より……」
連邦生徒会長が使うと不味いサンクトゥムタワーも、アル様の活躍により崩壊した。
え? ついでに、D.U.も半壊した?
リンちゃんも苦虫を噛み潰したような顔で、コラテラルダメージと自分に言い聞かせているので、ヨシ!
「追い詰められて、あちらのシロコと本格的に手を組む前に潰す必要がある」
「え…? 何で、最初から協力してないの?」
セリカが何で仲間割れしてるのかと、困惑した表情を浮かべる。
アビドスという固い絆で結ばれている彼女からすれば、シロコがそんなことをするとは思えなかったのだ。
「それは知らん。ワシも仲間割れするのではなく、協力しろと伝えたのだがな……」
「どうして、敵に対して指導しているのですか?」
「敵であっても、ワシの生徒だからな。そもそも、お前も最初は似たようなものだったと思うが? ワカモ」
そもそも、本気で殺すつもりなら敵と
やるのは尋問だけだ。
普通に会話をしているのは、相手が子供で生徒だからこそだ。
「でも……あっちの私は一度ワープで、連邦生徒会長を助けに来たんだよね? だったら、また来るんじゃないかな?」
「そうだな、お前は優しい子だ。連邦生徒会長が追い詰められれば、なんだかんだ言って助けに来るだろう」
「ん、もっと褒めて」
割と嫌われてもしょうがない態度の連邦生徒会長だが、そこはシロコ。
同盟を結んでいるうちは、なんやかんや理由をつけて助けに来るはずだ。
「故に、そこが狙い目なのだ」
だからこそ、扉間は先に連邦生徒会長を狙うのだ。
「もう1人のシロコはアトラ・ハシースに閉じこもっているはずだ。アトラ・ハシースを直接叩く方法は各学校で絶賛議論中だが……こっちに来て貰えるのならば、それが一番手っ取り早い。手数は多ければ多い方が良いからな」
「ワープを駆使する相手に、それは迂闊ではないかしら……先程のもう1人の先生のように、今この瞬間にでも飛んでくる可能性も十分に考えられるわ」
「だからこそだ、リオ。ワープは確かに非常に強力な術だ。だが、決して無敵ではない。ワシも良く使っておったが、どこにどのタイミングで飛ぶかを読まれて、カウンターを受けたことがある。つまり、必ず相手が来なければならない状況を作り出して、そこに罠を張る」
思い出すのは、マダラとの戦い。
扉間なら間違いなく勝ちを確信した瞬間に後ろに飛んでくるよな、と身内読みをされて、剣山にされた苦い思い出がある。
何が嫌って、マダラに心底自分の考えを理解されていたことが嫌だ。
「死者蘇生、無限爆破、分身、ワープ、おまけに魂を抜き取る術……先生は怪獣とでも戦っていたのですか?」
「そう言えば、この木遁もビルぐらいは崩せそうだもんね……先生1人で世界征服でも出来ちゃいそう」
ヒマリとユメが、今更ながらに忍術のデタラメさに目を丸くする。
日常生活のレベルならともかく、戦争での技術においては忍世界の発展度合いはずば抜けてる。
「怪獣か……まあ、居たな」
「本当にいたんですか……先生の居た世界に俄然興味が湧いてきました」
「因みに、どんな怪獣ですか? アリス、気になります!」
「お前達に分かり易いものだと、例えば……九尾だな」
「和風RPGの敵キャラの鉄板ですね。ヒロインとしても優秀なキャラ設定です!」
アリスの好奇心旺盛な瞳を見ながら、扉間は答える。
今はそれどころではない状況。アロナの行方も分からない。
だが、戦時中の緊急事態の中でこそ、子供特有の無邪気さが救いになることを扉間は良く知っている。
戦争の相手は敵だけではない、己自身の心も容易く人を
「ただまあ……主にワシが戦っていたのは、人間だったがな。九尾も脅威ではあったが……人間の方がよほど恐ろしい敵だった」
「……どんな世界も最も恐ろしいのは人の悪意なんですね」
扉間の言葉に、ケイが人の心こそが悪なのだなとしんみりと呟く。
「いや、悪意はもちろんだが、実際に九尾よりも強い人間が結構な数でいてな? 特に兄者などは、九尾と同程度の怪獣を気楽に8体ほど捕まえて来るわ、本気で戦うと地図を塗り替える様でな。昔はよく、地図の書き換えで苦労させられたものだ」
「な に そ れ こ わ い」
訂正。物理的にも恐ろしいのは、人間だった。
「さて、昔話はまた今度の機会にだ……今はあちらのシロコ達の対策を考えんとな」
「でも結局の所、あっちのシロコちゃんや先生がワープしてきたら、どうするのさ~? カウンターするにしても、爆弾だけワープでおじさん達に送り付けてきそうだよね? 特に先生の方は」
「ん、私は爆弾だけは送らない。財布の回収が出来なくなるから」
「はい。ゲームによっては、ドロップアイテムはエリアの移動で消えてしまいますからね」
扉間にワープが出来るなら、自分で戦いに来ずに爆弾だけ送りつけるはず。
そんな生徒達の厚い信頼が、扉間を襲う。
「いえ、恐らくはワープで飛べるのは自分と、身に着けているものぐらいだと思いますよ」
「どうして分かるのかしら? ヒマリ」
「カイザーPMCの基地で調べたウトナピシュティムの内部構造を見るに、あのワープは膨大な演算装置を利用しての計算づくでのワープ。魔法や忍術ではありません。恐らくですが、アトラ・ハシースも同様の原理だと思います。そうなると当然、少しの計算のずれが悲惨な事態を引き起こしかねないかと」
ヒマリの考察は、ワープに失敗して『石の中に居る』や体がバラけないようにするためだ。
計算式に変数が加われば、当然面倒なことが起きる。
だから、本体と身に着けたものだけに限定しているのだろうと。
「自分という最も理解しやすい存在ではなく、他のものまで大量に送ろうとすれば計算にズレが生じやすいということね……」
「もちろん、船そのものがワープしていたことを考えれば、安堵は出来ませんが。ただ、今までやっていないのは、出来ない理由があると考えるのが自然かと思います」
「確かにな。そもそもの話、そこまで自在にワープが出来るのなら、虚妄のサンクトゥムを出す手間で、海の水でもキヴォトスの中に大量にワープさせれば、それで滅ぼせる。ワシなら、そうする」
水の無い所でこれ程の(ノアの)洪水を!? (唯一神以外)信じられん!
「そして何より、虚妄のサンクトゥムへのエネルギーの流れを辿ることで、アトラ・ハシースを見つけることが出来た」
「ええ……自分以外のものをワープさせられるのなら、エネルギーを
「ああ。そして、空の上に隠れている臆病者ならば、普通はその痕跡も消すはずだ。だが、やっていないということは、出来ないということだ。そもそも、虚妄のサンクトゥムを海の上などの安全な場所で作って、爆発寸前にワープさせれば初手で終わらせられる。ワシなら、そうする」
ワシならそうする(迫真)。
卑劣な思考の人物に、ワープ技を与えてはならない、良い例である。
「んー……取り敢えず、ワープで襲ってくるとしたら本人が来るってことで良い?」
「その認識で構わん。まあ、それだけでも十分脅威だがな」
一応の納得を見せるホシノだが、表情は険しい。
状況が相手にとって、有利なことには変わらないのだ。
何よりも。
「……アビドスは今どうなってるか分かる?」
ガラ空きのアビドスに、シロコ*テラーが襲って来かねないからだ。
掟破りの地元走りで、アビドスを
土地勘はバッチリだ。
「アビドスの状況ね? アビドスは現在、目立った報告は無いわ。2つ目の虚妄のサンクトゥムを壊す際に、ビナーが出現したようだけど……無事に撤退に追い込んだみたいよ」
「ビナー……何しに来たんだろう?」
「アビドス高校は、長年のデータを紛失したと聞いてはいるけど……ユメ…先輩なら、何か知っていないかしら?」
リオがマイベストフレンドユメに、ビナーについて何か知らないかと尋ねる。
ビナーの情報は、アビドス生徒会が代々集めていたが、校舎の移動の際に紛失。
現生徒会長のホシノも何も知らない状態。
モグラたたきみたいに、頭を出したら殴っているだけである。
「私も分かんない。攻撃方法とか、弱点とかは知ってるけど……後、ずっと前から居るってことぐらいしか」
「そう……どちらにせよ、今は関係のない話ね。その後のアビドスの情報だけど、穢土転生は特に出てはいないようよ」
ビナーのことは気にはなるが、まあ後回しで問題はない。
そう判断したリオが、アビドスの現状について話を戻す。
「穢土転生って……もう1人のシロコ先輩が出しているのよね?」
「アビドスだけは傷つけたくないんでしょうか……」
「どうやら、まだ人の心は残っているようですわね……」
セリカ、アヤネ、ワカモがしんみりと呟く。
やはり、故郷を直接壊すのは気が引けるのかと。
「いや、アビドスに戦力を割く、戦略的価値が低いからだろう。誰もおらんところを襲っても、何のリソースも削れんからな。穢土転生を送るのならば、他の人の多い学校に送った方が良い。穢土転生の駒とて無限ではない」
「ん! そんなことは…そんなことは……あるかも」
「私達をアビドスに釘づけにしても、全体に影響があるのは、ホシノ先輩ぐらいでしょうからね~」
だが、残念。
アビドスなんて過疎地に兵士を送っても、相手のリソースを減らせない。
だって、既に0に近いのだから、誤差だ。
「まあ、校舎なら壊されてもまた直せばいいし……今の校舎も移転したものだから、最悪、また移動でも」
「……ユメ先輩がそう言うなら、ここに残ります」
校舎を壊せば、異常アビドス愛者のホシノの足止めは可能かもしれない。
だが、今はユメが居る。
そもそも、ホシノが異常アビドス愛者になったのはユメの死が原因。
今も愛着はあるが、生身のユメが居る状況で、わざわざ校舎を優先したりはしない。
また、目を離した隙に『ここに居たんですね……ユメ先輩』になっても困るのだから。
「あちらのシロコもそれが分かっておるのだろう。人の居ない場所で混乱など起こしようがない」
「全くもってその通りですわね。
「ひぃん……で、でも、アビドスには和があるから……」
アビドスを襲う価値はない。
そうズカズカと告げる扉間とワカモに、ユメが涙目になる。
真実とは時に、何よりも残酷なものだ。
「そう言う訳だ。
「ついでにアビドスへの補助金を引きずり出し……並行世界だから無駄かぁ、うへへ」
それぐらいの役得はあってもいいと、冗談めかしてホシノが笑う。
「ああ、それとだ。あちらのシロコが襲ってきた時の対処法を教えておく。特に、セリカとアヤネはよく覚えておけ」
「私達?」
「何をするのでしょうか? シロコ先輩の弱点を今のうちに、シロコ先輩に聞いておくとかですか?」
「ん、黙秘権を排除する」
アヤネの言葉に、シロコが真顔で告げる。
教えたくはないのだが、可愛い後輩2人の命がかかっているのなら仕方ない。
そう、腹をくくったのだ。
だが。
「いや、そうではない。命乞いと、糾弾だ」
「い、命乞い?」
「糾弾…ですか?」
扉間はそれを否定する。
策があるのだ。
「あちらのシロコの様子を見るに、ほぼ確実にあちらの世界のお前達は生きておらん。そして、シロコの世界を滅ぼした発言と、後に引けないという、割り切れてはおらん表情……『助けて』や『どうして、殺したんですか?』などと、幅広く当てはめられそうなことを言ってみろ。恐らくは、一瞬は動きが止まるはずだ。その間に逃げるなり、攻撃するなりしろ」
とびっきり卑劣な策が。
「ひ、卑劣漢……」
「ひ、人の心とかないんですか……」
「戦いの場に、感情を持ち込むようでは二流だ。良い授業になるだろう」
大好きな後輩からの言葉ならば、誰だって少しはダメージを受ける。
なので、これはその大切な後輩を守るための手段なのでセーフだ。
「でも……本当に大丈夫でしょうか? 先生が言うには、謎の力は使えないかもしれないそうですけど……連邦生徒会長はとんでもない強さと聞きますし」
だが、そんな究極の作戦の中でも、ノノミは不安そうに眉を曲げる。
結局の所は、連邦生徒会長を倒せなければ意味がないのだ。
勝負にすら持ち込めずに負けたという事実は、不安という種を彼女達の心に孕ませている。
「案ずるな」
だが、それでも、扉間は告げる。
「囮役はもちろんワシが行く。ワシはどうやら、あやつの想い人らしいからな」
もしもの時は、自分が連邦生徒会長を引き付けると。
「ちょっと待ってください!」
「何だ?」
だが、そこへケイのツッコミ、もとい心配の声が間に入る。
「分かっているのですか、先生? 今の先生はアロナの居ない、か弱いご老人です」
「「「「「「か弱い?」」」」」」
「肉体強度は、か弱いままでしょう! 今は他の面での話はしていません!!」
揃って首を捻るアビドス勢に話を遮るなと、怒りの白目を見せる、ケイ。
なお、アビドスの中でもユメだけは、扉間と関りが薄いのでケイの言葉に同意している。
「とにかく、銃弾すら防げない今の先生は、前線に出るべきではありません!」
「ケイ。心配してくれるのは嬉しいが、ワシの生きて来た戦場とは元よりそういうもの。今更の話だ」
「だからといって、何の対抗策も持たずに戦場に出るのは言語道断です! 素足で割れたガラスの上を歩くようなものです。何か対策を考えてください! ……先生に死んで欲しくないのは、何も連邦生徒会長だけではありません」
アロナガードはもちろん、Bluetooth銃も十全に使えない。
故に、ケイは心配して扉間を戦場に行かないように説得する。
「フゥー……対策があればよいのだな?」
「……百歩譲って認めます」
「ならば、対策はある。実は、極秘でワシの分身に
「あるもの? シャーレの地下? そこに何があるのですか?」
しかし、扉間はしぶしぶといった感じで秘策を明かす。
身内にすら明かしていない手。
目の前で爆破を見たシロコ*テラーだからこそ、想定出来ないであろう手を。
「
「
「己で試すのは初めてだが……あれならば、壊れた
あるものとは壊れた大人のカードのこと。
ただし、一度限りの使用限定だが。
「壊れた大人カードの忍術は、“飛雷神の術”。マーキングした位置にワープ出来る忍術だ」
「……もしもの時は、それで逃げるということですか?」
「ああ。もしもの場合は逃げることに使うことも出来る。それは嘘ではない」
「どうして断定した言い方にしてくれないんですか?」
絶対に逃げるよとは言わない、扉間。
状況次第では攻撃に使えるから、しょうがないね?
「アロナガードも緊急時の防御手段だ。それ以外には使わないのは、どちらも一緒だ」
「
「……怪しいですね」
ワカモの非難するような言葉に、ケイも疑いを深める。
扉間が防御を投げ捨ててでも、攻撃に出ることがあるのは既に証明されているのだ。
「そう心配するな。あちらのワシと違い、ワシにはお前達がついておる。頼りにしておるぞ」
「私達が居るからこそ、自分の命よりも優先しそうで心配なのですが………仕方ありません。
「何?」
何かを決意したように告げるケイに、扉間も意表を突かれる。
ケイは、扉間を守りたいのだ。
シッテムの箱の中でアロナとルームシェアをしていた時に、アロナの決意を聞いていたが故に。
今は、友が守れなくなっているからこそ。
「──シッテムの箱には私が入ります」
動ける自分がその意志を引き継ごうとする。
「ケイ!? それは、大丈夫なんですか…?」
「安心してください、アリス。元々、私の本体はデータであることに変わりはありません。今の体からもう一度、AIとして……
ケイの下した決断。
それは、再びシッテムの箱の中に入るということ。
ただし、今回はアロナという監視役も居ない状態で。
「確かに理論上は可能ね……そして、ケイがシッテムの箱を扱えるのならば、先生の防御手段や攻撃方法も元に戻せる」
「ですが、ケイ。あなたは良いのですか? あなたは1人の人間として生きていく……そう決めたのではなかったのですか?」
リオがケイの提案の合理性を支持し、ヒマリが感情面で本当に良いのかと尋ねる。
自分を機械の様に扱うのは、人として生まれ変わったケイには、不適切ではないかと。
「ウタハも、自分の体を改造してみたいと言っていました。私が人間だと思えば、ボディの違いなど些細な違いでしょう」
水着と思えば、下着も水着。
AIボディでも人間と思えば、それは人間なのだ。
ただし、アバンギャルドボディ。お前は通さない。
「それにむしろ、そちらの方が良いのですか? 私は世界を滅ぼす鍵。そんなものにシッテムの箱という強力な武装をつけるのですよ? 大変なことになる可能性も考えるべきです」
ケイが少し皮肉気に笑いながら、心にもないことを告げる。
自分の裏切りの可能性も探るべきではないのかと。
「ケイ、ワシはお前のことを信じるとは言わん」
「先生! ケイを信用出来ないのですか!?」
「落ち着け、アリス」
アリスがプンプンと擬音を出しながら、扉間に抗議の声を上げる。
「信じるという行為は、確定していない事象へ行うことだ。故に、ケイを信じる必要はない」
「……要するに、ケイは絶対に裏切らないと言っているのですか?」
「分かり辛い言い方で、すまんかったな」
「ええ、先生の言う通りです。TSC3が開発されるまでは、この世界には存続してもらわないといけませんので」
新作ゲームの発売されない世界など認めない。
しかも、3作目は長門いわくシリーズの出来を決める作品。
完結編が出なければ、死んでも死にきれない。
「では、アロナの留守の間は、この──
こうしてケイに、Bluetooth機能の搭載が決定されるのだった。
「よし、決まりだな。それでは、連邦生徒会長を倒しに向かうぞ!」
作戦会議も終わり、いざ作戦決行といったタイミングで。
「……先生はそれでいいんですか?」
「ユメ?」
ユメがポツリと呟く。
「連邦生徒会長ちゃんと戦って倒す作戦で、本当にいいんですか?」
「……なに?」
「私は先生達の事情を全部は理解できないけど……先生は本当に戦いたいんですか? 今までもそうですけど、先生が生徒と戦うのって辛い事じゃないですか?」
並行世界とはいえ、自分の教え子に銃を向ける行為を、本当に扉間が受け入れているか。
答えは簡単だ。
「先程も言っただろう。戦いの場に、感情を持ち込むようでは二流だとな。忍とは、心に刃を押し当てられながらも、忍び耐える者のこと。この程度で動けなくなるワシではない」
「やっぱり、辛いのは辛いんですね」
辛くないわけがない。
ただ、心と指を切り離して動けるだけ。
それが忍なのだから。
「痛いなら痛いって、辛いなら辛いって言っていいと思うんです。戦いたくないのにお互いに傷つけ合うより、まずは腹を割ってしっかり話し合いをした方が……」
「まったく……ユメ先輩は甘いんですよ!」
ユメは甘いのだと、ホシノが辛辣に言い放つ。
強盗集団と化したアビドスのリーダーは、根っこが好戦的なのだ。
「そんなことだから、いつもいつも騙されて……バカのままじゃ、この世界は生き辛いのが現実ですよ」
「そうだね。でも、私はそうやって賢く生きるよりも……一生バカのままで良かったって思ってるよ」
「――ヒュッ」
私はバカのまま死ねたから。
そんなことを言って、ホシノのメンタルに一撃必殺のカウンターをぶち込む、ユメ。
昔の感覚に戻って、辛辣な言葉を言ってしまったホシノの自業自得である。
「きっと、先生やホシノちゃんの考えの方が正しいんだと思います。でも……私はチャンスがあるうちは、諦めたくない。どんなに絶望的な状況でも……例え1人しか残っていないんだとしても……諦めなければ、未来の芽はちゃんと生えて来るよ。私は今まさにその光景を見ているから」
「ユメ…先輩……」
たった1人、アビドスに取り残されても諦めなかったユメの言葉は重かった。
絶望の状況でも足掻き続けたことで、ホシノがやって来た。
そして、ノノミ、シロコと続いた。
さらには、アヤネやセリカ。
なんか、転校して来たワカモと道は確かに続いている。
全ては、馬鹿の一つ覚えで諦めなかったから。
「……そう言えば、アロナが言っていましたね。『先生の行動は正しいから。先生は大人だから。先生を信頼しているからこそ、誰も先生を叱ってくれません』……と」
ユメの言葉に、ケイが昔の話を思い出す。
まだ、シッテムの箱の中に居た時に、アロナと交わした会話を。
「そして――『だから、私が先生の隣で叱ってあげるんです』とも」
正しいという理由で、心を傷つける優しい人を叱ってあげるのだと。
まるで、扉間がいつも柱間に叱られていたように。
「今の私はアロナの代理です。仕方が無いので、私が先生を叱ってあげるとしましょうか。ええ、代理なので」
「先生、もう一度、連邦生徒会長ちゃんと話してくれませんか? 私達が何とか話し合えるように場を整えるので」
ケイもユメの背中に続くように、話し合い肯定派に変わる。
これも、人と人とのつながりの結果だ。
(ユメ……まるで、かつての兄者を見ているようだ)
ユメの瞳の中に燦然と煌めく火の意志。
それを見て、扉間は昔の柱間を思い出す。
「そう言えば……兄者も、何度足蹴にされてもマダラと和解をしようと足掻いていたな」
「先生…!」
殺し合いを続けながらでも、決して和解を諦めずに話し合おうとした姿。
そして、最後の最後に手を取り合うことが出来たことを。
「ふぅ……少し忍の感覚に戻り過ぎていたようだな。平和の世の中で、忍術など使うべきではないな」
「じゃ、じゃあ!」
「ああ。ユメ、お前の言う通り――まずは互いの
人と人とが
「さて、ここまで言ったのだ。全面的なフォローを頼むぞ?」
「はい、分かりました……あ! それともう1つ……今の話とあんまり関係がないけど、聞きたいことが」
「今度は何ですか、ユメ先輩?」
さあ、連邦生徒会長へのリベンジだと燃え上がる、アビドス勢。
その中でユメだけが、ちょっと申し訳なさそうな顔で尋ねる。
「連邦生徒会長ちゃんの名前って……何? ちゃんとした名前で呼んであげたいし……ごめんね、こんな簡単なことも知らなくて」
ユメはここ2年間ほど死人だったので、名前を知らないのも無理はない。
ユメ時代は恐らくは会長も一般生徒だったのだから、直接の親交でもなければ知らないのも当然だ。
「なーんだ、そんなことですか。えーとですね、連邦生徒会長の名前は……」
ホシノが、こんな時でもユメ先輩はユメ先輩だなぁと思いながら、答えようとする。
「……あれ? ご、ごめん、ノノミちゃん。連邦生徒会長の名前ってなんだったっけ?」
だが、喉から名前が出てこない。
「ホシノ先輩、しっかりしてください。連邦生徒会長の名前は………あ、あら?」
「ん? 知ってると思ったけど……そう言えば、みんな連邦生徒会長としか言ったことないや」
いや、頭の中ですら靄がかかったように、名前が浮かび上がらない。
まるで、唱えることすら禁じられた様に。
「そう言えば、アリスも知りません。ヒマリ先輩、全知のヒマリ先輩なら知っていますよね?」
「!? も、もちろんですよ、アリス。えーと……お、おかしいですね。このキヴォトスの歴史に明けの一等星の如く輝く、天才病弱美少女ハッカーが物忘れなど……いえ、記憶を失っていくという設定も有りではありますが」
「これだけの人間が居て、誰も知らないことがありますかね?」
「そう言えば、
名前とは、
生まれた時に他者から名づけて貰う、大切な贈り物。
だとしたら──
「ちょっと待って頂戴……おかしいわ。調べても名前が出てこない」
「そんなことってあるんですか? 偉い人の名前が出てこないなんて……書類でも名前は使うと思うんですが」
「それもおかしいわ。でも、それ以上にこのことに対して、今まで誰も──
世界を初めて作った神様の名前は、一体誰がつけてあげるのだろうか?
「ワシもだ。認識を阻害されておるのか…幻術なのか…!?」
その神様を知らない人はいないのに、名前だけは誰も知らない。
唯一絶対の神様の忘れられた名前。
あなたは、あなたの神、主の名を、みだりに唱えてはならない。
主は、御名をみだりに唱える者を、罰しないではおかないであろう。
おかしいとは思わなかったですか?
友人であるリンやウトナですら、決して彼女の名前を呼ばないことを。
原作で名前が明かされていない都合だと思っていましたか?
今までの全ての文で、連邦生徒会長としか書いていないことを。
「まさか……全ての認知が歪まされていた? このキヴォトス……いえ、
契約の箱に入れられた十戒を守り続けたが故に、皮肉にも忘れ去られた名前。
誰も呼んであげることが、出来なくなった本当の名前。
「そうか……どうやら…やらなければならんことが、また1つ増えたようだな」
人としての名前がない故に。
ただ1人だけ、生徒ではなく神としての側面が強調されてしまった存在。
そんな彼女を1人の子供に戻すには。
「全く……子供に名前をつけるのは、初めてなのだがな」
天の父でもなく、この世界の人間でもない──人の父が名前を授けるしかない。
『連邦生徒会長! 大変です!』
「A.R.O.N.Aちゃん? どうしたの、そんなに慌てて」
廃墟になったサンクトゥムタワーを前に、これからどうしようと途方に暮れていた連邦生徒会長。
そこへ、周囲を警戒していたウトナからの緊急の連絡が入る。
『せ、先生の大群が攻めてきています!!』
「先 生 の 大 群 ?」
ウトナが映し出す映像を慌てて見る、連邦生徒会長。
そこには、多重影分身で──1000人近くに膨れ上がった扉間の姿があった。
「お、おお……出来るとは知ってたけど、実際に見ると…とんでもない迫力……」
『……モテモテですね、連邦生徒会長。これが逆ハーレムの術というものですか』
「ちょっと前向き過ぎじゃないかな? A.R.O.N.Aちゃん」
こうして親子の話し合いのための作戦が、スタートするのだった。
ヤハウェ系ヒロインを書くのは実は2回目。
次回は28日に投稿します。
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