千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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102話:(はらわた)

 

「多勢に無勢だ、行っけ~!」

 

 1000人の扉間と共に飛び込んでくるのは、ホシノ。

 因みに多勢に無勢とか言っているが、このぐらいの数ならホシノは1人で勝てたりする。

 

「連邦生徒会長に告ぐ」

「お前は既に包囲されておる」

「大人しくしておけば、何もせん」

「そして、ここにカステラとイチゴミルクがある」

「ワシの望みは話し合いだ」

「繰り返す。こちらの要求はお前との話し合いだ」

「戦闘の意思はない」

「共に、食事でもとろう」

「そして、腹を割って話すのだ」

 

 卑遁・人海戦術(1人)!! 

 

「だったら、なんでこんなに大勢で囲っているんですかねぇ…?」

『話し合いという言葉を、辞書で調べ直してください。トビラマ先生』

 

 扉間ハーレムの術で増殖した分身達が、交互に連邦生徒会長へと声をかけていく。

 城の周りを軍勢で囲んで話し合おうは、完全に降伏勧告だとは言ってはいけない。

 後、従わない場合はこの戦力で襲うぞという脅しも兼ねている。

 

「確かあちらが、ウトナちゃんですね~」

「ん、出身地がアビドス砂漠なら、当然アビドスの生徒。こっちに来て? Welcome to Abydos」

『人を埋蔵金扱いしている人に、ついて行くわけがないでしょう……身代金目的ですか?』

 

 そして、その横ではノノミとシロコが、ウトナを勧誘している。

 だが、自分のことを売ろうとしているシロコに対して、ウトナは塩対応だ。

 まあ、当然の反応である。

 

「失礼な。アビドスは死んでも身内を売らない」

『身内以外なら売るように聞こえますが?』

「うるさい、行こう!」(ドン!!)

『本当に勧誘する気があるんですか?』

 

 体力の減っていないポケモンに、モンスターボールを投げるかのようなシロコの勧誘。

 要するに、まず成功するわけがない。

 むしろ、現実である分だけ相手を怒らせている。

 

「セリカ……バトンタッチ」

「え、もう!?」

「仲間に引き入れられないなら、強奪したいっていう銀行欲(ぎんこうよく)が抑えられない」

「銀行欲!?」

娑婆(シャバ)に居られる、ギリギリの思考ですね』

 

 他の誰かの下に居るぐらいなら、このまま奪い去ってしまいたい。

 そんな銀行欲を募らせるシロコに、ウトナは白い目を向ける。

 やはり、七囚人などより、こいつらの方を収監するべきなのでは? 

 

『そもそも急に現れて、何が目的なのですか? 話し合いをするのなら、武器ぐらい置いてきてください。私は一応、非武装ですよ?』

「それについては、私が解説します!」

「アヤネちゃん、お願い!」

 

 アヤネェ! お前は解説にとっての、新たな光だ!! 

 

「私達の目的は、先程先生の内のどなたかがおっしゃられていた通り、話し合いです。ただし、ウトナさんが邪魔をする場合は、お2人の話に水を差さないように、私達でウトナさんを食い止める手はずになっています」

『丁寧なご解説、ありがとうございます。まさか、直球で話していただけるとは思っていませんでしたが』

「え? 何か間違っていたでしょうか?」

 

 アヤネの完璧な解説に納得を見せる、ウトナ。

 しかし、オブラートに包むことを忘れた、アヤネの解説は一体誰の影響だろうか。

 いつも、空気を読まずに正論をぶつけて来る、あの男ですね。

 

(わたくし)、正直は美徳という言葉は間違いではないのかと、最近思うようになりました」

『はい。正直は確かに美しいですが、正直に吐かれた言葉が美しいとは限りませんので』

 

 自分の解説の時もそうだったなと、苦笑いするワカモにウトナが同意する。

 子供は正直だが、正直故に相手を深く傷つける言葉も吐けるのだ。

 おっちゃんと最近言われて、もう若くないのだと現実を理解させられた。それが作者です。

 

『因みにですが……私が邪魔をする場合は、どのように止めるおつもりで? ウトナピシュティムの能力は既に完全復活しています。そして、サンクトゥムタワーもなくなった今、外部から操作される恐れもなくなりました。多次元解釈バリアを展開するだけで、私はあなた達を、消し飛ばすことが出来ます。これは脅しではありません。客観的な事実です』

 

 さて、そんなツッコミで繋がる絆を見せてくれたウトナではあるが、やはり敵。

 自分の世界の扉間を生き返らせるという、明確な目標があるのだから、心惑わされる話し合いには応じたくない。

 

「そこは……私のカードで何とかならないかなぁって」

『…! 梔子ユメさん……こちらに来ていましたか』

「戦いたくないし、ウトナちゃんを傷つけたくもないけど……私がお話をしてって頼んだ以上は、ちゃんと静かにしててもらうよ」

 

 後輩達を守るように、どっしりと盾を構える、ユメ。

 何も相手を傷つけるだけが、戦いではない。

 仲間を守るということ。

 それもまた、立派な戦いである。

 

「おじさん達の攻撃は通らなくても。おじさん達を倒すには、こっち側に来ないといけないでしょ? おじさんは逃げるのは、あんまり慣れてないけどさ……ワカモちゃんは鬼ごっこのプロだよ? 何年も連邦生徒会から逃げてたし」

『小鳥遊ホシノさん……ですが──』

「先生の方に行けばいいと言おうとした? でも、()()()の先生の中から、どうやって本物を探し出すの? まとめて消し飛ばすのなら、先生に囲まれてる連邦生徒会長も一緒に消し飛ぶよ。それに──」

 

 ホシノがユメの隣に立ち、ユメのものよりも年季の入った盾を構える。

 過去と未来。どちらも守るための、最強の盾がここに揃う。

 

「──丸ごと消したら、この世界の先生の()()()()()()も消えちゃうよ~?」

『……人質作戦という訳ですか』

「そ。だから、ウトナちゃんはこっちで大人しく、おじさん達と遊んでて欲しいかなって」

 

 相手の目的は、扉間の持つ大人のカード。

 故に、それを持っている状態では安易に扉間を殺せない。

 この世界に来た目的を自分で消し飛ばす程、ウトナは馬鹿ではない。

 

『先生らしい卑劣な策ですね』

「だよね~。あー……後、それから~」

 

 ホシノがゴソゴソと鞄の中をまさぐり、あるものを取り出す。

 その、あるものとは。

 

「ケイちゃんから、これを預かって来たよ」

『それは……ゲームソフト?』

テイルズ(T)サガ(S)クロニクル(C)2のパッケージ版だって」

『──多次元解釈システム起動ッ!!』

 

 悪名高きTSCの続編、TSC2である。

 ウトナがトラウマを刺激されたのか、全力で防御態勢に入る。

 どうやら世界は滅ぼせても、たった1つのゲームのトラウマには勝てないようだな。

 

「そ、そんなに、嫌がらなくても……ホシノちゃんは罠を仕掛けたりしないよ?」

『罠? そのような甘いものではありません。TSCは核兵器です。ただ存在するだけで、悪意をまき散らす、作るべきではなかったゲーム。……まさか2つ目がこの世に存在するとは…! これだから、個人開発はダメなんです。売れないものでも、本人達のやる気次第で、続けられてしまうので。資本主義社会の摂理に従うべきです』

「趣味でやってるなら、私は別にいいと思うけどなぁ……」

『やはり人類はAIが管理するべきです。そうすれば、このような失敗作そのもののようなゲームは、決して作らないでしょうから』

 

 なんか、世界を征服するAIのようなことを言い始める、ウトナ。

 よほど、TSCがトラウマになっているのだろう。

 

(……私達の声は聞こえてる? じゃあ、あのバリアは音は通す? それとも私達と話すために、今は声が通るようにしているだけ?)

 

 そんな漫才なようなやり取りを繰り広げる、ユメとウトナの横でホシノは1人考察する。

 アトラ・ハシースとウトナピシュティムの能力は同じ。

 ならば、先にウトナピシュティムで実験出来ることは、実験しておこうという考えだ。

 

(どっちにしろ、先生が言ってた通り、本当に無敵のバリアじゃなさそうだね)

 

 バリアに取捨選択機能があるなら、それを特定して同じものをぶつければいい。

 下手に弱点とか考えずに、同じ属性をぶつけて相殺するのが一番簡単だと、三代目火影も頷いている。

 

「い、一緒にゲームをしたら友達になれるって、ケイちゃんも言ってたよ?」

『たとえ、友達になれるのだとしても、TSCを使わなければならないエビデンスは?』

「あ、私は別にゲームじゃなくてもいいよ。お話できるなら、何でもいいし……そうだ! ウトナちゃんってアビドスに居たんだよね? だったら、昔のアビドスのこととか知らない?」

『……私はあくまでも、後からウトナピシュティムに入れられた存在です。アビドスのことには余り詳しくありません』

「そっかぁー……じゃあ、何のお話をしようか?」

 

 今のうちに、ウトナピシュティムで多次元解釈バリアの実験をする。

 それを理解しているのは、ホシノだけでユメは特に理解していない。

 彼女は純粋にお話をしに来ただけだ。

 

『あの……どうして、私が話に応じるということになっているのでしょうか?』

「ダメだった?」

『ダメ…と言いますか、私達は敵同士です。普通は敵と仲良く話したりはしません』

「敵か……そうだね。でも、それだけじゃないと思うんだ」

『それだけではない?』

 

 敵同士なのは本当。

 だとしても、彼女達には皆共通点がある。

 それは。

 

 

「私は違うけど……ウトナちゃんやホシノちゃんは、先生に教えて貰ってるんだよね?」

 

 

 全員が扉間の生徒であるということ。

 

『……肯定します』

「話すことがないなら、みんなで私に聞かせて欲しいかな。今まで先生とどんなことをしてきたか? どんなことを教えて貰ったのか? 先生の居る授業ってどんな感じかとか……私は知らないから」

 

 扉間の話をしてくれ。

 そう告げるユメにウトナは目を見開く。

 先生との思い出話など、連邦生徒会長とたまに交わすぐらいだったから。

 

「授業って言っても、うへ……勉強はあんまり教えて貰ってないかなぁ」

「? 先生は、銀行強盗マニュアルの改善まで教えてくれるよ?」

「ぎ、銀行強盗…? え? え…ッ!?」

「シロコちゃん、もっとこう……綺麗な思い出をユメ先輩にはお話しましょうか~」

「思い返すと……ろくな思い出が無いわね」

「アビドスチャンネル! アビドスチャンネルがありますから!! これなら、動画を見ながら振り返ることが出来ます!!」

「……(わたくし)が悪いんですけど、拳骨を入れられた記憶が一番残っていますわね」

 

 それは故人の思い出話をする葬式のようなもの。

 区切りを作り、あの人は本当に死んだのだと心に区切りをつける作業。

 死者を送り出す作業であり、同時に今を生きる人間へ死人から送る最後の贈り物。

 それが葬式だ。

 

「ねぇ……ホシノちゃん。私の言ったことちゃんと覚えてるよね…? 悪いことをして、借金を返してもダメだって」

「だ、大丈夫です! 犯罪行為なんてやってません! ちゃんと全部、()()()問われませんから!!」

「ん、捕まるなんて三下の証。時代は脱法(グレーゾーン)。法の抜け穴を利用するように、ちゃんと先生には教わってるから、安心して」

「はい~。アビドスは弱者の味方ですから~」

 

 弱者(廃校寸前の学校)の味方。

 強き(債権者)をくじき、弱き(債務者)を助ける。

 つまり、アビドスはアビドス(弱者)の味方で、何も間違っていない! 

 

「そ、そうよ! 一応は最初も、ちゃんとヘルメット団から助けてもらったし、この前もヘルメット団のお礼参りからも助けてくれたし……卑劣だけど」

「なんか、ヘルメット団に襲われ過ぎじゃない…? 何かやったの?」

「ちょっと財布代わりに、物資を巻き上げてるだけなのに……血も涙もない」

「財布!? ダメだよ! 人のものを盗むのは泥棒だよ!!」

「落ちてるものを警察に届けて、持ち主が現れないから私達のものになるだけ、100%合法」

 

 次々と明らかになっていく、アビドスの変容ぶりに流石のユメも語気を強める。

 後輩達が、ハイエナ扱いされてるとか聞いてない。

 

「で、ですが、借金の返し方も一緒に考えてくれましたので……聞いてください! ユメ先輩! なんと、借金は現在7億円台です!」

「7億円!? え! すごい!! 私の時より3億円近く減ってるッ!!」

「もとが10億円だったというのは本当なのですね……」

 

 コユキと同額の借金10億円(1アビドス)

 それが0.7アビドスまで減っていると知ったユメは、本気で驚く。

 こいつ、生前は借金返済に関しては、むしろ足枷側だったからな……。

 

『…………』

 

 そんな中。

 敵陣のど真ん中で、井戸端会議を始めるアビドス勢に、ウトナは呆れた目を向ける。

 敵を前にして、何をそんなに楽しそうに…楽しそうに…思い出を語って……。

 

『……銀行強盗の罪を便利屋68さんに押し付けた件は、この世界でも起こっているのでしょうか?』

「ホシノちゃん!?」

「ちがいます。せいぎのふくめんみずぎだんとして、あくのかいざーぎんこうをとらえるために、しばいをしただけです。ちゃんといらいりょうもはらっています」

「ホシノちゃん! ちゃんと人の目を見て話して!」

 

 羨ましかったのか、ウトナもポロリと思い出を零す。

 こちらの世界とも大体同じ記憶だ。

 いや、なんでそんなピンポイントな所で、同じ行動が行われているんだよ? 

 

「ん、大丈夫。ただ単に、()れたて新鮮な現金(なまもの)を産地直送で、便利屋まで届けただけだから」

「そ、そっかぁ、それなら安心──しないよ!? いくら私でも騙されないからね! お金の産地って銀行だよね!?」

「世間的には、全部便利屋の犯行になってるので大丈夫ですよ~。それに、発案したのも実行したのも先生ですから」

「ひぃん、先生ってどんな職業なのか、もう分んないよぉ……」

『安心してください。私もよく、これは一般的な先生の仕事なのかと、検索をかけていましたので』

 

 検索:先生 銀行強盗 仕事。

 結果:もしかして、ブルーアーカイブ? 

 

 こんな検索結果しか出てこないが、まあ先生がやっているので先生の仕事なのだろう。

 たぶん。

 

「……うん。真面目なお話をしたいから、みんなはちゃんと答えてね。でないと、アビドスが今度こそ廃校になっちゃう。それどころか、可愛い後輩がヴァルキューレに捕まっちゃう」

「安心してくださいませ。トビラマ先生は、その警察のトップとズブズブの関係性ですので。(わたくし)が矯正局から娑婆に出て、アビドスの一員になれたのも、それを利用しただけですから」

「ひぃん! 思った以上に先生が悪の親玉だよぉ~!」

『連邦生徒会長が居なくとも、先生は警察を抑えられるのですね……』

 

 こうして、ウトナとアビドス勢による、ユメへの扉間レクチャーが開始されるのだった。

 

 

 

 

 

「さて……これで二人きりで話せるな」

「ウトナピシュティムは、ホシノ達が押さえてくれておる」

「ここに居るのは、ワシとお前だけだ」

「大人しく、話し合いの席に着くのだな」

「お前の好きなカステラとイチゴミルクを持ってきた」

「ワシの胃にはちとキツイが……」

「可愛い娘のためだ。仕方あるまい」

 

「色々と言いたいことはありますけど。取り敢えず先生は二人きりという言葉の意味を、調べなおしてください。何ですか? 多数決で意見でも取るつもりで数を増やしたんですか?」

 

 ユメへの扉間レクチャーが行われている反対側。

 向かい合う連邦生徒会長と扉間×1000。

 人物的には確かに2人だが、どう見ても二人きりという言葉には適さない。

 

「どうせ、全員ワシだ。分身が消えれば、記憶も統一されるのだ。問題あるまい」

 

 しかし、扉間はそんなツッコミも全く意に介さず、テキパキと会談の準備を始める。

 具体的には、分身が運んできたテーブルと椅子を地面に置き、優雅にその上でカステラを並べる作業だ。

 もちろん、イチゴミルクもコップに注がれていく。

 即席の青空テラスの完成だ。

 

「いや、大問題ですよ! そもそも、本気で話す気があるのなら本体で来ますよね!? 先生は娘の誕生日に、分身で祝いに来るダメな父親ですか!?」

「よく見ろ。椅子は2つしかない。お前が大人しく話合いの場につくのならば、ワシも本体がその席に座るだけだ。だが、お前が席につかないのならば、1000体の分身のどれが本物かは分かるまい」

 

 わざわざ、馬鹿みたいな量の分身を出したのには、もちろん理由がある。

 どれが本体か分からないようにすることで、ウトナからは範囲攻撃しかさせないようにすること。

 そうすれば、連邦生徒会長を巻き込む恐れが出たり、大人のカードだけを壊さないように器用に攻撃するといった手が使えなくなる。

 そして、もう1つは連邦生徒会長が交渉の席につかなければ、どの扉間が本物か分からないようにするためだ。

 

 人を隠すには人の中とはよく言ったものだ。

 

「……確かに、メリットがあるように聞こえますけど、先生はちゃんと本体が座るんですか? 何食わぬ顔で分身を座らせる気がしますけど」

「お互いの(はらわた)を見せ合いに来たのだ。無粋な真似はせん」

「現状は無粋ではないと?」

「どう見えるかだ」

 

 普通は腹を割って話すって、小細工抜きってことじゃないのかなぁと白目を剥く、連邦生徒会長。

 まあ、ある意味でこの卑劣さこそが、ここに居る人間が千手扉間だと証明しているのだが。

 

「だが……確かに、お前の言う通りこちらが先に譲歩するべきだろうな」

 

 そう言って、1000人の扉間の中から1人の扉間が前に進み出る。

 そして、椅子の上にドカッと腰を下ろす。

 自分の方から先に歩み寄ってやったぞという、卑劣なアピールだ。

 

「どうだ、ワシの方が先に座ってやったぞ?」

「いや、譲歩って言ってますけど、元々先生の方から話し合いに来たんじゃないですか……元からやる予定だったことをやっても、譲歩になりませんよ」

「……気がついたか」

 

 しかしながら、連邦生徒会長の言う通り、それは()()()()()()()()()だ。

 本体かどうかも証明してないのなら、扉間がノーリスクなのは変わらない。

 

「最低でも、そこに座っている先生が本物だと証明してもらいませんと」

「構わん。確認すればいい。何でも言ってみろ」

 

 腕を組んだまま、余裕の表情を浮かべる扉間。

 連邦生徒会長は、何かを考えこむように黙って、その様子を見つめる。

 そして、ゆっくりと桃色の唇を開く。

 

「手を……握らせてください」

「手? ワシ相手に握手とはな……強気に出たな」

 

 要求は手を握ること。

 千手扉間を知る忍ならば、柱間以外は断固として拒否する行動である。

 だが、連邦生徒会長はそれを望んだ。

 

「嫌…ですか?」

「構わん、好きにしろ」

「では、お言葉に甘えて」

 

 連邦生徒会長の小さくやわらかな両手が、扉間の大きくゴツゴツとした右手を包み込む。

 

「……温かいですね」

「影分身であっても、体温は同じだぞ?」

「先生は黙っていてください」

「むぅ……」

 

 そういう言い方はよさんか、先生ェ! 

 せっかくの良い雰囲気をぶち壊す扉間に、頬を膨らませる、連邦生徒会長。

 

「次は頭を撫でてください」

 

 しかし、まだ要求は終わらない。

 指を1つ上げるだけで最大警戒される忍に対して、急所を預ける。

 そんな、敵とは思えない行動まで要求してくる。

 

「……いいだろう」

 

 扉間はそんな要求に呆れながら、連邦生徒会長の頭に手を乗せる。

 そして、ワシャワシャとアロナを撫でるのと同じように、豪快に撫でていく。

 とてもではないが、女性に行っていい撫で方ではない。

 

「…………」

「我が子は、どれだけ歳をとっても幼い時の顔がチラつくとは聞くが……本当なのだな」

 

 だが、連邦生徒会長は黙ってそれを受け入れる。

 そして、扉間の目には、連邦生徒会長に重なるようにアロナの姿が映し出される。

 何歳になっても、我が子は我が子なのだと。

 

「先生……私はもう子供じゃないんですよ?」

「そうだな。お前ももう立派な大人を名乗るべきだ。だが、ワシの娘であることに変わりはない」

「それはいつまでですか?」

「ワシがお前を愛する限りだ。つまりは、永遠にだ」

「私も先生のことを永久に愛していますよ」

 

 愛してる。

 2人は同じ言葉を、異なる響きで告げる。

 その言葉の意味は決して交わることのないもの。

 

 与える愛(アガペー)求める愛(エロス)

 父から子へ与えるものと、女が男へ求めるもの。

 2つの関係性は、決して同時には存在できない。

 

「……ワシはここに、お前の過去を聞きに来た」

「こちらの世界の私に聞けばいいんじゃないですか? 線路が別れる前の始発点の話なら、同じ記憶のはずですよ」

「いいや、結局の所、ワシは()()()()()()。ワシが知るのは、アロナだけだ。ここに至るまでの道のり……それを全て知らねばならん」

「はい……」

 

 お前から聞かないと意味がない。

 などと、格好をつけて言っているが、ただ単にアロナが攫われただけである。

 だが、シロコ*テラーが律儀に連邦生徒会長に教えてくれたりはしていないので、連邦生徒会長は誤魔化されてしまう。

 まさか、シッテムの箱に代わりにケイが入っているなど、夢にも思わない。

 

「お前の意見を否定するのは容易いが……それでは、お前を救うことは出来ん」

「救いですか、フフフ。おかしいですね、それは私の役割(ロール)で私は()()()()()()なのに」

「ワシはこの世界の神秘とやらには詳しくない。ただ、目の前の子供を救いたいだけだ」

 

 十字の聖者は、天の神に地上に遣わされた。

 そして、人類を原罪の罪から救い、そのまま天国へと還った。

 ()()()()()()()()()()()()

 

 人間を神様が救ってくれるのなら、神様は誰に救ってもらうのだろうか? 

 長男は一番上に立つが故に、誰からも手を差し伸べて貰えないのだろうか? 

 否。否。否。

 

「それに……別に神を手助けしてはならん理由は無かろう。忍の神ならば、生前腐る程助けて来たからな」

「お義兄さんですね」

 

 神様だって、人の手で助けてもいいのだ。

 

「何より、お前は随分とワシの過去のことを知っておるのに、ワシはお前のことはほとんど知らん。不平等だ」

「不平等ですか……そうですね。神様は平等でないといけませんよね」

 

 スッと、自分の頭を撫でていた扉間の手を退ける、連邦生徒会長。

 これだけ近いのに、どちらも攻撃をしようとしない。

 あくまで、どこまでも自然な家族の距離感。

 ただし、向ける内容は違う想い。

 

「いいですよ、話しましょう。私の過去を……私が初めて先生と出会った世界のお話を」

 

 そうして、連邦生徒会長は用意された椅子に優雅に座り込み、対話の姿勢を見せる。

 

「ですが、その前に……」

「その前に…なんだ?」

 

 だが、そう簡単には話さない。

 しっかりと、交換条件を提示する。

 

 

「──カステラを食べましょうか」

 

 

 まずは、カステラを食べてからだと。

 

「………そうだな」

「フフ、実は久しぶりなんですよ? 他の人と一緒に食事をするのは」

 

 置かれたナイフを使い、いそいそとカステラを切り分けていく、連邦生徒会長。

 自分の分を多めに、扉間の分は少な目に。

 そんな、()()()()分量に分ける。

 

「いただきます」

「ああ、頂こう」

 

 カステラとイチゴミルクという、カロリーの互乗起爆札。

 砂糖の量を見れば『このサイズの菓子の中に、これ程の砂糖を!? 信じられん!』となる、砂糖の大爆水衝波。

 それをパクパクと食べる若い連邦生徒会長はともかく、扉間は話し合いを前に胃にスリップダメージを与えられる。

 おのれ、連邦生徒会長め…! これが狙いか!? 

 

「先生」

「なんだ…?」

 

 カステラ(甘いもの)イチゴミルク(甘いもの)で流し込むという、若者の特権。

 それを悠々と行いながら、連邦生徒会長は空を見上げる。

 虚妄のサンクトゥムが消えて、青さを取り戻した空を。

 

 

「空が……青いですね」

 

 

 あなたと初めて出会った日の空も、こんな青さだった。

 懐かしい思い出。あれから、随分と時間は経ったが今でも覚えている。

 そんな黄金色の思い出。

 

「さっきまでは、お前達のせいで赤かったがな」

「それは今は置いておいてください」

 

 扉間のツッコミに少し苦笑いしながら、彼女はポツリポツリと語り始める。

 

「先生……私はですね──」

 

 こんな無意味なことを繰り返し始めた起点を。

 アロナと連邦生徒会長に別たれる前の分岐点を。

 

 

「──あなたの神様になりたかったんです」

 

 

 ──あまねく奇跡の始発点を。




次回は過去編。

忙しいので、1週間後の4月4日になると思います。
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