千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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105話:覚悟

 

「校長先生。アリウスに生きる1人の人間として質問しますが………本当に、私達の先祖であるアリウス生の穢土転生を、ミサイルに詰め込んで撃つのですか?」

 

 正気か? お前。

 スバルがアリウスに生きる1人の人間として、扉間に対して信じられぬものを見るような目をする。

 そりゃあ、自分の先祖の死体をミサイルに詰め込んで撃つとか、人道的にはあり得ない。

 賛同しそうな存在は、データが本体という考えのデカグラマトンの預言者ぐらいだろう。

 

「案ずるな、スバル」

「そうですか…! やはり、校長先生は──」

 

 そんなスバルに対して、扉間は心配するなと告げる。

 何故なら扉間は。

 

 

「ワシの影分身も共に詰め込んで、しっかりと着弾したか確認できるようにする。犠牲は無駄にはせん」

「──本当に人の感情に寄り添うのが下手ですね!!」

 

 

 自分と一緒に打ち上げる予定なので、批判は打ち消せると思っているのだ。

 先祖を犠牲にする代わりに、自分も犠牲になるからOK。

 そんな、世迷言を言っているのだ。

 

「いいですか? 普通の人はですね! たとえ、見知った顔でなくとも身内が生物兵器扱いされたら、不愉快になるものなのです!!」

「だが、このまま放置しておけば、死体を敵に弄ばれ続けるのだぞ? しかも、ワシらがここで負ければ、その連鎖は並行世界まで続く。ならば、こちらで息の根を止めてやるのが優しさというものであろう?」

「急に理論武装をしないでもらえますか!?」

「初めから、理論立てて話しておるつもりなのだが……」

 

 このまま敵に操られ続けるか、それともこっちで成仏(消滅)させてやるか。

 そりゃあ、後者の方が良い感じに見えるが、もっと…こう…あるだろ? 

 

「無駄だ、スバル。私達はただ校長に従うだけだ」

「錠前サオリ…ッ。スクワッド以外に興味のないあなたと違って、普通は抵抗を覚えるものですよ!?」

 

 だが、アリウス生であっても、全員が不満を抱いているわけではない。

 先祖のことより、スクワッド(妹達)なサオリなどは、黙々と穢土転生を運びこんでいる。

 

「だが、既にゲヘナやトリニティから、アリウスに穢土転生が運び込まれてきているぞ? このまま捕縛し続けるのは、私達だけの戦力では無理だ」

「…ッ! ええ、分かっていますよ! もう、それしか方法がないことぐらいは!!」

「なら、口ではなく手を動かせ。他の生徒への説得は姫に任せればいい。パフォーマンスとして、シスターフッドと一緒に祈りを捧げているらしい。私達は穢土転生をさらにキツく縛ったうえで、ミサイルに積み込む係だ」

 

 アツコ的にも、先祖のことなど知ったことではないが、そこは生徒会長。

 哀れな魂に安らぎを与えるという名目で、祈りを捧げるパフォーマンスを行っている。

 ついでに、本職のシスターも加えることで、アリウス生の心の罪悪感を取り除いている。

 ユスティナ聖徒会も穢土転生の中に居るので、慈悲深きサクラコ様が協力を申し出たのだ。

 

「リーダー。スバル先輩と話すのもいいけど、こっちを手伝って。指だけで抵抗してきてる」

「ミサキ、指の関節を折れない程度に逆に曲げてやればいい。それで十分のはずだ。そういう訳だ、スバル。手伝ってくれ」

「ああ、もう! やりますよ! やります!! それから、校長先生! ここまでアリウスの全てを捧げているんですから、責任は取ってくださいね!?」

「任せろ。たとえ、ワシが死んでも此度の戦いでのアリウスの功績は消えん。金と地位は必ずや手に入るだろう」

「死なずに、これからも面倒を見てくださいと言っているんですよッ!!」

 

 死に逃げは許さない。

 そう叫びながら、サオリとミサキの後を追うために、駆け足で走り去っていく、スバル。

 

「………随分と重い責任だな」

 

 その背中を見つめながら、扉間は大変な責任を負ってしまったなと1人呟く。

 

「キキキ! 感動的な言葉じゃないか? 私としても、まだ先生に死んで貰うのは困る」

「お前が言うか、マコト」

 

 その後ろ姿に、軍靴の音が近づいて来る。

 羽沼マコト。かつて、扉間の暗殺に加担した人間だ。

 

「何の話かは分からないが……状況が変われば考えが変わるのは当然のことだろう? ()()()()と同じようにな」

 

 だが、それはサオリ達アリウス生も同じこと。

 かつて、殺し合い、いがみ合った者達が味方になっている。

 先生の下に。

 

「……そうだな。しかし、何事もなく来れたようで何よりだ。ゲヘナの首魁が、アリウスの地に足を踏み入れるとなると、どうなるかと思ったが」

「そこは、先生の策のおかげだな。先祖の死体をミサイルに込めるという議題に比べれば、私の来訪など小さいものだ……流石の私も最初に聞いた時はドン引きしたからな」

「なるほどな。人間は大きすぎる物事に遭遇した時は、他のことを考えられなくなるからな」

 

 ゲヘナがアリウスに侵入? 

 今、別件で立て込んでいて、それどころではないんですけど!! 

 要するにこんなやり取りで、見逃されているのだ。

 正しく、お前は後! な、案件である。

 

『それで……私もミサイルの中に入れば良いのかしら? 今まで散々戦ってきたつもりだけど、ミサイルになるのは初めてね』

「並行世界のヒナか……現状ではその予定はない。必要なものは、色彩のエネルギーだけだ。そして、ついでの穢土転生達の廃棄処理。わざわざ、味方になったお前を使う理由はない」

 

 マコトと共に来ていた穢土転生ヒナからの、自分も穢土転ボンバーになろうかという、申し出。

 それを、少し考えた上で扉間は断る。

 貴重な戦力を爆弾にするとか、頭のおかしい行為だからな。

 やはり、爆弾も生贄も敵で補って計算しやすい戦力にするのが、最高コスパだ。

 

『そう……私の力が必要なら、いつでも言ってちょうだい。私も早く成仏したいから』

「……ヒナ。貴様の命は、このマコト様が握っていることを忘れるな。その時が来るまで、存分に働いてもらう」

『分かってるわ。今の私は風紀委員長でもない、ただの空崎ヒナ。死人に、立場や肩書はないもの』

「キキキ! 分かればいい」

 

 死人だから、好きに使えばいい。

 そんな、極限まで割り切られた言葉にマコトは笑う。

 

「………やはり、サツキやイブキではなく、私自らが来て正解だったな」

 

 身近な人間の死に感じる寂しさを、覆い隠すように。

 感受性の高いサツキやイブキでは、きっと穢土転生ヒナの様子に悲しんでしまうだろう。

 故に、マコトは自分自身が最前線に立つことを選んだのだ。

 

「さて、マコト、ヒナ。ワシは一度、アツコの下に向かう。スバルに文句を言われた以上、他の生徒も思う所があるのだろう。ワシも一度、直接顔を出しておくべきだろう」

「ああ、そうするがいい。有権者への説明は上に立つ者の責務だからな」

『じゃあ、私達は他の人達の手伝いをしておくわ。アトラ・ハシース攻略の会議までは、まだ時間があるもの』

 

 そんな様々な想いが交錯する中、扉間はアツコが祈りを捧げる聖堂へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

「先生……私、ファッション雑誌を読み続けた結果、ある真実に辿りついてしまったんです」

「どうした、ヒヨリ? 藪から棒に」

 

 辿り着いた聖堂。

 そこでは、サクラコとアツコのユスティナ聖徒会に所縁のある、2人の鎮魂歌(レクイエム)が響いている。

 そんな所で、ヒヨリが何かを悟った表情で、コソコソと扉間の裾を引っ張る。

 

「ファッションはとても奥が深くて……私のような貧相な脳味噌の人間では理解できないような、服がファッションショーで出てくることがあるんです。そして、それを着たり見たりするのは大体が、高貴な方々……」

 

 ヒヨリの畏敬の念の籠った目が、サクラコとアツコの方を向く。

 2人の歌声と立ち姿は、まさに地上に舞い降りた天使。

 

「要するに──」

 

 だが、ヒヨリが注目しているのはそこではなかった。

 2人の服装。

 

 

「──高貴な人ほど、凄く覚悟の要る服を着るんです」

 

 

 覚悟礼装であった。

 

「見てください、あの脚を強調したハイレグ……自分の脚に自信が無いとあんなものは、恥ずかしくて着られません。後ろからだと、お尻も見えちゃっていますし……」

「あれは……ユスティナ聖徒会の服装と同じか」

 

 ハイレグレオタード。

 えげつない覚悟で、見る者にさえ緊張感を与えるユスティナ聖徒会長の正装。

 

「やっぱり……高貴な人程、とんでもない服を着られるんですねぇ。姫ちゃんだけでなく、あのシスターフッドのサクラコさんまで。これが伝統衣装……私の太くて醜い脚では到底着られそうもありません」

 

 ご存じ、サクラコ様の覚悟礼装ではあるが、実は覚悟礼装はサクラコの専売特許ではない。

 実は、アツコも中々な覚悟のレオタードを、生贄にされた時に着ている。

 それこそが、ユスティナ聖徒会やロイヤルブラッドにとっての正装であるが故に。

 

「アツコはともかくとして……なぜ、サクラコまであの格好を?」

「アリウスに眠っていた、最後のユスティナ聖徒会長の服みたいです。姫ちゃんが、見つかったものを友好の証に返していましたので」

「なるほど……」

 

 なんか、宝物的に保管されていた覚悟礼装。

 ぶっちゃけ、アツコ的には見つかってもどうでもいいものだったが、外交的にプラスになれば良いかなと思って、正当な持ち主の下に返す。

 すると、思った以上にサクラコ様が感激。

 渡されてすぐに、ウッキウキで着替えて来る、即断即決。

 マリーやヒナタに、アリウスに幻術にでもかけられたかと疑われる始末だった。

 

「ユスティナ聖徒会を継ぐと言っていた、サクラコらしいな」

 

 頼みのハナコも近くに居なかったので、誰もツッコミを入れられる人間が居ない。

 おまけに、アツコ自身はこれ凄い格好だなと思ってはいるが、似た正装を持っているので、馬鹿にしようものならブーメランを振り被った時点で自分の頭に突き刺さる。

 舐められたら負けの薩摩アリウスの姫らしく、堂々と自分も着こなすに至る。

 

 アツコ曰く『パンツじゃないから恥ずかしくない』とのことである。

 まあ、おかげで、ペアルックに喜んだサクラコにアリウス生の不満の解消の手助けをして貰えているのだが。

 これがわっぴー……。

 

「でも……あんなに恥ずかしい服を着て、堂々としているなんて……やっぱり、シスターフッドのトップは凄いですね。鋼のメンタルです」

「まあ、ワシらからすればおかしく見えるが……れっきとした伝統衣装。相応に歴史があるものを外部から批判するわけにもいかん」

 

 ロイヤルブラッドにシスターフッドの現トップ。

 堂々と、そして美しく着こなしているために、誰もエッチなのは駄目、死刑! と言えない。

 まさに、天より降臨したファッションモンスター。

 

「これが伝統……私達みたいな、学の無い一般ブラッドでは分からない世界ですね」

 

 アリウス側は隣の仲間が黙っているので、自分がおかしく思っているだけで、これが外の世界では普通なのだろうと納得する。

 シスターフッド側は、サクラコ様がウキウキで着ているだけならともかく、アツコも着ているため、本当に伝統衣装っぽいのでツッコめない。

 伝統衣装を馬鹿にするとか、普通に外交問題なので、どちらも何も言えないのだ。

 

「そう言えば、新しい制服を決めるって話が出てましたけど………も、もしかして、あれになるんでしょうか?」

「いや、校長として流石にうら若い娘にあれは……だが、伝統衣装となると…むぅ……」

 

 その結果として、誰もがそれを普通なのだという幻術に囚われる。常識改変ものかな? 

 頼む。早く来てくれ、ハナコ。

 運動会の開会式でも、卑猥な言葉で喧嘩を売れるお前の胆力だけが頼りだ。

 

「あ、歌が終わりましたね。サオリ姉さんと、ミサキさんの代わりにお祈りに来たんですけど、服のことが気になって忘れちゃいました」

 

 そんなことを話しているうちに、2人の鎮魂歌(レクイエム)が終わりを迎える。

 

「あ、姫ちゃんがこっちに来てますね。歌ってるときに目が合いましたけど、何かあるんでしょうか?」

「恐らくは、ワシが来たからだろう。どうやら、邪魔をしてしまったようだな」

「あ、本当ですね。サクラコさんも来てます……先生に何かお話があるんですね」

 

 そうして、歌を終えた2人がこちらへと近づいてくる。

 白く美しい、完璧な曲線美が衆目の前に晒される。

 扉間の存在に気づいたアリウス生も、扉間への文句よりそちらに釣られてしまって文句が出てこない。

 衆目の視線を一手に集める、卑劣なお御脚だ。

 

「先生。また、とんでもないことをしてくれたね?」

「お前には迷惑をかける、アツコ。だが、このまま敵に利用されて、お前達という子孫を傷つけるよりかは幾分かマシだ。実際に、穢土転生として戦ったことのある、ワシが言うのだから間違いない」

 

 経験者は語る。

 勝手に蘇らされて、子孫達と戦わされるとか不本意この上ない。

 開発者には、それ相応の罰が与えられるべきだろう。

 

「私も死者の体をミサイルに詰め込んで放つという行為には、命への冒涜と侮辱を感じますが……背に腹は代えられない。そういった事態であることも理解しています」

「サクラコも手伝い感謝する。お前達が居なければ、アリウスはもっと荒れていてもおかしくはなかっただろう」

「私達にとっても他人ごとではありませんから。過去のアリウスの方々だけでなく、ユスティナ聖徒会の人間までとなれば、トリニティでもいざこざが起きてもおかしくありません。むしろ、アリウスの方が怒りを露にしてくださったことで、トリニティでは良い意味で自分達のことではないという空気になっています」

 

 ユスティナ聖徒会と名前を変えても、結局の所その出身地はトリニティである。

 シスターフッドしか関係ないという雰囲気になっているが、普通にトリニティ全体で怒っていい案件だ。

 ただ、サクラコの言うように、アリウスが先に怒ったことで、対岸の火事という空気になったのである。

 

「普通に考えたら、味方の死体を利用されるって戦争を吹っかけてるようなものだよね? こんなことやられたら、上は良くても下の意見は無視出来ないし……外交は舐められたら終わりだからね」

「むしろ、穢土転生の術は、戦争を止めるために活用したのだがな……」

「その止めるって、相手の息の根を止めるって介錯(かいしゃく)でいい?」

「違う。相手がルールを守らなければ、こちらも文字通り何でもやるという脅しに使っただけだ」

 

 これは二代目火影の卑劣な術だ。

 同じ二代目の土影が言っている通り、穢土転生の術は木ノ葉の術とは認識されていない。

 あくまでも、扉間個人の術として、警戒されていたので扉間だけにヘイトが向いているのだ。

 ちゃんと、卑劣様が使用用途を絞って使っていたのが良く分かる。

 

「とにかく、現状では()()()()()穢土転生の術を滅ぼす方法はないのだ。敵の首魁に最大限にやり返すことが出来、同時に再び眠りにつかせることも出来る。しかも感情的な問題も、お前達の歌と祈りでクリア出来ておる。もはや、これ以上の最適解はないと言っていい」

 

 穢土転生体を捕らえてミサイル化することで発生を抑制(Reduce)

 火薬の代わりにミサイルに詰め込むことで再使用(Reuse)

 そしてバリア突破のために、穢土転生内の色彩のエネルギーを再生利用(Recycle)

 

 Reduce(リデュース)Reuse(リユース)Recycle(リサイクル)の卑劣な3Rだ。

 

「許せ、アツコ。これで恐らく最後だ」

「この期に及んで、()()()を外さない先生が、素直なのか嘘つきなのか分からないかな……」

 

 絶対と言わない限りは逃げ道がある。

 クレーム対策で、断言している部分の少ない説明書のような扉間の回答に、アツコが白目を向ける。

 

「最後にすればよいのですよ、アツコさん。ミサイルでアトラ・ハシースのバリアを突破してからが本当の最後の戦いです。私と違って、アツコさんは生徒会長……ここはシスターフッドに任せて、先生とご一緒に会議に参加してください」

「……まあ、シスターフッドなら大丈夫かな。一緒にカレーを作ったりしたことがあるし。それに……」

「いかがいたしましたか…? まじまじと私達の服装を見比べて」

 

 改めて、自分達が着ている服装を客観視する、アツコ。

 

「文句を言いに来ても、気勢が()がれそうだし……」

「…? 真心が伝わるということでしょうか…?」

「まあ、少なくとも……覚悟は伝わるよね」

 

 トリニティのクソ野郎がアリウスに? ふざけんな、一言文句を──うおッ!? すっげー覚悟……。

 

 サクラコ達の覚悟には、そんな先制パンチの効果もあるのだ。

 これこそが、ユスティナ聖徒会が抱いた平和への願いへの覚悟……。

 

「確かに凄い覚悟がいる服ですよね……私だと姫ちゃんと違って着られそうにありません」

「……ロイヤルブラッドを舐めないで、ヒヨリ? 一般ブラッドとは覚悟が違うから」

 

 のほほんと告げるヒヨリに恨めし気な目を向けるが、恥ずかしいとは言わない。

 偉い人は偉そうに振る舞わなければならないのだ。

 たとえ、どのような服を着ていたとしても。

 

「ただ……会議の前に着替えてきていいかな? 流石に、このまま会議に出るのはちょっと……」

「……ああ、それぐらいの時間はある」

 

 ただ、流石に学校の代表として、このまま公の場に出るのは憚られるのだが。

 

 

「…? なるほど! 服にはTPOというものがありますからね。儀礼用の服は確かに、会議には不向きですね」

 

 

 まあ、天然にはあまり伝わっていなかったのだが。

 

 

 

 

 

「それでは、時間がもったいないので早速会議に入りましょう。資料は既に目を通したものと判断して、話を進めさせていただきます」

 

 リンちゃんのキビキビとした声が響く。

 

「キキキ、主が帰還したと聞いたが……未だに貴様がまとめ役か?」

「不確定の情報を鵜吞みにすると、痛い目に遭いますよ、マコトさん。情報通のあなたらしくもありませんね?」

「フン……言うようになったな」

 

 連邦生徒会長はどうしたと、初手で牽制を行う、マコト。

 だが、眼鏡を外して、臨戦モードになったリンには効かない。

 

「ですが、連邦生徒会長の件は、私達一同が確認をしたい事柄です。流石に無視はできません」

「まさか、貴様と意見が合うとはな、桐藤ナギサ」

「マコト議長、この場では腹の探り合いはやめましょう。敵には()()()()()。この重大さが理解できないあなたではないでしょう?」

 

 そして、トリニティの代表として来たナギサからも、釘を刺される。

 勝つ前から戦功とか戦後処理を、考えていられる相手ではないと。

 

「……確かに軽率だったな。この場においては貴様の意見の方が正しいようだ」

 

 謝罪はしない。

 あくまでも、自分の意見が間違っていたのではなく、相手の意見がより優れていただけ。

 そんなどこまでも、政治家らしい対応をするマコト。

 

『ではでは、詳しいお話をお願いしちゃってもいいですかねぇ~。百鬼夜行としては、今まで余り関われていませんでしたし』

 

 そして、通信での参加になる、ニヤ。

 本当は直接来たかったのだが、百鬼夜行は戦闘部隊の百花繚乱が機能停止中。

 有事の中、学校を抜け出られる程、ニヤは楽観視が出来なかった。

 

「私達も、ずっと現場で戦っていたから、詳しい話が聞きたいかな」

 

 アツコもニヤ同様に頷く。

 アリウスは稼ぎ時だった故に、全員出動。

 現場で得られる情報ぐらいしか、手に入っていなかったのだ。

 

「それについては、私と先生から話すわ。直接、並行世界の先生を見たのは、私達ミレニアムだから」

「運が良いのか、悪いのか。おじさんはもう1人の先生には会ってないんだよね。ミレニアムに一緒に居たんだけどねー」

 

 もう1人の扉間。

 すなわち、世界を欺く者(プレナパテス)

 その情報を僅かでも握るのは、直接顔を見たリオと扉間だけである。

 

「ですが、まずは連邦生徒会長の件からですね。マコトさんが連邦生徒会に帰って来たと思った会長も、並行世界の人間です」

「まるで、並行世界のバーゲンセールだな」

「それで……並行世界の連邦生徒会長は、今はどうなっているのでしょうか?」

 

 しかし、まずは一番初めの議題である連邦生徒会長。

 つまりは、イノリがどうなっているかである。

 

「先生が話し合いで無力化しました」

『話し合いで? にゃははは! 流石は先生ですねぇ』

「そして、現在は反省室で延々と説教を受けています。後、私も一発入れておきました」

「取り敢えず、イノリは敵に戻ることはない。ワシが保証する。故に、この場では、もう1人のワシについてだけ話せばよい」

 

 イノリは現在、激おこぷんぷん丸のウトナによって、何もかもから逃げようとしやがってと、月読説教中である。

 早くも新しい上下関係が叩き込まれているので、今はスルーしてヨシ! 

 

「もう1人の先生は、連邦生徒会長の話と、並行世界の砂狼シロコの話を統合すれば、色彩(しきさい)嚮導者(きょうどうしゃ)……すなわち、色彩の力を操れる存在よ。先生へワープで奇襲をかけてきて、シッテムの箱のAIであるアロナを攫って行ったわ」

「色彩の…! シスターフッドや、トリニティの古書館の記録に存在するという、人を狂わせる超常の存在ですね?」

「アリウスの至聖所のステンドグラスにも、色彩が描かれてるよ。ベアトリーチェが呼ぼうとしてた」

「つまりは、虚妄のサンクトゥムを出現させていた真の黒幕は、あちら側の先生というわけだ。もっとも、色彩の存在は分かっていたが、まさか先生自身が色彩を操れるとは思ってもみなかったがな……」

『あー……ふむふむ。百鬼夜行のクズノハに並ぶ、摩訶不思議存在のあれですねぇ。これはまた、とんでもない厄ネタで』

 

 色彩。その言葉だけで、ことの重要性を理解する各学校のトップ達。

 アロナが連邦生徒会長な件? 話がややこしくなるので、今は攫われていることだけ伝わればOK。

 

(……なんで、みんな一般教養みたいに色彩なんて知ってるんだろ? もしかして、私だけ浮いてる…?)

 

 後、約一名は全然詳しくないので、ボロを出さないようにお口をミッフィーちゃんにしている。

 一応、メタ的には一番色彩に身近な学校の代表ではあるのだが。

 

「ですが……やはり、納得いきません。先生が世界を……私達を滅ぼしに来るなんて」

「おじさんも信じられないよ……うちの可愛いシロコちゃんまで、あんな風になっちゃうなんて」

 

 真のラスボスは扉間とシロコ*テラー。

 その事実に、リンとホシノがまだ信じられないと呟く。

 ホシノはともかく、リンは良くそこまで扉間を信頼してくれてるな……迷惑ばかりかけているのに。

 

「色彩によって人格を歪まされているのでは?」

「だが、その色彩を操っているのが、先生だろう?」

『結局、先生のせいということになりますね~……あ、いえ、こちらの先生に言っているわけではありませんよ?』

 

 色彩を操れるのなら、色彩に影響されているかどうかは怪しい。

 つまり、本心から世界を滅ぼしに来ているのではないか? 

 マコトの口から、その重い事実が告げられる。

 

「別にワシが世界を滅ぼすのもおかしくはない。ワシ個人ならば、正しくない行いは確かにせんだろうが……仮に自分の(せかい)を守るためであれば、他の世界を滅ぼすこともあろう。ワシの忍道は『里の繁栄に全てをかける』ことだからな」

「やるかやらないなら、やる。先生はそうだよね。アリウスより酷い環境で育ったみたいだし」

 

 だが、扉間本人は十分にあり得るとあっさりと肯定する。

 扉間も、そして柱間でさえ、里という枠組みを守るためならば、弟ですら殺す。

 個人であれば、自分が死ねば良いと思うことも、火影という立場が邪魔するのだ。

 

「だが………あちらのシロコにあのような顔をさせている時点で、先生失格だがな」

「でも、精神攻撃を指示したのは、先生だよね?」

「ワシなら、前を向くように指導するはずだ。むしろ、過去を持ち出しての精神攻撃が効いていることこそが、ワシがまともに先生を出来ていない証拠だ」

 

 自分が本当に先生のままならば、シロコ*テラーのメンタルを何とかしているはずだ。

 そう告げる扉間の言葉通りに、世界を欺く者(プレナパテス)はしゃべることが出来ない。

 そのため、シロコ*テラーのメンタルケアが出来ていないのだ。

 

「やはり、ワシ自身が始末するのが吉だな」

「………方針は決まりですね」

 

 リンが何か言いたそうな顔をするが、何も言えずにそのまま話を進行させる。

 本人が倒すしかないと言っている以上は、他人が口に出すべきでない。

 そう判断したのだ。

 

「そうなると後は、どのようにしてアトラ・ハシースを攻略するかが議題になりますね」

「バリアはミサイルで突破できるが、その後の占領が一苦労だ。最後は歩兵で乗り込むのが、全ての戦争のセオリーだが……上空75,000メートルとなると単なる飛行機では無理だな」

『ほぼ宇宙ですからねぇ……これはもう宇宙船でも使った方が早そうですね』

「ウトナピシュティムに乗せて貰えれば、アトラ・ハシースまでの道は確保できるはずよ」

 

 古来より難攻不落の城とは、高い場所にあるものだ。

 辿り着くだけで困難。相手の数を絞れる。地の利を得られる。

 馬謖が山の上に登りたがるのも分かるというものである。

 

「それも1つの手だが……まずは、ミサイルで撃ち落とすのが一番だろう」

『まあ、そうですねー。素直に相手の場所に行くより、相手の方から来てもらうんが一番楽やからねぇ』

「準備は出来てるよ。アリウスのみんなでベアトリーチェのミサイルに、穢土転生を詰め込んでいるから」

 

 そして、難攻不落の城の落とし方も古来より同じだ。

 投石で城壁や門を破壊する。相手を煽って、野戦に持ち込む。持久戦で兵糧攻めにする。

 そこら辺をきちんと押さえていないと、泣いて馬謖を切る羽目になってしまう。

 

「というわけで、分身のワシも共にミサイルに詰め込む。そして、並行世界のリオから受け取った互乗起爆札のカードを分身に発動させ、ミサイルを増やして一気に仕留める」

『いや~……この世界に忍術が無くてよかったと、心底思いますねぇ……』

 

 占領戦? ミサイルで更地にしちまった方が早えだろ? 

 そんな、いつもの合理の極まった作戦にニヤが乾いた笑いを零す。

 だから、敵に回したくないのだと。

 

「ですが、戦略としては悪くないです。敵地に乗り込むというのは、多大な危険が伴いますので」

「ナギサの言う通りね。こちらのリソースは、死んでもいい分身と穢土転生体達だけですむ。合理的な作戦だと思うわ」

 

 これは誰も死なない作戦だ。

 だって、穢土転生は既に死んでるからな! 

 分身? 分身に人権があるとでも?

 

「しかし……お忘れではありませんか? みなさん? 相手はアロナさんという人質を取っています」

「相手も先生だし、そこら辺の対策はバッチリってことかな」

 

 だが、リンとアツコが指摘する通りに、世界を欺く者(プレナパテス)はアロナを人質に取っている。

 そのせいで、城ごと潰したりすることが出来ないのだ。

 

「そして懸念する点はもう1つ。あちらの先生もワープが可能なのは、この目で確認済みよ」

「つまり、こちらが仮に人質を無視してアトラ・ハシースを撃ち落としても、逃げられる可能性が高いというわけか……これでは人質だけが無駄死にだな」

 

 そして、アトラ・ハシースに完璧にミサイルをぶつけても、ワープで相手だけは逃げられる。

 リオとマコトが言うように、そこが非常に厄介な点だ。

 

「いや、あのワープはアトラ・ハシースの()()()()()()()()()()()()。船そのものに大ダメージを与えれば、使えなくなる可能性が高い」

 

 しかし、扉間はマコトの言葉に首を横に振る。

 演算機能を使ってのワープということは、演算装置をぶっ壊せばワープが出来なくなるのだ。

 ミサイルの初撃で徹底的に潰せば、ワープ機能を停止に追い込める可能性が高い。

 

 やはり、暴力。暴力は全てを解決するのだ。

 

「でも、結局の所、アロナちゃんはどうするのさ? まさか、犠牲にするわけじゃないよね?」

 

 しかし、ホシノが釘をさすように、それではアロナの安全が確保されない。

 アロナは犠牲になったのだ。世界を欺く者(プレナパテス)を倒す、ミサイル。その犠牲にな……などといった事態にするわけにはいかない。

 

「………まず、前提条件を正すぞ。アロナが生きているという保証はどこにもない」

「え…?」

「敵のワシの目的が、シッテムの箱の無力化にあった場合は、アロナを生かしておく理由はない。むしろ、二度と元に戻せんように破壊するはずだ」

 

 アロナの無事は現段階で保証できない。

 まさか、相手のシッテムの箱に入れられているとは思わない扉間は、自分がやりそうなことを告げる。

 硬いシッテムの箱を壊せないのならば、中のOSだけでも壊せばいいのだ。

 

「生きているかどうかも分からぬ”娘”より、目の前の生きている”生徒”だ。人質を取られた時こそ、攻撃をするのが鉄則。相手が最も嫌がっていることが分かっているのだからな」

 

 人質を取る程に追い詰められた人間が、最もやられたくないこと。

 無論、それは速攻で攻撃を受けることだ。

 

「故に、初撃のミサイルで、人質ごと墜落するレベルのダメージを与える。そうすれば、少なくとも、虚妄のサンクトゥムというこの世界を滅ぼす攻撃は止められる。より確実な勝利の道を選ぶべきだ」

 

 “キヴォトスの繁栄に全てをかける”それが扉間の新たなる、教道(きょうどう)だ。

 学校を守るためならば、娘でさえ例外ではない。

 そんな、自身も色彩(しきさい)嚮導者(きょうどうしゃ)になりかねない危険性を示唆する。

 

 

『そうですか……つまり、先生は──もう1つの()()()()()()()()()敵に回すということですね?』

「ケイ…!」

 

 

 だが、そんな扉間をケイが叱る。

 自分が何のために、シッテムの箱に入ったのかを忘れるなと。

 

『私はアロナを助けるために、シッテムの箱に入りました。ですが、先生が最初から救出を諦めるようなら、話はここまでです。お望み通り、世界を滅ぼしましょう』

「うんうん、ユメ先輩なら諦めたらダメって叱ってくれるよ?」

 

 友人を助けに来たのに、梯子を外されたのでは納得できない。

 何なら、アリスですら普通にケイの側につきそうである。

 

「昔のアリウスでは、ルールや掟を破る人間はクズ扱いされてたけど……仲間を大切にしない人間はそれ以上のクズだよ? 校長先生」

「………ええ、アツコさんのおっしゃる通りです。疑念に憑りつかれて、友人を犠牲にしようとするやり方は……かつての私の過ちそのものです」

「キシシ、言われてるな? 先生。だが、キヴォトス全ての先生を名乗るならば、取り溢しなどもっての外……全てまとめて抱きしめてみせろ」

『にゃははは! 先生は真面目過ぎなんですよ~。ちょ~っとぐらい、欲張ったって罰は当たりませんって』

 

 せめて、犠牲が確定するまでは、諦めずに足掻け。

 

「先生、私からもお願いします。アロナさんは………私の会長なのでしょう?」

「安心して頂戴、先生。合理的な理由は何一つとして説明できないけど……私達がついているわ」

「諦めないこと……それが先生が私達に教えてくれたことでしょ?」

 

 それが、お前が私達に教えて来たことだろう? 

 笑顔でそう言い切る生徒達に、扉間は言葉を失う。

 

「………だらしない先生ですまんな。少し弱気になっていたようだ。アロナの救出が最優先。他は後回し。これで構わんな?」

『はい、それでいいんです。私も全身全霊をかけてお手伝いしますので』

 

 見ているか、兄者? 

 火の意志は──

 

「他にも乗り込む人員などで話すことはあるが、ひとまずの方針は決まったな。ベアトリーチェの残したミサイルに、ワシの分身とアリウス生、ユスティナ聖徒会の穢土転生を詰め込んで、アトラ・ハシースに撃ち込む。そして、バリアを解除した後に乗り込み──アロナを救出する」

 

 ──遥か世界の果てまで広がっているぞ。

 




因みに、卑の意志も広がっています。

次回は24日土曜に投稿します。
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