11話:ゲーム開発部
<GAME OVER>
「どういうことだ!? 画面の指示通りにBボタンを押したはずだぞ? 幻術か?」
「ふっふっふ、引っかかったね、先生! ここは指示通りじゃなくてAボタンを押さなきゃいけないの! 普通のゲームじゃ面白くないからね」
「引っかけ? 先程の説明内に何かヒントがあったのか?」
「え? ないけど」
「……ふぅー」
「だから、私はそんな引っかけ入れなくて良いって言ったのに、お姉ちゃん。先生怒ってるよ」
第10回トビラマチャンネル。
そんな記念すべき撮影に際して、扉間はミレニアムサイエンススクールに来ていた。
コラボ対象は、ゲーム開発部。そしてゲーム名は『テイルズ・サガ・クロニクル』。
生徒会から廃部命令が出ているので、コラボ動画でゲーム開発部をアピールして廃部の危機から救ってくれという依頼が来たのだ。
「先程の場所はAボタンを押して切り抜けたが……今度は戦闘か。次は引っかけはないだろうな? モモイ」
「うん! Aボタンで大丈夫だよ」
「ならば、秘剣つばめ返し!」
元々、ミレニアムとの繋がりも欲しかったので、渡りに船と引き受けた依頼。
その依頼主であるゲーム開発部のシナリオライターのモモイに、確認しつつAボタンを押す扉間。
<GAME OVER>
「……モモイ」
「ち、違うよ! 今のは引っかけじゃなくて、普通に敵のプニプニの銃撃に負けただけだから!」
「どう見ても、銃を持っている外見には見えんのだが? そもそも、手足がない」
「そこは……ほら? 油断大敵ってやつ? 簡単に倒せたら面白くないというか……」
「………ふぅー」
見た目で敵を判断するな。
そう言われれば、忍としては言い返すことが出来ない。
だが、腹が立つのは間違いないので、扉間は大きく深呼吸をして心を落ち着かせる。
「お姉ちゃん、先生が怒りたいけど、怒れないって凄い表情してるから煽るのはやめて」
「煽ってないけど!?」
「いや、お姉ちゃんの顔が」
「顔ッ!?」
そんな相手の神経を逆撫でするシナリオを創り上げたモモイに、毒を吐く妹のミドリ。
一目見た時から、姉に苦労させられているのだなと分かったので、扉間からの好感度は高い。
「よい。今のは確かにワシの油断だ。敵の見た目で攻撃手段を断定するなど、油断としか言えん。どうやら、平和ボケでワシも勘が鈍っていたようだ」
「ほら! 先生も別に怒ってないよ、ミドリ!」
「お姉ちゃん、本音と建前って知ってる?」
気を取り直して、今度は相手との距離を取りつつプニプニを排除する扉間。
さて、後は常に警戒しながら進もう。
そう、考えながらキャラクターを操作して――
<GAME OVER>
『残念。地雷を踏んでしまった』
何の変哲もない地面を進んだというのに、地雷を踏んでゲームオーバーになる。
「モモイ」
「いや、でも……リアリティを追求したら地雷が見えるのっておかしいよね?」
またしても、忍者的には正論を言われて黙り込む扉間。
まあ、リアルとリアリティを一緒にするなとも言いたくはなったが。
「い、一応! 地雷が見えるようになる地雷探知機ってアイテムはあるんだよ!」
「それはどこで手に入る?」
「第3のボスを倒したドロップアイテムで手に入るよ!」
「因みに、そのボスが居るダンジョンは地雷で一杯です」
「…………ふぅー」
順序がおかしいだろう。順序が。
普通、そういうのはダンジョンを攻略する際に手に入れるアイテムだろう。
どうして、ダンジョンをクリアした後に手に入るのだ。
思わず、そう言ってしまいたくなるのを頑張って抑えつつ、扉間はコントローラーを握り締める。
「よかろう。どうやらワシは貴様らを侮っていたようだ」
「な、なんか怒ってる?」
「怒ってなどおらん。モモイ、大人はこの程度では怒らんのだ」
少しビビっているモモイに、最低限の大人のプライドを守りつつ接する。
仮に、これを柱間にやらされた場合は、リアルファイトに突入していただろうが。
「ゲーム内の情報だけでは、罠に気づけぬというのなら、貴様らの思考を読むまでよ」
「え? そんなに罠を仕掛けた記憶はないんだけど」
「お姉ちゃんは、ちょっと黙ってて」
無自覚に煽り散らすモモイの口を物理的に塞ぐミドリを尻目に、扉間は気合を入れる。
これはゲームではない。任務だ。
敵の仕掛けた悪辣な罠を潜り抜け、魔王を討つ。
Sランクの暗殺任務だ。
「連邦捜査部シャーレが顧問、千手トビラマ―――参る!」
そして、木ノ葉隠れの忍改め、シャーレの先生扉間は任務に挑むのだった。
「母親がヒロイン…? 主人公は錯乱でもしたのか?」
「いや、今まで誰もやったことのない斬新なヒロインをと思って」
「そして前世の妻? いや、ヒロイン設定から考えれば単なる母親よりは納得いく……のか?」
「実はね! ヒロインは前世で夫である主人公に庇われてね? その時に主人公は死んじゃうんだけど。ヒロインはその時から今度は自分が主人公を守りたいって思って母親に生まれ変わったんだよ!」
「その説明を、どうして本編に入れないの? お姉ちゃん。いや、言われても脳が理解を拒むけど」
「いや、入れようと思ったんだけど尺が足りなくて……」
しかし、モモイの罠はゲームシステムだけに留まらなかった。
時折、常識では測れないシナリオが扉間の脳に直接殴りかかってくる。
思わずこれが生前とのカルチャーショックかとも思いかけたが、ミドリの反応的に違うらしい。
「そして、なんだ。この『腹違いの友人』というパワーワードは? 腹違いの兄弟ならともかく」
「前世では兄弟だったんだけど、今は転生して別々の家族で生まれたって設定。血が繋がっていないのに、兄弟って言うのもなんか変だなぁって思ってそういう呼び方にしたんだ」
「しかも、その『腹違いの友人』が宿命のライバルとか幾ら何でも盛り過ぎ……あれ? 先生、なんでそんな微妙そうな顔をしてるんですか?」
なんだそのとんでも設定は。
と、笑えない身内がすぐ近くにいたために扉間は渋い顔をする。
マダラと柱間も前世は兄弟だったのだ。
「ラスボスの魔王は……宇宙から来た設定なのか」
「うん。星のエネルギーを吸収して、星を枯らしていく極悪の宇宙人」
「また変に設定を弄って……本当は普通の魔王のはずだったんです」
そして、4時間にわたる死闘の末、扉間は世界を救うことに成功する。
まだ、マダラとの戦いの方が楽だった気がするとは、本人の弁である。
「おめでとう、先生! 4時間でクリアするなんて、ゲームの才能があるよ!」
「これ、全部撮影してるんですよね? もしかして、時間オーバー?」
「案ずるな、ミドリ。今回はゲームプレイ動画だ。もとより時間の確保はしてある」
全力で戦闘した時よりも疲弊していそうな扉間に、ミドリがジュースを渡す。
誰だって未知の遭遇の連続は疲れるものである。
「そ、それで……プレイしてどうだった? 先生」
モモイが期待半分、不安半分といった顔で尋ねて来る。
まあ、『テイルズ・サガ・クロニクル』はクソゲーランキング1位に輝く迷作なので、その不安も一入だろう。
低評価コメントなど誰だって欲しくはない。
「うむ。久方ぶりに死線に潜る緊張感を味わえたな」
「先生! それゲームに抱く感想じゃない!」
「知ってた……」
しかし、扉間は嘘を言うことなくズバリと言い放つ。
ゲームとしては、お世辞にも楽しくはなかったが、軍用の訓練としては役に立ったと。
「それとだ……非常にもったいない作品だとも感じたな」
「もったいない? 何が?」
モモイの疑問に、小さく頷き扉間は答える。
「この作品をやっているとな、ハッキリ言って苛立ちと怒りを感じた」
「うぎゃ!?」
「うん……そうだよね」
悲鳴を上げるモモイに、達観した表情を浮かべるミドリ。
そんな2人に向かって扉間は無表情のまま続ける。
「つまり、プレイヤーの心を揺さぶるという点では、合格しているということだ」
「「心を揺さぶる…?」」
鏡合わせのように揃って首を捻る、姉妹。
まるで、生前の板間と瓦間のようだなと思いながら、扉間は説明を続ける。
「最初の引っかけや地雷。ワシはハッキリ言って、このゲーム制作者を殴りたくなった」
「そこはお姉ちゃんの担当なので、お姉ちゃんだけお願いします。大丈夫です、遠慮はいらないです」
「妹が氷魔法のように冷たい!?」
「本気でやると言っているわけではない。ただ、ワシはここでゲームの製作者に怒りを抱いた。ふざけるなとな。だが、この怒りの矛先を別の者に向けさせることは出来ぬか?」
「別の者?」
1つ頷いて、扉間は再度ゲームを起動する。
「最初の引っかけで指示を出した者や、地雷の設置者を序盤のボスにする。するとどうだ? 怒りの矛先はどちらへ向かう?」
「それはボス……あ」
何かに気づいたようにミドリが声を上げる。
モモイは未だに分かっていないのか、首を傾げたままだ。
「そうだ。プレイヤーの怒りはボスに向かう。つまり、主人公とプレイヤーの目的が一致してゲームへの没入感が生まれるのだ」
「おお! なんか、すごい!」
やっと理解したのか、モモイがポンと手を叩く。
「モモイ、お前はどうやら人の感情を揺さぶる何かに優れておるようだ。そうしたものを上手く組み立てていけば、プレイヤーと主人公の一体化を図れるはずだ。これはゲームという非現実を作るうえで必ず役に立つ」
「わ、私にそんな隠された才能が……」
今まで批判的なコメントばかり寄せられていたので、ちょっと涙目で喜ぶ、モモイ。
ミドリの方も、姉が褒められたのが嬉しいのか、顔に出さないようにしながらも、小さく笑っている。
まあ、扉間には自分もこんな感じだったなぁとバレているのだが。
「だが」
しかし、褒めるばかりでは問題は解決しない。
「モモイ、お前は理想ばかり追いかけ過ぎだ」
「え!?」
「もっと言ってやってください、先生」
しっかりと欠点の指摘も行う。
「お前はまず王道というものを理解しろ」
「で、でも、誰もやったことのない名作を目指すには……ありきたりなものは」
「誰もやったことのないというのは、誰もがやる前にダメだと判断したものだ。それにだ、目新しいものだとしても、そういったものは必ず王道的な側面がある。お前のようなゲームマニアにとってはつまらんものかもしれんが、売れるものには大抵共通点がある。そこをしっかりと勉強して作品に活かす工夫をしろ」
「そうだ! そうだ!」
完全に扉間側についたミドリもしきりに頷く。
彼女はイラストレーターなので、シナリオライターの姉の方針でよく振り回されるのだ。
「ううぅ……そんな」
味方が居なくなり、ちょっと涙目になるモモイ。
扉間はそのことに少し罪悪感を覚えるが、妹のミドリはいつものことと気にも留めない。
まあ、扉間も目の前に居るのが柱間なら同じ対応をするのだが。
「……そう、落ち込むでない。ワシも少々言い過ぎた。プレイをしていて、お前達が真にこのゲームを愛していることは十分に伝わって来た。それに悪名は無名に勝るとも言う。誰の心にも響かない作品よりも、その点ではお前達のゲームは優れている。今度は逆方向に出力出来れば、名作を作ることも難しくはなかろう」
罪悪感を覚えたので、少しモモイに優しく接する扉間。
しかし。
「そ、そうだよね! いやー、先生は見る目があるね!」
「……お姉ちゃんは、こういう性格なんで気にしなくていいですよ」
すぐに復活したモモイを見てため息をつくのだった。
「はぁ……兄者を思い出すな」
こうして、第10回トビラマチャンネルは終わりを迎えるのだった。
「あーッ! 動画の最後に部員募集を呼びかけるのを忘れてたぁ!?」
トビラマチャンネル終了後に、しまったと大声を上げる、モモイ。
「部員募集? 何の話だ?」
「先生にはゲーム開発部の廃部の危機を救ってもらうように、手紙を出したんですけど、今のゲーム開発部には3名しか居なくて、最低あと1人は部員が必要なんです」
「なるほどな……」
そんな姉に代わり、扉間に説明を行う、ミドリ。
扉間は3名という言葉に、チラッとロッカーの方を見るが、それ以上は追及しない。
「そうだよ。だから、先生とのコラボ動画でゲーム開発部をアピールして部員を集めようとしたんだけど……」
「お姉ちゃんが、忘れちゃったの」
「い、いや、久しぶりに褒められたのが嬉しくて……」
妹につめられる姉の姿に、どこか懐かしさを覚えながら扉間は考える。
依頼内容は廃部の危機を救うこと。
分かってはいたが、これは少し骨の折れる仕事になりそうだ。
「なるほどな……だが、人員を揃えるだけで良いのか? ここに来る前に調べたが、ミレニアムは最近部活の制度が変わったそうだが」
部員が足りないのも問題だが、その他にも問題はあると扉間は告げる。
「それについては、私から説明します」
「む、その声はユウカか」
そんな扉間の声に反応したのは、ゲーム開発部の者ではなかった。
部室に入って来た
「お久しぶりです、先生」
「サンクトゥムタワーの奪還作戦の時以来だな」
「ええ……まさか、ミレニアムの先生との記念すべき初交流がゲーム開発部とのコラボ
アビドスは
ならば、ミレニアムはセミナーが行くべきだろうと思っていた所に、ゲーム開発部だ。
正直、格落ち感が半端ない。
「なんかってなにさ! ゲーム開発部だってれっきとした部活だよ!」
「廃部寸前って、頭につくじゃない。そもそも、あなた達はどういった活動をしてるのよ?」
呆れた表情のまま問いかけるユウカに対し、モモイは胸を張って答える。
「アイズ・エターナルをやったり、英雄神話を研究したり、カシオペアの拳~ウーパールーパー大列伝~をプレイしてレトロゲームの面白さを広めたり、ゼルナの伝説のRTAに挑戦したりで、毎日頑張ってるよ!」
「ほう、まるでゲーム博士だな」
「騙されないでください、先生! 毎日遊んでるだけです! 私達ミレニアムが部活に課しているのは成果を出すことです!」
だが、プリプリと怒ったユウカには通用しない。それと、扉間が若干モモイに甘いのは、柱間を思い出しているからだろうか。
「以前にも伝えたはずだけど、ゲーム開発部を存続させたいならとにかく成果を出すこと。部員を4人以上にすることの2つをクリアすること。それが出来ないなら、今月中に即刻廃部よ」
「成果って言っても、残された猶予を考えたら直近のミレニアムプライスで結果を出すぐらいしか……」
「そうね。まあ、他に成果を出す当てがあるなら、そっちでもいいけど……後少しの期間内で他に何か当てはあるかしら?」
「うっ! や、やってあげるよ! ミレニアムプライスで結果を出す!」
ミレニアムプライス、それぞれの部活同士が成果物を競い合う品評会である。そして、今のゲーム開発部に必要なものは成果と人員。要するに、スポンサーである生徒会を納得させなければ、金は出さないということである。
「いつの世も金か……世知辛いものだな」
「そうだ! そうだ! 先生も金の亡者ユウカにもっと言ってやって!」
「誰が金の亡者よ!!」
普段なら一発叩き込んでいる所だが、先生の手前何もできずに歯ぎしりする、ユウカ。
そんなユウカの意図を汲んで、扉間はモモイを少し叱ることにする。
「モモイ、口が過ぎるぞ。ユウカとてやりたくてやっておるわけではなかろう。限られた資金をどのように振り分けるかは、いつの時代も上に立つ者の悩みの種だ。そして、会計役とは常にそうしたやっかみを受ける立場。ユウカ、お主はよく頑張っておる」
「あ、ありがとうございます、先生」
「先生は私達の味方じゃないの!?」
自分も生前は容赦なく予算カットをして、よく恨まれたものだと思いつつユウカを褒める、扉間。
そんな言葉に、ユウカは頬を赤くする。
まあ、そんなユウカの横でモモイがブーブーと文句を言っているので、色々と台無しだが。
「ワシはゲーム開発部の廃部を止めに来たのであって、セミナーの方針にケチをつけに来たわけではない。お前達
チラリとロッカーの方を見て、3人と告げる扉間にユウカが不思議そうな表情をするが、扉間はそれ以上は何も語らない。
「……先生もこう言っているから、ミレニアムプライスの結果発表までは待つわ。外部から来客も来るミレニアムプライスで、先生が取材した部活が居ないっていうのも、先生の評判に関わるでしょうし」
疑問点はあるが、取りあえずこれ以上話すことはないと判断したユウカが、結論をまとめる。
「すまんな」
「いえ、元々の予定と変わらないので大丈夫ですよ。それでは、今度はセミナーにも来てください。リオ会長も会いたいって言っていましたので」
「ああ、その内訪ねるとしよう」
ペコリと頭を下げて、ゲーム開発部から出て行く、ユウカ。
そんな背中を見送りつつ、ミドリは深刻そうな面持ちで姉に呼びかける。
「どうするの、お姉ちゃん? 部員はともかく、ミレニアムプライスで入賞だなんて……」
ゲーム開発部の主な功績は『テイルズ・サガ・クロニクル』でのクソゲーランキング1位だけ。
なりたての下忍と担当上忍だけで、Sランク任務に挑むようなものだ。
扉間単体なら、さっさと切り捨てる判断をしている。
「……やっぱり、あれしかない」
「あれ? お姉ちゃん、何か秘策があるの」
だが、モモイは諦めない。
何か覚悟を決めたように、呟く。
「
「
聞き覚えのない言葉に聞き返す扉間。
そんな扉間にモモイは説明を行う。
いわく、伝説のゲーム開発者が遺した神ゲーを作るための必勝法。
神ゲーを作るために必要なことが載っているという、まさにゲーム開発者の聖典。
「なるほどな、ゲーム開発の聖典」
「そう! これさえあれば、私達でも神ゲーを作れるようになるはず! そのためには、『廃墟』に行って、
「モモイよ……」
モモイが力説するように、『テイルズ・サガ・クロニクル2』を神ゲーにすれば、ゲーム開発部の廃部は免れる。故に、
しかし、扉間の反応は。
「そういうものを詐欺というのだ」
「詐欺じゃないよ!?
「まあ、存在そのものは否定はせん。どんな伝承にも元ネタというものがあるからな。だが、必ず神ゲームを作れるというのは詐欺だ」
「な、なんで、そう言い切れるの?」
少し涙目になりながらも反論するモモイに、扉間は諭すように告げる。
セリカもこんな感じで詐欺に引っかかっていたなと思い出しながら。
「100%、必ず、絶対。これらの謳い文句は詐欺の常套文句だ。何故なら、この世界に絶対はない。限りなく100に近い99が存在するだけだ。まともな企業が出している洗剤でも99.9%の汚れを落とすという言い方しかしないようにな」
この世界に絶対はない。
全身柱間細胞の柱間ですら、死ぬときは死ぬのだ。
現実とはそう甘くはないのである。
「でも
「ヒマリ先輩は『全知』って、学位を持ってるくらい凄い頭の良い人なんです。それに多分ミレニアムの中なら、どこでもハッキング出来るぐらい凄腕のハッカーです」
「そのヒマリ先輩が
(ヒマリか……それほどの人物とコネがあるとは、モモイも中々に侮れんな)
ミレニアムにおいての重要人物の名前に、扉間も興味を抱く。
確かに、
「所で……『廃墟』とはなんだ、モモイ? お前の口ぶりからすると、単なる廃墟ではなく特定の場所を指しているように聞こえるが」
「『廃墟』は
「連邦生徒会長だと…?」
思わぬビッグネームに扉間の視線が鋭くなる。
その鋭さに思わず、モモイとミドリがビビっているが、扉間にそれを気にする余裕はない。
「そ、それで、連邦生徒会長は連邦生徒会の兵力をそこに常駐させてたんだけど、急に失踪したから、今はその兵力もどこかに行って、『廃墟』は放置されてるの」
「つまり……連邦生徒会長個人の目的。そして、リンなどの他の連邦生徒会員には理由すら分からぬということか」
扉間はモモイからの説明に、思考を働かせる。
普段ならば、そんな詐欺まがいのものにかまける暇があるなら、真面目に努力しろと言う所だが、連邦生徒会長絡みならそうもいかない。
(連邦生徒会長。ワシに先生を任せた謎の人物……恐らくはワシがキヴォトスに来た理由を知る唯一の人間)
彼女の手掛かりを得るということは、自らがここに居る理由を知る手掛かりにもなる。
(リン達にも『廃墟』を守る理由を伝えていない。つまり、自分が居なくなれば兵力を撤退することも分かっていたはず。失踪が他者からのものではなく、故意のものであれば……『廃墟』が誰でも入れる状態になるのは狙い通りのことだろう)
連邦生徒会長の失踪。そのことにより、入れるようになった『廃墟』。
そして、連邦生徒会長の失踪と同時にキヴォトスに起こったもう1つの異変。
先生という大人の出現。そして何より。
(連邦生徒会長が消えたことで『廃墟』に入れるようになったのではなく、連邦生徒会長が消えることで『廃墟』に入れるようにしたのか?)
連邦生徒会長が信頼の証として、扉間に特別な役職を与えたこと。
連邦捜査部シャーレの設立だ。
(そして、失踪とほぼ同時期に着任した
扉間はある1つの結論を導き出す。
「もしや、ワシを『廃墟』に入らせるのが目的か…?」
「先生?」
「モモイ、『廃墟』について詳細な情報はあるか?」
連邦生徒会長は扉間に『廃墟』に入って欲しいという意図を持っているかもしれないということだ。
「ヒマリ先輩にも聞いたけど、確かなのは危険ってことぐらいだって。ただ……」
「ただ?」
「ヒマリ先輩は、『キヴォトスから消えて忘れ去られたものが集まる、時代の下水道みたいな場所かもしれない』……って」
「消えて忘れ去られたもの……か」
ワシのような者か?
思わず、そう思ってしまう。
自らのことを誰もが知らない土地。忍者やチャクラが消えた世界。
そこに流れ着いてしまったのが、千手扉間なのかもしれないのだから。
「……いいだろう、
「え! いいんですか、先生!?」
多分断るだろうなと思っていたミドリが驚きの声を上げる。
「やったー! じゃあ、早速準備して――」
「だが、条件がある」
モモイは両手を上げて無邪気に喜び声を上げるが、そこに扉間が待ったをかける。
両手を上げたまま固まるモモイに、扉間は告げる。
「連邦生徒会長自らが封じる程の危険地帯。更には罠があるやもしれんのだ。『廃墟』ではワシの指示に必ず従え。仮に目の前に
扉間の言葉にモモイとミドリは息を呑むが、何かを決心したように頷く。
「また、ワシが十分だと判断する戦力が整わない限りは、そもそも『廃墟』には行かん。モモイ、ミドリ。お前達は腕に自信はあるか?」
「……ま、毎日魔物とは戦っているから」
「ゲームの中でね。先生、私達は戦えるけど、C&Cみたいな力はないよ」
「そうか」
2人の返事に扉間は考え込む。
忍者は裏の裏を読むべし。
連邦生徒会長が扉間を『廃墟』に導こうとしていた場合、罠の可能性もあるのだ。
自分1人なら死んでもいいが、子どもを巻き込むわけにもいかない。
仮に自分が死んだ場合は、子ども達だけで安全に撤退する戦力の確保も必要だ。
「お前はどうだ? 花岡ユズ」
「「「え?」」」
YUZUと猫のホワイトボードに名前が書かれたロッカーに声をかける扉間。
キョトンとした声を上げるモモイとミドリ。
そして、ガタッと揺れるロッカー。
「あ……え……と…その……」
「ユズ!? 探しても見つからなかったけど、もしかして、撮影中からずっといたの!?」
「結構長い時間だったと思うけど……トイレとか大丈夫?」
「ぶ、部長だから、一応居た方がいいかなって……後、トイレはまだ大丈夫」
ロッカーから聞こえてきた声に、モモイが驚愕の声を上げる。
後、ミドリは乙女の尊厳は大丈夫かと気に掛ける。
「やはり…花岡ユズか…!」
カマかけが成功したことに、扉間は満足そうに頷く。
「というか、先生はどうやってユズに気づいたの?」
「呼吸の音が消し切れておらんかったからな。まあ、そこまで消していたら敵意有りと見て攻撃しておったが」
「……先生ってシーフだったりするんですか?」
「どちらかと言うとワシは忍者だ」
一応、動画撮影中から気づいていたが、生徒でなおかつ敵意はなさそうだったので放置していたのだが、この場では戦力が必要なので声をかけたのだ。
「それで、ユズよ。お主は戦えるか?」
「えっと……戦えますけど……」
「……先生、ユズは理由があって人見知りだから、まだ先生のことが信じられないんです」
「そうか……すまんな」
「い、いえ、悪いのは……私の方…だから」
掠れるような声を聞けばわかる。
本人が戦えても、扉間を恐れている状態では連携が取れない。
命のかかる戦場に連れて行くのは、それは余りにも無謀だ。
「ど、どうしよう、先生……私達だけで行くのは…やっぱりダメだよね?」
「……連邦生徒会の兵力。決して弱くは無かろう。それが抑えていた場所に行くのは、ちと不安だな」
「うう、せっかくのチャンスなのに……」
無念という表情を隠しはしないが、扉間の言いつけ通り戦力が足りないので諦めるモモイ。
「意外……お姉ちゃんなら、先生を騙して私達だけで行こうって言うかと思ったのに」
「ミドリは私を何だと思ってるのさ!? そりゃ、
それに対して、モモイは心外だとばかりに声を上げる。
モモイだって、お姉ちゃんなのだ。
大切な部員や妹を傷つける真似はしたくない。
「でも、このままじゃ、廃部を待つだけだよ?」
「う、うん。それは何とかしないと……」
「私だって、この場所を守りたいよ? 私の大好きなゲーム達を宝物だって証明したいよ? いいゲームを作ってみんなに褒められたいよ? でも、みんなで揃ってなきゃ意味ないじゃん。ミドリとユズが居なかったら、どんな神ゲーをしたってちっとも面白くないよ!」
いつも周りを振り回すし、無鉄砲な所もあるがいざとなれば冷静な判断が出来る。
大切な者の優先順位が揺らがない。
そして、普段どれだけ妹や友達に頭が上がらなくても、自分の信念は譲らない。
「だから、先生の言うように戦力を整えてから行こう。ヴェリタスのメンバーとかエンジニア部にも掛け合ってみるから」
頼りたくなる。
「フ……モモイ、少々待て。先にワシが当たってみるとしよう」
そんなモモイだからこそ、なんだかんだ言って周りの助けを得られるのだろう。
扉間はそんなことを考えながら、楽し気に笑う。
「え? もしかして、シャーレの人を応援に呼んでくれるの?」
「いや、今回は立ち入り禁止エリア。公的にシャーレを動かすのは、少々不味い」
「じゃあ、どうするんですか?」
若干怒ったような表情で、ミドリが尋ねる。
「なに、蛇の道は蛇にだ」
それに対して、扉間は軽く笑ってどこかに電話をかける。
『―――はい、どんなことでも解決します。便利屋68です』
「ワシだ。個人として護衛を頼みたい」
馬鹿だが真っ直ぐ。まるで兄者のようだ……。
いざという時は冷静な判断を下せる。まるで兄者のようだ……。
妹や仲間を何より大切にしている。まるで兄者のようだ……。
1万扉間ポイントGET!
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