千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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本日は子供の日。子供の人格を重んじ、子供の幸福をはかる日です。


108話:子供が主役

 私が居なくなった方が良いと気づいたのは、いつからだったでしょうか? 

 

 初めに、やり直すことを選んだ時? 

 自分以外に任せてみようと考えた時? 

 それとも、先生と一緒に居ると、キヴォトスがダメになってしまうと気がついた時? 

 

 まあ、どこでも同じですよね。

 

 (わたし)が居たら、世界は上手く回らない。

 人は神の手を離れて、楽園の外の荒野に旅立たなければならない。

 重要なことは、それだけなんですから。

 

 努力をすれば、人間は誰だって、何でも叶えられる。

 ちょっと、時間はかかるだろうけど。

 それでも、全知全能(かみさま)を模して造られた人間は何だって出来る。

 

 だから私の役割は、そんなに大したものじゃない。

 同じことが出来る人が居るのなら、私である必要はない。

 

 そう思ったから、私は先生の前から居なくなってみたんだ。

 自分の代わりを置いて行ったりもしてみた。

 連邦生徒会長という職務を空席にして隠れてたら、みんなが先生を中心に上手くやってくれる。

 そう思ってたんだけどなあ……。

 

 

 ──(しらとり)イノリが、存在すると上手くいかないと気づくまでは。

 

 

 私と先生が手を組めば、生徒が成長しない。

 先生が1人だったら、誰も先生の正しさ(間違い)を止めてくれない。

 一緒に生きて、一緒に成長していく。

 そんな当たり前のことが、(しらとり)イノリが居ると出来ない。

 

 エデンの園で、神様に守られているうちは、子供は成長しない。

 でも、裸のまま楽園から追放したら、生きてはいけない。

 神として干渉せずに、人として気づかれずに助けてあげる必要がある。

 

 

 だから、私は(しらとり)イノリという個人を──アロナという子供に塗り替えることにした。

 

 

 神として守るためだけではなく、子供として一緒に成長していけるように。

 そうすれば、きっと……どの生徒も、先生も、誰一人として犠牲にしないで済むはずだから。

 

 ねえ、リンちゃん? 

 リンちゃんはきっと、今でも私のことを探してくれているんだよね。

 

 リンちゃんにとって……ううん。

 私にとって、リンちゃんは友達だから。

 リンちゃんにとっても、きっとそうだったら嬉しいな。

 

 ねえ、先生? 

 

 私は先生にとっての何でしょうか? 

 ただのお助けサポートキャラでしょうか? 

 それとも、先生をここまで連れて来た得体のしれない子供? 

 

 それを聞く機会は、もう永遠に訪れないでしょうが……それでも、私は。

 

 あなたのことを愛しています。

 世界よりも深く、深く、深く。

 だから──

 

 

 ──全部あげます。

 

 

 あなたの幸せのために。

 この命を、存在を、身体(からだ)を。

 全部…全部…あげちゃいます。

 そうして、何も知らない子供(アロナ)として、これからも一緒に居ましょうね、先生……ずっと。

 

 そうして、先生はいつまでも、この楽園(Blue Archive)で幸せでいてください。

 

 たとえ、(しらとり)イノリと一緒に過ごした日々が、全て忘れさられるのだとしても──

 

 

 

“──娘を忘れて、幸せになれる父親など居るものか、馬鹿者”

 

 

 

 

 

「早速、敵が出て来ました! アルさん、どうしましょうか?」

「直進よ! 敵が前から出て来たことは、敵の後ろが正しい道ってことよ!!」

「ダンジョンでも、モンスターを配置するのはボスに続く道だからね!」

『………物申したいですが、道は合っているので否定できません』

 

 無能な指揮官の突撃命令の如く、とにかくアトラ・ハシースの中をまっすぐに進んでいく、アル小隊長率いる部隊。

 次元エンジンを破壊して、占領しなくていいのか? 

 電撃戦で相手の首を取れば、勝利だから問題ない! 

 疾風迅雷やね。

 

「何か、(あたし)達の後ろからも敵が追って来たんだけどぉ!? これどうするの、アル!?」

「え!? えーと……直進あるのみよ!! よく考えたら、ワープで逃げられるんだから帰り道なんか気にする必要が無いわ!!」

「クヒヒ、こんな破滅的な作戦、初めてだよ!」

「玉砕覚悟の突撃……昔は良く教えられてましたね。まさか、校長先生の代になっても、やるとは思いませんでしたけど」

 

 初めは目の前の敵を打ち破るだけで良かったが、占領してから来ているわけではないので、当然討ち漏らした敵が後ろから再び襲ってくる。

 挟み撃ちになってしまうが、アルは最後はワープで帰れると気にせずに突っ込んでいく。

 ヒヨリが、昔は自爆特攻を教え込まれたなぁと懐かしみながら、お菓子の詰まった大きなリュックと共にその後ろに続いていく。

 

「ん、ボスっぽいのが居る……どうする?」

「……私達、FOX小隊が残って相手をしよう。その間に陸八魔小隊長達は先に──」

「馬鹿を言うんじゃないわよ! 無視して直進! 無視が出来ないなら全員で潰して、全員で進むだけよ!! 私達は既に一蓮托生よ! 全員で生き残るか、全滅かの二択!!」

「ふふ、頼もしい隊長さんですね」

「甘いけど……嫌いじゃないわ!」

「じゃあ、ご期待に応えて、私達FOX小隊のエリートっぷりをお見せしよう!」

 

 強大な敵も何のその。

 これはゲームではなく現実(リアル)なのだから。

 普通に敵の脇をすり抜けて前に進んだり、無理なら全員で叩き潰す。

 人類最強戦術、袋叩きである。

 

「……クジ引きで決まったリーダーですが、意外と上手くいってますね。まあ、問題から目を逸らしていると言えば、それだけの話ですが」

「そこをフォローするのが、私達の役目じゃないかな、カヤちゃん?」

「まあ……一応は年下ですので、フォローしてあげましょうか」

 

 そんな快進撃を続けるアル達を見ながら、カヤとイノリの2人が周囲に目を光らせる。

 トップに立つ人間だからこそ、俯瞰的に戦場を見渡すことが求められるのだ。

 何より、最年長かつ生徒を守らねばならない立場の2人。

 火の意志が光り輝く。

 

『後、もう少しでナラム・シンの玉座に到着します。先生、シッテムの箱を離さないでくださいね? 何があるか分かりませんので』

「ああ、分かっておる」

 

 そして、防御を捨てた捨て身の快進撃が実を結び、遂に目的地へとたどり着く。

 世界を欺く者(プレナパテス)、もう1人の扉間が待ち受ける、ボス部屋。

 そして──

 

 

「ようこそ、トビラマ先生。ナラム・シンの玉座へ」

 

 

 世界を欺く者(プレナパテス)にとってのA.R.O.N.A、略してプラナが立ち塞がる場へ。

 

「ウトナ…!? いや、並行世界のA.R.O.N.Aか……しかし、何故外に出ているのだ…?」

「ホログラムでしょうか…?」

 

 アルを先頭に突撃に突撃を重ねて、遂に辿り着いたナラム・シンの玉座。

 そこで待ち構えていたのは、ウトナと全く同じ姿をしたA.R.O.N.A(プラナ)

 扉間は、どうやってAIが普通の人間と同じように、現実に出ているのかと困惑する。

 

『……なるほど、そういうことですか』

「ケイ? 何か知ってるの?」

『アトラ・ハシースの内部は状態の共存状態。さらに、ナラム・シンの玉座は()()()()()()()()()()()混ざり合う、混沌の空間……AIの肉体は実在しないという結果が、確定されないので、肉体を持ったように外に出られているのですね? その気になれば、私も外に出られそうです』

「そういうことか……肉体を得たのではなく、この空間特有の現象か」

 

 そんな扉間達に対して、ケイがしたり顔で説明を行う。

 相手のネタをあっさりと看破できるのは、流石は本家本元のアトラ・ハシース乗組員といった所だろうか。

 

「その通りで…え? あなたは、一体…? 何故、その“教室”にA.R.O.N.A以外の存在が?」

 

 逆に、相手のA.R.O.N.A(プラナ)の方は、連邦生徒会長In A.R.O.N.Aですらない、完全な別人がシッテムの箱の中に居ることに困惑する。

 自分の家の中に、他人が居たら普通はビビるので、仕方がない事だろう。

 

『……なるほど、どうやら私がシッテムの箱に入れられた世界は、随分と珍しいようですね。今の所、3つの世界でこの世界だけみたいですので』

「………まさか、名もなき神々の王女の鍵ですか? シッテムの箱に代わりのOSを入れて動かすとは……流石は先生と言いますか、何と言うか……」

『残念ですね。これは私の発案です。まあ、発端は先生なのは間違いないですが』

 

 理論は分かるけど、普通やりますか? 

 そんな、呆れた目を扉間に向ける、プラナ。

 

「それで、アロナ(ワシの娘)は無事なのだろうな? 並行世界の()()

 

 だが、扉間の目線はプラナではなく、その隣の人物に向いていた。

 鉄の仮面で覆われた、偽りの先生。

 もう1人の扉間(プレナパテス)

 

“…………”

「だんまりか? それとも、人の言葉を忘れる程に耄碌したか? 子供を守れずに、自分だけが生き延びるとは、マダラのことを笑えんな。ん?」

 

 言葉を発しないプレナパテスを、苛立ちを込めた言葉で煽る、扉間。

 扉間からすれば、相手は火の意志を忘れた、見たくもない、もしもの自分。

 厳しい言葉をかけてしまうのも無理からぬことだ。

 

「……ん、先生でも先生の悪口は許さない」

「んッ! デブシロコ! ワープで戻って来た?」

「よわシロコ……」

 

 そんな、辛辣な言葉を否定するように現れたのは、シロコ*テラー。

 

「ほぉ、マーキングされた状態で戻って来たか?」

「……ここまで侵入された以上は、隠れるだけ無駄。どうせ、敵が内部に居るならワープ攻撃されても大して変わらない……それに、最終決戦だから」

 

 マーキングされたせいで、本拠地に帰れないプチ角都状態になっていた、シロコ*テラー。

 だが、相手が既に本拠地に侵入しているのなら、もはや心配するだけ無駄だ。

 戻って戦力として、戦った方がマシと判断した。

 

「なるほど、確かにな。それで……アロナはどこだ、()()?」

“……”

「無駄だよ。先生はもう……喋れないから」

「私達のプレナパテス(トビラマ先生)は……既に死んでいます。いわば動く死体です。古聖堂の瓦礫に押しつぶされた影響で呼吸器官が……あの体は鉄の肺のようなものです」

 

 プレナパテスは答えない。

 代わりにシロコ*テラーとプラナが、もう何もしゃべれないと答える。

 そう、プレナパテスは動く死体に過ぎないと、衝撃の事実を口にする。

 

「死んだまま動いてるんですか!? あ……穢土転生の術ですね!」

「なんと言うか、衝撃の事実のはずなのに……見慣れたね」

「また、穢土転生の術かぁ……(倫理観が)壊れるなぁ」

「やっぱり、これ作るべき術じゃなかったよね?」

「死体の軍勢のボスも死体ですか……何と言うか…こう……虚しいですね」

「ん、捻りが無い」

「じゃあ、結局あっちのシロコが全部の黒幕ってことかしら?」

 

 まあ、ここまで来た生徒達にとっては、あまりにも見慣れた光景なので驚きなどないのだが。

 黄泉の門はもう、ガバガバ。

 

「穢土転生ならば話は早い。もう1人のシロコ。お前から大人のカードを奪って、穢土転生の主導権を握ればいい。そして吐かせる」

 

 そして、扉間も自分の死体とか見慣れたものなので、平然と吐かせると告げる。

 出るか! 二代目様考案の穢土転生の術が…! 

 

「……違う。先生は色彩の嚮導者になった影響で、死体が動いているだけ」

『色彩の…!? そんな馬鹿な……先生は「崇高」、「神秘」、「恐怖」のいずれも持っていないはずです……理解出来ません。また、禁術ですか?』

「先生に神秘が無いのは私も確認済みです。神秘があるのなら、私の奇跡で生き返らせることが出来たんですから……先生? もしかして、また何かの禁術を隠し持っていたんですか?」

「人を歩く禁術書のように言うな」

 

 色彩が取るはずのない行動。

 色彩や神秘に最も詳しい、ケイとイノリが扉間へ疑いの目を向ける。

 自分が死んだ後も死体になって動く術なんて!? ……まあ、扉間なら作ってそうだな。

 

「……しかし、あちらの方が言っていることが事実だとしたら、あの先生は色彩に操られているのでは? 刑法的にはこの場合は、どうなるんでしたかね」

「死体を操って、本人が望まないことをやらせる…? 何と卑劣な…!」

「そうは言っても……改めて、客観視すると私達FOX小隊も酷い事してますね」

「暴れる死体をミサイルに詰め込んで撃ち込む……うん、地獄落ちね」

「まあ……実際に穢土転生の術を使ったのは、あっちだし…?」

 

 色彩に操られて、非道なことをやらされていると言われても、あまり怒れない。

 前世で積み重ねた扉間の悪行が、跳ね返って来たとしか思えないのだから。

 

「ええい! 作るべき術ではなかったのは、ワシも反省しておる所だ! とにかく、今はアロナの安否だ! あちらのA.R.O.N.Aが外に出ているとはいえ、ケイはシッテムの箱に入ったままだ。この空間では必ずしもAIが外に出る訳ではないのだろう。あちらが居場所を答えないのならば、シッテムの箱を奪うだけだ! アル、指示を頼む!!」

「え!? あ、そうよね……私がリーダーだものね」

 

 結局、戦うことには違いないのだと、ちょっと誤魔化しつつ、アルに指示を仰ぐ扉間。

 

「取り敢えず──細かいことは! 倒してから!!」

 

 そして、アルの指示は倒してから考えるというものだった。

 色々と状況が複雑な時はこれに限る。

 

 ここはキヴォトス。

 殺さなければ、相手を気絶させるぐらいは日常茶飯事。

 ぶちのめしてから話合えば問題ない。

 まあ、約1名は既に死んでいるのだが(笑)。

 

「相手は先生を入れても3人です! 普通に考えれば、数ではこちらが圧倒的に有利です」

「多勢に無勢だけど、(あたし)達を卑怯だなんて言わないよね?」

「悪く思わないでね? ゲームでも主人公パーティの方が、数が多いのは常識だから」

 

 ワープに無敵ガードの持ちの敵。

 だが、こちらも限定的にだが同じ手が使える。

 ならば、数の多いこちらの方が有利だと、ヒフミ、ミチル、モモイが告げる。

 

「主人公ですか……確かにそうですね。()()()()()の主役は先生です」

「でも……忘れたわけじゃないでしょう? ()()

 

 しかし、プラナとシロコ*テラーは冷静だった。

 まるで数の不利など、初めから存在しないとでも言うように。

 

「あなた達の前にいるプレナパテスが、誰なのか?」

「まさか…!」

 

 プレナパテスが大人のカードを取り出す。

 酷く錆びた、使い込まれたカード。

 魂を抜き取る禁術──

 

 

 大人のカードを使う。

 

 

 ──ではない、()()()()()

 

「あれは……私が持ち込んだカードじゃないですね」

「そう。このカードの効果は忍術じゃない……」

 

 イノリがシロコ*テラーに渡したカードではない。

 プレナパテスが生前より使い続けて来た、カード。

 こちらの扉間と同じ効果を持った、大人のカード。

 

「シッテムの箱が制約解除された力。プロセス『ペレツ・ウザ』をお見せしましょう、()()()()()()

 

 そして、2人のA.R.O.N.Aの存在により、数の制約から解き放たれた切り札。

 

 

 

『うわぁ……みなさん()()ですねぇ』

 

 普通のビジネススーツに身を包んだ、()()()女性が現れる。

 

『あれ、()()()()の私? う…黒歴史が……』

 

 長い髪に落ち着いた服装の、ゲームプログラマーが現れる。

 

『少しは背も伸びたと思ってたけど……もしかして、今の(あたし)と大して変わってない?』

 

 背丈は変わっていないが、しっかりと色気を出した化粧をした、くノ一が現れる。

 

『ふーん……まさか、子供時代の自分と戦わされるなんてね』

 

 シュッとした警服に身を包み、煙草を口にくわえた婦警が現れる。

 

『ああ……スリムな頃の私が目の前に……お言葉かもしれませんが、美味しいものの食べ過ぎに注意してくださいね?』

 

 ふわりと柔らかそうなスカートを履いた、少しふくよかな女子大生が現れる。

 

『ちびシロコに、デブシロコ……ん、私がパーフェクトシロコ』

 

 長い髪を動きやすいようにまとめた、パーフェクトボデイの銀行警備員が現れる。

 

『タダ働きはしない主義なのだけど……先生には昔の恩があるもの。出世払いってことにしておいてあげるわ』

 

 胸元の開いた真紅のスーツ。肩に羽織った豪華なコート。

 まるでマフィアのボスのような敏腕女社長が現れる。

 

 

「これは…! 大人のカードで──大人になった生徒を呼び出したのか!?」

 

 

 扉間の切り札は、未来のシャーレの人間を呼べること。

 その名前も、()()()()()()

 

『あれが昔の私か。何と言うか……表情が硬いな』

『ちょっとした同窓会みたいで楽しいですね。これが大人のカードですか』

『私とオトギは職場が同じだけどね』

『ふっふっふ、それじゃあひよっこ達に、大人の威厳を見せつけちゃうとしますか』

 

 SRTのマークの付いた腕章にスーツを着た、女教官が現れる。

 欠片も争いの痕跡など感じさせない偽装をした、保険の営業が現れる。

 軍服を着た、今と大して背丈の変わらない軍人が現れる。

 同じく、軍服を着た余裕たっぷりのスナイパーが現れる。

 

『ちょっ!? 呼ぶなら事前に言って頂けませんか! 徹夜続きで髪がボサボサで…! ああもう…! 先生に、こんな姿をお見せする気はなかったのに!』

 

 服の襟が少しよれて、目の下に分厚い隈を作った、政治家が現れる。

 

「お、大人になった私達ですか!?」

「大して身長が変わってないのは……ちょっとショック」

(な、なによ! あの赤いスーツ! カッコイイ!)

 

 大人になった自分達の登場に、混乱する者。

 少し落胆する者。

 理想の自分になっていて、喜ぶ者。

 多種多様な反応をそれぞれが示す中。

 

『まさか……私がもう一度、生徒扱いされる日が来るとは思いませんでした』

「あちらの私は………先生になれたんですね」

 

 そして、最後の大鳥(おおとり)が現れる。

 醜いアヒルの子から、美しい白鳥へと姿を変えた女性。

 白い制服ではなく、黒のスーツに身を包んだ大人の先生。

 

「阿慈谷ヒフミさん、才羽モモイさん、千鳥ミチルさん、風倉モエさん、槌永ヒヨリさん、砂狼シロコさん、陸八魔アルさん、七度ユキノさん、吉野ニコさん、高倉クルミさん、天神山オトギさん、不知火カヤさん、鵠イノリさん。以上の13名と私達がお相手します」

 

 大人のカードによって呼び出された、13人の使徒が扉間達の前に立ち塞がる。

 全員が大人。それも成長した姿。

 同じ属性に同じ属性をぶつけ合わせて、なおかつ火力で上回る三代目火影スタイルである。

 

「大人の(あたし)達って……完全上位互換じゃん!?」

「いやぁ……まさか、私がただの警官をやってるなんてね。もしかして、ちょっと自制できるようになった?」

「上位互換……と、言うには少し体が鈍ってるような気が……」

 

 ミチルとモエが、自分の未来に警戒する中。

 ヒヨリは食べ過ぎたせいか、今よりも肉付きが良くなっている(歪曲表現)自分を見て、ちょっとショックを受ける。

 おい、その先は地獄だぞ? 

 

「……どういうことだ? 理解出来ん」

『先生? 確かに、未来の生徒が出てくるのは理解出来ませんが……』

「いや、そうではないのだ、ケイ。何故相手は、相手のオレは──()()()()()()()()()()()()?」

 

 そんな中、扉間は相手の意図が読めずに困惑する。

 何故、ここに居る生徒と同じ人物を未来から呼び出したのかと。

 

『敗北を決定づける?』

「大人のカードは未来を確定させる。つまり大人のカードは、望んだ結末を引き寄せられます。死の運命すら捻じ曲げる代物……要するに、未来の私達が生きていることを確定させたのだから、ここで私達が死ぬことはない……そういうことですね? 先生」

「ああ、その通りだ。イノリ」

 

 大人のカードは未来を確定させる。

 五体満足で大人になった結果を呼び出した以上は、ここでアル達は倒せない。

 今から戦うのに。一体何がしたいのだと疑問に思うのも無理らしからぬことだ。

 

「問題はありません。ここがナラム・シンの玉座ということをお忘れですか?」

『ッ! そういうことですか…! ここは()()()()()()()()()()()混ざり合う、混沌の空間……つまり、大人のカードで呼び出した()()()()()()()()()()()()になるということですね?』

「お見事です。天童ケイさん」

 

 全てが確定せずに、混ざり合った状態で存在する空間が、ナラム・シンの玉座。

 ここでは、大人のカードの効果すら確定した未来にはならないのだ。

 

「つまり……ノーリスクで私達の完全上位互換を、呼び出したということですか。というか、先生の前でだらしない格好をしないで貰えますか? 恥ずかしい……」

「ん、また自分が出て来た……正直見飽きて来た」

「確定じゃないのね。あの赤いスーツはイカしてるから、ちょっと残念なような……い、いいえ! 未来は自分の手で切り開くものよ!」

 

 生徒達が生き残る未来は確定していない。

 だが、明確に今の生徒よりは強い存在。

 それが、大人になった生徒だ。

 

「ん。正直、私も自分がまた増えるとは思ってなかったけど……とにかく、これでこっちが圧倒的に有利。子供は大人に勝てない……それがこの世の真理」

「そして、こちらは2人のA.R.O.N.A。しかも強化されたシッテムの箱で、先生の指揮ありです。素直に降参した方が良いかと」

 

 シロコ*テラーとプラナが圧倒的有利を告げる。

 この勝負はここで決したもの同然だと。

 

「チ、チートじゃん……ん? あれ?」

「モモイさん?」

 

 しかし、勝負は決まってなど居ない。

 他ならぬ、世界を欺く者(プレナパテス)自身が、未来の確定を捨てたのだから。

 

「えっと、大人のカードって先生も持ってるなら……先生も大人のカードを使えばいいんじゃない?」

「あ! そうじゃん! この場所のおかげなら、こっちも使えばいいじゃん!」

「せ、先生、お願いします!」

 

 相手も使えるなら、こっちもチートを使えるよね? 

 そんなモモイの気づき。

 ミチルやヒヨリも、そのことに気づき扉間へ大人のカードを使うことを提案する。

 

「ワシの本来の大人のカードか……」

 

 その言葉に、従うように扉間は大人のカードを取り出し──

 

 

「──もはや必要あるまい」

 

 

 ──大人のカードをへし折る。

 

「は? ちょ! ええぇッ!? それ切り札じゃないの、先生!?」

「カードの再申請処理は面倒だって聞いたことがある。アビドスは、借金持ちだからカードは作れないけど」

 

 バキッと容赦なくへし折られた大人のカードに、素っ頓狂な声を上げる、アル。

 シロコもカードは一度紛失すると、面倒なのにと目を丸くする。

 

「そうですよ、先生。一体何を…?」

「この空間の特性で、大人のカードの()()()()()()()()()が無くなろうと、同じことだ。この作戦はお前達、生徒に任すと決めたのだ。ならば、初志貫徹するのみ」

 

 イノリの言葉に首を横に振りつつ、へし折った大人のカードを放り投げる、扉間。

 

「未来を決めるのは老人ではない。お前達子供だ。ワシ(大人)の出しゃばるべき場面ではない」

 

 大人はすっこんでいろ。

 自分にも、相手にもかかる言葉を吐きながら、扉間は大人になった敵の教え子を眺める。

 これから生きていく上での、楽しみになりそうだと思いながら。

 

「ワシはお前達の可能性に全てを賭ける。相手が大人だからどうした? 子供とは大人を超えて行くものだ。この物語の主役は大人(ワシ)ではない、子供(おまえ)達だ」

『ふふふ、流石はトビラマ先生ですね……私も先生になって、そのことを毎日感じています』

 

 子供は大人に勝てない? 

 だが、学園都市(キヴォトス)においてはそんな常識は通じない。

 いや、全ての世界において同じだ。

 

 完成された大人と。未完成の子供。

 どちらの()()()が上かなど、言わなくとも分かるだろう。

 

「ワシが確約出来る未来は1つだけだ」

 

 大人の責任とは、生徒を信じ任せること。

 そして──

 

 

「勝ったら、お前達全員に高級焼き肉を奢ってやる。気張れよ? 若人達」

 

 

 ──頑張った子供達を精一杯に労ってやることだ。

 




シロコ、シロコ、シロコ、ジェットストリーム強盗(アタック)を仕掛けるぞ!

次回は5/12に投稿予定。
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