それは遠い遠い記憶。
深夜の病室の中。
誰にも気づかれないように、1人の少女が患者に寄り添う。
「私のミスでした……先生。私が離れたせいで……先生を守れませんでした」
少女は泣きそうな声で、患者の手を握りしめる。
患者は、千手扉間はその声に何も返せない。
「ごめんなさい…先生……早く良くなってください」
“……誰だ? ”
だが、声は聞こえていた。
声は返せず、瞳を向けてやることも出来ない。
しかし、少女の、
「この世界線はもうダメかもしれません。今回は私抜きで、先生を中心に回していく予定だったのですが……全てが瓦解してしまいました。私のミスです。A.R.O.N.Aちゃんの力だけでは、先生を守り切れない……次の周回に活かします」
“何の話だ? 世界線? 周回? 何者だ? それになにより……”
扉間が聞こえていないという前提で囁かれる、懺悔。
だが、頭脳だけは動いている扉間は、必死に考える。
「だから……今は、安らかに眠っていてください」
“なぜワシは、この娘の泣きそうな声に──これ程までに心がかき乱されるのだ? ”
記憶がなくとも、魂が救えと訴えるこの娘は誰であろうかと。
『も、もう、疲れちゃってぇ……全…然…動け…なくてぇ……』
『ね、寝不足で、すぐに息が切れてしまいますね……というか、いきなり呼び出されたせいで、先割れスプーンしか持って来ていないんですが? これで、どうやって戦えと…?』
『ん、戦力外組は下がってて。そもそも、2人共後衛でしょ? カヤは指示役』
大人になるって、悲しい事なの……。
脂肪が落ちづらくなり、動くのがおっくうになり、それがまた脂肪を貯めこむ互乗太りの術。
若い頃なら徹夜でも耐えられたが、30歳を境に一気に体力が落ちる。
現場で動いている人間の方が、かえって健康だったりするのが、大人だ。
「あ、あれが未来の私…………美味しい物の食べ過ぎには気をつけます」
「だ、だらしないですね。デスクワークばかりではなく、適度な運動もするように気を付けましょう……」
「あっちのヒヨリとカヤは大したことない。でも、もう1人……3人目の私は気を付けて。ドローンも私より多く操れるし、デブシロコと違って動きも機敏。ワープで運動をサボってる奴とは違う」
未来の自分達にショックを受けて、ああはなるまいと誓う、ヒヨリとカヤ。
健全な成長を遂げた自分に、少し満足げな表情をする、シロコ。
「それにあの服……大手銀行の制服。警備員に偽装して、銀行を襲うの?」
『違う。ちゃんとした、銀行警備員に就職したんだよ。毎年、防犯訓練の際に強盗役で店を制圧して、銀行欲を発散してるけど……警備役の後輩達との勝負が楽しいし』
「ッ!」
その手があったか!?
シロコがパーフェクトシロコの言葉に、手を叩く。
合法的に強盗マニュアルを作成出来、なおかつ合法的に実行できる。
しかも、給料まで出る。まさに、理想の職場だ。
『でも……私もヒヨリちゃんと、カヤさんのことを笑えません。私も普通に動ける程度ですから。明日も仕事なので、あまり無茶は出来ないんですが……』
『ヒフミ先輩は、まだ動けてる方じゃん。私なんて1日中職場に籠ってゲームを作ってることも多いから、明日の筋肉痛が怖い……』
『翌日に来る分は、まだマシですよね。翌日は大丈夫で、いけるかなぁと思ってたら、数日後に筋肉痛になって、しばらく原因が分からなかったりしません?』
『え、こわ……』
普通の戦闘力は維持している、OLヒフミ。
まだ、若いけどそもそもインドア派で、健康管理もズボラなゲーム開発者、モモイ。
先生という激務な職のせいか、他の子よりも衰えが顕著に出ている、イノリ。
まだ若いのに、年寄りの同窓会みたいな話してるな、こいつら。
「これが未来……い、良い事ばかりじゃないんですね」
「どうしよう……自堕落な大人になる未来が、簡単に想像できる……」
「これが超人と呼ばれた人間の末路…ぶ、無様……」
子供の頃は大人って凄いなと思っていたが、所詮は1人の人間でしかない。
別に凄くとも何ともない。
子供と同じように、今を一生懸命に生きているだけだ。
「ううぅ……あっちの息切れしてる面子と違って、普通に大人の
『忍者の道は一日にしてならず! 毎日、真面目にやってきた成果だから喜びなよ!』
「でも、今は敵だよねぇ!?」
『火遁・豪火球の術!!』
「うそぉッ! ちゃんとした、火遁!?」
『自分を信じない人間に、努力する価値はないからね!』
そして、見た目は大して成長していないが、中身は順当に成長した大人ミチル。
忍術がこの世に存在すると広まった以上は、出来ない理由などないのだ。
『先輩達、他の人達は怠けてるみたいだし、ここは元SRTとして私達が頑張りましょうか?』
『モエ……いや、ここは敢えてRABBIT3と呼ぶか。そうだな。過去の私達に、少し
『FOX小隊、久しぶりの復活だね、ユキノ……ううん、FOX1』
『私とFOX4は、常日頃から動いてるけどFOX2は大丈夫そう?』
『ま、大丈夫でしょ。表の姿は超売れっ子の保険営業! でも、裏の姿はどんな企業、職種にもスルリと忍び込んで情報を抜き出す、凄腕のスパイ! だもんね?』
『もう、やめてよ。ちゃんと、その人に合った保険を提案してるだけだよ?』
そして、こちらは大人になっても現場で活躍するガチ勢達。
「先輩達! これって、こっちの動きが全部読まれてません!?」
「…ッ! これは……どうすれば?」
「FOX1! 落ち着いてください! 相手は未来の私達……私達が知ってるものも、考え方も全部分かってます。慌てた時の動きでさえも…!」
「ああ、もう! 腹が立つわね!! せめて、身長かスタイルも成長しておき──痛ッ!?」
「おお、あっちのFOX3の完璧なヘッドショット。腕はとんでもなく成長してるね。まあ、性格も変わってなさそ──ふぎゃッ!?」
口は禍の元。
他人ならともかく、自分相手に手加減などする理由もないので、容赦なくボコっていく、未来のSRT組。
決まった動きしか出来ないのなら、地力が上の人間が勝つという当たり前の話だ。
そんな今だからこそ、予想外な動きをする人間が必要になるのだが。
『跪きなさい』
「誰が──痛ッ!」
徹底的に敏腕女社長の大人アルに、抑え込まれる、現在アル。
跳弾を利用して膝の後ろをピンポイントでスナイプされて、崩れ落ちるしかないのだ。
簡単に言うと、膝カックンの要領である。
「ちょッ! そんなの有り……!?」
『悪いけど……あなたとは、潜り抜けて来た修羅場の数が違うわ。この世界には勢いだけじゃ、どうにもならないことがあるのよ?』
膝を崩したところで、次は手を撃ってアルのスナイパーライフルを弾き飛ばす、大人アル。
因みにここまで、全て片手で行っており、空いた方の手ではカッコ良く葉巻を持っている。
『あなたには、足らないものが3つほどあるわ』
「3つ……?」
『そう、知識、経験、そして何より──』
キンッとカッコよくライターを弾き、口に咥えた葉巻に火をつける、大人アル。
『──ゲホッ! ゴホッ!? あ、安定感よ……ゴホン』
そして、葉巻を吸い慣れていないのか、思いっきり咳き込む。
タバコは体に悪いからね?
社員を預かる身である以上は、カッコ付けの時以外は吸わないんだ。
「カッコ悪……」
『……フン。何とでも言いなさい。社員と、その家族。それらを背負う以上は、ある程度の安定性も要るのよ。そもそも、安定企業じゃないと求人がし辛いじゃない?』
「う……確かに」
安定収入が無いため、家賃が払えない。
銀行口座が作れない。
お金が借りられない。
全部、事実のためアルは大人アルの言葉に、何も言い返せない。
『いい? プロに必要なものは再現性の高さよ。高レベルのミッションを安定してこなす……顧客はそういった安定と信頼にお金を出してくれるの。不安定な企業は、どれだけ利益が出るとしても出資してもらえないわ。宝くじ感覚で、お金をくれるのは余程の奇特な人間だけよ。夢を追いたいなら、まずは現実で足固めをしなさい!』
「み、耳が痛いわ……」
とても世知辛いことを、コンコンと説教する、大人アル。
これが社会の荒波に呑まれ続けるということ。
とがった
『そうでないと、あなたの未来は借金を返すための自転車操業の日々が待っているわ……私みたいに』
「あ、お金を借りられる程度には、ちゃんとした企業になれたのね」
『………そう言えば、以前はカイザーにもお金を借りられなかったわね』
借金というと、悪いイメージしかないが、返済能力があるかどうかの証明でもある。
悪徳企業の代名詞であるカイザーローンですら、支払い能力が明らかにない人間には貸さないのだ。
なので、アルのポジティブシンキングも間違いではない。
『とにかく、今のうちに安定した資産運用を学んで、地味な仕事からコツコツやってクライアントの信頼を稼ぐのよ。後、ご近所づきあいもしっかりとやるのよ。いざという時に助けて貰えるから』
「もっと、アウトローなアドバイスはないの!?」
『アウトローに生きるためには、基礎が大事なのよ! 夢ばかりじゃ生きていけないわ!』
ちょっと、疲れた顔で世知辛い現実を告げる、大人アル。
これがかつて、キヴォトス最悪のアウトローと呼ばれた女なのか?
時の流れというものは、実に残酷である。
「………認めないわ。こんな未来、認めないわ!」
だが、この未来は確定した未来ではない。
大人のカードの確定を、ナラム・シンの玉座の不確定で塗り潰した状態。
未来はまだ、誰にも決められていない。
「こんな小悪党にしかなれない未来なら──私がぶっ壊してやるわッ!!」
故に、アルは受け入れない未来を破壊してやると啖呵を切る。
「私があなたのなれなかった、理想のアウトローになってみせるわ!! 立ちはだかるなら、私であっても容赦しないわよッ!!」
武器を無くした状態でも立ち上がる、アル。
そんな愚かな姿を、大人アルは紫煙を通して見つめ。
『……本当、馬鹿ね』
最高にアウトローな笑みを浮かべて見せるのだった。
「……大人って世知辛いんだね」
「大人のシロコさんは、大分楽しんでいるように見えますが……」
「うん……そうだね」
そして、ちょっと蚊帳の外になったように様子を窺う、シロコ*テラーとプラナ。
未来を失った世界の住人からすると、反応に困るのだ。
「子供も大人も大して変わらん。人生を楽しんでいるかどうかの違いでしかない。お前達も、人生を楽しむ大人になればよい」
「………世界を滅ぼした人間への嫌み?」
「罪人に人生を楽しむことなど、許されるのでしょうか?」
故に、扉間に大人のコツを言われても反感しか抱けない。
未来への展望が欠片もないからこそ、世界を滅ぼすなどというバカげたことをやれているのだから。
「まあ、殺された人間からすれば、地獄に落ちろとしか言えんだろうが……それを言うとワシも、人のことは言えんからな」
罪人が報われていいのか。
人殺しの罪は、永遠に償えないのか。
それは分からない。
「だが、僅かでも己の行いに後悔を抱いているのなら、歩く道を正しい道へと変えるべきだ。己ですら信じられぬ道を歩く必要はない。道は険しくとも、それを己が正しいと信じられるのなら、人は喜びを感じられる。逆に、正しいと信じられぬのなら、いかに楽な道を歩いていても、喜びは感じられん」
ただ、人は道を間違えても、正しい道に戻ることが出来る。
「シロコ。お前ならば良く分かるはずだ。アビドスの借金返済の道……楽な道ではなかったはずだ。ワシが来るまでの追い詰められた日々。毎日が金のことに頭を悩ませる日だっただろう。上手くいかないことだらけの日々。だとしても、楽しかったはずだ。あの頃のお前は……良く笑っておったからな」
「…………」
シロコ*テラーは答えない。答えられない。
途方もない借金を背負いながらも、先行きすら見通せない中でも。
確かに、彼女は笑っていたのだから。
──シロコちゃん。
親代わりの先輩と。
──シロコちゃん♪
たった1人の同級生と。
──シロコ先輩。
──シロコ先輩!
大切な後輩達と。
どんなに苦しい時でも、笑っていられた。
──シロコさん。
そうして、仲間も増えた。
笑顔はさらに増えていったというのに。
今の彼女に笑顔はない。
「世界を破壊する力を手にしたお前は、確かに成長した。背丈も伸びた。だが──弱くなった」
「弱く…?」
「ワシはお前の笑っている顔を、まだ見ておらん。あちらの大人になったお前と違い、お前は一切笑っておらん。良いか? 本当に強い者は……良く笑うのだ」
がははっ! と、豪快に笑う男の顔が思い浮かぶ。
能天気と口では悪く言っていたが、本当は知っている。
柱間はその実、誰よりも深い考えを持っていたことを。
誰よりも悩み、憂いを抱えていたことを。
だとしても、兄として、父として、火影として、柱間は──
「己を奮い立たせるために。見る者を安心させるために。劣勢であればある程に、笑うのだ。故に笑顔を失ったお前は──弱い」
守るべき者達の前では、常に笑い続けていた。
自分の顔が曇ってしまえば、後ろに続く者達が不安になってしまうと。
──扉間、後は頼んだぞ。
最後の瞬間も、柱間は笑って逝った。
何の不安もないと、弟に不安を残させないために。
「A.R.O.N.A、お前もだ。AIだから、OSだから。などという、言い訳は聞かんぞ? こちらのアロナもケイも、良く笑っておる。お前とて、笑うことは出来るはずだ」
「それは……」
アロナはイノリ成分のおかげか良く笑っていた。
ケイも、心を(TSCによって)得てからは、良く笑う子になった。
だが、プラナは笑っていない。
「なぜ、笑えないのか? それはお前達自身が、己のやっていることを正しいと信じられておらんからだ」
「そんなことは……」
──ない。
──分かってんだよ。
続くはずの言葉は、果たしてどっちだったのだろうか?
シロコ*テラーは何も答えられない。
「ワシの願いは、お前達とて分かっておるはずだ。だというのに、子供達から笑顔を奪っておる……このような状況をお前達の心に居る、ワシが許容すると思っておるのか?」
敵の子供すら、本当は殺したくない人間なのに、味方の子供すら傷つけている。
プレナパテスは、扉間からすれば尊厳破壊もいい所である。
「色彩とやらに操られておるのなら、一思いに介錯してやった方がマシだ。まさか、思いつかんかったわけではなかろう? お前は優しい子だからな」
「………うん」
──今度こそ、
扉間を念入りに殺そうとしていたのは、プレナパテスのようにしないため。
子供を守る存在から、子供を殺す存在に貶められてしまわないように。
だというのに、プレナパテス本人を殺すことが出来なかったのは。
「でも……私はもう──大好きな人達を失うことに耐えられない…ッ」
シロコ*テラーに唯一残された、大切なものを失いたくなかったから。
「ホシノ先輩が死んだ……セリカが行方不明になった……アヤネが生命維持装置を外した……ノノミがアビドスを離れて『そうなった』……ワカモが復讐で殺された……もう…もう! 残ってるのは先生だけだから…ッ」
「……死体に縋るか。そこにお前の愛した人間はおらんぞ?」
「うるさいッ!! 何でもいい…! 何でもいいの……残っているのなら、もうなんでも…ッ」
シロコ*テラーが幼い子供の様に泣きわめく。
癇癪を起して、物に当たり散らすように、無理やり直した
踏みつぶされ、打ち砕かれ、銃としての機能を失った、ただの刃が付いただけの棒。
「あの銃剣は……ワカモのものか。まあ、恨みはワシほどではないが、買っておるからな」
『先生! 下がってください! 危険です!!』
銃の機能を失っているとは言え、扉間にとっては普通に致命傷になる凶器。
空気を読んで黙っていたケイも、慌てて下がるように促す。
「壊す壊す壊す壊す壊す! 殺す殺す殺す殺す殺す! そうすれば、みんなみんなみんなみんなみんなみんな──一緒の場所に逝けるッ!!」
死は誰にとっても平等に訪れる。
ならば、皆死ねば、またあの世で会えるのだと。
歪んだ死生観に支配されていく。
「ホシノの銃に、ユメの盾。アヤネのドローン。この分ならば、ノノミとセリカの武器もあるな」
『冷静に観察している場合ですか!?』
アビドス欲張りセットを取り出す、シロコ*テラーを淡々と観察する扉間。
ケイがツッコミを入れるが、扉間は聞く耳を持たない。
「戦術的優位ではなく、己の感傷で武器を選ぶとはな……愚かな」
「ちがうちがうチガウチガウッ!! ミンナイッショッ!!」
亡き友の武器を使う展開は激熱だが、合理的に考えれば正気を問いたくなる行為である。
カカシOF写輪眼ですら、チャクラ量という枷を見るに、オビトの目が適していたかは微妙なのだ。
幼いころから鍛えてきた、白い牙スタイルを伸ばした方が忍としては強くなれたかもしれない。
「ミンナシネバ……ミンナハナレナイ……! シネバミンナオナジ!」
「怒りと後悔に塗れた思考と、使い慣れてもいない武器でワシに勝てると思うか? 舐められたものだな……ケイ、準備は出来ておるな?」
『…………こういう所を見ると、本当に先生は冷酷な忍者なんだと再認識しますね』
色彩の影響か。それとも、素で狂っていたのを抑えていた反動か。
顔が靄に囲まれるように消えて、化け物のようになるシロコ*テラーにも、全く動じない扉間にケイが遠い目をする。
感情と理性を完璧に切り離すのが、プロの忍だ。
「
“…………”
シロコ*テラーは正気を失っている。
だが、彼女にもまだ僅かに残されたものはある。
プレナパテスとプラナだ。
「他の生徒さんは、未来の自分との戦い中です。つまり、先生は名もなき神々の王女の鍵以外に仲間が居ない状態。この状態で、生身の人間が勝てますか? Bluetooth銃も豆鉄砲同然です」
「豆鉄砲か……果たして、撃ち出されるものが豆か?」
「何を……!? Bluetooth銃が2つ…?」
右手にBluetooth銃。左手にもBluetooth銃。
片方は当然、自前のBluetooth銃。
そして、もう片方は──
「こっちの銃はイノリから回収したものだ。すなわち──ヘイロー破壊弾が入っておる」
──イノリが自殺用に使っていたBluetooth銃だ。
ヘイローを破壊出来るので、当然シロコ*テラーも殺せる。
「ヘイロー破壊弾……! 何という余計なものを! 勝手に失踪したり、人殺しの武器を作ったり、こっちを裏切ったり……本当に余計なことしかしませんね、あの女は」
『まあ、言われてもしょうがないですね』
プラナ側からすると、マジで余計なことしかしていないので、イノリが罵倒されるのも当然。
今ならば、プラナも偽物の会長が出ても、そのままスルーしそうである。
「では──始めるぞ」
“…………”
そして、扉間VS扉間の最終決戦が始まるのだった。
“そうか。あやつは……ワシの生徒だったのか”
扉間がプレナパテスとなった時。
彼は色彩に接触したことにより、並行世界の存在を認識した。
色彩は並行世界の移動すら可能にする。
否、全ての世界に存在する、色彩という概念でしかないのだから。
“何度も繰り返しておるとはな……そして並行世界。失敗をするたびに、別の世界線を生み出して、チャレンジするのは諦めん心と評価するべきか、どうか……”
そして、呆れる間違った方向性のド根性。
ドリトライにしても、打ち切りまっすぐな方向性である。
“まあ、それはいい。今は……A.R.O.N.Aとシロコだけでも、何とか救ってやらねばな”
だが、呆れるよりも前に、プレナパテスにはするべきことがあった。
残された生徒、プラナとシロコを救うことだ。
他の人間が全滅した世界でも、この2人だけは生きている。
ならば、救わねばならない。大人として。
だが。
“……あの、無名の司祭とかいう奴らを出し抜いた上でな”
動けぬ……!
プレナパテスは、色彩の嚮導者となった。
そして、無名の司祭はどういう訳か、色彩そのものは操れないが、色彩の嚮導者の行動の方向性は決められる。
世界の全てを滅ぼすといった具合に。
“また、穢土転生のような状態になるとはな……因果応報か”
つまり扉間は、この世界でも死後死体を操られるという、悲劇に見舞われたのだ。
自業自得ですね、はい。
“だが……何物にも、限度というものはある”
扉間のやってきたことを考えれば、死後に死体を操られるのは残当としか言えない。
しかし、それは扉間に関することだけだ。
生徒達。ましてや、忍時代とは全く関係のない生徒を巻き込むのはダメだろう。
“神に滅ぼされ、世界を奪われた。故に神を滅ぼして、世界を奪い返すのまでは構わん。そこまでは道理に反しておらん。だが──
この世界が滅ぼされただけなら、扉間も子供の頃からの合理的思考で呑み込んだ。
だが、この世界以外も滅ぼすというのは、明らかに度を越えている。
復讐の正当性が欠片もない。
これではただの八つ当たりだ。
“目には目を歯には歯を……偉大な言葉だな。やられたこと以上の復讐を禁じるという法を作ったのだからな”
そんな理不尽を、ルール大好きな扉間が許せるはずもない。
“復讐の連鎖を止めるために、右の頬だけでなく左の頬まで差し出した相手を、殴るようならば……それ相応の覚悟はして貰わんとな”
ルールを守ろうね?
え? 守れない?
そっかー……じゃあ、仕方ない。
穢土転生で、お前の所の民間人の何人かを爆弾に変えといたから。
あ、もちろん、何も言わずにやるのは可哀想だから、ちゃんと『この中に裏切り者の爆弾がいる』って伝えておいたよ。
偽物探しが始まるかもしれないけど、そこは君達の勝手だから頑張ってね?
ルール無用なら、絶対に敵に回したくない男ならこのぐらいはする。
“大人のカードの、
無名の司祭はミスを犯した。
操れるからと、言葉が話せないからと、プレナパテスには意識がもうないのだと勘違いした。
故に、カブトと同様に縛りを入れなかった。
シッテムの箱を持たせたまま。
あまつさえ、切り札の大人のカードを取り上げることすらしなかった。
もう、裏切りの準備をしてくれと言っているようなものだ。
“恐らくは、司祭共はどの世界にも存在する……いや、存在していないからこそ、どの世界にもいる矛盾した幽霊のようなもの。存在していないが故に滅びないが、実際に自分達の手で何かを出来る訳ではない存在。ならば、世界を絞り込んでいけば……
イノリが繰り返す度に、並行世界が増えていくのなら、大人のカードは逆だ。
成功と失敗で、2つの世界が生まれる。大人のカードはそれを成功の世界だけに絞る。
つまり、大人のカードを使い続けるということは、数多の並行世界の行く先を1つに絞るということだ。
まるで、無限の可能性を秘めた子供が、レールの上を歩くだけの大人になるように。
“子供達の未来が狭まる問題は……うむ、最後にナラム・シンの玉座を利用し──”
だからこそ、嫌っていた。使用を渋っていた大人のカード。
扉間はその欠点を克服すべく。
“──爆破すればよいな”
未来の生徒達に賭ける。
“大人のカードを使う”
「先生、大人のカードを使うのですね? かしこまりました」
『また……! 傷つけたはずの、あちらのシロコが見る見るうちに復活していきます! まるで不死身です!』
「……無傷の世界線の、シロコを一瞬だけ呼び出しているのか? 数を増やさん理由は……カードの代償を減らすためか? いや、だが……それでは
自分のカードと同じ使い方ならば、奇妙な使い方であると訝しむ、扉間。
互乗大人札と同じ要領で、やれば数も増やせるのに何故やらないのかと。
そして何より。
「しかし……あの大人のカード。いったいどれほど使えば、あそこまで擦り切れるのだ…?」
ボロボロになって今にも崩れ落ちそうになった、大人のカードを見て疑問を抱く。
あれは本当に自分の意思で、生徒を呼び出したものなのかと。
いくらなんでも、自分の思考とかけ離れ過ぎてはいないかと疑い、プレナパテスの方を見る。
“…………”
「──!」
死んだ目ではなく、火の宿った瞳が。
(そうか……そういうことか!)
扉間特有の超速理解。
プレナパテスの意図に、ある可能性を気づいた扉間は、すぐに確認を取る。
「ケイ。敵について聞きたいことがある。特にこの船についてな」
『先生? 何か気づいたのですか?』
「お前を……
『はい? お前達というと、それはアリスも含めて、無名の司祭に………まさか、いるのですか? あの驕り高ぶった無知共が』
別物だったので、違うかなと思っていたが、ここはアトラ・ハシース。
そして、色彩を操る、色彩の嚮導者の存在。
ケイの知る情報から考えても、無名の司祭が裏に隠れている可能性は、十二分あるのだ。
「確証は持てんがな。
司祭=白い=カグヤ。繋がったな!
「そうとなれば……ワシも動く!」
“……! ”
片手のBluetooth銃を懐に直し、再び手を出した時。
新たにその手に握られていたものは──
「“──大人のカードを使う! ”」
──へし折ったはずの、
『え!? さっきへし折ってましたよね!?』
当然、ケイから鋭いツッコミが入る。
戦闘開始前に、へし折ったはずなのに、何であるのかと?
それに対して、扉間は。
「む? ああ、あれは影分身の大人のカードだ。士気高揚には、こういったパフォーマンスも必要だからな」
『私達の感動を返してくれませんか!?』
いや、別に自分が最初から持ってるカードを折ったとは、一言も言ってないし。
だから、別に欺いたわけではない。
などと、いけしゃあしゃあと告げるのだった。
「未来を決めるのは老人ではない。お前達子供だ。
なので、過去の面倒ごとは大人が清算しますねー。
並行世界の過去の遺物共を潰すだけなので、出しゃばってないから、セーフ。
次回は19日に投稿します。
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