「こちらの生徒は全員帰ったな。後は、お前達を連れて帰るだけだ。プラナ、そして、シロコ」
「…………」
「…………」
脱出シーケンスで退出した、扉間側の生徒達。
次はプレナパテスに託された、プラナとシロコ*テラーの番なのだが。
「私はアトラ・ハシースを操作する役目があるので、最後でいいです」
「ん、私も……司祭達が逃げないか見張らないといけないから」
2人の瞳に脱出の2文字はない。
色々と理屈をつけているが、結局はプレナパテスを置いて自分だけが逃げることに、罪悪感を抱いているのだ。
「せ、先生……あちらの先生も一緒に行かないのですか?」
「あやつは色彩の嚮導者なのだろう? 生かしておけば、色彩という爆弾がこの世界に留まるも同然だ。ここで消すのが最善だ」
「それは分かっています! ですが……」
アロナとケイもまた、プレナパテスも連れていけないのかと悩む。
最初の時はともかく、今は彼が自分達を救おうとしていたのは、分かっているのだから。
「
「…ッ」
「イノリという前例があるからな。変に生き返らせようと足掻かれても困る。死体はここで海の藻屑に変えるべきだ……何より、
だが、扉間はその提案をバッサリと切り捨てる。
既に死体になった存在を、連れ帰ってもしょうがないだろうと。
というか、生き返らせようと藻掻いて、世界を破壊しようとした
「アトラ・ハシースの操作も、司祭達の見張りも、もう1人のワシにやらせておけばよい。大人のカードで呼び出した生徒達もおることだしな」
「ですが…! 私は
「私も……最後に残された先生だけは……見捨てられない。一緒に死んで責任を取る……」
1人だけ残して逃げることは許されない。
心中することになっても構わない。
そんな、罪悪感に塗れた叫びを上げる、プラナとシロコ*テラーの頭に──
“ッ!”
──プレナパテスの拳骨が落とされる。
「ト、トビラマ先生…!?」
「なんで…? 何で怒るの…先生…?」
「当たり前だ。命を粗末にするなと言っておるのだろう」
喋れないプレナパテスの代わりに、扉間が代わりに答える。
「ワシとて命を捨てる選択はする。だが、だからといって、生きることを諦めることはせん。最悪の中でも活路を見いだすことは諦めん」
囮役は、もちろんオレが行く。
そう言って死地に赴いたくせに、時系列的にシレッと帰って来た疑惑のある男だ。
説得力が違う。
「何より、未来を守るためにここまでやったのだ。肝心のお前達が死んでしまったら、元も子もなかろう」
扉間の言葉を肯定するように、プレナパテスがプラナとシロコ*テラーの頭を撫でる。
「トビラマ先生……私達は……」
「生きていても……いいのかな…?」
“──当たり前だ。生きて幸せになれ”
声は聞こえない。
ただ、それでも2人はしっかりとその想いを受け取った。
「了解…しました…ッ。トビラマ先生からの最後の命令……必ずや完遂致し…ます…!」
「うん……私も…ちゃんと…幸せになるから……だから……心配しないで…先生…ッ」
2人がギュッとプレナパテスに抱き着く。
体温の無い死体。冷たい鉄の体。
だというのに、そこから伝わってくる愛は、まるで──火のように温かった。
「もう1人の先生……私が救えなかった先生。今度は…今度はちゃんと…こちらのトビラマ先生は! このスーパーAIアロナちゃんが、お守りして見せますから!」
その光景に涙を流しながら、アロナも誓う。
今度こそは、アロナとして扉間を守り抜くのだと。
「いや、アロナ。お前は元の姿に戻って貰うぞ」
「え?」
だが、扉間はそれを即座に否定する。
プレナパテスも当たり前だと言わんばかりに頷く。
「当たり前だ。娘がいつまでも子供のままでは、おちおちボケることも出来んではないか」
「まあ、当然ですね。正体が割れた以上は、連邦生徒会からも鬼詰めされるでしょうし」
「で、ですが、私が居ると全てが上手くいかないんです……」
扉間とケイに、逃げんなよと釘を刺される、アロナ。
だが、本人は何度繰り返してもダメだったと言い訳を告げる。
「必ず誰かを失ってしまう。先生が死んだり、学園同士で戦争になって死人が出たり……どうしても誰かが傷ついてしまうんです! だったら、私はいなくなって全てを上手く出来る、別の誰かに頼った方が──」
イノリという個人は消えて、先生を中心に回さないと悲劇が増える。
多くの人が傷つく。
完全無欠のハッピーエンドが訪れない。
だから、自分という存在を消してしまえば、誰も傷つかないと。
アロナは愚かにも、そう考えたのだ。
「お前が消えることで、誰かが傷ついていないとでも?」
自分が消えることで、悲しむ存在が居ることも忘れて。
「……え?」
「──娘を忘れて、幸せになれる父親など居るものか、馬鹿者」
その言葉は、扉間とプレナパテスの嘘偽らざる本心。
愛する者を忘れることの方が、何倍も残酷だという事実。
“…………”
「わわッ! もう1人の先生…? なんで、私も撫でて……会ったことなんてないのに……」
ワシワシとアロナの頭を撫でるプレナパテス。
この周回では、一度も扉間と出会っていないはずだと、アロナは当初は困惑していたが、やがて気づく。
「もしかして……覚えているんですか? 私のことを…
“……!”
「当然だろう? 父親が娘のことを忘れるものか」
プレナパテスが自分のことを覚えていることに。
「たとえ、脳の記憶を消去したとしても……魂は愛を覚えておる」
「先…生! 先生…! 先生ッ! ごめんなさい…ッ! 私のせいで先生が…ッ」
アロナの目から涙が零れ落ちる。
救えなかった後悔が、自分の情けなさが溢れ出す。
“…………”
「強さとは、諦めない心とは、決して傷つくことなく道を歩くことではない。傷つきながらも、険しい道を前に進み続けることだ。転んだことをなかったことにするのではなく、何度でも立ち上がること……その強さをお前は既に持っているはずだ」
扉間の手が、プレナパテスの手の隣に置かれる。
2人の手が、アロナの頭を優しく撫でる。
「“何せ、お前は
生まれた時から、歩ける人間はいない。
寝返りを打てるようになり、ハイハイを繰り返し、何度も倒れながら立ち上がる。
そして、決して諦めることなく前に進もうとして──やがて自分1人の力で歩くのだ。
「先生……いいえ、お父さんと呼んでもいいですか…?」
「娘がそう呼ぶのは当然のことだ……そうだろう? もう1人のオレ?」
“……”
コクリとプレナパテスが優しく頷く。
扉間も、柔らかい笑みでアロナを撫でる。
「お父さん……私…頑張ってみます。また、失敗するかもしれないけど…それでも……ちゃんと前に進みます…!」
“────”
「フッ……安心したと言っておるぞ。何、ワシも死ぬまでは見守る。お前は決して一人ではないのだからな」
プレナパテスの手がアロナから離れる。
プラナとシロコ*テラーが、プレナパテスから離れる。
これが最後なのだ。
『……トビラマ先生、そろそろ脱出をお願いします』
「ああ……シロコ、プラナ。最後に言いたいことはないか?」
ウトナの声に最後の別れを促す、扉間。
「大丈夫です……言いたいことも、伝えたいことも全て……この胸に記録しましたから」
「うん。それでも言いたいことが、1つあるとしたら──」
──ありがとう、先生。
「ではな、もう1人のオレ。生徒達がワシより先に行きそうな場合は、
“…………”
無茶を言うな。
そんな言葉が聞こえてきた気がするが、扉間は笑って無視をする。
「よし、お前達。ワシの体に触れろ。飛雷神で帰るぞ」
「はい……帰りましょう。私達の…私の物語に」
──飛雷神の術。
プラナとシロコ*テラーを連れて、アロナとケイと共に帰る、扉間。
ナラム・シンの玉座には、沈黙とプレナパテスだけが取り残され──
『ん、じゃあ、ここからは私達の
──たりはしなかった。
大人のカードで呼び出した、大人の生徒達が残っている。
『私達がここに来たのは、先生を見送るためですから。ちゃんと卒業したことを、先生にお伝えするために』
『うん……こっちの先生は、私達が大人になるまで、生きられなかったんだよね? だから、私達の卒業報告と近況報告? 社会人は報連相が大事だからね!』
『先生殿が安心してあっちに行けるように……大人になった
『こんなことにカードを使うのもどうかと思うけど……まあ、ちょっとした卒業式を開くぐらいの悪さなら、お目溢ししていいでしょ』
大人のカードで呼び出された生徒達の目的。
それは、プレナパテスの見送り。
卒業式であり、葬式である。
『あの……校長先生。私は性懲りもなく太ったりしてますけど……で、でも、それはちゃんと美味しいものが食べられてるからですし…! それに、戦い以外のことを学べてるからです。これも全部、校長先生のおかげです。本当に…本当に…! ありがとうございます!』
大人になったヒヨリが帽子を取り、深々と頭を下げる。
今の彼女を見て、戦いしか知らなかった子供だと思う者は、誰もいないだろう。
『大変なこともあるけど、まあ……会社の運営は何とかやっていけてるわよ。社員も増えたし、これからもどんどん事業拡大していくわ』
『相変わらず、安定には程遠いけどね……まあ、でも楽しんでるよ』
『室長って肩書が、単なる肩書じゃなくて本物に変わってきてるのは事実だよ♪ これからも、何とかなると思うから安心してよ、先生』
『は、はい。私も平社員から先輩社員に格上げしていただいて……も、もっと頑張りますので!』
大人アルが葉巻を口に咥えたまま、今も昔も変わらぬ笑みを見せる。
どこからか現れたカヨコ、ムツキ、ハルカが昔と同じように、その背に従う。
『先生、今の私はSRTで教官をやっています。これも、先生と後輩達がSRTを存続してくれたからです。本当にありがとうございます』
『みんな、色々な道に進みました。どれも、険しい道ですが……それでも、耐え忍ぶ心は忘れずに持ち続けていますよ』
『まあ、とにかく……私達はみんな元気にやってるわ。元気すぎるぐらいにね!』
『だからさ……何も心配しなくていいんだよ?』
ユキノ、ニコ、クルミ、オトギの4人が口々に告げる。
何も心配するなと。
私達はちゃんと、頑張って生きていると。
『先生……キヴォトスから武器を無くす夢は道半ばです。本当は成功の報告をお伝えしたかったのですが……でも、私は諦めませんよ! 必ず、成し遂げてみせます! 次にお会いする時は………私の冥途の土産話を期待していてください』
カヤが先割れスプーンを握りしめながら、キラリと目じりを光らせる。
必ずや、扉間の意志を未来へと引き継いで、超人であることを証明してみせるのだと。
『先生、キヴォトスは今日も明日もドタバタです。生徒のみんなは元気が良すぎる程、元気で……少し困っちゃうこともありますけど……でも、とても楽しいですよ? 先生が嬉しそうに私達のことを語る理由が分かりました』
イノリが少し苦笑いしながら、未来のキヴォトスについて語る。
扉間のまだ見ぬ子供達も、変わらずドンパチやったり、遊んだり、やらかしたり。
そんな学園生活が未来も変わらず繰り広げられているのだと。
『せんせー、借金は完済したよー。これも全部先生のおかげだよ~。今は砂祭りの再開を頑張ってるんだ』
『おまけに、砂漠から貴重鉱石が見つかったので、それを元手に産業を復活させていってます。ネフティスもアビドスにもう一度戻ってこようとしています』
『ん、砂漠化もユメ先輩が作った森が成長して少しずつ良くなってる……なんで、砂漠で成長できるんだろう、あの森?』
『先生! 聞いてよ! 私達にも後輩が出来たのよ? それも、1学年で6人も! アビドスチャンネルを見た子達が来てくれたの!』
『アビドスチャンネルは今も、後輩達に引き継いで続いています。収益は砂漠化対策に回していますので、安心してください。誓って横領はしていません』
『アビドスに連れてこられた時は、ここまで長い付き合いになるとは思っていませんでしたが……ええ、認めます。
ホシノ、ノノミ、シロコ、セリカ、アヤネ、ワカモのアビドスメンバーが笑いかける。
借金は完済されて、お次は砂祭りの復活だと。
後、なんかユメの木遁が全く枯れることなく、残っていると困惑した表情で話す。
まあ、死後も細胞増殖する細胞が、砂漠の環境程度で負ける訳もないか。
環境汚染? 環境美化と言ってくれや。
『先生! TSC5がもうすぐ完成するんだよ! 本当なら、先生にもプレイして欲しかったんだけど……とにかく、過去最高の出来だから!』
『TSC3で良い感じに固定ファンを掴んで、TSC4で人気が爆発したんです。だから、TSC5は開発費も潤沢に使えるから……期待してください。あの世にも轟く名作になりますから』
『はい。私達の作る神ゲー……天国にも届かせてみせます』
『先生。アリス達は今日も明日も明後日も元気です。これも全部、先代勇者である先生が作った平和のおかげです』
『そして、再びキヴォトスに影が落ちるとしても、安心してください。勇者アリスとその従者が、闇を消し去って見せますので』
モモイ、ミドリ、ユズ、アリス、ケイが屈託なく笑う。
何の憂いもなく、明日の話をする。
死など欠片も意識せず、当たり前のように未来のことを語る。
『お兄ちゃん、安心して頂戴。私達の妹は私が必ず守ってみせるわ……もちろん、みんなで協力して』
『だから私の方が姉だと……コホン。まあ、言いたいことはそこのデカイ妹と一緒です。未来のことは、この天才美女ハッカーにお任せを』
『ま、そういうことだからよ。安心しな? あたし達は全員元気にやってるからさ。チビ共の面倒も見てやってるしな』
『先生、こういう時になんて言うべきか分かりませんが……とにかく私は幸せです! 確率とか計算とか……そういったことで表せませんけど、とにかく幸せです! もちろん、毎日が忙しいですけど』
『ああ、ユウカの言う通りだよ、先生。私も今は立派な独立したエンジニアさ。最近はBluetooth機能の可能性を追求していてね? 名前の由来である、
リオ、ヒマリ、ネル、ユウカ、ウタハが楽しくやっていると、安心させる。
説明しましょう! Bluetoothの由来は
彼は、異なる種族間の無血統合を実現させた名君であり、Bluetoothはそんなブロタン王のように、多数存在する無線通信規格を統一したいという想いから、
やっぱり、平和への願いを抱いていた、トビラマ先生にピッタリの機能ですね!
『先生……お酒って美味しいわね。ちゃんと、お酒が飲める年齢まで長生き出来て良かったわ』
『ヒナ委員長はお酒も強いんですよ? 昨日なんて、同窓会で私達風紀委員全員を飲み比べでノックアウトしましたし……ヒナ委員長の酔う姿も見てみたかったんですけど』
『アコちゃんはすぐに酔って、潰れてたもんな』
『あの……も、もちろん、お酒ばかり飲んでるわけではないですからね、先生? ヒナ元委員長もちゃんと、羽目を外せるぐらい平和だと言いたいんだと思います』
ヒナ、アコ、イオリ、チナツの風紀委員会組が、お酒の話をする。
ヒナ的には、お酒を飲めるまで成長したと言っているだけなのだが、はたから見ると今際の挨拶がこれかと言いたくなる光景である。
『先生、私は普通の人生を送っています。普通に卒業して、普通に就職して、普通に働いて、普通に友達と今も付き合っています。後は普通に結婚するだけなんですが……こればかりは運命なんですかね?』
『正直、ヒフミが普通に卒業できるかは私も心配だったが……卒業試験の時は、既に卒業していたナギサやミカも、ヒフミが脱走しないように目を光らせていたからな。とにかく、それ以外は言っている通りだ。それから私も、普通に就職して、普通に働けている……テロリストや魔女と言われた私がだ。ありがとう、先生。これも先生が勉強を教えてくれたおかげだ』
『先生、私はエリート街道まっしぐらよ! ……って、言えたらよかったけど、人生上手くいくことばかりじゃないわね。でも、頑張ってるから! こんな私でも諦めなければ、ちゃんと出来るようになるって、補習授業部で学んだから!』
『うふふ、安心してくださいね、先生。何か友達が困っていたら、私達はちゃんと助け合いますから。それと………実は私も教育の道に進んでいます。どこかの誰かさんみたいに、へそ曲がりな子を導けたらいいなって思っています』
ヒフミ、アズサ、コハル、ハナコが、ちゃんと卒業して働いている話をする。
一番の問題児達の立派になった姿に、プレナパテスも思わず涙ぐむ。
『あのね、あのね! 私は色々とチャリティー活動をやってるんだ。恵まれない子達は、アリウスだけじゃないから……ちょっと辛くて、悲しくて、目を背けたくなることもあるけど……やっぱり見捨てられないから! 私、これからも諦めずに頑張るからね!』
『ミカさんの活動には、私も協力していますので安心してください、先生。今でも偶に、おかしなことをすることもありますが……その愛と優しさだけは、二度と曇ることはないでしょうから』
『と、ナギサは言っているが、彼女もまた、やんちゃな性分が完全には隠せていなくてね? 三つ子の魂百まで、とはよく言ったものだ。ああ、安心してくれたまえよ。私とて完璧でないのは自覚している。ナギサがミカを助け、私がナギサを助ける。そして、ミカが私を助ける。この三位一体の友情こそが、かつてのティーパーティーの本質さ。大人になっても変わらない、
ミカ、ナギサ、セイアが卒業後まで関係が続いていると笑い合う。
1人では躓いてしまう道のりも、3人で支え合っていけば、歩ききれるのだと。
教わったことを実践している。
『キキキ、全キヴォトスの総統になった羽沼マコト様だ……冗談だ。まだ、道半ばだ。だが、安心するがいい! 以前のキヴォトスの方が良かったなどという言葉は、私のプライドが許さんからな。必ずや、今以上の発展を遂げたキヴォトスを見せてやる! ……先生は、天国でその様子を見守っているといい』
『先生…いえ、ここはおじいちゃんとでも呼びましょうか。百鬼夜行で“和楽姫”をやった時に「本当に死んだときに誰も葬式に来てくれませんよ?」と言った覚えがありますけど……随分と慕われているようで、何よりです』
『流石に、葬式に来ないなんて悪い子はいないわよ? お世話になったのに、葬式にも顔を出さないなんてありえないじゃない』
マコトとイロハ、サツキが軽口を言いながらも、なんやかんやで弔ってくれる。
死ぬ死ぬ詐欺の連打で、葬式の開催も危ぶまれた扉間だが、こうして残ってくれる程度には慕われていたのだ。
『コホン。アリウス学園、二代目校長の秤アツコです。先代校長様から、海よりも深く、山よりも高い御恩を受けたことは、全学園生徒共々、生涯忘れることはありません………じゃ、硬いのはここまで。ありがとうね、先生。これからのアリウス学園は私達が繫栄させていくから。……でも、なんで顔岩なんて、私の冗談を二つ返事で了承しちゃったのかな? 校長の顔岩がアリウスの伝統になっていきそうなんだけど……』
『校長。私は現在、カイザーの軍事学校で、スバルと共に教官をやっている。そこに来るのは大半が問題児ばかりだが……まあ、昔の私達に比べたら可愛いものだ。生徒達曰く、私が鞭役でスバルが飴役らしいが……私は鞭で叩いた覚えはないんだがな。あれは痛みがするだけで、意味のない罰だろうに』
『校長先生……なんだろう。何を言えばいいのか分からないけど……とにかく、生きてるよ。真っ当かも、誇れる生き方かも分からないけど……とにかく生きてるし、最後まで生きるよ』
アツコ、サオリ、ミサキがちょっと冗談を言いながら近況を報告する。
まあ、アツコは顔岩の件は素で嫌そうだし、サオリは天然が入っているが。
そのせいで、ミサキが一番まともに見えるのはバグだろうか?
『思えば、トリニティの代表として、先生の指揮に加わったのが最初の出会いでしたね。あの時は先生という大人に対して、半信半疑でしたが……今は寂しい気持ちでいっぱいです。歳が上の人間から先に逝くのは、自然の摂理とはいえ……』
『こういう時は、どんなことを言えばいいんっすかね……とにかく、お疲れさまでした。後のことは任せて、先生はゆっくり休んでください』
『先生……正義実現委員会は健在です。私が卒業した後は、イチカが…次はマシロが引き継いでくれました。そして、これからもトリニティの平和のために……いえ、トリニティとゲヘナを守る
ハスミ、イチカ、ツルギが、寂しげな表情を浮かべながら別れを告げる。
『先生すぐに救護を! ……若い時の私なら、そう言っていたでしょう。ですが、年を取って、穏やかな終わりを望むという考え方も、少しは理解出来るようになりました。先生にとって、この選択が最も望む人生の幕引きなのですね?』
ミネがもはや救えぬ体となったプレナパテスを、悲しげな瞳で見つめる。
プレナパテスは植物人間のようなもの。
そして、臓器を移植する意思表示をしているドナーでもある。
ミネは救護の世界に長くいるからこそ、プレナパテスの選択を否定できなくなっていた。
『先生がどの宗教を信じているかは、知ることが出来ませんでしたが……それでも祈らせてください。私達、みんなの先生が安らかに死後の世界で過ごせるように』
貫禄が増した上に、ヴェールを顔全体にかけているせいで、更に怪しい空気を纏うようになったサクラコが祈りを捧げる。
それは、プレナパテスだけに捧げられる
『……先生。SRT特殊学園を存続できたのは、間違いなく先生のおかげです。今は卒業して学校から離れていますが……今でも、あの公園でのやり取りを思い出したりします。私達、本当に幼かったですね……すみません』
『ミヤコの言う通りだ。あの頃の私達は………今の自分から見ても中々に酷かった。先生にも失礼なことを言ったし……ごめん、先生。あの頃は素直になれなかったんだ。今も昔も感謝してる。ありがとう、先生』
『サキも言ってるけど……何と言うか、甘えてたんだろうね。先生のことを父親みたいに思ってたから……こんなタイミングじゃなくて、もっと早く言ってあげればよかったけど』
『先生は刑務所行きでも、おかしくない人間でしたけど……それでも私達の大切な先生でしたので』
気にするな。ワシも自分の父親には中々に酷い態度だったからな。
ミヤコ、サキ、モエ、ミユの謝罪の言葉に視線でそう返す、プレナパテス。
大人達はバカだと平然と言っていたので、あまり文句は言えないのだ。
むしろ、陰口の扉間と正面から文句を言っていたRABBITなら、扉間の方が父親との距離が遠そうである。
『公安局としての関わりばかりで、あまり直接的な関りはありませんでしたが……それでも、ヴァルキューレが改革されたのは、先生の働きかけがあってのものです。ありがとうございます。まあ、少しばかり、目を瞑らねばならない点もありましたが……それは私も同じですね』
『本官には、カンナ局長の言っている意味が良く分かりませんが……先生が立派な人だったことは良く知っております! なので、メイド好きなどという風評被害が残らないように、みなさんへ説得していきますので、ご安心ください!』
カンナとキリノが苦笑い気味に、見送りの言葉を告げる。
割とグレーゾーンな人生の扉間だが、メイド好きはただの風評被害なので、権力で揉み消してもいいだろうと。
『先生……監視目的で、色々な場所に付き合わされましたけど、楽しかったですよ? これぞ青春の思い出ってやつですね。今は私も、ちゃーんとホワイトハッカーとして働いている社会人なんですよ? え? ギャンブルですか? ………ちゃんと生活費と最低限の貯金はした上で、趣味の範囲でやっていますので……にはは』
『コユキちゃんはダラシない大人ですが、ちゃんと借りたものは返せる大人になりましたので。心配はしないでください』
立派な大人になれたかどうかは、目を逸らして答える、コユキ。
今のコユキは新台の入荷日に、朝っぱらから働く誇り高き錬金術師だ。
まあ、ノアも言ってる通り、借金は返すので最低限の人間性は確保されている。
『ご主人様! 色々あったけど楽しかったね! ご主人様が死んじゃうのは……うん、すっごく悲しいけど……でも、楽しかった思い出はちゃーんと残るから! これだけは何があっても忘れない、絶対だよ?』
『アスナ先輩も、ああ言ってるみたいに私も先生と過ごした記憶は忘れない。……結婚式に、先生を呼べないのは残念だけど』
『ご主人様…いえ、トビラマ先生。先生が守ってくださったミレニアムや、キヴォトスは健在です。私も卒業しましたが、新たな芽が出て来るのを楽しみに見守っていてください』
『先生、先生をご安心させるべく、私は全く寂しくないとここに宣言します……はい、もちろん嘘です。本当は凄く……悲しいです。言葉に出来ないほどに』
アスナ、カリン、アカネ、トキが
安心してプレナパテスがあの世に旅立てるように、土産話を持たせて。
『先生殿!
『「少女忍法帖ミチルっち」ですが、主殿が忍法をキヴォトスで使ってからは、どんどんPV数が増えて行っているんです! 今では、知らない者はいない……とまではいきませんが、忍者好きの人が、一度は目を通したことのあるチャンネルになっています』
『これも全部、先生が私達を忍者にしてくれたおかげです。あ、それと私が忍者モデルとして額当てをお披露目したら、ちょっとした額当てブームが起きたりして……木ノ葉隠れの里のマークがキヴォトスでも広まっています』
ミチル、イズナ、ツクヨの3人が火の意志を継いで、キヴォトスにも忍者を広めていることを伝える。
別世界にまで忍者が広まっているのは、開祖である六道仙人もビックリだろう。
『にゃはは、先生には色々と振り回された記憶がありますが……人生終わり良ければ全て良し! こちらの先生がご存じかは知りませんが、色々とあった百鬼夜行の問題も解決してくださって、感謝していますよ?』
『これからも問題は起こっていくのでしょうが……今度は、私達や私達の子供達が解決していきますので、どうかご安心を』
ニヤとカホが未来のことを少し仄めかしながら、お礼を言う。
プレナパテスは到達できなかった未来だが、それでも自分達は無事に生きていると。
あなたの居ない世界でも、立派に生きていると安心させる。
『校長先生………お疲れさまでした。死ねば楽園に導かれる。そんな、かつて押し付けられた教義を……今は心の底から信じたいと思っています。どうか、先生の死後に祝福が有らんことを』
『先生、私……今はアリウスの外で働いています。先生に教わったみたいに、悪い人がいっぱいいますけど、でも良い人もいっぱいいて……その中で、何とか毎日生きていけています』
スバルとマイアが、感謝を告げる。
安らかな眠りをと、死後に4回も蘇った男へ祈りを捧げる。
ドラキュラかな?
『先生……思えば、キヴォトスで初めて出会ったのは私でしたね。先生には連邦生徒会諸ともよく振り回されました。文句を言いたいのに、筋が通っているので断れない内容ばかり……増える業務量、減る睡眠時間、気づけば本当にあっという間に時間は過ぎていきましたね。というか、実際に何日か記憶が飛んでいる気がします』
最後の締めくくりに、扉間がキヴォトスで最初に出会った生徒、リンが呆れながら現れる。
プレナパテスが仮面の下で、気まずげに目を逸らす。
『ですが……今となっては、かけがえのない思い出です』
しかし、リンは大人びた顔に童心を灯しながら笑う。
今となっては良き思い出だと。
『私達は、先生亡き後も生きて、先生から教わった意志を次の代へと引き継いでいきます。……ですので、どうかご安心ください。キヴォトスの未来は、私達が守っていきます』
火の意志は続く。
枯れた葉は地に落ちるが、その葉は若葉の養分となり──
『──卒業生代表、七神リン』
──新たなる火種となり燃え広がるのだ。
“良い……土産話が出来たな。あちらで兄者に聞かせるとしよう。ワシの自慢の生徒達の話を”
『………では、卒業生は退出をお願いします』
リンの言葉と共に、大人のカードで呼び出された生徒達が退出していく。
ありがとうございます。
大好きだよ。
忘れないよ。
心配しないで。
後は任せてください。
そんな言葉を残しながら、生徒達が1人、また1人と未来へと帰還していく。
遠い先の未来。自分達が大人として守るべき、
『……それじゃあ、先生行きましょうか。死んだはずの私が、何でここに居られるのかは分からないけど……今度は迷子にならないように一緒に』
だが、1人だけ残った生徒がいる。
梔子ユメ。プレナパテスと同じ死人だ。
矛盾した空間であるが故に、死人なのに呼び出されていたのだ。
『
“…………”
死後の神は、どの国でも真面目で慈悲深い。
それは人が死からは逃れられないことを、よく知っているが故に。
いつか、自分を迎えてくれる神様には優しくいて欲しいと思うのは、どんな国の人も同じだ。
『……先生?』
そんな慈悲深いユメを眺め、
そして──
“──お前の卒業には、出席日数が足らんわ! 出直してこい!”
──ユメを
『ひぃん!? 先生ーッ!?』
当然困惑して涙目になるユメを前に、扉間はズタボロになった大人のカードの最後の一回を使う。
未来の生徒を呼び出すカードを。
ユメがアビドス高校の生徒として、ちゃんと授業を受けた上で卒業する未来を描く。
“卒業とは、一定の基準を超えなければ何があっても出来んものだ。分身の術も使えん子供に卒業はさせられんな……再試験だ、ユメ”
半死半生。そんな矛盾した存在を普通の世界は認めない。
だが、一度でもそのパラドックスを認めてしまったのなら、例外として残さざるを得ない。
シロコと、シロコ*テラー。
『せ、せんせー! 死者を生き返らせるのはダメなんじゃ!?』
“生き返らせる? お前は死んでも、生きてもいない存在だ。言わば、グレーゾーンの存在なだけ。ワシは生き返らせてなどおらん。先生として馬鹿な生徒に、再試験を言い渡しただけだ”
死んでるけど、生きているという矛盾状態で、この世に留まることも出来るだろう。
これぞ、アビドスに引き継いだ
“ではな。次にこっちに来るときは、存分に遅刻してから来い”
そして、砕けたカードを捨てて、互乗起爆札のカードを取り出す。
絶望の未来の可能性も、悲劇の未来の可能性も、幸福の未来の可能性も全て消し飛ばして、子供達にまっさらなキャンパスを渡すために。
“──どうか、子供達の未来に祝福を”
そうして、プレナパテスは、否。
千手扉間は、アトラ・ハシースと共に深い海の底へと眠りについたのだった。
暗い道を歩く。
何度か通った記憶のある道だ。
すると、扉間は遠くに焚火の炎がたかれていることに気づく。
見覚えのある影が、炎に照らされて揺れている。
「随分と長い間、呼び出されておったが故、なんぞ、厄介ごとに巻き込まれたのかと思っておったが……」
懐かしい声が聞こえてくる。
どこまでも雄大で、どこまでも優しく強い、そんな大樹のような声が。
「存外、良い顔をしておるではないか、扉間?」
火に照らされて、豪快な笑みが光り輝く。
今まで弟を心配して、ここでずっと待っていた兄の顔が映し出される。
「何か良いことでもあったか? ちょいとばかし話してみても、罰は当たらんぞ」
「……フ、まあ酒の肴にはちょうどいいだろうな」
扉間は珍しく何の憂いもない子供のように笑い、焚火を挟んだ反対側に腰を下ろす。
これからの話は、少し長くなるぞと思いながら。
「まあ、聞け、
何せ、新しい世界で出会った──
「──新しい生徒達の話を」
──自慢の生徒達の話なのだから。
見送りが長くなったので、完結まで1話伸びるかも。
次回も1週間後の火曜に投稿します。
感想・評価お願いします。
ここからは次回作の案?
とにかく、読まなくても大丈夫です。
そろそろ、新作の季節なんですが中々案がまとまらない。
『勇者パーティから追放されたネクロマンサーのザマァ物語!「え? 主戦法が敵の死体を操って情報を抜き出した後に、爆弾にして返す俺が追放!? ち、血も涙ねぇ! そもそも爆弾にするのは魔法使いの仕事だろ! なに? もちろん魔法使いも追放? ザマァWW」』
『小学校教師の俺が、識字率1%のファンタジー世界で授業をして無双――え!? 魔王がポルポトなんですか!? どうりで誰も文字が読めないし、眼鏡をかけてるだけで殺されかけるわけだよ!』
こんな感じで、どうしても卑劣様とブルアカに引っ張られる。
ちょこちょこ書いてるんですが、どうにもインパクトが足りない……。
今回は割と難産になりそう。