千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

113 / 115
111話:卒業式

 

「こちらの生徒は全員帰ったな。後は、お前達を連れて帰るだけだ。プラナ、そして、シロコ」

「…………」

「…………」

 

 脱出シーケンスで退出した、扉間側の生徒達。

 次はプレナパテスに託された、プラナとシロコ*テラーの番なのだが。

 

「私はアトラ・ハシースを操作する役目があるので、最後でいいです」

「ん、私も……司祭達が逃げないか見張らないといけないから」

 

 2人の瞳に脱出の2文字はない。

 色々と理屈をつけているが、結局はプレナパテスを置いて自分だけが逃げることに、罪悪感を抱いているのだ。

 

「せ、先生……あちらの先生も一緒に行かないのですか?」

「あやつは色彩の嚮導者なのだろう? 生かしておけば、色彩という爆弾がこの世界に留まるも同然だ。ここで消すのが最善だ」

「それは分かっています! ですが……」

 

 アロナとケイもまた、プレナパテスも連れていけないのかと悩む。

 最初の時はともかく、今は彼が自分達を救おうとしていたのは、分かっているのだから。

 

()()()持ち帰ってどうする? 穢土転生で蘇らせるか?」

「…ッ」

「イノリという前例があるからな。変に生き返らせようと足掻かれても困る。死体はここで海の藻屑に変えるべきだ……何より、死体(ろうこつ)に鞭を打つのはもうやめてやれ」

 

 だが、扉間はその提案をバッサリと切り捨てる。

 既に死体になった存在を、連れ帰ってもしょうがないだろうと。

 というか、生き返らせようと藻掻いて、世界を破壊しようとしたイノリ()が居るので同じ轍は踏ませられない。

 

「アトラ・ハシースの操作も、司祭達の見張りも、もう1人のワシにやらせておけばよい。大人のカードで呼び出した生徒達もおることだしな」

「ですが…! 私はプレナパテス(トビラマ先生)に仕えるAIです…ッ。黄泉路までお供します!」

「私も……最後に残された先生だけは……見捨てられない。一緒に死んで責任を取る……」

 

 1人だけ残して逃げることは許されない。

 心中することになっても構わない。

 そんな、罪悪感に塗れた叫びを上げる、プラナとシロコ*テラーの頭に──

 

“ッ!”

 

 ──プレナパテスの拳骨が落とされる。

 

「ト、トビラマ先生…!?」

「なんで…? 何で怒るの…先生…?」

「当たり前だ。命を粗末にするなと言っておるのだろう」

 

 喋れないプレナパテスの代わりに、扉間が代わりに答える。

 

「ワシとて命を捨てる選択はする。だが、だからといって、生きることを諦めることはせん。最悪の中でも活路を見いだすことは諦めん」

 

 囮役は、もちろんオレが行く。

 そう言って死地に赴いたくせに、時系列的にシレッと帰って来た疑惑のある男だ。

 説得力が違う。

 

「何より、未来を守るためにここまでやったのだ。肝心のお前達が死んでしまったら、元も子もなかろう」

 

 扉間の言葉を肯定するように、プレナパテスがプラナとシロコ*テラーの頭を撫でる。

 

「トビラマ先生……私達は……」

「生きていても……いいのかな…?」

 

 

“──当たり前だ。生きて幸せになれ”

 

 

 声は聞こえない。

 ただ、それでも2人はしっかりとその想いを受け取った。

 

「了解…しました…ッ。トビラマ先生からの最後の命令……必ずや完遂致し…ます…!」

「うん……私も…ちゃんと…幸せになるから……だから……心配しないで…先生…ッ」

 

 2人がギュッとプレナパテスに抱き着く。

 体温の無い死体。冷たい鉄の体。

 だというのに、そこから伝わってくる愛は、まるで──火のように温かった。

 

「もう1人の先生……私が救えなかった先生。今度は…今度はちゃんと…こちらのトビラマ先生は! このスーパーAIアロナちゃんが、お守りして見せますから!」

 

 その光景に涙を流しながら、アロナも誓う。

 今度こそは、アロナとして扉間を守り抜くのだと。

 

 

「いや、アロナ。お前は元の姿に戻って貰うぞ」

「え?」

 

 

 だが、扉間はそれを即座に否定する。

 プレナパテスも当たり前だと言わんばかりに頷く。

 

「当たり前だ。娘がいつまでも子供のままでは、おちおちボケることも出来んではないか」

「まあ、当然ですね。正体が割れた以上は、連邦生徒会からも鬼詰めされるでしょうし」

「で、ですが、私が居ると全てが上手くいかないんです……」

 

 扉間とケイに、逃げんなよと釘を刺される、アロナ。

 だが、本人は何度繰り返してもダメだったと言い訳を告げる。

 

「必ず誰かを失ってしまう。先生が死んだり、学園同士で戦争になって死人が出たり……どうしても誰かが傷ついてしまうんです! だったら、私はいなくなって全てを上手く出来る、別の誰かに頼った方が──」

 

 イノリという個人は消えて、先生を中心に回さないと悲劇が増える。

 多くの人が傷つく。

 完全無欠のハッピーエンドが訪れない。

 だから、自分という存在を消してしまえば、誰も傷つかないと。

 アロナは愚かにも、そう考えたのだ。

 

 

「お前が消えることで、誰かが傷ついていないとでも?」

 

 

 自分が消えることで、悲しむ存在が居ることも忘れて。

 

「……え?」

「──娘を忘れて、幸せになれる父親など居るものか、馬鹿者」

 

 その言葉は、扉間とプレナパテスの嘘偽らざる本心。

 愛する者を忘れることの方が、何倍も残酷だという事実。

 

“…………”

「わわッ! もう1人の先生…? なんで、私も撫でて……会ったことなんてないのに……」

 

 ワシワシとアロナの頭を撫でるプレナパテス。

 この周回では、一度も扉間と出会っていないはずだと、アロナは当初は困惑していたが、やがて気づく。

 

「もしかして……覚えているんですか? 私のことを…(しらとり)イノリのことを?」

“……!”

「当然だろう? 父親が娘のことを忘れるものか」

 

 プレナパテスが自分のことを覚えていることに。

 

「たとえ、脳の記憶を消去したとしても……魂は愛を覚えておる」

「先…生! 先生…! 先生ッ! ごめんなさい…ッ! 私のせいで先生が…ッ」

 

 アロナの目から涙が零れ落ちる。

 救えなかった後悔が、自分の情けなさが溢れ出す。

 

“…………”

「強さとは、諦めない心とは、決して傷つくことなく道を歩くことではない。傷つきながらも、険しい道を前に進み続けることだ。転んだことをなかったことにするのではなく、何度でも立ち上がること……その強さをお前は既に持っているはずだ」

 

 扉間の手が、プレナパテスの手の隣に置かれる。

 2人の手が、アロナの頭を優しく撫でる。

 

 

「“何せ、お前は()()()の──自慢の娘だからな”」

 

 

 生まれた時から、歩ける人間はいない。

 寝返りを打てるようになり、ハイハイを繰り返し、何度も倒れながら立ち上がる。

 そして、決して諦めることなく前に進もうとして──やがて自分1人の力で歩くのだ。

 

「先生……いいえ、お父さんと呼んでもいいですか…?」

「娘がそう呼ぶのは当然のことだ……そうだろう? もう1人のオレ?」

“……”

 

 コクリとプレナパテスが優しく頷く。

 扉間も、柔らかい笑みでアロナを撫でる。

 

「お父さん……私…頑張ってみます。また、失敗するかもしれないけど…それでも……ちゃんと前に進みます…!」

“────”

「フッ……安心したと言っておるぞ。何、ワシも死ぬまでは見守る。お前は決して一人ではないのだからな」

 

 プレナパテスの手がアロナから離れる。

 プラナとシロコ*テラーが、プレナパテスから離れる。

 これが最後なのだ。

 

『……トビラマ先生、そろそろ脱出をお願いします』

「ああ……シロコ、プラナ。最後に言いたいことはないか?」

 

 ウトナの声に最後の別れを促す、扉間。

 

「大丈夫です……言いたいことも、伝えたいことも全て……この胸に記録しましたから」

「うん。それでも言いたいことが、1つあるとしたら──」

 

 

 ──ありがとう、先生。

 

 

「ではな、もう1人のオレ。生徒達がワシより先に行きそうな場合は、()()()()()()()

“…………”

 

 無茶を言うな。

 そんな言葉が聞こえてきた気がするが、扉間は笑って無視をする。

 

「よし、お前達。ワシの体に触れろ。飛雷神で帰るぞ」

「はい……帰りましょう。私達の…私の物語に」

 

 ──飛雷神の術。

 

 プラナとシロコ*テラーを連れて、アロナとケイと共に帰る、扉間。

 ナラム・シンの玉座には、沈黙とプレナパテスだけが取り残され──

 

 

『ん、じゃあ、ここからは私達の()()()だね』

 

 

 ──たりはしなかった。

 大人のカードで呼び出した、大人の生徒達が残っている。

 

『私達がここに来たのは、先生を見送るためですから。ちゃんと卒業したことを、先生にお伝えするために』

『うん……こっちの先生は、私達が大人になるまで、生きられなかったんだよね? だから、私達の卒業報告と近況報告? 社会人は報連相が大事だからね!』

『先生殿が安心してあっちに行けるように……大人になった(あたし)達が来たんだ』

『こんなことにカードを使うのもどうかと思うけど……まあ、ちょっとした卒業式を開くぐらいの悪さなら、お目溢ししていいでしょ』

 

 大人のカードで呼び出された生徒達の目的。

 それは、プレナパテスの見送り。

 卒業式であり、葬式である。

 

『あの……校長先生。私は性懲りもなく太ったりしてますけど……で、でも、それはちゃんと美味しいものが食べられてるからですし…! それに、戦い以外のことを学べてるからです。これも全部、校長先生のおかげです。本当に…本当に…! ありがとうございます!』

 

 大人になったヒヨリが帽子を取り、深々と頭を下げる。

 今の彼女を見て、戦いしか知らなかった子供だと思う者は、誰もいないだろう。

 

『大変なこともあるけど、まあ……会社の運営は何とかやっていけてるわよ。社員も増えたし、これからもどんどん事業拡大していくわ』

『相変わらず、安定には程遠いけどね……まあ、でも楽しんでるよ』

『室長って肩書が、単なる肩書じゃなくて本物に変わってきてるのは事実だよ♪ これからも、何とかなると思うから安心してよ、先生』

『は、はい。私も平社員から先輩社員に格上げしていただいて……も、もっと頑張りますので!』

 

 大人アルが葉巻を口に咥えたまま、今も昔も変わらぬ笑みを見せる。

 どこからか現れたカヨコ、ムツキ、ハルカが昔と同じように、その背に従う。

 

『先生、今の私はSRTで教官をやっています。これも、先生と後輩達がSRTを存続してくれたからです。本当にありがとうございます』

『みんな、色々な道に進みました。どれも、険しい道ですが……それでも、耐え忍ぶ心は忘れずに持ち続けていますよ』

『まあ、とにかく……私達はみんな元気にやってるわ。元気すぎるぐらいにね!』

『だからさ……何も心配しなくていいんだよ?』

 

 ユキノ、ニコ、クルミ、オトギの4人が口々に告げる。

 何も心配するなと。

 私達はちゃんと、頑張って生きていると。

 

『先生……キヴォトスから武器を無くす夢は道半ばです。本当は成功の報告をお伝えしたかったのですが……でも、私は諦めませんよ! 必ず、成し遂げてみせます! 次にお会いする時は………私の冥途の土産話を期待していてください』

 

 カヤが先割れスプーンを握りしめながら、キラリと目じりを光らせる。

 必ずや、扉間の意志を未来へと引き継いで、超人であることを証明してみせるのだと。

 

『先生、キヴォトスは今日も明日もドタバタです。生徒のみんなは元気が良すぎる程、元気で……少し困っちゃうこともありますけど……でも、とても楽しいですよ? 先生が嬉しそうに私達のことを語る理由が分かりました』

 

 イノリが少し苦笑いしながら、未来のキヴォトスについて語る。

 扉間のまだ見ぬ子供達も、変わらずドンパチやったり、遊んだり、やらかしたり。

 そんな学園生活が未来も変わらず繰り広げられているのだと。

 

『せんせー、借金は完済したよー。これも全部先生のおかげだよ~。今は砂祭りの再開を頑張ってるんだ』

『おまけに、砂漠から貴重鉱石が見つかったので、それを元手に産業を復活させていってます。ネフティスもアビドスにもう一度戻ってこようとしています』

『ん、砂漠化もユメ先輩が作った森が成長して少しずつ良くなってる……なんで、砂漠で成長できるんだろう、あの森?』

『先生! 聞いてよ! 私達にも後輩が出来たのよ? それも、1学年で6人も! アビドスチャンネルを見た子達が来てくれたの!』

『アビドスチャンネルは今も、後輩達に引き継いで続いています。収益は砂漠化対策に回していますので、安心してください。誓って横領はしていません』

『アビドスに連れてこられた時は、ここまで長い付き合いになるとは思っていませんでしたが……ええ、認めます。(わたくし)にとっては、第二の故郷です。あの日の拳骨の痛みを懐かしいと思える程度には、(わたくし)も大人になりましたよ? 先生』

 

 ホシノ、ノノミ、シロコ、セリカ、アヤネ、ワカモのアビドスメンバーが笑いかける。

 借金は完済されて、お次は砂祭りの復活だと。

 後、なんかユメの木遁が全く枯れることなく、残っていると困惑した表情で話す。

 まあ、死後も細胞増殖する細胞が、砂漠の環境程度で負ける訳もないか。

 環境汚染? 環境美化と言ってくれや。

 

『先生! TSC5がもうすぐ完成するんだよ! 本当なら、先生にもプレイして欲しかったんだけど……とにかく、過去最高の出来だから!』

『TSC3で良い感じに固定ファンを掴んで、TSC4で人気が爆発したんです。だから、TSC5は開発費も潤沢に使えるから……期待してください。あの世にも轟く名作になりますから』

『はい。私達の作る神ゲー……天国にも届かせてみせます』

『先生。アリス達は今日も明日も明後日も元気です。これも全部、先代勇者である先生が作った平和のおかげです』

『そして、再びキヴォトスに影が落ちるとしても、安心してください。勇者アリスとその従者が、闇を消し去って見せますので』

 

 モモイ、ミドリ、ユズ、アリス、ケイが屈託なく笑う。

 何の憂いもなく、明日の話をする。

 死など欠片も意識せず、当たり前のように未来のことを語る。

 

『お兄ちゃん、安心して頂戴。私達の妹は私が必ず守ってみせるわ……もちろん、みんなで協力して』

『だから私の方が姉だと……コホン。まあ、言いたいことはそこのデカイ妹と一緒です。未来のことは、この天才美女ハッカーにお任せを』

『ま、そういうことだからよ。安心しな? あたし達は全員元気にやってるからさ。チビ共の面倒も見てやってるしな』

『先生、こういう時になんて言うべきか分かりませんが……とにかく私は幸せです! 確率とか計算とか……そういったことで表せませんけど、とにかく幸せです! もちろん、毎日が忙しいですけど』

『ああ、ユウカの言う通りだよ、先生。私も今は立派な独立したエンジニアさ。最近はBluetooth機能の可能性を追求していてね? 名前の由来である、Blue(青い) Tooth()にちなんで、入れ歯にBluetooth機能を付けてみたんだ。骨伝導で音楽を聴けるから、音漏れのない優れモノだよ』

 

 リオ、ヒマリ、ネル、ユウカ、ウタハが楽しくやっていると、安心させる。

 

 説明しましょう! Bluetoothの由来はBluetooth(青歯王)の異名を持つ、デンマーク国王、ハーラル・ブロタンだそうです。

 彼は、異なる種族間の無血統合を実現させた名君であり、Bluetoothはそんなブロタン王のように、多数存在する無線通信規格を統一したいという想いから、Bluetooth(青歯王)と名付けたそうです。

 やっぱり、平和への願いを抱いていた、トビラマ先生にピッタリの機能ですね! 

 

『先生……お酒って美味しいわね。ちゃんと、お酒が飲める年齢まで長生き出来て良かったわ』

『ヒナ委員長はお酒も強いんですよ? 昨日なんて、同窓会で私達風紀委員全員を飲み比べでノックアウトしましたし……ヒナ委員長の酔う姿も見てみたかったんですけど』

『アコちゃんはすぐに酔って、潰れてたもんな』

『あの……も、もちろん、お酒ばかり飲んでるわけではないですからね、先生? ヒナ元委員長もちゃんと、羽目を外せるぐらい平和だと言いたいんだと思います』

 

 ヒナ、アコ、イオリ、チナツの風紀委員会組が、お酒の話をする。

 ヒナ的には、お酒を飲めるまで成長したと言っているだけなのだが、はたから見ると今際の挨拶がこれかと言いたくなる光景である。

 

『先生、私は普通の人生を送っています。普通に卒業して、普通に就職して、普通に働いて、普通に友達と今も付き合っています。後は普通に結婚するだけなんですが……こればかりは運命なんですかね?』

『正直、ヒフミが普通に卒業できるかは私も心配だったが……卒業試験の時は、既に卒業していたナギサやミカも、ヒフミが脱走しないように目を光らせていたからな。とにかく、それ以外は言っている通りだ。それから私も、普通に就職して、普通に働けている……テロリストや魔女と言われた私がだ。ありがとう、先生。これも先生が勉強を教えてくれたおかげだ』

『先生、私はエリート街道まっしぐらよ! ……って、言えたらよかったけど、人生上手くいくことばかりじゃないわね。でも、頑張ってるから! こんな私でも諦めなければ、ちゃんと出来るようになるって、補習授業部で学んだから!』

『うふふ、安心してくださいね、先生。何か友達が困っていたら、私達はちゃんと助け合いますから。それと………実は私も教育の道に進んでいます。どこかの誰かさんみたいに、へそ曲がりな子を導けたらいいなって思っています』

 

 ヒフミ、アズサ、コハル、ハナコが、ちゃんと卒業して働いている話をする。

 一番の問題児達の立派になった姿に、プレナパテスも思わず涙ぐむ。

 

『あのね、あのね! 私は色々とチャリティー活動をやってるんだ。恵まれない子達は、アリウスだけじゃないから……ちょっと辛くて、悲しくて、目を背けたくなることもあるけど……やっぱり見捨てられないから! 私、これからも諦めずに頑張るからね!』

『ミカさんの活動には、私も協力していますので安心してください、先生。今でも偶に、おかしなことをすることもありますが……その愛と優しさだけは、二度と曇ることはないでしょうから』

『と、ナギサは言っているが、彼女もまた、やんちゃな性分が完全には隠せていなくてね? 三つ子の魂百まで、とはよく言ったものだ。ああ、安心してくれたまえよ。私とて完璧でないのは自覚している。ナギサがミカを助け、私がナギサを助ける。そして、ミカが私を助ける。この三位一体の友情こそが、かつてのティーパーティーの本質さ。大人になっても変わらない、(はらわた)を見せ合った末の友情というものを噛みしめているよ。だから、何も心配することはない。後のことは未来に任せたまえ』

 

 ミカ、ナギサ、セイアが卒業後まで関係が続いていると笑い合う。

 1人では躓いてしまう道のりも、3人で支え合っていけば、歩ききれるのだと。

 教わったことを実践している。

 

『キキキ、全キヴォトスの総統になった羽沼マコト様だ……冗談だ。まだ、道半ばだ。だが、安心するがいい! 以前のキヴォトスの方が良かったなどという言葉は、私のプライドが許さんからな。必ずや、今以上の発展を遂げたキヴォトスを見せてやる! ……先生は、天国でその様子を見守っているといい』

『先生…いえ、ここはおじいちゃんとでも呼びましょうか。百鬼夜行で“和楽姫”をやった時に「本当に死んだときに誰も葬式に来てくれませんよ?」と言った覚えがありますけど……随分と慕われているようで、何よりです』

『流石に、葬式に来ないなんて悪い子はいないわよ? お世話になったのに、葬式にも顔を出さないなんてありえないじゃない』

 

 マコトとイロハ、サツキが軽口を言いながらも、なんやかんやで弔ってくれる。

 死ぬ死ぬ詐欺の連打で、葬式の開催も危ぶまれた扉間だが、こうして残ってくれる程度には慕われていたのだ。

 

『コホン。アリウス学園、二代目校長の秤アツコです。先代校長様から、海よりも深く、山よりも高い御恩を受けたことは、全学園生徒共々、生涯忘れることはありません………じゃ、硬いのはここまで。ありがとうね、先生。これからのアリウス学園は私達が繫栄させていくから。……でも、なんで顔岩なんて、私の冗談を二つ返事で了承しちゃったのかな? 校長の顔岩がアリウスの伝統になっていきそうなんだけど……』

『校長。私は現在、カイザーの軍事学校で、スバルと共に教官をやっている。そこに来るのは大半が問題児ばかりだが……まあ、昔の私達に比べたら可愛いものだ。生徒達曰く、私が鞭役でスバルが飴役らしいが……私は鞭で叩いた覚えはないんだがな。あれは痛みがするだけで、意味のない罰だろうに』

『校長先生……なんだろう。何を言えばいいのか分からないけど……とにかく、生きてるよ。真っ当かも、誇れる生き方かも分からないけど……とにかく生きてるし、最後まで生きるよ』

 

 アツコ、サオリ、ミサキがちょっと冗談を言いながら近況を報告する。

 まあ、アツコは顔岩の件は素で嫌そうだし、サオリは天然が入っているが。

 そのせいで、ミサキが一番まともに見えるのはバグだろうか? 

 

『思えば、トリニティの代表として、先生の指揮に加わったのが最初の出会いでしたね。あの時は先生という大人に対して、半信半疑でしたが……今は寂しい気持ちでいっぱいです。歳が上の人間から先に逝くのは、自然の摂理とはいえ……』

『こういう時は、どんなことを言えばいいんっすかね……とにかく、お疲れさまでした。後のことは任せて、先生はゆっくり休んでください』

『先生……正義実現委員会は健在です。私が卒業した後は、イチカが…次はマシロが引き継いでくれました。そして、これからもトリニティの平和のために……いえ、トリニティとゲヘナを守るエデン条約機構(ETO)として活動していきます。どうか、安心してください……それと、ハスミの体重もギリギリ健康です』

 

 ハスミ、イチカ、ツルギが、寂しげな表情を浮かべながら別れを告げる。

 

『先生すぐに救護を! ……若い時の私なら、そう言っていたでしょう。ですが、年を取って、穏やかな終わりを望むという考え方も、少しは理解出来るようになりました。先生にとって、この選択が最も望む人生の幕引きなのですね?』

 

 ミネがもはや救えぬ体となったプレナパテスを、悲しげな瞳で見つめる。

 プレナパテスは植物人間のようなもの。

 そして、臓器を移植する意思表示をしているドナーでもある。

 ミネは救護の世界に長くいるからこそ、プレナパテスの選択を否定できなくなっていた。

 

『先生がどの宗教を信じているかは、知ることが出来ませんでしたが……それでも祈らせてください。私達、みんなの先生が安らかに死後の世界で過ごせるように』

 

 貫禄が増した上に、ヴェールを顔全体にかけているせいで、更に怪しい空気を纏うようになったサクラコが祈りを捧げる。

 それは、プレナパテスだけに捧げられる鎮魂歌(レクイエム)

 

『……先生。SRT特殊学園を存続できたのは、間違いなく先生のおかげです。今は卒業して学校から離れていますが……今でも、あの公園でのやり取りを思い出したりします。私達、本当に幼かったですね……すみません』

『ミヤコの言う通りだ。あの頃の私達は………今の自分から見ても中々に酷かった。先生にも失礼なことを言ったし……ごめん、先生。あの頃は素直になれなかったんだ。今も昔も感謝してる。ありがとう、先生』

『サキも言ってるけど……何と言うか、甘えてたんだろうね。先生のことを父親みたいに思ってたから……こんなタイミングじゃなくて、もっと早く言ってあげればよかったけど』

『先生は刑務所行きでも、おかしくない人間でしたけど……それでも私達の大切な先生でしたので』

 

 気にするな。ワシも自分の父親には中々に酷い態度だったからな。

 ミヤコ、サキ、モエ、ミユの謝罪の言葉に視線でそう返す、プレナパテス。

 大人達はバカだと平然と言っていたので、あまり文句は言えないのだ。

 むしろ、陰口の扉間と正面から文句を言っていたRABBITなら、扉間の方が父親との距離が遠そうである。

 

『公安局としての関わりばかりで、あまり直接的な関りはありませんでしたが……それでも、ヴァルキューレが改革されたのは、先生の働きかけがあってのものです。ありがとうございます。まあ、少しばかり、目を瞑らねばならない点もありましたが……それは私も同じですね』

『本官には、カンナ局長の言っている意味が良く分かりませんが……先生が立派な人だったことは良く知っております! なので、メイド好きなどという風評被害が残らないように、みなさんへ説得していきますので、ご安心ください!』

 

 カンナとキリノが苦笑い気味に、見送りの言葉を告げる。

 割とグレーゾーンな人生の扉間だが、メイド好きはただの風評被害なので、権力で揉み消してもいいだろうと。

 

『先生……監視目的で、色々な場所に付き合わされましたけど、楽しかったですよ? これぞ青春の思い出ってやつですね。今は私も、ちゃーんとホワイトハッカーとして働いている社会人なんですよ? え? ギャンブルですか? ………ちゃんと生活費と最低限の貯金はした上で、趣味の範囲でやっていますので……にはは』

『コユキちゃんはダラシない大人ですが、ちゃんと借りたものは返せる大人になりましたので。心配はしないでください』

 

 立派な大人になれたかどうかは、目を逸らして答える、コユキ。

 今のコユキは新台の入荷日に、朝っぱらから働く誇り高き錬金術師だ。

 まあ、ノアも言ってる通り、借金は返すので最低限の人間性は確保されている。

 

『ご主人様! 色々あったけど楽しかったね! ご主人様が死んじゃうのは……うん、すっごく悲しいけど……でも、楽しかった思い出はちゃーんと残るから! これだけは何があっても忘れない、絶対だよ?』

『アスナ先輩も、ああ言ってるみたいに私も先生と過ごした記憶は忘れない。……結婚式に、先生を呼べないのは残念だけど』

『ご主人様…いえ、トビラマ先生。先生が守ってくださったミレニアムや、キヴォトスは健在です。私も卒業しましたが、新たな芽が出て来るのを楽しみに見守っていてください』

『先生、先生をご安心させるべく、私は全く寂しくないとここに宣言します……はい、もちろん嘘です。本当は凄く……悲しいです。言葉に出来ないほどに』

 

 アスナ、カリン、アカネ、トキが冥途(メイド)の土産を送る。

 安心してプレナパテスがあの世に旅立てるように、土産話を持たせて。

 

『先生殿! (あたし)達は卒業しても、忍術研究愛好会として忍者を広めてるんだ! もちろん、先生殿に教わった諦めないド根性も一緒にね!』

『「少女忍法帖ミチルっち」ですが、主殿が忍法をキヴォトスで使ってからは、どんどんPV数が増えて行っているんです! 今では、知らない者はいない……とまではいきませんが、忍者好きの人が、一度は目を通したことのあるチャンネルになっています』

『これも全部、先生が私達を忍者にしてくれたおかげです。あ、それと私が忍者モデルとして額当てをお披露目したら、ちょっとした額当てブームが起きたりして……木ノ葉隠れの里のマークがキヴォトスでも広まっています』

 

 ミチル、イズナ、ツクヨの3人が火の意志を継いで、キヴォトスにも忍者を広めていることを伝える。

 別世界にまで忍者が広まっているのは、開祖である六道仙人もビックリだろう。

 

『にゃはは、先生には色々と振り回された記憶がありますが……人生終わり良ければ全て良し! こちらの先生がご存じかは知りませんが、色々とあった百鬼夜行の問題も解決してくださって、感謝していますよ?』

『これからも問題は起こっていくのでしょうが……今度は、私達や私達の子供達が解決していきますので、どうかご安心を』

 

 ニヤとカホが未来のことを少し仄めかしながら、お礼を言う。

 プレナパテスは到達できなかった未来だが、それでも自分達は無事に生きていると。

 あなたの居ない世界でも、立派に生きていると安心させる。

 

『校長先生………お疲れさまでした。死ねば楽園に導かれる。そんな、かつて押し付けられた教義を……今は心の底から信じたいと思っています。どうか、先生の死後に祝福が有らんことを』

『先生、私……今はアリウスの外で働いています。先生に教わったみたいに、悪い人がいっぱいいますけど、でも良い人もいっぱいいて……その中で、何とか毎日生きていけています』

 

 スバルとマイアが、感謝を告げる。

 安らかな眠りをと、死後に4回も蘇った男へ祈りを捧げる。

 ドラキュラかな? 

 

『先生……思えば、キヴォトスで初めて出会ったのは私でしたね。先生には連邦生徒会諸ともよく振り回されました。文句を言いたいのに、筋が通っているので断れない内容ばかり……増える業務量、減る睡眠時間、気づけば本当にあっという間に時間は過ぎていきましたね。というか、実際に何日か記憶が飛んでいる気がします』

 

 最後の締めくくりに、扉間がキヴォトスで最初に出会った生徒、リンが呆れながら現れる。

 プレナパテスが仮面の下で、気まずげに目を逸らす。

 

『ですが……今となっては、かけがえのない思い出です』

 

 しかし、リンは大人びた顔に童心を灯しながら笑う。

 今となっては良き思い出だと。

 

『私達は、先生亡き後も生きて、先生から教わった意志を次の代へと引き継いでいきます。……ですので、どうかご安心ください。キヴォトスの未来は、私達が守っていきます』

 

 火の意志は続く。

 枯れた葉は地に落ちるが、その葉は若葉の養分となり──

 

 

『──卒業生代表、七神リン』

 

 

 ──新たなる火種となり燃え広がるのだ。

 

“良い……土産話が出来たな。あちらで兄者に聞かせるとしよう。ワシの自慢の生徒達の話を”

『………では、卒業生は退出をお願いします』

 

 リンの言葉と共に、大人のカードで呼び出された生徒達が退出していく。

 

 ありがとうございます。

 大好きだよ。

 忘れないよ。

 心配しないで。

 後は任せてください。

 

 そんな言葉を残しながら、生徒達が1人、また1人と未来へと帰還していく。

 遠い先の未来。自分達が大人として守るべき、青春物語の世界(ブルーアーカイブ)へ。

 

『……それじゃあ、先生行きましょうか。死んだはずの私が、何でここに居られるのかは分からないけど……今度は迷子にならないように一緒に』

 

 だが、1人だけ残った生徒がいる。

 梔子ユメ。プレナパテスと同じ死人だ。

 矛盾した空間であるが故に、死人なのに呼び出されていたのだ。

 

冥府の神(オシリス)っていうのは良く分かりませんけど……本当に私があの世の神様なら、他のみんなが来るのを私と一緒に待っていませんか?』

“…………”

 

 死後の神は、どの国でも真面目で慈悲深い。

 それは人が死からは逃れられないことを、よく知っているが故に。

 いつか、自分を迎えてくれる神様には優しくいて欲しいと思うのは、どんな国の人も同じだ。

 

『……先生?』

 

 そんな慈悲深いユメを眺め、世界を欺く者(プレナパテス)は溜息を吐く。

 そして──

 

 

“──お前の卒業には、出席日数が足らんわ! 出直してこい!”

 

 

 ──ユメを()()()()()

 

『ひぃん!? 先生ーッ!?』

 

 当然困惑して涙目になるユメを前に、扉間はズタボロになった大人のカードの最後の一回を使う。

 未来の生徒を呼び出すカードを。

 ユメがアビドス高校の生徒として、ちゃんと授業を受けた上で卒業する未来を描く。

 

“卒業とは、一定の基準を超えなければ何があっても出来んものだ。分身の術も使えん子供に卒業はさせられんな……再試験だ、ユメ”

 

 半死半生。そんな矛盾した存在を普通の世界は認めない。

 だが、一度でもそのパラドックスを認めてしまったのなら、例外として残さざるを得ない。

 シロコと、シロコ*テラー。

 同一の存在(パラドックス)でも存在できる前例はある。ならば。

 

『せ、せんせー! 死者を生き返らせるのはダメなんじゃ!?』

“生き返らせる? お前は死んでも、生きてもいない存在だ。言わば、グレーゾーンの存在なだけ。ワシは生き返らせてなどおらん。先生として馬鹿な生徒に、再試験を言い渡しただけだ”

 

 死んでるけど、生きているという矛盾状態で、この世に留まることも出来るだろう。

 これぞ、アビドスに引き継いだ法の抜け穴(グレーゾーン)を利用する卑の意志だ。

 

“ではな。次にこっちに来るときは、存分に遅刻してから来い”

 

 世界を欺く者(プレナパテス)は背を背ける。

 そして、砕けたカードを捨てて、互乗起爆札のカードを取り出す。

 絶望の未来の可能性も、悲劇の未来の可能性も、幸福の未来の可能性も全て消し飛ばして、子供達にまっさらなキャンパスを渡すために。

 

 

“──どうか、子供達の未来に祝福を”

 

 

 そうして、プレナパテスは、否。

 千手扉間は、アトラ・ハシースと共に深い海の底へと眠りについたのだった。

 

 

 

 

 

 暗い道を歩く。

 何度か通った記憶のある道だ。

 すると、扉間は遠くに焚火の炎がたかれていることに気づく。

 見覚えのある影が、炎に照らされて揺れている。

 

「随分と長い間、呼び出されておったが故、なんぞ、厄介ごとに巻き込まれたのかと思っておったが……」

 

 懐かしい声が聞こえてくる。

 どこまでも雄大で、どこまでも優しく強い、そんな大樹のような声が。

 

「存外、良い顔をしておるではないか、扉間?」

 

 火に照らされて、豪快な笑みが光り輝く。

 今まで弟を心配して、ここでずっと待っていた兄の顔が映し出される。

 

「何か良いことでもあったか? ちょいとばかし話してみても、罰は当たらんぞ」

「……フ、まあ酒の肴にはちょうどいいだろうな」

 

 扉間は珍しく何の憂いもない子供のように笑い、焚火を挟んだ反対側に腰を下ろす。

 これからの話は、少し長くなるぞと思いながら。

 

「まあ、聞け、()()。ワシの──」

 

 何せ、新しい世界で出会った──

 

 

「──新しい生徒達の話を」

 

 

 ──自慢の生徒達の話なのだから。

 




見送りが長くなったので、完結まで1話伸びるかも。
次回も1週間後の火曜に投稿します。
感想・評価お願いします。

ここからは次回作の案?
とにかく、読まなくても大丈夫です。




そろそろ、新作の季節なんですが中々案がまとまらない。

『勇者パーティから追放されたネクロマンサーのザマァ物語!「え? 主戦法が敵の死体を操って情報を抜き出した後に、爆弾にして返す俺が追放!? ち、血も涙ねぇ! そもそも爆弾にするのは魔法使いの仕事だろ! なに? もちろん魔法使いも追放? ザマァWW」』

『小学校教師の俺が、識字率1%のファンタジー世界で授業をして無双――え!? 魔王がポルポトなんですか!? どうりで誰も文字が読めないし、眼鏡をかけてるだけで殺されかけるわけだよ!』

こんな感じで、どうしても卑劣様とブルアカに引っ張られる。
ちょこちょこ書いてるんですが、どうにもインパクトが足りない……。
今回は割と難産になりそう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。