千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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112話:帰還

「ちょっと! それは私が育てていたお肉よ!!」

「甘いよ、アル先輩! 焼き肉は戦争なんだよ?」

「~~っ! モモイー!」

 

 人の世は常に争いの歴史だ。

 巨大な敵を前にして、一度は手を取り合っても時がたてば再び争い合う。

 そう、この焼き肉争奪戦争のように。

 

「すぐに新しいのを焼いてやるから我慢をしろ、アル。お前の方が年上だろう?」

「う…ッ」

 

 お姉ちゃんだから我慢しなさいと、年上理論を押し付ける扉間にアルが苦しそうな顔をする。

 後輩に譲らないのはアウトローらしくないと思ったのだ。

 

「それとモモイ。人のものを奪うほど腹が減っておるのなら、野菜も食え。ピーマンと、ピーマンと、ピーマンだ」

「せめて人参とかも混ぜて!? 私ピーマン嫌いなんだよ!」

「ああ、知っておる」

 

 だが、それはそれとしてモモイには、野菜のフルコースをお見舞いする。

 許せモモイ、またピーマンだ。

 

「先生、モモイは野菜全般が嫌いなので、もっと追加してあげましょう」

「ケイの裏切り者~!」

「あなたの健康のためですよ、モモイ」

 

 そんな漫才が行われている現在地は、もちろん勝利を祝っての高級焼き肉店。

 と、言いたいところだが、実際は適当なスーパーで買った肉を焼いて、青空の下でバーベキューをしている。

 

「あはは……事件は解決しましたけど、すぐには焼き肉店も復旧できませんよね」

「まあ、避難命令で売れ残ったお肉が安く買えたしいいじゃん」

 

 隣の別のコンロでは、自分の紙皿にそつなく肉を確保しながらヒフミが苦笑いをし、ミチルがウィンナーを網の上で裏返す。

 

「でも、あのスーパーも商魂逞しいよねぇ……まあ、カイザー系列だから、逃げられなかっただけなんだろうけど」

「今まで、昔のアリウスより命が軽い環境なんて無いって思ってましたけど……ブラック企業ってアリウスより酷いんですね」

 

 その横では、モエがトングで大量の肉を掴んで一気に投入したらどうなるかなと、トングをカチカチ鳴らしながら笑い、ヒヨリがブラック企業の悲痛さに顔を歪めながら、肉を3枚ほど纏めて持っていく。

 

「でも、なんでこんなすぐに焼き肉をしてるの? もっと落ち着いてからでもよかったんじゃ」

「それはだな……シロコ」

 

 シロコが苦手な玉ねぎを、ソッとモモイの皿に乗せながら扉間に尋ねる。

 なんで、店も開いていないような状況で祝勝パーティを強行開催したのかと。

 

 

「──生徒会組はここからがデスマーチだからだ。無論、ワシも含めてだ」

 

 

 そして、簡潔に理由を答える。

 復興作業が待ち受けている生徒会組は、むしろこのタイミング以外に集まれないのだと。

 

「ええ、本当に………これからやるべきことを考えると気が重くなります」

「D.U.は半壊。サンクトゥムタワーも粉砕。交通網どころか、インフラも大変なことになっているでしょうね……」

 

 カヤとイノリの、これからやるべきことが具体的に分かっている2人が揃って遠い目をする。

 今しか休めるタイミングがないのは分かっているが、だからといって全部忘れて楽しむことも出来ないのだ。

 

「……あの、先生? 本当に私達はこんなことをしていていいのでしょうか? いえ、作戦成功パーティを否定するわけではありません。ただ、私達だけでも先に復興に回った方が……市民の方々にこれ以上迷惑をかける訳には」

「ユキノちゃん……気持ちは分かりますけど」

「ちょっと、根を詰めすぎじゃない?」

「そうだよ、休息も訓練の内って、よく言うじゃん」

 

 そして、ユキノに至っては、今すぐにでも復興作業に向かうべきといった態度を崩さない。

 他の3人の言葉も、その大きな耳に届いていない。

 

「ユキノ。栄養補給無しで動ける人間はいない。お前達が根を詰めて倒れれば、二次被害として余計に手間がかかる。本気で人の役に立ちたいのなら、本気で休むことも大切だ」

「ですが……こういった時に動くのが私達の役目。昨今は救助活動をする人間が表でご飯を食べているだけで、叩かれる時代です。この状況がもし見つかってしまえば、主催者の先生にまで迷惑が」

 

 かつて、自分達の未熟さから市民を傷つけてしまい、その後始末を連邦生徒会長につけて貰ったことを思い出す、ユキノ。

 あくまでも自分で責任を取らなければならない。

 そんな気持ちが少し強すぎるのだ。

 

「勝手に言わせておけ。ワシは何を言われても構わん」

「しかし…!」

「それにだ。こういったものは、少数でやるから良くないのだ。批判する側も()()()()()()()()()()()()()

 

 少数が焼肉パーティーしているからやり玉にあがるのだ。

 だったら。

 

「あ! シロコ先輩! ちゃんと無事だったのね!」

「先生~、追加でバーベキューセットを買ってきました」

「お肉も追加で買ってきたよ。D.U.の外なら結構お店はやってるみたいだよー」

 

 数を増やしてしまえばいい。

 

「お姉ちゃん! 元気そうで良かった……」

「うぅ……人がいっぱい……で、でも、逃げちゃダメ……逃げちゃダメ」

「ケイ! 無事に帰還したのですね!」

 

 生徒達がぞろぞろと集まってくる。

 扉間に戦勝記念パーティを開くと言われて、集合してきているのだ。

 

「店が開いていないのなら、店ごと買い取ればいいじゃないか? いや、それだと青空の下という風情が台無しかな。こういうのは、雰囲気を楽しむものだからね」

「セイアさん、そういう簡単な問題ではありません。人命がかかった上での避難命令なのですから、当然権利者の方も避難しておられるのですよ? 命がかかっている状況で経営の話をしても、まともな話し合いになりません」

「うーん……そういう問題なのかな?」

 

 パンがないなら、お菓子を食べればいいじゃない、とブルジョワ発言をかましながら現れる、ティーパーティー。

 

「万魔殿が集めたお肉……毒とか入っていませんよね?」

「本当、失礼ね。そんな罰当たりなことをするわけないでしょ? 食べ物を粗末にする子には罰が当たるわよ!」

「イブキ、バーベキュー楽しみ! イロハ先輩、ウィンナーさんはある?」

「はい、もちろんですよ、イブキ。締めのアイスも用意しています」

 

 アコが都合よく用意された肉に警戒を示し、サツキが怒って否定する。

 その横では、イブキとイロハが手を繋いで穏やかに歩いてきている。

 

「ねぇ、サッちゃん。先生の顔岩とか作ったら、観光スポットにならないかな?」

「は? いや……流石に先生が断るだろう……」

「そうですよ、姫様。言うだけ言うのは構いませんけど、きっと断られますよ」

 

 アツコが破滅の未来を知ることもなく、暢気にサオリとスバルをからかう様に提案をする。

 やめておけ、その先は地獄だぞ? 

 

「……なあ、ミユ。私は確かに肉を買ってこいと言った。ああ、それは認める。確かに言ったがBBQ用だとも言ったはずだ。だというのに、どうして──フライドチキンを買ってきているんだ!?」

「た、食べたかったから?」

「……まあ、解凍されたSRTの口座から引いたものなので、今までの分と思えば、少しは無駄遣いもいいでしょう。他のみなさんにもおすそ分けすれば、焼き肉分のお腹も確保できるはずです」

 

 フライドチキンの大容器(バーレル)の袋を両手にぶら下げた、サキとミユとミヤコが現れる。

 スーパーに行く道にあったケン〇ッキーの魔力に敵わなかったのだ。

 まあ、BBQの締めにハンバーガーの文化も存在するので誤差だろう。

 

「部長! ご無事で!」

「よ、よかったです……」

「にゃははは! 上々、上々! さてと、百鬼夜行の特産の質のいい炭をお持ちしましたよ。焼き肉には炭が欠かせませんからね」

 

 百鬼夜行の面々が炭や肉を持って現れる。

 

「お腹空いたー……ドーナッツはあるー?」

「ば、バーベキューなので、どうでしょうか? あ、市民の方も参加させていいでしょうか、先生!」

「構わんぞ、キリノ。炊き出しの側面もあるからな」

 

 フブキとキリノが、避難していた市民を何人か連れて来る。

 人が人を呼ぶ、互乗BBQの術である。

 

「…………会長」

「リ、リンちゃん……」

『リ、リンちゃん……』

 

 そして、最後の最後に額に血管を浮かび上がらせた、リンが登場する。

 イノリとアロナがビビッて、カヤと扉間に助けを求めるが2人共無視を決め込む。

 お前の選んだ道だろう? 

 

「……1つ聞かせてください。私との友情が、仕組まれた偽物かもしれないと言った件ですが……本当でしょうか?」

『な、なんてことを言ってるんですか!? もう1人の私!』

「あ、あの時は悪役ロールだっただけだよ! 何度繰り返しても、リンちゃんとの友情は本物だよ!」

『そ、そうです! 友達だけは替えが利かない、大切なものですから!』

 

 必死に弁明を図る、イノリ×2。

 その顔を数秒程ジッと見つめた後に、リンはイノリの横に座る。

 ビクリとイノリの肩が跳ね上がる。

 

「そうですか……では、今のところはそれで許してあげましょうか」

『「リンちゃん…!」』

 

 リンの寛大な心に、全イノリがスタンディングオベーション。

 

「愚痴は、時間がもったいないので仕事をしながら言わせて頂きます。はい、72時間一緒ですね」

『「リンちゃん…!」』

 

 そして、そのまま膝から崩れ落ちる。

 

『自業自得ですね、イノリさん。あ、こちらのイノリさんは自分の世界でも同じことが起こるのをお忘れなく』

「うごご……一体誰のせいで……私のせいですね」

 

 はい、月読説教確定。

 誰のせいかと恨んでみても、自分の顔しか思い浮かばないのでしょうがない。

 

「と、まあ、こうして全員を呼べば、ワシらを責める者もいまい。全員が共犯者だな、ユキノ?」

「……本当に先生は卑劣ですね。尊敬します」

「嫌みか」

「? いえ、本心ですが」

 

 扉間の全員巻き込めば、誰が悪いとか言えないだろう作戦。

 それを真顔で、卑劣だと褒めるユキノはきっと天然なのだろう。

 

「とにかく、そういう訳だ。お前も端っこにおらずに寛げ」

「……いいの?」

『私達はキヴォトスを滅ぼしに来たのですが……』

 

 シロコ*テラーとプラナが、気まずそうな顔でワイワイと賑わう周りを見渡す。

 

「気にするな。すぐそこに、サンクトゥムタワーとD.U.を粉砕した人間がおるだろう?」

 

 そう言って、扉間はトングでアルの方を指す。

 肉を食べることに夢中になっているせいか、アルはすっかり過去のことを忘れている。

 

 全盛期陸八魔アル伝説

 NEW! 爆破したサンクトゥムタワーの瓦礫の上で、笑顔でBBQを行う。

 

「……先生、これから私達はどうしたらいいかな? もう帰る世界もないし……」

『生きるとは言いましたが……路頭に迷ったようなものです』

 

 シロコ*テラーとプラナは現状ホームレス。

 いや、ワールドレス状態。

 暢気に焼き肉という気分になれないのも、仕方がない。

 

「案ずるな。プラナは、そのままワシが預かって今までと同じように()()()フォローしてもらう」

『それは、シッテムの箱のOSとして、このまま働けということでしょうか? 喜ばしい提案ですが、そちらにも既にA.R.O.N.Aが居るのでは?』

「アロナはクビだ。連邦生徒会長として復帰するからな」

『先生!? ずっと一緒に居るという約束は嘘だったんですか!?』

 

 悲報:アロナ、クビになる。

 当然、プラナを新しくOSにするという発言に、アロナは反対する。

 だが。

 

「会長? 仕事のお話は出来れば私も後にしたいのですが……会長に判子を押していただかないといけない書類が、二部屋分ほどあるのですが?」

『わア…ぁ…』

「こっちの私で二部屋なら私の方は………お肉が美味しいなぁ」

 

 リンからの、お前に我儘が許されるとでも思ってんのかという、ドスの利いた声で黙らされる。

 イノリの方は、既に現実逃避をして黙々と肉を口に運んでいる。

 

「そういう訳で、プラナにはアロナ()き後のワシのフォローを頼みたい」

()き後ですか……過労死ですかね。まあ、自業自得ですが。とにかく、そのお申し出、謹んで受けさせていただきます』

 

 こうして、プラナの転職先が決まるのだった。

 

「先生、私はアビドスで適当に追剥ぎ(おいはぎ)でもして──」

「──うへへ、かわい子ちゃん発見~」

 

 昔取った杵柄で、ヘルメット団から羅生門でもしようかなと呟く、シロコ*テラーの肩がガシッと掴まれる。

 

「ホシノ先輩……」

「数は力だよ、もう1人のシロコちゃん。アビドスに一番足りないものを補うチャンスを私が見逃すと思うかなぁ?」

「ん、力の1号と技の2号が揃えば敵なし。もちろん、私が1号」

 

 右からはホシノが、左からはシロコが。

 シロコ*テラーが逃げられないように、しっかりと肩を掴む。

 

「私が……アビドスに戻っていいの?」

「戻るも何も、アビドスはシロコちゃんのお家ですよ? 今も昔も、遠い未来でも……ね?」

 

 そして、正面からはノノミがシロコ*テラーに抱き着く。

 お帰りなさいと、まるで母親のように。

 

「アヤネちゃん、アビドスチャンネルの時の説明はどうしよっか?」

「シロコ先輩の生き別れのお姉さん……だと、昔の記憶とかをツッコまれそうですね。もうここは、同姓同名のそっくりさんで押し通しましょう!」

「前から思ってましたけど、アヤネさんは知的に見えて脳筋ですわよね……」

 

 その横では、セリカとアヤネが早速、次のアビドスチャンネルのネタ作りを考えている。

 まあ、ワカモがツッコむようにかなり無理やりだが。

 

「アビドスチャンネルかー……私も出て良い?」

「ユメ先輩は、その……死んだことを知っている方も、見ていると思いますので」

「もしかして、私の同級生の子も見てくれてるのかなー、元気だと良いなぁ」

 

 更にその横では、ユメとノノミがのほほんと会話している。

 まあ、実際にユメが出演したら、シロコ*テラーどころではない騒ぎになるだろうが。

 

「ユメ先輩の同級生……ユメ先輩を見捨て──置いて行った人達ですね? ………アヤネちゃーん。次はホラー風に撮ってみない? ほら、ユメ先輩に画面の隅でずっとカメラに目を向けて、笑っててもらってさー。そしたら……一部の人は死ぬほど怖いと思うんだよね」

 

 ホシノが全く目が笑っていない笑顔で、アヤネに提案する。

 死人のユメが、突如として画面に映り自分に笑いかけている。

 そうなれば、ユメを見捨てていった人間は生きた心地がしないだろう。

 

「ホシノちゃん、ダメだよ? みんなにだって事情はあるんだから。ホシノちゃんだって、私が居た頃のアビドスの状況は知ってるでしょ?」

「………すみません」

 

 そんな復讐心をチラつかせるホシノを、メッとするユメ。

 因みに、ホシノの提案動画を数日前のホシノが見れば、間違いなく(メッ)されるだろう。

 ここに居たんですね、ユメ先輩……。

 

「ユメ先輩……なんで、まだ生きてるの?」

「酷い!? 私何か悪いことしたっけ!?」

「あ、いや……悪口じゃなくて……本当に何で生きてるの? 穢土転生の術は解除したのに……」

 

 そんな中、シロコ*テラーは何故か消えていないユメを、幽霊を見る目で見つめる。

 術を解除したのに残るとか、マダラかよ。

 

「私も分かんないけど……なんか、()()()()()()()ような気がする」

「蹴り飛ばされた…?」

「ユメ先輩が急に光り輝いたと思ったら、また元に戻るんだもん。いやー、生きた心地がしなかったよ~」

「先生…?」

 

 一体どういうことかと、説明を求めるシロコ*テラーに扉間は考え込む。

 術の解除をしたのに残るなんて、そんなの“解”をするしか──

 

「………そう言えば、解をさせておったな」

「あー、そう言えば最初に森でユメ先輩に会った時に、そんなこと言ってたわね」

「え? あれって、味方になるためのものじゃないんですか?」

 

 思い出したとばかりに、深く息を吐く扉間。

 自分の真似をさせて、ユメにしっかりと解の印を結ばせていたのだ。

 そりゃ、成仏しないわけだと納得する。

 

 まあ、実際の所はプレナパテスがさっそく仕事をしていただけなのだが、扉間には知りようがない。

 

「穢土転生の解は、術者の縛りを抜けるためのものだ。当然、術者が後であの世に戻そうと思っても、言うことは聞かせられん。そうなると、死なぬ体で無限のチャクラを持つ存在がこの世に留まり続けることになるのだ」

 

 これがあるから、自分の時には解をしなかったのだと頭を抱える、扉間。

 

「そして、ユメが残っておると言うことは当然──」

「先生、死ねないのだけど、どうしたらいいかしら?」

「………もう1人のヒナも残っておるな」

 

 術者の支配下から逃れた穢土転生は2人居た。

 ユメ、そして穢土転生ヒナだ。

 

「もう敵意が無いから、一緒に来たけど……どうしようかしら、先生?」

「成仏って何をしたらいいのかしら……悟りでも開く?」

「キキキ、まさか本当にダブルヒナになるとはな、マコト様の預言した通りだ。………それはそれとして、風紀委員会の力がこれ以上増すと困る。先生、どうにかしてくれ」

 

 2人のヒナを従えたマコトが、珍しい困り顔で助けを求めて来る。

 ヒナが1人の状況でも、やり過ぎると絞められていたのに、2人とかもう大人しくするしかない。

 良い事? それもそうだな。

 

「『ここは地獄(ゲヘナ)だ。1人ぐらい死人の住人が居ても構うまい』……お前の言葉だったと記憶しているが?」

「それはもう()んだことだろう!」

「マコトも()んだことと言っておる。働き詰めだったのだ。少しばかり、現世に残って、やり残したことを終わらせても罰は当たらんだろう」

「やり残したこと……」

 

 扉間の言葉に、穢土転生ヒナは考える。

 自分の心残り。

 一番は、仲間達を守れなかったことだが、それは並行世界での話。

 今この世界でやれることなど──

 

 

「あ、そうだ──お酒を飲んでみようかしら」

 

 

 ──1つだけあったなと思い、酒が飲みたいと呟く。

 

「20歳未満の飲酒は法律で禁止されているぞ! ヒナ!?」

「……こういう所は変に真面目よね、マコトって」

 

 だが、当然20歳になっていないので、マコトが全力でストップをかける。

 暗殺計画とかは普通に立てるのに、20歳未満での飲酒は絶対に認めないのが、マコトクオリティだ。

 

「そもそも、何でお酒なの…? 私も興味はあるけど、そんなに飲みたいとは思わないし……」

「先生と一緒に、飲んでみたいから……かな?」

「ヒナ……お前が謝ることではないと言ったはずだ」

 

 お酒が飲めるようになるまで、生きられなくてごめんなさい、先生。

 

 敵側だった時に謝られた言葉を思い出す、扉間。

 ヒナは、扉間と一緒にお酒を飲むことで、心残りを解消しようとしているのだ。

 

「だが、それがお前の望みならば……2年後だな。しっかりと20歳になってからなら、いくらでも付き合ってやろう。ワシもそれまでは必ず生きておくつもりだ」

 

 しかし、20歳未満の飲酒を先生が認める訳にはいかない。

 扉間は代わりとばかりに、紙コップに入ったオレンジジュースを穢土転生ヒナに渡す。

 もう少しばかり、この世で寛いで行けと。

 

「そう……分かったわ。それまでは、気ままに過ごしておくわ」

 

 そう言って、穢土転生ヒナははにかみ、ちびりとオレンジジュースを飲むのだった。

 

 

「ねぇ、もう1人の私。ついでだし、交代制で生活をしないかしら? 1人が寝ている間にもう1人が働くシフトで」

「いいわね、それ。1人、1日12時間は寝れるし、“空崎ヒナ”は24時間体制で動ける」

「やめておけ。どうせ、貴様のことだ。そのうち2人そろって24時間営業になるだけだ。やめておけ」

 

 

 こうして、戦勝記念パーティは予期せぬ客人も受け入れて、進んでいくのだった。

 

 

 

 

 

「ついにこの世界から離れる時が来たのですね………ここまで、溜まっていた仕事の処理をさせられて本当に長かったです」

『まさか、自分が2人居ても終わらない量まで、膨れ上がっているとは思いませんでした……』

『そして、今度は自分の世界に帰ったら、1人でこなす必要があるのですね。私が手伝ってくれないのかですか? 自業自得です』

 

 BBQから2週間後。

 会長室の机の上に突っ伏しながら、イノリが涙を流す。

 おそらく、別れの時が寂しいのだろう。たぶん、きっと。

 

「ウトナの言う通りだ。むしろ、仕事をするだけで済んでよかったと思え。普通は解任ものだぞ? 諦めずにお前を探し続けた、リンに感謝するのだな」

「私の世界のリンちゃん……絶対怒ってるよね。いっそ、連邦生徒会長を誰か別の人がやっててくれないかな……」

『そもそも、卒業も控えていましたので……その可能性はありますね』

 

 扉間の呆れた声に、イノリは自分の世界のリンへと思いを馳せる。

 並行世界の自分でさえ、容赦のないパンチを食らわせてきたのだ。

 帰ったら、百裂ビンタは覚悟しないといけないだろう。

 

「私の後任は………うーん、リンちゃんやカヤちゃんぐらいしか出来ないけど、2人共同級生だよね。下の子が育っていてくれれば、良いんだけど」

「1人で何でもやることの危険性がやっと分かったか? 自分でやった方が確実というだけでは、下は育ってこん。時には、失敗するかも分からん仕事を投げる必要もある」

『じゃ、じゃあ、私が失踪したのも、下を育てるために仕方がなかったということで……』

「放任と無責任は違うぞ、アロナ。放任主義でも、子がやらかせば親が責任を取る。お前のは引き継ぎ無しの無責任だ、馬鹿者」

『うッ』

 

 育成のために、自分が居なくなる必要があったと言うアロナに、きつい言葉を放つ、扉間。

 責任を取らないのならば、それは教育でも何でもない、ただの無責任なのだ。

 

「まあ、これ以上言っても仕方があるまい。それで……お前達はどのようにして自分の世界に帰るつもりなのだ? イノリ、ウトナ」

「こちらに来た時と同じですね。ウトナピシュティムの力を応用して帰ります」

『はい。元居た世界とならば、データがあるので同期が可能です』

 

 イノリとウトナの処遇。

 取り敢えず、デスマーチで仕事をさせた後に、元の世界に返す。

 その後に、パラドックスで消える危険性が無くなったアロナが、会長として元に戻る。

 表向きには、連邦生徒会長は今回の騒動を防ぐために、失踪していたことになっているのだ(大本営発表)。

 

「そうか……短い間だったが、世話になったな。風邪をひくではないぞ」

「……はい。先生、最後に1つ」

『お願いがあるのですが』

「なんだ? 言ってみろ。聞いてから考える」

 

 受けるかどうかは後! 

 何でも言うことを聞くとか言うと、大変なことになるからね? 

 

「『私も……頭を撫でてください』」

「……も?」

 

 イノリとウトナの要求。

 それは、頭を撫でろという非常に可愛らしいものであった。

 

「だって、ウトナちゃんに聞きましたけど、そっちの私達は頭を撫でて貰ったんですよね! ずるいです! ずるいです! お仕事頑張ったご褒美に、先っちょぐらいいいじゃないですか!」

『はい、プレナパテスの私……プラナさんも撫でて貰っていました。私達にも撫でられる権利はあると考えます』

 

 アロナやプラナは撫でて貰ったのに、自分は撫でて貰えないのはずるいと訴える2人。

 仕事に関しては、お前の自業自得だとは言ってはいけない。

 

「ふぅー……分かった、分かった。今生の別れだ。断りはせん。まずは、ウトナからだ」

『はい……お願いします、トビラマ先生』

 

 若干呆れたような顔をする扉間だが、娘からの可愛いお願いを無下にする程鬼ではない。

 まずは、ウトナを撫でるべく、シッテムの箱の中の教室へと入っていく。

 

『では、お願いします、トビラマ先生』

 

 無表情ながら、撫でろ撫でろと猫のようにすり寄ってくる、ウトナ。

 かわいい。

 

「ウトナ……いや、A.R.O.N.A」

『はい』

「お前のやった行いは、人にやらされたことであっても、あまり良くない行いだ」

『……はい』

「だが……辛いことが立て続けにあった中、よくぞここまで耐え忍んできた。お前は本当に良く出来た子だ」

 

 そんなウトナの小さな頭を、ワシワシと撫でる扉間。

 その温もりを決して忘れないように、ウトナは静かに目をつむって心に刻み込む。

 AIだから、心が無いなどという言葉は、彼女には通用しない。

 だって、TSCをプレイしたのだから。

 

「これからは別の世界で生きていくことになるが……お前ならば、きっと大丈夫だ」

『トビラマ先生……はい、ありがとうございます。これから、私も……頑張っていきます』

「ああ、息災でな」

 

 最後に一際強く、ウトナの頭を撫でて扉間は教室から出て行く。

 もう、この子は道を間違えることはないだろうと信じて。

 

「それじゃあ、次は私の番ですね、先生!」

「ただ頭を撫でるだけで、何故そこまで気合を入れておるのだ?」

 

 教室から戻ってくると、やたらと気合を入れたイノリが待ち構えていた。

 待っている間に、ご丁寧にリップグロスを付け直しているほどだ。

 何をするつもりだ、こいつ? 

 

「まあまあ、いいじゃないですか、はーやくはーやく!」

「全く……体はデカイが、中身はアロナと全く変わらんな」

『私はこんなに我儘じゃないですよ!』

『どの口が言ってるんですか?』

 

 お前が言うなと、アロナにウトナの鋭いツッコミが入る中、扉間がイノリに近づく。

 そして、イノリの頭を撫でるべく手を上げた所で──

 

 

()きあり!」

 

 

 イノリが一気に距離を詰めて、背伸びをする。

 長身の扉間の頬に、リップを塗りなおしたばかりのイノリの唇が──

 

 

『アロナガードッ!!』

「ぶへッ!?」

 

 

 ──触れる寸前で、アロナによって防がれる。

 

『私の先生に何をするんですか、この泥棒猫!』

「さ、最後だし、ほっぺにチューぐらいしても……」

「………何をやっておるのだ、お前は」

 

 キス顔が、一瞬で潰れたカエルになったイノリに扉間が呆れた視線を向ける。

 このぐらいの不意打ちぐらい、気づけない扉間ではない。

 何かしてくると思って、アロナに防御させたのだ。

 

「わ、別れの挨拶です」

『あ い さ つ ?』

「そうですよ、西洋では娘が、父親のほっぺにキスをするのは何もおかしくない行為です!」

『先生は異世界の忍者ですけど?』

 

 何を急に西洋文化を取り入れてるんだと、ピキキと青筋を立てる、アロナ。

 文明開化でもこうも早くは取り入れなかったぞ? 

 

「いいじゃないですか、最後に思い出作りぐらい……」

『かーッ! 見てください、先生! この卑しい女を!』

「お前の教室には鏡が無いのか?」

 

 最後の思い出作りにとかいう、卑しさ全開の行動にペッと唾を吐く、アロナ。

 どうやら、アロナの教室には鏡が無いようだ。

 

「とにかく、約束は約束だ。自分の世界で、今度こそは先生としてやり通すのだぞ?」

「……はい」

 

 呆れた表情を隠しはしないが、イノリの頭をしっかりと撫でる、扉間。

 イノリの方も、悪ふざけはもうする気がないのか、大人しく頭を撫でられている。

 

「そして、ワシよりいい男を見つけろよ。なに、お前ならば引く手数多だろう」

「……難しいことを言いますね。私が手を引きたいのは先生なのに」

「ならば、向こうから手を引いてくる男でも見つければよい」

 

 スッと頭から手を離し、扉間はポンとイノリの肩を叩く。

 もう、会うことはないだろうが、それでも彼女もまた、扉間の愛しい娘であることに変わりはないのだと。

 

「イノリ」

「はい」

「……幸せになれよ」

 

 ギュッと最後に扉間に抱き着く、イノリ。

 アロナがアロナガードを使おうかと悩むが、空気を読んで不満顔で止める。

 

「ねぇ……()()()()

「どうした?」

「──大好き」

 

 恋ではなく、愛。

 それがハッキリと分かる、屈託のない笑顔。

 娘としての自分を受け入れた、お別れの笑顔。

 そんな、愛しい娘に対して、扉間は。

 

 

「──ああ、ワシもだ」

 

 

 最後にもう一度、頭を撫でてやるのだった。




次回でラストです。
会長の帰還を書いて、最後ちょろっと晄輪大祭のお話で終わり。
少し短めになるかな?

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