「それでは、今よりゲーム開発部『テイルズ・サガ・クロニクル2』作成の会議を行う」
「パチパチパチ!」
アリスの拍手により、開始の宣言がなされた神ゲー開発会議。
参加者はモモイ、ミドリ、アリス、ユズ。そして扉間である。
「あの、先生」
「どうした、ミドリ? 早速アイディアが浮かんだか?」
「いえ、そうじゃなくて……なんで――」
開幕そうそうにミドリが挙手する。
ミドリは隣に座るユズを見る。そして、次にロッカーを見つめる。
「―――先生がロッカーに入っているんですか?」
ユズの代わりに、扉間が入ったロッカーに白目を向けながら。
「ゲーム素人のワシとユズならば、ユズの方がこの場では有用。しかし、ワシが居たら人見知りのユズはロッカーから出てくることが出来ない。これでは会議が思うように進まん」
「それは、そうですけど……」
「ならばワシとユズが入れ替わり、ワシは司会に徹すれば済む話。ロッカーを挟めばユズもワシと会話できるのは実証済みだからな」
「なんでそうなるんですか?」
ロッカーの中から、淀みなく答える扉間にミドリは頭を抱える。
相手が知っている人間だからいいが、女子高生の部屋のロッカーに隠れる成人男性とか普通に事案である。
「ご、ごめんなさい…先生。私のせいで……」
「誰にでも苦手なものはある。焦ることはない。お前に克服したいという勇気があれば、いつか必ず克服することが出来るだろう」
「あ、ありがとうございます……先生」
なんかすごい良い話っぽい空気になっているが、片方はロッカー内。
現場にいるミドリからすればシュールなことこの上ない。
「わあ、先生の職業はアサシンなのですね! しゃべらないと気配が全くしません!」
「先生って何だっけ…?」
しかも、扉間の隠遁術は完璧のため、ユズよりも完璧にロッカーと一体化している。
先生って何の職業だっけと、ミドリが思うのも無理はない。
「先生! 質問!」
「どうした、モモイ?」
「
そして、今度はモモイが扉間(INロッカー)に質問する。
先に
どうやら、ロッカーに扉間が居る状況は流すことに決めたようだ。
「今日はもう遅い。行くなら明日以降だ。それと、
「でも、神ゲーの作り方を知ってから考えた方が効率が良い気が……」
楽な道を行くなと言う、扉間(INロッカー)に頬を膨らませる、モモイ。
年寄り特有の、若い頃の苦労は買ってでもしろ精神かと疑ってしまったのだ。
「……モモイ。いや、お前達全員に聞く。
それぞれが、自分が思い描く最高のゲームを頭の中に浮かべる。
「それをそのまま、自分の作品として売り出せ。そうすれば必ず神ゲーになるだろう」
「え、でも、それって盗作………」
載っているものをそのまま出せば、盗作になると言おうとしてモモイは口を閉じる。
気づいたのだ。
「そうだ。
扉間(INロッカー)のくぐもった声が静かになった部室に響き渡る。
「真似をすることが悪いわけではない。既にある術……ゲームに自分達で考えた技術を取り入れたり、変化を加えて発展させることを人は進化と呼ぶ。開発者としても、自分が開発した技術が様々な方向に発展したり、自分以上の使い手の姿を見るのは非常に喜ばしいことだ」
様々な術を創り上げて来た扉間が、過去を思い出しながら話す。
飛雷神の術を自分以上に使いこなしていたミナトを。
影分身の特性を感覚だけで理解して、チャクラの繋がりを最大限に活かしたナルトを。
「だが、ただ人の技術を盗むだけでは何も進歩はせん。何より、ゲームを愛するお前達が盗品を自分達の作品だと胸を張って言えるとも思えん。必ず、どこかで綻びが出る。ワシはお前達に、これからも自力でゲーム開発部を守っていく力を身につけさせるために来たのだ」
忍術は盗みやパクリなど当たり前だ。
しかし、それは単なる殺しの手段として使っていたから、何も思わなかっただけである。
扉間だって、本当は自分の作った術は胸を張ってワシの術だ、と言いたい。というか言った。
子ども達にもそうした、製作者としての誇りを持ってもらいたい。
「神ゲーの作り方を参考にして、お前達自身の最高のゲームを作って欲しい。そのためには、自分達が作りたいゲームという根幹が揺らいではならん。故に、先に自分達の理想を言葉という確かな形にして話し合う必要があるのだ」
「……先生」
理想を追い続けることはとても難しい。
マダラは折れた。柱間も里のためなら、兄弟すら許さないという歪みを作ってしまった。
扉間も、里のために犠牲を強いて来た過去は隠せない。
「少し話し過ぎたな。まあ、要は『まっすぐ自分の言葉は曲げるな』と言っているだけだ」
だからこそ。
扉間は子ども達に理想を失って欲しくなかった。
現実に折れて、夢を失わないように手助けがしたい。
「では、気を取り直して会議を始めるぞ。まずは新作の主人公周りを決めていくぞ」
それだけが扉間の願いだった。
「秘められた力を持ったヒロインっていいよね。でも、本人は優しくて凄い繊細な子なの」
今の会議の議題はヒロイン。
取りあえず、主人公は決まったので次はヒロインとなり、ミドリが提案する。
「大きな力を背負っているヒロイン、アリスは良いと思います!」
それに大きな声で賛同するアリス。
「いや、しかし。その力は国の禍で力を恐れられて差別されている、ヒロインだろう」
扉間は為政者としての経験から、大きな力を持つ存在がどのような扱いを受けるか冷静に告げる。
物語にリアリティをつけるには必要なことだ。
「で、でも、国の為に自分を犠牲にしている、健気な子なんだよね…? そんな子をいじめたりするかな……」
そんな可愛そうなことは、ゲームでもしたくないとプルプル震えながら話す、ユズ。
「民度を最悪にすればいいじゃん!」
名案が浮かんだとばかりに、力強く宣言する、モモイ。
「つまり、生まれたばかりの
全員の意見をまとめていく、扉間。
人柱力のことを思い出すが、流石に生まれたばかりの赤子に尾獣を封じるのは無いなと思っている。
普通に暴走の危険が高すぎる。
「えっと、じゃあ、最初は差別されて落ちこぼれているけど、成長していくとみんなから認められて英雄になるヒロインとかどう…?」
ミドリがヒロインの形を作っていく。
生まれてすぐに、大禍を封じ込められたせいで差別されるが、その後英雄になるヒロイン。
主人公かな?
「うーん……ヒロインって言うより主人公っぽくないかな」
「いっそ、ヒロインを主人公にしてみる?」
そんな考えをモモイも抱いたのか、主人公っぽいと口にする。
ミドリも同じ考えだったのか、主人公変更を考える。
「アリス、思いつきました! 主人公の中には、かつて世界を滅ぼした魔王が封じ込められている設定でいきましょう!」
「なるほど、最後には封じられた魔王と和解して力を借りるのだな?」
「光と闇が合わさり、最強に見える!」
「で、でも、それだとラスボスの魔王はどうなるの…?」
封じられている存在の力を借りて戦う。
そんな王道路線を主張するアリス。
だが、ユズがそれをやるとラスボスの配役に困ると指摘する。
「確かに……あ、でも『テイルズ・サガ・クロニクル2』なんだから、主人公の中に居るのは前作の魔王にしたら、ラスボスとキャラ被りを避けられるよ!」
それに対して、続編の利点を使って前作ボスを再利用しようと言う、ミドリ。
「おお! いいじゃん、それ! ということは、主人公は前作勇者の子供? 確か最後は王様になったはずだけど」
「え? じゃあ、王様の子供をこの国は差別してるの? 酷い……」
「待ってください。それだと、赤ん坊に魔王を封じ込めたのが前作主人公になってしまいます。アリスは知っています。勇者はそんなことしません」
「そ、そうだね。『テイルズ・サガ・クロニクル』はハッピーエンドで終わったんだから、そ、そこは変えないようにしないと」
「前作のハッピーエンドを台無しにするのは、悪い続編の特徴だもんね。私達ゲーマーが一体何度それで泣いて来たことか……」
ワイワイとあーでもないこーでもないと、意見を交わし合う子ども達をロッカーの中から見ながら扉間は考える。もう一度『廃墟』に行くとなれば、やはり戦力がいる。また、便利屋を呼んでもいいが、あちらにも仕事がある。すぐに捕まるかは分からない。そうなると、ゲーム開発部で向かうのが一番だ。
(ユズは大分、ワシにも慣れて来たな。先程まではロッカーの中でも緊張しておったが、今は緊張は見受けられん。このまま行けば、共に戦うことも出来るだろう。問題は……)
チラリとアリスを見る。
どこからどう見ても、普通の生徒だ。
しかし、記憶喪失と特異な生まれを考えれば、不安は尽きない。
確認は必要だろう。
「すまん。少し、話の腰を折るが、アリスは戦闘は出来るのか? 次に『廃墟』に行く際の参考にしたい」
「はい! アリスにはとっておきの勇者の剣『スーパーノヴァ』が……」
扉間の問いかけに元気に答えるアリスだったが、ふと何かに気づいたように動きを止める。
「アリスちゃん?」
「そうです! 勇者の剣です!」
「ど、どうしたの?」
パンと手を叩いて立ち上がる、アリス。
余程興奮しているのだろうか、そのまま走り出しそうな空気である。
「魔王は勇者に討たれた時に、最後の力を振り絞って勇者の剣に乗り移ったのです!」
「「「ッ!!」」」
「そして、勇者が魔王を討伐して数百年が経った所で力を取り戻して勇者の剣から抜け出した……というわけか」
いいアイデアが思い浮かんだことで、ニコニコと笑顔になるアリス。
どうやら、扉間の話は既に記憶の彼方に飛んで行ってしまったようだ。
「おお! これなら、前作主人公が赤ん坊に封じ込めたことにはならない!」
「それに復活までに数百年かかったなら、前作主人公の頑張りが報われなかったことにもならない」
「で、でも、討ち取ったと思った魔王が復活するのは、非難されないかな?」
「エンディング後に剣の中で前作主人公と過ごすうちに、改心していたという設定はどうですか?」
「本人は改心してるけど、魔王を恐れる民衆は疑心暗鬼で主人公に再度封印した……これなら後で主人公に協力する伏線にもなるよ!」
「うん。でも、これ本当に民度が最悪だね」
設定が固まってきた興奮から、更に議論が過熱していくゲーム開発部。
これはしばらく動きそうにない。
(全く、楽しそうに笑いおる。廃墟の話は後にするか……)
そう、心の中で呟き扉間はロッカーの中で1人苦笑いをするのだった。
今回は、便利屋は居ない。
だが、その代わりにアリスとユズが加わり、4名でのパーティーになっている。
「前方のモンスター達を殲滅します……光よ!」
そして、アリスの光の剣『スーパーノヴァ』が火を吹き、ロボット兵士を一掃する。
剣とは一体何なのだろうか?
「よし、今ので敵は片付いたね!」
「流石だね、アリスちゃん!」
「今日のアリスは光属性の全体アタッカーですので」
無数のロボット兵士を一掃したアリスに、モモイとミドリが歓声を上げ、アリスは大きく胸を張る。
「せ、先生、次はどこに向かったら」
「モモイがヴェリタスから得た情報では、工場内に
ユズの質問に扉間が指示を出し、5人は工場内へと向かっていく。
順調な滑り出し。だというのに、扉間の表情は明るいものではなかった。
(アリスのあの頑丈さは一体? 先程の銃の威力、どう考えても人の身で撃てるものではない。実弾兵器である以上は反動は相応のもののはず……キヴォトスの人間はあれを使いこなせるのか?)
気になるのはアリスの頑丈さだ。
攻撃というものは一方的に相手に押し付けられるものではない。
必ず自分の方にも反動が来る。
強力なものであればあるほど、その反動は大きくなる。
直接相手にぶつけるしかなかった時の螺旋手裏剣のようなものだ。
(もしくは、銃そのものに特殊な装置が付いている可能性はあるが……銃自体も人間用に作られているようには見えん。口寄せ動物に持たせるのが丁度いい大きさだ)
様々な可能性を考えてみるが、答えは出てこない。
「アリス。その武器はどこで手に入れた?」
「これはエンジニア部の皆さんから頂いた、アリスだけが扱える勇者の剣です!」
「アリスちゃんってああ見えて、凄い力持ちなんです。だから、普通の人は持てない銃も使えるんです」
「そうか……エンジニア部か」
スーパーノヴァはエンジニア部が作った。
その情報を聞き、扉間は後でエンジニア部から情報を得ようと決めて、工場内に入る。
「全員怪我はないな?」
「だ、大丈夫です」
「そうか。だが、まだ安心はするな。以前アリスを見つけ出した時といい、この工場には何者かの意思が存在すると見て間違いない。罠の可能性を常に意識しつつ行動しろ」
工場内に入ったことで、ロボット兵士からの追撃は無くなったがここが敵地であることには変わりない。どこに罠が潜んでいるか分からないので、扉間は子供達に釘を刺す。いざという時は、自分が囮になって逃がすことも検討しながら。
「もしも、ワシの指示を無視して、勝手な行動をするようなら……」
「す、するなら…?」
しかし、それは最後の手段。
優しい子供達が、扉間を助けると言って共倒れになる可能性もある。
なので、扉間は目に見える罰則を用意する。
「……
「イエス、サー! ミドリ! ユズ! アリス! ここは先生の指示第一で行くよ!」
「お姉ちゃん……」
ビシッと軍隊のように敬礼をするモモイに、ミドリが呆れた目線を向ける。
そこまで、ゲームの時間が減らされるのが嫌かと。
「何言ってるのさ!? ミドリだって1日1時間しかゲームが出来ないのは嫌でしょ! デイリー任務をやってるだけで終わっちゃうよ!」
「ア、アリスも毎日少ししかみんなとゲームが出来ないのは嫌です」
正直、小学生の家庭のルールみたいなものなのに、そこまで何を恐れるのかとミドリはため息をつく。
「……あ」
だが、ユズだけは扉間が提示した罰則の本当の恐ろしさに気づき、顔を青くする。
「ユズ?」
「せ、先生。ゲームに触れる時間って………
「気がついたか……」
ゲームに触れる時間が1日1時間に減らされる。
つまりは、ゲームを作る時間を手放すこと。
要するに、ゲーム開発部を廃部から救う唯一の手段を手放すことである。
「え!? せ、先生?」
「悪いが、ワシはお前達ゲーム開発部の戦闘力はそこまで信用しておらん」
扉間がズバリと告げる。
ゲーム開発部はアビドスとは違う。
アビドスはホシノやシロコが居るのもあって、かなりの
だが、ゲーム開発部は悪く言えば引き篭もり。
戦場で独断で動かすには少々不安が残る。
「先生は勘違いしています! アリス達は今まで幾度となく世界の危機を救ってきました!」
「一度もコンテニュー無しにか?」
「…!」
そんな扉間に反論しようとするアリスだったが、扉間の言葉に口をつぐむ。
現実はゲームではない。一度のゲームオーバーで終わり。
コンテニューなど出来ない。
穢土転生だって術を解けばそこで、終わりである。
「故に、安全策で行かせてもらう。お前達が軽率に命を危険に晒せば、部活の命も危険に晒されると思って挑め」
「わ、分かりました」
ユズが凄い勢いで首を縦に振る。
ゲーム開発部が無くなって一番困るのは、ユズである。
彼女は寮に帰りたくないのだ。
「……フ、少々脅しすぎたな。なに、ワシも鬼ではない。余程の行動をしなければ怒りはせん」
そんなユズの姿に、少し言い過ぎたかと思いながら扉間は工場の奥への道を確認する。
その横で。
「あ……この先に進めば……この体が反応しています」
アリスが何かに導かれるように、勝手に歩き出そうとしていた。
「ちょっと待ってよ!」
「何です?」
モモイに叫ぶように呼び止められる、アリス。
心なしか、どこかボーっとした雰囲気が漂っている。
「いや、たった今先生に言われたよね!? 勝手な行動はしたらダメって!」
「これで、アリスちゃんが酷い目にあったとなったら、先生が黙ってないよ」
「う、うん。何か気になることがあったら、すぐに先生に報告した方が賢明だよ」
モモイとミドリとユズでアリスの服を引っ張って、必死に止める。
アリスが心配なのもあるが、ゲーム開発部の命運がかかっているためその表情は本気だ。
「ハァ……この先だな? アリス」
「はい。アリスはこの先に何かがあるのを知っています。まるで、セーブデータを持っているみたいです」
言葉遣い自体は、普段のゲーム口調のようなものだ。
だが、その声色には普段の温度がない。
まるで、以前の機械に戻ってしまったかのように。
「……分かった。皆の者、アリスの示す道を行くぞ。心してかかれ」
「う、うん。行こう、みんな」
「アリス。お前は部隊の真ん中に入れ。敵の攻撃から守られるようにな」
「分かりました」
放置しておくわけにもいかない。
そう、判断した扉間はアリスを勝手に動けないようにしつつ、暗い通路を進んで行く。
「あれ? なんかコンピューターが1台ある」
「……待って、あのコンピューター電源がついてる」
「む、無人の工場なのに…?」
そして、一行はとあるコンピューターを見つける。
無人の工場には似つかわしくない。
誰かが使うために電源が入れられたコンピューターを。
[Divi:Sion Systemへ、ようこそお越しくださいました。お探しの項目を入力してください]
「何だこれは? ワシらが来る前から、電源が入っていたことといい、今の発言……この工場の案内用のAIか?」
「工場の案内用のAIなら、この工場のどこに
「もしかして、アリスはこのコンピューターを覚えているのでしょうか?」
Divi:Sion Systemを名乗る謎のコンピューターを、おっかなびっくりといった様子で覗き込む5人。今の所、不審な点はない。音声を出力するだけの存在。
「あ、先生。ここにキーボードがあります。これで、検索項目を入力出来るはずです」
アリスがキーボードを見つけて、指先でちょんとつつく。
何もボタンは押していない。
だというのに。
[―――あなたはAL-1Sですか?]
「え? いえ……アリスはアリスで」
コンピューターはアリス、否、AL-1Sの存在に気づいた。
「離れろ! アリス!!」
慌てて、アリスを自分の方に引き寄せようとする扉間だったが、重量140kgを誇るスーパーノヴァを持つアリスはビクともしない。こんな時、チャクラがあればと思わずにはいられない。
[音声を認識、資格を確認できました。おかえりなさいませ、AL-1S]
「こやつ音で…!?」
「あなたはAL-1Sのことを知っているのですか?」
その間に、アリスはどこか機械染みた表情で謎のAIに質問を行う。
[そうで――@%や&め*ろ?めろ]
だが、その答えが返ってくる前にコンピューターにノイズが走る。
今度は何だと、扉間達が身構える。
攻撃か? そんな考えが頭に過る。
しかしながら。
[緊急事態発生。電力限界に達しました。電源が落ちると同時に消失します。残り時間51秒]
「……電気が無いと何も出来んのが、機械の悲しいところか」
訪れたのは攻撃ではなく、電力の限界だった。
どれだけハイテクでも、電気というエネルギーが絶たれれば何も出来ないのがAIの辛いところである。
「ええっ!? ここまで来て消えるの! せっかく、
「お姉ちゃん! 今それどころじゃないでしょ!」
若干空気が緩んだせいか、モモイが叫び声を上げてミドリにどつかれる。
少しは空気を読めと。
[あなたが求めているのは
「え? YES」
「……モモイ」
「あ、ご、ごめん、先生。つい……」
あからさまに怪しいAIに普通に返事をするモモイに、扉間が溜息を吐く。
扉間が生前最後に戦った金閣銀閣は、特定の返事をすることで相手を封印する道具を持っていたのだ。
キヴォトスでも、似たような何かがあってもおかしくはない。
[
「え? 急に保存媒体って言われても、ゲームガールアドバンスSPのメモリーカードしかないよ」
[…………まあ、可能です]
とてつもなく嫌そうな声を出すAI。
まあ、明らかにハイテクな自分が16bitのゲームのメモリーカードに保存されるのは嫌だろう。
というか、レトロゲーのメモリーカードとか容量大丈夫なのだろうか。
「じゃ、じゃあ、ケーブルをつなぐね」
「待て」
ユズがゲームガールアドバンスSPを、コンピューターに繋ごうとするのを止める、扉間。
やっぱり、あからさまに怪しいAIの言うことは聞いたらダメだよねと、ユズは素直に引こうとする。
だが。
「保存媒体と言うなら。タブレットの中にもある。そっちはどうだ?」
[是非、そちらでお願いします]
扉間は代案を提案しただけだった。
「え? いいの、先生?」
「ここで
「それは……そうだけど」
さっきまであれだけ警戒していたのに、急にどうしたのだろうと訝しむ、ミドリ。
そんな彼女に説明することなく、扉間はユズからケーブルを
別に駄洒落ではない。
「では、
[残り31秒。お早めにお願いします]
扉間のタブレットに繋がれるコンピューター。
いつもの扉間ならウィルスとか、罠を気にしそうなのに余りにも無防備。
何を考えているのだろうと、ユズも首を捻る。
[それではデータの移行を開始します]
そして、AIはコンピューターから自らと
(―――かかったな)
ニヤリと悪人面で扉間は笑う。
「アロナ、情報を引きずり出せ」
『はい、分かりました』
[これは――ッ!?]
コンピューターとシッテムの箱が繋がったことで行われる、ハッキング。
キヴォトスにおいて、アロナを上回るAIは存在しないと扉間は認識している。
万全の状態ならともかく、消失寸前だったAI相手では勝ち目がない。
故に罠であれば、踏みつぶして情報を奪い取ってしまおうと考えたのだ。
罠を仕掛ける相手にとって、最も嫌なのは正面から殴り倒されることなのだから。
「アロナ…? 先生、誰と話してるの?」
『あ、
「後で説明する。モモイ、一先ず
「パンパカパーン! アリス達は
「浮かれるでない。まだ敵地だ。任務とは生きて帰るまでが任務。喜ぶのは後だ」
はしゃぐアリスを嗜めつつ、扉間は考える。
罠かと思ったが、どうやら本当に移行したかったようだ。
まあ、誤解だとしても謝る気など欠片もないが。
『せ、先生大変です! こっちを見てください!』
「どうした、アロナ!?」
アロナの慌てたような声に、扉間は思考を止める。
まさか、アロナが逆にやられたのか?
そんな一抹の不安を抱きつつ、扉間はシッテムの箱の画面を見る。
すると、そこには――
『―――アリスさんが居ます!』
アロナの横で眠る、アリスと瓜二つの少女が映っていたのだった。
モモイのセーブデータ「助かった」
今のケイは16bitのゲームのメモリーカードに収まるんだから、シッテムの箱なら余裕だよね。
プラナも一緒に居られるんだし、ちょっとアロナとルームシェアするぐらい平気平気。
感想・評価お願いします。