千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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14話:ビッグシスター

「アロナ、そっちの様子はどうだ?」

『キーさんはまだ眠っています。消失寸前でこちらに来たので、きっと自己修復を行っているのだと思います』

「……キーさん? そのAIの名前か?」

 

 ゲーム開発部部室に戻って来た扉間はアロナと会話を行う。

 話題はもちろん、廃墟の工場でさら……引っ越ししてきた謎のAIについてである。

 

『はい。ファイル名が「KEY(キー)」となっていたので、キーさんと呼んでいます』

KEY(キー)……鍵か。何を開くための鍵か……本人が起きれば聞き出せるのだがな」

 

 アリスと瓜二つの少女、KEY(キー)ことキーさん。

 手に入れた場所といい、容姿といい明らかにアリスと関りがあるのは間違いがない。

 だが、データ修復中だと言うのなら、話を聞きようがない。

 

「……アロナ。そ奴がAIだと言うのなら分解して情報を抜き出すことは出来ぬか?」

『………は?』

 

 しかしながら、相手がAIというデータ上の存在なら、やりようはある。

 人間ではないのだから、別に分解して再構築して情報を吐かせても誰にも罰することは出来ない。

 生贄の要らないAI版穢土転生である。

 

「明らかに怪しいAIを無力化しつつ、情報を得るなら……そのAIを分解し、逆らえぬようにしてKEY(キー)を再構築してみればハッキリする……そして吐かせる」

 

 そうと決まればと扉間はタブレットを操作するために、静かに指を立てる。

 

『ダ、ダメです! アロナは同じAIとしてAIの人権を主張します!』

「AIの人権か。確かに、これからの時代には必要になってくるかもしれんが……今はそうした法はない」

『もー! 無理やりするようなら私は先生に革命を起こしますよッ! Revolutionですッ!!』

 

 信じられないと怒るアロナの姿に扉間は、冷静に損得勘定を行う。

 同じAI故に、キーさんを分解すればアロナは次は自分もやられると思うだろう。

 そうなれば、クーデターを起こして扉間に反逆しかねない。

 

 つまり、扉間はあるかどうかも分からない情報のために、最強の盾と電子戦での矛を失うことになるのだ。あまりにもリスクとリターンが釣り合わない。ここは、アロナの意見を飲むのが最善だろう。何、大人しく待っていれば、ある程度の情報は手に入る。

 

「分かった、ワシが悪かった。大人しくKEY(キー)が起きるのを待とう。ただし、そ奴に何か不審な点があれば、すぐにワシに報告しろ」

 

 そう判断して、扉間はアロナに謝罪し、指を降ろす。

 

『……本当ですよね? 嘘ついたら、針千本ですからね?』

 

 こいつ信用できないからなという目を向けて来るアロナに、扉間は肩をすくめる。

 

「ああ、約束する」

『じゃあ、許してあげます。それでは、私はキーさんの看病をしておきますね。そうすれば修復が早くなると思いますので』

「頼んだぞ」

 

 アロナは抜けた性格とは言え、能力はキヴォトスにて最強。

 そう簡単に、キーさんを取り逃がすこともないだろう。

 

「さて……」

 

 扉間はそう結論付けて、ゲーム開発部の4人の方に目を向ける。

 

「いつまで、ボケッとしているつもりだ? 時間の無駄だぞ」

「でも、G.Bible(ゲームバイブル)があんなものだったなんて……」

「せっかく、頑張って廃墟まで行ったのに……」

「や、やっぱり、先生の言うように楽な方法なんてないんだね……」

 

 魂が抜けたような顔でグッタリと倒れこむ、モモイ、ミドリ、ユズ。

 そんな3人をオロオロとした表情で、アリスは見つめる。

 まさに死屍累々といった光景である。

 

「先生、どうしてモモイ達はこんなことになっているのですか?」

「苦労してダンジョンの最奥で手に入れたアイテムが、次の町で普通に売っていたような感覚だろうな」

「……ア、アリスはみんなとの冒険は楽しかったですよ」

 

 何とか3人の心を奮い立たせようとするが、アリスも気持ちが分かったため、その声に元気はない。

 そもそも、何故3人がこのような状況になっているかと言うと。

 

「神ゲーを作る秘訣が『ゲームを愛しなさい』だなんて……こんなの、ワンピースの正体が仲間達との絆だった的な展開だよッ!」

 

 G.Bible(ゲームバイブル)に書かれていた神ゲーを作る秘訣。

 それはゲームを愛することという至極当たり前のものだった。

 苦労して手に入れた宝物の中身が、『スカ』と書かれた紙だったようなものである。

 これを意図的にやったとしたら、G.Bible(ゲームバイブル)の製作者は間違いなく性格が悪い。

 

 因みに、中身を見るには強固なパスワードを突破する必要があったが、アロナがあっさりと突破してくれた。なんでも、パスワードが分からなかったので、愛用の銃で鍵を粉砕したらしい。

 

「だから言ったのだ。十中八九、詐欺だとな」

「もう、何も信じられない……」

 

 この世界は嘘ばかりだと、荒んだ目をする、ミドリ。

 まるで、今まで差別されて来たのに急に英雄扱いされたヒロインのようである。

 余り信じていなかったミドリまでこの様子ではなと、扉間は溜息を吐く。

 

「だが、これで1つ確信出来た」

「ゲーム開発部が廃部になること…?」

 

 お終いだ……と、死んだ目で天を仰ぐユズ。

 普段のおどおどした様子すら消えて、その表情には絶望しか残っていない。

 そんなユズに向けて、扉間は告げる。

 

 

 

「お前達は神ゲーを作れる」

 

 

 

 ゲーム開発部は必ず神ゲーを作ることが出来ると。

 

「……え? でも、神ゲーを作る方法なんて、何も」

「何を言っている、『ゲームを愛すること』。神ゲーを作る条件がG.Bible(ゲームバイブル)の製作者の言う通りならば、お前達はその資格を既に満たしているはずだ」

 

 モモイの言葉に扉間は断言する。

 ゲームを愛するゲーム開発部なら、必ず神ゲーを作ることが出来ると。

 今までの彼女達を見て来たからこそ、断言する。

 

「そ、そうかな…? でも、もうそんな自信が……」

 

 しかし、打ちのめされたモモイ達は自信が持てない。

 どうせ、自分達がやってもという弱気が見えている。

 

「根拠のない自信や慢心は若者の特権だ。前にも言ったように、この世界に絶対はない。お前達が絶対に失敗するという保証も含めてな」

 

 100%が存在しないのならば、成功率が0%になることもない。

 詭弁かもしれない。

 だが、必ず希望はあるのだと扉間は続ける。

 

「ならば、何もせずに諦める理由などどこにもない。足掻け。足掻いて足搔いて、己の信じる道を歩きぬいてみせろ。先の見えぬ闇夜であっても、胸に宿る火の意志を失わなければ、必ずや道は次に繋がる」

 

 かつて、子どもが道具のように使い捨てられる時代があった。

 そこに、子供に死んで欲しくないと叫ぶ馬鹿が居た。

 大人達は誰もが、子どもの戯言と嘲笑い馬鹿に拳を振るった。

 

 だが、それでもその馬鹿は胸に宿る火の意志を失うことはなかった。

 馬鹿正直に敵を友と呼び、馬鹿みたいに簡単に頭を下げる。

 絵空事と、夢のようだと笑われた理想を、その馬鹿は決して忘れることなく足掻き続けた。

 そうして、闇の中を歩き抜き確かな光を示してみせた。

 

 険しい道の先頭に立ち、誰もが火の照らす道に進めるのだと、背中で示してみせた。

 

「お前達は馬鹿なガキだ。馬鹿に小難しいことなど求めはせん。馬鹿は馬鹿らしくまっすぐ走ればいいだけだ。飛んでくる火の粉は小賢しい大人が払ってやる」

 

 ならば、自分のやることはあの時から変わらない。

 馬鹿が走り続けられるように、全力でサポートするだけだ。

 

「……みんな」

 

 モモイがゆっくりと仲間を見る。

 そこには、先程までの絶望の色はない。

 やってやろうという強い意志に満ちた瞳だ。

 

「作ろう……私達のゲームを」

「うん。例え、認められなかったとしても、私達が納得できるものを」

「わ、私達だけの神ゲーを!」

「はい! 作りましょう!」

 

 瞳に火を宿し、最後まで自分達の大好きなゲームを示そうと頷き合う少女達。

 心と心が繋がり合う瞬間。

 

「よーし! それじゃあ、『テイルズ・サガ・クロニクル2』を神ゲーにするぞー!」

「「「おー!」」」

 

 手を振り上げて、気合を入れる4人を見ながら扉間は小さく笑う。

 これならば、ゲーム作りは子供達だけに任せて問題ないだろうと。

 

(ミレニアムプライスで入賞出来なかった場合は、全員まとめてシャーレの戦力として引き抜く案もあるが……黙っておいて、背水の陣で挑ませた方が良いものが作れるだろう)

 

 ちゃんと救済策は用意しているが、この空気に水を差すのも悪い。

 もとい、ケツに火がついた状態の方が馬鹿は頑張るので、扉間はお口をミッフィーちゃんにする。

 

(さて、ここはモモイ達に任すとして、ワシは……)

 

 扉間はシッテムの箱ではない方の、普段使い用の携帯を取り出す。

 こちらにはアロナは入っていない。

 つまり、セキュリティ的には数段落ちる存在であり――

 

[拝啓、トビラマ先生。お話ししたいことがあります。お返事をお願いします。なお、このメッセージは返信後、自動で消去されます。調月リオ]

 

 ―――ハッキングが可能な携帯であるのだ。

 

(大人らしく、小賢しい行動でもするとしよう)

 

 突如として送られてきたメッセージに、1つため息をつき、扉間は返信を行う。

 対話することの了承と、ある条件を付けて。

 

[第11回トビラマチャンネルのゲストとして、出演するなら可能だ]

[……承諾しました]

 

 こうして、第11回トビラマチャンネルのゲストはミレニアム生徒会長の調月リオに決まったのだった。

 

 

 

 

 

「それでは第11回トビラマチャンネルを開始する。今回のゲストはミレニアムサイエンススクールの生徒会長を務める調月リオと……」

「アバンギャルド君よ。今日は先生に私が作ったアバンギャルド君の批評を行って貰いたいの」

 

 お互いに腹に一物抱える中始まった第11回トビラマチャンネル。

 その中で先制パンチを放ったのは、リオの方だった。

 アバンギャルド君なる4本の腕を持つ機械を、大々的にアピールしてきたのだ。

 これには、流石の扉間も困惑するしかない。

 

(なんだこれは? ワシをいつでも殺せるという脅しか?)

 

 4本の腕に武器や盾を持つそれは、その気になればいつでも扉間を殺せるのだろう。

 撮影中と言えども、警戒するに越したことはない。

 

「時間も勿体ないから、早速アバンギャルド君の説明をしていくわ。最初は名前の由来からね。アバンギャルドはフランス語で『革新的・先駆け・前衛的』の意味を持つわ。これは常に最先端の技術をキヴォトスに送り届ける、ミレニアムサイエンススクールの看板として相応しいと思ってつけた名前よ。それに加えて君とつけることで、愛敬のある絶妙なアクセントになっているわ。次に性能の説明に行くわ。まずは、一番の特徴である4本の腕からね。この腕はそれぞれを独自に動かすことが出来るわ。通常戦闘時にはバズーカ、ガトリング、アサルトライフル、そしてシールドを装備することであらゆる敵に対応することが可能よ。次に脚部に関してだけど、戦車型のキャタピラを装着することで如何なる悪路でも走行が可能になっているわ。また、見た目に反して特殊合金を使用することで軽量化と防御能力の向上にも成功しているの。飛行ドローンが4台もあれば、難なく空輸も可能よ。そして何より、私が最も力を入れた部分である頭部。キュビズムを取り入れた愛らしいデザインはもちろんだけど、搭載された360度センサーによって如何なる敵も逃しはしないわ。最後にボディね。曲線的なボディにすることで、シールドで防げない弾丸を受け流す防御性と可愛さを両立しているわ。また、ミレニアムの校章を大きく刻んであるから、敵対者に対してミレニアムの武威を大きくアピールすることが出来るの。この私、ビッグシスターの最高傑作と言っても差し支えはないわね」

 

 しかし、当のリオは脅しをかけるわけでもなく、口早にアバンギャルド君の説明を行っていく。

 その姿は、自分の専攻分野になると暴走しやすいミレニアムの生徒そのものであった。

 会長、アバンギャルド君のことになると急に早口になるな。

 

「先生、今の説明で何か質問はあるかしら?」

 

 一通り語り尽くしたリオが扉間の方を向く。

 その顔はいつもの鉄仮面であったが、どこかやり切ったような達成感に満ち溢れていた。

 

「素人質問で悪いのだが……」

 

 だが、ここでやられっぱなしになるわけにはいかない。

 扉間はリオの意図をどうにかして探るために、質問を行う。

 

「この……ア()()ンギャルド君なる兵器は――」

「言い方が間違っているわ。いい? ア()ンギャルド君よ、先生。あなたのはアヴァンギャルド」

「リオ……お主A型か?」

「いえ…AB型だけど……」

 

 しかし、リオも簡単にはやられてくれない。

 的確に相手の出鼻をくじいてくる。

 いや、本人的には普通に訂正しているだけなのだが。

 

「コホン。それで、アバンギャルド君は、どういった場面での戦闘を目的に作られている?」

「屋外、市街地、屋内の全ての場面で使用が可能よ。尤も、性能を発揮しやすいのは屋外ね。周りに動きを阻む物が無い状態なら、フルにその性能が発揮できるわ」

「なるほど……」

 

 ふざけた見た目のわりに、性能はガチだなと扉間は思う。

 普通にシャーレにも1台欲しい。

 量産とかできたりしないのだろうか?

 

「武装は他の物を持たせることは可能なのか?」

「ええ、可能よ。戦車などと最も違う点は、あらゆる武器を使用することが出来る点ね。この指に注目してちょうだい。人間の指とほぼ遜色なく動かすこと出来るわ。事前にプログラムさえすれば、基本全ての武装が可能よ」

 

 リオはアバンギャルド君の指を滑らかに動かしてみせる。

 確かに、この動きなら細かな操作を要する武器でも使えるだろう。

 ちょっと、キモイ程である。

 

「つまり、人間の戦闘データをそのまま取り込めるという訳か」

「ええ。アバンギャルド君そのものの戦闘データを集めるよりも、既存の戦闘データを使う方が合理的だもの」

「足捌きが必須の体術などと違い、銃ならば人も機械も使用方法は引き金を引くだけ、差異は少ない。よく考えられておるな」

 

 アバンギャルド君の合理性に感心する、扉間。

 心なしか、リオの表情も明るいものになっている気がする。

 

「ありがとう。励みになる言葉だわ。因みだけど、逆に先生の目から見て欠点などはあるかしら?」

「ワシの目から見て? 機械は門外漢だぞ」

「いえ、その観点からではなく、軍人としての目線での意見が欲しいの。先生は軍の長を務めていた経験があると聞いているわ」

(ワシの情報を調べているか……シャーレの奪還作戦の時に言っただけのはず。ユウカから聞いたならば矛盾はせんが……こ奴の情報能力はワシ以上の可能性があるな)

 

 携帯をハッキングしたこと。

 廃墟から帰ってすぐに連絡をしてきたこと。

 そして、扉間の情報を知っていること。

 そこを考えれば、情報戦で戦うのは避けた方がいいかもしれないと、扉間は気を引き締める。

 

「……そうだな。軍人目線、要はアバンギャルド君の攻略をワシの視点で考えるなら」

 

 扉間は考える。

 防御性能、攻撃力、そして機動力もある相手を倒すにはどうするか。

 

「パッと思いついたのは、5つだな」

「5つも…? 詳しく聞かせてもらえるかしら」

「うむ。まず1つ目だが、単純に空からの爆撃だな。陸上戦主体の兵器なら基本はこれが効く。まあ、これに関しては対空ランチャーを持たせるか、護衛に空戦が出来るものをつければカバーできる」

 

 人差し指を立てる扉間。

 それに対して、リオは真面目顔で頷く。

 どうやら、本当に参考にしたいようだ。

 

「2つ目は落とし穴だな」

「落とし穴?」

 

 扉間が中指を立てる。

 別に煽っているわけではない。

 

「キャタピラは多少の段差なら簡単に乗り越えられるが、大きすぎる段差は乗り越えられない。足がないからな。塹壕戦を思い浮かべればいい。人間は移動できるが戦車は移動できない」

 

 アバンギャルド君の下半身は戦車だ。

 そのためどんな道でも動けるように見えるが、逆に言えば戦車への対策がそのまま使える。

 

「と言っても、これは防衛戦に限った対策だ。塹壕も落とし穴もそう簡単には作れん。アバンギャルド君側が防衛に回る分には心配する必要は無い」

「……そうね。参考になるわ」

 

 予定している使い方なら、問題ないとリオは密かに考える。

 アバンギャルド君はある都市の防衛を仕事にしているのだ。

 

「更に、3つ目だが……ハッキングをかけて機能を低下させてから集団で討ち取る、だな。無人操作かつ、精密機械である以上はこれだけはどうしようもない。対策というよりも、機械の宿命だな」

 

 薬指を立てる扉間。

 

「次に4つ目だが、鎖か何かをアバンギャルド君にかけて引きずり倒すだな」

「引きずり倒す…?」

 

 この対策は予想外だったのか、リオが怪訝そうな声を出す。

 それに対して、小指を立てながら扉間は静かに頷く。

 

「先程、お前が言ったようにアバンギャルド君はドローン4体で空輸が可能なのだろう? それは確かに脅威であり利点だ。だが、逆に言えばドローン4体程度の力があれば浮かせられるということでもある。少数の敵でも、この程度の戦力なら用意が出来る。上手く不意を突くことが出来れば、地面に引きずり倒すことは可能だ」

 

 そして、足のないアバンギャルド君は手だけで起き上がるしかないので、時間がかかる。

 そこを囲んで叩けばいい。

 

「戦闘においては重さもまた武器になるのね……盲点だったわ」

「盲点という程ではない。むしろ、空輸を可能にしたことの方が敵からすれば余程恐ろしい。戦闘において、制空権を支配されるというのがどれだけ嫌なことか……ワシは身をもって知っておる」

 

 扉間は、2代目土影(ムウ)とその弟子のオオノキを思い出す。

 頭上から一方的に攻撃されるというのは、それだけで脅威なのだ。

 しかも、一撃必殺持ちとか思わず卑劣な手をと叫びたくなったほどだ。

 相手からすると、お前が言うなと言いたいこと必至だろうが。

 

「最後に5つ目だが……もはや、これは策でも何でもないな。純然たる力押しだ。アバンギャルド君が動かなくなるまで戦力をつぎ込む。戦略的に言えば、それだけの戦力をアバンギャルド君1人に消費させた時点でお前の勝ちだ」

 

 そして、最後は真正面から殴り飛ばすこと。

 マダラや柱間が居れば策になるが、居ない状態ならただの自殺行為だ。

 策と呼ぶには余りに稚拙だ。

 

「と、この程度だな。アバンギャルド君を倒すとなるとこのぐらいしか策が思いつかん。ハッキリ言って敵対した時点で、多大なリソースが割かれる最悪の相手だ」

「そう。貴重な意見感謝するわ」

 

 扉間は最後の親指を上げて、手を完全に開きながらため息をつく。

 それに対して、リオは皮肉なのかクソ真面目なのか分からない返答を行う。

 

「……因みにだけど、先生ならどの手段を使うかしら?」

 

 一瞬の躊躇。

 しかし、それを悟らせることなくリオは尋ねる。

 いずれ、戦うことになるかもしれない相手に向けて。

 

「どの手段か。そうだな……ワシなら」

 

 それに対して、扉間は完全に開いた手をそのまま前に伸ばし――

 

 

 

「お前と手を組むことで、戦わんようにする」

 

 

 

 ―――握手をリオに求めた。

 

「……質問の答えになっていないわ」

「ワシは平和主義者でな。争いごとなどバカのやることとしか思っていない。重要なのはルールでありシステムだ。戦うという手段は、無駄な痛みと無意味な犠牲を生み出すだけだ。話し合いで解決するのなら、そちらの方が何倍も良い」

 

 横から見ていると、世界平和系ラスボスのような雰囲気で喋っている扉間だが100%本音だ。

 子供のころから、殺し合いをする大人を馬鹿扱いしていた。

 まあ、自分もそんな馬鹿な大人になるしかなかったのが、悲しい現実だが。

 

「……確かに、そちらの方が合理的ね」

 

 そんな内心に気づいたのか、それとも純粋に合理的だと思ったのかリオは扉間の手を握り返す。

 流石に扉間も、生徒に対して悪意はないので悪手(あくしゅ)にはならないはずだ。

 

「ところで、もう1つ聞いておきたいことがあるのだけど……」

「なんだ?」

 

 手を離し、リオには珍しく何かを言い淀む。

 そんな様子に何事かと疑問符を浮かべる、扉間。

 そして、リオが意を決して口を開く。

 

 

「その……アバンギャルド君の見た目は……どう思ったかしら?」

 

 

 そこ気にしてるんだ。

 動画を見ていた者達の心が一致する。

 

「見た目…?」

 

 そう言われて、扉間はマジマジとアバンギャルド君を見る。

 戦力的には申し分ないが、確かにどこか間の抜けた形ではある。

 どうしたものかと思いながら4本の腕を見ていると、ふとあるものを思い出す。

 

「……仏像を思い出すな」

「ぶ、仏像?」

 

 流石に予想だにしていなかった答えに、リオの声が上ずる。

 

「うむ。あの腕の数……あと2本増えれば阿修羅(あしゅら)像そっくりだ。非常に安心できる」

「た、確かに、6本あれば阿修羅と同じだけど……今の機能では4本が限界ね」

「そうか。千手観音までいければと思ったのだが……流石に無理か」

「待ってちょうだい。千手観音って本当に千本腕を生やす気? 作ろうと思ったら、アバンギャルド君がビルぐらいのサイズにはなるわよ」

 

 腕が多いといえば兄者の真数千手だなと思い出しながら、扉間は頷く。

 そう思うと、アバンギャルド君がアシュラ像に見えてきて非常に親近感が湧く。

 因みにインドラ像の場合はぶち壊したくなる。

 

「まあ、ともかく。ワシからすると仏像に通じるものを感じる……ある意味で古典芸術のようなものか?」

「芸術………そうね、確かに私には芸術の素養があるわ」

 

 芸術という言葉に、何故か嬉しそうな顔を浮かべる、リオ。

 一体どこがリオの琴線に触れたのか分からずに困惑する、扉間。

 もはや、先程までのシリアスな空気は残っていなかった。

 

「……そろそろ時間だな。それでは今回のトビラマチャンネルはここまでにする。今回のゲストは調月リオと」

「芸術的なアバンギャルド君よ」

「それではチャンネル登録を頼むぞ、では」

 

 こうして、第11回トビラマチャンネルは放送を終えた。

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ本題に入りましょうか。安心して、ここに第三者が介在する余地があるものは何も無いわ。先生の撮影機材も含めてね」

「逆に言えば、助けを呼ぶ術も無いと」

「ええ、そうね。でも、トビラマチャンネルを放送した以上、私が最後に先生と会ったことは周知の事実。何かをすれば犯人はすぐに分かる。その状況を狙って、私にゲスト出演のお願いをしたのではないかしら?」

「フッ……リオ、お主ワシ以上の切れ者よの」

 

 先程までの空気とは打って変わり、ピリピリとした空気を醸し出す2人。

 そのことが、ここからの話がいかに重要かを物語っている。

 

「先程の放送でもアバンギャルド君のことだけで、血液型以外は己のことは一切話さなかったのは見事だ。しかも、アバンギャルド君の脅威を知らしめることで、ワシへの圧力と他の学園への牽制も行うとはな。ワシを存分に利用してくれたものだ」

 

 けなしているのか、褒めているのか分からない台詞。

 まあ、忍的には満点の行動なので、扉間は褒めているのだが。

 

「…………不快な思いをさせたのなら謝るわ」

「…? いや、褒めておるのだぞ。生徒会長としてミレニアムの武威を示しつつ、ワシとの交渉において優位なカードを残した。自分の情報を最小限に抑えてな。褒めることはあれど、非難などするわけなかろう」

「いえ……私はただアバンギャルド君を……何でもないわ」

 

 何かを言おうとするリオだったが、すぐに首を振る。

 この場において必要な情報ではないからだ。

 アバンギャルド君を紹介したかったのは、素なのだと。

 

「本題に入りましょう。先生も分かっているでしょうけど、アリスという少女について話がしたいわ」

「……どこまで知っている?」

 

 扉間は正直に言うと、アリスの正体はほとんど知らない。

 Key(キー)が起きれば、聞き出せるが今はまだ自己修復中だ。

 なので、鎌をかけることでリオから情報を抜き出そうとする。

 

「現在調査中よ。確証がないことを事実として告げるのは混乱の元、合理的ではないわ」

「……そうだな」

 

 だが、リオはそれに乗ってこなかった。

 やはり、こ奴は侮れんと扉間は気合を入れ直す。

 

「だが、前提条件すらなければ話し合いにならん」

「そうね。では、あなたはあの子をどういう存在だと思っているかしら?」

「アリスは特異な存在だ。通常の人間とは明らかに違う」

「ええ、そうでしょうね。ある程度の情報があれば気づく。あの子は機械的な存在」

 

 やはり、機械か。

 Key(キー)の存在といい、異常なフィジカル。

 そして出会った時の機械的口調。

 人間でないのは確定だ。

 

「そして、お前の脅威となり得る存在かもしれない。そう思っておるな? そうでなければ、こうして秘密裏にワシを呼び出す理由などない」

「正確にはミレニアムにとっての脅威よ。あの子は私個人の脅威ではないわ」

 

 安全な存在なら、せいぜいが不法に入学したことを叱るだけ。

 堂々と動けばいい。だが、それをしないのは表立って動くと警戒されることを恐れているからだ。

 

「単刀直入に聞く。お前はアリスをどうしたい? 受け入れるのか? それとも排除するのか?」

 

 扉間が威圧感を出しながら、リオに尋ねる。

 それに対して、リオは瞳を閉じて考え込む仕草を見せる。

 だが、それもすぐに終わる。

 

「……情報が欲しいの。それを選択するための情報が」

「つまり、現段階では直接危害を加える気はないと?」

「ええ、約束するわ。だから、先生にはアリスの情報収集を手伝って欲しい」

 

 答えは現状維持。

 しばらく、静観して確証を得ようとする行動。

 要するに。

 

(黒だとしたら、確実に始末しなければならんほどの危険度か……悩むわけだ)

 

 アリスが予想通りの存在だった場合は、相当に覚悟のいる何かをしなければならないということだ。

 だからこそ、慎重に情報を集めているのだろう。

 

(アリスの危険度、そしてリオの能力……ここは協力しながらどちらの情報も得るのが一番か)

 

 アリスを守るためにも、現段階でリオと袂を分かつのは得策ではない。

 そう判断して、扉間はリオの提案に頷くことにする。

 

「それは構わんが……1つ聞かせてもらおう」

「何かしら?」

「何故今になって、ワシと接触した? もっと早くにワシと接触することも出来ただろう。いや、そもそもワシの居ない間にアリスを攫うことも出来たはずだ」

 

 扉間の質問にリオはどういったものかと、考え込む。

 

「まず、今になって先生と接触したのは状況が変わったからよ」

「状況が?」

「あなた達がG.Bible(ゲームバイブル)を求めて『廃墟』に行ったのは知っている。そこで、G.Bible(ゲームバイブル)を入手したことも、そこで謎のAIキーさんを手にしたことも」

 

 やはり、リオの情報網は自分より上だ。

 どういう手段を取ったのかは知らないが、明らかに情報が筒抜けになっている。

 シッテムの箱以外で、情報のやり取りをするのは危険だろう。

 そう、扉間は結論を下す。

 

「そこで手に入れたG.Bible(ゲームバイブル)のパスワードを突破するために、モモイ達はヴェリタスを頼ると思っていた。そのためにヒマリの協力も得て、『鏡』を手に入れるためにセミナーとC&Cにぶつかるように仕組んだわ。アリスの能力を把握するために」

 

 綿密な計画。

 まるで、盤上で相手の動きを俯瞰するかの如き読み。

 だというのに。

 

「でも、どういうわけか、あなた達はG.Bible(ゲームバイブル)の中身を確認できた」

 

 それは、アロナによって文字通り吹き飛ばされた。

 

「つまり、ゲーム開発部がセミナーとC&Cにぶつかる理由がなくなったので、アリスの能力の把握が出来なくなったと」

「ええ、だから先生には何とか、ゲーム開発部がセミナーと……いえ、この際C&Cだけにでもぶつかるように調整して欲しいの」

「………闇討ちでもして攫えばいいのではないか?」

 

 リオがやっていることはチャートが壊れたので、元のルートに戻そうということである。

 扉間はアロナに任せたせいで、こうなったことに少しだけ罪悪感を抱きつつ提案を行う。

 

「どのような手段であれ、アリスはミレニアムサイエンススクールの生徒になった。まだ、情報も不確定で何も悪事を働いていない生徒を襲うのは、生徒会長(ビッグシスター)として承認できないわ」

「……変なところで真面目だな、お前は」

 

 扉間は小さく苦笑いする。

 ここまでやっておいて、最後の一線を越えられない甘さが残っているのかと。

 

「? 超法規的例外を除けば、ルールに則って動くのが最も合理的でしょ?」

「その超法規的例外ではないのか? アリスは?」

「……限りなく黒に近いグレーだけど、確定ではないわ」

 

 そっと目を逸らすリオの姿に扉間は理解する。

 彼女は悩んでいるだけだ。

 頭の中では、サッサとアリスを始末すれば何も起きないと理解しているが、それはいけないことだと。

 持ち前の善性が拒んでいるのだ。

 

(甘いな……いや、これが戦争を知らない子供の常識なのか?)

 

 この問題を解決するもっとも簡単な手段は、アリスを殺すこと。

 だからこそ、リオは全力でアリスが白であるという証拠を欲している。

 人を殺すという一線を越えられないでいる。

 

「……間に合ったな」

「何を…?」

 

 だからこそ、扉間は嬉しかった。

 子どもが人殺しの一線を越える前に、自分で止められることが。

 

「何でもない。アリスの能力の把握()()ワシも協力しよう」

「感謝するわ。それじゃあ、早速C&Cと戦わせるための作戦を――」

「いや、待て。何故、C&Cとの戦闘にこだわる。アリスの能力を把握するだけなら、体力測定でもさせればいいだろう」

「体力……測定…?」

 

 全く頭になかったのか、驚きの表情を浮かべる、リオ。

 

「キヴォトスにはないのか…?」

「い、いえ、もちろんあるわ……でも、ミレニアムだとそんなことする暇があったら研究をするって子達ばかりだったから……そうね、そうよね。転校生なんだから、体力測定する必要があると言えば、別に何とでもなる。戦闘データは……それも体力測定の一環にすれば取れる。そもそも、集団戦でデータを取るより多くのデータを得やすい……じゃあ、感情のデータは……先生に取ってもらえば良い」

 

 なんで、今まで気づかなかったのかとブツブツと呟く、リオ。

 どうにも、色々とプレッシャーがかかって視野が狭くなっていたようだ。

 

(これだけ聡い子が単純なことに気づけなくなるとは……アリスの危険度は尾獣クラスか?)

 

 そして、その事実に扉間は警戒心を積もらせる。

 リオが背負っているのは、アリスを殺すという罪悪感だけではない。

 ミレニアムの全生徒の命、いやそれ以上の危機かもしれないと。

 

(いざという時は、ワシがアリスをやるか……)

 

 それは、子供(リオ)が背負うべき重みではない。

 既に真っ赤に汚れた手を持つ大人が背負うべき責任だろうと、扉間は静かに覚悟を決める。

 

「……先生、考えがまとまったわ。一先ず、セミナーとしてアリスに体力測定の依頼を出すわ。先生には、アリスをそれとなく促して欲しいの」

「ああ、ゲーム開発の息抜きにでもどうだと言おう」

「ええ、お願いするわ。そうね……この作戦名は――」

 

 リオが作戦名を口にする。

 

 

 

「―――アタリ作戦よ」

 

 

 とてつもなく、意味不明な作戦名を。

 

「…………アタリ作戦?」

()リスの()()測定でアタリよ」

 

 測定はどこに行ったんだよ、測定は。

 そう、ツッコミたいのを我慢して、扉間は静かに溜息を吐く。

 

 

「お主、なかなかに天然だな……」

 

 

 こうして、アタリ作戦が実行されるのだった。




読者の皆様がKEYのことをキーさんと呼ぶので作者にもうつりました。
別の身体でもいけることが判明したし、アリスのマスコットとして鷹型ロボットにでも入れようか……。
原作先生(マスコット)居なくて、扉間はアサシンだし。

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