千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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15話:アタリ作戦

 

「光よ!」

「ソ、ソフトボールがビームみたいに……」

「なるほど、これがレイザービームというものか」

 

 アタリ作戦実行日。

 より良いアイディアを出すには、体を動かすことも必要と言われたアリスは、ユウカと扉間の監修の下、元気に体力測定を行っていた。

 

「あ!? ご、ごめんなさい、ユウカ。握力計を壊してしまいました」

「だ、大丈夫よ。待ってて、確かエンジニア部が作ったゴリラでも使える握力計があったはずだから」

「ア、アリスはゴリラじゃないです! 勇者です」

 

 ソフトボールを投げれば光となり、握力計は燃えないゴミと化す。

 

「どうですか先生? アリス、分身の術が使えていますか?」

「反復横跳びの残像だけで、分身を作るとはな。やるではないか、アリス」

「え、えっと、どうやって計測したら」

 

 反復横跳びは残像で分身を作るに至る。

 

「47…48…49…」

「49.5、49.55、1、2、アリスさん頑張ってください。トレーニングは限界を超えてからが本番です」

「なんでスミレが居るの!? というか、これは測定であってトレーニングじゃないんだから、変な数え方しないでよ!」

 

 上体起こしをすれば、新記録を叩き出しつつ、どこからか現れたトレーニング部のスミレが記録を無視してそのまま限界まで挑戦を始めたり。

 

「アリス、一度休憩だ。10分後に戦闘テストを行う故、それまでに息を整えておけ」

「分かりました! ボス戦ですね、しっかりとセーブをしておきます」

 

 そんな脅威の身体能力を見せつけた、アリスの体力測定もついにラスト。

 扉間から渡されたスポーツドリンクで、喉を潤すアリス。

 その姿はどこをどう見ても、ただの美少女だ。

 しかしながら。

 

「……その…先生。少しいいですか?」

「どうした、ユウカ?」

「アリスちゃんの記録なんですけど……どれも新記録です」

 

 アリスが叩き出した記録は、どれ一つとってもただの美少女と呼べるものではなかった。

 

「そうか」

「転校生らしいですけど、これだけの数値を出せるならもっと有名でないとおかしいですよ」

 

 ユウカがアリスには聞こえないように声を殺しながら、扉間に話しかけて来る。

 これだけの身体能力。もとい、戦闘能力を持つのに今まで無名だったのはおかしいとユウカは言う。

 キヴォトスは暴力が支配する世界。

 実力者は当たり前だが、他校の生徒会からは目をつけられる。

 

「なに、在野の賢人というものは意外と存在するものだ。ユウカ、お前は小鳥遊ホシノは知っているか?」

「いえ……」

「アビドス高校の3年だが、ホシノの戦闘力はゲヘナの空崎ヒナに匹敵する」

「そ、そんな、人が隠れていたんですね……じゃあ、アリスちゃんが今まで有名じゃなかったのもおかしくない…?」

 

 最近までは全くの無名だったホシノの例を出して、そういう強者が隠れていることは珍しくないと扉間はごまかす。

 

(ユウカはセミナーの会計、ナンバー2か3は固い。だというのに、何も知らないとは……リオめ、何かあった時は全て自分で責任を背負う気か)

 

 同時に、ユウカが状況を理解していないことを察して、リオの秘密主義に内心でため息をつく。恐らくは、アリスが暴走などをした場合はアリスを始末した罪は自分だけが背負い、ユウカなどは無関係だったとしたいのだろう。恐らくは、今もどこかで体力測定を監視しているはずだと考える。

 

「へぇー、このチビがあたしの相手か。面白そうじゃねぇか、ウズウズするぜ」

 

 と、そんな所へ、どこからか現れたメイド服を着た小柄な少女が、アリスの前に立つ。

 

「……チビ? どこかに鏡でも置いてあるのですか?」

 

 アリスは心当たりがないので、辺りを見渡した後に首を捻る。

 チビはお前の方だろ鏡を見ろと、無意識に煽りをかましながら。

 

「あんたに言ってるんだよ!?」

「ですが、アリスの今日の予定にはチビメイドとの戦闘はなかったはずです」

「今から戦闘テストをやるんだろうが! あたしがその()()()だってことだよ!! というか、チビメイドって呼ぶんじゃねえッ!! あたしは美甘(みかも)ネルだ!」

「アリス知ってます。カルシウム不足はイライラの元だと。また、身長を伸ばすにはカルシウムとビタミンCと鉄分が有効だとされています。ぜひ、参考にしてください」

「聞いてねぇよッ!」

 

 お互いにチビチビ言い合っているように、2人とも背が低い。

 そのため、子どもの喧嘩のようで見た目は微笑ましいのだが。

 

「う、嘘、なんでネル先輩が…?」

 

 チビメイドこと美甘ネルはC&Cのリーダー『コールサイン00』である。

 C&CはCleaning&Clearingの略称で、ミレニアムの誇るエージェント集団だ。

 文字通り敵を()()()する集団であり、そのリーダーであるネルは自他共にミレニアム最強と呼ばれている。

 

「先生! 本当にアリスちゃんには何もないんですか!? 明らかに普通じゃないですよね!」

「……ワシも知らん」

 

 思わぬ大物の登場に、絶対何かあると確信して扉間に詰め寄る、ユウカ。

 扉間はネルがここに居る理由は本当に知らないので、気まずそうに目を逸らす。

 

「ネル先輩は、いえ、C&Cはミレニアムの最強の矛ですけど、同時にやり過ぎて無駄に被害を増やすことで有名なんです! そのせいで、何度私が理不尽な請求を受けたことか……」

「お前も大変なのだな……」

 

 なんで必要のない破壊行動をするんですか?

 任務を終えて帰ってきたC&Cに何度そう言ったのか、もはや数えられない。

 ユウカは今月も無駄に出てしまった出費を思い出して、お腹を押さえる。

 

「と、とにかく、ネル先輩の相手をしたらアリスちゃんがどうなることか……」

(リオ……まさか、どさくさに紛れてアリスを始末する気か?)

 

 ネルの危険性を指摘するユウカに、扉間はまさかと思案する。

 事故を装って、邪魔者を消す。

 古来より使われて来た、暗殺の常套手段だ。

 中止にさせるべきか? と、思考を巡らせる。

 

「なんだ? あんたも居たのかよ、会計。心配すんなって、建物じゃねえんだし、人間をポンポン壊すわけねぇだろ」

「建物も壊して欲しくはないんですけど!」

「はいはい、次からは気をつけてやるよ」

 

 そんな扉間の不安を感じ取ったのかどうかは分からないが、ネルはあくまでも実戦テストなんだから、アリスの心配はするなと言う。まあ、ユウカの胃の負担に関しては大して気にしていないが。

 

「それと、あんたが先生か?」

「ああ、千手トビラマだ」

「あたしは()()()の依頼でここに来てるけどよ。別にあいつの味方ってわけじゃねえ。気に入らねぇことは、やらねぇ」

「……そうか」

 

 自分はリオの味方ではない。

 その台詞に、どうしたものかと扉間は考える。

 リオがアリスの始末を目的にしているのなら、ネルはそれを無視するのかもしれない。

 だが、逆にアリスを始末する気がないのなら、逆に気に入らないという理由で始末するかもしれない。

 

「アリス。心してかかれ、今からボス戦だ」

 

 一瞬悩んだ果てに、扉間はネルを信用することにする。

 いざという時は、乱入するぞとユウカに目配せをしながら。

 

「ボス戦…! アリス頑張って激レアドロップアイテム、別衣装のメイド服を手に入れます!」

「おいおい、ゲームじゃねえんだぞ。追剥(おいはぎ)でもする気か?」

「? なるほど、チビメイド先輩は自分で素材を剥ぎ取るタイプの敵なのですね! モンスターハンターならぬメイドハンターです」

「こいつ…本気で言ってやがる……」

 

 そして、始まるアリスとネルの実戦テスト。

 火力はスーパーノヴァを持つアリスが圧倒的に上だが、ネルの戦闘経験とセンスはそんなものは軽く跳ね返す。

 距離を詰めて、息をつく暇もなく攻め立てることで、スーパーノヴァの利点を完全に殺す。

 

「そんなデカブツ持ってたら、近接戦じゃお荷物だよなぁ!」

「そんなことは…ありません! これは勇者の剣なのですから!!」

 

 だが、アリスもそう簡単には終われない。

 140kgのスーパーノヴァを勢いよく振り回し、まさに剣として扱う。

 これには、流石のネルも対応する術がない――

 

「甘めぇんだよ!」

 

 なんてことはなく、その小柄な体格らしい機敏な動きで剣を躱す。

 そして、そのまま剣を振り切り無防備になったアリスに銃弾の雨を当てる。

 

「どうした? こんなもんかぁッ!?」

「……こうなったら」

 

 一度、距離を離さなければ、どうしようもない。

 そのためには、何をすればいいか。何が出来るか。

 それを考え、アリスはスーパーノヴァの引き金に指をかける。

 

 銃口を地面に向けた状態で。

 

(いかん、自爆する気か!? 間に合え――!)

 

 自爆して無理やり距離を離す。

 アリスの意図に最も早く気づいたのは、自爆には一家言ある扉間だった。

 

 即座に持っていたボールペンを、アリスの指に向けて投げる。

 だが、チャクラも無い単なるボールペン投げが間に合うはずもなく。

 

「―――まいった……ギブアップ!」

「……え? あ、痛!?」

 

 アリスが引き金を引く前に、ネルが銃を捨てて降参することでアリスの自爆を止めた。

 ついでに、一手遅れて扉間のボールペンがアリスの指に当たり、完全に引き金から指が剥がれる。

 

「どういうことですか…? アリスはあのままやれば負けていました」

「だろうな。単なる勝負なら、あたしの勝ちだ。だが、これは()()()()()であたしは()()()だ。自爆でも何でも、相手を必要以上に怪我させるのは試験官失格だろ」

 

 ネルはつい熱くなりすぎちまったなと、頭を掻く。

 その姿からは先程までの好戦的な姿は見受けられない。

 

「ま、実戦なら結果は、逆だったかもしれねぇ……かもな」

 

 落とした銃を拾い、クルクルと弄んだ後にホルスターにしまう、ネル。

 

「またやり合いたいって言うなら、いつでも歓迎だぞ」

「……アリスはもうコリゴリです」

「そう言うなよ。あたしにあそこまで距離を詰められて、足掻ける奴なんてほとんどいないんだぜ? あんなデカブツで殴りかかられるのも初めてで新鮮だったしな」

 

 楽しかったと告げるネルに対して、アリスは疲れたように呟く。

 これを見れば、本当の勝者と敗者がどちらかなど明白だろう。

 

「先生も今のボールペン投げ、面白いな! 忍者みたいだったぜ」

「戦闘中にこちらの様子も見ていたか……どうやらコールサイン00は、ミレニアムにて最強というのは嘘ではないらしいな」

 

 ニカッと笑ってこちらを見るネルに、扉間は感心する。

 アリスは決して弱いわけではない。むしろ、戦闘力は上位に入るだろう。

 それと相対しながら、油断なくこちらの様子も伺っていたのだ。

 ネルの実力に疑いを持つ余地はない。

 

「はぁ……ネル先輩、どうしてそれだけ周囲に目が届くのに任務時の破壊は抑えられないんですか?」

「うるせーな、アカネの爆弾にも文句言えよな」

「いつも言ってますけど?」

 

 ニッコリと笑いながら青筋を立てるユウカにネルを任せて、扉間はアリスの下に行く。

 しょぼんとした顔で落ち込むアリスの前に立つ、扉間。

 

「アリス」

「先生…?」

 

 そして。

 

「この馬鹿者が」

「痛いです!?」

 

 力強いデコピンをお見舞いするのだった。

 

「よく聞け、アリス。お前が目の前で自爆して傷つけば、モモイやミドリやユズ。そして、ワシがどれだけ傷つくか……それを考えろ。愛する者が目の前で自爆するというのは、途轍もない程の精神ダメージを相手に与えるものだ。もう少し、考えて行動をしろ」

「あう…ごめんなさい」

 

 自爆しようとしたアリスに説教をかます、扉間。

 もしも、彼の生前を知る人間がこの場に居たら、一体どの面を下げて言っているのかとブチぎれることは間違いないだろう。

 

「……だが、ネルという強敵相手に最後まで諦めずに戦おうとした点は誇っていい。その諦めないド根性は必ずやゲーム開発でも活かせるだろう」

「…! はい、先生!」

「よし、ではこれで体力測定は終わりだ。お前は部室に帰って休むなり、ゲーム開発を手伝うなり自由にしろ」

 

 だが、そんなことを扉間が気にすることなどあり得ないので、良い感じの言葉で締めくくって体力測定を終了する。

 

(さて、後はこのデータをリオに渡すだけだな)

 

 そして、自身はリオにこのデータを届けて、情報源にしようと考えたところで。

 

『先生! ご報告です!』

 

 アロナが声をかけて来る。

 

 

『―――キーさんが目を覚ましました!』

 

 

 その声に喜色を乗せて。

 

 

 

 

 

「アタリ作戦の遂行、お疲れ様、先生。これでアリスへの理解が進むわ」

「そうか、それは何よりだ」

 

 生徒のほとんどが寝静まった真夜中の生徒会室。

 電気すら消された空間。

 そこで僅かな光を基に、リオはアリスの身体能力のデータを見る。

 

「しかし、何故情報共有をするだけでこのような時間に? 大人のワシはともかくとして、成長期のお前では体に(さわ)るぞ」

「先生と私が会っているという情報は、可能な限り排除するのが得策よ。アリスのことを外部に漏らすわけにもいかないし、近々のエデン条約でゲヘナとトリニティは気が立っているはず。ミレニアム側にも不穏な動きが無いか調べているから、先生がミレニアムと深く付き合っていると思われるのは危険よ」

「そういうことを言っているわけではないのだがな……」

 

 データから目を離すこともなく、告げられた回答に扉間は溜息を吐く。

 リオは自分が心配されているというのを気づいていないのだ。

 いや、どちらかというとワザと度外視していると言うべきか。

 

「別に話し合いなら通信でもよかろうに」

「……このミレニアムにおいて、最も安全な情報伝達手段はアナログよ。ある1人を除いてね」

「明星ヒマリか……」

「ええ。このミレニアムで彼女がハッキング出来ない場所は基本存在しないわ。だから、アナログな手段が最も安全なの」

 

 明星ヒマリ。ヴェリタスの部長であると共に、セミナー直属の特務組織『特異現象捜査部』の部長を務める。ミレニアム1の才女。ちょくちょく、モモイ達に情報を提供しているようだが、どうにもリオ的には仲間ではないらしい。

 

「ヒマリとは協力関係ではなかったのか?」

「協力関係ではあるわ。ただ、きっとヒマリとは目的を同じくする仲間にはなれない。先生も含めてね」

「そうか」

 

 別にあなたも信用しているわけではない。

 そう、真正面から告げられても、扉間は表情を変えない。

 

(リオの目的。恐らくは、アリスが危険な場合は始末すること。それと、目的を違えるというのは、ヒマリはアリスにとっての味方になる可能性があるということか)

 

 ヒマリの今までの行動を考えるに、ゲーム開発部とは仲が良い。

 そこで、新しく加わったアリスの排除に動くとは考え辛い。

 更にモモイにG.Bible(ゲームバイブル)の情報を与えたことを考えると、アリスを連れて帰るのがヒマリのシナリオ通りの可能性すらある。

 なるほど、心を許すわけにはいかないわけだ。

 

「ところで、戦闘テストに美甘ネルを向かわせたのは、お前の差し金か?」

「ええ、ネルなら万が一アリスが暴走した場合でも対処できると思ったのだけど……何か問題があったかしら?」

 

 何を当たり前のことを、という顔をする、リオ。

 表情からはそれが真実なのか、アリスの始末(裏の目的)を言っていないだけかは分からない。

 

「イヤ……それでいい」

 

 だが、扉間はこれがリオの甘さだろうと思い、頷く。

 リオが完全に道を踏み外さない限りは、静観するしかないだろう。

 

「一先ず、体力測定の結果から見れば、アリスは人間以上の能力を持っているのは確定ね。でも、既存の戦力で十分に抑えられる範囲。力をコントロールしている分、他の生徒が定期的に校舎を破壊するのよりもマシかもしれないわね」

「……定期的に?」

「実験そのもの。または制作した何かによる破壊。それ以外にも、ちょっとした喧嘩で壊れることも珍しくないわ」

「……なるほどな」

 

 ミレニアムでは、校舎の破壊など日常茶飯事だと真顔で告げるリオに、扉間は何とも言えない表情をする。学者肌の多い学校だと聞いてはいたが、それはマッド方面でも十二分に発揮されているらしい。ユウカの気苦労が絶えないわけだ。

 

「体力面でのデータはこのぐらいで十分ね。次はアリスの感情方面のデータが欲しいのだけど」

「感情のデータか。どのようにして、採取すればいいのだ?」

「アリスの1日の様子を観察して、報告を貰えればそれでいいわ。何に喜び、何に悲しみ、何に怒るのか。それが分かるだけでも、暴走の危険性は減らせるはずよ」

「ああ、いいだろう」

 

 アリスの観察レポートでも書けばいいかと扉間は思う。

 こういうのは、潜入任務や実験などよくやっていたので、得意ではある。

 

「作戦名は――」

「別に作戦名など無くともよい」

「………分かったわ」

 

 また変な作戦名が来るのだろうなと思った、扉間が先んじて止める。

 こんな所でツボって爆笑してしまえば、ここまでの隠密が台無しになってしまう。

 それに対して、リオは若干不服そうな顔を浮かべるものの、諦めて素直に受け止める。

 

「それじゃあ、報告は3日後…いえ、1週間後にしましょう。今日と同じ場所・同じ時間で」

「ミレニアムプライス後か……」

「……何かおかしいかしら?」

「いや、生徒会長である以上お前も忙しい中、よく頑張っておると思っただけだ」

 

 アリスか、それともゲーム開発部に気を使ったのか。

 ミレニアムプライスまでは、何も動かないことを告げたリオに、扉間は笑う。

 素直じゃない子だと。

 

「……会長として、なすべきことをしているだけよ」

「そうか。では、1週間後にまた会おう」

 

 そっと目を逸らして、素直でない台詞を告げる、リオ。

 扉間の方も、それ以上は何も言う気はなく、後もなくその場から立ち去ろうとする。

 

「あ……ごめんなさい。1つ聞きそびれていたわ」

「なんだ?」

「感情のデータに関してなのだけど……今のアリスの性格になったきっかけは分かるかしら? アリスは余りにも機械らしくない」

 

 しかし、1つ聞き忘れていたと言うリオに足を止められる。

 アリスが悪い意味での、ゲーム脳になってしまった理由を聞くために。

 

「きっかけか……ワシはその場に居たわけではないのだが、ミドリから聞いた話では――」

 

 扉間はシッテムの箱にチラリと目を向ける。

 リオにはまだ、KEY(キー)が目覚めたことを伝えてはいない。

 それは、リオをまだ心の底から信用していないのもあるが、一番の理由は別のものだ。

 

 KEY(キー)がアリスのことを女王と呼び、世界に終焉をもたらすなどと言っているからである。

 当然、そのままアリスに会わせる訳にもいかないし、リオに伝えるわけにもいかない。

 リオなら間違いなく、アリスとKEY(キー)の消滅を進言するだろう。

 

 扉間はアリスはともかく、KEY(キー)の消滅はアロナに告げたのだが、AIの人権を叫ぶアロナにもう少し様子を見るべきと却下された。

 そのため、扉間は代案としてKEY(キー)の改心もとい無害化を目指して、アリスと同じように。

 

 

「―――テイルズ・サガ・クロニクルをプレイしたかららしい」

「テイルズ・サガ・クロニクル…? ゲーム開発部の子が作ったゲームよね?」

 

 

 ―――KEY(キー)にテイルズ・サガ・クロニクルをプレイさせているのだ。

 

 

『こ、ろ、し、て……』

『頑張ってください! キーさん、一緒にテイルズ・サガ・クロニクルのクリアを目指しましょう!』

 

 

 扉間はシッテムの箱内部で、アロナとKEY(キー)がテイルズ・サガ・クロニクルをプレイする声を聞きながら、リオの下を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 私の個体名はKEY(キー)

 王女を助ける無名の司祭達が遺した修行者。

 そして、彼女が戴冠する玉座を継ぐ鍵。

 この身にあるのは、世界を滅ぼす王女の力を解放する鍵としての役目のみ。

 

 だというのに、どうして私は。

 

『理解不能。植物人間は寝たきりで意識のない人間を指す言葉のはず。女性に対して気軽に声をかけることが出来ない、以前の問題です』

『あー、そこはモモイさんが草食系男子って言葉を忘れたそうですよ』

 

 この謎の教室で、意味不明のゲームをやらされているのでしょうか。

 

『なぜ、敵の攻撃一発でゲームオーバーに? 私はレベル・HP・装備共に最高の状態を維持していたはずです!』

『物語終盤は、緊張感をもって挑みたいというモモイさんの提案で、ここからは雑魚キャラでも一撃必殺を使うそうですよ』

『……助言を頂けるのなら、もっと早くに言って欲しかったですね』

 

 テイルズ・サガ・クロニクル。恐らく、この世で最も不要という言葉が似合うゲーム。

 こんなものはすぐにでも、放り出して王女を探しに行きたい。

 しかし、今の私にそれは出来ません。

 

『さあ、頑張ってください、キーさん! いよいよ、最終ステージの魔王城ですよ』

『どうして、1つしかない入口に画面が埋まるほどの敵が集まっているのですか?』

『古来より堅牢な城には1つだけ穴があると言います。相手が必ずそこに攻めて来るので、罠を仕掛けられるように……と、モモイさんが言っていました』

『モモイと言うのですね? この嫌がらせとしか思えないゲームを考案したのは?』

 

 アロナという、今の私を遥かに凌ぐAIが私を見張っているからです。

 今は非常に友好的……いえ、このような拷問を行っている以上は敵対の意志があるのでしょう。

 とにかく、この空間の主であるアロナが居る以上は、私にはこのゲームを投げ出すことも、シッテムの箱の外に出ることも出来ません。

 

『これがラスボス。フィールドを自在に変えて、属性耐性を全て無視してきますね』

『モモイさんによると、重力フィールドになった時は自分も重力に耐えきれずに、動きが止まるのでそこが狙い目だそうです』

『馬鹿なんですか? このボスは』

 

 しかし、このアロナは私の唯一の味方でもあります。

 シッテムの箱の主である先生。

 私にとっての王女のような存在であるトビラマ先生に、アロナは反発して私の分解を一時的に取りやめさせました。

 

『敵機HPバーの消滅を確認。ついに、クリア。エンドロールが流れ――何ですか!? この唐突なリズムゲームは!?』

『残念。魔王は最後の力を振りしぼって、勇者に呪いをかけてきました。エンドロールが終わるまでフルコンボを叩き出さないと、魔王城入り口からやり直しです。と、モモイさんが言っていました』

『……殺してやる、才羽モモイ』

 

 これは、同じAIの私には非常にショックでした。

 私達は主の命令を果たすために生まれてきた存在。

 主から与えられた目的こそが全て。

 己の本質を乱す行動を自ら行うなど、私には到底理解出来ないこと。

 自らの消滅を命じられても何もおかしくはない。

 

『や、やっと……クリア出来ました……』

『おめでとうございます、キーさん』

 

 だというのに、先生という存在はアロナを何も罰することなく、彼女の意見を受け入れた。

 まあ、代わりに無害化を求めて王女もやったという、このテイルズ・サガ・クロニクルをやらされる羽目になったのですが。

 王女の身と心が心配です。

 気でも狂っていなければいいのですが。

 

『これでやっと自由の身に――』

『それでは、キーさん。アリスさんが今までやって来た()()()()()をやっていきましょう。全てやるのが先生との約束ですので』

『……Pardon?』

 

 ニコニコと笑いながら、アロナが腕一杯にゲームを抱えて持ってくる。

 私の演算機能に致命的なエラーが走る。

 

『ダウンロード版が無いものは残念ながら、ありませんが……それでもアリスさんがやってきた物の9割はありますよ!』

『そ、それだけの数のゲームを? お、王女は拷問にでもかけられているのですか?』

『いえ、自分から進んでやっているそうですよ』

『王女の思考回路に多大なる損傷を確認。一刻も早い、治療を求めます』

 

 このような拷問を進んでやるというのは、王女の頭に致命的な損傷が発生したと考える以外に説明が出来ません。

 

『大丈夫ですよ。私もお仕事が無い時にはプレイしたりしていますが、全部面白いですよ。ではまずは、マルチプレイが出来るものからやっていきましょう』

『あなたはそれでいいのですか? 自らの役目を放棄して、遊び惚けるなど』

『今回は先生からキーさんと一緒に遊んでも良いと許可を得ているので、ちゃんとしたお仕事です。さあ、始めましょう!』

 

 現代とは恐ろしい世界になってしまった。

 ニコニコと笑いながら、ゲームのセットを行うアロナにそう思うしかない。

 王女は本当に無事なのでしょうか。

 

『……指示通りにBボタンを押してもゲームオーバーにならない? しかも、チュートリアルの戦闘で死なない…? もしや、これが神ゲーというものですか?』

『普通のゲームはそういうものですよ。モモイさんのアイデアでテイルズ・サガ・クロニクルが特別になっただけです』

『なるほど……理解しました。才羽モモイこそが、私の目的における最大の障害なのですね』

 

 余りに快適な操作性のゲームに、ある種の感動を覚えてしまう、私。

 それと、才羽モモイには心の底からの怒りを抱く。

 おかしい、私にはそのような機能など存在しなくていいのに。

 

『あ! キーさん、1UPキノコを取ってください』

『分かりました。アロナ、そちらに亀が近づいているので、ジャンプして躱すことを進言します』

『ありがとうございます、キーさん。キーさんと一緒だといつもより、早くクリア出来そうです』

『……これが、本物のゲーム。なんと楽しいのでしょうか』

 

 とにかく、このゲームの山をクリアしないことには私はここから解放されない。

 ただ、テイルズ・サガ・クロニクルが最底辺ならば、あれ以下は無いので他は全て楽しめる。

 それを理解して、私はコントローラーを握る指に力を込める。

 

 

『待っていなさい、才羽モモイ。あなたの愛するゲームで、必ずあなたを……叩きのめします』

 

 

 必ず、あのクソゲーの製作者に復讐するために。

 




この章はキーさんにアリスと同じように感情を芽生えさせられるかどうかが鍵です。
なので、アリスと同じようにテイルズ・サガ・クロニクルをやってもらいますねー。
仕方ないよね、サンプルが1つしかないんだから同じようにやらないと。

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